説明

フロートを用いたダクト内浸水防止構造

【課題】各種建物が津波災害に襲われたときに、海水が建屋の上層階へと浸入することを防止する。地震や津波による停電が発生しても動作可能な浸水防止構造を提供する。
【解決手段】建物の地下ピット内で鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部に下側から浸水するのを防止する構造である。開口部に異径の円形断面を有する接続ダクト又は箱型ダクトが気密に接続される。接続ダクト又は箱型ダクトの内部で水平底部の上に1つ又は複数の球状のフロートが上下移動可能に配置される。フロートは接続ダクト又は箱型ダクト内に浸水したときは浮力と水圧を受けて上方へと移動し、ダクトの内部を封止し、開口部内への浸水を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波災害の予防保全に関し、特に津波によって地下室(ピット)に海水が浸入したときに、空調ダクトを通じて上層の建屋内へと浸水が拡大していくのを防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設の津波対策として、水密化を図り海水の浸入を防ぐエリア(A)と海水の浸入を許容するエリア(B)とに分けて対応する仕組みとなっている。この場合の「エリア」とは建物以外に建物内の室も含める。従って、同じ建物内でも、海水の浸入を阻止する室と海水の浸入を許容する室とが存在することになる。
【0003】
例えば、図3の概念図に示すような建物において、地下ピット10には各種のポンプ,モーター,配管,配線などが大量に配置されているが、一般に津波による浸水は最初に地下ピットに流入する構造になっているため、浸水はやむを得ないものとして許容するエリアとして扱われる。一方、地下ピット10の天井スラブ11上の天井内空間12には、地下ピットに新鮮空気を供給するための比較的大型の給気ダクト13と、処理済み空気を排出するための比較的小径の排気ダクト14とが配置され、それぞれ給気用ファン15と排気用ファン16に接続され、空気吹出口17からの給気と空気吸込口18からの排気とで給排気が行われている(給気と排気が図3と逆の場合もある)。
【0004】
津波による浸水量が膨大なものであれば、地下ピット11はやがて海水で満たされ、空気吹出口17と空気吸込口18を通じて給気ダクト13及び排気ダクト14内に海水が浸入し、接続される空調ダクトを介して建屋(原子炉建屋・タービン建屋・発電機建屋など)20の上層階へと海水が浸入していくことになる。特に排気ダクトの側は、排気用ファンが回転しているため、浸入した海水が直ちに上層階へと送られてしまうおそれがある。
【0005】
従来の技術としては、空調ダクトを鉛直方向に延ばして許容可能な水深を高くする方法が考えられているが、最初の設計段階から計画しなければならず、既存の建物には応用できないことと、無駄な空間が拡大するという欠点がある。
また、ダクト系に水の浸入を検知するセンサーを設けて遮断弁で阻止するという方法も考えられているが、停電が発生した場合は電気式のセンサーは検知不能となり、エアポンプが停止するため空気圧式の遮断弁なども動作しなくなるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−132684「高浸水を防止する設備」では、海岸線付近に設置したコンクリート壁に隣接して可動式の壁パネルを配置し、壁パネルに取り付けた浮体(フロート)の作用で、壁パネルを上下動させることにより、動力を使用せずに高浸水を阻止できる設備が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、各種建物が津波災害に襲われたときに、海水が建屋の上層階へと浸入することを防止するための構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、地震や津波による停電が発生しても動作可能な浸水防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はその第1の態様として、空気吹出口又は空気吸込口の開口部が比較的小径である場合の浸水防止構造を提供する。この浸水防止構造は、鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部に下側から浸水するのを防止する構造であって、前記開口部に異径の円形断面を有する接続ダクトが気密に接続され、この接続ダクトは、前記開口部に気密に接続される環状の小径管部と、この小径管部の下端から下向きに拡大する切頭円錐形の拡大管部と、この拡大管部の下端に接続される環状の大径管部とを有しており、前記大径管部の下端は網目状又は格子状の水平底部で終端しており、前記水平底部の上に前記小径管部の内径よりも大きな外径を有する球状のフロートが配置されている。かくして、前記フロートは前記接続ダクト内に浸水したときは浮力と水圧を受けて上方へと移動し前記拡大管部を封止し、前記開口部内への浸水を防止するようになっている。
【0009】
好適な態様として、フロートはボールタップ用のステンレス鋼(SUS)製で、拡大管部とフロートとの接触部分にはパッキンが配置されており、水密性を高める構造となっている。
【0010】
本発明はその第2の態様として、空気吹出口又は空気吸込口の開口部が比較的大径あるいは角型をしている場合の浸水防止構造を提供する。この浸水防止構造は、鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部に下側から浸水するのを防止する構造であって、前記開口部に箱型ダクトが気密に接続され、この箱型ダクトの内部に1つ又は複数の円形穴を有する水平封止板が固定され、前記水平封止板から下方へと複数の案内ロッドが延伸し各案内ロッドの下端は網目状又は格子状の水平底部に固定され、前記箱型ダクトの下端は前記水平底部で終端しており、前記複数の案内ロッドで包囲される空間内に前記案内ロッドに沿って上下動可能な球状のフロートが配置されている。かくして、前記フロートは前記箱型ダクト内に浸水したときは浮力と水圧を受けて上方へと移動し前記円形穴を封止し、前記開口部内への浸水を防止するようになっている。
【0011】
好適な態様として、フロートはボールタップ用のステンレス鋼製で、円形穴とフロートとの接触部分にパッキンが配置されており、水密性を高める構造となっている。
【0012】
かかる構成に基づき、本発明の浸水防止構造によれば、
(1)津波による浸水が地下ピットから空調ダクトを介して上層階へと浸入していくのを阻止することができる。
(2)既存のダクトの大幅な改造を必要とせず、短期間で浸水防止構造へと改造することができる。
(3)停電時であっても確実に動作して浸水を防止することができる。
【0013】
なお、空気吹出口又は空気吸込口の開口部が鉛直方向下向きでなく水平方向あるいは斜め方向を向いているときは、開口部に曲がり管(エルボ)を取り付けて鉛直方向下向きに開口させることにより、本発明を同様に適用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による浸水防止構造の第1実施例を表す縦断面図。
【図2】本発明による浸水防止構造の第2実施例を表す縦断面図。
【図3】地下ピットからダクトを介して建屋へと浸水する状態を表す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明による浸水防止構造の第1実施例を表しており、この例は、空気吹出口又は空気吸込口の開口部が比較的小径である場合の浸水防止構造である。図1Aは津波を受けない初期状態でフロートが最低位置にあり、図1Bは津波による浸水を受けてフロートが最高位置まで上昇した状態を表している。
【0016】
図1Aにおいて、鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部18aに、異径の円形断面を有する接続ダクト30が気密に接続されている。接続ダクト30は、開口部18aにアダプタ38を介して気密に接続される環状の小径管部31と、小径管部31の下端から下向きに拡大する切頭円錐形の拡大管部32と、拡大管部32の下端に接続される環状の大径管部33とを有している。
【0017】
大径管部33の下端は網目状又は格子状の水平底部35で終端しており、水平底部35は空気が自由に流通できる構造になっている。水平底部35の上には、小径管部31の内径d(例えば150mm)よりも大きな外径(例えば200mm)を有する球状のフロート40が搭載され、初期状態ではフロート40の底部は水平底部35上に着座している。フロート40は左右に大きく横振れしないように吊り棒37で案内部材39から吊り下げられており、吊り棒37は案内部材39を貫通して上下に摺動できるように取り付けられている(図1B参照)。大径管部33の内径Dは例えば300mm、接続ダクト30の高さHは例えば350mmとすることができる。拡大管部32の内側上端付近にはゴム等の材質から成るパッキン36が貼り付けられている。
【0018】
かかる構成に基づき、フロート40は、地下ピットが浸水を受けて水面が上昇し接続ダクト30内に浸水し始めると、図1Bに示すように浮力と水圧を受けて上方へと移動してパッキン36に接触し、拡大管部32を水密状態に封止して開口部18a内への浸水を防止するようになっている。
なお、フロート40はボールタップ用のステンレス鋼(SUS)製が好適であるが、パッキンと同様に各種の耐久性のある材質で代替することが可能である。
【0019】
図2は本発明による浸水防止構造の第2実施例を表しており、この例は、空気吹出口又は空気吸込口の開口部が比較的大径あるいは角型をしている場合の浸水防止構造である。図2Aは津波を受けない初期状態でフロートが最低位置にあり、図2Bは津波による浸水を受けてフロートが最高位置まで上昇した状態、図2Cはフロート部分の水平断面を表している。
【0020】
図2Aにおいて、空気吹出口又は空気吸込口である鉛直方向下向きの開口部17aにアダプタ53を介して箱型ダクト50が気密に接続されている。箱型ダクト50の外側ケース50aの内部には、2つの円形穴51,52(図2C参照)を有する水平封止板54が固定されている。
水平封止板54から下方へと複数の案内ロッド55(図2C参照)が延伸し、各案内ロッド55の下端は網目状又は格子状の水平底部58に固定され、箱型ダクト50の下端は水平底部58で終端している。水平底部58は空気が自由に流通できる構造になっている。
【0021】
図2Cに示すように、複数の案内ロッド55で包囲される空間内に、案内ロッド55に沿って上下動可能な球状のフロート40が収容され、初期状態ではフロート40の底部は水平底部58上に着座している。各フロート40は吊り棒56から吊り下げられており、水平封止板54の上方に配置された案内板59を貫通して上下に摺動できるように取り付けられている(図2B参照)。水平封止板54の円形穴51,52の周囲にはパッキン57(図2B,図2C参照)が貼り付けられている。
【0022】
かかる構成に基づき、各フロート40は、地下ピットが浸水を受けて水面が上昇し箱型ダクト50内に浸水し始めると、図2Bに示すように浮力と水圧を受けて上方へと移動し、頂部が円形穴51,52に嵌まると共にパッキン57に接触し、水平封止板54を封止して開口部17a内への浸水を防止するようになっている。
【0023】
なお、図2では開口部17aの大きさに合わせて2個のフロートを使用したが、開口部が小さい場合には1個のフロートでもよく、開口部がさらに大きな場合には3個以上のフロートで対応することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上詳細に説明した如く、本発明による浸水防止構造によれば、津波による浸水が地下ピットから空調ダクトを介して上層階へと浸入していくのを阻止することができ、既存のダクトの大幅な改造を必要とせず、短期間で浸水防止構造へと改造することができ、停電時であっても確実に動作して浸水を防止することができるなど、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【符号の説明】
【0025】
10 地下ピット 13,14 ダクト
17 空気吹出口 18 空気吸込口
17a,18a 開口部 20 建屋
30 接続ダクト 31 小径管部
32 拡大管部 33 大径管部
35 水平底部 36 パッキン
40 フロート
50 箱型ダクト 51,52 円形穴
54 水平封止板 55 案内ロッド
57 パッキン 58 水平底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部に下側から浸水するのを防止する構造であって、
前記開口部に異径の円形断面を有する接続ダクトが気密に接続され、
この接続ダクトは、前記開口部に気密に接続される環状の小径管部と、この小径管部の下端から下向きに拡大する切頭円錐形の拡大管部と、この拡大管部の下端に接続される環状の大径管部とを有しており、
前記大径管部の下端は網目状又は格子状の水平底部で終端しており、
前記水平底部の上に前記小径管部の内径よりも大きな外径を有する球状のフロートが配置されており、
前記フロートは前記接続ダクト内に浸水したときは浮力と水圧を受けて上方へと移動し前記拡大管部を封止し、前記開口部内への浸水を防止することを特徴とするダクト内浸水防止構造。
【請求項2】
前記フロートはボールタップ用のステンレス鋼製で、前記拡大管部とフロートとの接触部分にパッキンが配置されている請求項1記載の浸水防止構造。
【請求項3】
鉛直方向下向きに開口した空気吹出口又は空気吸込口の開口部に下側から浸水するのを防止する構造であって、
前記開口部に箱型ダクトが気密に接続され、
この箱型ダクトの内部に1つ又は複数の円形穴を有する水平封止板が固定され、
前記水平封止板から下方へと複数の案内ロッドが延伸し各案内ロッドの下端は網目状又は格子状の水平底部に固定され、前記箱型ダクトの下端は前記水平底部で終端しており、
前記複数の案内ロッドで包囲される空間内に前記案内ロッドに沿って上下動可能な球状のフロートが配置されており、
前記フロートは前記箱型ダクト内に浸水したときは浮力と水圧を受けて上方へと移動し前記円形穴を封止し、前記開口部内への浸水を防止することを特徴とするダクト内浸水防止構造。
【請求項4】
前記フロートはボールタップ用のステンレス鋼製で、前記円形穴とフロートとの接触部分にパッキンが配置されている請求項3記載の浸水防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−53802(P2013−53802A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191912(P2011−191912)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】