説明

フロート装置

【課題】駆動モータの消費電力を低減することで、船上からの電力供給を不必要とし、また小型の電池であっても電池交換の頻度を減らすこと。
【解決手段】浮力を有するフロート筐体11と、フロート筐体11に取り付けられ、一端が外部に開口したシリンダ31と、フロート筐体11内に設けられたモータ40と、シリンダ31内をモータ40の作動に応じて往復動するプランジャ60と、プランジャ60に往復動方向に沿って取り付けられ、プランジャ60がフロート筐体11側に移動する際に抗するエアスプリング50とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水深100m前後までの海洋・湖沼等における水質等の各種データを収集するフロート装置に関し、その昇降に際して用いるエネルギを最小限に抑えることができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋や湖沼等の水中において水質等の各種データを測定するための測定機器を搭載したフロート装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。フロート装置は、船上に設けられた巻上装置に捲回されたワイヤの先端に取り付けられ、フロート装置自体の浮力を調節しながら、水深0mから水深100m程度まで沈めるようにしていた。
【0003】
このようなフロート装置では、筐体内部からプランジャを筐体外部へ突没させることで浮力の調節を行っていた。なお、プランジャの筐体外部への突出量が減るとフロート装置は下降し、突出量が増えるとフロート装置は上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145177号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したフロート装置の浮力調節方法では、次のような問題があった。すなわち、フロート装置の下降時は水面から最下降位置まで、プランジャの移動の際に必要となるモータの仕事量はほぼ一定で、かつ、大きくない。
【0006】
しかしながら、フロート装置の上昇時は、プランジャは筐体内部から筐体外部に向けて移動することから、プランジャの先端にかかる水圧に抗しながらモータを駆動しなければならない。この時のモータの仕事量が大きくなり、消費電力も大きくなる。
【0007】
このため、フロート装置内部に大型の電池を搭載することが必要となる。しかしながら、フロート装置は測定機器等を搭載するため、電池の大きさに制限がある。小型の電池の場合、頻繁に電池の交換が必要となるという問題があった。
【0008】
一方、船上から電力を供給する場合には船上の装置が複雑化・大型化するという問題があった。
【0009】
そこで本発明は、駆動モータの消費電力を低減することで、船上からの電力供給を不必要とし、また小型の電池であっても電池交換の頻度を減らすことができるフロート装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のフロート装置は次のように構成されている。
【0011】
浮力を有するフロート筐体と、上記フロート筐体に取り付けられ、一端が外部に開口したシリンダと、上記フロート筐体内に設けられた駆動部と、上記シリンダ内を上記駆動部の作動に応じて往復動する浮力調整用プランジャと、この浮力調整用プランジャに上記往復動方向に沿って取り付けられ、上記浮力調整用プランジャが上記フロート筐体側に移動する際に抗する圧縮バネ機構とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動モータの消費電力を低減することで、船上からの電力供給を不必要とし、また小型の電池であっても電池交換の頻度を減らすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフロート装置を示す縦断面図。
【図2】上昇時の仕事量と水深との関係を示すグラフ。
【図3】一般的なフロート装置における上昇時の仕事量と水深との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一実施の形態に係るフロート装置10を示す縦断面図、図2はフロート装置10における上昇時の仕事量と水深との関係を示すグラフ、図3は一般的なフロート装置における上昇時の仕事量と水深との関係を示すグラフである。なお、図2及び図3において仕事量は仕事率として示しており、最大の仕事量を仕事率1とする。
【0015】
フロート装置10は、軸方向Cに1m程度の長さを有する円筒状に形成されたフロート筐体11を備えている。フロート筐体11の内部には空洞部等が設けられ、所定の浮力を有するように設定されている。フロート筐体11の上部12には、外部の通信機器との送受信を行うアンテナ20、各種センサ21が設けられている。また、フロート筐体11の内部には、船上のコントロールユニット(不図示)との通信に供される通信ユニット22及びコントロール基板23が搭載されている。また、フロート筐体11の下部13には、浮力調整機構30が搭載されている。
【0016】
浮力調整機構30は、フロート筐体11から下方へ突出するシリンダ31を有している。シリンダ31の一端は外部に開放されている。なお、図1中32はシール部を示しており、後述するプランジャ60の外周面に摺接することでフロート筐体11内部を液密に保持している。
【0017】
浮力調整機構30は、さらに、フロート筐体11内部に配置されたモータ40と、モータ40の出力軸に取り付けられ減速を行うギヤヘッド41と、ギヤヘッド41に取り付けられたスラスト軸受42と、このスラスト軸受42に設けられ、回転運動を直線運動に変換する直動システム43と、この直動システム43の先端に取り付けられ、フロート筐体11内部を軸方向Cに沿って往復動する板状のベース部44とを備えている。ベース部44の可動領域は、区間K1(水深60〜100mに対応)と区間K2(水深0〜60mに対応)である。
【0018】
ベース部44の上方には、エアスプリング(圧縮バネ機構)50が配置されている。エアスプリング50のシリンダ部51はフロート筐体11内部に固定されている。シリンダ部51からはロッド52が下方に突出している(移動範囲P)。エアスプリング50は、ロッド52が最縮長時に最大弾性力(例えば、31.6kgf)、最伸長時に最小弾性力(例えば、25.1kgf)に設定されている。
【0019】
すなわち、ベース部44の区間K1における往復動に伴ってロッド52がシリンダ部51から突没することとなる。なお、ベース部44の区間K2においてはロッド52とベース部44とは離間するため、ロッド52は最伸長となり動作しない。
【0020】
ベース部44の下部にはフロート筐体11の軸方向Cに延設された浮力調整用のプランジャ60が取り付けられている。プランジャ60は、シリンダ31の内部を液密に突没する。
【0021】
このように構成されたフロート装置10は、次のように動作する。なお、各種データの測定は、フロート装置10の下降時、上昇時、停止時等、適宜行っている。また、フロート装置10の設定最下降位置は水深100mとする。
【0022】
第1にフロート装置10の下降について説明する。すなわち、フロート装置10が水面(水深0m)に位置している場合は、プランジャ60が最大押出の状態となっており、エアスプリング50のロッド52は最伸長位置にある。次に、モータ40を駆動することで直動システム43及びベース部44を介してプランジャ60を引き込む。これにより、フロート装置10の浮力が減少し、フロート装置10は下降する。この時、ベース部44は当初区間K2を図1中上方に移動する。また、プランジャ60の先端には水深に応じた水圧がかかり、プランジャ60を上方に押圧する。例えば、プランジャ60の直径が3.8cmの場合は、水深60mにおいて押圧力は68kgf、水深100mにおいて押圧力は113kgfとなる。
【0023】
次に、フロート装置10が水深60mまで下降し、ベース部44が区間K1に到達すると、ベース部44の上面がロッド52の下端に当接する。このため、ベース部44は区間K1においては、エアスプリング50の弾性力に抗しながら移動することとなる。一方、プランジャ60には、上述したように水圧がかかっているため弾性力と平衡する。したがって、モータ40が必要とする仕事量はプランジャ60を移動させるための仕事量でよい。この仕事量は、エアスプリング50の有無に関わらず非常に小さいことから、電力消費量も抑えられる。この状態でフロート装置10は下降し、フロート装置10の最下降位置(水深100m)においエアスプリング50のロッド52はて最縮長位置となって停止する。
【0024】
第2にフロート装置10の上昇について図2を参照しながら説明する。すなわち、フロート装置10が最下降位置(水深100m)に位置している場合は、プランジャ60が最大引込の状態となっている。次に、モータ40を駆動することで直動システム43及びベース部44を介してプランジャ60を押し出す。これにより、フロート装置10の浮力が増加し、フロート装置10は上昇する。この時、ベース部44は当初区間K1を図1中下方に移動する。また、プランジャ60の先端には水深に応じた水圧がかかり、プランジャ60を上方に押圧する。この際、エアスプリング50により弾性力が加わることで水圧が打ち消される。すなわち、エアスプリング50がモータ40の駆動を補助することとなり、モータ40の仕事量は水圧を考慮しない状態でのプランジャ60の移動に必要となる最小の仕事量となる。
【0025】
次に、フロート装置10が水深60mまで上昇し、ベース部44が区間K2に到達すると、ベース部44の上面がロッド52の下端から離間する。このため、ベース部44は区間K2においては、エアスプリング50の弾性力が無く、プランジャ60に加わる水圧が加わることになる。したがって、モータ40が必要とする仕事量はプランジャ60を移動させるための仕事量と、水圧に抗する仕事量の合計となる。しかしながら、この時点でフロート装置10の位置は水深60mまで上昇しているため水圧の影響が小さくなる。
【0026】
なお、エアスプリング50が設けられていない場合は、図3に比較例として示すように、区間K1におけるエアスプリング50の補助が無いため、上昇開始時には水深100mに対応する押圧力がプランジャ60に加わり、モータ40の仕事量が大きくなる。
【0027】
このように本実施の形態に係るフロート装置10によれば、エアスプリング50を用いることでプランジャ60の押圧時に必要となる駆動力を補助し、上昇時におけるモータ40の消費電力を低減することができる。特に水深が大きい場合にエアスプリング50による弾性力も大きくなるため効率が良い。例えば、図2及び図3から判るように、水深100mから0mまで上昇させる際の消費電力は仕事量の積分値になることから、比較例に対して約36%となる。
【0028】
一方、フロート装置10の下降時にはエアスプリング50の弾性力を水圧によってキャンセルできるため、モータ40の消費電力が大きくなることはない。
【0029】
このため、船上からの電力供給を不必要とし、また小型の電池であっても電池交換の頻度を減らすことが可能となる。さらに、上昇開始時の最大仕事量を抑えることができるので、駆動力の小さい駆動モータでもプランジャの駆動が可能となり、モータの小型化に寄与する。例えば図2の例であると最大駆動力を0.6倍としてもよい。
【0030】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した例では、エアスプリングを用いたが、伸長時から圧縮時に弾性力を付与するものであれば、他の弾性体を用いてもよい。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
10…フロート装置、11…フロート筐体、12…フロート筐体上部、13…フロート筐体下部、20…アンテナ、21…センサ、22…通信ユニット、23…コントロール基板、30…浮力調整機構、31…シリンダ、32…シール部、40…モータ、41…ギヤヘッド、42…スラスト軸、43…直動システム、44…ベース部、50…エアスプリング(圧縮バネ機構)、51…シリンダ部、52…ロッド、60…プランジャ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力を有するフロート筐体と、
上記フロート筐体に取り付けられ、一端が外部に開口したシリンダと、
上記フロート筐体内に設けられた駆動部と、
上記シリンダ内を上記駆動部の作動に応じて往復動する浮力調整用プランジャと、
この浮力調整用プランジャに上記往復動方向に沿って取り付けられ、上記浮力調整用プランジャが上記フロート筐体側に移動する際に抗する圧縮バネ機構とを備えていることをフロート装置。
【請求項2】
上記圧縮バネ機構は、エアスプリングであることを特徴とする請求項1に記載のフロート装置。
【請求項3】
上記フロート筐体内には測定用電子機器が搭載されていること特徴とする請求項1に記載のフロート装置。
【請求項4】
上記駆動部は、電動モータを備え、
上記フロート筐体内には電池が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のフロート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171460(P2012−171460A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34694(P2011−34694)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(390034588)株式会社鶴見精機 (6)