説明

ブタ胚をガラス化する高スループットおよび非侵襲的方法

本発明は、インビトロ産生されたブタ胚の凍結保存に対する、実践的で非侵襲的、かつ効率的な方法を提供する。本発明の方法は、IVP(IVFまたはNT由来等)胚を、胚細胞緊密化前の1細胞期または卵割期に、高浸透圧、その後の高速遠心分離で処置する。高浸透圧処置は、囲卵腔を拡大し、遠心分離によって、脂質の細胞質からの分離を可能にする。高浸透圧処置後の脂質分離胚の凍結保存、後の回復および移植に成功し、生きた子孫を産生した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
助成金記載
本発明は、国立保健研究機構(National Institutes of Health)からの助成金番号R01RR013438、および助成金番号U42RR018877の下、政府の支援により一部が行われた。政府は、発明における一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、ブタ胚の保存の方法、特にインビトロ産生されたブタ胚を保存する新規および改善された方法に関する。
【背景技術】
【0003】
初期哺乳類の胚の凍結保存の成功は、生殖質の保存、ならびに遺伝学の国家的および国際的運動に好機を提供する。残念ながら、ブタ胚は、多くの哺乳類の胚よりも凍結保存が困難であった。ブタ胚が低体温状態に非常に感応性があり、細胞内脂質(脱脂質)の除去がこの感応性を軽減すると見られるという観察に基づき、ブタ胚の凍結保存の成功へと大きく進歩している[1〜4]。ほとんどの研究は、インビトロ産生された胚よりも発生的に有能であると見なされることから、インビボ産生された胚に焦点を合わせている。機械的脱脂質の代替には、細胞骨格の不安定化[5]、またはガラス化状態の変化[6〜8]が含まれる。
【0004】
インビボ産生胚の凍結保存に関する先の研究によると、無傷の透明帯を持つブタ卵母細胞または胚を遠心分離後、偏光脂肪滴は、橋様構造を介して卵母細胞の細胞質または胚の卵割球と、結合したままである傾向がある[11]。偏光脂肪滴は、その後の培養または凍結保存手順中、卵母細胞または卵割球へと再分布し得る。囲卵腔が拡大された場合、橋様構造は、遠心分離後破壊され、脂肪滴は、卵母細胞の細胞質または胚の卵割球へ再分布されることはないが、無傷の透明帯内に残る。したがって、インビボ由来胚は、凍結保存前に、脂質再分布を防止するため、遠心分離後即時に、凍結保存される必要がある[12]。
【0005】
先の研究はまた、脂肪滴が、ブタ胚の初期に豊富かつ大きく、胚が、胚盤胞期へ、ならびに胚盤胞期を越えて進むに従い、サイズおよび存在量が次第に減少することを発見した[15、16]。興味深いことに、初期胚の大きな脂肪滴は、後期胚における小さな液滴よりも、容易に遠心分離により除去される。
【0006】
インビトロ受精(IVF)または核移植(NT)による胚由来等の、ブタ胚のインビトロ産生は、疾患モデル、または異種移植に対し潜在性のある臓器ドナーを作成するため使用された。結果として、インビトロ産生胚の効果的凍結保存に対する需要が、著しく増加した。しかしながら、インビトロ産生された(IVP)胚は、ましてやさらに凍結保存に対し感応性があり、したがって、インビボ産生された対応物よりも、凍結保存がさらに困難である[9]。
【0007】
これまでのところ、IVP胚を凍結保存に対して、極めて限られた成功しか達成されていない。2006年、発明者の研究室は、凍結保存されたNT胚[9]より産生された、2リットルの形質転換された子ブタを報告した。後に、Nagashimaら[10]は、凍結保存されたIVF由来胚より産生された子ブタを報告した。しかしながら、IVFまたはNT由来胚のこれら成功報告の双方の凍結保存は、遠心分離および顕微操作を介し、機械的脱脂質を使用した[9、10]。機械的脱脂質は、顕微操作中に透明帯へ損傷を与えるため、病原体の伝染の可能性を実質的に増加させる。それはまた、重労働であり、時間のかかるものである。
【0008】
2つの他のグループ[13、14]は、ブタ単為生殖の胚およびハンドメイドクローン胚の凍結保存の生存性を改善するため、部分的消化酵素およびその後の遠心分離を用いる試みを報告した。具体的に、トリプシン、プロナーゼ、または別の酵素により該透明帯が部分的に消化された場合、それは、サイズにおいて肥大し、卵母細胞形質膜および該透明帯間の空間の量の増加をもたらす。したがって、卵母細胞または胚が遠心分離された場合、脂質が完全に分離するために十分な空間が存在する。しかしながら、部分的な消化酵素処置は、脂質分離のための使用の場合、いくつかの不都合を有する。例えば、酵素(トリプシンまたはプロナーゼ等)は、卵母細胞の単為生殖の活性を誘発し得る。加えて、消化酵素処置は、一貫しては効き得ず、酵素処置の効果が酵素の個々のバッチに過度に依存するため、小グループで厳密に観察かつ監視される必要がある。さらに、どちらのグループも、消化酵素および遠心分離方法の組み合わせを使用する凍結保存胚からの、いずれの子ブタ産生も報告していない。
【0009】
したがって、研究および商業目的に好適である、IVP(IVF由来またはNT由来等)ブタ胚の脂質分離および凍結保存の実践的かつ非侵襲的な方法を開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様において、インビトロ産生された(IVP)(インビトロ受精(IVF)由来または核移植(NT)産生された)ブタ胚の細胞質からの脂質を分離または除去する新規および改善された方法が説明される。本発明の脂質除去方法は、(1)1細胞期または卵割期(胚細胞緊密化前)にIVPブタ胚を産生するステップと、(2)凝縮胚を産生するために胚を凝縮するステップと、(3)脂質分離胚を産生するために、細胞質から脂質を分離し凝縮胚を遠心分離するステップと、を含む。
【0011】
本発明の方法の一実施形態により、胚の体積は、高浸透圧処置を介し、凝縮され得る。特に、胚細胞緊密化前の1細胞期または卵割期のIVFまたはNT由来胚を、事前に決定された短期間、前の培養培地よりもより大きな事前に選択された浸透圧を持つ培地に暴露することができる。培地の浸透圧は、任意の標準手順に従って、NaCl等の塩、ショ糖、ラフィノース、フルクトース、マンニトール、またはトレハロース等の糖、またはDMSO等の他の有機試薬、あるいはエチレングリコールを培地へ添加することにより、調節することができる。
【0012】
本発明の別の態様において、脂質分離されたIVFまたはNT由来のブタ胚の凍結保存およびその後の移植のための新規および改善された方法が説明される。該脂質分離されたブタ胚は、胚盤胞期、およびガラス化に供するさらなる胚発生後、凍結保存することができる。該ガラス化胚は、加温し、その透明帯を除去し、レシピエント(代理ブタ等)へと移植することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の凍結保存および回復過程のフローダイアグラムである。
【図2】図2(a)から(f)は、高浸透圧処置後のインビトロ受精由来胚の発生の写真である。
【図3】図3(a)から(f)は、高浸透圧処置後のNT由来胚の発生の写真である。
【図4】図4は、異なる浸透圧(NaClまたはショ糖により調節された)(列1)で処置された胚の写真、および遠心分離(列2)後即時のそれらの対応の写真を含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野に精通する者によって一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書で言及されたすべての発行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照することによって、その全体が組み込まれる。
【0015】
本発明は、先の研究に基づき、初期胚発生段階での脂質除去、または分離がIVP(IVFまたはNT由来)ブタ胚の凍結保存に対し重要であり、それは部分的酵素消化法による透明帯の膨化に加えて、IVPブタ胚の囲卵腔は、容易な脂質除去/分離を可能とするため胚の体積を凝縮することにより、拡大し得ることを教示する。本発明はまた、高浸透圧処置へのIVP胚の暴露が、胚を凝縮し得るが、胚の活力を保存し得ることを開示する。さらに、本発明の脂質分離方法は、一度に複数の胚を処置するために用いられ、現在の脱脂質手順とは対照的に、それは、それぞれ個々の卵母細胞または胚の顕微操作を必要とするため用いられ得る。
【0016】
参照される図1は、本発明の胚を凝縮する方法を介し本発明の凍結保存および回復過程のフローダイアグラムである。図1のステップ1は、事前に選択された初期発生段階、具体的に、胚細胞緊密化前の1細胞期または卵割期で、IVP胚を提供する。IVFまたはNT等のいずれの標準IVP手順も、順応し得る。
【0017】
本発明の方法の一実施形態により、インビトロ受精過程は、1つまたは複数のブタ卵巣の胞状卵胞から吸引された卵母細胞と共に開始し得る。該卵母細胞は、ある期間成熟培地で成熟期まで培養され得、かつ剥皮され得る。例示的成熟培地は、0.1%PVA、3.05mmol/Lグルコース、0.91mmol/Lピルビン酸ナトリウム、0.57mmol/Lシステイン、0.5μg/mL LH、0.5μg/mL FSH、10ng/mL上皮成長因子、75μg/mLペニシリンおよび50μg/mLストレプトマイシンと共にTCM199(Gibco、31100035、Grand Island、NY)を含有し得る。卵母細胞は、加湿空気において5%CO、38.5℃で、約40〜44時間、成熟培地で培養し得る。成熟後、卵母細胞は、約4分等の短時間、0.1%PVAおよび0.1%ヒアルロニダーゼを追加したTL−HEPES[20]で、ボルテックスを通して卵丘細胞を除去することにより剥皮され得る。剥皮された卵母細胞は、精子注入前に多くの異なる培地で貯蔵され得る。優れた培地は、0.6mmol/L NaHCO、2.9mmol/L HEPES、50μg/mlペニシリン、60μg/mlストレプトマイシン、30mmol/L NaClおよび3mg/mL BSA[26]と共に、TCM199を含有し得る。
【0018】
いずれの標準精子注入手順も、IVP胚を産生するために順次し得る。一実施形態により、剥皮された卵母細胞は、極体と共に好適なIVF培地へ、精子懸濁液と混合されるために、最初に移植され得る。例示的IVF培地は、113.1mmol/L NaCl、3mmol/L KCl、7.5mmol/L CaCl、5mmol/Lピルビン酸ナトリウム、11mmol/Lグルコース、20mmol/Lトリス、2mmol/Lカフェイン、および2mg/mL BSAと共に、修飾されたトリス緩衝培地を含有し得る。
【0019】
本発明の別の実施形態によると、NT由来胚は、核移植ドナー細胞および商業的な卵母細胞と共に開始し得る。核移植ドナー細胞は、形質転換された子ブタから収集、もしくは野生型細胞の遺伝子修飾を介して産生され得る。卵母細胞が成熟可能とされた後、0.1%PVAおよび0.1%ヒアルロニダーゼを追加されたTL−HEPESで約4分、ボルテックスにより卵母細胞から卵丘細胞が除去された。これら卵母細胞からの最初の極体および隣接細胞質は、次いで、操作培地中、7.0μg/mlサイトカラシンBで吸引される。ドナー細胞は、次いで、囲卵空間へ移植される。融合および活性は、融合/活性培地(0.3Mマニトール、1.0mM CaCl、0.1mM MgCl、および0.5mM HEPES等)で、1.2kV/cmの2つの30μs脈拍と共に、同時に達成し得る。あるいは、融合および活性は、まず融合において、低濃度のカルシウムを含む培地(0.3Mマニトール、0.1mM CaCl、0.1mM MgCl、および0.5mM HEPES等)に暴露し、次いで、暗所で、200μMチメロサールに約10分間、その後、8mM DTTに30分間暴露して活性化[21]、または任意の他の好適方法で、段階的に達成することができる。
【0020】
精子注入またはNT後、IVP胚は、1細胞期または卵割期(接合体、2細胞または4細胞段階、胚細胞緊密化前)へと培養される。いずれの好適培養手順も順応し得る。一実施形態により、IVP胚(インビトロ受精またはNT由来)は、2細胞段階胚を選択するため、38.5℃、空気中5%COで28〜30時間、種々の異なる培養培地において培養され得る。例示的培養培地PZM3[27]は、浸透圧288±2、およびpH7.3±2と共に、NaCl 108.0mmol/L、KCl 10.0mmol/L、KHPO 0.35mmol/L、MgSO.7HO 0.4mmol/L、NaHCO 25.07mmol/L、ピルビン酸Na 0.2mmol/L、Ca(乳酸).5HO 2.0mmol/L、グルタミン1.0mmol/L、ヒポタウリン5.0mmol/L、BMEアミノ酸溶液20ml/L、MEMアミノ酸溶液10ml/L、ゲンタマイシン0.05mg/mL、BSA 3mg/mLを含有し得る。
【0021】
図1のステップ2は、胚の浸透圧を上昇させ、胚を凝縮する。いくつかの異なる培地製剤は、浸透圧を上昇させ、卵母細胞または胚の体積を凝縮するのに用いられ得る。本発明は、異なる濃度(結果として、異なる浸透圧)でNaClまたはショ糖を使用する例を提供するが、高浸透圧およびその後の細胞(複数可)の体積の縮みをもたらす他の製剤も機能すべきである。
【0022】
本発明の方法の一実施形態により、浸透圧は、胚が浸される培地の浸透圧を調節することにより、上昇し得る。例えば、NaClまたはショ糖は、約300mOsmo(7.0μg/mLサイトカラシンBおよび0.1mg/mL BSAを伴う300〜310mOsmoを伴う保存溶液等)と保存用培地へ、350、400、500、600、および800〜850mOsmo等の種々の浸透圧で培地を生じさせるため、添加され得る。IVP由来胚は、短時間、約5〜10分、遠心分離前に事前に選択された高浸透圧の培地に暴露され得る。
【0023】
図1のステップ3は、通常、遠心分離を介し、凝縮胚から脂質を分離するものである。例えば、高浸透圧培地における凝縮胚は、約6〜20分、13,400×gで遠心分離し得る。遠心分離条件(力または期間)は、胚の活力を保存すると同時に、完全な脂質分離を達成するのに十分である限り、遠心分離力および時間が大きい範囲で変化し得る。短い期間は、該力が増加した場合、特に役立つ。同様に、より低い力が使用される場合、長い期間が必要で有り得る。高浸透圧への長期暴露は、胚の活力に影響を及ぼし得る。
【0024】
脂質分離は、約12時間の培養後、確認され得、いくつかの場合(それらが比較的重要であるため、特に、NT由来胚に対し)、第二期の高浸透圧処置、およびその後の遠心分離は、比較的完全な脂質分離を達成するために適用され得る。胚細胞緊密化前の卵割期で胚が残存する限り、第二期の高浸透圧処置は、任意で有り得る。
【0025】
脂質分離胚は、次いで、図1の胚盤胞期ステップ4へとさらに発生することを可能とする。具体的に、脂質分離胚は、胚が胚盤胞段階を得るため、PZM3において3〜6日培養され得る。
【0026】
図1のステップ5は、さらに発生した胚のガラス化である。胚は、いずれの標準方法/手順を通してもガラス化され得る。一実施形態により、さらに発生した胚は、修飾されたオープンプルドストロー(OPS)法の使用により、胚盤胞期でガラス化され得る。具体的に、さらに発生した胚は、平衡溶液中に短時間(約2分等)配置され得、その後、ガラス化溶液への暴露が続き、次いでOPSストローに積み込まれ、かつ液体窒素へと即時に浸され得る。例示的平衡溶液は、例示的ガラス化溶液が、20%エチレングリコール、および20%DMSOを含有すると同時に、10%エチレングリコール、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含有し得る。窒素に浸される前の過程は、38.5℃の加温段階で行われ得る。ガラス化溶液への暴露から窒素に浸すまでの期間は、概して、約25〜30秒間と短い範囲である。
【0027】
図1のステップ6〜8は、保存胚を回復する、かつかかるものをレシピエントへと移植するステップである。具体的に、ガラス化胚は、若干昇温(約38.5℃等)である期間、緩衝液(ショ糖等)へと浸すことにより解凍され得る。解凍胚は、透明帯を軟化かつ除去するため0.5%プロナーゼで処置され得る。脂質分離および帯除去胚は、次いでレシピエントまたは代理体の卵管または子宮へと移植され得る。
【0028】
図2(a)〜(f)は、高浸透圧処置(NaClで400mOsm)後のIVF由来胚の写真である。図2(a)は、高浸透圧処置および遠心分離後、数時間培養された胚を表示する。図2(b)および2(c)は、胚盤胞段階での胚を表示する。図2(d)は、ガラス化および加温後の胚を表示する。図2(e)は、それらの透明帯の除去後の胚を表示する。図2(f)は、BRL細胞調整培地においてインビトロ培養後再拡張した胚を表示する。
【0029】
図3(a)〜(f)は、NaClまたはショ糖との高浸透圧処置後のNT由来胚の発生の写真である。図3(a)および3(b)は、高浸透圧処置および遠心分離後、数時間培養されたNT由来胚を表示し、図3(c)および3(d)は、胚盤胞段階へとさらに培養された胚を表示し、図3(e)は、ガラス化後に加温された胚を表示し、かつ図3(f)は、BRL細胞調整培地においてインビトロ培養後、再拡張した胚を表示する。
【0030】
本発明はさらに、異なる試薬(浸透圧を調節する)の効果、異なる浸透圧、および脂質分離の速度上の遠心分離時間を研究した。本発明は、NaClまたはショ糖等の異なる試薬が、脂質分離において同様の効果を有し、脂質分離に対する理想的な浸透圧は、約350〜約500mOsmまでの範囲であり、かつ好適遠心分離力/速度で、約6分〜約20分の範囲である遠心分離期間はまた、脂質分離速度において陽性作用を有することを発見した。
【0031】
図4は、遠心分離前後に、異なる浸透圧(NaClまたはショ糖で調節された)で処置されたインビトロ受精胚の写真を表示する。列1は、上昇した浸透圧(対照との比較)で明らかに表示される凝縮と共に、異なる浸透圧、300mOsm(対照)、400mOsm(NaClで調節された)、600mOsm(ショ糖で調節された)、および800mOsm(ショ糖で調節された)で暴露された胚の写真を表示する。列2は、遠心分離後の胚の対応の写真を列挙する。遠心分離後の橋様構造(不完全脂質分離を示唆する)は、該対照においても見られ得、完全脂質分離は、600または800mOsmoで処置された胚において、大きな橋様構造が存在すると同時に、400mOsmで暴露された胚において観察され得る。図2は、約400mOsmの浸透圧が、最も完全な脂質分離を提供し、浸透圧が600以上へ上昇した場合、脂質分離が邪魔されることを示唆している。
【0032】
本発明はさらに、脂質分離速度、胚の発生、および孵化能力へ与える、異なる浸透圧および遠心分離条件の影響を定量的に評価した。表1(IVF由来胚、NaClで調節された浸透圧)、2(IVF由来胚、ショ糖で調節された浸透圧)、および3(NT由来胚、NaClおよびショ糖の双方で調節された浸透圧、3つの表すべてが添付されている)に含まれるデータに基づき、脂質分離の好まれる状態は、300以上〜約500mOsmまでの範囲、好ましくは約350〜約450mOsm、である浸透圧にIVP胚を暴露し、続いて13,400×g速度で約6〜約20分、遠心分離するためである。該遠心分離時間は、遠心分離速度により、短縮または延長され得る。しかしながら、遠心分離時間の延長は、高浸透圧に胚を長期暴露させ得、それは胚の活力に対し悪影響を有しえる。さらに、表3において、第ニ期高浸透圧処置は、総脂質分離速度を上昇させる第一期の処置上で、凝縮に失敗したNT由来胚のために、選出される。第ニ期高浸透圧処置は、胚細胞緊密化前の卵割期に胚が未だ在る限り、選出され得る。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表4は、高浸透圧処置、遠心分離、およびガラス化によって保存されたIVF由来胚に関する妊娠および子孫データを評価する。表4に含まれるデータの中で、9つの代理体のうち3つが妊娠を確立し、正常な子孫を産生した。1つの代理体は、350mOsmの浸透圧で処置した胚を受容し、5匹の子ブタ、オス3匹およびメス2匹を産生し、1つの代理体は、400mOsmで処置した胚を受容し、4匹の子ブタ、オス2匹およびメス2匹を産生し、1つの代理体は、450mOsmで処置した胚を受容し、3匹の子ブタ、オス1匹およびメス2匹を産生した。
【0037】
【表4】

【0038】
表5は、高浸透圧処置、遠心分離、およびガラス化後のNT由来胚の移植、妊娠、および子孫のデータを一覧にする。3つの胚の移植を行い、記録した。それぞれの移植について、透明帯をプロナーゼ処置によって軟化または除去した80〜90個の胚を代理体に移植した。400mOsmoで処置し、6分間遠心分離した胚を受容した3つの代理体のうちの2つ、ならびに350mOsmoで処置し、20分間遠心分離した胚を受容した1つが、妊娠を生じ、前者については1匹のオスの子ブタを産生した。表4および5のデータは、本発明の方法が、特に好ましい範囲の浸透圧(約350〜約450mOsm)を適用するとき、IVP胚のための凍結保存方法に成功することを示す。
【0039】
【表5】

【0040】
本発明をその具体的な実施形態に関連して説明したが、さらに改良することが可能であることを理解されたい。本特許出願は、概して本発明の原理に従い、本発明が関連する技術分野内で既知または慣例の実践内に入り、本明細書の上記および以下の添付の特許請求の範囲内に記載される本質的特徴に適用され得るような、本開示からの逸脱を含む、本発明のいずれの変形、使用、または適合をも網羅することを意図する。
【0041】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
IVPブタ胚の脂質分離の方法であって、
(a)胚細胞緊密化前の1細胞期または卵割期にIVPブタ胚を産生することと、
(b)凝縮胚を産生するために、かかる胚を、短時間、事前に選択された浸透圧を持つ培地に暴露することと、
(c)脂質分離胚を産生するために、かかる凝縮胚を、事前に選択された速度で事前に選択された期間、遠心分離することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記IVPブタ胚が、インビトロ受精、核移植、または他のインビトロ方法を介し産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地の浸透圧が、約300mOsmo〜約500mOsmoの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遠心分離条件が、13,400×gの速度で約6〜約20分の範囲である、請求項4に記載の方法。
【請求項5】
インビトロ産生されたブタ胚の凍結保存および回復の方法であって、
(a)胚細胞緊密化前の1細胞期または卵割期に、インビトロ産生されたブタ胚を産生することと、
(b)凝縮胚を産生するために、前記胚を、事前に選択された浸透圧に短時間、暴露することと、
(c)脂質分離胚を産生するために、前記凝縮胚を遠心分離することと、
(d)脂質分離胚盤胞を産生するために、前記脂質分離胚を、胚盤胞期へ培養することと、
(e)ガラス化または凍結により、前記胚盤胞を凍結保存することと、
(f)加温、再水和、および透明帯の除去により、前記胚盤胞を回復することと、
(g)前記帯除去胚盤胞を、レシピエントへ移植することと、を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−501187(P2012−501187A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525249(P2011−525249)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/055424
【国際公開番号】WO2010/025404
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(501305844)ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ (12)
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
【Fターム(参考)】