説明

ブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法および測定装置

【課題】 非接触で可動部を有しない、ブラウン運動する粒子群を用いた粘度および粒子径分布の測定方法および測定装置を提供する。
【解決手段】 被測定粘性流体中に粒子径分布が既知である粒子群を分散し、該粘性流体中で該粒子群をブラウン運動させ、該ブラウン運動を検出手段により検出し、データ処理手段により該粒子群の粒子表面での該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、かつ、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法および測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体中に粒径分布が既知なる粒子群を分散させ該粒子群のブラウン運動による該粒子群の粒子表面における流体せん断場において、該粒子表面での流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることを特徴とする粘度測定方法と、流体せん断応力と流体せん断速度との前記関係が成立するように粒径が未知なる粒子の粒子径分布を求めることを特徴とする粘度および粒径分布測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘性流体の粘度を精度良く測定するには、流体に力を与え変形させ、流体のせん断応力とせん断速度を測定する必要がある。この流体せん断応力と流体せん断速度の関係から流体の粘度を求める方法が従来の粘度測定装置である。
【0003】
流体のせん断応力とせん断速度との関係の代表的なものを図1に示す。流体のせん断応力とせん断速度との関係が原点を通り直線的な比例関係にある場合、その流体をニュートン流体と称し、その比例係数を粘性係数、粘度又は絶対粘度と呼ばれている。一方、流体のせん断応力とせん断速度の間に線形的な比例関係が成立しない流体が非ニュートン流体である。また、図1に、非ニュートン流体の代表例として、ビンガム流体、擬塑性流体およびダイラタント流体の流体のせん断応力とせん断速度の関係を示している。
【0004】
例えば流体の粘度の測定方法としての基本原理の1つとして、円管内に層流状態で流体を流し、円管の両端の圧力差と流量から求めることを基本とする方法である。その代表がオストワルド粘度計である。その他の方法として、流体中に円盤や円筒を設置し、円盤や円筒を回転させ、そのときの必要トルクと回転速度から粘度を求める方法として回転粘度計がある。また、流体中に形状の決まった固体を落下させ、その落下速度より求める落下粘度計などがある。このような原理に基づき、液体の粘度計は日本工業規格(非特許文献1)により、毛細管粘度計、落球粘度計、回転粘度計の3種類に分類されている。また、液体中に振動子及び振動センサーを浸漬させ、流体を振動させ、その振動子及び振動センサーの位相差から粘度を測定する方法又は装置(例えば、特許文献2、特許文献3)が提案されている。
【0005】
このように、従来の流体粘度の測定には、被測定粘性流体中で可動する固体物体を必要とし、非接触測定ができない。また、従来の粘度測定方法又は装置では、粘度の測定するたびに、その測定試料を粘度計又は粘度測定装置内に流体試料を注入する必要があり、さらに粘度測定後、粘度計又は装置を洗浄する必要があり、粘度を測定したい流体試料が多数ある場合、測定時間が長くなるとともに、連続的、遠隔的、自動的に測定することが困難である。
【0006】
一方、粒子にレーザトラップ力やレーザ光圧により粒子を運動させ、該粒子に作用する粘性抵抗力と変位速度を測定し粘度を測定する方法が知られている(例えば、特許文献4、特許文献5)。レーザ光のエネルギーにより、外部から粒子に力を与えていることと、粒子の変位変化を精度良く測定する必要があり、測定精度と装置構築費用に問題がある。
【0007】
さらに、分散媒又は流体中でブラウン運動する粒子群にレーザ光を照射し、粒子群からの散乱光強度の時間的自己相関関数の測定結果から、粒子径を測定する方法として、日本工業規格(非特許文献6)がある。
【0008】
この方法は、散乱光の自己相関関数の測定結果から粒子の拡散係数Dを求め、式(1)で与えられるストークス・アインシュタインの式より粒子群の粒子半径rを求める方法である。ただし、kはボルツマン定数、Tは流体の絶対温度、ηは流体の粘度とする。
r=kT/(6πηD) (1)
式(1)は、流体がニュートン流体であり、かつ、ストークスの関係式が成立する場合のみに適用できる式である。
【0009】
流体せん断応力をτ、流体せん断速度をdu/dyとすると、図1に示すように、ニュートン流体は、流体せん断応力とせん断速度との関係が線形関係であり、式(2)が成立する流体である。
τ=ηdu/dy (2)
【0010】
粒子径と拡散係数が既知である場合、逆に、式(1)より粘度を求めることができる。
【0011】
例えば、流体中に分散した粒子径が既知である粒子群に電圧を印加し、該粒子に泳動力を与え、該粒子群の拡散係数から式(1)により流体粘度を測定する方法などがある(特許文献7)。
【0012】
しかし、式(1)が成立するには、粒子を分散する流体がニュートン流体であり、粘度ηが流体せん断速度の関数でなく、かつ、該粒子形状が球形であることが必須条件である。
【0013】
さらに、式(1)は前記ブラウン運動に係るブラウン粒子の揺らぎ速度を使用することを避けた式である(非特許文献8)ため、式(1)により流体のせん断応力、または/かつ、流体のせん断速度に係る情報を得ることはできない。
【非特許文献1】日本工業規格 JIS Z8803 液体の粘度−測定法。
【特許文献2】特開平11−173967号公報
【特許文献3】特開平10−160661号公報
【特許文献4】特開2004−85242号公報
【特許文献5】特開2004−108793号公報
【非特許文献6】日本工業規格 JIS Z8826 粒子径解析−光子相関法
【特許文献7】特開2007−198804号公報
【非特許文献8】米沢登美子著‘ブラウン運動’(9版(2007)共立出版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、流体中でブラウン運動するブラウン粒子に係わる前記ストークス・アインシュタインの式は、該ブラウン運動に係わるブラウン粒子の揺らぎ速度を使用することを避けた式であるため、式(1)により、粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を求めることはできないという問題点がある。
さらに、式(1)と式(2)に基づく粒径解析には、粘性流体がニュートン流体で、かつ、粒子形状が球形であることが必須条件であるため、粘性流体がニュートン流体であるか不明である場合、該粒径解析方法の信頼性が乏しくなる。また、粘性流体がニュートン流体である場合でも、粒子形状が非球形で、例えば、該形状が板状、針状、鎖状構造した高分子などの粒径または大きさを測定することは、その測定精度および測定結果の信頼性に課題がある。このように、前記ストークス・アインシュタインの式を用いた粘度または粒径分布測定法に重要な課題があった。
また、分散させる流体をニュートン流体と仮定し、粒子径が既知の単分散系の粒子を用いて、その流体の粘度を式(1)により算出することは可能であるが、測定精度に問題がある。複数の異なる流体せん断応力と流体せん断速度を測定し、該流体せん断応力と流体せん断速度の関係から粘度を測定することにより、粘度の測定精度を向上させることが重要な研究課題であった。
さらに、流体が非ニュートン流体の場合、式(1)と式(2)が成立しないため、前記ストークス・アインシュタインの式を適用できないことから、ブラウン粒子を用いた新規の粘度または粒径分布の測定法を開発することが重要な研究課題であった。
【0015】
そこで、発明者は、このような従来技術の有する問題点に鑑みて、統計力学と流体力学を基盤として学術研究を行ってきた。そして、前記ブラウン粒子の揺らぎ速度を測定または算出することにより、従来技術の有する問題点を解決し、本発明をするに至った。
【0016】
本発明の目的は、粘性流体中でブラウン運動するブラウン粒子の粒子表面における粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を測定または算出し、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、請求項1に係わる発明のブラウン粒子を用いた粘度の測定方法は、粒子径分布が既知である粒子群を被測定粘性流体中に分散しブラウン運動させ、該粒子群にレーザ照射手段によりレーザを照射し、該粒子群からの散乱光を光検出手段により検出し、該粒子群のブラウン運動を測定し、データ処理手段により、該粒子群の易動度と揺らぎ速度を求め、該粒子群の粒子に作用する力を算出し、該粒子の表面での該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、該流体せん断応力と該流体せん断速度との関係を求めることを特徴とする。
【0018】
ブラウン運動する粒子をブラウン粒子と称する。前記粒子群のブラウン粒子の揺らぎ速度をuとし、該ブラウン粒子周りの前記粘性流体の分子運動による該ブラウン粒子に作用する力をFとすると、前記易動度μは次式で定義される。
μ=u/F (3)
【0019】
式(3)から下記の式が得られる。
F=u/μ (4)
【0020】
ブラウン粒子の易動度μと揺らぎ速度uを測定する、または、求めることにより、式(4)により前記ブラウン粒子に作用する力を算出することができる。
【0021】
前記ブラウン粒子の表面での前記粘性流体の流体せん断応力τは、下記の式で算出できる。
τ=F/(α) (5)
ここで、αは前記ブラウン粒子の粒子形状で定まる面積形状係数、rは該ブラウン粒子の球相当半径である。
【0022】
前記ブラウン粒子の表面での前記粘性流体の流体せん断速度du/dyは下記の式で算出できる。
du/dy=u/(αr) (6)
ここで、αは前記ブラウン粒子の粒子形状で定まる流体せん断相当係数、yは前記ブラウン粒子の粒子表面から法線方向への距離である。
【0023】
このように前記被測定粘性流体の粘度は、該粘性流体中で粒子径分布が既知である粒子群が分散しブラウン運動している該粒子群のブラウン粒子の易動度と揺らぎ速度を求め、該ブラウン粒子に作用する力を算出し、該ブラウン粒子の表面での該粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度を算出し、さらに、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることができる。
【0024】
さらに、前記流体せん断応力と流体せん断速度との関係を直接求めることにより、粘度の測定精度は向上する。
【0025】
請求項2に係わる発明のブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法は、
粒子径分布が既知である粒子群を被測定粘性流体中に分散しブラウン運動させ、該粒子群にレーザ照射手段によりレーザを照射し、該粒子群からの散乱光を光検出手段により検出し、該粒子群のブラウン運動を測定し、データ処理手段により、該粒子群の易動度と揺らぎ速度を求め、該粒子群の粒子に作用する力を算出し、該粒子の表面での該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、該流体せん断応力と該流体せん断速度との関係を求め、さらに、該粘性流体中で粒子径分布が未知である被測定粒子をブラウン運動させ、前記方法と同じ方法で算出される該被測定粒子の粒子表面における流体せん断応力と流体せん断速度が前記関係を満足するように該被測定粒子の粒径分布を求めることを特徴とする。
【0026】
前記式(3)から式(5)に基づくことを特徴としたブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法である。
【0027】
したがって、前記粘性流体の粘度、または、流体せん断応力と流体せん断速度の関係と、粒子径分布が未知である粒子群の粒径分布とを求めることができる。流体粘度の測定が不要であり、別途粘度計が不要となり、測定精度が向上し、測定方法が簡素化され、自動測定、遠隔測定などが可能になる。
【0028】
請求項3に係わる発明は、請求項1または請求項2に記載の粒子群または粒子の粒子形状は非球形であるものとする。
【0029】
前記ブラウン粒子の粒子形状で定まる面積形状係数と流体せん断相当係数を求めることにより、前記粘度または流体せん断応力と流体せん断速度の関係と粒径分布の測定精度が向上する。
【0030】
前記面積形状係数と流体せん断相当係数は、前記粒子群の形状画像から求めることができるが、流体せん断応力と流体せん断速度の関係が既知である粘性流体を使用することにより算出することが好ましい。
【0031】
請求項4に係わる発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の前記粒子径分布が既知である粒子群は粒径の異なる粒子を含む粒子群であるものとする。
【0032】
前記粒子群に異なる粒径のブラン粒子が含むことにより、短時間で効率よく、流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることができる。
【0033】
請求項5に係わる発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の前記粘性流体は、ニュートン流体であるのか非ニュートン流体であるのかが未知である粘性流体であるものとする。
【0034】
前記粘性流体が、ニュートン流体であるのか非ニュートン流体であるのかを判定し、前記流体せん断応力と流体せん断速度との関係を自動的に算出できる。
【0035】
請求項6に係わる発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の前記粘性流体は、非ニュートン流体であるものとする。
【0036】
前記粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係が線形関係でない非ニュートン流体の粘度または該流体中での前記ブラウン粒子の粒径分布が求められる。
【0037】
請求項7に係わる発明は、請求項2から請求項6のいずれかに記載の前記関係をありふれた粘度計で求めるものとする。
【0038】
前記粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度の関係をありふれた従来の粘度計で測定し、粒子径分布が未知である粒子群の粒子表面における前記流体せん断応力と流体せん断速度が該関係を満足するように該粒子群の粒径分布を求めることができる。
【0039】
請求項8に係わる発明は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の前記データ処理手段は、前記粒子群または粒子の拡散係数を算出する手段と、ネルンスト・アインシュタインの式とエネルギー等配の法則から前記流体せん断応力と流体せん断速度を求める手段と、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を解析する手段を有するものとする。
【0040】
統計力学におけるエネルギー等配の法則は、質量mのブラウン粒子に対して、下記の式で与えられる。
mu/2=kT/2 (7)
【0041】
該ブラウン粒子の揺らぎ速度は、式(7)より導出される下記の式により算出できる。
u=(kT/m)1/2 (8)
このように前記粘性流体の温度を測定することにより、該揺らぎ速度が算出できる。
【0042】
前記拡散係数をDとすると、前記ネルンスト・アインシュタインの式は、下記の式で与えられる。
D=kTμ (9)
【0043】
式(9)より、前記易動度は下記の式で算出できる。
μ=D/(kT) (10)
【0044】
このように、ネルンスト・アインシュタインの式とエネルギー等配の法則により前記揺らぎ速度と前記易動度を求めることができ、前記載のように、前記流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、さらに、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を解析することができる。
【0045】
請求項9に係わる発明は、請求項1から請求項7のいずれかに記載の前記データ処理手段が、前記粒子群または粒子の拡散係数を算出する手段と、ネルンスト・アインシュタインの式とエネルギー等配の法則から前記流体せん断応力と流体せん断速度を求める手段と、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を解析する手段を有することを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度の測定装置、および/または、粘度および粒子径分布の測定装置。
【0046】
前記ブラウン粒子の揺らぎ速度または拡散係数を測定する方法として、動的光散乱法のほか、レーザードップラー法、動画像解析法、回折光度法などがあげられるが、測定装置の簡素化、低価格化、測定時間の短縮化などの点から、動的光散乱法が好ましい。
【0047】
また、前記粒子群の粒子は、該粒子同士の凝集、反応などを避けるため、電気化学的に中立なものが好ましい。
【発明の効果】
【0048】
上述したように、本発明のブラウン粒子を用いた粘度および粒子径の測定方法によれば、前記のようにブラウン運動する粒子群の粒子表面での該粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度を算出し、かつ、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることができることにより、以下のような優れた効果を奏することができる。
【0049】
被測定粘性流体がニュートン流体または非ニュートン流体である該粘性流体中の前記ブラウン粒子の粒子表面での流体せん断応力と流体せん断速度との関係を非接触で求めることができる。
【0050】
被測定粘性流体がニュートン流体から非ニュートン流体である該粘性流体中にブラウン運動する粒径分布が未知な粒子群の粒径分布を流体せん断応力と流体せん断速度との関係を満足するように、信頼性のある粒子径分布を求められる。
【0051】
ブラウン運動するブラウン粒子を用いることにより、外部から粒子に力を作用させる必要がなく、それに係わる付帯設備は不要となる。
【0052】
多数の被測定粘性流体の粘度、被測定粒子の粒径分布を連続的、自動的に測定できる。
【0053】
前記ブラウン粒子が非球形である場合にも、精度良く粘度および粒子径が測定できる。
【0054】
粘性流体流体の粘度または/かつ粒径分布が非接触で瞬時的に精度よく、かつ、再現性よく計測できる。
【0055】
粘度が未知でも、同一の装置を用い、粘度を求め、または/かつ、粒径を求めることができる。
【0056】
粘度または/かつ粒径の自動測定、遠隔測定などができる。
【0057】
流体に力を加えて変形させる必要がないので、ごく僅かの試料で流体粘度の計測ができる。
【0058】
可動部を有しないので、非接触測定ができるため、低圧低温から高圧高温までの流体の粘度および粒径が計測できる。
【0059】
可動部を有しないので、装置の校正がほとんど不要であり、装置のメンテナンス費用を最小とすることができる。
【0060】
操作および計測結果のやりとりが、リソース・外部インタエース部を介して、遠隔化、自動化でできる。
【0061】
光学系に光ファイバーを用いることにより装置のコンパクト化、ハンディ化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明を具体化した実施例を説明する。
まず、ありふれた動的光散乱法により、前記粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度を算出し、該流体せん断応力と流体せん断速度と関係を求める実施例を説明する。
【0063】
装置の構成は、1ccのサンプル容器に被測定粘性流体と粒径分布が既知である粒子群を入れ、サンプル容器内で静止させ、該粒子群をブラウン運動する状態にし、該容器にHe−Neレーザ光を照射し、粒子群からの散乱光を集光レンズにより集光し光ファイバーに導入し、光ファイバーからの散乱光を光電子倍増管により電気信号に変換し、カウンターにより光子数の時間的変化を測定し、コンピュータによりデータ処理を行い、該光子数の自己相関関数を求め、自己相関関数の減衰率を求め、粒子の拡散係数を算出し、式(3)から式(10)により前記粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求める。使用するレーザ光は単色、かつ、可干渉なレーザ光であれば、他の波長のレーザ光でもよい。
【実施例1】
【0064】
前記被測定粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度が線形関係であるニュートン流体の流体せん断応力および流体せん断速度の求め、該流体せん断応力と流体せん断速度関係を求める形態を説明する。
【0065】
前記被測定粘性流体として蒸留水を使用し、該蒸留水中に前記粒子径分布が既知である粒子群として粒子形状が球形の21nm、49nm、97nmのポリスチレン粒子を分散させ、前記サンプル容器に入れ静置し、該粒子をブラウン運動させる。サンプル容器は20℃である。ここで使用する該粒子群の粒子形状は、特に限定されていないが形状が既知であることが好ましく、また、球形が好ましい。球形粒子ではα=4π、α=2/3が好ましい。
【0066】
前記被測定粘性流体として蒸留水とし、前記粒子群の粒子表面での流体せん断応力および流体せん断速度を求めたものを両対数で点描したものを図2に示す。最小自乗法で求めた該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を直線で示すとともに、該関係式を示す。
【0067】
前記流体せん断応力と流体せん断速度との関係における直線の勾配が、ニュートン流体である被測定粘性流体の粘度であり、正確に求められる。
【実施例2】
【0068】
高圧での前記被測定粘性流体の粘度を測定することは、高性能の潤滑油を開発するにおいて、高圧での粘度は最も重要な物性値であり、該粘度の測定方法の開発が強く望まれている。可動部が有するありふれた粘度計を使用することは、該粘度計自体を高圧の条件下に設置する必要となる。さらに、高圧下での流体粘度の測定値が数少ないことは、高圧下での流体粘度の測定方法が確立されていないことが1つの原因である。
【0069】
高圧下において、前記被測定粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度が線形関係であるニュートン流体の流体せん断応力および流体せん断速度の求め、該流体せん断応力と流体せん断速度関係をもとめる形態を説明する。
【0070】
サファイアガラスでできた4つの透明な窓を有する高圧可能な高圧容器内に、前記粒子群を分散させたサンプル容器を挿入する。透明な4つの窓の1つにHe−Nレーザ光を投光し、サンプル容器にレーザ光を照射し、他の1つの該窓からの粒子群からの散乱光を集光レンズにより集光し光ファイバーに導入し、光ファイバーからの散乱光を光電子倍増管により電気信号に変換し、カウンターにより光子数の時間的変化を測定し、コンピュータによりデータ処理を行い、該光子数の自己相関関数を求め、自己相関関数の減衰率を求め、粒子の拡散係数を算出し、前記粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求める。
【0071】
前記被測定粘性流体として蒸留水および20mol%のエタノール水溶液を使用し、該粘性流体中に前記粒子径分布が既知である粒子群として粒子形状が球形の21nm、49nm、97nmのポリスチレン粒子を分散させ、前記高圧容器に前記サンプル容器に入れ静置し、該粒子をブラウン運動させる。サンプル容器は10℃、または25℃である。
【0072】
前記被測定粘性流体である蒸留水は、圧力4000気圧までほとんど変化せず、粘度の圧力依存性が小さいが、20mol%のエタノール水溶液の粘度は常圧での粘度に比して、4000気圧では、10℃で2.1倍、25℃で2.7倍になり、該粘度は圧力と線形関係であった。このように、本発明により、高圧下での流体粘度が測定できる。
【0073】
したがって、低温低圧から高温高圧での流体粘度の測定は、前記高圧器の耐熱化により、測定が可能になる。
【実施例3】
【0074】
前記被測定粘性流体の流体せん断応力および流体せん断速度が非線形関係である非ニュートン流体の流体せん断応力および流体せん断速度の求め、該流体せん断応力と流体せん断速度関係をもとめる形態を説明する。
【0075】
前記被測定粘性流体として図1に示す擬塑性流体であるカルボキシメチルセルロースナトリウムの1wt%の水溶液を使用し、該水溶液中に前記粒子径分布が既知である粒子群として粒子形状が球形の21nm、49nm、97nmのポリスチレン粒子を分散させ、前記サンプル容器に入れ静置し、該粒子をブラウン運動させる。圧力は大気圧で、サンプル容器は20℃である。
【0076】
前記被測定粘性流体が擬塑性流体であるので、前記流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係は、下記式(11)の指数法則でよく表現できる。
τ=K(du/dy) (11)
ここで、Kは比例定数で、みかけ粘度ηは、下記式(12)で求められる。
η=K(du/dy)n−1 (12)
【0077】
前記被測定粘性流体中の前記粒子群の粒子表面での流体せん断応力および流体せん断速度を求めたものを両対数で点描したものを図3に示す。最小自乗法で求めた該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を直線で示すとともに、該関係式を示す。
【0078】
図3より、直線の勾配よりnを求め、切片よりKを求めることができ、式(11)で与えられる前記擬塑性流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係を求めることができる。
【0079】
前記擬塑性流体中に、粒径が未知である粒子があるとき、前記の手順で求めた式(11)の関係式である前記流体せん断応力と流体せん断速度との関係を満足するように、粒径が未知である粒子の粒径分布を求めることができる。
【0080】
さらに、ありふれた別の粘度計で前記せん断応力と流体せん断速度との関係を別途測定し、粒径が未知である粒子を分散させる。該粒子の粒径分布は、別途求めた該関係を満足するように未知なる前記粒径を求めることができる。
【0081】
また、前記被測定粘性流体がニュートン流体、または、非ニュートン流体において、該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度との関係が既知のものであれば、該粘性流体中に分散した粒径分布が未知の粒子群の粒径分布を精度よく求めることができる。
【0082】
また、前記粒子径分布が既知である粒子群として、複数の粒径が異なる粒子群を用い、異なる流体せん断応力と流体せん断速度を複数個求めることにより、粘度および粒子径の測定精度、再現性および信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】 各種流体の流体せん断応力τ(Pa)と流体せん断速度du/dy(s−1)との関係を示すグラフである。
【図2】 ニュートン流体の流体せん断応力τ(Pa)と流体せん断速度du/dy(s−1)との関係を示すグラフである。
【図3】 非ニュートン流体(擬塑性流体)の流体せん断応力τ(Pa)と流体せん断速度du/dy(s−1)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径分布が既知である粒子群を被測定粘性流体中に分散しブラウン運動させ、該粒子群にレーザ照射手段によりレーザを照射し、該粒子群からの散乱光を光検出手段により検出し、該粒子群のブラウン運動を測定し、データ処理手段により、該粒子群の易動度と揺らぎ速度を求め、該粒子群の粒子に作用する力を算出し、該粒子の表面での該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、該流体せん断応力と該流体せん断速度との関係を求めることを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度の測定方法。
【請求項2】
粒子径分布が既知である粒子群を被測定粘性流体中に分散しブラウン運動させ、該粒子群にレーザ照射手段によりレーザを照射し、該粒子群からの散乱光を光検出手段により検出し、該粒子群のブラウン運動を測定し、データ処理手段により、該粒子群の易動度と揺らぎ速度を求め、該粒子群の粒子に作用する力を算出し、該粒子の表面での該粘性流体の流体せん断応力と流体せん断速度を算出し、該流体せん断応力と該流体せん断速度との関係を求め、さらに、該粘性流体中で粒子径分布が未知である被測定粒子をブラウン運動させ、前記方法と同じ方法で算出される該被測定粒子の粒子表面における流体せん断応力と流体せん断速度が前記関係を満足するように該被測定粒子の粒径分布を求めることを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度および粒子径分布の測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粒子群または粒子の粒子形状は、非球形である。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の前記粒子径分布が既知である粒子群は、粒径の異なる粒子を含む粒子群である。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の前記粘性流体は、ニュートン流体であるのか非ニュートン流体であるのかが未知である粘性流体である。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の前記粘性流体は、非ニュートン流体である。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれかに記載の前記関係をありふれた粘度計で求める。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の前記データ処理手段は、前記粒子群または粒子の拡散係数を算出する手段と、ネルンスト・アインシュタインの式とエネルギー等配の法則から前記流体せん断応力と流体せん断速度を求める手段と、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を解析する手段を有する。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の前記データ処理手段が、前記粒子群または粒子の拡散係数を算出する手段と、ネルンスト・アインシュタインの式とエネルギー等配の法則から前記流体せん断応力と流体せん断速度を求める手段と、該流体せん断応力と流体せん断速度との関係を解析する手段を有することを特徴とするブラウン粒子を用いた粘度の測定装置、および/または、粘度および粒子径分布の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−60544(P2010−60544A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256844(P2008−256844)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(594130972)