説明

ブラシノステロイド生合成調節に関わるカルモジュリン結合タンパク質

【課題】ブラシノステロイド生合成反応の調節因子を得ることを課題とする。
【解決手段】複数のブラシノステロイド生合成酵素遺伝子の転写制御を担う調節因子を見出した。この調節因子の発現を制御することにより、形態形成が調節された植物を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブラシノステロイド生合成反応を触媒する複数の酵素遺伝子の転写を活性化または抑制する新規な調節因子に関する。さらに、この調節因子の発現量を制御することによって、ブラシノステロイドの生合成能を増強した有用植物や、形態形成が調節された植物を効率的に得ることに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシノステロイドは植物の成長と発生に必須な植物ホルモンである。その生理作用は細胞伸長、維管束の分化、ストレス耐性の付与など多岐に渡っており、農業への利用価値が極めて高い。しかし、合成ブラシノステロイドの製造コストが高いために実際の農業現場では利用されていない。
【0003】
近年、ブラシノステロイドの生合成と代謝およびシグナル伝達に関わる遺伝子が次々に単離され、ブラシノステロイドの生合成経路が明らかにされてきている(例えば、非特許文献1〜3参照)。シロイヌナズナのブラシノステロイド生合成経路を図1に示した。
さらに、シロイヌナズナにおいて、ブラシノステロイドの合成酵素タンパク質をコードする新規な遺伝子(CYP90D1)が見出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ブラシノステロイドの生合成調節に関しては、活性型のブラシノステロイドであるブラシノライドによる処理で、ブラシノステロイド生合成遺伝子の発現が負のフィードバック制御を受けること(例えば、非特許文献4参照)やCYP90A1(CPD)遺伝子の発現が日周変化すること(例えば、非特許文献5参照)等が確認されている。また、カルシウムイオン依存性カルモジュリンがブラシノステロイド生合成の早期段階の反応を触媒するDWF1の酵素機能に必須であることが示されている(例えば、非特許文献6参照)。
【0005】
また、生合成に関わる酵素遺伝子に関しては、これらを過剰発現させることにより、ブラシノステロイドの生合成能が増強された有用植物が得られることが確認されている。
例えば、生合成の早期段階の反応を触媒するCYP90B1(DWF4)遺伝子のシロイヌナズナ過剰発現体では花茎が徒長し、種子の生産量が増加したが、この過剰発現体ではブラシノライドの生産量は増加しないことが確認されている(例えば、非特許文献7参照)。ブラシノライド合成の最終段階を触媒するCYP85A2遺伝子の過剰発現体でもDWF4遺伝子の過剰発現体と同様の表現型を示したが、この過剰発現体ではブラシノライドの生産量は増加することが確認されている(例えば、非特許文献8参照)。また、CYP90C1(ROT3)遺伝子の過剰発現体は花と葉のサイズ(縦方向)のみが大きくなることが確認されている(例えば、非特許文献9参照)。
【0006】
このように、過剰発現させた生合成酵素遺伝子の違いによって表現型や蓄積するブラシノステロイドの種類および量が異なるため、ブラシノステロイドの生合成能を増強した有用植物を効率的に得ることは難しかった。このような有用植物を効率的に作製するためには、植物種や有用形質を付与する器官における活性型ブラシノステロイドの種類を考慮しつつ、複数の生合成酵素遺伝子の転写を活性化させ、または抑制する必要があると考えられる。
【非特許文献1】Fujioka, S. and Yokota, T. (2003) Biosynthesis and metabolism of brassinosteroids. Annu. Rev. Plant Biol. 54: 137-164.
【非特許文献2】Li, J. (2005) Brassinosteroid signaling: from receptor kinases to transcription factors. Curr. Opin. Plant Biol. 8: 526-531.
【非特許文献3】Choe, S. (2006) Brassinosteroid biosynthesis and inactivation. Physiol. Plant. 126: 539-548.
【非特許文献4】Tanaka, K. Asami, T. Yoshida, S. Nakamura, Y. Matsuo, T. and Okamoto, S. (2005) Brassinosteroid homeostasis in Arabidopsis is ensured by feedback expressions of multiple genes involved in its metabolism. Plant Physiol. 138: 1117-1125
【非特許文献5】Bancos, S. Szatmari, A.M. Castle, J. Kozma-Bognar, L. Shibata, K. Yokota, T. Bishop, G.J. Nagy, F. and Szekeres, M. (2006) Diurnal regulation of the brassinosteroid-biosynthetic CPD gene in Arabidopsis. Plant Physiol. 141: 299-309.
【非特許文献6】Du, L. and Poovaiah, B.W. (2005) Ca2+/calmodulin is critical for brassinosteroid biosynthesis and plant growth. Nature. 437: 741-745.
【非特許文献7】Choe, S. Fujioka, S. Noguchi, T. Takatsuto, S. Yoshida, S. and Feldmann, K.A. (2001) Overexpression of DWARF4 in the brassinosteroid biosynthetic pathway results in increased vegetative growth and seed yield in Arabidopsis. Plant J. 26: 573-582.
【非特許文献8】Kim, T.W. Hwang, J.Y. Kim, Y.S. Joo, S.H. Chang, S.C. Lee, J.S. Takatsuto, S. and Kim, S.K. (2005) Arabidopsis CYP85A2, a cytochrome P450, mediates the Baeyer-Villiger oxidation of castasterone to brassinolide in brassinosteroid biosynthesis. Plant Cell. 17: 2397-2412.
【非特許文献9】Kim, G.T. Tsukaya, H. Saito, Y. and Uchimiya, H. (1999) Changes in the shapes of leaves and flowers upon overexpression of cytochrome P450 in Arabidopsis.Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 96: 9433-9437.
【特許文献1】特開2003-334089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はブラシノステロイド生合成反応を触媒する複数の酵素遺伝子の転写を活性化または抑制する新規な調節因子を得ることを課題とする。さらに、この調節因子の発現量を制御することによって、ブラシノステロイドの生合成能を増強した有用植物や、形態形成が調節された植物を効率的に得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、植物に普遍的な複数のブラシノステロイド生合成酵素遺伝子の転写制御を担う調節因子を見出した。そして、この調節因子が植物の全器官で発現しており、カルモジュリンと結合することを確認した。また、この調節因子の発現を制御することにより、葉身と葉柄の形態形成が変化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(10)に記載のポリヌクレオチド、植物等に関する。
(1) 配列表配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(2) ポリヌクレオチドがブラシノステロイド生合成反応の調節因子をコードする遺伝子である上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(3) 調節因子がブラシノステロイド生合成反応を触媒する酵素遺伝子の転写を活性化または抑制する調節因子である上記(1)または(2)に記載のポリヌクレオチド。
(4) 酵素遺伝子がCYP85A1、CYP90C1およびCYP90D1である上記(3)に記載のポリヌクレオチド。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するプラスミド。
(6) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにより形質転換された植物。
(7) 形質転換によって、葉身、葉柄のいずれか1つ以上の形態が変化した上記(6)に記載の植物。
(8) マメ科またはアブラナ科の植物である上記(6)または(7)に記載の植物。
(9) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにより植物を形質転換し、該ポリヌクレオチドの発現によって、ブラシノステロイド生合成反応を触媒する酵素遺伝子の転写を活性化または抑制することにより、該植物の形態を変化させる方法。
(10) (a)または(b)のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(a)配列表配列番号2のアミノ酸配列。
(b)ブラシノステロイド生合成反応の調節をするタンパク質のアミノ酸配列であって、配列表配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【発明の効果】
【0010】
本発明の調節因子の発現を制御することにより、ブラシノステロイドの生合成能を増強した有用植物を効率的に得ることが可能となる。また、観賞用等の目的によって、葉の形や大きさを変えた植物を得ることができる。
本発明によって得られた調節因子は、シロイヌナズナ以外の植物にも普遍的に存在している可能性があることから、様々な植物の形態形成の調節に利用できる可能性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリヌクレオチドとは、植物から抽出、単離した天然のポリヌクレオチドであってもよく、また、その塩基配列に従って、PCR等の公知の方法によって合成したものであってもよい。
【0012】
本発明のブラシノステロイド生合成反応の調節因子とは、ブラシノステロイド生合成反応経路において、該反応を触媒する酵素遺伝子の転写活性を調節する因子のことをいう。
例えば、シロイヌナズナのブラシノステロイド生合成反応経路においては、本発明の調節因子が、酵素遺伝子CYP85A1、CYP90C1およびCYP90D1をコードする遺伝子の発現を調節する因子であることが好ましい。本発明の調節因子が発現を調節する遺伝子は植物によって異なるため、これらに限定されない。
【0013】
本発明のプラスミドとは、プラスミドに組み込んだ遺伝子を増幅するために、大腸菌に形質転換するプラスミドと、組み込んだ遺伝子を発現するために、アグロバクテリウム(Agrobacterium) を通じて植物に形質転換するプラスミドのいずれも含まれる。形質転換する対象に応じて、公知のベクターを用いることができる。
【0014】
本発明の植物の形態を変化させる方法とは、上記で作製したプラスミドをエレクトロポレーション法、パーティクルガン法等の公知の方法によってRhizobium radiobactor(旧名称Agrobacterium tumefaciens) EHA101株等に導入した後、得られたR. radiobactorの形質転換体を花序浸し法等の公知の方法によって植物に取り込むことにより行うことができる。
【0015】
本発明の形態が変化した植物とは、上記のような方法で形質転換された植物が、本発明のブラシノステロイド生合成反応の調節因子の発現によって、ブラシノステロイド生合成反応を触媒する酵素遺伝子の転写を活性化または抑制することにより、該植物の形態が変化した植物のことをいう。
【0016】
本発明のタンパク質とは、植物から抽出、単離した天然のタンパク質であってもよく、また、そのアミノ酸配列や、それをコードする塩基配列に従って、公知の方法によって合成したものであってもよい。
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
シロイヌナズナBPR1cDNAのクローニング
培養土で栽培したシロイヌナズナのエコタイプColumbiaのロゼット葉からSV Total RNA Isolation System(プロメガ製)を用いてtotal RNAを抽出し、Superscript first-strand synthesis system for RT-PCR(インビトロジェン製)を用いてcDNAを得た。このcDNAを鋳型にして、At2g33990ox_U1(配列表配列番号3)およびAt2g33990ox_L1,(配列表配列番号4)のプライマーとKOD-plus(東洋紡製)を用いて94℃2分間の後、94℃15秒間次いで60℃30秒間さらに68℃1分間の保温を1サイクルとして10サイクルからなるPCR反応を行った。
【0018】
さらに、Gatewayテクノロジー(インビトロジェン製)を用いてクローニングするために、得られた反応物を鋳型にして、attB1(配列表配列番号5)およびattB2(配列表配列番号6)のプライマーとKOD-plusを用いて94℃2分間の後、94℃15秒間次いで55℃30秒間さらに68℃1分間の保温を1サイクルとして20サイクルからなるPCR反応を行い、attBアダプター配列を付加した。
【0019】
attBアダプター配列を付加したPCR産物をBPクロナーゼ(インビトロジェン製)によって、Gatewayテクノロジー対応のドナーベクターpDONR221(インビトロジェン製)にクローニングした。得られたプラスミド(pDONR221-AtBPR1とする)のインサート部分についてABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ製)を用いてDNAシーケンスを行った。得られた配列を配列表配列番号1に示した。また、この塩基配列から該当すると思われるアミノ酸配列を配列番号2に示した。
【実施例2】
【0020】
AtBPR1の大腸菌発現ベクターの構築
実施例1より調製したシロイヌナズナcDNAを鋳型にして、At2g33990pET21a_U1(配列表配列番号7)およびAt2g33990pET21a_L1(配列表配列番号8)のプライマーとTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ製)を用いて、94℃3分間の後、94℃30秒間次いで60℃30秒間さらに72℃1分間の保温を1サイクルとして25サイクルからなるPCR反応を行った。
反応物を電気泳動し、約0.9 kbの増幅断片を切り出し、GENECLEAN II Kit(キューバイオジーン製)を用いて精製した。そのcDNA断片はDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ製)を用いて、pGEM-T Easy Vector(プロメガ製)にクローニングした。得られたプラスミド(以下、pGEM-AtBPR1とする)のインサート部分についてABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを用いてDNAシーケンスを行い、配列が配列表配列番号1の塩基配列であることを確認した。
【0021】
pGEM-AtBPR1を制限酵素EcoRIで消化し、約0.9 kbの断片を切り出し、精製した。一方、大腸菌発現用ベクターpET21a(ノバジェン製)も制限酵素EcoRIで消化した。これらをDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ製)を用いてライゲーションし、AtBPR1の大腸菌発現ベクター(以下、pET21-AtBPR1とする)を得た。pET21-AtBPR1のインサート部分についてABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを用いてDNAシーケンスを行い、配列が配列表配列番号1の塩基配列であることを再度確認した。大腸菌Rosetta (DE3)株(ノバジェン製)をpET21-AtBPR1で形質転換した。
【実施例3】
【0022】
カルモジュリン結合アッセイ
1 mMのIPTGを添加した大腸菌Rosetta (DE3)株を28℃で4時間培養することでAtBPR1のT7融合タンパクを発現誘導した。培養終了後、遠心分離により集菌し、氷冷したリン酸緩衝液(pH7.3)で菌体を洗浄後、同緩衝液10mlに懸濁した。氷上において超音波処理により菌体を破砕した後、遠心分離し上清を回収し、0.45μmのメンブランフィルター(アドバンテック製)でろ過した。リン酸緩衝液で平衡化した100μlのカルモジュリンアガロースビーズ(シグマ製)と1mMのCaCl2または5mMのEGTAを添加した 500μlの粗タンパク質抽出液を混合し、4℃で一晩インキュベートした。
【0023】
遠心分離してカルモジュリンアガロースビーズを回収後、500μlのリン酸緩衝液で4回、最後に100μlで洗浄した。洗浄後のカルモジュリンアガロースビーズは50μlの4×SDSサンプル処理液(ノバジェン製)に懸濁し、100℃で3分間加熱して結合タンパクを溶出した。次にLaemmliの方法に従い、粗タンパク質抽出液、カルモジュリンアガロースビーズ未結合画分、最終洗浄画分、結合画分を、10%ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEによって分離した。
【0024】
電気泳動後、ポリアクリルアミドゲルからタンパク質を転写緩衝液(15.6 mM Tris, 120 mM glycine, 20% methanol, 0.1% SDS)中でセミドライ型の転写装置(バイオ・ラッド製)を用いて20 Vで30分間の条件でPVDF膜(バイオ・ラッド製)に転写した。転写後のPVDF膜をブロッティング溶液に浸し、室温で一晩振とうした。その後、TBST緩衝液で10000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識T7タグ抗体(T7・Tag AP Western Blot Kit, ノバジェン製)の溶液に浸して室温で30分間穏やかに振とうした。次いで転写膜をTBST溶液で2分間5回の洗浄後、アルカリホスファターゼの基質であるCDP-Starで処理し、化学発光検出した。その結果、図2に示すように、T7タグ融合タンパク質として大腸菌で発現させたAtBPR1はin vitroでカルシウムイオンの存在下でカルモジュリンと優先的に結合することがわかった。
【実施例4】
【0025】
AtBPR1の植物発現ベクターの構築
LRクロナーゼ(インビトロジェン製)を用いて、実施例1で作製したpDONR221-AtBPR1のAtBPR1 cDNA部位をデスティネーションベクターpGWB2に組み換えた。得られたAtBPR1植物発現ベクターをpGWB2-AtBPR1とした。
【実施例5】
【0026】
シロイヌナズナの形質転換
実施例4で作製したpGWB2-AtBPR1をRhizobium radiobactor(旧名称Agrobacterium tumefaciens)EHA101株にエレクトロポレーション法で導入した。形質転換R. radiobactor EHA101株はハイグロマイシン (100 mg/l)とカナマイシン (50 mg/l)を含むLB寒天培地で28℃2日間培養した。生じたコロニーをハイグロマイシン (100 mg/l)とカナマイシン (50 mg/l)を含むLB液体培地で28℃一晩の前培養をした後、28℃で一晩の本培養を行った。シロイヌナズナの形質転換は花序浸し法 (参考文献1参照) によって行った。得られたT1種子を表面殺菌し、ハイグロマイシン (40 mg/l)とカルベニシリン (400 mg/l)を含むMS培地に播種した。T2種子を回収し、ホモ個体を選抜した。
[参考文献1]
Clough, S.J. and Bent, A.F. (1998) Floral dip: a simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743.
【実施例6】
【0027】
AtBPR1遺伝子破壊変異体の単離
The Salk Institute Genome Analysis Laboratory (SIGnAL)のデータベース(http://signal.salk.edu/tabout.html)からAtBPR1遺伝子のプロモーター領域にT-DNAが挿入した個体を見出した。The Arabidopsis Biological Resource Center (ABRC)からSALK_041348ラインを取り寄せ、At2g33990RT_U3(配列表配列番号9)およびAt2g33990RT_L3(配列表配列番号10)のプライマーを用いたRT-PCRによってAtBPR1遺伝子の発現が抑制されていることを確認した。
【実施例7】
【0028】
AtBPR1過剰発現および破壊変異体の表現型解析
MS培地に野生型、GUS遺伝子発現植物体、実施例5で作製したAtBPR1過剰発現変異体、実施例6で単離したAtBPR1破壊変異体を播種した。発芽22日後の幼植物体を比較したところ、図3に示すように、AtBPR1の過剰発現変異体は葉柄が伸長し、葉身が縦方向へ伸長しており、対照的にAtBPR1の破壊変異体は葉柄が短縮し、葉身が縦方向に短縮していた。これは、非特許文献9に示されたCYP90C1(ROT3)変異体と類似した表現型であった。
【実施例8】
【0029】
ブラシノライド処理によるAtBPR1破壊変異の相補
野生型と実施例6で単離したAtBPR1破壊変異体を100 nMのブラシノライド(和光純薬工業製)および対照としてエタノールを添加したMS培地に播種した。図4に示すように、ブラシノライドの添加によって、AtBPR1破壊変異体で見られる発芽遅延が解消された。また、図5に示すように、AtBPR1破壊変異体で見られる葉身と葉柄の短縮はブラシノライドの添加で回復した。したがって、AtBPR1がブラシノステロイドの生合成に関わることが示唆された。
【実施例9】
【0030】
ブラシノステロイド生合成酵素遺伝子の発現解析
発芽22日後の野生型、GUS遺伝子発現植物体、実施例5で作製したAtBPR1過剰発現変異体、実施例6で単離したAtBPR1破壊変異体から実施例1と同様の方法でcDNAを調製した。RT-PCRにはDET2, CYP90B1(DWF4), CYP90A1(CPD), CYP72B1(BAS1)、CYP90C1 (ROT3)、CYP90D1、CYP85A1, CYP85A2の各ブラシノステロイド生合成酵素遺伝子について、次の配列表配列番号からなる特異的プライマーを使用した。
DET2のプライマー: DET2_U1(配列番号11)およびDET2_L1(配列番号12)
CYP90B1(DWF4)のプライマー: CYP90B1_U1(配列番号13)およびCYP90B1_L1(配列番号14)
CYP90A1(CPD)のプライマー:CYP90A1_U1(配列番号15)およびCYP90A1_L1(配列番号16)
CYP90C1(ROT3)のプライマー:CYP90C1_U1(配列番号17)およびCYP90C1_L1(配列番号18)
CYP90D1のプライマー:CYP90D1_U1(配列番号19)およびCYP90D1_L1(配列番号20)
CYP85A1のプライマー:CYP85A1_U1(配列番号21)およびCYP85A1_L1(配列番号22)
CYP85A2のプライマー:CYP85A2_U1(配列番号23)およびCYP85A2_L1(配列番号24)
CYP72B1(BAS1)のプライマー:CYP72B1_U1(配列番号25)およびCYP72B1_L1(配列番号26)
【0031】
TaKaRa Ex Taqを用いて、94℃3分間の後、94℃30秒間次いで55-62℃30秒間さらに72℃1分間の保温を1サイクルとしてPCR反応を行った。PCRサイクルは各々の遺伝子によって最適化した。内部標準として、コントロールのプライマーAtUBQ10_U1(配列表配列番号27)およびAtUBQ10_L1(配列表配列番号28)を使用した。その結果、図6に示すように、AtBPR1がブラシノステロイド生合成の後期反応に関わる酵素であるCYP90C1(ROT3)とCYP85A1およびCYP90C1と協調して機能するCYP90D1をコードする遺伝子の転写を制御していることが明らかとなった。
【実施例10】
【0032】
AtBPR1の器官別発現解析
シロイヌナズナのエコタイプColumbiaの花、長角果、茎、二次葉、ロゼット葉、根から実施例1と同様の方法でcDNAを調製した。このcDNAを鋳型にして、At2g33990RT_U1(配列表配列番号29)およびAt2g33990RT_L1(配列表配列番号30)のプライマーとTaKaRa Ex Taqを用いて94℃3分間の後、94℃30秒間次いで63℃30秒間さらに72℃1分間の保温を1サイクルとして28サイクルからなるPCR反応を行った。その結果、図7に示すように、AtBPR1は調べた全器官で発現していた。
【0033】
以上より、BPR1は、ブラシノステロイド生合成の後期反応を触媒する酵素(CYP90C1、CYP85A1)の遺伝子発現を特異的に制御するブラシノステロイド生合成の調節因子であることが示唆された。これを用いることにより、植物の形態形成において、例えば葉の形状を変えることが可能となる。
そして、本発明によって、BPR1以外の他のカルモジュリン結合蛋白質もブラシノステロイド生合成の調節に関与している可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の調節因子の発現を制御することにより、ブラシノステロイドの生合成能を増強した有用植物を効率的に得ることが可能となる。また、観賞用等の目的によって、葉の形や大きさを変えた植物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】シロイヌナズナのブラシノステロイド生合成経路を示した図である。
【図2】カルモジュリン結合アッセイの結果を示した図である(実施例3)。
【図3】AtBPR1過剰発現および破壊変異体の表現型解析の結果を示した図である(実施例4)。
【図4】ブラシノライド処理によるAtBPR1破壊変異の相補の結果を示した図である(実施例8)。
【図5】ブラシノライド処理によるAtBPR1破壊変異の相補の結果を示した図である(実施例8)。
【図6】ブラシノステロイド生合成酵素遺伝子の発現解析の結果を示した図である(実施例9)。
【図7】AtBPR1の器官別発現解析の結果を示した図である(実施例10)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
ポリヌクレオチドがブラシノステロイド生合成反応の調節因子をコードする遺伝子である請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
調節因子がブラシノステロイド生合成反応を触媒する酵素遺伝子の転写を活性化または抑制する調節因子である請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
酵素遺伝子がCYP85A1、CYP90C1およびCYP90D1である請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するプラスミド。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドにより形質転換された植物。
【請求項7】
形質転換によって、葉身、葉柄のいずれか1つ以上の形態が変化した請求項6に記載の植物。
【請求項8】
マメ科またはアブラナ科の植物である請求項6または7に記載の植物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチドにより植物を形質転換し、該ポリヌクレオチドの発現によって、ブラシノステロイド生合成反応を触媒する酵素遺伝子の転写を活性化または抑制することにより、該植物の形態を変化させる方法。
【請求項10】
(a)または(b)のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(a)配列表配列番号2のアミノ酸配列。
(b)ブラシノステロイド生合成反応の調節をするタンパク質のアミノ酸配列であって、配列表配列番号2のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−79570(P2008−79570A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266334(P2006−266334)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】