説明

ブラシレス三相交流発電機

【目的】 特別の励磁回路を設けたり外部からの励磁電流を必要とせず、単一の巻線と単一の極数で構成したブラシレス自励形発電機を得る。
【構成】 発電機1の固定子側2に三相の電機子巻線N,N,Nを設けこのうち一相の巻線Nの巻数を他の二相より少なくして、その一相の巻線Nに並列にコンデンサ12を設けてある。また回転子側3の界磁コア5にダイオード13を直列に接続した界磁巻線7を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自己励磁式三相発電機に関し、スリップリング等を介した外部からの励磁電流を必要とせず、また特別の励磁機や電圧調整装置を設けることなく負荷に対応可能としたブラシレス三相交流発電機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のブラシレス三相発電機の公知技術としては、特公平5年24742号公報や特公平5年31379号公報などがある。図3に示すこれらのものは、固定子15に4極三相の主発電巻線16と半導体素子17を直列に接続した2極単相の励磁巻線18とを巻回し、4極形状の界磁コア19を有する回転子20に上記励磁巻線18と磁気的に結合する界磁巻線21を巻回しかつ該界磁巻線21に半波整流作用を有する整流素子22を接続するように構成されている。
【0003】さらに第一の公知技術は、回転子20の4極形状の界磁コア19のうちの3極に整流素子22が接続された界磁巻線21を巻回して、S,N,SまたはN,S,Nの極順に磁化するように構成している。また第二の公知技術は、主発電巻線の出力電圧があらかじめ定めた値を超えたとき発光する発光素子を主発電巻線が備え、回転子の界磁巻線のうちの一つに接続された整流素子と並列に接続された受光サイリスタを備えた構成となっている。
【0004】これらのものは、励磁巻線に励磁電流を供給するための直流電流と1極分の界磁巻線を不要とし、負荷変動に伴う出力電圧の変動を抑制する自動電圧調整を備えたことを特徴とし、あるいは進相負荷時における出力電圧調整を有効に機能させることを特徴としたものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】これらは前記第一の公知技術のように、固定子側に主発電巻線とこれとは別に励磁巻線を設ける必要があった。このように2種の巻線を設けることは固定子のスロットの形状や大きさを複雑とし大型化するものであり,簡素な構成とすることは不可能で、一般的には効率の低下を招くものである。また、直流電源と界磁巻線の一部を省略したものの、高速で回転する界磁側のアンバランスは避けられないというだけでなく、4極突極形回転子のうち3極だけに整流素子が接続された界磁巻線を巻回してあるために、巻線のない界磁極による起電力が異なり主発電巻線の出力波形に悪影響を及ぼす結果となっていた。
【0006】また、第二の公知技術にあるように、主発電巻線に発光素子と界磁巻線に整流素子と並列に受光サイリスタを設けて自動の電圧調整作用を備えた構成となっているが、進相負荷による電圧上昇で受光サイリスタが作用し、受光サイリスタの作用によって一部の界磁巻線が導通状態で短絡されたことになり、電圧上昇すると界磁極の一部が欠けた状態での発電作用となり、前記と同様出力波形に悪影響を及ぼすことは避けられないという課題があった。
【0007】また、素子の信頼性にも関するが、受光サイリスタは高速で回転する界磁側つまり回転子に設けてあるので、この受光サイリスタのメンテナンスには発電機の分解を要することになる。受光である以上この作業は定期的な必須作業であり、発電機の性能向上とは逆にメンテナンスをめんどうにする要因となっていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は前記課題を解決するために、固定子コアに三相の電機子巻線を設けそのうち一相の電機子巻線の巻数を他の二相より少なくすると共に該少なくした一相の電機子巻線に並列にコンデンサを接続した固定子と、前記固定子コアと同心的に界磁コアを設け該界磁コアに整流素子を直列に接続した界磁導体を設けて前記固定子と同数の磁極を生じるようにした回転子とからなるブラシレス三相交流発電機とした。
【0009】また、前記界磁コアを、固定子と同極数の突極に形成すると共に整流素子を介して界磁巻線を直列に巻装してN極とS極が交互に生じるよう半波整流回路に構成した。あるいは、前記界磁コアを円筒形に形成すると共に整流素子を介して界磁巻線を直列に巻装し固定子と同数の磁極がN極とS極と交互に生じるよう半波整流回路に構成した。
【0010】
【作用】本発明のブラシレス三相交流発電機は、固定子コアに設けた三相の電機子巻線のうち一相の電機子巻線の巻数を他の二相より少なくし、この電機子巻線に並列にコンデンサを設けた固定子と、界磁コアに整流素子を直列に接続した界磁導体を設けて固定子と同数の磁極を生じるようにした回転子と、から構成している。
【0011】このように構成したブラシレス三相交流発電機は、界磁コアの回転軸を原動機で回転駆動させる。まず無負荷の状態で原動機を回転させると、界磁コアの残留磁気により固定子の電機子巻線のそれぞれに電圧を誘起する。このとき電機子巻線の一相に並列に設けたコンデンサに流れる電流は、コンデンサを接続した電機子巻線の誘起電圧に比例し、更にコンデンサの充電電流は、当該一相の電機子巻線に交番磁界を発生することになる。この交番磁界は正相と逆相の回転磁界に分解できるが、このうち逆相の回転磁界は界磁コアの界磁巻線と鎖交して界磁巻線に電圧を誘起するようになる。その誘起した電圧によって界磁巻線には整流素子を通じて整流電流が流れ、その直流分によって界磁コアにN,S,N,Sの磁極を形成する。界磁コアに形成されたこの磁極は原動機によって回転しているので、電機子巻線と鎖交して、電機子巻線の誘起電圧は更に増大される。
【0012】また電機子巻線の巻数が少ない一相の端子電圧を見ると、この電機子巻線に誘起する電圧のほかに、巻線の内部リアクタンスとコンデンサの充電電流とによる電圧を発生しており、この電圧は、電機子巻線の巻数が少ないことによる他相の巻線の誘起電圧との差を補償するものとなっている。つまり一相だけ巻数が少なくても電機子巻線の出力の三相平衡は十分確保できることになる。
【0013】次に負荷電流が流れたときの各相の電機子巻線の作る磁界を見る。この巻線の巻数が少ない一相の作る磁束は、他の二相の作る磁束から巻数が少ない分だけ減少し、コンデンサの充電電流分による磁束との合計となっている。ここで前記負荷電流が遅れ電流であったとすると逆相分回転磁界が増加し、逆に進み電流であったとすると逆相分回転磁界が減少し、また力率100%の負荷電流に対してはその電流値が大きくなると逆相回転磁界が増大することが本発明の大きな利点となっている。この結果界磁巻線の誘起電圧が変化して整流電流が変化し界磁極の強さが変化して、最終的に電機子巻線の誘起電圧を変化させて、負荷電流の力率の変化および負荷電流の大きさの変化による電圧効果の変動を補償するものである。
【0014】ところで本発明にかかる界磁コアの形状もしくは回転子の形状は、突極形でも円筒形でも実現可能である。特に円筒形においては、突極形に比べ出力電圧波形にひずみがなく、界磁の自励効果も強い。また構造的に円筒形であることから高速回転に適するものとなる。
【0015】
【実施例】本発明による好適な実施例を図1により説明する。図1に本発明のブラシレス三相交流発電機の原理を、固定子側2と回転子側3とに分けて示している。まず固定子側2は、三相4極の電機子巻線N,N,Nを固定子コア4に設けてあり、このうち電機子巻線Nは他の電機子巻線N,Nの巻数Nより少ない巻数(N−N)としてある。またこの電機子巻線Nには並列にコンデンサ12を接続してある。これら三相の電機子巻線の出力端子に負荷が接続される。一方回転子側3は、固定子側2の三相電機子巻線(N,N,N)と同極数の突極形の界磁コア5に形成してあり、各突極6A〜6Dには整流素子としてのダイオード13を直列に接続した界磁巻線7を装着してある。この時の巻装は、ダイオード13による整粒電流の直流分により突極6A〜6Dに形成される磁極がN極とS極とが交互に表れるように界磁巻線を巻装するものである。つまり電機子巻線による極数に対応するようにしてある。またこの回転子側3はその回転軸8を原動機9によって回転駆動して発電させるようにしてある。
【0016】本実施例における構成は、三相4極の形態で説明しているがこれによって他の極数での実施を限定するものではない。また整流素子として単にダイオード13としてあるが、ダイオードにも多種あり、これに限定されるものではなく整流素子として作用するものは使用の可能性がある。更に突極形界磁コア5の磁極6A〜6Dの形状も、出力電圧波形を正弦波に近付けるために円弧状にすることなども実施し得るものである。電機子巻線Nは他の電機子巻線N,NとはN分だけ巻数を少なくしてある。前記した電機子巻線の出力端子A,B,Cは負荷に接続される。
【0017】また、実施例では各突極に巻装する界磁巻線をすべて直列接続したが、公知例のように各突極ごとにダイオードと界磁巻線とを設けても実施可能である。
【0018】以上の構成における作用を以下に説明する。まず無負荷の状態で原動機9によって回転子側3を回転駆動すると、界磁コア5の残留磁気により固定子側2の電機子巻線に電圧E,E,Eの電圧を誘起する。この電圧について電機子巻線の1ターン当たりの誘起電圧をeとすると前記各電圧E,E,Eは次のようになる。
【0019】E=(N−N)eE=aNeE=aNe (ただし a=εj2π/3またA相電機子巻線Nに並列に接続したコンデンサ12に流れる電流iは電圧Eに比例するものである。このコンデンサ12の充電電流はA相電機子巻線Nに磁束Φを発生させるようになる。つまりΦ=k(N−N)iで現され、これは交番磁界であることから次のような2つの回転磁界に分解することができる。
【0020】ΦCOSωt=(Φ/2)εjωt+(Φ/2)ε−jωtここで(Φ/2)ε−jωtは回転子側3の回転方向とは逆回転の逆相回転磁界であるから、界磁コア5の界磁巻線7と鎖交して電圧を誘起する。これによって界磁巻線7のダイオード13を通じて整流電流が流れ、その直流分によって界磁コア5にN,S,N,Sの磁極を形成するようになる。この磁極は電動機9によって回転駆動されているので電機子巻線の誘起電圧E,E,Eは増大する。
【0021】ここでA相電機子巻線Nの端子電圧Vを考察すると、A相電機子巻線Nの内部リアクタンスXにコンデンサ12の充電電流が流れるので端子電圧Vは次のように表すことができる。
【0022】
=E−jXji=E+Xつまり端子電圧Vは電機子巻線Nに誘起する電圧EよりXだけ大きくなっている。したがって各端子電圧V,V,Vは、V=E+X=(N−N)e+X=aNeV=aNeとなり、A相の電機子巻線Nの巻数が他相よりNだけ少ないことによる誘起電圧の差を補償する形となっており、電機子巻線の巻数が他相より少なくても全体として三相平衡の出力電圧となる。
【0023】次に負荷電流I,I,Iが流れたときの各相の電機子巻線の作る磁界を見ると、誘起電圧Eを基準とした三相平衡電流はI,a,aIとなり、Φ=k(N−N)(ji+I)=kNI+k(N−N)ji−kNΦ=kNaΦ=kNaIと表す。ここで各相の第1項はkNI、kNa、kNaIであり、三相の正相回転磁界となっている。またA相のΦの第一項を除く項の値をΦ´とするとΦ´=k(N−N)ji−kNaIである。
【0024】負荷にも様々あるが、負荷電流が遅れ電流であった場合を考察すると、I=−jIとなるのでΦ´=k(N−N)ji+kNjIこの式の第2項から、遅れ電流Iが増大するとΦ´が増大する作用のあることが明かで、このΦ´はA相のみに存在しB,C相には無いことから交番磁界であり、前記作用と同様に交番磁界の逆相分回転磁界は遅れ電流Iに比例して増大することになる。その結果、磁界コア5の界磁巻線7の誘起電圧が大きくなり、ダイオード13による整流電流が増大し、界磁極が強くなって電機子巻線の誘起電圧E,E,Eを増大させることになる。
【0025】以上のことから、本発明の発電機1においてはブラシレスであるだけでなく、また特別の電圧調整装置や別の励磁巻線を設けることなく、負荷電流の遅相分による電圧降下を補償する作用を有するものである。また負荷電流の力率のいかんにかかわらず発電機の出力が増大することにより発生する電圧降下をも補償する能力を有するもので、本発明によって簡便な構成による確実な電圧調整作用を有する発電機を提供することができた。
【0026】次に本発明の第2の実施例を図2により説明する。この実施例においては電機子巻線のある固定子側2の説明は重複するので図面共に省略し、回転子側3のみを図示しその詳細を説明する。この図2に示すものは円筒形の界磁コア10であり、固定子側2の三相電機子巻線と同極数となるよう、整流素子としてのダイオード13を直列に接続した界磁巻線11を巻装してある。このとき円筒形の界磁コア10に形成される磁極がN極とS極とが交互に表われるように巻装する。またこの回転子側3は第1の実施例と同じく原動機(図示せず)によって回転駆動して発電するようにしてある。ここでの界磁巻線11の巻装の形態は、電機子巻線と極数が一致しておればよく、三相巻線にする必要がないので同筒形の界磁コア10として形成しても非常に構造が単純である。
【0027】以上の構成における作用は前記した第2の実施例と全く同じ作用となる。ただし同筒形にしたことによる特長は、突極形に比べて出力電圧波形にひずみがなくより正弦波に近くなり、界磁自励効果も強く構造的に高速回転に適しており、高い周波数の発電も可能であるなど、ブラシレス三相交流発電機においては同筒形界磁に形成する方が、簡単に構造的にも特性的にも優れた発電機とすることができる。
【0028】
【発明の効果】以上のように本発明によると、発電機の電機子側と界磁側も導体の磁極数は同極性でよく従来のように異極数の別の励磁巻線を設けることもなく、電機子と界磁ともに単一の巻線導体を設けることで、スロットの形状大きさ等を均一にすることができ単純化されるのでトータルとしてコストの低減を可能とし効率を向上させることができた。
【0029】また本発明では負荷電流の遅相分による電圧降下を補償する作用があり、また負荷力率のいかんにかかわらず発電機の出力が増大することによる電圧降下の補償能力を有し、電圧調整作用を備えるものである。これによって従来のように特別にセンサーを高速で回転する界磁側に設けることもなく、これらのすべてのセンサー・スイッチ類を不要とした電圧調整作用を有するブラシレス発電機とすることができた。またこのことによりブラシレスであるだけでなく、機械的な部分を除いて電気的にはメンテナンスフリーとすることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の突極形界磁によるブラシレス三相発電機の構成図。
【図2】本発明の円筒形界磁によるブラシレス三相発電機の回転子側の構成図。
【図3】従来のブラシレス三相発電機の構成図
【符号の説明】
1 ブラシレス三相交流発電機
2 固定子側
3 回転子側
4 固定子コア
5 突極形の界磁コア
6 突極
7 界磁巻線
8 回転軸
9 原動機
10 円筒形の界磁コア
11 界磁巻線
12 コンデンサ
13 ダイオード
15 固定子
16 主発電巻線
17 半導体素子
18 励磁巻線
19 界磁コア
20 回転子
21 界磁巻線
22 整流素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定子コアに三相の電機子巻線を設けそのうち一相の電機子巻線の巻数を他の二相より少なくすると共に該少なくした一相の電機子巻線に並列にコンデンサを接続した固定子と、前記固定子コアと同心的に界磁コアを設け該界磁コアに整流素子を直列に接続した界磁導体を設けて前記固定子と同数の磁極を生じるようにした回転子とからなることを特徴とするブラシレス三相交流発電機。
【請求項2】 請求項1記載のブラシレス三相交流発電機であって、前記界磁コアを、固定子と同極数の突極に形成すると共に該突極に整流素子を直列に接続した界磁巻線を巻装してN極とS極が交互に生じるよう半波整流回路に構成したことを特徴とするブラシレス三相交流発電機。
【請求項3】 請求項1記載のブラシレス三相交流発電機であって、前記界磁コアを、円筒形に形成すると共に整流素子を直列に接続した界磁巻線を巻装し固定子と同数の磁極がN極とS極と交互に生じるよう半波整流回路に構成したことを特徴とするブラシレス三相交流発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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