説明

ブラシ用毛材、その製造方法およびブラシ

【課題】使用感と塗布性能を兼備したブラシ用毛材およびこの毛材を使用したブラシの提供。
【解決手段】合成樹脂モノフィラメントからなるブリッスルの少なくとも一端にテーパー部を形成したブラシ用毛材であって、前記テーパー部の繊維軸方向に垂直な断面形状が異形断面、テーパー部以外の本体部の断面形状が非異形断面であるブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のブラシ用毛材およびこの毛材を用いたブラシに関するものであり、さらに詳しくは、特に化粧ブラシに用いた場合に従来の合成樹脂製毛材に比べて高い塗布性能を有し、肌への感触が優れたブラシ用毛材およびブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛筆、画筆などの筆具およびアイライナー、フェイスブラシなどの化粧ブラシには、従来から獣毛が多用されてきたが、近年獣毛の調達が困難になるに伴い、ポリアミド6・10(以下、N610と記す)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記す)などの合成樹脂製の毛材が用いられつつある。
【0003】
特に、その毛先をテーパー形状とした合成樹脂製毛材は、毛筆や画筆においては穂先がまとまりやすくなるとともに塗布性能の向上が得られ、さらに化粧ブラシにおいては塗布性能の向上や良好な触感が得られることから、これらの用途に使用されることが主流となりつつある。
【0004】
しかし、上記の合成樹脂製毛材、特に化粧ブラシにおいては、化粧料の含み量が獣毛より少ないために連続使用ができず、頻繁な補充が必要であった。
【0005】
このような問題を改善して合成樹脂製毛材に獣毛に近い特性を与えるための技術としては、断面に凹凸を持たせた毛材(例えば、特許文献1参照)が既に提案されている。しかし、この毛材は、その表面凹凸により使用感が損なわれることから、獣毛に匹敵する性能を有するとはいえないものであった。
【特許文献1】特許1545642号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、使用感を維持しつつ高い塗布性能も併せ持った、獣毛に匹敵する性能を有するブラシ用毛材およびこれを用いたブラシ、特に化粧用ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントからなるブリッスルの少なくとも一端にテーパー部を形成したブラシ用毛材であって、前記テーパー部の繊維軸方向に垂直な断面形状が円形断面、テーパー部以外の本体部の断面形状が異形断面であることを特徴とするブラシ用毛材が提供される。
【0009】
また、上記の構成からなる本発明のブラシ用毛材の製造方法は、芯部が薬液溶解速度の遅い合成樹脂を用いた円形断面、鞘部が前記芯部の合成樹脂よりも薬液溶解速度が速い合成樹脂を用いた異形断面となるように溶融紡糸した芯鞘構造複合モノフィラメントをカットブリッスルとし、このカットブリッスル束の少なくとも一端に、薬液処理によってテーパー部を形成することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のブラシは、上記のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、特に化粧用ブラシとした場合にその効果を好ましく発揮する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用感を維持しつつ高い塗布性能も併せ持った、獣毛に匹敵する性能を有するブラシ用毛材およびこれを用いたブラシを得ることができ、これらを特に化粧用に用いた場合には、従来の合成樹脂製毛材に比べて高い塗布性能を有し、肌への感触が優れたブラシ用毛材およびブラシが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のブラシ用毛材について、図面に従って具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明のブラシ用毛材の一例を示す側面図、図2(a)は図1のA−A断面図、図2(b)は同じくB−B断面図、図3(c)〜(e)は本発明で使用し得る他の芯鞘構造複合モノフィラメントの例を示す断面図である。
【0014】
図1に示したように、本発明のブラシ用毛材1は、合成樹脂モノフィラメントのブリッスル1からなり、このブリッスル本体2(以下、本体部2と呼ぶ)の少なくとも一端にテーパー部3が形成されている。
【0015】
そして、図2に示したように、テーパー部3の繊維軸方向に垂直な断面形状が円形断面、本体部2の断面形状が異形断面(図面では多葉断面)に構成されている。
【0016】
かかる構成とするためには、上記ブリッスル1を構成する合成樹脂モノフィラメントを、芯部4と鞘部5とからなる芯鞘複合構造となし、芯部4の繊維軸方向に垂直な断面形状を円形断面、鞘部5の断面形状を異形断面(図面では多葉断面)とすることが重要である。
【0017】
したがって、テーパー部3はほぼ芯部4から構成されているため、その断面形状は上記芯部と同様な円形断面であり、本体部2の断面形状は異形断面となっている。
【0018】
すなわち、テーパー部3が円形断面であるため、例えばこれを化粧ブラシに用いた場合には肌への触感に優れ穂先もまとまり易いものとなり、同時に、テーパー部分以外の本体部2が異形断面であるため、化粧料の付着量が増し塗布持続性に優れたものとなる。
【0019】
本発明のブラシ用毛材においては、芯部と鞘部の素材選定が重要であり、芯部には後述の化学的薬液処理に用いる薬液に対して溶解速度の遅い合成樹脂、鞘部には前記芯部の合成樹脂よりも薬液溶解速度が速い合成樹脂を用いる。
【0020】
具体的な組み合わせとしては、化学的薬液処理に用いられる薬液が水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ性薬液である場合は、芯部/鞘部の組合せとして、ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと称す)/ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称す)、PBT/ポリエステルエラストマー、PBT/ポリプロピレンテレフタレート(以下PTTと称す)、PBT/ポリエチレンナフタレート、PET/ポリエステルエラストマーなど、また、化学的薬液処理に用いられる薬液が塩酸などの酸性薬液である場合は、ポリアミド6・10/ポリアミドエラストマー、ポリアミド6/ポリアミドエラストマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、適宜選定することができる。
【0021】
なお、上記の合成樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その目的に応じて、各種無機粒子、各種金属粒子および架橋高分子粒子などの粒子類のほか、公知の抗酸化剤、耐光剤、耐侯剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐電防止剤、各種着色剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤および各種強化繊維類などを適宜任意に添加せしめることもできる。
【0022】
本発明のブラシ用毛材は何ら特殊な方法を用いて製造する必要はない。上述の芯鞘構造複合モノフィラメントは、公知の複合溶融紡糸法で製造可能であり、選定された2種の原料を複合押出機から溶融吐出させ、冷却の後延伸、熱セットを加えることで得られる。また、テーパー部は、このモノフィラメントを集束して所定長さに切断することによりカットブリッスルの束とし、この少なくとも一端に公知の化学的薬液処理を加えることで形成させることができる。
【0023】
この化学的薬液処理において、薬液に浸漬されたカットブリッスルの端部は、まず溶解速度の速い鞘部5が溶解して円形断面の芯部4だけが残り、続いて溶解速度の遅い芯部4が除々に溶解するため円形断面を維持しながらテーパー状となる。
【0024】
図1および図2は上記の方法で得られるブラシ用毛材の一例であり、この場合は芯部4からなるテーパー部3の断面形状が円形、鞘部5の当初の形状を維持した本体部2の断面形状が八葉形となっている。
【0025】
図3(c)〜(e)は、本発明で使用し得る他の芯鞘構造複合モノフィラメントの例を示すものであり、(c)は本体部4の断面形状が四角形、(d)は同じく三角形、(e)は同じく鈴形を示しているが、三角形、四角形などが挙げられるが、清掃性を向上し得る異形断面形状であれば任意であり、これらに制限されるものではない。
【0026】
さらに、本発明の毛材においては、その繊維軸方向に波形状を加えることは任意に可能であり、これによって化粧ブラシにおける化粧料の付着量をさらに増し、また、毛束の膨らみが増すことでより柔らかな触感を得ることも可能である。
【0027】
こうして得られたブラシ用毛材は、ブラシとして主体的に機能するテーパー部が円形断面であるため、化粧ブラシにおいては触感や穂先のまとまりに優れ、さらには、非テーパー部が異形断面であるため化粧料の付着量が増し、その結果、優れた塗布持続性を得ることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明のブラシ用毛材はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〕
芯部用原料としてPBT樹脂(東レ(株)製、トレコン1200S)、鞘部用原料としてPET樹脂(東レ(株)製、東レポリエステル樹脂 T301T)を使用し、複合溶融紡糸法により、鞘部が八葉形で外径が0.10mm、芯部の断面形状が円形の複合構造モノフィラメントを作成し、これを束ねて50mmの長さに切断した後、水酸化ナトリウム溶液による化学的薬液処理を加え、片端がテーパー状で、テーパー部の断面が円形、非テーパー部が八葉形のブラシ用毛材を得た。
【0030】
得られた毛材を軸に植毛し、毛束径5mm、最大毛丈20mmのアイライナーを得た。
【0031】
〔実施例2〕
鞘部用原料としてポリエステル系エラストマー樹脂(東レ・デュポン(株)製、ハイトレル7247)を使用した以外は実施例1と同様とし、アイライナーを得た。
【0032】
〔実施例3〕
鞘部の断面形状を四角形とした以外は実施例1と同様とし、アイライナーを得た。
【0033】
〔比較例1〕
PBT樹脂(東レ(株)製、トレコン1200S)のみを用いて、外径0.10mmの円形断面のモノフィラメントを作成し、これに実施例1と同じ化学的溶解処理を加え、テーパー部、非テーパー部ともに円形断面のアイライナーを得た。
【0034】
〔比較例2〕
モノフィラメントの芯部形状を、実施例1の鞘部と同一の八葉形とした以外は比較例1と同じとすることで、テーパー部、非テーパー部ともに八葉形断面のアイライナーを得た。
【0035】
なお、各筆用毛材を使用したブラシの評価方法は次の通り行った。
【0036】
[塗布性能評価]
液体化粧料(資生堂:ff プラネタリウムアイズ パールブルー)を含ませたアイライナーブラシで紙上に連続線を描き、均一に描線できた長さを測定した。評価基準は以下の通りとした。
A・・30cm〜35cm
B・・25cm〜30cm
C・・20cm〜25cm
【0037】
[使用感評価]
塗布性能評価と同じ液状化粧料を用い、使用者20人に肌触りについてモニタリングした。評価基準は以下の通りとした。
1・・柔軟であり獣毛に匹敵する触感
2・・特に良い触感ではないが実用上問題なし
3・・肌への刺激が感じられ、悪い触感
【0038】
以上の評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の結果から明らかなように、毛材がPBT樹脂からなり全体が八葉形断面である比較例2は、全体が円形断面である比較例1に比べ、塗布性能は高いものの、その表面凹凸のため使用感が劣ることが判る。
【0041】
これに対し、本体部が八葉形断面でテーパー部が円形断面である実施例1および2は、塗布性能は比較例2と同様でありながら使用感に優れ、比較例1に匹敵していることがわかる。これは、本体部が四角形断面である実施例3の場合でも同様である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のブラシ用毛材は、優れた塗布性能と使用感とを兼ね備えたものであり、種々のブラシ用途に適用できるが、特に化粧ラシ用途に適用した場合に有用な効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のブラシ用毛材の一例を示す側面図。
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は同じくB−B断面図。
【図3】(c)〜(e)は本発明で使用し得る他の芯鞘構造複合モノフィラメントの例を示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 ブリッスル
2 本体部
3 テーパー部
4 芯部
5 鞘部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂モノフィラメントからなるブリッスルの少なくとも一端にテーパー部を形成したブラシ用毛材であって、前記テーパー部の繊維軸方向に垂直な断面形状が円形断面、テーパー部以外の本体部の断面形状が異形断面であることを特徴とするブラシ用毛材。
【請求項2】
前記テーパー部以外の本体部の断面形状が多葉形であることを特徴とする請求項1に記載のブラシ用毛材。
【請求項3】
芯部が薬液溶解速度の遅い合成樹脂を用いた異形断面、鞘部が前記芯部の合成樹脂よりも薬液溶解速度が速い合成樹脂を用いた非異形断面となるように溶融紡糸した芯鞘構造複合モノフィラメントをカットブリッスルとし、このカットブリッスル束の少なくとも一端に、薬液処理によってテーパー部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のブラシ用毛材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とするブラシ。
【請求項5】
化粧ブラシであることを特徴とする請求項4に記載のブラシ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−201794(P2009−201794A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48059(P2008−48059)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】