説明

ブラスト加工装置、ブラスト加工方法および水晶振動子

【課題】制御および粉塵対策が容易なブラスト加工装置、ブラスト加工方法および水晶振動子を提供する。
【解決手段】研磨材を含んだ研磨液を直接に加圧して棒状の研磨液を高圧で噴射する噴射装置10と、噴射装置10とメッシュ部材20との間に設けられて水平方向に楕円運動するメッシュ部材20とを備えている。メッシュ部材20に棒状の研磨液を噴射することで、研磨液が破砕され、空気が取り込まれることで、研磨液に研磨力が発生し、メッシュ部材20通過後の研磨液が水晶素板2に吹き付けられる。これにより、水晶素板2に、面対称性を有する加工面を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高周波用の水晶振動子を製造する際に用いることができるブラスト加工装置、ブラスト加工方法および水晶振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からATカット水晶板の厚み滑り振動を利用した水晶振動子が通信機器、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器において基準周波数素子として用いられている。これらの電子機器の高性能化、高速化に伴い、高い周波数で振動を行う水晶振動子が求められている。
【0003】
一般に、厚み滑り振動を利用した水晶振動子は平板形状であり、その共振周波数はその厚さに反比例するために、共振周波数を大きくするためには、水晶振動子を薄層化する必要がある。
【0004】
水晶振動子を薄層化する収益性のある技術としては、ケミカルエッチング法の1種類が確立されているのが現状である(例えば、特許文献1参照)。ケミカルエッチング法とは、所定形状にマスクを施した水晶素板を沸酸又は沸化アンモニウム溶液中に浸漬して、マスク以外の部分の水晶素板を溶解し、所定膜厚、所定形状の水晶振動子を得る方法である。
【特許文献1】特開2003−332868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のようなケミカルエッチング法では、沸酸などを大量に使用することに伴う問題、例えば、劇薬を高温、高圧環境下で使用することに伴う作業者の安全管理コストの発生や、使用済の沸酸の廃液処理や、エッチング処理時のガスの発生の問題が発生するため、機械的加工法による要望が高まってきている。この機械的加工法としては、図10に示すウエットブラスト法によるブラスト加工装置によるものを挙げることができる。
【0006】
図10に示すブラスト加工装置100は、研磨剤を含んだ研磨液を水晶素板(被加工物)101に向けて噴射して加工するための噴射装置102を備えている。この噴射装置102は、研磨液を噴射する噴射ノズル102aと、研磨液を導入するための研磨液導入管102bと、加圧空気を導入するための加圧空気導入管102cとを有し、加工中心軸Mを、水晶素板101に対して水平方向に回運動するように構成されている。
【0007】
しかしながら、図10に示すブラスト加工装置100では、ミスト状にした研磨液を加圧空気によって加速、加圧して被加工物(水晶素板)にぶつけて研磨するため、非常に高圧の空気の流れに均一、定量化したミスト状の研磨液を供給するのは極めて制御難易度が高くなるという問題がある。さらに、ブラスト加工装置100では、加圧空気を利用して研磨液を噴射させるものであるため、研磨材の飛散が激しく、大掛かりな粉塵対策が必要になるという問題もある。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するものであり、制御および粉塵対策が容易なブラスト加工装置、ブラスト加工方法および水晶振動子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被加工物に研磨材を含んだ研磨液を噴射して加工するブラスト加工装置であって、前記研磨液を直接に加圧して、前記研磨液を高圧で噴射する噴射装置と、前記噴射装置と前記被加工物との間に設けられ、噴射された前記研磨液を通過させるメッシュ部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のブラスト加工装置によれば、研磨液を直接に加圧して1流体で制御しているので、従来のような加圧空気で研磨液を加圧するウエットブラスト法による2流体制御と比べて制御が容易になる。さらに、メッシュ部材に研磨液を噴射して研磨力を発生させているので、被加工物に噴射される研磨液の粒子をウエットブラスト法による研磨液の粒子よりも大きくでき、また、被加工物に反射した研磨液がメッシュ部材によって跳ね返されるので、ウエットブラスト法と比べて粉塵が発生し難くなる。このように粉塵の低減により、大掛かりな粉塵対策が不要となり、簡易的な防御(覆い)のみで対応することが可能になる。
【0011】
また、前記噴射装置は、前記研磨液を棒状に噴射するように構成してもよい。これによれば、円対称性を有する加工面を得ることができ、例えば円形の水晶振動子に用いられる水晶素板の加工に好適に用いることができるようになる。
【0012】
また、前記噴射装置は、前記研磨液を面状に噴射するように構成してもよい。これによれば、面対称性を有する加工面を得ることができ、例えば角型の水晶振動子に用いられる水晶素板の加工に好適に用いることができるようになる。
【0013】
また、前記メッシュ部材を、前記研磨液の噴射方向と直交する方向へ円運動または楕円運動させる構成にしてもよい。これによれば、メッシュ部材のメッシュ糸の影響を無くして、平坦で均一な加工面を得ることができる。
【0014】
また、前記被加工物と前記メッシュ部材との距離は、前記メッシュ部材の開口部による加工面積と、前記開口部に隣接する開口部による加工面積とが一部で重なる長さに設定される構成にしてもよい。これによれば、メッシュ部材のメッシュ糸の痕跡(影響)を無くすことができる。
【0015】
また、前記被加工物の表面が所定形状のマスクで覆われ、さらに前記マスクと前記メッシュ部材との間に絞りマスクが設けられている構成にしてもよい。これによれば、絞りマスクの外縁部に対応する被加工物の面と、絞りマスクの中心部に対応する被加工物の面の研磨力を上げることができる。
【0016】
また、本発明は、被加工物に研磨材を含んだ研磨液を噴射して加工するブラスト加工方法であって、前記研磨液を直接に加圧して、水平方向に円運動または楕円運動するメッシュ部材に対して、前記研磨液を棒状または面状に高圧で噴射して、前記メッシュ部材を通過後の研磨液で前記被加工物を加工することを特徴とする。本発明のブラスト加工方法によれば、前記と同様に、制御が容易になるとともに粉塵が発生し難くなる。さらに、円対称性または面対称性を有する平坦で均一な加工面を得ることができる。
【0017】
本発明は、被加工物である水晶素板をブラスト加工方法によって加工して構成された水晶振動子であることを特徴とする。これによれば、水晶素板の片面のみを加工するだけで所望の性能の水晶振動子を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制御および粉塵対策が容易なブラスト加工装置およびブラスト加工方法を提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態のブラスト加工装置を示す斜視図、図2は第1実施形態のブラスト加工装置を側面視したときの概略図、図3はブラスト変換後の研磨液の動きを示す模式図、図4はメッシュ部材の各開口部の研磨液の加工面積を示す模式図、図5は水晶素板の加工後の状態を示し、(a)は平面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B断面図である。なお、以下では、被加工物として、水晶振動子や水晶フィルタを形成するための水晶素板を加工する場合を例に挙げて説明する。
【0020】
図1に示すように、第1実施形態のブラスト加工装置1Aは、水晶素板2に研磨液を噴射して水晶素板2を所定の形状に加工するものであり、噴射装置10、メッシュ部材20などを備えて構成されている。
【0021】
なお、ここで使用される研磨液は、研磨材(研磨砥粒)を水(水道水)などと混合させることにより得られ、その研磨材の種類としては、公知の種々の材料を用いることができ、例えば、炭化珪素を含む炭化珪素系、アルミナを含むアルミナ系、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄などを含む金属系を挙げることができる。また、研磨材の粒度(番手)については、被加工物の材質や形状などに応じて適宜選択することができる。例えば、被加工物として水晶素板2を加工して高周波水晶振動子を得る場合には、研磨材として、炭化珪素を用いることができ、その(研磨砥粒)の粒度は、JISR6001による#600〜#2000の番手のものを使用することが好ましい。なお、この番手は、数値が大きくなるにつれて平均粒径が小さくなる。番手が#600よりも小さいと研磨材の粒径が大きくなり過ぎ、研磨速度が大きくなり過ぎて、研磨領域の表面粗さが大きくなり過ぎる。研磨領域における表面粗さが小さい良好な水晶振動子を得ることができなくなる。また、番手が#2000より大きいと研磨材の粒径が小さくなり過ぎ、実用上許容できる研磨速度で研磨を行うことができなくなる。ただし、表面の仕上げには有効である。
【0022】
図1に示すように、前記水晶素板2は、例えば、人工水晶を、ランバード加工、ウエハー切断、厚み研磨、外形加工などの各工程を経て、円形の薄板状に形成したものである。この水晶素板2は、ブラスト加工装置1Aの直下に設置された支持台3上に載置され、位置決め部材4,4によって所定の位置に位置決めされた後、研削が必要な部分だけ切り欠かれた貫通孔5a(本実施形態では円形)を有するマスク5で覆われる。なお、貫通孔5aの直径は、水晶素板2の直径よりも小さく形成され、貫通孔5aの中心と、水晶素板2の中心とが一致するように配置されている。
【0023】
前記噴射装置10は、ステンレスなどの金属材料などで形成され、水晶素板2の鉛直方向真上に配置されている。噴射装置10は、研磨液が直接に加圧されて高圧で噴射されるように構成されており、研磨液を噴射するための噴射ノズル10a、研磨液を導入して噴射ノズル10aに送るための研磨液導入管10b、研磨液導入管10bに研磨液を送るためのポンプ12(図2参照)などで構成されている。なお、このポンプ12としては、耐研磨材摩耗処理された公知のスラリーポンプなどを適用することができる。
【0024】
前記噴射ノズル10aは、ステンレスなどの金属材料で形成され、水晶素板2に対向する下端に噴射口10a1を有している。前記研磨液導入管10bは、塩化ビニル、ナイロンなどの樹脂で形成され、ポンプ12と接続されて、このポンプ12の動力によって、研磨液が直接に加圧されて噴射ノズル10a内に導入されるようになっている。これにより、噴射ノズル10aの噴射口10a1からは、棒状(柱状)の研磨液が噴射されて、研磨液が棒状のままメッシュ部材20に当るようになっている。なお、研磨液を加圧する際の圧力は、水晶素板2の種類や形状などに応じて適宜変更することができる。
【0025】
なお、前記噴射口10a1では、噴射する際の研磨液によって、その外縁部に横向き(水平方向)の力が過度に作用するが、棒状の研磨液の直進性を高めることにより、それを回避することができる。研磨液の直進性を高める方法としては、噴射口10a1の厚み(絞っている距離)を増すこと、噴射口10a1に投入する研磨液導入管10bを極力垂直なものにすること、内部に整流板が圧入された専用ノズルを使用すること、などで対応することができる。
【0026】
また、前記噴射装置10は、噴射口10a1が下向きで鉛直方向に加工中心軸Mを有するように支持され、この加工中心軸Mが、マスク5から露出した水晶素板2の中心m1(図1参照)と一致するように設定されている。
【0027】
前記メッシュ部材20は、X−Y方向に複数本のメッシュ糸x1,y1を交差するように配列して多数の開口部20aが形成されたものであり、水晶素板2と噴射装置10との間に水平、つまり開口部20aが鉛直方向上下を向くような状態で設けられている。このメッシュ部材20のメッシュ糸x1,y1は、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)などの樹脂などから選択して使用することができる。なお、メッシュ部材20の目開き、糸径、メッシュなどは研磨液の圧力や被加工物の材質や形状などに応じて適宜選択することができる。なお、目開きとは、糸と糸の間の隙間の大きさであり、糸径とは、糸の太さであり、メッシュとは、1インチ当りの糸の本数である。
【0028】
また、前記メッシュ部材20は、水平方向(X−Y面方向)に楕円運動するように、図示しない駆動機構によって支持されている。なお、メッシュ糸x1,y1が、運動中に常時同じ位置になければ、楕円運動に限定されるものではなく、円運動であってもよく、あるいはランダム運動であってもよい。これは、メッシュ糸x1,y1が常時同じ位置にあると、メッシュ糸x1,y1のメッシュ痕が加工面に残ることによるものであり、メッシュ部材20を楕円運動などさせながら、水晶素板2の研削を行うことにより、水晶素板2の加工面にメッシュ痕が残るのを防止できる。
【0029】
また、前記メッシュ部材20は、水晶素板2と噴射装置10との間に配置されるが、このとき設定されるメッシュ部材20と水晶素板2との距離L1は、図3に示すように、メッシュ部材20の開口部20a1(20a)の加工範囲q1で、隣接する開口部20a2(20a)の加工範囲q2であるときに、加工範囲q1と加工範囲q2とが互いに重なるように設定される。これにより、メッシュ部材20のメッシュ糸x1,y1によるメッシュの痕跡を無くすことができる。また、距離L1は、メッシュ糸x1,y1の影響が水晶素板2の加工面に現れないように、メッシュ部材20の番数、目開き、糸径などのバランスによって決めることが好ましい。
【0030】
次に、第1実施形態のブラスト加工装置1Aの作用について説明する。なお、以下に示す説明では、メッシュ部材20を通過させる前の研磨液の状態を「水流」と定義し、メッシュ部材20を通過させて研磨液に研磨力を発生させる処理を「ブラスト変換」と定義する。
【0031】
まず、噴射装置10から研磨液を噴射する前に、メッシュ部材20を水平方向(X−Y方向)へ、図示しない駆動手段を作動させて高速で連続的に楕円運動(図1参照)させておく。そして、噴射装置10の噴射口10a1から、直接に加圧された研磨液を棒状の水流にした状態でメッシュ部材20に向けて噴射する。このとき、棒状の水流が、メッシュ部材20の面に垂直に当るようにする。
【0032】
そして、メッシュ部材20に当った棒状の水流がメッシュ部材20を通過すると、図2に示すように、メッシュ部材20の各開口部20aによって細かい液滴状に破砕されてミスト状となり、さらに空気が混入されることで、ブラスト効果が発揮される。このようにメッシュ部材20によって研磨液のブラスト変換が行われて、メッシュ部材20からブラスト効果を備えた液滴が飛び出して、水晶素板2に衝突することで水晶素板2が研削されるようになっている。
【0033】
ところで、従来のウエットブラスト法によるブラスト加工装置100(図10参照)では、加圧空気を利用して研磨液を噴射するものであるため、ブラスト加工装置を収容するためのキャビネット(ケース)が必要になるとともにキャビネット(加圧エリア)内が常に極端な陽圧になって、粉塵がキャビネットの外部に出ようとする。このため、キャビネット内のシール性などを高める必要があり、粉塵対策のために大掛かりな防御装置が必要になる。
【0034】
これに対して、本実施形態のブラスト加工装置1Aでは、ブラスト変換後(メッシュ部材20通過後)の液滴が、従来のウエットブラスト法における液滴の粒子よりも比較的大きく(荒い)、また、図4に示すように、水晶素板2に当たって反射した液滴や研磨材が、メッシュ部材20によって捕獲され、さらにメッシュ部材20によって再度水晶素板2へ跳ね返される。これらにより、キャビネット内部の粉塵(浮遊粒子や微粒研磨液)の存在を最小限に抑えることができる。さらに、研磨液を直接に加圧しているので、キャビネット内が陽圧になることがないので、シールなどの目張りや頑強な固定無しの状態で薄いビニール幕をぶらさげただけのような簡易な防御のみで粉塵対策が可能になる。
【0035】
また、本実施形態のブラスト加工装置1Aでは、メッシュ部材20のみを動かして、噴射装置10と水晶素板2の双方を固定することができるので、従来のウエットブラスト法に比べて相互干渉を引き起こし難くなり、水晶素板2の集積化処理が可能になる。つまり、本実施形態では、研磨液を直接に加圧しているので、その圧力は対象物(被加工物)にぶつかった時点で相当量減少するが、従来のようなウエットブラスト法による空気加圧の場合には、空気が軽いものであるため、若干減圧したとしても高圧状態のまま四方八方に広がる結果となり、被加工物間での相互干渉を引き起こす原因になる。なお、ここでの集積化処理とは、水晶素板2の研削を同時に行おうとした場合の1回の処理枚数とピッチ密度を意味している。さらに、メッシュ部材20のみを動かしながら研削加工できるので、ウエットブラスト法のように噴射装置もしくは被加工物を円運動させる機構を設ける必要がないので、メカシステムの構成が簡易なものとなる。
【0036】
また、本実施形態のブラスト加工装置1Aでは、図3に示すように、メッシュ部材20の開口部20aと、隣接する開口部20aのそれぞれの加工範囲q1,q2が一部において互いに重なるようにメッシュ部材20と水晶素板(被加工物)2との間の距離L1が設定されているので、水晶素板2の加工面に、メッシュ部材20のメッシュ糸x1,y1の痕跡を残すことなく平坦な加工面を形成することができるようになる。ただし、メッシュ糸x1,y1の痕跡を残さないくらいにメッシュ部材20を例えば高速でランダム運動させることができれば、距離L1については、前記のような条件(加工面積が重なること)に拘束されることはない。
【0037】
前記したブラスト加工装置1Aによる加工処理が終了すると、図5(a),(b),(c)に示すように、水晶素板2の中央部分の面に平面視したときの形状が円形で、凹状の加工面Q1が形成される。また、研削加工後の水晶素板2は、円対称性を有する加工面Q1、つまり、図5(b)および(c)に示すように、いずれの断面をとっても同じ断面形状の加工面Q1を得ることができる。
【0038】
なお、本実施形態では、図5(b),(c)に示すように、発振状態を向上させるために、加工面Q1の外周縁部を若干深く形成している。このように外周縁部だけ深く形成する手段は、マスク5の板厚を調整することで可能である。
【0039】
これに対して、従来の沸酸エッチング(ケミカルエッチング)法では、図9(a)に示すような円形の加工面Q10が得られたとしても、その断面は、図9(b)と図9(c)とに示すように、断面の位置によって断面形状が異なり、図9(c)において符号r10で示すように、加工面Q10の縁部に鋭角な部分が形成され、電極蒸着時に断線の原因となる。これは、ATカットと呼ばれるZ軸の傾きに起因するものである。しかし、本実施形態では、前記したように、円対称性を有し、かつ、なめらかな曲面に形成されるので、断線を防止できるようになる。
【0040】
このように、第1実施形態のブラスト加工装置1Aを用いて水晶素板2を研削加工することにより、平坦で均一な加工面Q1を得ることができる。また、本実施形態では、ケミカルエッチング法のように水晶素板の両面に加工面Q10,Q10を形成するのではなく、水晶素板2の片面のみに加工面Q1を形成すればよいので、ケミカルエッチングと比べて加工時間を短縮することができる。
【0041】
次に、第1実施形態のブラスト加工装置1Aを用いて水晶素板2を研削して水晶振動子を製作する場合の具体例について説明する。なお、この具体例では、噴射装置10の研磨液の噴射圧力を490kPa、噴射口10a1の開口径(直径)を1.9mm、メッシュ部材20のメッシュの番数を#40、糸径を0.215mm、研磨材をGC#800(炭化珪素SiO2、昭和電工製グリーンデンシック)、研磨液比重を1.120とした。また、メッシュ部材20を、長軸28mm、短軸10mm、毎分140回転の連続楕円運動を採用した。以上のような条件で、メッシュ部材20と水晶素板2との距離L1を10mm、噴射装置10の噴射口10a1とメッシュ部材20との距離を30mmで行ったところで、加工中心軸Mを延長した対称点を基準とした場合、半径2mm程度の円対称性を有する平坦で均一な加工面を得ることができた。
【0042】
(第2実施形態)
図6は第2実施形態のブラスト加工装置1Bを示す側面図である。この実施形態のブラスト加工装置1Bは、第1実施形態のブラスト加工装置1Aの構成に、絞りマスク30を追加した構成であり、その他の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0043】
このブラスト加工装置1Bは、絞りマスク30に、マスク5の貫通孔5aと同一形状の貫通孔6aが形成されたものを用い、水晶素板2とメッシュ部材20との間に、貫通孔5aの中心と貫通孔6aの中心とが上下方向において互いに一致するように配置される。
【0044】
ところで、加工断面の形状制御は、(1)研磨液に入れる研磨材の番数、(2)研磨材の量、(3)噴射ノズル10aの開口径、(4)メッシュ部材20の番数と開口度と糸径、(5)メッシュ部材20と被加工物(水晶素板2)との距離、(6)マスク5の厚み、(7)マスク5の開口部20aの開口面積、形状など7つのパラメータによって制御可能であるが、これらで制御しきれない形状を求める場合には、メッシュ部材20と被加工物(水晶素板2)との間に絞りマスク30を追加したブラスト加工装置1Bを用いることにより、加工面の外周縁部と加工面の中心部との2箇所の研磨力を上げることが可能になる。なお、絞りマスク30の開口形状、メッシュ部材20および被加工物(水晶素板2)に対する各距離などは、加工断面の形状に応じて、適宜変更することができる。このように、絞りマスク30を追加することにより、加工断面の形状パターンをさらに増やすことができるようになる。
【0045】
(第3実施形態)
図7は第3実施形態のブラスト加工装置1Cを示す斜視図、図8は第3実施形態のブラスト加工装置における水晶素板の加工後の状態を示し、(a)は平面図、(b)はC−C断面図である。この実施形態のブラスト加工装置1Cは、SMD(Surface Mount Device)タイプの水晶振動子として使用されるものであり、角型に形成された水晶素板2Aに、四角形状の加工面Q2を形成するための装置である。
【0046】
このブラスト加工装置1Cは、面状(膜状)の水流を噴射する噴射装置10Aを用いて、角型の水晶素板2Aに角型の加工面Q2(図8(a)参照)を形成するものである。その加工処理に伴い、四角形状の貫通孔5bが形成されたマスク5Aと、角型の水晶素板2Aを位置決めするための位置決め部材4A,4Aとが用いられている。
【0047】
このように、噴射装置10Aを用いて、研磨液を直接に加圧して、面状の水流を高圧で噴射することにより、面対称性を有する加工面Q2、つまり、面状の水流を挟んで対称な加工面を得ることができる。なお、第3実施形態では、噴射装置10Aまたは水晶素板2AのいずれかX方向に直線運動させることにより、図8(a)に示すような四角形状で、図8(b)に示すように、平坦で均一な加工面Q2を得ることができる。なお、この場合も、加工時にメッシュ部材20を楕円運動または円運動させることにより、加工面Q2に対して、メッシュ部材20のメッシュ糸x1,y1による影響を無くすことができる。
【0048】
なお、本発明は、水晶素板2を前記したブラスト加工装置1A〜1Cを用いて研削加工して水晶振動子を得るものに限定されず、例えば、広範な周波数成分の中から特定の周波数成分のみを通過させ、不要な成分を減衰させる周波数選択機能を有する水晶フィルタを研削する装置にも適用できる。
【0049】
なお、本発明は、水晶振動子などに用いられる水晶素板を研削加工するものに限定されず、金属、硬質樹脂、セラミック類などの研削加工にも適用することができる。例えば、金属プレスや機械加工後のばり取りや表面の凹凸除去加工などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1実施形態のブラスト加工装置を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のブラスト加工装置を示す概略側面図である。
【図3】ブラスト変換後の研磨液の動きを示す模式図である。
【図4】メッシュ部材の各開口部の研磨液の加工面積を示す模式図である。
【図5】第1実施形態のブラスト加工装置における水晶素板の加工後の状態を示し、(a)は平面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B断面図である。
【図6】第2実施形態のブラスト加工装置を示す概略側面図である。
【図7】第3実施形態のブラスト加工装置を示す斜視図である。
【図8】第3実施形態のブラスト加工装置における水晶素板の加工後の状態を示し、(a)は平面図、(b)はC−C断面図である。
【図9】ケミカルエッチングによる水晶素板の加工後の状態を示し、(a)は平面図、(b)はD−D断面図、(c)はE−E断面図である。
【図10】従来のブラスト加工装置を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1A〜1C ブラスト加工装置
2,2A 水晶素板(被加工物)
5,5A マスク
6 絞りマスク
10,10A 噴射装置
20 メッシュ部材
20a 開口部
q1,q2 加工範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に研磨材を含んだ研磨液を噴射して加工するブラスト加工装置であって、
前記研磨液を直接に加圧して、前記研磨液を高圧で噴射する噴射装置と、
前記噴射装置と前記被加工物との間に設けられ、噴射された前記研磨液を通過させるメッシュ部材と、を備えることを特徴とするブラスト加工装置。
【請求項2】
前記噴射装置は、前記研磨液を棒状に噴射するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のブラスト加工装置。
【請求項3】
前記噴射装置は、前記研磨液を面状に噴射するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のブラスト加工装置。
【請求項4】
前記メッシュ部材を、前記研磨液の噴射方向と直交する方向へ円運動または楕円運動させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のブラスト加工装置。
【請求項5】
前記被加工物と前記メッシュ部材との距離は、前記メッシュ部材の開口部による加工範囲と隣接する開口部による加工範囲とが一部で重なる長さに設定されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブラスト加工装置。
【請求項6】
前記被加工物の表面が所定形状のマスクで覆われ、さらに前記マスクと前記メッシュ部材との間に絞りマスクが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブラスト加工装置。
【請求項7】
被加工物に研磨材を含んだ研磨液を噴射して加工するブラスト加工方法であって、
前記研磨液を直接に加圧して、水平方向に円運動または楕円運動するメッシュ部材に対して、前記研磨液を棒状または面状に高圧で噴射して、前記メッシュ部材を通過後の研磨液で前記被加工物を加工することを特徴とするブラスト加工方法。
【請求項8】
被加工物である水晶素板を請求項6に記載のブラスト加工方法によって加工して構成されたことを特徴とする水晶振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−331046(P2007−331046A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164070(P2006−164070)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000106564)サンライズ工業株式会社 (4)