説明

ブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法およびブラックマトリックス用カーボンブラック

【課題】 ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物中における分散性能に優れ、ブラックマトリックス形成に好適なカーボンブラックの製造方法および該製造方法により製造されるカーボンブラックを提供すること。
【解決手段】 カーボンブラックを酸化剤水溶液中に分散したスラリーを高圧ホモジナイザーにより、解砕しつつ酸化処理を行い、次いで、精製し、乾燥することを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法。および、この製造方法により製造されたカーボンブラックであって、
(1)アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径
Dupa50%(nm)の比Dupa50%/Dstの値が2.0以下、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基が、カーボンブラック粒子の外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2
であることを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ用カラーフィルターなどに用いられるブラックマトリックス形成用のカーボンブラックの製造方法、および、ブラックマトリックス形成用のカーボンブラックに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、液晶となる結晶材料を透明な電極間に挟み、電極間に電圧を印加して液晶の分子配列を変えることにより入射光の透過を制御し、反射板と偏光板を組み合わせることにより画像や文字などを表示するものであり、この液晶ディスプレイをカラー化したカラー液晶ディスプレイは、画素ごとに赤、青、緑のカラーフィルターを付けて光の三原色をつくり、各画素の明暗を制御して色の変化を表現するものである。
【0003】
すなわち、カラー液晶ディスプレイは画素ごとに赤、青、緑のカラーフィルター層を通して透明基板上に光の三原色をつくり、各画素を透過する光量を制御して三原色の加色による発色によってカラー表示を行うものであり、各画素間の漏光を防止してコントラストの向上を図り、色純度の低下を防止するために各画素間の光を遮断するための遮断層(ブラックマトリックス)が形成されている。また、ブラックマトリックスはカラーフィルターに対向する基板上に設けられた液晶の駆動用電極やTFT(薄膜トランジスタ)などのトランジスタ回路を遮光する機能も有している。
【0004】
したがって、ブラックマトリックスには、当然、遮光性に優れていることが要求されるが、その他にも表面が平滑で、層の厚さが薄いこと、導電性が低く絶縁性が高いことなどが必要とされている。すなわち、表面平滑性が劣り、層厚が厚いと三原色の色パターンを形成する際に凹凸が生じることになり、また導電性が高いと印加電圧により半導体素子が誤作動を起こすなどのおそれがあるためである。
【0005】
このブラックマトリックスには、従来から、(1)フォトリソグラフィ法によるCr、Ni、Alなどの金属薄膜からなるブラックマトリックス、(2)黒色顔料を樹脂に分散した黒色樹脂膜からなるブラックマトリックスが用いられてきた。このうち(1)の金属薄膜により形成されたブラックマトリックスは遮光度や光学濃度が高く、解像度に優れている反面、導電性が高く、また光反射率が大きいので反射光による写り込みが生じ易く、表示品位が損なわれる難点があり、更に工程が煩雑なためコストが高くなるなどの難点がある。
【0006】
一方、(2)の黒色顔料を樹脂に分散した黒色樹脂膜からなるブラックマトリックスには上記のような難点が少なく、特に、カーボンブラックは黒色顔料として優れた黒色度、遮光性を備えているとともに導電性も低く、ブラックマトリックス用の黒色顔料として好適である。
【0007】
そこで、カーボンブラックと光重合性樹脂とを有機溶媒を介して分散させた樹脂組成物を透明基板面に塗布や印刷し、乾燥、光重合することによりブラックマトリックスを形成する方法が開発されている。しかし、カーボンブラックは樹脂や有機溶媒への分散性が悪いため、均一に安定分散した樹脂組成物を作製することが難しく、均一で、薄い樹脂膜の形成が困難となる。そこで、カーボンブラックの表面性状を改質して光重合性樹脂および有機溶媒に対する分散性を向上させたカーボンブラックを用いる技術が開発されている。
【0008】
例えば、特許文献1には樹脂中に少なくともカーボンブラックを含むインキにおいて、前記カーボンブラックが、カーボンブラック100g 当たり40〜130mlの吸油量を有し、かつ950℃で7分間加熱したときの揮発減量分が3重量%以上であって、樹脂100重量部に対して10〜50重量部の割合で配合されることを特徴とする液晶カラーフィルター遮光層用インキが開示されており、特許文献2には樹脂中に遮光剤を分散せしめてなる樹脂ブラックマトリックスにおいて、該遮光剤として下記(A)〜(D)のうち少なくとも1つを満たすカーボンブラックを用いることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス。但し、(A)PH値が6.5以下、(B)表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕が、全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔COOH〕、(C)表面の水酸基濃度〔OH〕が全炭素原子あたりのモル比で、0.001<〔OH〕、(D)表面のスルホン基濃度〔SO3 H〕が、全炭素原子あたりのモル比で0.001<〔SO3 H〕、が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックの平均粒子径が40〜300nmであることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックスが、特許文献4には黒色顔料としてカーボンブラックを含有するブラックマトリックスにおいて、該カーボンブラックは、950℃における揮発分中のCO及びCO2 から算出した全酸素量が、カーボンブラックの表面積100m2当たり7mg以上であることを特徴とするカラーフィルター用ブラックマトリックスが、特許文献5には平均粒径50〜200nm、DBP吸油量10〜40ml/100g の範囲にあるカーボンブラックを含有することを特徴とするブラックマトリックス用カラーフィルターレジストが、特許文献6には平均一次粒子径35〜150nm、凝集体径60〜300nm、ジブチルフタレート吸油量30〜90ml/100g のカーボンブラックを樹脂で被覆してなることを特徴とする黒色レジストパターン形成用カーボンブラックが開示されている。
【0010】
更に、特許文献7には全酸素量が15mg/g以上、全酸素量/比表面積が0.10mg/m2 以上であるカーボンブラックを樹脂で被覆処理してなる絶縁性ブラックマトリックス用カーボンブラック、特許文献8には表面のカルボキシル基濃度〔COOH〕、表面の水酸基濃度〔OH〕、表面のスルホン酸基濃度〔SO3 H〕の少なくとも1つが、全炭素原子あたりのモル比で、0.005より大きいカーボンブラックを遮光剤として含む樹脂からなるブラックマトリックスであって、比抵抗率が、7×104 Ω・cm以上であることを特徴とする樹脂ブラックマトリックス、特許文献9には(A)平均一次粒子径20〜60nm、DBP吸油量30〜100ml/100g 、BET法による比表面積30〜150m2/g、粒子表面のカルボキシル基の濃度0.2〜1.0μmol/m2のカーボンブラック、(B)アミノ基および/またはその第4級アンモニウム塩を有する共重合体、及び(C)有機溶剤を含有することを特徴とするカラーフィルターブラックマトリックスレジスト用カーボンブラック分散液組成物、などが提案されている。
【0011】
また、本出願人は、これらのブラックマトリックスに要求される諸性能の向上について別異の観点から研究を行い、グラフト化によるカーボンブラック粒子表面の改質を図るものとして、窒素吸着比表面積(N2SA)50m2/g以上、DBP吸収量140cm3/100g以下のカーボンブラックを湿式酸化して、X線光電子分光法により測定した全炭素原子当たりの全酸素原子の原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基を基幹として、ビニルモノマーを反応させてカチオン重合によりビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック顔料(特許文献10)を開発した。
【0012】
更に、酸化処理されたカーボンブラック表面の官能基をアゾ基に変換して基幹とし、該基幹にビニル基を含むモノマーがラジカルグラフト重合して生成したビニルポリマーが化学結合されてなるブラックマトリックス用カーボンブラック(特許文献11)を開発、提案した。
【特許文献1】特開平8−262223号公報
【特許文献2】特開平9−15403号公報
【特許文献3】特開平9−15419号公報
【特許文献4】特開平9−22653号公報
【特許文献5】特開平9−80220号公報
【特許文献6】特開平11−80583号公報
【特許文献7】特開平9−95625号公報
【特許文献8】特開平9−265006号公報
【特許文献9】特開2004−198717号公報
【特許文献10】特開2002−69327号公報
【特許文献11】特開2003−41149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般に、ブラックマトリックスには黒色度および遮光性が高く、遮光層の膜厚が薄くても高い遮光度を有し、また遮光層の表面が平滑で、遮光層の導電性が小さいこと、などが必要とされている。
【0014】
カーボンブラック粒子の表面には微細な細孔が存在しており、特に酸化処理されるとこれらの微細な細孔が形成され易く、一方、これらの微細細孔の内面は樹脂媒体との相溶性にはあまり関係しない。
【0015】
そこで、本発明者は樹脂組成物中におけるカーボンブラックの分散性能および黒色度を向上させ、ブラックマトリックスの性能向上を図るためには、カーボンブラックと樹脂媒体との相溶性が重要であり、特に、樹脂媒体と接しているカーボンブラックの凝集粒子の表面性状が重要であると考えてカーボンブラックの基本粒子の凝集構造と粒子表面の官能基との関連において、カーボンブラックを黒色顔料とするブラックマトリックスの性能向上について鋭意研究を行った。
【0016】
本発明は、上記の研究の結果開発に至ったもので、その目的は液晶ディスプレイなどに用いられるブラックマトリックス形成用の黒色顔料として、樹脂組成物中における分散性能が優れ、長期に亘って安定な分散状態を維持し、また、導電性が低く、高度の遮光性を有する、ブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法、および、この製造方法により製造されたブラックマトリックス形成に好適なブラックトリックス用カーボンブラックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するための本発明に係るブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法は、カーボンブラックを酸化剤水溶液中に分散したスラリーを高圧ホモジナイザーにより、解砕しつつ酸化処理を行い、次いで、精製し、乾燥することを構成上の特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るブラックマトリックス用カーボンブラックは、上記の方法により製造されたカーボンブラックであって、
(1)アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径
Dupa50%(nm)の比Dupa/Dstの値が2.0以下、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基が、カーボンブラック粒子の外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2
であることを構成上の特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液晶ディスプレイなどに用いられるブラックマトリックスを形成するための樹脂組成物中における分散性能が優れ、長期に亘って安定な分散状態を維持し、導電性が低く、黒色度が高く、高度の遮光性を有する、ブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法、および、この製造方法により製造されたブラックマトリックス形成に好適なブラックトリックス用カーボンブラックの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明で対象となるカーボンブラックには特に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどいずれも適用することができるが、生産性に優れるファーネスブラックを用いることが好ましい。
【0021】
酸化剤としては、例えばペルオキソ2硫酸塩、ペルオキソ2硼酸塩、ペルオキソ2炭酸塩、ペルオキソ2リン酸塩などのペルオキソ2酸塩が好適に用いられ、ペルオキソ2酸塩としてはアルカリ金属塩やアンモニウム塩などが好ましい。
【0022】
酸化剤水溶液の濃度は0.1〜50重量%が好ましく、また酸化剤水溶液中に分散させるカーボンブラック濃度は3〜25重量%が好ましい。なお、酸化剤を溶解する水は脱イオン水が好適である。所定濃度の酸化剤水溶液中にカーボンブラックを添加して、40〜90℃の温度で攪拌、混合して所定の濃度にカーボンブラックを分散させたスラリーは、高圧ホモジナイザーにより高圧噴射流として相互に衝突あるいは壁面に衝突させる。
【0023】
この相互衝突あるいは壁面衝突時の衝撃、および、噴射時のせん断力によりスラリー中のカーボンブラック粒子の凝集体は解砕される。また、衝突する際やせん断される際に生じる摩擦熱により、カーボンブラック粒子凝集体および粒子凝集体が解砕されて新たに生成した粒子表面は均一かつ効率よく酸化処理される。
【0024】
この場合、摩擦熱によりスラリーの温度上昇が生じるが、その際温度を40〜90℃の範囲に調節することが好ましく、必要であればノズル構成部位を加熱または冷却して調節する。40℃未満であると酸化処理が十分に進まず、一方、90℃を越えると酸化反応が一挙に進み、酸化処理の制御が難しくなるためであり、好ましくは60〜80℃に調節する。
【0025】
高圧ホモジナイザーとしては、市販されている相互衝突型、壁面衝突型、せん断型などの各種の解砕機が用いられ、相互衝突型の解砕機としては例えばマイクロフルイダイザー〔マイクロフルイディスク社製、商品名〕、アルティマイザー〔スギノマシン社製、商品名〕、ナノマイザー〔東海社製、商品名〕などが、壁面衝突型またはせん断型の解砕機としては例えば高圧ホモジナイザー〔ラニー社製、三丸機械工業社製、イズミフードマシンナリ社製〕などがある。
【0026】
高圧ホモジナイザーによる解砕および酸化処理は、図1のフローチャートに示したように、先ず、カーボンブラックを酸化剤水溶液中に所定の割合で加えて、混合攪拌槽で適宜な温度、例えば40〜90℃で十分に攪拌、混合して、スラリーを作製する。
【0027】
スラリーは高圧ポンプにより例えば50〜250MPa程度に加圧されて解砕機に移送され、噴射ノズルから高速噴射流として噴射されて、噴射流を相互衝突あるいは壁面衝突および噴射の際のせん断力により、スラリー中のカーボンブラック粒子凝集体は解砕される。
【0028】
解砕機により解砕処理されたスラリーは、貯槽混合攪拌槽に移送されて攪拌され、次いで混合攪拌槽に再送されて攪拌され、スラリーの分散状態を安定に維持する。混合攪拌槽中のスラリーは、再び解砕機に移送されてスラリー中のカーボンブラック粒子凝集体は再度解砕され、この循環操作を繰り返し行って所望する状態に解砕する。なお、貯槽混合攪拌槽を通さずに、解砕機により処理されたスラリーを直接混合攪拌槽に移送して解砕機に噴射する循環操作を繰り返し行ってもよい。
【0029】
このように高圧ホモジナイザーにより解砕され、酸化処理されたスラリーは精製および乾燥してブラックマトリックス用のカーボンブラックが製造される。精製は、例えばスラリー中の残塩を限外濾過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、電気透析膜などの分離膜で除去し、次いでスラリー中の未分散塊や粗粒を遠心分離や濾過などの手段により除去し、精製する。
【0030】
精製したスラリーは適宜な濃度、例えば3〜50重量%に濃縮して、乾燥することによりブラックマトリックス用のカーボンブラックが製造される。乾燥はSKジェット・オー・ミル、ミストドライヤー、スプレードライヤー、流動媒体槽、スラリードライヤーなどの噴霧乾燥することが好ましい。
【0031】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、上記の製造方法により製造され(1)アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径
Dupa50%(nm)の比Dupa50%/Dstの値が2.0以下、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基が、カーボンブラック粒子の外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2
の性状を有していることを特徴とする。
【0032】
カーボンブラック粒子の凝集構造は、一次粒子が融着して強固に結合した凝集体(アグリゲート)とアグリゲートが絡み合いなどにより二次的に凝集した凝集体(アグロメレート)とからなり、アグリゲートは強固に結合しているため凝集構造を解放することは困難であるが、アグロメレートは比較的に容易に凝集構造を解放することができる。
【0033】
そこで、本発明においてはアグロメレートを解砕して、アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)の比Dupa50%/Dstの値を2.0以下に解砕するものである。Dupa50%/Dstの値が2.0を越える場合には、アグロメレート凝集体の割合が大きいために、ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を作製した際に、樹脂組成物中において長期に安定分散を維持することが困難となるためである。なお、これらの値は下記の方法により測定した値である。
【0034】
アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)の測定;
JIS K6221(82)5「乾燥試料の作り方」に基づいて乾燥したカーボンブラック試料を少量の界面活性剤を含む20容量%エタノール水溶液と混合してカーボンブラック濃度0.1kg/m3 の分散液を作製し、これを超音波で十分に分散させて試料とする。ディスクセントリフュージ装置(DCF;英国 Joyes Lobel 社製)を100s-1の回転数に設定し、スピン液(2重量%グリセリン水溶液、25℃)を0.015dm3 加えた後、0.001dm3 のバッファー液(20容量%エタノール水溶液、25℃)を注入する。次いで、温度25℃のカーボンブラック分散液0.0005dm3 を注射器で加えた後、遠心沈降を開始し、同時に記録計を作動させて図2に示す分布曲線(横軸;カーボンブラック分散液を注射器で加えてからの経過時間、縦軸;カーボンブラックの遠心沈降に伴い変化した特定点での吸光度)を作成する。この分布曲線より各時間Tを読み取り、次式(数1)に代入して各時間に対応するストークス相当径を算出する。
【0035】
【数1】

【0036】
数1において、ηはスピン液の粘度(0.935×10-3Pa・s)、Nはディスク回転スピード(100s-1)、r1 はカーボンブラック分散液注入点の半径(0.0456m)、r2は吸光度測定点までの半径(0.0482m)、ρCBはカーボンブラックの密度(kg/m3 )、ρ1 はスピン液の密度(1.00178kg/m3 )である。
【0037】
このようにして得られたストークス相当径と吸光度の分布曲線(図3)における最大頻度のストークス相当径をアグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とする。
【0038】
アグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)の測定;
スラリー中のカーボンブラック濃度を0.1〜0.5kg/cm3 に調整し、ヘテロダインレーザードップラー方式粒度分布測定装置〔マイクロトラック社製UPA model9340 〕を用いて測定した。この測定装置は、懸濁液中においてブラウン運動している粒子にレーザー光を照射するとドップラー効果により散乱光の周波数が変調するので、周波数の変調度合いからブラウン運動の激しさ、すなわち粒子径を測定するものである。このようにして測定したカーボンブラック粒子の凝集体の粒径から、その累積度数分布曲線を作成し、累積度数分布曲線の50%累積度数の値をアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)とする。
【0039】
更に、本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、上記の凝集構造に加え、カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基が、カーボンブラック粒子の外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2 であることを特徴とする。
【0040】
カーボンブラックを酸化処理するとカーボンブラック粒子表面にはカルボキシル基やヒドロキシル基、キノン基などの種々の官能基が生成する。これらの官能基のうち、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテートなどの有機溶媒に対する親和性が高く、溶媒中で安定した分散状態を維持するためにはカルボキシル基が大きく関係する。そこで、本発明においてはカーボンブラック粒子表面に存在するカルボキシル基量を外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2 に特定するものである。
【0041】
酸化処理によりカーボンブラック粒子の表面には微細なポアが形成され易く、またこれらの微細なポアは界面における分散性能には殆ど影響しない。そこで、ポア内面の面積も測定される窒素吸着比表面積(N2 SA)ではなく、例えば20オングストローム以下の微細ポアを含まない外部表面積を測定する外部比表面積STSAを基準とすることにより分散性能に大きく影響するカーボンブラック粒子の単位表面積当たりのカルボキシル基量を的確に評価することが可能となる。
【0042】
そして、カルボキシル基量を1.1〜8.0μmol/m2 の範囲に設定する理由は、1.1μmol/m2 未満では分散性の向上が十分でなく、しかし8.0μmol/m2 を越えても分散性の向上には顕著な効果が認められないためである。
【0043】
なお、これらの特性は下記の方法によって測定される。
(a)外部表面積(STSA);
自動比表面積測定装置(島津製作所製、Gemini 2375 )を用いて、ASTM D5816−99 “Standard Test Methods for Carbon Black−External Surface Area by Multipoint Nitrogen Adsorption ”に記載の方法に準拠して測定する。
【0044】
(b)カルボキシル基;
0.976mol/dm3 炭酸水素ナトリウム0.5dm3 の中にカーボンブラック2〜5g を添加して6時間振盪した後、カーボンブラックを反応液から濾別し、濾液に0.05mol/dm3 塩酸水溶液を加えた後、pHが7.0になるまで0.05mol/dm3 水酸化ナトリウム水溶液にて中和滴定試験を行ってカルボキシル基を定量する。
【0045】
このように、本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、カーボンブラック粒子の二次的凝集体であるアグロメレートの割合が少なく、かつ凝集体も小さいことを特徴とし、加えて、分散性能に影響する粒子表面のカルボキシル基量を粒子表面のポアを含まない外部比表面積で特定することにより、ブラックマトリックス用の樹脂組成物中に安定分散させることが可能となる。
【0046】
更に、カーボンブラックのアグロメレートの平均粒径が小さいので、遮光層の膜厚も薄くでき、黒色度および遮光性の高いブラックマトリックスの形成が可能となる。
【0047】
本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックは、有機溶媒および樹脂と混合して樹脂組成物を作製し、樹脂組成物をスピンコータにより透明基板に塗布してフォトレジストする方法、あるいは、印刷インキとして透明基板に印刷するなどの方法で樹脂膜を被覆し、焼き付けすることによりブラックマトリックスが形成される。
【0048】
有機溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トリエチレングリコール、テトラハイドロフラン、N-メチル-2- ピロリドン、 N,N′- ジメチルホルムアミド、 N,N′- ジメチルアセトアミド、 N,N′- ジメチルスルホキシドなどが用いられる。
【0049】
また、樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、メタクリル酸樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、クリプタル樹脂、エポキシ樹脂、アルキルベンゼン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、など耐熱性、流動性に優れた光重合性樹脂が用いられる。
【0050】
ブラックマトリックス形成用の樹脂組成物は、本発明のカーボンブラックと有機溶媒および樹脂とを混合することにより調製され、混合比としては、例えば、カーボンブラック2〜20重量%、有機溶媒60〜96重量%、樹脂2〜20重量%の割合で混合する。
【0051】
カーボンブラックの割合が2重量%未満であると形成したブラックマトリックスの遮光性が低くなり、一方20重量%を越えるとブラックマトリックスの膜厚が厚くなるためである。また、有機溶媒が60重量%未満であると流動性が著しく低下するために均一な膜厚のブラックマトリックスの形成が困難となり、96重量%を越えると遮光性の低下が著しくなるためである。また、樹脂が2重量%未満であるとブラックマトリックスの膜強度が低下し、20重量%を越えると樹脂組成物の粘度が増大して膜厚の制御が困難となるためである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0053】
実施例1〜4、比較例1〜2
表1に示す外部比表面積STSAおよびDBP吸油量の異なるカーボンブラック100gを、濃度の異なるペルオキソ2硫酸ナトリウム水溶液3dm3 とともに図1に示した混合攪拌槽に入れて混合し、スラリーを作製した。
【0054】
解砕機として高圧ホモジナイザー〔三丸機械工業社製〕を用い、スラリーを100MPaの圧力で噴射して、噴射流を相互衝突させた。噴射衝突後のスラリーは貯槽混合攪拌槽に移送して、攪拌しつつ冷却した後、混合攪拌槽に再送した。このように、スラリーを噴射して噴射流を相互衝突させる循環操作を8時間繰り返し行って、カーボンブラックに解砕処理と酸化処理とを施した。
【0055】
次いで、スラリーを精製するために限外濾過膜〔旭化成社製、AHP−1010、分画分子量50000〕により残存する塩を除去した後、濾過、乾燥してカーボンブラック試料を製造した。
【0056】
これらのカーボンブラック試料について、カルボキシル基、アグリゲートのストークスモード径Dstおよびアグロメレートの平均粒径Dupa50%を測定して、その結果を表1に示した。
【0057】
比較例3
スラリーを高圧ホモジナイザーで解砕する代わりに、60℃の温度、0.12s-1の攪拌速度で10時間攪拌混合した以外は、実施例1と同じ方法によりカーボンブラック試料を製造した。
【0058】
【表1】

【0059】
これらのカーボンブラック試料16gと、有機溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを64g、樹脂としてアクリル酸樹脂を20g、光重合開始剤としてイルガキュア−907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を3gの割合で軽く混合した後、ホモジナイザーにより微分散させてブラックマトリックス形成用の樹脂組成物を調整した。この樹脂組成物の経時沈降度、粘度を下記の方法で測定し、その結果を表2に示した。
【0060】
経時沈降度;
樹脂組成物を作製した後、1ヶ月静置後の沈降状態を観察した。
【0061】
粘度;
回転振動式粘度計(山一電機製、VM−100A−L)を用いて、温度298Kにおける粘度を測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
調製した樹脂組成物を、厚さ1.1mmの硼珪酸透明ガラス基板上にスピンコーターを用いて0.06s-1の回転速度で塗布した後、温度393Kのホットプレート上で120秒間熱処理した。次いで、線幅が20μm(ブラックマトリックスになる部分が20μm)のマスクを介して、露光装置(ウシオ電機製)により200100ml/cm2 の条件で紫外線を照射し、その後、富士フィルムオーリン社製現像液(FHD−5)に浸漬し、紫外線を照射して樹脂組成物を硬化した。その後、富士フィルムオーリン社製現像液FHD−5に浸漬し、流量8.33cm3 /s、吐出圧0.098MPaでシャワー洗浄して現像し、非露光部の黒色樹脂層を除去した。最後に、表面温度523Kのホットプレート上で1時間加熱してブラックマトリックスパターンを形成した。
【0064】
このようにして形成したブラックマトリックスについて下記の方法により測定評価を行い、それらの結果を表3に示した。
【0065】
塗膜表面電気比抵抗; ガラス基板をクロム蒸着基板に変更した以外は、ブラックマトリックスと同じ方法で塗膜を形成し、硬化した塗膜上に面積0.28cm2 (S)の円形電極を銀ペーストにより形成し、この電極と対向電極であるクロム蒸着面との間に一定電圧発生装置(ケンウッド社製、PA36−2A、レギュレーテッドDCパワーサプライ)を用いて一定の電圧(100V)を印加し、膜に流れる電流(I)を電流計(アドバンテスト社製、R644C、デジタルマルチメーター)にて測定した。次に、黒色膜の膜厚(d)cmを測定し、下記式から体積固有抵抗Rを算出した。
R(Ω・cm)=(V・S)/(I・d)
【0066】
光学的濃度(OD値);
マクベス濃度計(コルモーゲン社製、RD−927)を用いて透過光学的濃度(OD値)測定し、膜厚1μm 当たりの光学的濃度を求めた。
【0067】
光感度;
光学密度0.00を1段目とし、1段ごとに光学密度が0.05ずつ増加する41段のステップタブレット(コダック社製、No.2)を用いて評価した。この値が大きい程、光感度が優れていることを示す。
【0068】
膜硬度;
JIS K5400「鉛筆ひっかき試験」の方法に準拠して測定した。
【0069】
表面粗さ;
SPM(走査型プローブ顕微鏡、AFMモード、SPI−3100)を用いて表面を観察し、表面粗さを測定した。
【0070】
ブラックマトリックス層残留の有無;
非露光部のブラックマトリックス層の現像による除去状況を光学顕微鏡で観察した。
【0071】
【表3】

【0072】
表1、2、3の結果から、実施例1〜4は樹脂組成物中のカーボンブラックの分散性が優れ、1ヶ月静置後も殆ど沈殿物を生じることなく、粘度も低かった。また、この樹脂組成物で形成したブラックマトリックスは、塗膜表面電気比抵抗、光学濃度、光感度、膜硬度、表面粗さも良好であり、残留物も生じなかった。
【0073】
これに対し、比較例1では樹脂組成物の調製後、初期に一部の粒子が浮遊し、1ヶ月静置後には上澄み部分の色が透明になり、この樹脂組成物で形成したブラックマトリックスには残留物が生じた。また、比較例2では樹脂組成物は1カ月静置後も殆ど沈殿物を生じなかったが、粘度が著しく増大した。高圧ホモジナイザーで解砕処理する代わりに攪拌混合した比較例3は1ヶ月静置後の樹脂組成物に沈殿物が生じた。このように、比較例ではカーボンブラックの樹脂中における分散性能が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のブラックマトリックス用カーボンブラックの製造プロセスを例示したフローチャートである。
【図2】Dstの測定時におけるカーボンブラック分散液を加えてからの経過時間とカーボンブラックの遠心沈降による吸光度の変化を示した分布曲線である。
【図3】Dstの測定時に得られるストークス相当径と吸光度の関係を示す分布曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックを酸化剤水溶液中に分散したスラリーを高圧ホモジナイザーにより、解砕しつつ酸化処理を行い、次いで、精製し、乾燥することを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラックの製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法により製造されたカーボンブラックであって、
(1)アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径
Dupa50%(nm)の比Dupa50%/Dstの値が2.0以下、
(2)カーボンブラック粒子表面のカルボキシル基が、カーボンブラック粒子の外部比表面積STSA当たり1.1〜8.0μmol/m2
であることを特徴とするブラックマトリックス用カーボンブラック。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−182818(P2006−182818A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375249(P2004−375249)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】