説明

ブルドーザのブレード支持構造

ブルドーザのブレード支持構造において、ブレードのピッチ制御に係わりなくアングル制御の回転軸が常に同じ鉛直方向を向いた回転軸となることを可能とする。
一定長さを有するピッチ支持リンクの前端部にピッチング継手を配設し、ピッチング軸に偏心円板を係合させ、同偏心円板とブレード背面に配設したブラケットに形成した嵌合孔とを嵌合させる。ブレード背面を回動自在に支持する自在継手の回動中心とピッチング継手の回動中心とで構成するアングル制御時の回転軸を地面に対して鉛直線上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともブレードのピッチ角及びアングル角を調整可能としたブルドーザにおけるブレード支持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から周知のように、ブルドーザの前部には排土板(以下、ブレードという。)が配設され、同ブレードの背面は、上下方向に揺動自在としたブレード昇降用フレームの前部によって支持されている。
【0003】
近年においてブルドーザによる作業性を向上させる目的から、ブレード昇降用フレームの前部に自在継手を配設し、同自在継手よって前記ブレードの背面を3軸方向に回動自在に支持したブレード支持構造が用いられている。これにより、ブレードに対してアングル角、チルト角、ピッチ角を付与することが可能となっている。
【0004】
アングル角としては、ブレード及びブルドーザを上方から見たとき、ブルドーザの進行方向に対するブレードの姿勢が直角の状態をアングル角がゼロ度の状態という。また、前記自在継手の中心を通る鉛直線を回動中心としてブレードを時計方向及び反時計方向に任意の角度傾けたときの角度、即ち、ゼロ度の状態からブレードを任意の角度傾けたときの角度をアングル角又はアングル角度という。ブレードにアングル角度を持たせた状態をアングル状態、及びブレードにアングル角度を持たせる回動制御をアングル制御という。
【0005】
チルト角としては、ブレードの後方から見たとき、ブレードの下端縁又は上端縁の状態が水平の状態をチルト角がゼロ度の状態という。また、前記自在継手の回動中心を通りブルドーザの進行方向の軸を回動軸として、同回動軸周りにブレードを時計方向及び反時計方向に任意の角度回動させたときの角度、即ち、ゼロ度からブレードを任意の角度回動させたときの水平線に対する角度をチルト角又はチルト角度という。ブレードにチルト角度を持たせた状態をチルト状態、及びブレードにチルト角度を持たせる回動制御をチルト制御という。
【0006】
ピッチ角又はピッチ角度は、ブレード及びブルドーザを側方から見たとき、地面に対するブレードの刃先角の角度をいい、予め設定された角度位置からブレードを正のピッチ、あるいは負のピッチへ調整するため、ブレードに対してピッチ角度を持たせる回動制御をピッチ制御という。
【0007】
上述のアングル制御、チルト制御、及びピッチ制御を行うにあたって、ブルドーザにおけるブレード支持構造のなかでもピッチ制御を行うための構造が各種提案されている。ピッチ制御を行う構造としては、例えば、ブレードのピッチ指示装置(特許文献1参照。)やアングル、チルト及びピッチ制御機構を備えたブルドーザ組立体(特許文献2参照。)などが提案されている。
【0008】
特許文献1に記載されたピッチ指示装置は、図6に示す構成を備えている。ブレード30の背面は、ブレード昇降用フレーム10の先端部に配設した自在継手31を介してアングル制御用の回動軸、チルト制御用の回動軸及びピッチ制御用の回動軸の3軸方向に対して回動自在に支持されている。ブレード昇降用フレーム10は、油圧シリンダ21によって上下方向に揺動自在に配設されている。
【0009】
ブレード30の上部と下部とのほぼ中間部の背面には、ブラケット65が配設され、アングル制御用の一対の油圧シリンダ22に連結している。左右一対の油圧シリンダ22をそれぞれ伸長及び縮小させることにより、ブレード30のアングル角を制御することができる。
【0010】
ブレード昇降用フレーム10から立設した支柱部11にはチルト用のシリンダブラケット74が配設されている。同シリンダブラケット74は、ブレード30の背面に一端を回動自在に取り付けた図示せぬチルト制御用の油圧シリンダの他端と連結している。チルト制御用の油圧シリンダを伸縮させることにより、ブレード30を自在継手31の回動中心B1を中心として回動させ、ブレード30のチルト角を制御することができる。
【0011】
前記支柱部11とブレード30の上端部との間には、ターンバックル式に伸張、縮小することのできるピッチ支持リンク60が載架されている。ピッチ支持リンク60は、一端部側に右ネジが切られ、他端部側に左ネジが切られたネジシャフト61と、同ネジシャフト61の端部側にそれぞれ螺合したヨーク62、63とを備えている。ヨーク62とヨーク63は、ネジシャフト61の回転により、互いに接近したり、互いに離間したりすることができる。
【0012】
ヨーク62の一端部は、ブレード30の上端部に配設したポスト32に回転自在に係合している。また、ヨーク63の一端部は、前記支柱部11に配設したポスト12に回転自在に係合している。
【0013】
ネジシャフト61を回転させることにより、ヨーク62とヨーク63との間隔を調整することができ、ポスト32の回動中心P1をブルドーザの進行方向に対して前後方向に移動させることができる。ポスト32の回動中心P1を前後方向に移動させることにより、ブレード30のピッチ角を制御することができる。その結果、図中矢印Pで示すようにブレード30のピッチ制御が可能となる。
【0014】
特許文献2に記載されたブルドーザ組立体は、図7、図8に示す構成を備えている。図8は、図7のM−M断面図を示している。尚、図6と同じ構成部材については図6で用いたと同じ符号を用いて、以下においてはその説明を省略する。また、本願明細書においては、本願発明及び従来例において同じ構成部材については、同じ部材符号を用いている。
【0015】
図8に示すように、ブレード昇降用フレーム10の支柱部11の中段には、ブレード30の背面部中央を回転自在に支持する自在継手31が配設されている。ブレード30の下部中央にはブラケット33が配設され、ブラケット33に支承された回転軸に対してピッチ支持リンク80の一端部が係合している。
【0016】
ピッチ支持リンク80の他端部は、ボルト85により支柱部11からの取り付け位置が調整可能なピン保持ブラケット82に係合している。ピン保持ブラケット82は、支柱部11との間に介在させるシムプレート83の厚さによって、支柱部11からの取り付け位置を調整することができる。
【0017】
異なる厚みH1、H2を有するシムプレート83、84を支柱部11とピン保持ブラケット82との間に介在させることによって、ピッチ支持リンク80のブレード30側への突出量を調整することができ、ブレード30のピッチ角を制御することができる。
【0018】
特許文献1や特許文献2に記載したようなピッチ制御を行うための構造では、図6におけるピッチ支持リンク60又は図8におけるピッチ支持リンク80の先端部における回動中心P1を、ブルドーザの進行方向に対する前後方向に移動させている構成となっている。回動中心P1を前後方向に移動させることにより、ブレード30のピッチ角を制御することができる。しかし、ブレード30のピッチ角を制御するために回動中心P1を前後方向に移動させる構成では、次のような幾つかの問題が生じる。
【0019】
まず1つの問題として、ブレード30のアングル制御を行う回動軸PAは、図6や図8で示すように、自在継手31の回動中心B1と、前記回動中心P1とを結んだ線によって形成される。しかし、ブレード30のピッチ角を制御するために回動中心P1を前後方向に移動させることにともなって、ブレード30のアングル制御を行う回動軸PAは、地面に対して傾斜した状態となり、地面に対して鉛直方向を維持しておくことができなくなる。
【0020】
このため、ピッチ角の制御が行われた後のブレード30では、アングル制御を行う回動軸PAが地面に対して傾斜し、同傾斜した回動軸PAを回動軸としてブレード30のアングル制御が行われることになる。したがって、ブレード30を地面に対して平行な面内でアングル制御を行うことができなくなる。
【0021】
また、ピッチ角の制御が行われた後のブレード30では、ブレード30を地面に対して平行な面内でアングル制御を行うことができないため、例えば、ブルドーザで整地作業を行う際に、ブルドーザの進行中にブレード30に対してアングル制御を行うと、ブレード30の下辺が地面に対して非平行状態となってしまう。そのため、チルト制御を併用してブレード30の下辺が地面に対して平行状態となるように修正する必要がある。このように、作業性能の低いピッチ制御構造となっているため、整地作業の作業精度が低下し、作業能率が低下するといった問題が生じている。
【0022】
これらの問題は、ピッチ制御に伴ってアングル制御を行うための回動軸PAの姿勢が変化してしまうことによるものである。また、回動軸PAの軸線上に、チルト制御用油圧シリンダ端部の回動中心T1(図6、図8参照。)が配設されていないときには、アングル制御時にブレード30のチルト角も同時に変化してしまうことになる。このため、アングル制御を行ったときには同時にチルト制御を行うことが必要となる。
【特許文献1】米国特許第6247540号明細書
【特許文献2】米国特許第5447204号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本願発明は、上記従来例の有していた問題点に着目してなされたもので、ピッチ制御を行っても、アングル制御を行うための回動軸PAの姿勢を変えないようにしたブレード支持構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願発明の課題は、請求の範囲第1項〜第4項に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では請求の範囲第1項に記載したように、少なくともブレードのピッチ角及びアングル角を調整可能としたブルドーザのブレード支持構造において、ブレード昇降用フレームの前部に配設され、前記ブレードを回動自在に、かつ同ブレードの背面を支持する自在継手と、一端を前記ブレード昇降用フレームに回動自在に支持され、他端をブレード背面のブラケット側に接続するピッチ支持リンクと、前記ピッチ支持リンクの他端と前記ブレード背面のブラケットとを接続するピッチング継手とを備え、前記ピッチング継手は、前記ピッチング継手の回動中心と前記ブレード背面との間隔を調整可能とする機構を有し、前記ブレードのチルト角がゼロ度のときにおける前記自在継手の回転中心とピッチング継手の回動中心とが常に同一鉛直線上に配設されてなるブレード支持構造を最も主要な特徴としている。
【0025】
また、請求の範囲第2項に記載したように、前記ピッチング継手と前記ブレード背面との間隔を調整可能とする機構として、前記ピッチング継手のピッチング軸を偏心円板に対して回動自在に支持し、同偏心円板に嵌合する嵌合孔を前記ブレード背面のブラケットに形成したことを主要な特徴としている。
【0026】
更に、請求の範囲第3項、第4項に記載したように、偏心円板とピッチング継手のピッチング軸とを一体的に回転可能に構成又は相対回転可能に構成したことを主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、ピッチング継手をピッチ支持リンクによって支持しており、しかもピッチング継手とブレードの背面との間隔を調整することによりブレードに対するピッチ制御を行っている。このため、ブレードのチルト角がゼロ度のときにおいては、ピッチング継手の回動中心と自在継手の回動中心とを結んだブレードのアングル制御を行う回動軸は、ブレードに対してピッチ制御を行っても常に同じ鉛直線上に存在することになる。
【0028】
これによって、ブレードのチルト制御が行われた後であっても、アングル制御を行う時には、ブレードは常に同じ鉛直線回りで回動することができ、ブレードの下辺を地面に対して平行状態を維持した状態のまま回動させることができる。
【0029】
ピッチング継手の回動中心とブレードの背面との間隔を調整する機構としては、ピッチング継手とブレード背面のブラケットとの間又はブレード背面のブラケット上に形成することができる。前記調整する機構としては、ターンバックル式のような2点間の間隔を調整することのできる公知の間隔調整機構、あるいは請求の範囲第2項に記載したような偏心円板と同偏心円板に嵌合する嵌合孔を有したブレード背面のブラケットとの組み合わせ等により構成することができる。
【0030】
請求の範囲第2項に記載したような、ピッチング継手の回動中心とブレードの背面との間隔を調整する機構を用いたときには、次のようにしてピッチング継手の回動中心とブレードの背面との間隔を調整することができる。
【0031】
即ち、ピッチング継手のピッチング軸に装着した偏心円板をブレード背面のブラケットの嵌合孔に嵌合させた状態から、偏心円板を前記ピッチング継手のピッチング軸の中心を回動中心として回動させる。これによって、ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板の偏心中心との前後方向における距離、即ち、ブルドーザの進行方向に対しての前後方向における距離を変化させることができる。
【0032】
また、ピッチング継手は一定の長さを有するピッチ支持リンクによって支持することができ、ピッチング継手が前記前後方向に移動するのを確実に防止できる。このとき、ピッチング継手のピッチング軸を基準として偏心円板が前記前後方向に移動し、偏心円板に嵌合しているブレード背面のブラケットがブレードとともに前記前後方向に移動する。
【0033】
これによって、ピッチング継手の回動中心を前記前後方向に移動させることなく、ピッチング継手の回動中心とブレード背面との間隔を調整することができ、ブレードに対してピッチ制御を行うことができる。
【0034】
しかも、ピッチング継手の回動中心と前記ブレードを回動自在に支持する自在継手の回動中心とを結んだアングル制御時の回動軸は、ブレードのチルト角がゼロ度の時には、常に鉛直線となっている。このため、ピッチ制御を行った後にアングル制御を行っても、ブレードのチルト姿勢に変化が生じない。
【0035】
ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板との関連構成としては、請求の範囲第3項に記載したように、偏心円板を回動させたときに、ピッチング継手のピッチング軸も偏心円板と共にピッチング継手のピッチング軸の軸を中心として回動させる構成とすることができる。このときの構成としては、ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板とを一体成型にて形成した構成とすることができる。
【0036】
また、ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板とを別体にて形成し、ピッチング継手のピッチング軸の端部を、例えば、六角断面形状に形成するとともに、偏心円板に前記六角断面形状の端部と嵌合する内周面の断面形状が六角形の嵌合孔を形成して、同嵌合孔にピッチング継手のピッチング軸の端部を嵌合させた構成等とすることもできる。あるいは、ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板とを溶接等により固定することもできる。
【0037】
また、ピッチング継手のピッチング軸と偏心円板との関連構成としては、請求の範囲第4項に記載したように、偏心円板をピッチング継手のピッチング軸周りで回動させる構成とすることもできる。このときの構成としては、ピッチング継手のピッチング軸とは別体に形成した偏心円板を、ピッチング継手のピッチング軸の端部に軸着させた構成とすることができる。これにより、偏心円板の回転とピッチング継手のピッチング軸の回転とをそれぞれ独立させて行うことができ、偏心円板とピッチング継手のピッチンク軸とは互いに相対的に回転することができる。
【0038】
いずれの構成においても、偏心円板を回動させることでブレードに対してピッチ制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、ブレード支持構造を示す側面図である。(実施例)
【図2】図2は、ブレード支持構造を示す斜視図である。(実施例)
【図3】図3は、ブレード支持構造のうちでピッチ制御を行うための構造の要部斜視図である。(実施例)
【図4】図4は、ブレードのピッチ制御、アングル制御を行ったときの説明図である。(実施例)
【図5】図5は、ブレードのピッチ制御、アングル制御を行ったときの説明図である。(従来例)
【図6】図6は、ブレード支持構造の斜視図である。(実施例1)
【図7】図7は、ブレード支持構造の斜視図である。(実施例2)
【図8】図8は、図7のM−M断面図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0040】
1 ブルドーザ
10 ブレード昇降用フレーム
11 支柱部
12 ポスト
13 貫通孔
30 ブレード
31 自在継手
32 ポスト
40 ピッチング継手
41 ピッチング軸
41a 第1軸部
41b 第2軸部
42、42’ 偏心円板
42a フランジ部
43 マーク
44 突起
45 摩擦板
48 ブラケット
48a、48a’ 嵌合孔
48b、48b’ 板部
48c マーク
50 ピッチ支持リンク
51 軸受部材
60 ピッチ支持リンク
61 ネジシャフト
62、63 ヨーク
70 ピッチ支持リンク
72 ピッチ継手
80 ピッチ支持リンク
82 ピン保持ブラケット
B1 回動中心
GL 地面
PA 回動軸
P1 回動中心
S1、S2 軸心
T1 回動中心
Y 鉛直軸
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の好適な実施の形態に係わるブルドーザにおけるブレード支持構造について添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明のブレード支持構造は、以下で説明する実施例に限定されるものではなく、ピッチング継手とブレードの背面との間隔を調整することができる構成であれば、多様な構成のものを採用することができる。
【0042】
また、自在継手、ピッチング継手及びチルト制御用のブラケットの配設関係は、実施例の配置関係に限定されるものではなく、本願発明を実施することのできる配置関係であれば他の配置関係とすることができるものである。
【0043】
尚、本願発明に係わる実施例を説明するにあたり、従来例の図6〜図8で用いた部材と同じ機能を奏する構成部材については、同じ部材符号を用いて、同部材についての説明を省略している。
【実施例】
【0044】
図1は、本願発明に係わるブレード支持構造を備えたブルドーザ1の側面図である。ブルドーザ1の前方にはブレード昇降用フレーム10が配設され、同ブレード昇降用フレーム10は油圧シリンダ21によって上下方向に揺動回動することができる。
【0045】
図1、図2に示すように、ブレード30の背面は、ブレード昇降用フレーム10の前部に配設した自在継手31によって回動自在に支持されている。ピッチ支持リンク50の一端部にはピッチング継手40が配設されている。ピッチ支持リンク50の他端部は、ブレード昇降用フレーム10から立設した支柱部11に開口した貫通孔13内を緩挿して、支柱部11に固定したブラケット52に回動自在に支持されている。
【0046】
図2に示すように、ピッチング継手40は、ブレード30の背面に配設したブラケット48と接続している。ブレード30にチルト角を与えるチルト制御用油圧シリンダ23は、一端部がブレード30の背面側に回動自在に支持され、他端部が支柱部11に配設したブラケット27に回動自在に支持されている。
【0047】
ブレード30にアングル角を与える一対のアングル制御用油圧シリンダ22は、各一端部をブレード昇降用フレーム10に回動自在に支持され、他端部をブレード30の背面に配設した一対のブラケット25に回動自在に支持されている。
【0048】
ブレード30のチルト角がゼロ度のとき、自在継手31の回動中心B1、ピッチング継手40の回動中心P1及びブラケット27の回動中心T1は、同一鉛直線Y上に配設されている。
【0049】
一対のアングル制御用油圧シリンダ22を互い違いに伸縮させることで、ブレード30を自在継手31の回動中心B1とピッチング継手40の回動中心P1とを結んだ回動軸PAを回動中心線として図2における矢印A方向に回動させることができる。これにより、ブレード30のアングル制御を行うことができる。
【0050】
チルト制御用油圧シリンダ23を伸縮させることで、自在継手31の回動中心B1を通り前記鉛直線Yに直交する軸線Zを回動中心線として、ブレード30を図2における矢印T方向に回動させることができる。これにより、ブレード30のチルト制御を行うことができる。
【0051】
ブレード30のピッチ制御は、ピッチング継手40とブレード30の背面との間隔を調整することで行うことができる。即ち、自在継手31の回動中心B1を通り前記鉛直線Y及び前記軸線Zに直交する軸線Xを回動中心線として、ピッチング継手40とブレード30の背面との間隔を調整することで、ブレード30を図2における矢印P方向に回動させることができる。ブレード30のピッチ制御については、図3を用いて説明する。
【0052】
図3は、ブレード30のピッチ制御の構成を理解し易くするため、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41及び偏心円板42をブレード48に固定するための摩擦板45を組み立てる前の状態と、組み立ててブレード48bに取り付けた状態とを合わせて示している。
【0053】
前記軸線X、鉛直線Y(回動軸PA)及び軸線Zは、自在継手31の回動中心B1を交点として直交する3軸となっている。ブレード30をアングル制御するときの回動軸PAは、ブレード30のチルト角がゼロ度のとき、鉛直線Yと一致する。ブレード30に対してチルト制御が行われたときには、回動軸PAは、軸線Zを回動中心線として図2の矢印T方向に回動を行い、鉛直線Yを含む同一平面上で傾くことになる。
【0054】
また、ブレード30のピッチ制御は、ピッチング継手40とブレード30の背面との間隔が調整されることにより行われる。このため、ピッチング継手40の回動中心P1は、チルト制御が行われていなければ、ブレード30のピッチ角に係わりなく常に鉛直線Y上に存在することになる。
【0055】
つまり、チルト制御が行われていなければ、ブレード30に対してピッチ制御を行った後であっても、アングル制御においてブレード30は常に鉛直線Yを回動中心線として回動することができる。
【0056】
図3を用いてピッチ制御を行う構成について説明する。ピッチング継手40のピッチング軸41は、球形状の第1軸部41aと同第1軸部41aの両端にそれぞれ延設された円柱状の第2軸部41b、41b’とから構成されている。第1軸部41aは、ピッチ支持リンク50の先端に取り付けられた2分割型の軸受部材51に係合している。
【0057】
2分割型の軸受部材51の内周面は、第1軸部41aの球形形状と補完する形状に形成されており、第1軸部41aを回動自在に支持している。2分割型の軸受部材51は、ボルト53により一体的に固定することができる。
【0058】
第2軸部41b、41b’の軸心S1と偏心円板42、42’の軸心S2とが間隔Eを隔てた状態で各第2軸部41b、41b’にそれぞれ軸着されている。偏心円板42、42’はそれぞれブラケット48の板部48b、48b’に形成した嵌合孔48a、48a’と嵌合している。
【0059】
ブラケット48はブレード30の背面に配設されている。一対の偏心円板42、42’のうち一方の偏心円板42には、フランジ部42aが形成され、フランジ部42aの一部には切り欠き部42bが形成されている。
【0060】
偏心円板42を板部48bに形成した嵌合孔48aと嵌合させて、フランジ部42aを板部48bの上面側に載置した後、板部48bの下面側に分割された摩擦板45を配置してボルト46によりフランジ部42aと摩擦板45とを締着させることで、偏心円板42を板部48bに固定することができる。
【0061】
一対の偏心円板42、42’のうち図3の下方側に配設される偏心円板42’は、ブラケット48の下側に配設した板部48b’に形成した段差部付きの嵌合孔48a’に嵌合させておくことができる。あるいは、下方側の偏心円板42’に板部48b’上に載置できるフランジ部を形成しておくこともできる。
【0062】
上述した構成では、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とは相対回転自在に構成されている例について説明を行ったが、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とは一体的に回転するように構成することもできる。この場合には、一対の偏心円板42,42’とピッチング軸41とを一体に成型することによっても、第2軸部41bと偏心円板との嵌合部における嵌合形状を多角形状等に形成することによっても、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とが一体回転するように構成することができる。
【0063】
また、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とを溶接により結合することによっても、一対の偏心円板42、42’及びピッチング軸41の一部又は全部を鋳造又は鍛造等により形成することによっても、一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とが一体回転するように構成することができる。
【0064】
前記偏心円板42の切り欠き部42b周縁には、複数のマーク43が形成されており、板部48b上に形成したマーク48cと前記マーク43との位置合わせを行うことにより、偏心円板42の第2軸部41bの軸心S1回りに回動する回動量を調整することができる。
【0065】
このとき、第2軸部41bを備えたピッチング軸41はピッチ支持リンク50に固定された軸受部材51によって支持拘束されているので、第2軸部41bの軸心S1の位置は移動しない。
【0066】
偏心円板42上には複数の突起44が固定されており、同突起44に図3中に2点斜線にて示したパイプ材91等の回動工具を当接させ、偏心円板42に回転トルクを与えることで偏心円板42を第2軸部41bの軸心S1回りに回動させることができる。偏心円板42を回動させたときの回動量は、前記マーク48cと前記マーク43との間での位置合わせにより調整することができる。
【0067】
偏心円板42を回動させるときは、前記ボルト46を緩めて摩擦板45との締着状態を解除しておく。偏心円板42の回動後は、ボルト46を締めて偏心円板42のフランジ部42aと摩擦板45とによって偏心円板42を板部48bに固定する。
【0068】
偏心円板42’においても偏心円板42と同様に、同偏心円板42’を回動させる図示せぬ突起及びマークを用いて第2軸部41b’の軸心S1を回動中心として回動させることができる。
【0069】
一対の偏心円板42、42’とピッチング軸41とを一体的に回転するように構成した場合には、偏心円板42の回動により偏心円板42’も一体的に回動させることができる。
【0070】
一対の偏心円板42,42’が第2軸部41bの軸心S1回りに回動することにより、図3中の矢印P2で示すように偏心円板42、42’は前後方向に移動する。これにより、偏心円板42、42’にそれぞれ嵌合している嵌合孔48a、48a’を介してブラケット48は、図3中の矢印P2で示すように前後に移動する。これにより、図2中の矢印Pに示したようにブレード30のピッチ制御を行うことができる。
【0071】
ピッチング継手40における上述した構成により、ピッチ支持リンク50前端部に配設したピッチ継手40の回動中心P1を前記鉛直線Y上に維持したままの状態で、ブレード30のピッチ制御を行うことができる。このため、ブレード30に対するピッチ制御状態に係わりなく、前記鉛直線Y回りでブレード30に対してアングル制御を行うことができる。
【0072】
尚、ブレード30に対してピッチ制御を行う場合、厳密に見るとブラケット48の板部48b、48b’は図3中の矢印P2の円弧状軌跡で移動し、同円弧状軌跡は図2に示したX軸周りの円弧とは必ずしも一致していない。そのため、ピッチ継手40の回動中心P1は前記鉛直軸Yから僅かのズレを生じることになる。しかし、同ズレのズレ量は大きなものではなく、実際上は上述したとおりピッチ継手40の回動中心P1は鉛直軸Y上に維持されているものとみなしても問題がない。
【0073】
これによって、ブレード30の下端縁を地面に対して平行状態を維持した状態でブレード30のアングル制御を行うことができる。このことを図4、図5を用いて更に説明する。
【0074】
図4は、本願発明に係わる構成を備えたブレード支持構造を用いてピッチ制御を行った後にアングル制御を行った場合についての説明図である。図5は、従来例のようにピッチ支持リンク70の長さを調整することによりピッチ制御を行うブレード支持構造を用いて、ピッチ制御後にアングル制御を行った場合についての説明図である。尚、図4及び図5はともに、ブレード30に対してチルト制御が行われていない状態での説明図となっている。
【0075】
図4(a)は、上述した偏心円板を回動させてブレード30にピッチ制御を行った状態を示している。実線で示す状態がピッチ制御を行う前の状態を示し、点線で示す状態が後方側にブレード30をピッチ制御した状態を示している。上述したように、本願発明のブレード支持構造でピッチ制御を行っても、自在継手31の回動中心B1とピッチング継手40の回動中心P1とを結んだアングル制御時の回動軸PAは、鉛直線Y上から外れることがない。
【0076】
図5(a)は、ピッチ支持リンク70に配設したターンバックル71を回動させてブレード30にピッチ制御を行った状態を示している。実線で示す状態がピッチ制御を行う前の状態を示し、点線で示す状態が後方側にブレード30がピッチ制御された状態を示している。ターンバックル71を縮小させることによりピッチ支持リンク70の長さが短くなり、ピッチ継手72が後方側に移動する。このため、自在継手31の回動中心B1とピッチング継手40の回動中心P1とを結んだアングル制御時の回動軸PAは、鉛直線Yから外れて後方に傾いた状態となる。
【0077】
図4(a)の点線で示すようにピッチ制御を行ったブレード30に対して、次にアングル制御を行ったときのブレード30の斜め側面図を図4(b)で示し、ブレード30の正面図を図4(c)に示している。同様に、図5(a)の点線で示すようにピッチ制御を行ったブレード30に対して、次にアングル制御を行ったときのブレード30の斜め側面図を図5(b)で示し、ブレード30の正面図を図5(c)に示している。
【0078】
図4(b)、(c)及び図5(b)、(c)における点線状態と2点鎖線状態とは、それぞれ図4(a)及び図5(a)のピッチ制御を行った点線状態から、異なったアングル角回動させた状態を示している。図4(b)、(c)に示すように、アングル制御を行ってブレード30に対して異なったアングル角の状態にしても、ブレード30の下端縁は地面に対して平行な状態を維持しておくことができる。
【0079】
これに対して、図5(b)、(c)に示すように、ピッチ制御を行った状態からブレード30の下端縁は地面に対して傾いた状態となっており、この状態からアングル制御を行うとブレード下端縁の一端部は距離Dの範囲で上下動することになる。
【0080】
このため、アングル制御を行った後にブレード30の下端縁が地面GLに対して平行な状態となるようにチルト制御を行わなければならなくなる。しかも、ブレード30のアングル角を変更するたび毎にチルト制御を行ってブレード30の下端縁が地面GLに対して平行な状態となるようにしなければならない。
【0081】
このように、本願発明では、ブレード30のピッチ制御状態に係わりなく、ブレード30の下端縁を地面と平行状態を維持させたまま、ブレード30を地面に平行な面内でアングル制御を行うことが可能となる。このため、整地作業における良好な作業精度と高い作業性能を実現させることができる。
【0082】
なお、上述の説明において偏心円板を手動にて回動させ、摩擦板を用いて回動した偏心円板をブラケットに固定する構成について説明を行ったが、本願発明は同構成に限定されるものではなく、例えば調整ネジ、油圧シリンダ等の駆動手段を用いて偏心円板の回動及び固定を行う構成としてもよい。
【0083】
また、上述したように実施例では、図1に示すようにチルト制御用シリンダ23の一端部を回動自在に支持しているブラケット27の回動中心T1も鉛直線Y上に配設している。このため、アングル制御時に前記回動中心T1の位置が移動することがなく、アングル制御時にブレード30のチルト角が変化してしまうことがない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
少なくとも2軸回りの回転による回転制御を行うものにおいて、一方の軸周りの回動にとって他方の軸回りの回転軸が移動しないことを必要とする装置等において、本願発明を適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともブレードのピッチ角及びアングル角を調整可能としたブルドーザのブレード支持構造において、
ブレード昇降用フレームの前部に配設され、前記ブレードを回動自在に、かつ同ブレードの背面を支持する自在継手と、
一端を前記ブレード昇降用フレームに回動自在に支持され、他端をブレード背面のブラケット側に接続するピッチ支持リンクと、
前記ピッチ支持リンクの他端と前記ブレード背面のブラケットとを接続するピッチング継手とを備え、
前記ピッチング継手は、前記ピッチング継手の回動中心と前記ブレード背面との間隔を調整可能とする機構を有し、
前記ブレードのチルト角がゼロ度のときにおける前記自在継手の回転中心とピッチング継手の回動中心とが常に同一鉛直線上に配設されてなるブレード支持構造。
【請求項2】
請求の範囲第1項記載のブレード支持構造において、
前記ピッチング継手の回動中心と前記ブレード背面との間隔を調整可能とする機構として、
前記ピッチング継手のピッチング軸が、偏心円板に対して回動自在に支持され、
前記偏心円板の外周面に嵌合する嵌合孔が、前記ブレード背面のブラケットに形成されてなるブレード支持構造。
【請求項3】
請求の範囲第1項記載のブレード支持構造において、
前記ブレード背面のブラケットに嵌合される偏心円板と前記ピッチング継手のピッチング軸とを一体成型し、前記ブレード背面のブラケットに対し前記偏心円板と前記ピッチング継手のピッチング軸とが一体的に回転可能であるブレード支持構造。
【請求項4】
請求の範囲第1項記載のブレード支持構造において、
前記ピッチング継手のピッチング軸が、前記ブレード背面のブラケットに嵌合される偏心円板に回転自在に支持され、前記偏心円板と前記ピッチング継手のピッチング軸とが相対的に回転可能であるブレード支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/056932
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516082(P2005−516082)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017547
【国際出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)