説明

ブルーミング防止剤

【課題】含ハロゲン樹脂の鉛系熱安定剤を低毒性の熱安定剤に代替すると生じる、成形品を水に含浸すると成形品表面が折出物で白化するブルーミング(水浸漬時の表面白化)問題、を防止する剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)
【化1】


(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、xおよびyはそれぞれ次の範囲、0<x<0.2、0≦y<0.1にある)で表される銅を含有する水酸化カルシウム系または水酸化マグネシウム系固溶体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤に関する。さらに詳しくは、銅が固溶した水酸化カルシウム系固溶体を有効成分とする含ハロゲン樹脂のブルーミング(水に浸漬した場合、成形体表面への内部からの物質移動折出による表面白化)防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
含ハロゲン樹脂には熱安定剤、滑剤、可塑剤等が多く配合される。水に浸すと、成形体表面に配合剤が折出して、表面が白くなる現象をブルーミングと言い、製品表面の汚れ、電気抵抗、接着性および印刷性の低下等の問題を生じる。そのため、塩ビ電線等において、その熱安定性に悪影響を及ぼすこと無く、ブルーミングを防止することは、製品の機能、価値を維持するため必要不可欠である。しかし、その様な要求を満たすブルーミング防止剤として、効果の高いものは殆ど無いのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
含ハロゲン樹脂は、加熱溶融して加工する段階で、樹脂の分解を防ぐために熱安定剤が使用される。この熱安定剤に対する無毒性、低毒性の社会的要求から、今まで大量に使用されてきた鉛系安定剤が使用禁止になりつつある。鉛系安定剤は、塩ビ電線の熱安定剤として、電気絶縁性、熱安定性、耐ブルーミング性、全てに優れている。しかし、鉛系安定剤を毒性の低いCa/Zn系複合金属石けん、およびハイドロタルサイト系等に置換すると、ブルーミングが極めて強くなるという新たな課題に遭遇した。この課題を解決しなければ、電気絶縁性等に重大な欠陥を生じ、安全な上記安定剤による鉛系安定剤の代替を困難にする。したがって、本発明は上記低毒性の熱安定剤のブルーミング性を阻止し、熱安定性を低下させない安全な(低毒性の)含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記式(1)または下記式(2)
【化1】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、xおよびyはそれぞれ次の範囲、0<x<0.2、好ましくは0.005≦x≦0.1、特に好ましくは0.01≦x≦0.06、0≦y<0.1にある)
【化2】

(但し、式中、An−はn価のアニオンを示し、xとyは式(1)と同じ範囲を示し、zとmはそれぞれ次の範囲、0<z<0.4、好ましくは0.01≦z≦0.33、0≦mにある)で表される銅を含有する水酸化カルシウム系または水酸化マグネシウム系固溶体を有効成分として含有する低毒性の含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、有毒な鉛系安定剤に替わる低毒性安定剤の欠点であるブルーミング性を顕著に改善できる。しかも、本発明ブルーミング防止剤は、カルシウムおよび/またはマグネシウムを主成分とし、それに銅または、銅と亜鉛、またはアルミニウムが構成要素として加わったものであるため、低毒性で安全性が高い。さらに、本発明ブルーミング防止剤は、含ハロゲン樹脂の熱安定性を向上させる効果も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
式(1)で表される本発明のブルーミング防止剤は、水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムと同じ結晶構造を有する化合物であり、前者は本発明者が発明した化合物(特開平6−72709)である。本発明のブルーミング防止剤としての効果の発現は、銅が適量固溶した水酸化カルシウムまたは水酸化マグネシウムによる。したがって、アルミニウムおよび亜鉛は必須としないが、初期着色低減等の効果がある。固溶する銅が少な過ぎるとブルーミング防止効果が低下し、逆に多過ぎるとブルーミング防止効果も熱安定効果も低下する傾向にある。したがって、xの好ましい範囲は0.005≦x≦0.1、特に好ましくは0.01≦<x≦0.06である。式(2)のブルーミング防止剤は、水酸化カルシウムに銅とアルミニウムまたはさらに亜鉛が固溶した化合物であり、結晶構造はハイドロカルマイト類に属する。ブルーミング防止剤としての効果の発現は、式(1)の化合物と同様、銅が適量固溶した水酸化カルシウムおよび/または水酸化マグネシウムによると考えられる。その中でも最も効果の高いのは、CaとCuの組合せの下記式(3)
【化3】

(但し、式中、xおよびyは式(1)と同じ範囲であり、好ましいxの範囲は、0.005≦x≦0.1、特に好ましくは0.01≦x≦0.06にある)で表される水酸化カルシウム系固溶体である。
【0007】
本発明のブルーミング防止剤は、1次粒子、2次粒子共に小さいものが好ましい。具体的には、1次粒子の大きさを示すBET比表面積が好ましくは5m/g以上、特に好ましくは10m/g以上である。同時に粒度分布測定から求められる2次粒子径の大きさが、累積50%の平均2次粒子径で、好ましくは2.0μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。
【0008】
本発明のブルーミング防止剤は、そのまま用いることも出来るが、含ハロゲン樹脂との相溶性を良くするために、アニオン系界面活性剤等の表面処理剤で表面処理することが好ましい。表面処理剤としては、例えば高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、リン酸エステル、シラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤、多価アルコールと脂肪酸のエステル類、アニオン系界面活性剤(アセチルスルホコハク酸系、アルキルサルフェート系、硫酸エステル系、アシルメチルタウリン酸系、アルキルベンゼンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、ザルコシン系等)、およびオレフィン−マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩等を挙げることが出来る。
【0009】
表面処理剤による式(1)および式(2)のブルーミング防止剤の表面処理は、それ自体公知の方法により実施出来る。例えば式(1)の固溶体のスラリーに該表面処理剤を液状またはエマルジョン状で加え、約100℃までの温度で機械的に十分混合する。或いは、式(1)または式(2)の固溶体に、表面処理剤粉末をそのまま、または適当な溶媒に希釈または分散させて添加し、加熱または非加熱下に十分に混合する。表面処理剤の添加量は適宜選択出来るが、該固溶体の重量に基づいて、0.1〜10重量%とするのが好ましい。
【0010】
本発明のブルーミング防止剤の製造は、Ca、Cu、Mg、Zn、Alの水溶性塩、例えば塩化物、硝酸塩、酢酸塩の水溶液と、これ等金属とほぼ当量以上のアルカリ、例えば水酸化ナトリウム水溶液とを共沈させる方法、または水酸化カルシウムにCuまたは、CuとMgおよび/またはZn、またはさらにAlの水溶性塩の水溶液を攪拌下に添加反応させる方法により製造出来る。好ましい製造方法は前者である。上記方法で製造された固溶体は、その後、表面処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥、粉砕、分級の各工程を適宜選択して最終製品とすることが出来る。
【0011】
本発明で言う含ハロゲン樹脂としては、例えば次の様なものが例示される。ポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩化ビニルと酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、スチレン、イソブチレン、塩化ビニリデン、スチレン−無水マレイン酸、スチレン−アクリロニトリル、塩素化プロピレン、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、アンクリル三エステル、マレイン酸エステル、メタクリル三エステル、アクリロニトリルおよび各種ビニルエーテルとの共重合体等の含塩素樹脂。これら含塩素樹脂相互のあるいは他の塩素を含まない合成樹脂とのブレンド品、ブロック共重合体、グラフト共重合体等。
【0012】
本発明のブルーミング防止剤が特に好ましく適用される分野は、可塑剤を多く配合する電線フィルム、シート、レザー等のいわゆる軟質塩ビ樹脂である。併用する熱安定剤としては、ハイドロタルサイト類および/またはCa/Zn系複合金属石けん等の無毒〜低毒性の熱安定剤である。
【0013】
本発明のブルーミング防止剤と含ハロゲン樹脂および可塑剤、熱安定剤等の他の添加剤との混合、混練は、両者を均一に混合出来る慣用の方法を採用出来る。例えば一軸または二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー等の任意の混合混練手段を採用出来る。成形方法にも特に制約は無く、例えば射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、回転成形、カレンダー成形、シートフォーミング成形、トランスファー成形、積層成形、真空成形等の任意の成形手段を採用出来る。
【0014】
以下、実施例実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0015】
塩化カルシウムと硝酸第二銅の混合水溶液(Ca=0.98モル/リットル,Cu=0.02モル/リットル)と2モル/リットルの水酸化ナトリウムの水溶液を容量3リットルのオーバーフロー付き反応槽に、予め1リットルの水(約30℃)を加え、ケミスターラーで攪拌しつつ、それぞれ定量ポンプで100ml/分、約100ml/分供給し、反応pHを約12.8〜13.2(約30〜35℃)に、水酸化ナトリウム水溶液の流量を微調整して約30分、共沈反応させた。乾燥物の換算で約200gの反応物スラリーをステンレス容器に入れ攪拌しつつ、65℃まで加温し、予め4.5gのステアリン酸ソーダ(純度90%)を溶解した水溶液約100ml(約70℃)を攪拌下に加え、表面処理を行った。この後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕した。この粉末を塩酸に溶解後、キレート滴定法で化学組成を調べた結果、Ca0.98Cu0.02(OH)であった。液体窒素吸着法で測定したBET比表面積は12m/g、レーザー回析法により、予めイソプロピルアルコール中に入れ、5分間超音波処理した後、測定した累積50%の平均2次粒子径は0.9μmであった。
【実施例2】
【0016】
生石灰115gを2リットルの温水(約40℃)に攪拌しながら加え、約20分間消化反応を行った後、攪拌しつつ、0.4モル/リットルの硝酸第二銅水溶液を200ml徐々に加え反応させた。反応物を加熱して、約60℃にした後、純度98%のラウリン酸3.0gに当量より少し多い量の水酸化ナトリウムを加え、約60℃で水に溶解した水溶液100mlを攪拌下に加え、表面処理を行った。この後、100メッシュの篩を通し、ろ過、水洗、乾燥、粉砕した。得られた粉末の化学組成はCa0.96Cu0.05(OH)、BET比表面積は10m/g、累積50%の平均2次粒子径は1.0μmであった。
【実施例3】
【0017】
実施例1において、金属塩水溶液として、塩化マグネシウムと塩化第二銅(Mg=0.94モル/リットル,Cu=0.06モル/リットル)用い、pHを約10.2〜10.5に保って反応する以外は、実施例1と同様に行った。得られた粉末の化学組成はMg0.94Cu0.04(OH)、BET比表面積は30m/g、累積50%の平均2次粒子径は1.2μmであった。
【実施例4】
【0018】
塩化カルシウムと塩化第二銅および塩化アルミニウムの混合水溶液(Ca=0.95モル/リットル,Cu2+=0.2モル/リットル)2リットルを2モル/リットルの水酸化ナトリウム1.3リットルに攪拌下に加え、約30℃で共沈させた。この後、70℃まで加温し、3gのステアリン酸ソーダ(純度90%)を溶解した約100mlの水溶液(約70℃)を加え表面処理し、その後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕した。この粉末の化学組成は、化学分析と熱分析の結果、Ca0.75Cu0.05Al0.2(OH)(OH)0.2・0.4HOであり、BET比表面積が18m/g、累積50%の平均2次粒子径が1.1μmであった。
【0019】
[ブルーミング試験]下記処方で均一に混合後、オープンロールを用いて、160℃で5分間混練後、プレス成型機を用い、170℃で5分間加圧し、厚さ約1mmのシートに成型した。
ポリ塩化ビニル(TK−1000) 100重量部
DOP 25重量部
DINP 25重量部
重質炭酸カルシウム 30重量部
Ca−Zn系複合金属石けん安定剤 3重量部
カーボンブラック 0.4重量部
ブルーミング防止剤 0.05〜0.2重量部
このシートから5cm角のテストピースを切り出し、容量200mlのビーカーに入れ、水道水を200ml加え、70℃のオーブンに入れ、24時間静置した。テストピースを取り出し、表面の白化度を目視で評価した。その結果を表1に示す。
【0020】
前記処方において、カーボンブラックだけを省いた処方で同様にしてテストピースを作成し、これを190℃のオーブンに入れ、熱安定性(黒化するまでの時間)を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
「比較例1」
実施例1において、塩化カルシウムと硝酸第二銅の混合水溶液の濃度をCa2+=0.7モル/リットル,Cu2+=0.3モル/リットルに変更する以外は実施例1と同様に行った。生成した粉末の化学組成はCa0.7Cu0.3(OH)であり、BET比表面積6m/g、累積50%の平均2次粒子径1.5μmであった。この粉末の評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、実施例1〜3で製造された本発明のブルーミング防止剤は、全く白化が無く、優れたブルーミング防止機能を有することが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(但し、式中、M2+はCaおよび/またはMgを示し、xおよびyはそれぞれ次の範囲、0<x<0.2、0≦y<0.1にある)で表される銅を含有する水酸化カルシウム系固溶体を有効成分として含有することを特徴とする含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤。
【請求項2】
式(1)において、さらにAlを含有する下記式(2)
【化2】

(但し、式中、An−はn価のアニオンを示し、x、y、zおよびmはそれぞれ次の範囲、0<x<0.2、0≦y<0.1、0<z<0.4、0≦mにある)で表される銅を含有する水酸化カルシウム系固溶体を有効成分として含有する含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤。
【請求項3】
下記式(3)
【化3】

(但し、式中、xおよびyはそれぞれ次の範囲、0<x<0.2、0≦y<0.1にある)で表される式(1)のM2+がCaである請求項1記載の含ハロゲン樹脂のブルーミング防止剤。
【請求項4】
式(1)および式(2)のブルーミング防止剤が、高級脂肪酸、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、リン酸エステル、シラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤、多価アルコールと脂肪酸のエステル類、アニオン系界面活性剤およびオレフィン−マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩から選ばれた少なくとも1種の表面処理剤により表面処理されたものであることを特徴とする請求項1、2および3記載のブルーミング防止剤。

【公開番号】特開2006−199890(P2006−199890A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15559(P2005−15559)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】