説明

ブレーカークッション用ゴム組成物およびそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤ

【課題】tanδを低減し、複素弾性率を向上させ、さらに、使用中の破断時伸びの低下を抑制することができるブレーカークッション用ゴム組成物、およびそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、硫黄を1.8〜3.0重量部、および酸化亜鉛を1.0〜3.7重量部配合するブレーカークッション用ゴム組成物、ならびにそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカークッション用ゴム組成物およびそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーカーのエッジ部(ブレーカーエッジ)とケースとの間には、ブレーカークッションとよばれる層が設けられている。ブレーカークッションは、トレッドから伝播するダメージを緩和し、トレッド全体の発熱を低減する役割がある。一般に、ブレーカークッションが隣接するブレーカーおよびケースは、硫黄を高充填しているので、硫黄が、高濃度側であるブレーカーやケースから、低濃度側であるブレーカークッションへ若干(通常0.2〜0.4重量部)移動する。そのため、架橋密度が上昇し、破断強度が低下し、ブレーカーエッジ部のセパレーションがブレーカークッション内を容易に進行しやすくなってしまう。
【0003】
硫黄の移動は、加硫温度を高くすれば抑制されるが、ポリマー鎖の切断が顕著となり、破断強度の低下がますます顕著となってしまう。
【0004】
そこで、ブレーカークッション用の配合としては、一般に、硫黄の含有量を低減(2〜3重量部)させ、補強用充填剤の含有量も低減させ、架橋度(Swell)を大きくしている(たとえば、特許文献1参照)。しかし、走行中に、高硫黄の配合である隣接するブレーカーやプライから硫黄が流入し、ゴムが硬化し、酸化亜鉛が破壊核となって破断するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−161862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、tanδを低減し、複素弾性率を向上させ、さらに、使用中の破断時伸びの低下を抑制することができるブレーカークッション用ゴム組成物、およびそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、硫黄を1.8〜3.0重量部、および酸化亜鉛を1.0〜3.7重量部配合するブレーカークッション用ゴム組成物に関する。
【0008】
前記酸化亜鉛は、平均粒子径が200nm以下の微粒子酸化亜鉛であることが好ましい。
【0009】
前記酸化亜鉛の配合量は、前記硫黄の配合量の1.2〜2.4倍であることが好ましい。
【0010】
前記ブレーカークッション用ゴム組成物は、さらに、シトラコンイミド化合物および有機チオスルフェート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の加硫促進補助剤を0.2〜2.0重量部配合することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記ブレーカークッション用ゴム組成物を用いたブレーカークッションを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジエン系ゴム、硫黄および粒径の小さい酸化亜鉛を所定量含有することで、tanδを低減し、複素弾性率を向上させ、さらに、使用中の破断時伸びの低下を抑制することができるブレーカークッション用ゴム組成物、およびそれを用いたブレーカークッションを有するタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のブレーカークッション用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、硫黄および酸化亜鉛を含有する。
【0014】
ジエン系ゴムとしては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などがあげられ、これらのジエン系ゴムはとくに制限はなく、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。一般に、破断強度に優れることから、NRやIRが使用され、NRおよびIRを組み合わせて使用することが主流である。
【0015】
硫黄としては、加工中にブルームしにくいという理由から、不溶性硫黄が好ましく、具体的には、フレキシス製のクリステックスHSOT20、三新化学工業(株)製のサンフェルEXなどがあげられる。
【0016】
硫黄の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して1.8重量部以上、好ましくは2.0重量部以上である。硫黄の配合量が1.8重量部未満では、複素弾性率(E*)が低下し、tanδが増大してしまう。また、硫黄の配合量は3.0重量部以下、好ましくは2.7重量部以下である。硫黄の含有量が3.0重量部をこえると、破断強度および破断時伸び(EB)が低下し、ブレーカーエッジ部のセパレーションがブレーカークッション内を進行しやすくなってしまう。なお、硫黄として不溶性硫黄を使用する場合、硫黄の配合量とは、オイル分を除いた純硫黄分の配合量のことをいう。
【0017】
酸化亜鉛としては、ゴム工業で従来から使用される酸化亜鉛(東邦亜鉛(株)製の銀嶺R、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛など)や、平均粒子径が200nm以下の微粒子酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2など)などがあげられるが、とくに制限はない。
【0018】
酸化亜鉛として微粒子酸化亜鉛を使用する場合、微粒子酸化亜鉛の平均粒子径は200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。微粒子酸化亜鉛の平均粒子径が200nmをこえると、従来から使用される酸化亜鉛と比較して、分散性や物性において、改善効果が顕著ではない傾向がある。また、微粒子酸化亜鉛の平均粒子径は20nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。微粒子酸化亜鉛の平均粒子径が20nm未満では、酸化亜鉛の平均粒子径が、シリカやカーボンブラックの一次粒子径より小さくなり、分散性の向上が期待できない傾向がある。
【0019】
酸化亜鉛の配合量は、ゴム成分100重量部に対して1.0重量部以上、好ましくは2.0重量部以上である。酸化亜鉛の配合量が1.0重量部未満では、加硫戻りにより、充分な硬度(Hs)が得られない。また、酸化亜鉛の配合量は3.7重量部以下、好ましくは3.0重量部以下である。酸化亜鉛の配合量が3.7重量部をこえると、走行によりゴムが硬化した場合、破断強度が低下しやすい。
【0020】
本発明では、酸化亜鉛の配合量は、硫黄の配合量の1.2倍以上が好ましく、1.4倍以上がより好ましい。酸化亜鉛の配合量が硫黄の配合量の1.2倍未満では、加硫戻りが生じやすく、Hsが低い傾向がある。また、酸化亜鉛の配合量は、硫黄の配合量の2.4倍以下が好ましく、2.0倍以下がより好ましい。酸化亜鉛の配合量が硫黄の配合量の2.4倍をこえると、必然的に酸化亜鉛の配合量が増大し、とくに、ゴム工業で従来から使用される大粒径の酸化亜鉛を使用した場合、練り込み不足、分散性不足の場合には、破断強度が低下する場合がある。
【0021】
本発明では、とくに、微粒子酸化亜鉛を使用する場合には、硫黄および酸化亜鉛の含有量は、下記一般式を満たすことが好ましい。
(酸化亜鉛の含有量)=(硫黄の含有量)×α×β
(式中、αは係数を表し、1.2〜2.4が好ましく、βは酸化亜鉛の活性度を表す。)
【0022】
式中、αは1.2〜2.4が好ましく、1.4〜2.0がより好ましい。αが1.2未満では、加硫戻りが生じやすく、Hsが低い傾向があり、2.4をこえると、必然的に酸化亜鉛の配合量が増大し、とくに、ゴム工業で従来から使用される大粒径の酸化亜鉛を使用した場合、破断強度が低下する傾向がある。
【0023】
また、βは酸化亜鉛の活性度を表し、平均粒径、比表面積および分散度が総合的に関与し、決定される。具体的には、ラボ練り工程において、たとえば、基準として、東邦亜鉛(株)製の銀嶺Rを4.0重量部配合した場合、評価したい酸化亜鉛の配合量を変量していき、等価のHsが得られた配合量と、銀嶺Rの配合量4.0重量部とを比較することにより、決定できる。この手法によると、たとえば、ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2では、βは0.5であり、東邦亜鉛(株)製の銀嶺Rでは、βは1.0である。
【0024】
本発明では、加硫促進補助剤として、シトラコンイミド化合物または有機チオスルフェート化合物を含有することが好ましい。
【0025】
シトラコンイミド化合物としては、熱的に安定であり、ゴム中への分散性に優れるという理由から、ビスシトラコンイミド類が好ましい。具体的には、1,2−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,4−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、1,6−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン、2,3−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,4−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,5−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、2,6−ビスシトラコンイミドメチルトルエン、1,2−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,3−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,4−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、1,6−ビスシトラコンイミドエチルベンゼン、2,3−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,4−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,5−ビスシトラコンイミドエチルトルエン、2,6−ビスシトラコンイミドエチルトルエンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、ゴム中への分散性に優れるという理由から、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンが好ましい。
【0026】
1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンとは、下記化学式で表されるものである。
【0027】
【化1】

【0028】
有機チオスルフェート化合物とは、下記一般式で表されるものである。
MO3S−S−(CH2m−S−SO3
(式中、mは3〜10であり、Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトである。また、結晶水を含有していてもよい。)
【0029】
mは3〜10が好ましく、3〜6がより好ましい。mが2以下では、充分な耐熱疲労性が得られない傾向があり、mが11以上では、分子量が増大するわりに耐熱疲労性の改善効果が小さい傾向がある。
【0030】
Mはリチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ニッケルまたはコバルトが好ましく、カリウムまたはナトリウムが好ましい。
【0031】
また、分子内に結晶水を含んでいてもよい。
【0032】
具体的には、ナトリウム塩1水和物、ナトリウム塩2水和物などがあげられ、経済的理由から、チオ硫酸ナトリウムからの誘導体、例えば1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物が好ましい。
【0033】
1,6−ヘキサメチレンジチオ硫酸ナトリウム・2水和物とは、下記化学式で表されるものである。
【0034】
【化2】

【0035】
前記2種の加硫促進補助剤のなかでは、分子構造中に硫黄を含有しないため、熱的に安定であり、さらに、架橋の際に硫黄を放出することなく、初期加硫速度を過度に速くすることがないという理由から、1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼンが好ましい。
【0036】
加硫促進補助剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上が好ましく、0.3重量部以上がより好ましい。加硫促進補助剤の配合量が0.2重量部未満では、硫黄架橋度が促進されず、複素弾性率(E*)や、破断強度の改善効果が見られない傾向がある。また、加硫促進補助剤の配合量は2.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以下がより好ましい。加硫促進補助剤の配合量が2.0重量部をこえると、配合する硫黄の配合量に比較して多すぎるため、複素弾性率(E*)や、破断強度の改善効果が飽和する傾向がある。
【0037】
加硫促進補助剤として、タイヤ工業で通常使用される老化防止剤、ステアリン酸などは必要に応じて適宜含有することができる。
【0038】
本発明のブレーカークッション用ゴム組成物には、ジエン系ゴム、硫黄、酸化亜鉛、加硫促進補助剤以外にも、タイヤ工業で通常使用される配合剤、たとえば、加硫促進剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0039】
加硫促進剤を配合する場合、タイヤ工業で通常使用されるN−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなどを使用することができる。
【0040】
本発明のゴム組成物は、破壊核となる酸化亜鉛の配合量をできるだけ抑制し、それでもなお、新品時の破断強度および走行して硬化した後の破断強度をともに高次元に保てるという理由から、とくに、ブレーカとケースとの間のブレーカークッションに好適に使用されるものである。
【0041】
本発明のタイヤは、本発明のブレーカークッション用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のブレーカークッション用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのブレーカークッションの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成形機上にて、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明のタイヤを得る。
【実施例】
【0042】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0043】
以下、実施例および比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴム(NR):TSR20
イソプレンゴム(IR):JSR(株)製のIR2200
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のBR150B
酸化亜鉛(1):東邦亜鉛(株)製の銀嶺R(平均粒径:290nm、β:1.0)
酸化亜鉛(2):ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−2(平均粒径:130nm、β:0.5)
ステアリン酸:日本油脂(株)製
老化防止剤6C:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
不溶性硫黄:フレキシス社製のクリステックスOT20(オイル20%処理、純硫黄分80重量%)
加硫促進補助剤(1):フレキシス社製のPERKALINK900(1,3−ビスシトラコンイミドメチルベンゼン)
【0044】
【化3】

【0045】
加硫促進補助剤(2):フレキシス社製のデュラリンクHTS(ヘキサメチレンビスチオサルフェート2ナトリウム塩2水和物)
【0046】
【化4】

【0047】
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0048】
実施例1〜7および比較例1〜7
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進補助剤(2)および加硫促進剤以外の薬品を混練りし、混練り物を得た。つぎに、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤(2)および加硫促進剤を添加して練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、実施例1〜7および比較例1〜7の加硫ゴム組成物を得た。
【0049】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターVESを用いて、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、70℃における各配合の複素弾性率(E*)およびtanδを測定した。なお、tanδが小さく、E*が大きいほど好ましいことを示す。
【0050】
(引張試験)
JIS K 6251「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、前記加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型ゴム試験片を用いて引張試験を実施し、熱老化前の試験片の破断時伸び(熱老化前EB)を測定した。また、厚さ2mmのブレーカークッション用ゴム組成物を、温度100℃の条件下で72時間、熱酸化劣化させた。その後、ブレーカークッション用ゴム組成物の部分から3号ダンベル型ゴム試験片を切り取り、熱老化前と同様に、熱老化後の試験片の破断時伸び(熱老化後EB)を測定した。さらに、熱老化前EBおよび熱老化後EBから、熱老化前後のEB低下量(熱老化前EB−熱老化後EB)を算出した。なお、熱老化前EBおよび熱老化後EBについては大きいほど、熱老化前後のEB低下量については小さいほど、好ましいことを示す。
【0051】
前記評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、
硫黄を1.8〜3.0重量部、および
酸化亜鉛を1.0〜3.7重量部配合するブレーカークッション用ゴム組成物。
【請求項2】
酸化亜鉛が、平均粒子径が200nm以下の微粒子酸化亜鉛である請求項1記載のブレーカークッション用ゴム組成物。
【請求項3】
酸化亜鉛の配合量が、硫黄の配合量の1.2〜2.4倍である請求項1または2記載のブレーカークッション用ゴム組成物。
【請求項4】
さらに、シトラコンイミド化合物および有機チオスルフェート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の加硫促進補助剤を0.2〜2.0重量部配合する請求項1、2または3記載のブレーカークッション用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のブレーカークッション用ゴム組成物を用いたブレーカークッションを有するタイヤ。

【公開番号】特開2008−56801(P2008−56801A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235290(P2006−235290)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】