ブレース構造による制振装置付門型フレーム
【課題】 従来のラーメン構造の鉄骨架構、あるいは木材架構は、曲げ抵抗を保持するため柱、梁断面を大きくしなければならず、しかも曲げ抵抗に対してエネルギーを吸収できないため、鉛直振動に対しても地震動に対しても変形が大きくなってしまっている。
【解決手段】 上弦材である柱1と梁2からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱1の下部3から梁2に向って斜めに設けた第一下弦材4と、梁中央部5から柱1に向って斜めに設けた第二下弦材6と、この第一下弦材4と第二下弦材6の交点7と接合する長さの短い第一斜材8を、柱1と梁2の交点7である角部9から設け、さらに梁2の中央部より柱1側に寄った適宜部位に第二斜材10を、第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8の交点7に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて第一斜材8及び、または第二斜材10に制振装置11を設けたブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【解決手段】 上弦材である柱1と梁2からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱1の下部3から梁2に向って斜めに設けた第一下弦材4と、梁中央部5から柱1に向って斜めに設けた第二下弦材6と、この第一下弦材4と第二下弦材6の交点7と接合する長さの短い第一斜材8を、柱1と梁2の交点7である角部9から設け、さらに梁2の中央部より柱1側に寄った適宜部位に第二斜材10を、第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8の交点7に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて第一斜材8及び、または第二斜材10に制振装置11を設けたブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレース構造のラーメン構法による門型フレームに制振装置を設けた構造に係り、特に都会における住宅は敷地が狭く、駐車場を確保するために1階にガレージを設ける等、1階に間口を広く取れるラーメン構造が望まれている。この要望に答えるために発明された狭小地における木造住宅向けに短材で構成できる門型フレームで、さらに木造住宅で開口部の部分に組み込まれた建物の振動を制振するように構成した制振装置付門型フレームに関するもので、安価で、簡単かつ短時間で構築できるものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、開口部を確保するための門型フレームとしては、図8のようなラーメン構造が一般的であり、それは密実な断面によって曲げ抵抗する構造である。このラーメン構造は、密実な柱1、梁2とそれをつなぐ剛に近い接合部から構成される。そして、地震による震動が建物に伝播されると、柱1と梁2、そして接合部は曲げ抵抗をして地震動に抵抗する。
しかし、さらに建物の震動に対して高い制振性能を持たせるためには、制振装置が必要になる。この制振装置としては、高減衰ゴムの減衰力により建物の水平方向の振動を制振する装置が求められている。この制振装置は一般的には図9のように、建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込むことにより制振性能を発揮するものが考えられている。
一方、ブレース構造において、図10のような架構形式がある。この架構はトラスであるため、接点はピン接合で、地震動による水平力に対し軸力で抵抗する。よって、基本的にトラス部材には軸力のみが生じ、曲げが生じない。ただし、中・長期的な鉛直荷重に対しては上弦材(梁)2に曲げが生じる。また、ラーメン構造の鉄骨柱、鉄骨梁を骨組みとした鉄骨架構内に、一般の建築用鋼材からなるブレース材を連結した構造のものもある。ブレース材の上端は上部の鉄骨梁に連結している。また、ブレース材の下端は、連結部材、制振部材を介して鉄骨柱及び下部の鉄骨梁に連結している。ここで、制振部材は、ブレース材の座屈耐力以下でせん断、又は曲げにより塑性変形する極軟鋼を材料とし、長尺なパネル体に形成している。そして、この制振部材は、ブレース材の他端に連結部材を介して直交して連結している鉄骨架構の制振ブレース構造(例えば、特許文献1を参照)が存在している。
【特許文献1】特開平10−317711号公報(特許請求の範囲の欄、発明の詳細な説明の欄の{発明を実施の形態}の欄の段落{0009}〜{0019}、及び図1、図2を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術において、前者の図8に示すように構成されたラーメン構造においては、曲げ抵抗するため柱1、梁2の断面が大きくなり、さらに接合部でも曲げモーメントを伝達するために接合部が大きくなってしまった。また、木材は曲げ抵抗に対してエネルギーを吸収できないため、鉛直振動に対しても地震動に対しても変形が大きくなってしまっていた。このラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を図6に示す。この図によるラーメン構造の架構は、当然ではあるが構成部材の断面が大きくなり、かつ柱1に関しては通し柱にするため部材が長くなる。特に、都会の狭小地では架構の組み立てにおいて、部材を置く場所の確保、組み立てるための揚重機の配置に苦慮していた。
一方、図10の架構形式は一般的に開口部を確保する目的では用いないが、本発明ではこの架構形式を採用して主に開口部を確保し、斜材部材に制振装置を組み込むために応用する。前述の通り、この架構はトラスであるため、水平力に対しトラス部材には軸力のみが生じ、曲げは生じないが、中・長期的な鉛直荷重に対しては上弦材である梁2に曲げが生じる。ゆえに、たわみ振動の問題から梁2は大きくなりがちで、この梁2に関し、モデルケースの2階建て住宅においては、図7に示す通り、梁の断面が120mm×360mmとなった。この梁2を小さくすることが組み立ての効率化、コストダウンにおいて重要であった。また、架構の特性上、トラス部材に生じる軸力は大きく、軸力に対して一般的な接合部{鋼板挿入型二面せん断接合(例えば、図5の(c)に示す通り、木材に切開をし、切開に鋼板15を挿入し、ボルトやドリフトピンで木材と鋼板を接合するものである。)}を設計すると、図11、図12に示す通り、特に長さの短い斜材8の接合部に接合具14(ドリフトピン)を多数本配置しなければならず、短い部分に密に接合具14を配置することによる斜材の強度の低下や応力の伝達の確実性に心配があった。
また、前述の通り一般的に制振装置は図9のように建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込むことにより制振性能を発揮するものである。しかしながら、木造の制振装置の分野では、耐力壁を持たずに開口部を確保する目的で用いる門型フレームにおいて、制振性能を持つ構法は皆無である。
また、特許文献1に示されたラーメン構造の鉄骨柱、鉄骨梁を骨組みとした鉄骨架構内に、一般の建築用鋼材からなるブレース材を連結した構造において、前記ブレース材の一端を前記鉄骨架構内の一部に連結するとともに、前記ブレース材の他端を、当該ブレース材の座屈耐力以下で塑性変形する制振部材を介して前記鉄骨架構内の他の部位に連結した鉄骨架構の制振ブレース構造という構造のため、同様に木材で架構を形成するには、曲げ抵抗を保持するため柱、梁断面を大きくしなければならず、しかも曲げ抵抗に対してエネルギーを吸収できないため、鉛直振動に対しても地震動に対しても変形が大きくなってしまうという問題がある。
本発明はこれらの問題を解決したブレース構造による制振装置付門型フレームである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の第1発明は、請求項1に記載された通りのブレース構造による制振装置付門型フレームであり、次のようなものである。
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設ける構成である。
【0005】
上記課題を解決するための本発明の第2発明は、請求項2に記載された通りのブレース構造による制振装置付門型フレームであり、次のようなものである。
請求項1記載の発明における、長さの短い第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込み、ボルト等の固定具で接合する構成である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るブレース構造による制振装置付門型フレームは、上記説明のような構成を有するので、以下に記載する効果を奏する。
(1)第二斜材を加えることにより、上弦材である梁をスパン中央で二分割でき、梁が短くなり、かつ断面が小さくなる(モデルケースでは120mm×360mm;長さ6m×1本→120mm×180mm;長さ3m×2本になり、全てのトラス部材の長さが3m以下となる。)このことにより、木造住宅レベルの架構の組み立てであれば、揚重機が要らず人力で組み立てが可能である。
(2)第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込むことにより、木材のめり込みを利用した接合部が可能になり、多数本の接合具を配置する必要がなくなり、接合部に無理がなくなる。
(3)架構の特性を利用し、軸力の大きくなる第一斜材と第二斜材の部分に制振装置を配置することにより、水平荷重と鉛直荷重に対し、第一下弦材、又は第二下弦材の部分に制振装置を配置することと同等の、非常に有効な制振効果を得ることができる。そして、第一、第二斜材内部に減衰性を有する部材が挿入されるため、上弦材である柱、梁と第一、第二下弦材の間に変形が生じた際にエネルギーを吸収することが可能である。
(4)鉛直荷重を支える部分と水平荷重に抵抗する部分とに分けて制振装置を配置するため、制振効果が効率良く得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設けたブレース構造による制振装置付門型フレームである。
【実施例】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の一実施例に関して説明する。
図1の(a)は、制振装置を第二斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、(b)は制振装置を第一斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、図2は、制振装置を取り付ける前の本願発明の第一実施例であるブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面斜視図、図3は、図2と同様に、制振装置を取り付ける前の本願発明の第二実施例である第一斜材を二材に分割して第一下弦材、第二下弦材を挟み込むようにして固定接合したブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図、図4は、図3で示した第二実施例の要部を示す正面斜視図、図5は、曲げ降伏型接合部の接合形式を示すもので、(a)は二面せん断に木材側材を用いたもの、(b)は二面せん断に鋼板側材を用いたもの、(c)は二面せん断に鋼板を挿入したものを各々示す概略正面図、図6は、ラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を示す概略正面図、図7は、ブレース構造の門型フレームを示す概略正面図、図8は、従来のラーメン構造の門型フレームを示す概略正面図、図9は、門型フレームに制振装置を組み込んだ従来技術で、例えば(a)のような高減衰ゴムによる一実施例、(b)はオイルダンパー、高減衰ゴムによる一実施例、(c)は建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込んだ一実施例を示す概略正面図、図10は、ブレース構造における架構形式を示す概略説明図、図11は、図3における第二実施例の一要部である接合部を拡大して示す正面図、図12は、図3における第二実施例の接合部を示す正面図である。
【0009】
ここで、第一実施例について図1、図2に基づいて説明する。
上弦材である柱1と梁2からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱1の下部3から梁2に向って斜めに設けた第一下弦材4と、梁中央部5から柱1に向って斜めに設けた第二下弦材6と、この第一下弦材4と第二下弦材6の交点7と接合する長さの短い第一斜材8を、前記柱1と梁2の組み合せ部である角部9から設け、さらに梁2の中央部5より柱側に寄った適宜部位に第二斜材10を、前記第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材8及び、または第二斜材10に制振装置を設けたことを特徴とするブレース構造による制振装置付門型フレームである。
尚、柱1、梁2、第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8、第二斜材10は全て木材で形成されている。
【0010】
次に、図1、図3、図4に基づいて、第二実施例を説明する。
前記図2に基づいて説明した第一実施例との違いは、長さの短い第一斜材8が二材に分けられ、その二材により第一下弦材4、第二下弦材6を挟み込み、ボルト等の固定具で接合したブレース構造による制振装置付門型フレームであり、この二材に分けて接合する手段としては、図5(a)に示すように主材12を挟むように側材13を設けて、ボルトやドリフトピン等の接合具14で接合固定するもの、図5(b)に示すように主材12を挟むように鋼板15を設けて、ボルトやドリフトピン等の接合具14で接合固定するもの、図5(c)に示すように、主材12に切り目16を形成し、その切り目16に挿入するように鋼板15を設けて接合具14で接合固定する接合形式が考えられる。
【0011】
以上、説明したように、図2に示すように図10の架構形式に第二斜材10を加え、上弦材である梁2をスパン中央で二分割できるようにしたものである。図11、図12に示すように、第一斜材8の接合部が、長さの短い第一斜材8の接合部に接合具14を多数本配置しなければならず、短い部分に密に接合具14を配置することによる第一斜材8の強度の低下や応力の伝達の確実性に心配があったため、図3、図4に示すように第一斜材8を二材に分け、その二材により第一下弦材4、第二下弦材6を挟み込み、ボルトで接合するようにしたものである。図4の第一接合部17は圧縮力と引張力を部材のめり込みにより、その他の接合部、例えば第二接合部18に関しては、圧縮力は部材のめり込みにより、引張力は接合具14(ボルト又はドリフトピン)で抵抗する。
架構の形状上、図2の第一斜材8に関しては、水平荷重に対し、最も軸力の大きくなる部材である第一下弦材4と同等の大きな軸力が生じる特性がある。また、同図の第二斜材10に関しては、鉛直荷重に対し大きな軸力が生じる特性がある。この特性を利用し、第一斜材8と第二斜材10の位置に制振装置11を配置する。
曲げでなく軸力を伝える柱1、梁2と第一下弦材4、第二下弦材6の相対的な変位に対して減衰力を与える制振装置11を用いる。実際は図1に示すように、第一斜材8と第二斜材10のどちらかの部分に剛性と減衰性を有する制振装置11を用いる。第二斜材10に用いた場合は鉛直荷重に対する性能(床振動)を高め居住性を向上させ、第一斜材8に用いた場合には、水平荷重に対する性能(耐震性)を高め、安全性を向上させるものである。
【産業上の利用可能性】
【0012】
木造の建物における門型フレームに相当する架構形式には種々応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、制振装置を第二斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、(b)は制振装置を第一斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図である。
【図2】制振装置を取り付ける前の本願発明の第一実施例であるブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図である。
【図3】図2と同様に、制振装置を取り付ける前の本願発明の第二実施例である第一斜材を二材に分割して第一下弦材、第二下弦材を挟み込むようにして固定接合したブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図である。
【図4】図3で示した第二実施例の要部を示す正面図である。
【図5】曲げ降伏型接合部の接合形式を示すもので、(a)は二面せん断に木材側材を用いたもの、(b)は二面せん断に鋼板側材を用いたもの、(c)は二面せん断に鋼板を挿入したものを各々示す概略正面図である。
【図6】ラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を示す概略正面図である。
【図7】ブレース構造の門型フレームを示す概略正面図である。
【図8】従来のラーメン構造の門型フレームを示す概略正面図である。
【図9】門型フレームに制振装置を組み込んだ従来技術で、例えば(a)のような高減衰ゴムによる一実施例、(b)はオイルダンパー、高減衰ゴムによる一実施例、(c)は建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込んだ一実施例を示す概略正面図である。
【図10】ブレース構造における架構形成を示す概略説明図である。
【図11】図3における第二実施例の一要部である接合部を拡大して示す正面図である。
【図12】図3における第二実施例の接合部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0014】
1・・・・柱 2・・・・梁
3・・・・柱の下部 4・・・・第一下弦材
5・・・・梁中央部 6・・・・第二下弦材
7・・・・交点 8・・・・第一斜材
9・・・・角部 10・・・・第二斜材
11・・・・制振装置 12・・・・主材
13・・・・側材 14・・・・接合具
15・・・・鋼板 16・・・・切り目
17・・・・第一接合部 18・・・・第二接合部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレース構造のラーメン構法による門型フレームに制振装置を設けた構造に係り、特に都会における住宅は敷地が狭く、駐車場を確保するために1階にガレージを設ける等、1階に間口を広く取れるラーメン構造が望まれている。この要望に答えるために発明された狭小地における木造住宅向けに短材で構成できる門型フレームで、さらに木造住宅で開口部の部分に組み込まれた建物の振動を制振するように構成した制振装置付門型フレームに関するもので、安価で、簡単かつ短時間で構築できるものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、開口部を確保するための門型フレームとしては、図8のようなラーメン構造が一般的であり、それは密実な断面によって曲げ抵抗する構造である。このラーメン構造は、密実な柱1、梁2とそれをつなぐ剛に近い接合部から構成される。そして、地震による震動が建物に伝播されると、柱1と梁2、そして接合部は曲げ抵抗をして地震動に抵抗する。
しかし、さらに建物の震動に対して高い制振性能を持たせるためには、制振装置が必要になる。この制振装置としては、高減衰ゴムの減衰力により建物の水平方向の振動を制振する装置が求められている。この制振装置は一般的には図9のように、建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込むことにより制振性能を発揮するものが考えられている。
一方、ブレース構造において、図10のような架構形式がある。この架構はトラスであるため、接点はピン接合で、地震動による水平力に対し軸力で抵抗する。よって、基本的にトラス部材には軸力のみが生じ、曲げが生じない。ただし、中・長期的な鉛直荷重に対しては上弦材(梁)2に曲げが生じる。また、ラーメン構造の鉄骨柱、鉄骨梁を骨組みとした鉄骨架構内に、一般の建築用鋼材からなるブレース材を連結した構造のものもある。ブレース材の上端は上部の鉄骨梁に連結している。また、ブレース材の下端は、連結部材、制振部材を介して鉄骨柱及び下部の鉄骨梁に連結している。ここで、制振部材は、ブレース材の座屈耐力以下でせん断、又は曲げにより塑性変形する極軟鋼を材料とし、長尺なパネル体に形成している。そして、この制振部材は、ブレース材の他端に連結部材を介して直交して連結している鉄骨架構の制振ブレース構造(例えば、特許文献1を参照)が存在している。
【特許文献1】特開平10−317711号公報(特許請求の範囲の欄、発明の詳細な説明の欄の{発明を実施の形態}の欄の段落{0009}〜{0019}、及び図1、図2を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術において、前者の図8に示すように構成されたラーメン構造においては、曲げ抵抗するため柱1、梁2の断面が大きくなり、さらに接合部でも曲げモーメントを伝達するために接合部が大きくなってしまった。また、木材は曲げ抵抗に対してエネルギーを吸収できないため、鉛直振動に対しても地震動に対しても変形が大きくなってしまっていた。このラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を図6に示す。この図によるラーメン構造の架構は、当然ではあるが構成部材の断面が大きくなり、かつ柱1に関しては通し柱にするため部材が長くなる。特に、都会の狭小地では架構の組み立てにおいて、部材を置く場所の確保、組み立てるための揚重機の配置に苦慮していた。
一方、図10の架構形式は一般的に開口部を確保する目的では用いないが、本発明ではこの架構形式を採用して主に開口部を確保し、斜材部材に制振装置を組み込むために応用する。前述の通り、この架構はトラスであるため、水平力に対しトラス部材には軸力のみが生じ、曲げは生じないが、中・長期的な鉛直荷重に対しては上弦材である梁2に曲げが生じる。ゆえに、たわみ振動の問題から梁2は大きくなりがちで、この梁2に関し、モデルケースの2階建て住宅においては、図7に示す通り、梁の断面が120mm×360mmとなった。この梁2を小さくすることが組み立ての効率化、コストダウンにおいて重要であった。また、架構の特性上、トラス部材に生じる軸力は大きく、軸力に対して一般的な接合部{鋼板挿入型二面せん断接合(例えば、図5の(c)に示す通り、木材に切開をし、切開に鋼板15を挿入し、ボルトやドリフトピンで木材と鋼板を接合するものである。)}を設計すると、図11、図12に示す通り、特に長さの短い斜材8の接合部に接合具14(ドリフトピン)を多数本配置しなければならず、短い部分に密に接合具14を配置することによる斜材の強度の低下や応力の伝達の確実性に心配があった。
また、前述の通り一般的に制振装置は図9のように建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込むことにより制振性能を発揮するものである。しかしながら、木造の制振装置の分野では、耐力壁を持たずに開口部を確保する目的で用いる門型フレームにおいて、制振性能を持つ構法は皆無である。
また、特許文献1に示されたラーメン構造の鉄骨柱、鉄骨梁を骨組みとした鉄骨架構内に、一般の建築用鋼材からなるブレース材を連結した構造において、前記ブレース材の一端を前記鉄骨架構内の一部に連結するとともに、前記ブレース材の他端を、当該ブレース材の座屈耐力以下で塑性変形する制振部材を介して前記鉄骨架構内の他の部位に連結した鉄骨架構の制振ブレース構造という構造のため、同様に木材で架構を形成するには、曲げ抵抗を保持するため柱、梁断面を大きくしなければならず、しかも曲げ抵抗に対してエネルギーを吸収できないため、鉛直振動に対しても地震動に対しても変形が大きくなってしまうという問題がある。
本発明はこれらの問題を解決したブレース構造による制振装置付門型フレームである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の第1発明は、請求項1に記載された通りのブレース構造による制振装置付門型フレームであり、次のようなものである。
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設ける構成である。
【0005】
上記課題を解決するための本発明の第2発明は、請求項2に記載された通りのブレース構造による制振装置付門型フレームであり、次のようなものである。
請求項1記載の発明における、長さの短い第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込み、ボルト等の固定具で接合する構成である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るブレース構造による制振装置付門型フレームは、上記説明のような構成を有するので、以下に記載する効果を奏する。
(1)第二斜材を加えることにより、上弦材である梁をスパン中央で二分割でき、梁が短くなり、かつ断面が小さくなる(モデルケースでは120mm×360mm;長さ6m×1本→120mm×180mm;長さ3m×2本になり、全てのトラス部材の長さが3m以下となる。)このことにより、木造住宅レベルの架構の組み立てであれば、揚重機が要らず人力で組み立てが可能である。
(2)第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込むことにより、木材のめり込みを利用した接合部が可能になり、多数本の接合具を配置する必要がなくなり、接合部に無理がなくなる。
(3)架構の特性を利用し、軸力の大きくなる第一斜材と第二斜材の部分に制振装置を配置することにより、水平荷重と鉛直荷重に対し、第一下弦材、又は第二下弦材の部分に制振装置を配置することと同等の、非常に有効な制振効果を得ることができる。そして、第一、第二斜材内部に減衰性を有する部材が挿入されるため、上弦材である柱、梁と第一、第二下弦材の間に変形が生じた際にエネルギーを吸収することが可能である。
(4)鉛直荷重を支える部分と水平荷重に抵抗する部分とに分けて制振装置を配置するため、制振効果が効率良く得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設けたブレース構造による制振装置付門型フレームである。
【実施例】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の一実施例に関して説明する。
図1の(a)は、制振装置を第二斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、(b)は制振装置を第一斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、図2は、制振装置を取り付ける前の本願発明の第一実施例であるブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面斜視図、図3は、図2と同様に、制振装置を取り付ける前の本願発明の第二実施例である第一斜材を二材に分割して第一下弦材、第二下弦材を挟み込むようにして固定接合したブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図、図4は、図3で示した第二実施例の要部を示す正面斜視図、図5は、曲げ降伏型接合部の接合形式を示すもので、(a)は二面せん断に木材側材を用いたもの、(b)は二面せん断に鋼板側材を用いたもの、(c)は二面せん断に鋼板を挿入したものを各々示す概略正面図、図6は、ラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を示す概略正面図、図7は、ブレース構造の門型フレームを示す概略正面図、図8は、従来のラーメン構造の門型フレームを示す概略正面図、図9は、門型フレームに制振装置を組み込んだ従来技術で、例えば(a)のような高減衰ゴムによる一実施例、(b)はオイルダンパー、高減衰ゴムによる一実施例、(c)は建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込んだ一実施例を示す概略正面図、図10は、ブレース構造における架構形式を示す概略説明図、図11は、図3における第二実施例の一要部である接合部を拡大して示す正面図、図12は、図3における第二実施例の接合部を示す正面図である。
【0009】
ここで、第一実施例について図1、図2に基づいて説明する。
上弦材である柱1と梁2からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱1の下部3から梁2に向って斜めに設けた第一下弦材4と、梁中央部5から柱1に向って斜めに設けた第二下弦材6と、この第一下弦材4と第二下弦材6の交点7と接合する長さの短い第一斜材8を、前記柱1と梁2の組み合せ部である角部9から設け、さらに梁2の中央部5より柱側に寄った適宜部位に第二斜材10を、前記第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材8及び、または第二斜材10に制振装置を設けたことを特徴とするブレース構造による制振装置付門型フレームである。
尚、柱1、梁2、第一下弦材4、第二下弦材6、第一斜材8、第二斜材10は全て木材で形成されている。
【0010】
次に、図1、図3、図4に基づいて、第二実施例を説明する。
前記図2に基づいて説明した第一実施例との違いは、長さの短い第一斜材8が二材に分けられ、その二材により第一下弦材4、第二下弦材6を挟み込み、ボルト等の固定具で接合したブレース構造による制振装置付門型フレームであり、この二材に分けて接合する手段としては、図5(a)に示すように主材12を挟むように側材13を設けて、ボルトやドリフトピン等の接合具14で接合固定するもの、図5(b)に示すように主材12を挟むように鋼板15を設けて、ボルトやドリフトピン等の接合具14で接合固定するもの、図5(c)に示すように、主材12に切り目16を形成し、その切り目16に挿入するように鋼板15を設けて接合具14で接合固定する接合形式が考えられる。
【0011】
以上、説明したように、図2に示すように図10の架構形式に第二斜材10を加え、上弦材である梁2をスパン中央で二分割できるようにしたものである。図11、図12に示すように、第一斜材8の接合部が、長さの短い第一斜材8の接合部に接合具14を多数本配置しなければならず、短い部分に密に接合具14を配置することによる第一斜材8の強度の低下や応力の伝達の確実性に心配があったため、図3、図4に示すように第一斜材8を二材に分け、その二材により第一下弦材4、第二下弦材6を挟み込み、ボルトで接合するようにしたものである。図4の第一接合部17は圧縮力と引張力を部材のめり込みにより、その他の接合部、例えば第二接合部18に関しては、圧縮力は部材のめり込みにより、引張力は接合具14(ボルト又はドリフトピン)で抵抗する。
架構の形状上、図2の第一斜材8に関しては、水平荷重に対し、最も軸力の大きくなる部材である第一下弦材4と同等の大きな軸力が生じる特性がある。また、同図の第二斜材10に関しては、鉛直荷重に対し大きな軸力が生じる特性がある。この特性を利用し、第一斜材8と第二斜材10の位置に制振装置11を配置する。
曲げでなく軸力を伝える柱1、梁2と第一下弦材4、第二下弦材6の相対的な変位に対して減衰力を与える制振装置11を用いる。実際は図1に示すように、第一斜材8と第二斜材10のどちらかの部分に剛性と減衰性を有する制振装置11を用いる。第二斜材10に用いた場合は鉛直荷重に対する性能(床振動)を高め居住性を向上させ、第一斜材8に用いた場合には、水平荷重に対する性能(耐震性)を高め、安全性を向上させるものである。
【産業上の利用可能性】
【0012】
木造の建物における門型フレームに相当する架構形式には種々応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、制振装置を第二斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図、(b)は制振装置を第一斜材に設けたブレース構造による制振装置付門型フレームを示す概略説明図である。
【図2】制振装置を取り付ける前の本願発明の第一実施例であるブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図である。
【図3】図2と同様に、制振装置を取り付ける前の本願発明の第二実施例である第一斜材を二材に分割して第一下弦材、第二下弦材を挟み込むようにして固定接合したブレース構造による制振装置付門型フレームを示す全体概略正面図である。
【図4】図3で示した第二実施例の要部を示す正面図である。
【図5】曲げ降伏型接合部の接合形式を示すもので、(a)は二面せん断に木材側材を用いたもの、(b)は二面せん断に鋼板側材を用いたもの、(c)は二面せん断に鋼板を挿入したものを各々示す概略正面図である。
【図6】ラーメン構造のモデルケースとして2階建て住宅を想定した架構を示す概略正面図である。
【図7】ブレース構造の門型フレームを示す概略正面図である。
【図8】従来のラーメン構造の門型フレームを示す概略正面図である。
【図9】門型フレームに制振装置を組み込んだ従来技術で、例えば(a)のような高減衰ゴムによる一実施例、(b)はオイルダンパー、高減衰ゴムによる一実施例、(c)は建物を構成する耐力壁の中に制振壁を組み込んだ一実施例を示す概略正面図である。
【図10】ブレース構造における架構形成を示す概略説明図である。
【図11】図3における第二実施例の一要部である接合部を拡大して示す正面図である。
【図12】図3における第二実施例の接合部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0014】
1・・・・柱 2・・・・梁
3・・・・柱の下部 4・・・・第一下弦材
5・・・・梁中央部 6・・・・第二下弦材
7・・・・交点 8・・・・第一斜材
9・・・・角部 10・・・・第二斜材
11・・・・制振装置 12・・・・主材
13・・・・側材 14・・・・接合具
15・・・・鋼板 16・・・・切り目
17・・・・第一接合部 18・・・・第二接合部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設けたことを特徴とするブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【請求項2】
長さの短い第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込み、ボルト等の固定具で接合したことを特徴とする請求項1に記載のブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【請求項1】
上弦材である柱と梁からなる架構形式の門型フレームにおいて、柱の下部から梁に向って斜めに設けた第一下弦材と、梁中央部から柱に向って斜めに設けた第二下弦材と、この第一下弦材と第二下弦材の交点と接合する長さの短い第一斜材を、前記柱と梁の交点である角部から設け、さらに梁の中央部より柱側に寄った適宜部位に第二斜材を、前記第一下弦材、第二下弦材、第一斜材の交点に向って設け、これらをボルト等の固定具で接合固定し、加えて前記第一斜材及び、または第二斜材に制振装置を設けたことを特徴とするブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【請求項2】
長さの短い第一斜材を二材に分け、その二材により第一下弦材、第二下弦材を挟み込み、ボルト等の固定具で接合したことを特徴とする請求項1に記載のブレース構造による制振装置付門型フレーム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−18985(P2010−18985A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179603(P2008−179603)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(391004207)齋藤木材工業株式会社 (8)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(391004207)齋藤木材工業株式会社 (8)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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