説明

ブロック共重合体組成物の製造方法

【課題】高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるブロック共重合体組成物を、生産性よく製造することができるブロック共重合体組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の工程により、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基を1分子あたり2個以上有するアルコキシシラン化合物をカップリング剤として用いて得られるカップリングブロック共重合体とトリブロック共重合体とを含んでなるブロック共重合体組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体組成物を製造する方法に関し、さらに詳しくは、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても均質な力学的性質を示す等方性の高いブロック共重合体組成物を、良好な生産性で得ることができるブロック共重合体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)やスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)などの芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体は、種々の面において特徴的な性質を有する熱可塑性エラストマーであることから、様々な用途に用いられている。芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーのなかでも、特に弾性に富み、柔軟であることから、紙おむつや生理用品などの衛生用品に用いられる伸縮性フィルムの材料としての利用が、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の代表的な用途の1つとなっている。
【0003】
紙おむつや生理用品などの衛生用品には装着者の動きに対する追従性やフィット性が求められることから、各部に伸縮性フィルムが用いられている。例えば、紙オムツの一種であるパンツ型オムツでは、両脚周り開口部、ウェスト周り開口部、さらに両側腰部などに伸縮性フィルムが配置される。衛生用品の装着者が激しく動いたり、長時間の装着を行なったりしても、ずれを生じさせないことが必要であることから、このような用途に用いられる伸縮性フィルムには、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持つことが要求されるが、従来の芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体では、これら特性の両立が果たされていたとは言い難かった。そのため、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の弾性率や永久伸びを改良する種々の検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、50重量%未満のモノビニリデン芳香族含量を有する特定のエラストマーモノビニリデン芳香族−共役ジエンブロックコポリマー65〜92重量部と、50重量%以上のモノビニリデン芳香族含量を有する特定の熱可塑性モノビニリデン芳香族−共役ジエンブロックコポリマー8〜35重量部とからなるエラストマーポリマーブレンド組成物によれば、優れた弾性と応力緩和特性を示すエラストマー物品が得られることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、特定の芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体に、特定のポリイソプレンなどを配合して得られる組成物を押出成形することにより、異方性を有し、柔軟性に優れる、紙おむつや生理用品などの衛生用品の部材として好適に用いられる伸縮性フィルムが得られることが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献に記載された技術においても、高い弾性率と小さい永久伸びとの高いレベルでの両立という観点においては、未だ不十分であり、さらなる改良が望まれていた。
【0007】
また、伸縮性フィルムの成形は、通常、押出形成により行なわれるが、従来の芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を押出成形によりフィルムにすると、分子配向に起因する力学的性質の異方性が生じやすいという問題もあった。このような異方性を生じやすい材料は、一般に成形安定性が悪く、フィルムを成形する場合にも、厚み精度が悪化するという問題が生じる。また、例えば、伸縮性フィルムを紙おむつや生理用品などの衛生用品として用いる場合、伸縮性フィルムが異方性を有すると、衛生用品の装着感が、通常の下着などとは異なるものとなり、装着者に違和感を与えるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−528273号公報
【特許文献2】特開2008−7654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるブロック共重合体組成物を、生産性よく製造することができるブロック共重合体組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を製造するにあたり、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を得た後に、その一部を特定のカップリング剤でカップリングし、残部の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体に芳香族ビニル単量体を付加させることにより得られるブロック共重合体組成物が、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、成形安定性が良好であり、均質な力学的性質を有する等方性の高い成形体を与えるものとなることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
かくして、本発明によれば、Ar1−D1−Ar2(Ar1およびAr2は、それぞれ、芳香族ビニル重合体ブロックを表わし、D1は共役ジエン重合体ブロックを表わす)で表わされるトリブロック共重合体と、(Ar1−D2)−X(D2は共役ジエン重合体ブロックを表わし、Xはカップリング剤の残基を表わし、nは2以上の整数である)で表わされる、カップリングブロック共重合体と、 を含んでなるブロック共重合体組成物を製造する方法であって、下記の(1)〜(5)の工程を有してなることを特徴とするブロック共重合体組成物の製造方法が提供される。
【0012】
(1):溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合して、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を形成する工程
(2):上記(1)の工程で得られる溶液に、共役ジエン単量体を添加して重合し、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を形成する工程
(3):上記(2)の工程で得られる溶液に、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基を1分子あたり2個以上有するアルコキシシラン化合物をカップリング剤として添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部をカップリングして、上記カップリングブロック共重合体を形成する工程
(4):上記(3)の工程で得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加して重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を形成し、次いで、重合停止剤を添加することにより、当該活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の活性末端を失活させて上記トリブロック共重合体を形成する工程
(5):上記(4)の工程で得られる溶液から、重合体成分を回収する工程
【0013】
上記のブロック共重合体組成物の製造方法では、上記トリブロック共重合体のAr1およびAr2で表わされる2つの芳香族ビニル重合体ブロックが、互いに実質的に異なる重量平均分子量を有することが好ましい。
【0014】
上記のブロック共重合体組成物の製造方法では、上記のAr1で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量が6000〜20000であり、上記のAr2で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量が40000〜400000であることが好ましい。
【0015】
上記のブロック共重合体組成物の製造方法は、さらに、Ar1−D2で表わされるジブロック共重合体を含んでなる、上記ブロック共重合体組成物を製造する方法であって、上記(2)の工程と上記(4)の工程との間に、さらに、下記(3´)の工程を有してなることが好ましい。
【0016】
(3´):上記(2)の工程で得られる溶液に、重合停止剤を添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部の活性末端を失活させて上記ジブロック共重合体を形成する工程
【0017】
また、本発明によれば、上記のブロック共重合体組成物の製造方法により製造されてなる、ブロック共重合体組成物が提供される。
【0018】
上記のブロック共重合体組成物は、芳香族ビニル重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックを有してなり、上記トリブロック共重合体より大きな重量平均分子量を有し、かつ、全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量が、上記カップリングブロック共重合体より大きく、上記トリブロック共重合体より小さい重合体成分をさらに含有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法によれば、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるブロック共重合体組成物を生産性よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法は、少なくとも、トリブロック共重合体と、カップリングブロック共重合体と、を含んでなるブロック共重合体組成物を製造する方法である。本発明で得られるブロック共重合体組成物に含まれるトリブロック共重合体は、Ar1−D1−Ar2(Ar1およびAr2は、それぞれ、芳香族ビニル重合体ブロックを表わし、D1は共役ジエン重合体ブロックを表わす)で表わされる、芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルトリブロック共重合体である。また、本発明で得られるブロック共重合体組成物に含まれるカップリングブロック共重合体は、(Ar1−D2)−X(D2は共役ジエン重合体ブロックを表わし、Xはカップリング剤の残基を表わし、nは2以上の整数である)で表わされる、カップリングされたブロック共重合体である。
【0021】
トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2)は、芳香族ビニル単量体単位により構成される重合体ブロックである。芳香族ビニル重合体ブロックの芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体としては、芳香族ビニル化合物であれば特に限定されないが、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、2−メチル−4,6−ジクロロスチレン、2,4−ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらのなかでも、スチレンを用いることが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各芳香族ビニル重合体ブロックにおいて、同じ芳香族ビニル単量体を用いても良いし、異なる芳香族ビニル単量体を用いることもできる。
【0022】
トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2)は、それぞれ、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。芳香族ビニル重合体ブロックに含まれ得る芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)などの共役ジエン単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各芳香族ビニル重合体ブロックにおける芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0023】
トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロック(D1,D2)は、共役ジエン単量体単位により構成される重合体ブロックである。共役ジエン重合体ブロックの共役ジエン単量体単位を構成するために用いられる共役ジエンとしては、共役ジエン化合物であれば特に限定されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエンおよび/またはイソプレンを用いることが好ましく、イソプレンを用いることが特に好ましい。これらの共役ジエン単量体は、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各共役ジエン重合体ブロックにおいて、同じ共役ジエン単量体を用いても良いし、異なる共役ジエン単量体を用いることもできる。さらに、各共役ジエン重合体ブロックの不飽和結合の一部に対し、水素添加反応を行っても良い。
【0024】
トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロック(D1,D2)は、それぞれ、共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を含んでいても良い。共役ジエン重合体ブロックに含まれ得る共役ジエン単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、不飽和カルボン酸または酸無水物単量体、不飽和カルボン酸エステル単量体、非共役ジエン単量体が例示される。各共役ジエン重合体ブロックにおける共役ジエン単量体単位以外の単量体単位の含有量は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、実質的に0重量%であることが特に好ましい。
【0025】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法では、まず、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合して、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を形成する。用いられる重合開始剤としては、一般的に芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体とに対し、アニオン重合活性があることが知られている有機アルカリ金属化合物、有機アルカリ土類金属化合物、有機ランタノイド系列希土類金属化合物などを用いることができる。有機アルカリ金属化合物としては、分子中に1個以上のリチウム原子を有する有機リチウム化合物が特に好適に用いられ、その具体例としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ジアルキルアミノリチウム、ジフェニルアミノリチウム、ジトリメチルシリルアミノリチウムなどの有機モノリチウム化合物や、メチレンジリチウム、テトラメチレンジリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、イソプレニルジリチウム、1,4−ジリチオ−エチルシクロヘキサンなどの有機ジリチウム化合物、さらには、1,3,5−トリリチオベンゼンなどの有機トリリチウム化合物などが挙げられる。これらのなかでも、有機モノリチウム化合物が特に好適に用いられる。
【0026】
重合開始剤として用いる有機アルカリ土類金属化合物としては、例えば、n−ブチルマグネシウムブロミド、n−ヘキシルマグネシウムブロミド、エトキシカルシウム、ステアリン酸カルシウム、t−ブトキシストロンチウム、エトキシバリウム、イソプロポキシバリウム、エチルメルカプトバリウム、t−ブトキシバリウム、フェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ステアリン酸バリウム、エチルバリウムなどが挙げられる。また、他の重合開始剤の具体例としては、ネオジム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むランタノイド系列希土類金属化合物/アルキルアルミニウム/アルキルアルミニウムハライド/アルキルアルミニウムハイドライドからなる複合触媒や、チタン、バナジウム、サマリニウム、ガドリニウムなどを含むメタロセン型触媒などの有機溶媒中で均一系となり、リビング重合性を有するものなどが挙げられる。なお、これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
重合開始剤の使用量は、目的とする各重合体の分子量に応じて決定すればよく、特に限定されないが、使用する全単量体100gあたり、通常、0.01〜20ミリモル、好ましくは、0.05〜15ミリモル、より好ましくは、0.1〜10ミリモルである。
【0028】
重合に用いる溶媒は、重合開始剤に不活性なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、鎖状炭化水素溶媒、環式炭化水素溶媒またはこれらの混合溶媒が使用される。鎖状炭化水素溶媒としてはn−ブタン、イソブタン、1−ブテン、イソブチレン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンテン、トランス−2−ペンテン、シス−2−ペンテン、n−ペンタン、イソペンタン、neo−ペンタン、n−ヘキサン等の、炭素数4〜6の鎖状アルカンおよびアルケンを例示することができる。また、環式炭化水素溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物;を挙げることができる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
【0029】
重合に用いる溶媒の量は、特に限定されないが、重合反応後の溶液における全ブロック共重合体の濃度が、通常、5〜60重量%、好ましくは10〜55重量%、より好ましくは20〜50重量%になるように設定する。
【0030】
ブロック共重合体組成物を得る際に、各重合体の各重合体ブロックの構造を制御するために、重合に用いる反応器にルイス塩基化合物を添加してもよい。このルイス塩基化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジンなどの第三級アミン類;カリウム−t−アミルオキシド、カリウム−t−ブチルオキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類;トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類;などが挙げられる。これらのルイス塩基化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0031】
また、重合反応時にルイス塩基化合物を添加する時期は特に限定されず、目的とする各重合体の構造に応じて適宜決定すれば良い。例えば、重合を開始する前に予め添加しても良いし、一部の重合体ブロックを重合してから添加しても良く、さらには、重合を開始する前に予め添加した上で一部の重合体ブロックを重合した後さらに添加しても良い。
【0032】
重合反応温度は、通常10〜150℃、好ましくは30〜130℃、より好ましくは40〜90℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常、48時間以内、好ましくは0.5〜10時間である。重合圧力は、上記重合温度範囲で単量体および溶媒を液相に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されない。
【0033】
以上のような条件で、溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液を得ることができる。この活性末端を有する芳香族ビニル重合体は、ブロック共重合体組成物を構成する、トリブロック共重合体の一方の芳香族ビニル重合体ブロックと、カップリングブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、これらの重合体ブロックの目的とする重量平均分子量に応じて決定される。
【0034】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法では、次いで、この活性末端を有する芳香族ビニル重合体を含有する溶液に、共役ジエン単量体を添加して重合する。この共役ジエン単量体の添加により、活性末端から共役ジエン重合体鎖が形成され、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液が得られる。この際用いる共役ジエン単量体の量は、得られる共役ジエン重合体鎖が、目的とするカップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロック(D2)の重量平均分子量を有するように決定される。
【0035】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法では、次いで、この活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基を1分子あたり2個以上有するアルコキシシラン化合物をカップリング剤として添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部をカップリングして、(Ar1−D2)−Xで表わされるカップリングブロック共重合体を形成する。
【0036】
本発明においてカップリング剤として用いる化合物は、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基を1分子あたり2個以上有するアルコキシシラン化合物である。本発明においてカップリング剤として用いることができるアルコキシシラン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジエチルジフェノキシシランなどのジアルキルジアルコキシシラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、エチルトリフェノキシシランなどのモノアルキルトリアルコキシシラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラトルイロキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、アリルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、スチリルトリメトキシシランなどのアルケニルアルコシキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシランなどのアリールアルコキシシラン化合物;トリメトキシクロロシラン、トリエトキシクロロシラン、トリプロポキシクロロシラン、トリブトキシクロロシラン、トリフェノキシクロロシラン、ジメトキシジクロロシラン、ジプロポキシジクロロシラン、ジフェノキシジクロロシラン、メトキシトリクロロシラン、エトキシトリクロロシラン、プロポキシトリクロロシラン、フェノキシトリクロロシラン、トリメトキシブロモシラン、トリエトキシブロモシラン、トリプロポキシブロモシラン、トリフェノキシブロモシラン、ジメトキシジブロモシラン、ジエトキシジブロモシラン、ジフェノキシジブロモシラン、メトキシトリブロモシラン、エトキシトリブロモシラン、プロポキシトリブロモシラン、フェノキシトリブロモシラン、トリメトキシヨードシラン、トリエトキシヨードシラン、トリプロポキシヨードシラン、トリフェノキシヨードシラン、ジメトキシジヨードシラン、ジエトキシジヨードシラン、ジプロポキシヨードシラン、メトキシトリヨードシラン、エトキシトリヨードシラン、プロポキシトリヨードシラン、フェノキシトリヨードシランなどのハロゲノアルコキシシラン化合物;β−クロロエチルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシランなどのハロゲノアルキルアルコキシシラン化合物;ヘキサメトキシジシラン、ヘキサエトキシジシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)ブタン、ビス(トリエトキシシリル)ブタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、ビス(トリエトキシシリル)ヘプタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリル)シクロヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)シクロヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)エタンなどが挙げられ、これらの中でも、重合体の活性末端と反応する官能基がアルコキシ基のみであるアルコキシシラン化合物が好ましく用いられ、ジアルキルジアルコキシシラン化合物、モノアルキルトリアルコキシシラン化合物、またはテトラアルコキシシラン化合物がより好ましく用いられ、テトラアルコキシシラン化合物が特に好ましく用いられる。なお、これらのアルコキシシラン化合物は、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。このようなアルコキシシラン化合物をカップリング剤として用いることにより、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるブロック共重合体組成物を与えることができる。
【0037】
カップリング剤として用いるアルコキシシラン化合物の量は、目的とするブロック共重合体組成物のトリブロック共重合体とカップリングブロック共重合体との量比に応じて決定され、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部のみをカップリングし、カップリング反応後も溶液中に活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体が残留しうる量であれば特に限定されない。通常は、重合体の活性末端に対して、活性末端と反応するカップリング剤の官能基が0.15〜0.90モル当量となる範囲であり、0.20〜0.85モル当量となる範囲であることが好ましい。なお、カップリング反応の条件は、特に制限はなく、通常、前述の重合反応条件の範囲から選択される。
【0038】
以上のように、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、アルコキシシラン化合物をカップリング剤として添加すると、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部の共役ジエン重合体ブロック同士がカップリング剤の残基を介して結合され、その結果、ブロック共重合体組成物を構成するカップリングブロック共重合体が形成される。そして、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の残り一部は、未反応のまま溶液中に残ることとなる。
【0039】
なお、このカップリング剤を添加する工程の前後または同時に、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を含有する溶液に、水、メタノール、エタノール、プロパノール、塩酸、クエン酸などの重合停止剤を添加しても良い。このように重合停止剤を添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部の活性末端が失活し、Ar1−D2で表わされるジブロック共重合体を、得られるブロック共重合体組成物に含有させることができる。このようなジブロック共重合体をブロック共重合体組成物に含有させることにより、ブロック共重合体組成物の高い弾性率と小さい永久伸びとがさらに高いレベルで両立される。添加される重合停止剤の量は、目的とするジブロック共重合体の量に応じて決定され、特に限定されないが、通常、重合体の活性末端に対して0〜0.9モル当量となる範囲であり、0.2〜0.8モル当量となる範囲であることが好ましい。
【0040】
次の工程では、以上のようにして得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加して重合する。溶液に芳香族ビニル単量体を添加すると、カップリング剤と反応せずに残った活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の活性末端から、芳香族ビニル重合体ブロックが形成される。この芳香族ビニル重合体ブロックは、トリブロック共重合体の一方の芳香族ビニル重合体ブロック(Ar2)を構成することとなるものである。したがって、この際用いる芳香族ビニル単量体の量は、この重合体ブロックの目的とする重量平均分子量に応じて決定される。このように芳香族ビニル単量体を添加して重合した後、活性末端を失活させるために十分な量の重合停止剤を添加することにより、Ar1−D1−Ar2で表わされるトリブロック共重合体が形成され、その結果、トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体を含有する溶液が得られる。
【0041】
次の工程では、以上のようにして得られるトリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体を含有する溶液から、ブロック共重合体組成物を回収する。回収の方法は、常法に従えばよく、特に限定されない。例えば、重合停止剤を添加した後、さらに必要に応じて、酸化防止剤などの添加剤を添加してから、溶液に直接乾燥法やスチームストリッピングなどの公知の方法を適用することにより、回収することができる。スチームストリッピングなどを適用して、ブロック共重合体組成物がスラリーとして回収される場合は、押出機型スクイザーなどの任意の脱水機を用いて脱水して、所定値以下の含水率を有するクラムとし、さらにそのクラムをバンドドライヤーあるいはエクスパンション押出乾燥機などの任意の乾燥機を用いて乾燥すればよい。以上のようにして得られるブロック共重合体組成物は、常法に従い、ペレットなどに加工してから、使用に供しても良い。
【0042】
以上のような本発明のブロック共重合体組成物の製造方法によれば、トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体を同じ反応容器内で連続して得ることができるので、それぞれのブロック共重合体を個別に製造し混合する場合に比して、極めて優れた生産性で目的のブロック共重合体組成物を得ることができる。しかも、得られるブロック共重合体組成物は、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるものとなる。
【0043】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法により得られるブロック共重合体組成物において、含有されるAr1−D1−Ar2で表わされるトリブロック共重合体の2つの芳香族ビニル重合体ブロック(Ar1,Ar2)は、互いに実質的に異なる重量平均分子量を有することが好ましい。このようなトリブロック共重合体が含まれることにより、より低い永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0044】
また、トリブロック共重合体において、Ar1で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量は、6000〜20000であることが好ましく、7000〜18000であることがより好ましく、8000〜16000であることが特に好ましい。また、Ar2で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量は、40000〜400000であることが好ましく、42000〜370000であることがより好ましく、45000〜350000であることが特に好ましい。それぞれの芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量がこの範囲となることにより、より低い永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0045】
なお、本発明において、重合体や重合体ブロックの重量平均分子量は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。
【0046】
トリブロック共重合体において、芳香族ビニル重合体ブロックAr2の重量平均分子量(Mw(Ar2))と、芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量(Mw(Ar1))との比(Mw(Ar2)/Mw(Ar1))は、特に限定されないが、通常2〜67であり、4〜40であることが好ましく、4.5〜35であることがより好ましい。トリブロック共重合体をこのように構成することによって、より低い永久伸びとより高い弾性率とを有し、弾性に富んだブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0047】
トリブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD1のビニル結合含有量(全共役ジエン単量体単位において、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合が占める割合)は、特に限定されないが、1〜20モル%であることが好ましく、2〜15モル%であることがより好ましく、3〜10モル%であることが特に好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られるブロック共重合体組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。
【0048】
トリブロック共重合体の全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常40〜90重量%であり、45〜87重量%であることが好ましく、50〜85重量%であることがより好ましい。また、トリブロック共重合体全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常50000〜500000であり、80000〜470000であることが好ましく、90000〜450000であることがより好ましい。
【0049】
本発明のブロック共重合体組成物の製造方法により得られるブロック共重合体組成物において、含有される(Ar1−D2)−Xで表わされるカップリングブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量や構造は、通常、トリブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同じである。
【0050】
カップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD2のビニル結合含有量は、特に限定されないが、1〜20モル%であることが好ましく、2〜15モル%であることがより好ましく、3〜10モル%であることが特に好ましい。このビニル結合含有量が高すぎると、得られるブロック共重合体組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。また、カップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD2のビニル結合含有量は、トリブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD1のビニル結合含有量と実質的に等しいことが好ましい。
【0051】
カップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常20000〜200000であり、30000〜150000であることが好ましく、45000〜100000であることがより好ましい。また、カップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量は、トリブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD1の重量平均分子量と実質的に等しいことが好ましい。これらの重量平均分子量が実質的に等しいことにより、得られるブロック共重合体組成物が、より高い弾性率を有し、弾性に富んだものとなる。
【0052】
カップリングブロック共重合体の全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量は、特に限定されないが、通常10〜35重量%であり、12〜32重量%であることが好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。また、カップリングブロック共重合体全体としての重量平均分子量も、特に限定されないが、通常55000〜450000であり、70000〜400000であることが好ましく、80000〜350000であることがより好ましい。
【0053】
本発明により得られるブロック共重合体組成物に含まれうるAr1−D2で表わされるジブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロックAr1の重量平均分子量や構造は、通常、トリブロック共重合体やカップリングブロック共重合体の芳香族ビニル重合体ブロックAr1と同じであり、共役ジエン重合体ブロックD2の重量平均分子量や構造は、通常、カップリングブロック共重合体の共役ジエン重合体ブロックD2と同じである。また、ジブロック共重合体の全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量も、通常、カップリングブロック共重合体のそれと同じである。ジブロック共重合体全体としての重量平均分子量は、特に限定されないが、通常26000〜200000であり、35000〜150000であることが好ましく、40000〜100000であることがより好ましい。
【0054】
本発明により得られるブロック共重合体組成物では、通常、上述のトリブロック共重合体、カップリングブロック共重合体、およびジブロック共重合体の他に、芳香族ビニル重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックを有してなり、トリブロック共重合体より大きな重量平均分子量を有し、かつ、全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量が、カップリングブロック共重合体より大きく、トリブロック共重合体より小さい重合体成分が含有される。この重合体成分の構造は必ずしも明確ではないが、カップリングブロック共重合体が形成される際に、カップリング剤のアルコキシシリル基全てに、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体が反応しないために、一部のアルコキシシリル基が未反応で残り、その後、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体が形成された際に、その活性末端がカップリング剤の未反応のアルコキシシリル基に反応するという機構により生じうる、(Ar1−D2)n−1−X−Ar2−D1−Ar1で表されるブロック共重合体であると推測される。
【0055】
本発明により得られるブロック共重合体組成物では、このような重合体成分が含有されるために、高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立され、さらには、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、均質な力学的性質を有する、等方性の高い成形体を与えるものと考えられる。なお、ブロック共重合体組成物におけるこの重合体成分の含有量は特に限定されないが、得られるブロック共重合体組成物に対して、通常3〜30重量%の範囲で含有され、6〜20重量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0056】
本発明により得られるブロック共重合体組成物を構成する各ブロック共重合体、およびこれらを構成する各重合体ブロックの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、それぞれ、通常1.1以下であり、好ましくは1.05以下である。
【0057】
ブロック共重合体組成物に含有されるトリブロック共重合体とカップリングブロック共重合体との重量比は、特に限定されないが、トリブロック共重合体/カップリングブロック共重合体の重量比で、36/64〜85/15であることが好ましく、38/62〜80/20であることがより好ましく、40/60〜75/25であることが特に好ましい。このような比で各ブロック共重合体が含有されることにより、ブロック共重合体組成物が特に高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持つものとなる。
【0058】
ブロック共重合体組成物に含有されうるジブロック共重合体の量は、特に限定されないが、(ジブロック共重合体の重量/トリブロック共重合体およびカップリングブロック共重合体の合計重量)の比として、0/100〜80/20であることが好ましく、5/95〜70/30であることがより好ましく、10/90〜60/40であることが特に好ましい。このような比でジブロック共重合体が含有されることにより、ブロック共重合体組成物が特に高い弾性率と小さい永久伸びとが高いレベルで両立されたものとなる。
【0059】
本発明により得られるブロック共重合体組成物は、含まれる重合体成分全体の全繰返し単位において、芳香族ビニル単量体単位が占める割合(以下の記載において、全体の芳香族ビニル単量体単位含有量ということがある)が、27〜70重量%であることが好ましく、30〜60重量%であることがより好ましく、40〜50重量%であることが特に好ましい。全体の芳香族ビニル単量体単位含有量が小さすぎると、得られるブロック共重合体組成物の弾性率が不十分となるおそれがあり、全体の芳香族ビニル単量体単位含有量が大きすぎると、得られるブロック共重合体組成物の永久伸びが大きくなるおそれがある。この全体の芳香族ビニル単量体単位含有量は、ブロック共重合体組成物を構成する各重合体成分、それぞれの芳香族ビニル単量体単位の含有量を勘案し、それらの量を調節することにより、容易に調節することが可能である。なお、ブロック共重合体組成物を構成する全ての重合体成分が、芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位のみにより構成されている場合であれば、Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従って、ブロック共重合体組成物の重合体成分をオゾン分解し、次いで水素化リチウムアルミニウムにより還元すれば、共役ジエン単量体単位部分が分解され、芳香族ビニル単量体単位部分のみを取り出せるので、容易に全体の芳香族ビニル単量体単位含有量を測定することができる。
【0060】
ブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常50000〜500000であり、60000〜450000であることが好ましく、70000〜400000であることがより好ましい。また、ブロック共重合体組成物を構成する重合体成分全体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、通常1.01〜10であり、1.03〜5であることが好ましく、1.05〜3であることがより好ましい。
【0061】
また、ブロック共重合体組成物のメルトインデックスは、特に限定されないが、ASTM D−1238(G条件、200℃、5kg)に準拠して測定される値として、通常1〜70g/10分であり、3〜65g/10分であることが好ましく、5〜60g/10分であることがより好ましい。この範囲であれば、ブロック共重合体組成物のフィルムなどへの成形性が良好となる。
【0062】
本発明により得られるブロック共重合体組成物は、重合体成分以外の成分を含んでいてもよく、例えば、軟化剤、粘着付与剤、酸化防止剤、抗菌剤、光安定剤、紫外線吸収剤、染料、滑剤、架橋剤、架橋促進剤などの添加剤を必要に応じて配合しても良い。
【0063】
本発明により得られるブロック共重合体組成物の用途は特に限定されず、例えば、伸縮性フィルム、手袋、エラスティックバンド、コンドーム、OA機器、事務用などの各種ロール、電気電子機器用防振シート、防振ゴム、衝撃吸収シート、衝撃緩衝フィルム・シート、住宅用制振シート、制振ダンパー材などに用いられる成形材料用途、粘着テープ、粘着シート、粘着ラベル、ゴミ取りローラーなどに用いられる粘着剤用途、衛生用品や製本に用いられる接着剤用途、衣料、スポーツ用品などに用いられる弾性繊維用途などの用途に用いることができる。これらのなかでも、本発明により得られるブロック共重合体組成物は、高い弾性率と小さい永久伸びとを併せ持ち、成形安定性に優れるものであることから、紙おむつや生理用品などの衛生用品などに用いられる伸縮性のフィルムの材料として特に好適に用いられる。また、粘着剤用途や接着剤用途において求められる、高い接着力と柔軟性との両立も達成できるので、本発明により得られるブロック共重合体組成物は、これらの用途にも好適に用いられる。
【0064】
ブロック共重合体組成物をフィルムに成形する方法は、特に限定されず、従来公知のフィルム成形法を適用できるが、平滑なフィルムを良好な生産性で得る観点からは、押出成形が好適であり、なかでもT−ダイを用いた押出成形が特に好適である。T−ダイを用いた押出成形の具体例としては、単軸押出機や二軸押出機に装着したT−ダイから、温度150〜250℃で溶融したブロック共重合体組成物を押出し、引き取りロールで冷却しながら、巻き取る方法が挙げられる。引き取りロールで冷却する際に、フィルムを延伸しても良い。また、フィルムを巻き取る際に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、不織布または離型紙からなる基材の上にブロック共重合体組成物の溶融物をコーティングしながらフィルム化しても良いし、ブロック共重合体組成物の溶融物をこれらの基材で挟み込むようにしてフィルム化しても良い。そのようにして得られたフィルムは、基材と一体の形態のままで使用しても、基材から剥がして使用してもよい。なお、本発明により得られるブロック共重合体組成物は、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用した場合であっても、全ての面方向に亘って均質な力学的性質を有する、等方性の高いフィルムを与えるものである。したがって、本発明により得られるブロック共重合体組成物では、得られるフィルムに分子配向に基づく異方性が付与されることを望まない場合(たとえば、紙おむつや生理用品などの衛生用品に用いられる伸縮性のフィルムとして用いる場合に、その衛生用品の装着感を普通の下着のものと近いものとしたい場合)であっても、押出成形などの分子配向が起こり易い成形法を適用してフィルムを成形することができ、しかも、異方性が生じることに基づく厚さなどのムラが生じ難く、良好な成形安定性でフィルムを成形することができるものである。
【0065】
ブロック共重合体組成物から得るフィルムの厚さは、用途に応じて調整されるが、紙おむつや生理用品などの衛生用品用のフィルムとする場合には、通常0.01〜50mm、好ましくは0.03〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmである。
【0066】
ブロック共重合体組成物から得られるフィルムは、他の部材と積層して使用することもできる。例えば、ブロック共重合体組成物から得られるフィルムをスリット加工した後、これにホットメルト接着剤などを塗布してテープとし、このテープを縮めた状態で不織布、織布、プラスチックフィルム、またはこれらの積層体に接着し、テープの縮みを緩和することにより、伸縮性のギャザー部材を形成することができる。さらに、その他用途に応じ、公知の方法に従って適宜加工し、例えば、伸縮性シップ用基材、手袋、手術用手袋、指サック、止血バンド、避妊具、ヘッドバンド、ゴーグルバンド、輪ゴムなどの伸縮性部材として用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0068】
各種の測定については、以下の方法に従って行った。
【0069】
〔ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量〕
流速0.35ml/分のテトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めた。装置は、東ソー社製HLC8220、カラムは昭和電工社製Shodex KF−404HQを3本連結したもの(カラム温度40℃)、検出器は示差屈折計および紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0070】
〔各ブロック共重合体の重量比〕
上記の高速液体クロマトグラフィにより得られたチャートの各ブロック共重合体に対応するピークの面積比から求めた。
【0071】
〔スチレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従い、ブロック共重合体をオゾンと反応させ、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより、ブロック共重合体のイソプレン重合体ブロックを分解した。具体的には、以下の手順で行なった。すなわち、モレキュラーシーブで処理したジクロロメタン100mlを入れた反応容器に、試料を300mg溶解した。この反応容器を冷却槽に入れ−25℃としてから、反応容器に170ml/minの流量で酸素を流しながら、オゾン発生器により発生させたオゾンを導入した。反応開始から30分経過後、反応容器から流出する気体をヨウ化カリウム水溶液に導入することにより、反応が完了したことを確認した。次いで、窒素置換した別の反応容器に、ジエチルエーテル50mlと水素化リチウムアルミニウム470mgを仕込み、氷水で反応容器を冷却しながら、この反応容器にオゾンと反応させた溶液をゆっくり滴下した。そして、反応容器を水浴に入れ、徐々に昇温して、40℃で30分間還流させた。その後、溶液を撹拌しながら、反応容器に希塩酸を少量ずつ滴下し、水素の発生がほとんど認められなくなるまで滴下を続けた。この反応の後、溶液に生じた固形の生成物をろ別し、固形の生成物は、100mlのジエチルエーテルで10分間抽出した。この抽出液と、ろ別した際のろ液とをあわせ、溶媒を留去することにより、固形の試料を得た。このようにして得られた試料につき、上記の重量平均分子量の測定法に従い、重量平均分子量を測定し、その値をスチレン重合体ブロックの重量平均分子量とした。
【0072】
〔イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量〕
それぞれ上記のようにして求められた、ブロック共重合体の重量平均分子量から、対応するスチレン重合体ブロックの重量平均分子量を引き、その計算値に基づいてイソプレン重合体ブロックの重量平均分子量を求めた。
【0073】
〔ブロック共重合体のスチレン単位含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィの測定における、示差屈折計と紫外検出器との検出強度比に基づいて求めた。なお、予め、異なるスチレン単位含有量を有する共重合体を用意し、それらを用いて、検量線を作成した。
【0074】
〔ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0075】
〔イソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量〕
プロトンNMRの測定に基づき求めた。
【0076】
〔フィルムの引張弾性率〕
2枚のフィルムを用いて、一方を成形時の溶融流れ方向に沿って測定し、他方を成形時の溶融流れ垂直方向に沿って測定した。測定手順は以下の通りである。ORIENTEC社製のテンシロン万能試験機RTC−1210を用いて、引張速度300mm/minで100%まで伸張させ、その過程における50%伸張時の引張応力を測定し、50%伸張時におけるフィルムの引張弾性率を求めた。なお、引張弾性率が高いものほど高い弾性率を有すると言え、(溶融流れ方向の引張弾性率/溶融流れ垂直方向の引張弾性率)の比が1に近いものほど引張弾性率の異方性が小さい。
【0077】
〔フィルムの永久伸び〕
ASTM 412に準拠して上記のテンシロン万能試験機を用いて測定した。具体的には、サンプル形状はDieAを使用し、伸張前の標線間距離を40mmとしてフィルムを伸び率200%で伸張させ、そのままの状態で10分間保持した後、はね返させることなく急に収縮させて、10分間放置後、標線間距離を測定し、下式に基づいて永久伸びを求めた。
永久伸び(%)=(L1−L0)/L0×100
L0:伸張前の標線間距離(mm)
L1:収縮させて10分間放置後の標線間距離(mm)
なお、この測定では、2枚のフィルムを用いて、一方を成形時の溶融流れ方向に沿って測定し、他方を成形時の溶融流れ垂直方向に沿って測定し、それぞれの値を記録した。
【0078】
〔フィルム成形性〕
ブロック共重合体組成物の成形性(成形安定性)の指標として、フィルムの伸張粘度を測定した。測定手順は以下の通りである。測定装置としてTAインスツルメント社製のARESレオメーター、測定治具にARES−EVF伸張粘度測定冶具を用い、測定条件として伸張速度10秒−1、測定時間1.5秒、測定温度200℃で行った。サンプルとしてブロック共重合体を、150℃、2分間、熱プレスすることにより作成した厚さ1mmのフィルムを幅10mm、長さ20mm形状に切断したものを用いた。この条件により、フィルムの100%伸張時および350%伸張時の伸張粘度を測定した。100%伸張時の伸張粘度が高すぎると、成形性に劣るといえ、また、350%伸張時の伸張粘度が、100%伸張粘度に比べ低下した場合(350%時伸張粘度/100%時伸張粘度の値が1未満の場合)は、成形安定性に劣るといえる。
【0079】
〔実施例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する)2.2ミリモルおよびスチレン1.49kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム147.7ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン5.60kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、カップリング剤としてテトラメトキシシラン28.7ミリモルを添加して2時間カップリング反応を行い、スチレン−イソプレンカップリングブロック共重合体を形成させた。次いで、反応器にメタノール31.0ミリモルを添加することにより、一部のスチレン−イソプレンジブロック共重合体の活性末端を失活させた。この後、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン2.91kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール295.4ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。なお、反応に用いた各試剤の量は、表1にまとめた。得られた反応液の一部を取り出し、各ブロック共重合体およびブロック共重合体組成物の重量平均分子量、各スチレン重合体ブロックの重量平均分子量、各イソプレン重合体ブロックの重量平均分子量、各ブロック共重合体のスチレン単位含有量、ブロック共重合体組成物のスチレン単位含有量ならびにイソプレン重合体ブロックのビニル結合含有量を求めた。これらの値は、表2に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
以上のようにして得られた反応液100部に、酸化防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85〜95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、実施例1のブロック共重合体組成物を回収した。得られた組成物は、押出機の先端部に水中ホットカット装置を備えた単軸押出機に供給し、平均直径5mmで平均長さが5mm程度の円筒状のペレットとした。
【0083】
次いで、実施例1のブロック共重合体組成物のペレットを、T−ダイを装着した二軸押出機を用いて、200℃で加熱溶融し、20分間連続して押し出すことにより、厚さ0.2mmのフィルムに成形した。この実施例1のフィルムについて、引張弾性率と永久伸びを測定し、また、実施例1のブロック共重合体組成物について、フィルム成形性の評価を行なった。この結果は、表3に示す。なお、フィルムの成形条件の詳細は、以下の通りである。
【0084】
組成物処理速度 :15kg/hr
フィルム引き取り速度 :10m/min
押出機温度 :投入口140℃、T−ダイ160℃に調整
スクリュー :フルフライト
押出機L/D :42
T−ダイ :幅300mm、リップ1mm
【0085】
【表3】

【0086】
〔実施例2〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、イソプレン、テトラメトキシシラン、およびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のブロック共重合体組成物を回収し、ペレットとして、実施例2のフィルムを得た。実施例2のブロック共重合体組成物およびフィルムについては、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2および表3に示す。
【0087】
〔比較例1〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA2.3ミリモルおよびスチレン2.20kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム156.0ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン5.60kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。この後、50〜60℃を保つように温度制御しながら、スチレン2.20kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール312.0ミリモルを添加してよく混合し反応を停止した。得られた反応液の一部を取り出し、実施例1と同様の測定を行なった。これらの値は、表2に示した。以下の操作は、実施例1と同様にして、比較例1のブロック共重合体組成物を回収し、ペレットとして、比較例1のフィルムを得て、このフィルムについて測定を行なった。その結果を表3に示す。
【0088】
〔比較例2〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、イソプレンおよびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、比較例2のブロック共重合体組成物を回収し、ペレットとして、比較例2のフィルムを得た。比較例2のブロック共重合体組成物およびフィルムについては、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2および表3に示す。
【0089】
〔比較例3〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、TMEDA8.6ミリモルおよびスチレン4.50kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n−ブチルリチウム285.0ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。引き続き、50〜60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン5.50kgを1時間にわたり連続的に添加した。イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合した。イソプレンの重合転化率は100%であった。次いで、カップリング剤としてテトラメトキシシラン67.5ミリモルを添加して2時間カップリング反応を行い、スチレン−イソプレンカップリングブロック共重合体を形成させた。この後、活性末端を有するスチレン−イソプレンブロック共重合体が残留していると考えられる反応液に、メタノール570.0ミリモルを添加してよく混合し、活性末端を失活させた。得られた反応液の一部を取り出し、実施例1と同様の測定を行なった。これらの値は、表2に示した。以下の操作は、実施例1と同様にして、比較例3のブロック共重合体組成物を回収し、ペレットとして、比較例3のフィルムを得て、このフィルムについて測定を行なった。その結果は表3に示す。
【0090】
〔比較例4〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、イソプレンおよびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、比較例4のブロック共重合体組成物を回収し、ペレットとして、比較例4のフィルムを得た。比較例4のブロック共重合体組成物およびフィルムについては、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表2および表3に示す。
【0091】
〔比較製造例〕
スチレン、n−ブチルリチウム、TMEDA、イソプレンおよびメタノールの量を、それぞれ表1に示すように変更したこと以外は比較例1と同様にして、比較製造例のブロック共重合体組成物を製造し、ペレットとした。このブロック共重合体組成物について、実施例1と同様の測定を行なった。これらの値は、表2に示した。
【0092】
〔比較例5〕
用いるペレットを比較例4で得たペレット65部と比較製造例で得たペレット35部とを混合したものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5のフィルムを得た。この比較例5のフィルムについては、実施例1と同様の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0093】
表3から、以下のようなことが分かる。すなわち、本発明のブロック共重合体組成物の製造方法により得られたブロック共重合体組成物を用いてなるフィルムは、高い弾性率と小さい永久伸びとを兼ね備えるものであり、しかも、引張弾性率の異方性が小さく、フィルムの成形性および成形安定性にも優れるものである(実施例1,2)。これに対して、本発明のブロック共重合体組成物の製造方法以外の方法により得られた組成物を用いた場合では、高い弾性率を有させるために全体のスチレン(芳香族ビニル)単位含有量を高くすると、永久伸びが大きいものとなる(比較例1〜3、4)。永久伸びを小さくするために全体のスチレン(芳香族ビニル)単位含有量を低くすると、弾性率が低くなる(比較例4)。また、弾性率の異方性が発現し、フィルムの成形性および成形安定性にも劣るものであった(比較例1〜5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ar1−D1−Ar2(Ar1およびAr2は、それぞれ、芳香族ビニル重合体ブロックを表わし、D1は共役ジエン重合体ブロックを表わす)で表わされるトリブロック共重合体と、
(Ar1−D2)−X(D2は共役ジエン重合体ブロックを表わし、Xはカップリング剤の残基を表わし、nは2以上の整数である)で表わされる、カップリングブロック共重合体と、
を含んでなるブロック共重合体組成物を製造する方法であって、下記の(1)〜(5)の工程を有してなることを特徴とするブロック共重合体組成物の製造方法。
(1):溶媒中で重合開始剤を用いて、芳香族ビニル単量体を重合して、活性末端を有する芳香族ビニル重合体を形成する工程
(2):上記(1)の工程で得られる溶液に、共役ジエン単量体を添加して重合し、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体を形成する工程
(3):上記(2)の工程で得られる溶液に、ケイ素原子に直接結合したアルコキシ基を1分子あたり2個以上有するアルコキシシラン化合物をカップリング剤として添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部をカップリングして、上記カップリングブロック共重合体を形成する工程
(4):上記(3)の工程で得られる溶液に、芳香族ビニル単量体を添加して重合することにより、活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体を形成し、次いで、重合停止剤を添加することにより、当該活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエン−芳香族ビニルブロック共重合体の活性末端を失活させて上記トリブロック共重合体を形成する工程
(5):上記(4)の工程で得られる溶液から、重合体成分を回収する工程
【請求項2】
上記トリブロック共重合体のAr1およびAr2で表わされる2つの芳香族ビニル重合体ブロックが、互いに実質的に異なる重量平均分子量を有する、請求項1に記載のブロック共重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
上記のAr1で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量が6000〜20000であり、上記のAr2で表わされる芳香族ビニル重合体ブロックの重量平均分子量が40000〜400000である、請求項2に記載のブロック共重合体組成物の製造方法。
【請求項4】
さらに、Ar1−D2で表わされるジブロック共重合体を含んでなる、上記ブロック共重合体組成物を製造する方法であって、
上記(2)の工程と上記(4)の工程との間に、さらに、下記(3´)の工程を有してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のブロック共重合体組成物の製造方法。
(3´):上記(2)の工程で得られる溶液に、重合停止剤を添加することにより、溶液中の活性末端を有する芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体の一部の活性末端を失活させて上記ジブロック共重合体を形成する工程
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のブロック共重合体組成物の製造方法により製造されてなる、ブロック共重合体組成物。
【請求項6】
芳香族ビニル重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックを有してなり、上記トリブロック共重合体より大きな重量平均分子量を有し、かつ、全単量体単位に対する芳香族ビニル単量体単位の含有量が、上記カップリングブロック共重合体より大きく、上記トリブロック共重合体より小さい重合体成分をさらに含有してなる、請求項5に記載のブロック共重合体組成物。

【公開番号】特開2010−202716(P2010−202716A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47400(P2009−47400)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】