プッシュラッチ
【課題】ハートカム溝の底面の高低差を小さくし、ひいては小型化が可能なプッシュラッチを提供する。
【解決手段】プッシュラッチに、突出位置A1から第一落下段差71aを経て第一中間位置B1に至る第一カム溝71、位置B1から第二落下段差72aを経て没入位置C1に至る第二カム溝、位置C1から第三落下段差73aを経て第二中間位置D1に至る第三カム溝73並びに位置D1から第四落下段差74aを経て位置A1に至る第四カム溝74を有するハートカム溝70が形成された移動部材、およびハートカム溝70の底面に当接しつつハートカム溝70に係合する係合部材を具備し、第二カム溝72の底面のうち位置B1から第二落下段差72aに至るまでの部分を位置B1から第二落下段差72aに向かう上り坂とし、第三カム溝73の底面のうち位置C1から第三落下段差73aに至るまでの部分を位置C1から第三落下段差73aに向かう上り坂とした。
【解決手段】プッシュラッチに、突出位置A1から第一落下段差71aを経て第一中間位置B1に至る第一カム溝71、位置B1から第二落下段差72aを経て没入位置C1に至る第二カム溝、位置C1から第三落下段差73aを経て第二中間位置D1に至る第三カム溝73並びに位置D1から第四落下段差74aを経て位置A1に至る第四カム溝74を有するハートカム溝70が形成された移動部材、およびハートカム溝70の底面に当接しつつハートカム溝70に係合する係合部材を具備し、第二カム溝72の底面のうち位置B1から第二落下段差72aに至るまでの部分を位置B1から第二落下段差72aに向かう上り坂とし、第三カム溝73の底面のうち位置C1から第三落下段差73aに至るまでの部分を位置C1から第三落下段差73aに向かう上り坂とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの部材の一方を他方に係止した状態と、二つの部材の一方を他方に係止しない状態とを切り替えるプッシュラッチの技術に関する。より詳細には、プッシュラッチを薄型化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば家具の扉を家具の本体に係止した状態(扉を閉じた状態)と、扉を本体に係止しない状態(扉を本体に対して回動可能な状態)とを切り替えるプッシュラッチとして、いわゆるハートカム型のプッシュラッチが知られている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
ハートカム型のプッシュラッチは、家具の本体に固定される固定部材、当該固定部材に移動(スライド)可能に支持されるとともに図17の(a)に示す如き無端状のハートカム溝170が形成され、家具の扉を着脱可能に係止するスライド部材、および一端部が固定部材に固定されるとともに他端部がハートカム溝に係合するピン部材を備える。
そして、ピン部材の他端部がハートカム溝170に係合しつつハートカム溝170に沿って一方向に(図17の(a)の場合、反時計回りに)移動することにより、スライド部材が突出した状態とスライド部材が没入した状態とを交互に切り替える。
このようなハートカム型のプッシュラッチにおいては、ピン部材の他端部がハートカム溝170に沿って逆方向(図17の(a)の場合、時計回りに)移動することを防止するため、ハートカム溝170の底面に第一落下段差171a、第二落下段差172a、第三落下段差173aおよび第四落下段差174aの如き「段差」が適宜形成されるとともに、ピン部材の一端部はハートカム溝170の底面に当接する方向に付勢される。
【0003】
しかし、図17の(a)に示す如く段差が比較的近い距離で連続して配置される場合(第一落下段差171a、第二落下段差172aおよび第三落下段差173a参照)、連続する段差が開始される前の位置と連続する段差が終了する位置とではハートカム溝170の底面の高低差が大きくなってしまう(図17の(b)の場合、高低差は「3×H」となる)。
その結果、ハートカム溝170が形成されるスライド部材の上下方向(ピン部材の一端部が付勢される方向)の厚みが増大し、ひいてはプッシュラッチの大型化の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平3−46141号公報
【特許文献2】特開平7−34746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、ハートカム溝の底面の高低差を小さくし、ひいては小型化が可能なプッシュラッチを提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下では、上記課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、第一対象物に固定される固定部材と、突出位置から第一落下段差を経て第一中間位置に至る第一カム溝、前記第一中間位置から第二落下段差を経て没入位置に至る第二カム溝、前記没入位置から第三落下段差を経て第二中間位置に至る第三カム溝ならびに前記第二中間位置から第四落下段差を経て前記突出位置に至る第四カム溝を有するハートカム溝が形成されるハートカム部、および前記ハートカム部に連なるとともに第二対象物を着脱可能に係止する係止部、を備え、前記係止部が前記固定部材から突出する突出方向および前記係止部が前記固定部材に没入する没入方向に移動可能に前記固定部材に支持される移動部材と、一端部が前記固定部材に固定され、他端部が前記ハートカム溝の底面に当接しつつ前記ハートカム溝に係合し、当該他端部が前記突出位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材から突出した位置で支持し、当該他端部が前記没入位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材に没入した位置で支持する係合部材と、前記移動部材を前記突出方向に付勢する付勢部材と、を具備し、前記第二カム溝の底面のうち第一中間位置から前記第二落下段差に至るまでの部分は第一中間位置から前記第二落下段差に向かう上り坂であり、前記第三カム溝の底面のうち前記没入位置から前記第三落下段差に至るまでの部分は前記没入位置から前記第三落下段差に向かう上り坂である。
【0008】
請求項2においては、前記係合部材の他端部が前記ハートカム溝の底面に当接する方向に前記係合部材を付勢する副付勢部材を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ハートカム溝の底面の高低差を小さくし、ひいては小型化が可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左前上方からの斜視図、(b)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す右後下方からの斜視図。
【図2】本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左前上方からの分解斜視図。
【図3】本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左側面断面図。
【図4】(a)ベース部材を示す左前上方からの斜視図、(b)ベース部材を示す右後下方からの斜視図。
【図5】(a)ベース部材を示す正面図、(b)ベース部材を示す平面図。
【図6】(a)ケース部材を示す左前上方からの斜視図、(b)ケース部材を示す右後下方からの斜視図。
【図7】(a)ケース部材を示す正面図、(b)ベース部材を示す背面図。
【図8】(a)ケース部材の内部を示す斜視図、(b)ケース部材の後端部を示す要部斜視図。
【図9】(a)移動本体を示す左前上方からの斜視図、(b)移動本体を示す右後下方からの斜視図。
【図10】(a)移動本体を示す正面図、(b)移動本体を示す背面図。
【図11】(a)ハートカム部を示す要部斜視図、(b)同じくハートカム部を示す別方向からの要部斜視図。
【図12】(a)突出姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図、(b)第一押込姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図。
【図13】(a)没入姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図、(b)第一押込姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図。
【図14】(a)突出姿勢かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図、(b)突出姿勢かつベース部材がケース部材の後半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図。
【図15】(a)第一押込姿勢(第二押込姿勢)かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図、(b)没入姿勢かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図。
【図16】(a)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態におけるハートカム溝を示す平面模式図、(b)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態におけるハートカム溝の底面の高さを示す図。
【図17】(a)従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝を示す平面模式図、(b)従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高さを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では図面を参照しつつ、本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態であるプッシュラッチ1について説明する。なお、以下では便宜上、図1に示す上下方向、前後方向および左右方向を用いてプッシュラッチ1の各部を説明するが、プッシュラッチ1の使用時の姿勢はこれらの方向に限定されない。
【0012】
本実施形態のプッシュラッチ1は、例えば家具の本体に回動可能に連結された扉を係止する(家具の本体に対して閉じた状態を保持する)用途等に用いられるものである。
ここで、「家具の本体」は本発明に係る第一対象物の実施の一形態であり、「家具の扉」は本発明に係る第二対象物の実施の一形態である。家具の具体例としては、箪笥、本棚、食器棚、洗面台、机等が挙げられる。なお、本発明に係るプッシュラッチが適用される二つの物品(第一対象物および第二対象物)は回動可能に連結されていても良く、回動可能に連結されていなくても良い。
【0013】
図1および図2に示す如く、プッシュラッチ1は固定部材10、移動部材20、係合ピン30、バネ40および係止リング50を具備する。
【0014】
固定部材10は本発明に係る固定部材の実施の一形態である。本実施形態の固定部材10はベース部材11およびケース部材16を備える。
【0015】
図4および図5に示す如く、ベース部材11は本体部および当該本体部の下部からそれぞれ左右側方に張り出した一対の板状のウイング部を備える。本実施形態のベース部材11は樹脂材料を一体成形することにより製造される。
ベース部材11の本体部には前後方向に貫通する貫通孔11aが形成され、貫通孔11aの内周面には雌ネジが形成される。また、貫通孔11aの内周面にはその先端部が貫通孔11aの内側に向かって弾性的に突出した突起11bが形成される(図5の(a)参照)。
ベース部材11の一対のウイング部にはそれぞれ上下に貫通する貫通孔11c・11d・11e・11fが形成される。貫通孔11c・11d・11e・11fにネジ(不図示)を貫装し、これらのネジを家具の本体(不図示)に形成されたネジ穴にねじ込むことにより、ベース部材11、ひいては固定部材10が家具の本体に固定される。
【0016】
図6、図7および図8に示す如く、ケース部材16は前後方向に延びた概ね円筒形状の部材である。ケース部材16の前端部は大きく開口し、ケース部材16の内部に形成された空間と外部とを連通している。ケース部材16の内周面には前後方向に延びた計四本のガイド溝16a・16a・16a・16aが形成される。ケース部材16の外周面には雄ネジが形成されるとともに、前後方向に延びた計四本の係止溝16b・16b・16b・16bが形成される。また、ケース部材16の外周面の前端部には周方向に並んだ歯車状の突起が形成される。図7の(b)および図8の(b)に示す如く、ケース部材16の後端部は底板により概ね閉塞され、当該底板における後側の板面の中央部には、後方に突出する突起16cが形成される。また、突起16cにはその上面に開口する固定穴16dが形成される。ケース部材16の底板の上半部にはケース部材16の内部の空間と外部とを連通する連通孔16eが形成される。図7の(a)および図8の(a)に示す如く、ケース部材16の底板における前側の板面の下半部には、前方に突出するバネ受け突起16fが形成される。
【0017】
図1および図14に示す如く、ケース部材16をベース部材11の貫通孔にねじ込むことにより、ケース部材16はベース部材11に支持される。また、図14の(a)および(b)に示す如く、ベース部材11の貫通孔へのケース部材16のねじ込み量を調整することにより、ベース部材11に対するケース部材16の前端部(ひいては、家具の扉を係止する位置である移動部材20の前端部)の前後方向における位置を調整することが可能である。なお、ケース部材16がベース部材11の貫通孔にねじ込まれたとき、ベース部材11の突起11b(図5の(a)参照)がケース部材16の外周面に形成された係止溝16b・16b・16b・16bのいずれかに嵌合することにより、或る大きさ以上のトルク(突起11bを弾性変形させることにより突起11bが係止溝16bに嵌合した状態を解除可能なトルク)が作用した場合に限りベース部材11に対してケース部材16が相対回転することを許容し、ひいては使用者が気づかないうちにベース部材11に対するケース部材16の前端部の前後方向における位置が変動することを防止する。
【0018】
図1および図2に示す移動部材20は本発明に係る移動部材の実施の一形態である。
移動部材20は移動本体21、磁石部材25およびヨーク部材26・27を備える。
【0019】
以下では図9、図10および図11を用いて移動本体21の詳細について説明する。移動本体21は前後方向に延びた概ね円柱形状の部材であり、樹脂材料を一体成形することにより製造される。本実施形態の移動部材20はハートカム部22、胴体部23および四本のガイド突起24・24・24・24を備える。
【0020】
ハートカム部22は本発明に係るハートカム部の実施の一形態である。本実施形態のハートカム部22は移動本体21の後半部を成す。ハートカム部22にはハートカム溝70が形成される。図9の(a)および図11に示す如く、ハートカム溝70はハートカム部22の外周面の上方に向かって開口する概ねハート形を成す無端状の溝である。ハートカム溝70はハートカム溝70の開口部分から下方に延びる一対の壁面、およびこれら一対の壁面の下端部を繋ぐ底面を有する。
【0021】
以下ではハートカム溝70の詳細について説明する。図11および図16の(a)に示す如く、ハートカム溝70は第一カム溝71、第二カム溝72、第三カム溝73および第四カム溝74の四つの溝を有し、これらが順に繋がった形状を成す。
【0022】
第一カム溝71はハートカム溝70の後端部から右前端部にかけての部分を成し、第一カム溝71の一端部(後端部)は突出位置(図16の(a)におけるA1参照)に連なり、第一カム溝71の他端部(前端部)は第一中間位置(図16の(a)におけるB1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第一カム溝71の底面(ハートカム溝70の底面のうち第一カム溝71に対応する部分)の中途部には第一落下段差71aが形成される。
従って、第一カム溝71はハートカム溝70のうち突出位置(A1)から第一落下段差71aを経て第一中間位置(B1)に至る部分を成す。
第一カム溝71の底面のうち突出位置(A1)から第一落下段差71aに至るまでの部分は突出位置(A1)から第一落下段差71aに向かう上り坂である。そして、第一落下段差71aを境界として「第一カム溝71の底面のうち第一中間位置(B1)寄りの部分」が「第一カム溝71の底面のうち突出位置(A1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0023】
第二カム溝72はハートカム溝70の右前端部から中央前部にかけての部分を成し、第二カム溝72の一端部(右前端部)は第一中間位置(B1)に連なり、第二カム溝72の他端部(左後端部)は没入位置(図16の(a)におけるC1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第二カム溝72の底面(ハートカム溝70の底面のうち第二カム溝72に対応する部分)の中途部には第二落下段差72aが形成される。
従って、第二カム溝72はハートカム溝70のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aを経て没入位置(C1)に至る部分を成す。
第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでの部分は第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに向かう上り坂である。そして、第二落下段差72aを境界として「第二カム溝72の底面のうち没入位置(C1)寄りの部分」が「第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0024】
第三カム溝73はハートカム溝70の中央前部から左前端部にかけての部分を成し、第三カム溝73の一端部(右後端部)は没入位置(C1)に連なり、第三カム溝73の他端部(左前端部)は第二中間位置(図16の(a)におけるD1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第三カム溝73の底面(ハートカム溝70の底面のうち第三カム溝73に対応する部分)の中途部には第三落下段差73aが形成される。
従って、第三カム溝73はハートカム溝70のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aを経て第二中間位置(D1)に至る部分を成す。
第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでの部分は没入位置(C1)から第三落下段差73aに向かう上り坂である。そして、第三落下段差73aを境界として「第三カム溝73の底面のうち第二中間位置(D1)寄りの部分」が「第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0025】
第四カム溝74はハートカム溝70の左前端部から後端部にかけての部分を成し、第四カム溝74の一端部(前端部)は第二中間位置(D1)に連なり、第四カム溝74の他端部(後端部)は突出位置(A1)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第四カム溝74の底面(ハートカム溝70の底面のうち第四カム溝74に対応する部分)の中途部には第四落下段差74aが形成される。
従って、第四カム溝74はハートカム溝70のうち第二中間位置(D1)から第四落下段差74aおよび合流位置(図16の(a)におけるE1参照)を経て突出位置(A1)に至る部分を成す。
第四カム溝74の底面のうち第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに至るまでの部分は第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに向かう上り坂である。そして、第四落下段差74aを境界として「第四カム溝74の底面のうち突出位置(A1)寄りの部分」が「第四カム溝74の底面のうち第二中間位置(D1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0026】
図9の(b)および図10の(b)に示す如く、ハートカム部22にはバネ受け凹部22aが形成される。バネ受け凹部22aはハートカム部22の後端面および外周面下部に開口する窪みである。
【0027】
胴体部23は移動本体21の前半部を成し、ハートカム部22の前方に連なる。胴体部23の前端部はフランジ状に成形される。また、胴体部23の前端部には胴体部23の前端面に開口する収容穴23aが形成される。胴体部23には胴体部23の外周面の前端部かつ左右端部から収容穴23aの内周面まで貫通する一対の貫通孔23b・23bが形成される。
【0028】
図9に示す如く、四本のガイド突起24・24・24・24は前後方向に延びた形状の突起(突条)であり、ハートカム部22および胴体部23に跨って設けられ、これらの外周面の左上部、右上部、左下部、右下部に配置される。なお、四本のガイド突起24・24・24・24のうち、ハートカム部22および胴体部23の外周面の左上部および右上部に形成されたガイド突起24・24の前後方向における中途部はハートカム溝70との干渉を避けるために省略(切除)されている。
【0029】
図2に示す磁石部材25は永久磁石からなる。本実施形態の磁石部材25は上面、下面、前面、後面、左面および右面を有する直方体形状の部材である。ここで、「永久磁石」は、自発的に(外部から磁場あるいは電流が供給されない状態で)磁化し、周囲に磁場を発生させる(ひいては、磁力を発生させる)性質を有する物体であり、通常は強磁性体からなる。永久磁石の具体例としては、アルニコ磁石、KS鋼、MK鋼、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等、既知の種々の磁石が挙げられる。
【0030】
ヨーク部材26・27はいずれも常磁性(外部から磁場が作用しないときには磁化せず、外部から磁場が作用したときには磁化する性質)の鉄鋼材料からなる。図2に示す如く、本実施形態のヨーク部材26・27は左右一対の板面を有する概ね矩形の板状の部材である。ヨーク部材26の前端部は右側方に突出し、ヨーク部材26の左側の板面における前後中央部には左側方に突出する係止突起26aが形成される。ヨーク部材27の前端部は左側方に突出し、ヨーク部材27の右側の板面における前後中央部には右側方に突出する係止突起27aが形成される。
【0031】
胴体部23、磁石部材25およびヨーク部材26・27を合わせたものは、本発明に係る係止部の実施の一形態に相当する。
図1の(a)および図2に示す如く、磁石部材25およびヨーク部材26・27は、磁石部材25の左右にそれぞれヨーク部材26・27が配置された姿勢で胴体部23の収容穴23aに収容される。磁石部材25およびヨーク部材26・27が収容穴23aに収容されたとき、ヨーク部材26の係止突起26aおよびヨーク部材27の係止突起27aが胴体部23の貫通孔23b・23bに嵌合し、磁石部材25およびヨーク部材26・27は胴体部23に脱落不能に支持され、かつヨーク部材26・27の前端部は胴体部23の前端面よりもわずかに前方に突出している。また、このとき、ヨーク部材26・27は磁石部材25が発生させる磁場により磁化している。
家具の扉(不図示)においてヨーク部材26・27に対向する部分を常磁性体からなる材料で構成することにより、家具の扉は磁化したヨーク部材26・27の前端面に着脱可能に吸着(係止)される。換言すれば、或る大きさ以上の外力(ヨーク部材26・27が発生させる吸着力を上回る外力)が家具の扉に作用しない場合には家具の扉がヨーク部材26・27の前端面(ひいては、プッシュラッチ1が固定された家具の本体(不図示))に吸着(係止)された状態が保持され、或る大きさ以上の外力が家具の扉に作用した場合には家具の扉がヨーク部材26・27の前端面に吸着(係止)された状態が解除される。
【0032】
図1および図2に示す如く、移動部材20はケース部材16の前端部に形成された開口部からケース部材16の内部に形成された空間(以下、「ケース部材16の内部空間」という。)に収容され、ケース部材16(ひいては固定部材10)に対して前後方向に移動可能に支持される。
移動部材20がケース部材16に支持されつつケース部材16に対して前方に移動したとき、移動部材20はケース部材16の内部空間から前方に突出する(図14参照)。
また、移動部材20がケース部材16に支持されつつケース部材16に対して後方に移動したとき、移動部材20はケース部材16の内部空間に没入する(図15参照)。
以下では便宜上、移動部材20がケース部材16(ひいては固定部材10)に対して前方に移動することを「移動部材20が突出方向に移動する」といい、移動部材20がケース部材16(ひいては固定部材10)に対して後方に移動することを「移動部材20が没入方向に移動する」という。
移動部材20がケース部材16の内部空間に収容されたとき、ガイド突起29・29・29・29はそれぞれガイド溝16a・16a・16a・16aに嵌合するため、移動部材20がケース部材16に対して前後方向の軸中心に相対回転することは無い。
【0033】
図2に示す係合ピン30は本発明に係る係合部材の実施の一形態である。本実施形態の係合ピン30は鋼線を適当な長さに切断し、適宜折り曲げることにより製造される。
係合ピン30の中途部はその長手方向が概ね前後方向に平行であり、係合ピン30の一端部(後端部)および他端部(前端部)はその長手方向が係合ピン30の中途部の長手方向に対して概ね90°となるように下方に折り曲げられる。図3に示す如く、係合ピン30はケース部材16の内部空間に収容される。このとき、係合ピン30の一端部(後端部)はケース部材16の連通孔16eを通ってケース部材16の外部に突出し、突起16cに形成された固定穴16dに嵌合する。また、係合ピン30の他端部(前端部)は移動本体21のハートカム部22に形成されたハートカム溝70の底面に当接しつつハートカム溝70に係合する。
【0034】
図2に示すバネ40は本発明に係る付勢部材の実施の一形態である。本実施形態のバネ40はバネ鋼からなる圧縮コイルバネである。図3に示す如く、バネ40は移動本体21のハートカム部22に形成されたバネ受け凹部22aに嵌合した状態でケース部材16の内部空間に収容される。このとき、バネ40は圧縮される方向に弾性変形しており、バネ40の一端部(後端部)はバネ受け突起16fに嵌装され、バネ40の他端部(前端部)はバネ受け凹部22aの前側の端面に当接している。従って、バネ40は弾性力(弾性変形したバネ40が元の形状に戻ろうとする力)により移動本体21(ひいては移動部材20)をケース部材16(ひいては固定部材10)に対して突出方向(前方)に付勢する。
【0035】
図2に示す係止リング50は本発明に係る副付勢部材の実施の一形態である。
図1の(b)および図3に示す如く、係止リング50はその直径が大きくなる方向に弾性変形しつつ、ケース部材16の突起16cおよび係合ピン30の中途部において後端部(下方に屈曲して固定孔16dに嵌合している部分)寄りとなる部分に嵌合する。
従って、係止リング50は弾性力(弾性変形した係止リング50が元の形状に戻ろうとする力)により係合ピン30の前端部(他端部)を下方(すなわち、係合ピン30の前端部(他端部)がハートカム溝70の底面に当接する方向)に付勢する。
また、係止リング50により、係合ピン30の後端部(一端部)はケース部材16(ひいては固定部材10)に脱落不能に固定される。
【0036】
以下では図12から図16を用いてプッシュラッチ1の動作を説明する。なお、以下では便宜上、図12の(a)および図14の(a)に示す「突出姿勢」を初期状態とする。
【0037】
図12の(a)および図14の(a)に示す如く、プッシュラッチ1が「突出姿勢」のとき、係合ピン30の他端部(前端部)は突出位置(A1)に配置され、突出位置(A1)においてハートカム溝70に係合し、かつハートカム溝70の底面に当接する。
その結果、移動部材20は係合ピン30により固定部材10(ケース部材16)から突出した位置で支持される。
【0038】
図12の(b)、図15の(a)および図16に示す如く、「突出姿勢」から移動部材20に外力を作用させ、バネ40の付勢力に抗して移動部材20を固定部材10(ケース部材16)に対して没入方向(後方)に押し込んだとき、係合ピン30の他端部(前端部)は第一カム溝71の底面に当接しつつ第一カム溝71に沿って移動し、第一落下段差71aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部(前端部)は第一中間位置(B1)に到達し、プッシュラッチ1は「突出姿勢」から「第一押込姿勢」に移行する。
【0039】
図13の(a)、図15の(b)および図16に示す如く、「第一押込姿勢」から移動部材20に作用させている外力を解除したとき、移動部材20はバネ40の付勢力により固定部材10(ケース部材16)に対して突出方向(前方)に移動し、係合ピン30の他端部(前端部)は第二カム溝72の底面に当接しつつ第二カム溝72に沿って移動し、第二落下段差72aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は没入位置(C1)に到達し、プッシュラッチ1は「第一押込姿勢」から「没入姿勢」に移行し、移動部材20は係合ピン30により固定部材10(ケース部材16)に没入した位置で支持される。
【0040】
図13の(b)、図15の(a)および図16に示す如く、「没入姿勢」から移動部材20に外力を作用させ、バネ40の付勢力に抗して移動部材20を固定部材10(ケース部材16)に対して没入方向(後方)に押し込んだとき、係合ピン30の他端部は第三カム溝73の底面に当接しつつ第三カム溝73に沿って移動し、第三落下段差73aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は第二中間位置(D1)に到達し、プッシュラッチ1は「没入姿勢」から「第二押込姿勢」に移行する。
【0041】
図12の(a)、図14の(a)および図16に示す如く、「第二押込姿勢」から移動部材20に作用させている外力を解除したとき、移動部材20はバネ40の付勢力により固定部材10(ケース部材16)に対して突出方向(前方)に移動し、係合ピン30の他端部は第四カム溝74の底面に当接しつつ第四カム溝74に沿って移動し、第四落下段差74aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は合流位置(E1)を経て突出位置(A1)に到達し、プッシュラッチ1は「第二押込姿勢」から「突出姿勢」に移行する(初期状態に戻る)。
【0042】
このように、移動部材20を固定部材10に対して没入方向に押し込んだ後、当該外力を解除することにより、プッシュラッチ1の姿勢を突出姿勢(固定部材10に対して移動部材20が突出した姿勢)と没入姿勢(固定部材10に対して移動部材20が没入した姿勢)との間で交互に切り替えることが可能である。
なお、ハートカム溝70の底面にはそれぞれ第一落下段差71a、第二落下段差72a、第三落下段差73a、第四落下段差74aが形成されている。そのため、移動部材20を固定部材10に対して没入方向に押し込む動作および当該外力を解除する動作を行ったとき、係合ピン30の他端部(前端部)がハートカム溝70の内部を逆行する(本実施形態の場合、ハートカム溝70に沿って平面視で時計回りに移動する)ことはない。
【0043】
以下では、図16を用いてハートカム溝70の底面の上下方向における高さについて説明する。なお、以下では便宜上、突出位置(A1)」の上下方向における高さを基準(ゼロ)として設定するとともに、係合ピン30の他端部(前端部)がハートカム溝70の内部を逆行しないための基準となる段差の高さとして「基準段差高さH」を設定し、これらの値を用いて説明する。
ここで、「基準段差高さH」は係合ピン30の他端部(前端部)の形状、バネ40および係止リング50の弾性力等に基づき、実験またはシミュレーションにより設定される。
【0044】
まずハートカム溝70の底面のうち第一カム溝71に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、突出位置(A1)から第一落下段差71aに至るまでに「2×H」だけ増加し、第一落下段差71aの直前となる部分の高さは「2×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第一落下段差71aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、第一中間位置(B1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「1×H(=2×H−1×H)」となる。
【0045】
次にハートカム溝70の底面のうち第二カム溝72に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでに「0.5×H」だけ増加し、第二落下段差72aの直前となる部分の高さは「1.5×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第二落下段差72aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、没入位置(C1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「0.5×H(=1.5×H−1×H)」となる。
【0046】
続いてハートカム溝70の底面のうち第三カム溝73に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでに「0.5×H」だけ増加し、第三落下段差73aの直前となる部分の高さは「1×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第三落下段差73aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、第二中間位置(D1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「ゼロ(=1×H−1×H)」となる。
【0047】
続いてハートカム溝70の底面のうち第四カム溝74に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに至るまでに「1×H」だけ増加し、第四落下段差74aの直前となる部分の高さは「1×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第四落下段差74aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、合流位置(E1)および突出位置(A1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「ゼロ(=1×H−1×H)」となる。
【0048】
このように、ハートカム溝70の底面の高低差は第一落下段差71aの直前となる部分と第二中間位置(D1)との間で最大となり、その大きさは「2×H」である。
【0049】
一方、図17に示す如く、従来のプッシュラッチの場合、第一落下段差171a、第二落下段差172a、第三落下段差173aおよび第四落下段差174aにおけるハートカム溝70の底面の高さの減少量はいずれも「1×H」であり、ハートカム溝の底面のうち第一落下段差171から第二落下段差172aまでの部分および第二落下段差172aから第三落下段差173aまでの部分はハートカム溝の底面の高さが変化しない。
従って、従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高低差は第一落下段差171aの直前となる部分と第二中間位置(D2)との間で最大となり、その大きさは「3×H」である。
【0050】
このように、本実施形態のプッシュラッチ1は、第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでの部分が第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに向かう上り坂であり、かつ、第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでの部分が没入位置(C1)から第三落下段差73aに向かう上り坂であるため、従来のプッシュラッチ(図17参照)に比べてハートカム溝70の底面の高低差を小さくし、移動部材20(ハートカム部22)を上下方向(係合ピン30が付勢される方向)において薄型化することが可能であり、ひいてはプッシュラッチの小型化に寄与する。
【0051】
なお、本実施形態のプッシュラッチ1におけるハートカム溝70の底面の高低差は「2×H」であるが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係るプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高低差は、理論上は「1×H」まで小さくすることが可能である(図16の(b)中の太い点線参照)。
【0052】
本実施形態における係止部(胴体部23、磁石部材25およびヨーク部材26・27を合わせたもの)は磁力により第二対象物(例えば、家具の扉)を着脱可能に係止するが、本発明に係る係止部はこれに限定されず、他の方法により第二対象物を着脱可能に係止しても良い。本発明に係る係止部の他の実施形態としては、例えば、移動部材が固定部材に対して突出したときに開くとともに移動部材が固定部材に対して没入したときに閉じる一対の爪を有し、当該一対の爪が閉じたときに第二対象物に設けられた突起を把持することにより第二対象物を着脱可能に係止するもの、が挙げられる。
【符号の説明】
【0053】
1 プッシュラッチ、10 固定部材、11 ベース部材、16 ケース部材、20 移動部材、21 移動本体、22 ハートカム部、23 胴体部、25 磁石部材、26・27 ヨーク部材、30 係合ピン(係合部材)、40 バネ(付勢部材)、50 係止リング(副付勢部材)、70 ハートカム溝、71 第一カム溝、71a 第一落下段差、72 第二カム溝、72a 第二落下段差、73 第三カム溝、73a 第三落下段差、74 第四カム溝、74a 第四落下段差、A1 突出位置、B1 第一中間位置、C1 没入位置、D1 第二中間位置、E1 合流位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの部材の一方を他方に係止した状態と、二つの部材の一方を他方に係止しない状態とを切り替えるプッシュラッチの技術に関する。より詳細には、プッシュラッチを薄型化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば家具の扉を家具の本体に係止した状態(扉を閉じた状態)と、扉を本体に係止しない状態(扉を本体に対して回動可能な状態)とを切り替えるプッシュラッチとして、いわゆるハートカム型のプッシュラッチが知られている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
ハートカム型のプッシュラッチは、家具の本体に固定される固定部材、当該固定部材に移動(スライド)可能に支持されるとともに図17の(a)に示す如き無端状のハートカム溝170が形成され、家具の扉を着脱可能に係止するスライド部材、および一端部が固定部材に固定されるとともに他端部がハートカム溝に係合するピン部材を備える。
そして、ピン部材の他端部がハートカム溝170に係合しつつハートカム溝170に沿って一方向に(図17の(a)の場合、反時計回りに)移動することにより、スライド部材が突出した状態とスライド部材が没入した状態とを交互に切り替える。
このようなハートカム型のプッシュラッチにおいては、ピン部材の他端部がハートカム溝170に沿って逆方向(図17の(a)の場合、時計回りに)移動することを防止するため、ハートカム溝170の底面に第一落下段差171a、第二落下段差172a、第三落下段差173aおよび第四落下段差174aの如き「段差」が適宜形成されるとともに、ピン部材の一端部はハートカム溝170の底面に当接する方向に付勢される。
【0003】
しかし、図17の(a)に示す如く段差が比較的近い距離で連続して配置される場合(第一落下段差171a、第二落下段差172aおよび第三落下段差173a参照)、連続する段差が開始される前の位置と連続する段差が終了する位置とではハートカム溝170の底面の高低差が大きくなってしまう(図17の(b)の場合、高低差は「3×H」となる)。
その結果、ハートカム溝170が形成されるスライド部材の上下方向(ピン部材の一端部が付勢される方向)の厚みが増大し、ひいてはプッシュラッチの大型化の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平3−46141号公報
【特許文献2】特開平7−34746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、ハートカム溝の底面の高低差を小さくし、ひいては小型化が可能なプッシュラッチを提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下では、上記課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、第一対象物に固定される固定部材と、突出位置から第一落下段差を経て第一中間位置に至る第一カム溝、前記第一中間位置から第二落下段差を経て没入位置に至る第二カム溝、前記没入位置から第三落下段差を経て第二中間位置に至る第三カム溝ならびに前記第二中間位置から第四落下段差を経て前記突出位置に至る第四カム溝を有するハートカム溝が形成されるハートカム部、および前記ハートカム部に連なるとともに第二対象物を着脱可能に係止する係止部、を備え、前記係止部が前記固定部材から突出する突出方向および前記係止部が前記固定部材に没入する没入方向に移動可能に前記固定部材に支持される移動部材と、一端部が前記固定部材に固定され、他端部が前記ハートカム溝の底面に当接しつつ前記ハートカム溝に係合し、当該他端部が前記突出位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材から突出した位置で支持し、当該他端部が前記没入位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材に没入した位置で支持する係合部材と、前記移動部材を前記突出方向に付勢する付勢部材と、を具備し、前記第二カム溝の底面のうち第一中間位置から前記第二落下段差に至るまでの部分は第一中間位置から前記第二落下段差に向かう上り坂であり、前記第三カム溝の底面のうち前記没入位置から前記第三落下段差に至るまでの部分は前記没入位置から前記第三落下段差に向かう上り坂である。
【0008】
請求項2においては、前記係合部材の他端部が前記ハートカム溝の底面に当接する方向に前記係合部材を付勢する副付勢部材を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ハートカム溝の底面の高低差を小さくし、ひいては小型化が可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左前上方からの斜視図、(b)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す右後下方からの斜視図。
【図2】本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左前上方からの分解斜視図。
【図3】本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態を示す左側面断面図。
【図4】(a)ベース部材を示す左前上方からの斜視図、(b)ベース部材を示す右後下方からの斜視図。
【図5】(a)ベース部材を示す正面図、(b)ベース部材を示す平面図。
【図6】(a)ケース部材を示す左前上方からの斜視図、(b)ケース部材を示す右後下方からの斜視図。
【図7】(a)ケース部材を示す正面図、(b)ベース部材を示す背面図。
【図8】(a)ケース部材の内部を示す斜視図、(b)ケース部材の後端部を示す要部斜視図。
【図9】(a)移動本体を示す左前上方からの斜視図、(b)移動本体を示す右後下方からの斜視図。
【図10】(a)移動本体を示す正面図、(b)移動本体を示す背面図。
【図11】(a)ハートカム部を示す要部斜視図、(b)同じくハートカム部を示す別方向からの要部斜視図。
【図12】(a)突出姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図、(b)第一押込姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図。
【図13】(a)没入姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図、(b)第一押込姿勢における移動部材、係合ピンおよびケース部材を示す要部平面図。
【図14】(a)突出姿勢かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図、(b)突出姿勢かつベース部材がケース部材の後半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図。
【図15】(a)第一押込姿勢(第二押込姿勢)かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図、(b)没入姿勢かつベース部材がケース部材の前半部に螺合しているときにおける本発明に係るプッシュラッチの一形態を示す左側面図。
【図16】(a)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態におけるハートカム溝を示す平面模式図、(b)本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態におけるハートカム溝の底面の高さを示す図。
【図17】(a)従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝を示す平面模式図、(b)従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高さを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では図面を参照しつつ、本発明に係るプッシュラッチの実施の一形態であるプッシュラッチ1について説明する。なお、以下では便宜上、図1に示す上下方向、前後方向および左右方向を用いてプッシュラッチ1の各部を説明するが、プッシュラッチ1の使用時の姿勢はこれらの方向に限定されない。
【0012】
本実施形態のプッシュラッチ1は、例えば家具の本体に回動可能に連結された扉を係止する(家具の本体に対して閉じた状態を保持する)用途等に用いられるものである。
ここで、「家具の本体」は本発明に係る第一対象物の実施の一形態であり、「家具の扉」は本発明に係る第二対象物の実施の一形態である。家具の具体例としては、箪笥、本棚、食器棚、洗面台、机等が挙げられる。なお、本発明に係るプッシュラッチが適用される二つの物品(第一対象物および第二対象物)は回動可能に連結されていても良く、回動可能に連結されていなくても良い。
【0013】
図1および図2に示す如く、プッシュラッチ1は固定部材10、移動部材20、係合ピン30、バネ40および係止リング50を具備する。
【0014】
固定部材10は本発明に係る固定部材の実施の一形態である。本実施形態の固定部材10はベース部材11およびケース部材16を備える。
【0015】
図4および図5に示す如く、ベース部材11は本体部および当該本体部の下部からそれぞれ左右側方に張り出した一対の板状のウイング部を備える。本実施形態のベース部材11は樹脂材料を一体成形することにより製造される。
ベース部材11の本体部には前後方向に貫通する貫通孔11aが形成され、貫通孔11aの内周面には雌ネジが形成される。また、貫通孔11aの内周面にはその先端部が貫通孔11aの内側に向かって弾性的に突出した突起11bが形成される(図5の(a)参照)。
ベース部材11の一対のウイング部にはそれぞれ上下に貫通する貫通孔11c・11d・11e・11fが形成される。貫通孔11c・11d・11e・11fにネジ(不図示)を貫装し、これらのネジを家具の本体(不図示)に形成されたネジ穴にねじ込むことにより、ベース部材11、ひいては固定部材10が家具の本体に固定される。
【0016】
図6、図7および図8に示す如く、ケース部材16は前後方向に延びた概ね円筒形状の部材である。ケース部材16の前端部は大きく開口し、ケース部材16の内部に形成された空間と外部とを連通している。ケース部材16の内周面には前後方向に延びた計四本のガイド溝16a・16a・16a・16aが形成される。ケース部材16の外周面には雄ネジが形成されるとともに、前後方向に延びた計四本の係止溝16b・16b・16b・16bが形成される。また、ケース部材16の外周面の前端部には周方向に並んだ歯車状の突起が形成される。図7の(b)および図8の(b)に示す如く、ケース部材16の後端部は底板により概ね閉塞され、当該底板における後側の板面の中央部には、後方に突出する突起16cが形成される。また、突起16cにはその上面に開口する固定穴16dが形成される。ケース部材16の底板の上半部にはケース部材16の内部の空間と外部とを連通する連通孔16eが形成される。図7の(a)および図8の(a)に示す如く、ケース部材16の底板における前側の板面の下半部には、前方に突出するバネ受け突起16fが形成される。
【0017】
図1および図14に示す如く、ケース部材16をベース部材11の貫通孔にねじ込むことにより、ケース部材16はベース部材11に支持される。また、図14の(a)および(b)に示す如く、ベース部材11の貫通孔へのケース部材16のねじ込み量を調整することにより、ベース部材11に対するケース部材16の前端部(ひいては、家具の扉を係止する位置である移動部材20の前端部)の前後方向における位置を調整することが可能である。なお、ケース部材16がベース部材11の貫通孔にねじ込まれたとき、ベース部材11の突起11b(図5の(a)参照)がケース部材16の外周面に形成された係止溝16b・16b・16b・16bのいずれかに嵌合することにより、或る大きさ以上のトルク(突起11bを弾性変形させることにより突起11bが係止溝16bに嵌合した状態を解除可能なトルク)が作用した場合に限りベース部材11に対してケース部材16が相対回転することを許容し、ひいては使用者が気づかないうちにベース部材11に対するケース部材16の前端部の前後方向における位置が変動することを防止する。
【0018】
図1および図2に示す移動部材20は本発明に係る移動部材の実施の一形態である。
移動部材20は移動本体21、磁石部材25およびヨーク部材26・27を備える。
【0019】
以下では図9、図10および図11を用いて移動本体21の詳細について説明する。移動本体21は前後方向に延びた概ね円柱形状の部材であり、樹脂材料を一体成形することにより製造される。本実施形態の移動部材20はハートカム部22、胴体部23および四本のガイド突起24・24・24・24を備える。
【0020】
ハートカム部22は本発明に係るハートカム部の実施の一形態である。本実施形態のハートカム部22は移動本体21の後半部を成す。ハートカム部22にはハートカム溝70が形成される。図9の(a)および図11に示す如く、ハートカム溝70はハートカム部22の外周面の上方に向かって開口する概ねハート形を成す無端状の溝である。ハートカム溝70はハートカム溝70の開口部分から下方に延びる一対の壁面、およびこれら一対の壁面の下端部を繋ぐ底面を有する。
【0021】
以下ではハートカム溝70の詳細について説明する。図11および図16の(a)に示す如く、ハートカム溝70は第一カム溝71、第二カム溝72、第三カム溝73および第四カム溝74の四つの溝を有し、これらが順に繋がった形状を成す。
【0022】
第一カム溝71はハートカム溝70の後端部から右前端部にかけての部分を成し、第一カム溝71の一端部(後端部)は突出位置(図16の(a)におけるA1参照)に連なり、第一カム溝71の他端部(前端部)は第一中間位置(図16の(a)におけるB1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第一カム溝71の底面(ハートカム溝70の底面のうち第一カム溝71に対応する部分)の中途部には第一落下段差71aが形成される。
従って、第一カム溝71はハートカム溝70のうち突出位置(A1)から第一落下段差71aを経て第一中間位置(B1)に至る部分を成す。
第一カム溝71の底面のうち突出位置(A1)から第一落下段差71aに至るまでの部分は突出位置(A1)から第一落下段差71aに向かう上り坂である。そして、第一落下段差71aを境界として「第一カム溝71の底面のうち第一中間位置(B1)寄りの部分」が「第一カム溝71の底面のうち突出位置(A1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0023】
第二カム溝72はハートカム溝70の右前端部から中央前部にかけての部分を成し、第二カム溝72の一端部(右前端部)は第一中間位置(B1)に連なり、第二カム溝72の他端部(左後端部)は没入位置(図16の(a)におけるC1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第二カム溝72の底面(ハートカム溝70の底面のうち第二カム溝72に対応する部分)の中途部には第二落下段差72aが形成される。
従って、第二カム溝72はハートカム溝70のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aを経て没入位置(C1)に至る部分を成す。
第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでの部分は第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに向かう上り坂である。そして、第二落下段差72aを境界として「第二カム溝72の底面のうち没入位置(C1)寄りの部分」が「第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0024】
第三カム溝73はハートカム溝70の中央前部から左前端部にかけての部分を成し、第三カム溝73の一端部(右後端部)は没入位置(C1)に連なり、第三カム溝73の他端部(左前端部)は第二中間位置(図16の(a)におけるD1参照)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第三カム溝73の底面(ハートカム溝70の底面のうち第三カム溝73に対応する部分)の中途部には第三落下段差73aが形成される。
従って、第三カム溝73はハートカム溝70のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aを経て第二中間位置(D1)に至る部分を成す。
第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでの部分は没入位置(C1)から第三落下段差73aに向かう上り坂である。そして、第三落下段差73aを境界として「第三カム溝73の底面のうち第二中間位置(D1)寄りの部分」が「第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0025】
第四カム溝74はハートカム溝70の左前端部から後端部にかけての部分を成し、第四カム溝74の一端部(前端部)は第二中間位置(D1)に連なり、第四カム溝74の他端部(後端部)は突出位置(A1)に連なる。また、図11および図16に示す如く、第四カム溝74の底面(ハートカム溝70の底面のうち第四カム溝74に対応する部分)の中途部には第四落下段差74aが形成される。
従って、第四カム溝74はハートカム溝70のうち第二中間位置(D1)から第四落下段差74aおよび合流位置(図16の(a)におけるE1参照)を経て突出位置(A1)に至る部分を成す。
第四カム溝74の底面のうち第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに至るまでの部分は第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに向かう上り坂である。そして、第四落下段差74aを境界として「第四カム溝74の底面のうち突出位置(A1)寄りの部分」が「第四カム溝74の底面のうち第二中間位置(D1)寄りの部分」よりも低くなっている。
【0026】
図9の(b)および図10の(b)に示す如く、ハートカム部22にはバネ受け凹部22aが形成される。バネ受け凹部22aはハートカム部22の後端面および外周面下部に開口する窪みである。
【0027】
胴体部23は移動本体21の前半部を成し、ハートカム部22の前方に連なる。胴体部23の前端部はフランジ状に成形される。また、胴体部23の前端部には胴体部23の前端面に開口する収容穴23aが形成される。胴体部23には胴体部23の外周面の前端部かつ左右端部から収容穴23aの内周面まで貫通する一対の貫通孔23b・23bが形成される。
【0028】
図9に示す如く、四本のガイド突起24・24・24・24は前後方向に延びた形状の突起(突条)であり、ハートカム部22および胴体部23に跨って設けられ、これらの外周面の左上部、右上部、左下部、右下部に配置される。なお、四本のガイド突起24・24・24・24のうち、ハートカム部22および胴体部23の外周面の左上部および右上部に形成されたガイド突起24・24の前後方向における中途部はハートカム溝70との干渉を避けるために省略(切除)されている。
【0029】
図2に示す磁石部材25は永久磁石からなる。本実施形態の磁石部材25は上面、下面、前面、後面、左面および右面を有する直方体形状の部材である。ここで、「永久磁石」は、自発的に(外部から磁場あるいは電流が供給されない状態で)磁化し、周囲に磁場を発生させる(ひいては、磁力を発生させる)性質を有する物体であり、通常は強磁性体からなる。永久磁石の具体例としては、アルニコ磁石、KS鋼、MK鋼、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石等、既知の種々の磁石が挙げられる。
【0030】
ヨーク部材26・27はいずれも常磁性(外部から磁場が作用しないときには磁化せず、外部から磁場が作用したときには磁化する性質)の鉄鋼材料からなる。図2に示す如く、本実施形態のヨーク部材26・27は左右一対の板面を有する概ね矩形の板状の部材である。ヨーク部材26の前端部は右側方に突出し、ヨーク部材26の左側の板面における前後中央部には左側方に突出する係止突起26aが形成される。ヨーク部材27の前端部は左側方に突出し、ヨーク部材27の右側の板面における前後中央部には右側方に突出する係止突起27aが形成される。
【0031】
胴体部23、磁石部材25およびヨーク部材26・27を合わせたものは、本発明に係る係止部の実施の一形態に相当する。
図1の(a)および図2に示す如く、磁石部材25およびヨーク部材26・27は、磁石部材25の左右にそれぞれヨーク部材26・27が配置された姿勢で胴体部23の収容穴23aに収容される。磁石部材25およびヨーク部材26・27が収容穴23aに収容されたとき、ヨーク部材26の係止突起26aおよびヨーク部材27の係止突起27aが胴体部23の貫通孔23b・23bに嵌合し、磁石部材25およびヨーク部材26・27は胴体部23に脱落不能に支持され、かつヨーク部材26・27の前端部は胴体部23の前端面よりもわずかに前方に突出している。また、このとき、ヨーク部材26・27は磁石部材25が発生させる磁場により磁化している。
家具の扉(不図示)においてヨーク部材26・27に対向する部分を常磁性体からなる材料で構成することにより、家具の扉は磁化したヨーク部材26・27の前端面に着脱可能に吸着(係止)される。換言すれば、或る大きさ以上の外力(ヨーク部材26・27が発生させる吸着力を上回る外力)が家具の扉に作用しない場合には家具の扉がヨーク部材26・27の前端面(ひいては、プッシュラッチ1が固定された家具の本体(不図示))に吸着(係止)された状態が保持され、或る大きさ以上の外力が家具の扉に作用した場合には家具の扉がヨーク部材26・27の前端面に吸着(係止)された状態が解除される。
【0032】
図1および図2に示す如く、移動部材20はケース部材16の前端部に形成された開口部からケース部材16の内部に形成された空間(以下、「ケース部材16の内部空間」という。)に収容され、ケース部材16(ひいては固定部材10)に対して前後方向に移動可能に支持される。
移動部材20がケース部材16に支持されつつケース部材16に対して前方に移動したとき、移動部材20はケース部材16の内部空間から前方に突出する(図14参照)。
また、移動部材20がケース部材16に支持されつつケース部材16に対して後方に移動したとき、移動部材20はケース部材16の内部空間に没入する(図15参照)。
以下では便宜上、移動部材20がケース部材16(ひいては固定部材10)に対して前方に移動することを「移動部材20が突出方向に移動する」といい、移動部材20がケース部材16(ひいては固定部材10)に対して後方に移動することを「移動部材20が没入方向に移動する」という。
移動部材20がケース部材16の内部空間に収容されたとき、ガイド突起29・29・29・29はそれぞれガイド溝16a・16a・16a・16aに嵌合するため、移動部材20がケース部材16に対して前後方向の軸中心に相対回転することは無い。
【0033】
図2に示す係合ピン30は本発明に係る係合部材の実施の一形態である。本実施形態の係合ピン30は鋼線を適当な長さに切断し、適宜折り曲げることにより製造される。
係合ピン30の中途部はその長手方向が概ね前後方向に平行であり、係合ピン30の一端部(後端部)および他端部(前端部)はその長手方向が係合ピン30の中途部の長手方向に対して概ね90°となるように下方に折り曲げられる。図3に示す如く、係合ピン30はケース部材16の内部空間に収容される。このとき、係合ピン30の一端部(後端部)はケース部材16の連通孔16eを通ってケース部材16の外部に突出し、突起16cに形成された固定穴16dに嵌合する。また、係合ピン30の他端部(前端部)は移動本体21のハートカム部22に形成されたハートカム溝70の底面に当接しつつハートカム溝70に係合する。
【0034】
図2に示すバネ40は本発明に係る付勢部材の実施の一形態である。本実施形態のバネ40はバネ鋼からなる圧縮コイルバネである。図3に示す如く、バネ40は移動本体21のハートカム部22に形成されたバネ受け凹部22aに嵌合した状態でケース部材16の内部空間に収容される。このとき、バネ40は圧縮される方向に弾性変形しており、バネ40の一端部(後端部)はバネ受け突起16fに嵌装され、バネ40の他端部(前端部)はバネ受け凹部22aの前側の端面に当接している。従って、バネ40は弾性力(弾性変形したバネ40が元の形状に戻ろうとする力)により移動本体21(ひいては移動部材20)をケース部材16(ひいては固定部材10)に対して突出方向(前方)に付勢する。
【0035】
図2に示す係止リング50は本発明に係る副付勢部材の実施の一形態である。
図1の(b)および図3に示す如く、係止リング50はその直径が大きくなる方向に弾性変形しつつ、ケース部材16の突起16cおよび係合ピン30の中途部において後端部(下方に屈曲して固定孔16dに嵌合している部分)寄りとなる部分に嵌合する。
従って、係止リング50は弾性力(弾性変形した係止リング50が元の形状に戻ろうとする力)により係合ピン30の前端部(他端部)を下方(すなわち、係合ピン30の前端部(他端部)がハートカム溝70の底面に当接する方向)に付勢する。
また、係止リング50により、係合ピン30の後端部(一端部)はケース部材16(ひいては固定部材10)に脱落不能に固定される。
【0036】
以下では図12から図16を用いてプッシュラッチ1の動作を説明する。なお、以下では便宜上、図12の(a)および図14の(a)に示す「突出姿勢」を初期状態とする。
【0037】
図12の(a)および図14の(a)に示す如く、プッシュラッチ1が「突出姿勢」のとき、係合ピン30の他端部(前端部)は突出位置(A1)に配置され、突出位置(A1)においてハートカム溝70に係合し、かつハートカム溝70の底面に当接する。
その結果、移動部材20は係合ピン30により固定部材10(ケース部材16)から突出した位置で支持される。
【0038】
図12の(b)、図15の(a)および図16に示す如く、「突出姿勢」から移動部材20に外力を作用させ、バネ40の付勢力に抗して移動部材20を固定部材10(ケース部材16)に対して没入方向(後方)に押し込んだとき、係合ピン30の他端部(前端部)は第一カム溝71の底面に当接しつつ第一カム溝71に沿って移動し、第一落下段差71aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部(前端部)は第一中間位置(B1)に到達し、プッシュラッチ1は「突出姿勢」から「第一押込姿勢」に移行する。
【0039】
図13の(a)、図15の(b)および図16に示す如く、「第一押込姿勢」から移動部材20に作用させている外力を解除したとき、移動部材20はバネ40の付勢力により固定部材10(ケース部材16)に対して突出方向(前方)に移動し、係合ピン30の他端部(前端部)は第二カム溝72の底面に当接しつつ第二カム溝72に沿って移動し、第二落下段差72aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は没入位置(C1)に到達し、プッシュラッチ1は「第一押込姿勢」から「没入姿勢」に移行し、移動部材20は係合ピン30により固定部材10(ケース部材16)に没入した位置で支持される。
【0040】
図13の(b)、図15の(a)および図16に示す如く、「没入姿勢」から移動部材20に外力を作用させ、バネ40の付勢力に抗して移動部材20を固定部材10(ケース部材16)に対して没入方向(後方)に押し込んだとき、係合ピン30の他端部は第三カム溝73の底面に当接しつつ第三カム溝73に沿って移動し、第三落下段差73aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は第二中間位置(D1)に到達し、プッシュラッチ1は「没入姿勢」から「第二押込姿勢」に移行する。
【0041】
図12の(a)、図14の(a)および図16に示す如く、「第二押込姿勢」から移動部材20に作用させている外力を解除したとき、移動部材20はバネ40の付勢力により固定部材10(ケース部材16)に対して突出方向(前方)に移動し、係合ピン30の他端部は第四カム溝74の底面に当接しつつ第四カム溝74に沿って移動し、第四落下段差74aを落下する。その結果、係合ピン30の他端部は合流位置(E1)を経て突出位置(A1)に到達し、プッシュラッチ1は「第二押込姿勢」から「突出姿勢」に移行する(初期状態に戻る)。
【0042】
このように、移動部材20を固定部材10に対して没入方向に押し込んだ後、当該外力を解除することにより、プッシュラッチ1の姿勢を突出姿勢(固定部材10に対して移動部材20が突出した姿勢)と没入姿勢(固定部材10に対して移動部材20が没入した姿勢)との間で交互に切り替えることが可能である。
なお、ハートカム溝70の底面にはそれぞれ第一落下段差71a、第二落下段差72a、第三落下段差73a、第四落下段差74aが形成されている。そのため、移動部材20を固定部材10に対して没入方向に押し込む動作および当該外力を解除する動作を行ったとき、係合ピン30の他端部(前端部)がハートカム溝70の内部を逆行する(本実施形態の場合、ハートカム溝70に沿って平面視で時計回りに移動する)ことはない。
【0043】
以下では、図16を用いてハートカム溝70の底面の上下方向における高さについて説明する。なお、以下では便宜上、突出位置(A1)」の上下方向における高さを基準(ゼロ)として設定するとともに、係合ピン30の他端部(前端部)がハートカム溝70の内部を逆行しないための基準となる段差の高さとして「基準段差高さH」を設定し、これらの値を用いて説明する。
ここで、「基準段差高さH」は係合ピン30の他端部(前端部)の形状、バネ40および係止リング50の弾性力等に基づき、実験またはシミュレーションにより設定される。
【0044】
まずハートカム溝70の底面のうち第一カム溝71に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、突出位置(A1)から第一落下段差71aに至るまでに「2×H」だけ増加し、第一落下段差71aの直前となる部分の高さは「2×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第一落下段差71aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、第一中間位置(B1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「1×H(=2×H−1×H)」となる。
【0045】
次にハートカム溝70の底面のうち第二カム溝72に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでに「0.5×H」だけ増加し、第二落下段差72aの直前となる部分の高さは「1.5×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第二落下段差72aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、没入位置(C1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「0.5×H(=1.5×H−1×H)」となる。
【0046】
続いてハートカム溝70の底面のうち第三カム溝73に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでに「0.5×H」だけ増加し、第三落下段差73aの直前となる部分の高さは「1×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第三落下段差73aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、第二中間位置(D1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「ゼロ(=1×H−1×H)」となる。
【0047】
続いてハートカム溝70の底面のうち第四カム溝74に対応する部分の高さについて説明する。図16の(b)に示す如く、ハートカム溝70の底面の高さは、第二中間位置(D1)から第四落下段差74aに至るまでに「1×H」だけ増加し、第四落下段差74aの直前となる部分の高さは「1×H」となる。そして、ハートカム溝70の底面の高さは第四落下段差74aを境界として「1×H」だけ減少(落下)する。従って、合流位置(E1)および突出位置(A1)におけるハートカム溝70の底面の高さは「ゼロ(=1×H−1×H)」となる。
【0048】
このように、ハートカム溝70の底面の高低差は第一落下段差71aの直前となる部分と第二中間位置(D1)との間で最大となり、その大きさは「2×H」である。
【0049】
一方、図17に示す如く、従来のプッシュラッチの場合、第一落下段差171a、第二落下段差172a、第三落下段差173aおよび第四落下段差174aにおけるハートカム溝70の底面の高さの減少量はいずれも「1×H」であり、ハートカム溝の底面のうち第一落下段差171から第二落下段差172aまでの部分および第二落下段差172aから第三落下段差173aまでの部分はハートカム溝の底面の高さが変化しない。
従って、従来のプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高低差は第一落下段差171aの直前となる部分と第二中間位置(D2)との間で最大となり、その大きさは「3×H」である。
【0050】
このように、本実施形態のプッシュラッチ1は、第二カム溝72の底面のうち第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに至るまでの部分が第一中間位置(B1)から第二落下段差72aに向かう上り坂であり、かつ、第三カム溝73の底面のうち没入位置(C1)から第三落下段差73aに至るまでの部分が没入位置(C1)から第三落下段差73aに向かう上り坂であるため、従来のプッシュラッチ(図17参照)に比べてハートカム溝70の底面の高低差を小さくし、移動部材20(ハートカム部22)を上下方向(係合ピン30が付勢される方向)において薄型化することが可能であり、ひいてはプッシュラッチの小型化に寄与する。
【0051】
なお、本実施形態のプッシュラッチ1におけるハートカム溝70の底面の高低差は「2×H」であるが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係るプッシュラッチにおけるハートカム溝の底面の高低差は、理論上は「1×H」まで小さくすることが可能である(図16の(b)中の太い点線参照)。
【0052】
本実施形態における係止部(胴体部23、磁石部材25およびヨーク部材26・27を合わせたもの)は磁力により第二対象物(例えば、家具の扉)を着脱可能に係止するが、本発明に係る係止部はこれに限定されず、他の方法により第二対象物を着脱可能に係止しても良い。本発明に係る係止部の他の実施形態としては、例えば、移動部材が固定部材に対して突出したときに開くとともに移動部材が固定部材に対して没入したときに閉じる一対の爪を有し、当該一対の爪が閉じたときに第二対象物に設けられた突起を把持することにより第二対象物を着脱可能に係止するもの、が挙げられる。
【符号の説明】
【0053】
1 プッシュラッチ、10 固定部材、11 ベース部材、16 ケース部材、20 移動部材、21 移動本体、22 ハートカム部、23 胴体部、25 磁石部材、26・27 ヨーク部材、30 係合ピン(係合部材)、40 バネ(付勢部材)、50 係止リング(副付勢部材)、70 ハートカム溝、71 第一カム溝、71a 第一落下段差、72 第二カム溝、72a 第二落下段差、73 第三カム溝、73a 第三落下段差、74 第四カム溝、74a 第四落下段差、A1 突出位置、B1 第一中間位置、C1 没入位置、D1 第二中間位置、E1 合流位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一対象物に固定される固定部材と、
突出位置から第一落下段差を経て第一中間位置に至る第一カム溝、前記第一中間位置から第二落下段差を経て没入位置に至る第二カム溝、前記没入位置から第三落下段差を経て第二中間位置に至る第三カム溝ならびに前記第二中間位置から第四落下段差を経て前記突出位置に至る第四カム溝を有するハートカム溝が形成されるハートカム部、および前記ハートカム部に連なるとともに第二対象物を着脱可能に係止する係止部、を備え、前記係止部が前記固定部材から突出する突出方向および前記係止部が前記固定部材に没入する没入方向に移動可能に前記固定部材に支持される移動部材と、
一端部が前記固定部材に固定され、他端部が前記ハートカム溝の底面に当接しつつ前記ハートカム溝に係合し、当該他端部が前記突出位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材から突出した位置で支持し、当該他端部が前記没入位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材に没入した位置で支持する係合部材と、
前記移動部材を前記突出方向に付勢する付勢部材と、
を具備し、
前記第二カム溝の底面のうち第一中間位置から前記第二落下段差に至るまでの部分は第一中間位置から前記第二落下段差に向かう上り坂であり、
前記第三カム溝の底面のうち前記没入位置から前記第三落下段差に至るまでの部分は前記没入位置から前記第三落下段差に向かう上り坂である、
プッシュラッチ。
【請求項2】
前記係合部材の他端部が前記ハートカム溝の底面に当接する方向に前記係合部材を付勢する副付勢部材を具備する、
請求項1に記載のプッシュラッチ。
【請求項1】
第一対象物に固定される固定部材と、
突出位置から第一落下段差を経て第一中間位置に至る第一カム溝、前記第一中間位置から第二落下段差を経て没入位置に至る第二カム溝、前記没入位置から第三落下段差を経て第二中間位置に至る第三カム溝ならびに前記第二中間位置から第四落下段差を経て前記突出位置に至る第四カム溝を有するハートカム溝が形成されるハートカム部、および前記ハートカム部に連なるとともに第二対象物を着脱可能に係止する係止部、を備え、前記係止部が前記固定部材から突出する突出方向および前記係止部が前記固定部材に没入する没入方向に移動可能に前記固定部材に支持される移動部材と、
一端部が前記固定部材に固定され、他端部が前記ハートカム溝の底面に当接しつつ前記ハートカム溝に係合し、当該他端部が前記突出位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材から突出した位置で支持し、当該他端部が前記没入位置において前記ハートカム溝に係合することにより前記移動部材を前記固定部材に没入した位置で支持する係合部材と、
前記移動部材を前記突出方向に付勢する付勢部材と、
を具備し、
前記第二カム溝の底面のうち第一中間位置から前記第二落下段差に至るまでの部分は第一中間位置から前記第二落下段差に向かう上り坂であり、
前記第三カム溝の底面のうち前記没入位置から前記第三落下段差に至るまでの部分は前記没入位置から前記第三落下段差に向かう上り坂である、
プッシュラッチ。
【請求項2】
前記係合部材の他端部が前記ハートカム溝の底面に当接する方向に前記係合部材を付勢する副付勢部材を具備する、
請求項1に記載のプッシュラッチ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−113076(P2013−113076A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263381(P2011−263381)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
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