説明

プライミング時の気泡の除去を簡便にする部材を備えた細胞溶液処理器具およびその使用方法

【課題】簡便かつ迅速に細胞含有組成物を無菌的に調製することを可能にする細胞溶液処理器具の提供。
【解決手段】多孔質体からなる細胞分離材を充填した容器4と、該容器4に連結する閉鎖可能な回路7〜11からなる細胞溶液処理器具の回路内に、容易に形状の変化する部材3,6を備える細胞溶液処理器具。該容器をプライミングする際にできた容器内の気泡を、容易に形状の変化する部材3,6を操作することで簡便かつ容易に除去でき、これにより所望の細胞含有組成物を無菌的に、効率よく調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞溶液処理器具、特に、簡便かつ迅速な細胞含有組成物の無菌的な製造を可能にする細胞分離材を容器内に充填した細胞溶液処理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞含有組成物は、骨壊死を初めとする様々な疾患の治療に用いられている。骨壊死とは、外傷や血管病変あるいは骨細胞への直接の傷害によって、骨細胞、骨基質、骨髄細胞の死滅または破壊が起こった状態であり、不要成分を除去した間葉系幹細胞を含む体液をβ−リン酸三カルシウム(以下、「β−TCP」ともいう)からなる骨補填材に付与してなる細胞含有組成物(特許文献1)を投与することで、骨壊死部の修復速度を高めて治療することができる。
【0003】
細胞含有組成物は、生体に投与するため無菌的に調製する必要があるが、上部が開口された容器を用いて調製する場合には、特別な装置が必要となり臨床現場で簡便に調製できない。近年、このような問題を解決するため、閉鎖系で簡便な細胞含有組成物の調製方法も開発されている(特許文献2)。
【0004】
細胞分離材を充填した細胞溶液処理器具では、細胞を含んだ溶液を流入させる前に生理食塩水等で分離材を浸す、いわゆるプライミングと呼ばれる操作が必要となる。しかし、プライミングによって気泡が混入して細胞分離材に内包すると、細胞を含んだ溶液に偏った流れを引き起こして目的細胞の捕捉効率の低下につながる。したがって、プライミングによって混入した気泡は取り除く必要があるが、追加の生理食塩水を流して気泡を押し出したり引き抜くといった作業、カンシ等でカラムハウジングをたたく等の作業は、閉鎖された細胞溶液処理器具の環境下では困難で、時間と労力を有するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−320009号
【特許文献2】WO2007/046501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、簡便かつ迅速に、細胞分離材を充填した容器内に混入した気泡を取り除くことのできる部材を有した細胞溶液処理器具の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、多孔質体からなる細胞分離材を充填した容器と、該容器に連結する閉鎖可能な回路からなり、該回路内に設けた容易に形状の変化する部材を備えた細胞溶液処理器具を独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明を包含する。
(1)多孔質体からなる細胞分離材を充填した容器と、該容器に連結して閉鎖系を構成する回路からなり、該回路内に設けた容易に形状の変化する部材を備えた細胞溶液処理器具
(2)上記容器が、溶液の流入部と流出部を有する(1)に記載の細胞溶液処理器具
(3)上記形状の変化する部材が、該容器の上流側および/または下流側にあることを特徴とする、(1)または(2)に記載の細胞溶液処理器具
(4)上記形状の変化する部材が、液体を貯留できることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞溶液処理器具
(5)上記形状の変化する部材が、常温常圧下で、形状を変化させた後60秒以内に元の形状に回復する性質を有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞溶液処理器具
(6)該容器の上流側にある形状の変化する部材の容積が1〜40ccであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の細胞溶液処理器具
(7)上記多孔質体が、不織布、球状粒子、織布、発泡体からなることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の細胞溶液処理器具
(8)前記多孔質体が、不織布からなることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞溶液処理器具
(9)前記不織布が、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、レーヨンからなることを特徴とする、(7)または(8)に記載の細胞溶液処理器具
(10)細胞分離材を充填した容器をプライミングする工程が、1)プライミング液を容器の上流部から流す工程、2)容器の上流側および/または下流側に設けた容易に形状の変化する部材にプライミング液を貯留する工程、3)上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材からなる回路を閉鎖する工程、4)上流側および/または下流側の形状の変化する部材を押し、容器内の気泡を押し出す、および/または、吸出し除去する工程、からなる細胞溶液処理器具のプライミング方法。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明にかかる細胞溶液処理器具は、多孔質体からなる細胞分離材を充填した容器と、該容器に連結する閉鎖可能な回路からなり、該回路内に設けた容易に形状の変化する部材を備えており、無菌的に、気泡の混入が無い細胞含有組成物を簡便、容易かつ効率的に調製できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態にかかる細胞溶液処理器具を示す図である。
【図2】本発明の別の実施形態にかかる細胞溶液処理器具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について図1〜図2に基づき説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明にかかる細胞溶液処理器具は、細胞含有組成物の調製に適したものである。
【0011】
本明細書において、細胞分離材を充填した容器による、目的細胞の分離方法の概略を次に記す。まず、細胞分離材を充填した容器に生理食塩水等のプライミング液を流し、容器内を溶液で満たす。この操作の際、流路を生理食塩水等の等張液で満たし、容器から気泡を除去することが重要である。次に、細胞を含んだ溶液を通液することにより、細胞分離材内に目的細胞を補足する。次に、洗浄液等を同方向から通液することにより、細胞分離材内に溶液や、不純物等を洗い流す。最後に、上流側もしくは下流側より、目的細胞を細胞分離材から引き離すことができる回収液を流すことにより、上記目的細胞を分離回収する。本発明において、上流側とは、細胞分離材を充填した容器に対して、細胞を含んだ溶液を注入する側を指し、反対側を下流側とする。
【0012】
本明細書において、細胞を含んだ溶液とは、細胞を含む、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血、脂肪細胞含有体液等が意図される。また、体液には、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血等の希釈物;血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、骨髄液、臍帯血、脂肪細胞含有体液等を、フィコール、パーコール、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、バクティナーチューブ、リンフォプレップ等を用いた比重密度遠心分離法により前処理して調製された細胞懸濁液等も含まれる。
【0013】
また、生体組織を酵素により分解させた処理液(酵素分解処理液)、生体組織を破砕により分解させた処理液(破砕処理液)、生体組織を擦過により分解させた処理液(擦過処理液)、生体組織を浸透抽出により分解させた処理液(浸透抽出処理液)、生体組織を美容整形等で行われる脂肪吸引法により分解させた処理液(脂肪吸引処理液)等も意図される。なお、これら生体組織の処理液については、国際公開公報WO2007/046501(2007年4月26日公開)の内容も本明細書に参考として援用される。また、「生体組織」とは、細胞を含む体液以外の生体組織が意図される。
【0014】
本明細書において、目的細胞とは、たとえば、間葉系細胞、多能性体性幹細胞(Multipotent Adult Progenitor Cells:MAPCs)など多分化能を有する細胞を指す。また、単核球豊富分画中に含まれる造血幹細胞、CD34陽性細胞、リンパ球なども本発明の範囲である。間葉系細胞とは、体液中から分離され、自己増殖を繰り返す能力を有し、下流の細胞系譜への分化が可能な細胞を指す。この間葉系細胞は分化誘導因子により中胚葉系の細胞、例えば、骨芽細胞や軟骨細胞などへ分化する細胞である。多能性体性幹細胞とは、分化誘導因子により中胚葉系以外の細胞、例えば、神経細胞、肝細胞にも分化する可能性のある細胞をいうが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、部材とはバック、シリンジ、三方活栓、クランプ、チャンバー、プラネクター、ゴム栓、ローラークレンメ、ビン針等、細胞溶液処理に必要な部材全般をさす。また、回路とは、細胞溶液処理に必要な各部材を、チューブ等の管状のもので連結させたものを指し、回路が閉鎖された状態とは回路内の溶液等が外部に漏れ出さない状態であることを意味する。具体的な構造は、後に実施の形態1〜2として例示するが、本発明ではこれに特に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、形状の変化する部材とは、部材内部の体積が容易に変化することができる部材であり、たとえば、バックやドリップチャンバーなどを挙げることができる。
【0017】
また、形状の変化する部材は、本発明の細胞分離材を充填した容器と連結された回路内にあればよく、特に、該回路に近い場所に位置するほうが、容器などに存在する気泡の除去が効率的に行える点から好ましい。
【0018】
本明細書において、形状の変化する部材の形状は特に制限されない。球状、円錐状、円筒状、直方体状など特に制限なく用いることができる。
【0019】
本明細書において、形状の変化する部材の材料は特に制限は無いが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂、SIS、SEBSなどの熱可塑性エラストマー、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。特に、柔軟性、可とう性などの性能の点から、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0020】
本明細書において、形状の変化する部材の容量としては、0.1〜40ccが好ましい。0.1cc以下では、細胞分離材を充填した容器内の気泡を除去するに十分な性能を付与できず、40cc以上では、ハンドリングの点から好ましくない。気泡の除去効率の点からより好ましくは1〜40cc、さらに好ましくは1〜30ccである。
【0021】
本明細書において、上記多孔質体からなる細胞分離材としては、例えば、不織布、球状多孔質体、織布、発泡体など、目的の細胞を吸着、補足できれば特に制限なく用いることができる。特に、材料、形状が豊富である点から不織布が好適に用いることができる。
【0022】
本明細書において、上記不織布からなる細胞分離材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等を挙げることができる。
【0023】
中でも、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、レーヨン、ナイロン等の高分子を好適に用いることができる。
【0024】
上記細胞分離材は、これらの材質のうち、単一の材質からなってもよいし、複数の材質を組み合わせた複合材からなってもよい。
【0025】
2種以上の合成高分子を組み合わせて用いる場合、その組み合わせは特に限定されるものではないが、ポリエステルとポリプロピレンとの組み合わせ、レーヨンとポリオレフィンとの組み合わせ、または、ポリエステルとレーヨンとビニロンとの組み合わせを好適に用いることができる。
【0026】
2種以上の合成高分子を組み合わせて繊維とする場合、具体的には、例えば、1本の繊維が異成分同士の合成高分子よりなる繊維、あるいは異成分同士が剥離分割した分割繊維でもよい。また、成分の異なる合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ複合化した繊維であってもよい。ここでいう「複合化した繊維」とは、2種以上の繊維を混在させることにより構成した繊維、または、合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ張り合わせた繊維等が意図される。
【0027】
また、上記細胞分離材は、上記例示した材質に対して、細胞分離材としての性能を向上させるための処理が施されたものであってもよい。
【0028】
このような処理としては、例えば、親水化処理、細胞付着性タンパク質、細胞上に特異的に発現している特異的抗原に対する抗体の固定化処理を挙げることができる。上記親水化処理により、細胞以外の細胞の非特異的な捕捉を抑制することができる。また、細胞を含む溶液が細胞分離材を通過する際、特定の領域に偏って通過して、細胞の回収率が低下することを防止することができる。また、上記特定のタンパク質の固定化処理によれば、細胞の細胞分離材への付着性をより向上させることができる。
【0029】
なお、上記親水化処理や、特定のタンパク質の固定化処理の具体的な方法については特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。また、細胞分離材の性能を向上させる処理については、例えば、国際公開公報WO2007/046501(2007年4月26日公開)の内容も本明細書に参考として援用される。
【0030】
本明細書において、上記洗浄液は、特に限定されるものではなく、細胞に対して負の影響を与えない溶液であればよい。例えば、生理的食塩液やリンゲル液など注射用剤として一般的に用いられる溶液、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等の細胞培養用の培地等を挙げることができる。これら例示した溶液の中でも、細胞への負の影響が小さいことから、細胞培養用培地や生理食塩水を好ましく用いることができる。
【0031】
本明細書において、上記回収液は、特に限定されるものではなく、細胞に対して負の影響を与えない溶液であればよい。例えば、生理的食塩液やリンゲル液など注射用剤として一般的に用いられる溶液、リン酸緩衝液等の緩衝液、αMEM培地やDMEM培地等の細胞培養用の培地等を挙げることができる。
【0032】
これら例示した溶液の中でも、細胞への負の影響が小さいことから、細胞培養用培地や生理食塩水を好ましく用いることができる。
【0033】
また、上記回収液には、細胞保護の観点から、タンパクを添加してもよい。上記物質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、血漿、血清、アルブミン等を挙げることができる。
【0034】
さらに、上記回収液には、粘張度を上げるための物質を添加してもよい。上記物質は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができる。このような物質を添加することにより、細胞分離材に捕捉された細胞の回収率を向上させることができる。
【0035】
本発明の細胞溶液処理器具のプライミング方法は、細胞分離材を充填した容器をプライミングする工程が、1)プライミング液を容器の上流部から流す工程、2)容器の上流側および/または下流側に設けた容易に形状の変化する部材にプライミング液を貯留する工程、3)上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材からなる回路を閉鎖する工程、4)上流側および/または下流側の形状の変化する部材を押し、容器内の気泡を押し出す、および/または、吸出し除去する工程、からなる細胞溶液処理器具のプライミング方法である。
【0036】
本明細書において、1)プライミング液を容器の上流部から流す工程において、プライミング液とは、生理的食塩液、リンゲル液、細胞培養に使用する培地、燐酸緩衝液等の一般的な緩衝液等が挙げられるが、安全面から生理的食塩液が好ましい。
【0037】
本明細書において、2)容器の上流側および/または下流側に設けた容易に形状の変化する部材にプライミング液を貯留する工程において、貯留するプライミング液は、部材の体積の20%以上であることが好ましい。それ以下であると、気泡を押し出すまたは吸引する効率が低下する可能性がある。
【0038】
本明細書において、3)上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材からなる回路を閉鎖する工程とは、これら3つの部材が含まれた回路を閉鎖し、外部に回路内部のプライミング液、気体が漏れないようにすることである。また、閉鎖する回路内に、上記の部材以外が含まれてよいが、含まれないほうが容器内の気体を効率的に除去することができる。また、「上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材からなる回路」が意味するところは、閉鎖された回路において、上流側および下流側の容器が、回路を閉鎖する部材を除いて回路内の末端の部材であることを意味している。
【0039】
本明細書において、4)上流側および/または下流側の形状の変化する部材を押し、容器内の気泡を押し出す、および/または、吸出し除去する工程において、上流側および/または下流側の形状の変化する部材を押すための操作として最も簡便な手法は、手による圧縮である。手で圧縮するときの操作は、5秒以内に圧縮することが好ましい。これ以上に時間をかけて圧縮操作を行うと突出される液の速度が十分でなく、気泡が効率的に除去されない可能性がある。
【0040】
また、圧縮から開放する際は、60秒以内に元の形状に回復する性質を有することが好ましい。これよりも時間を要する場合には、気泡を吸い込む力が十分でなく、効率的に除去できない可能性がある。
【0041】
元の形状に回復する性質とは、押すことにより減少した部材内部の体積が回復し、元の部材内部の体積の80%以上になることを意味する。
【0042】
また、上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材の連結は、上流側および下流側部材中の溶液が、部材内の容器に近い側に貯留されるように、容器および部材を使用することが好ましい。これにより、効率的に貯留された溶液に圧力をかけることができ気泡の除去が効率的になる。また、上記操作とともに、加温、冷却、振動、超音波、衝撃などを同時に与えることで気泡の除去が効率的になる。
【0043】
〔実施の形態1〕
本発明にかかる細胞溶液処理器具の一実施形態について、図1に基づいて、以下、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
本実施形態にかかる細胞溶液処理器具は、図1に示すように、細胞を含んだ溶液、洗浄液、回収液等を注入するための部材1(シリンジなど)、外部との連結が可能な部材2(三方活栓、ゴム栓、プラネクターなど)、上流側の形状が変化する部材3、細胞分離材を充填した容器4、外部との連結が可能な部材5(三方活栓、ゴム栓、プラネクターなど)、下流側の形状が変化する部材6(バックなど)を備えている。
【0045】
上記構成によれば、部材1から注入された細胞を含んだ溶液が、細胞分離材を充填した容器4で補足される。その後、部材1より洗浄液等を流し、夾雑物等を除去した後、再び部材1から回収液を流し、細胞分離材を充填した容器に補足された目的の細胞を閉鎖的に回収することができる。以下、その実施例を具体的に説明する。
【0046】
まず、プライミング溶液を部材1から流入し、一定量流した後、部材5を閉じ流路を遮断し、部材3、容器4の内部をプライミング溶液(生理食塩水)で浸す。また、過剰量のプライミング溶液が部材6に貯まった状態となる。次に、部材2を閉じ、部材1をはずして回路を閉鎖状態にした後、部材5を開け、容器4と部材6が連結した状態とする。その後、部材3を手などで押し、容器4に残留する気泡に圧力をかけることで、上流側又は下流側に吸い込むまたは押し出すことで気泡を除去する。同様に、部材5を手などで押すことによっても気泡の除去が可能である。また、部材3と部材5の両方を手などで押すことにより、さらに効率的な気泡の除去が可能である。
【0047】
以上の操作により、容器4内の気泡を閉鎖的に、簡便に除去することができ、細胞分離材への細胞の捕捉を阻害する気泡を取り除くことで、目的細胞の回収効率を向上させることが可能となる。
【0048】
引き続き、部材1より、細胞を含んだ溶液、洗浄液等を流し、細胞分離材を充填した容器4に細胞が補足される。最後に、部材4より洗浄液等が収集されたバック(部材6)を新しいものと交換し、再び部材1から回収液を流し、細胞分離材を充填した容器に補足された目的の細胞を回収する。
【0049】
部材1の材質や形状は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆるシリンジ、好ましくは医療用シリンジを用いることができる。
【0050】
外部との連結が可能な部材2としては、上記したように、三方活栓、プラネクター、ゴム栓などが例示したが、これらに限定されるものではなく、回路を閉鎖することができる機能と、シリンジ等の注入器具を連結できる機能を保持していれば特に限定されない。
【0051】
下流側の形状が変化する部材としては、医療用バック等が好適に用いられるが、柔軟で可とう性があり、形状が変化することが可能な部材であれば、特に限定なく用いることができる。
【0052】
〔実施の形態2〕
本発明にかかる細胞溶液処理器具の一実施形態について、図2に基づいて、説明する。
【0053】
本実施形態にかかる細胞溶液処理器具は、図2に示すように、細胞を含んだ溶液、洗浄液、回収液等を注入するための部材12(シリンジなど)、回収液部材18(シリンジなど)、外部との連結が可能な部材13、15、19(三方活栓、ゴム栓、プラネクターなど)、上流側の形状が変化する部材14、細胞回収用バック16、細胞分離材を充填した容器17、下流側の形状が変化する部材20(バックなど)を備えている。以下、その使用方法を具体的に説明する。
【0054】
まず、プライミング溶液を部材12から流入し、一定量流した後、部材19を閉じて、流路を遮断し、部材14、容器17の内部をプライミング溶液で浸し、また、余計なプライミング溶液が部材20に貯められた状態にする。次に、実施例1と同様に容器内の気泡を取り除く。部材13を閉じ、部材12を取り外し回路を閉鎖状態にした後、部材19を開け、容器17と部材20が連結した状態とする。その後、部材14を手などで押し、容器17に残留する気泡に圧力をかけることで、上流側又は下流側に吸い込むまたは押し出すことで気泡を除去する。同様に部材20を手などで押すことによっても気泡の除去が可能であった。また、部材14と部材20の両方を手などで押すことにより、さらに効率的な気泡の除去が可能である。
【0055】
次に、部材12より細胞を含んだ溶液、続いて洗浄液を流入させる。最後に、回収液部材18、細胞回収用バック16を外部との連結が可能な部材15および19に閉鎖的に接続し、細胞回収液を容器の下流側より流入し、目的の細胞を細胞回収用バックに回収する。
【0056】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明では、細胞を含んだ溶液を、閉鎖系内で簡便かつ迅速に処理し、目的の細胞を調製することができる。したがって、本発明は、医療用途および医薬品用途に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 部材
2 外部との連結が可能な部材
3 上流側の形状が変化する部材
4 細胞分離材を充填した容器
5 外部との連結が可能な部材
6 下流側の形状が変化する部材
7〜11 配管回路
12 部材
13 外部との連結が可能な部材
14 上流側の形状が変化する部材
15 外部との連結が可能な部材
16 回収バッグ
17 細胞分離材を充填した容器
18 部材
19 外部との連結が可能な部材
20 下流側の形状が変化する部材
21〜27配管回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体からなる細胞分離材を充填した容器と、該容器に連結して閉鎖系を構成する回路からなり、該回路内に設けた容易に形状の変化する部材を備えた細胞溶液処理器具。
【請求項2】
上記容器が、溶液の流入部と流出部を有する請求項1に記載の細胞溶液処理器具。
【請求項3】
上記形状の変化する部材が、該容器の上流側および/または下流側にあることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞溶液処理器具。
【請求項4】
上記形状の変化する部材が、液体を貯留できることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞溶液処理器具。
【請求項5】
上記形状の変化する部材が、常温常圧下で、形状を変化させた後60秒以内に元の形状に回復する性質を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の細胞溶液処理器具。
【請求項6】
該容器の上流側にある形状の変化する部材の容積が1〜40ccであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞溶液処理器具。
【請求項7】
上記多孔質体が、不織布、球状粒子、織布、発泡体からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞溶液処理器具。
【請求項8】
前記多孔質体が、不織布からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の細胞溶液処理器具。
【請求項9】
前記不織布が、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、レーヨンからなることを特徴とする、請求項7または8に記載の細胞溶液処理器具。
【請求項10】
細胞分離材を充填した容器をプライミングする工程が、1)プライミング液を容器の上流部から流す工程、2)容器の上流側および/または下流側に設けた容易に形状の変化する部材にプライミング液を貯留する工程、3)上流側の形状の変化する部材〜容器〜下流側の形状の変化する部材からなる回路を閉鎖する工程、4)上流側および/または下流側の形状の変化する部材を押し、容器内の気泡を押し出す、および/または、吸出し除去する工程、からなる細胞溶液処理器具のプライミング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−120456(P2012−120456A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271800(P2010−271800)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】