説明

プライヤー

【課題】挟み歯で挟持される周面の厚み寸法が小さなビスであっても、ビス頭を的確に挟持して締結対象から確実に取り外すことができるプライヤーを提供する。
【解決手段】あご部4と握り柄5を備えた第1アーム1と第2アーム2とを連結軸3でX字状に連結してプライヤーを構成する。各あご部4・4の前端の左右に、各あご部4・4の前端両隅がビス締結面22に接触するのを避ける逃げ面16・16を形成する。左右の逃げ面16・16の間の各あご部4・4の対向面に、ビス頭21の周面を挟持する縦挟み歯13・13を凹み形成する。各縦挟み歯13・13は、前後方向の複数個の条歯13aを山谷状に連続させて構成する。逃げ面16を設けることにより、条歯13aの前端17をビス締結面22に先当りさせて、ビス頭21の周面を縦挟み歯13で確実に挟持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸がさび付き、あるいはビス頭に設けた操作溝が変形して潰れた状態の小ねじ(以下、単にビスという。)を締結対象から取り外すのに好適なプライヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のプライヤーとして、本出願人の提案に係るプライヤーが公知である(特許文献1)。そこでは図11に示すように、X字状に交差配置した一対の挟持アーム31・32のあご部33の対向面のそれぞれに、縦挟み歯34と、前挟み歯35と、後挟み歯36とが設けてある。縦挟み歯34は、ビス頭41の周面をねじ軸に沿って挟持する。例えば図12に示すように、ビス締結面42が水平である場合に、プライヤーの全体を垂直にした状態でビス頭41の周面を挟持する際に使用される。前挟み歯35、および後挟み歯36は、いずれもビス締結面42が水平である場合に、プライヤーの全体を水平にした状態でビス頭41などを挟持する際に使用する。
【0003】
縦挟み歯34は、鋸刃状の3個の条歯34aと、これら条歯34aに連続する斜めの斜辺部34bとで連峰状に形成してある。斜辺部34bの両側に前挟み歯35が配置してあり、対抗する前挟み歯35が接合することにより、挟持アーム31・32の閉じ限界を規定している。前挟み歯35、および後挟み歯36には、それぞれ先の条歯34aと直交する向きの条歯35a・36aが形成してある。
【0004】
同様のプライヤーは特許文献2にも開示されており、そこでは一対の挟持アームを左利き用のはさみの交差形態と同じ逆交差構造にして、ビスを緩めるときの挟持アームのがたつきを規制できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3486776号公報(段落番号0009〜0010、図4)
【特許文献2】特開2005−279801号公報(段落番号0015〜0018、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のプライヤーによれば、操作溝が潰れてドライバーで緩めることが困難なビス40であっても、図12に示すようにビス頭41の周面を一対の縦挟み歯34で挟持して、ビス40を締結対象から的確に取り外すことができ、多くのユーザーから好評を博している。しかし、問題がないわけではない。
【0007】
図12に示すように、ビス40を締結対象から取り外す場合には、一対の縦挟み歯34でビス頭41の周面を挟持するが、ビス頭41の周面を縦挟み歯34で的確に挟持できないことがある。例えば、丸小ねじやトラスねじに代表されるように、縦挟み歯34で挟持される周面の厚み寸法Tが小さなビス40の場合には、ビス頭41の周面を条歯34aで挟持するのが困難となり、縦挟み歯34がビス頭41の周面から外れやすい。本発明者は、上記のように縦挟み歯34がビス頭41の周面から外れる原因を追究し、プライヤーのあご部の構造がいかにあるべきかを検討し直した結果、以下の知見を得ることができた。
【0008】
従来のプライヤーにおいては、図11および図12に示すように左右一対の前挟み歯35の間に縦挟み歯34が山谷状に凹み形成してある。そのため、図12に示すように一対の縦挟み歯34でビス頭41の周面を挟持する場合に、前挟み歯35の前端面37がビス締結面42に先当りし、縦挟み歯34を構成する3個の条歯34aの前端がビス締結面42から浮き離れてしまう。
【0009】
上記のように、条歯34aの前端が締結面42から浮き離れると、なべ小ねじや平小ねじなどの厚み寸法Tが大きく、比較的つかみやすいビスであっても、呼び寸法が小さなビスの場合には、縦挟み歯34による挟み深さが小さくなるのを避けられない。さらに、図12に示すトラスねじや丸小ねじなどの厚み寸法Tが小さなビスの場合には、条歯34aをビス頭41の周面に的確に食い込ませることができなくなる。その場合でも、前挟み歯35の内縁の前端部分38でビス頭41の周面を挟持できるが、条歯34aに比べると食い込み作用が小さいため、ビス頭41を強固に挟持することが難しく、縦挟み歯34がビス頭41の周面から外れやすい。
【0010】
本発明は上記の知見の基づき提案されたものであって、その目的は、ビス頭の外形形状の違いとは無関係に、ビス頭を的確に挟持して締結対象から確実に取り外すことができる、使い勝手に優れたプライヤーを提供することにある。本発明の目的は、とくに挟み歯で挟持される周面の厚み寸法が小さなビスであっても、確実に取り外すことができるプライヤーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプライヤーは、前端にあご部4を有し後端側に握り柄5を有する、第1アーム1と第2アーム2とを連結軸3でX字状に連結して構成する。各あご部4・4の前端の左右には、図1に示すように各あご部4・4の前端両隅がビス締結面22に接触するのを避ける逃げ面16・16を形成する。左右の逃げ面16・16の間の各あご部4・4の対向面に、ビス頭21の周面を挟持する縦挟み歯13・13を凹み形成する。各縦挟み歯13・13は、前後方向に延びる複数個の条歯13aを左右方向へ山谷状に連続させて構成する。各あご部4の前端を含む対向面に、ビス頭21の周面を挟持する縦挟み歯13を凹み形成する。縦挟み歯13は、前後方向に延びる複数個の条歯13aを左右方向へ山谷状に連続させて構成する。
【0012】
上記の「左右の逃げ面16・16の間の各あご部4・4の対向面に、ビス頭21の周面を挟持する縦挟み歯13・13を凹み形成する」構成において、左右の逃げ面16・16の間とは、以下の各態様を含むこととする。図1に示すように、逃げ面16・16の前部が、縦挟み歯13・13の左右方向の形成範囲内に入り込む状態で形成してある場合と、逃げ面16・16の前端の左右間に限って、縦挟み歯13・13が形成してある場合と、逃げ面16・16の後端の近傍の左右間に縦挟み歯13・13が形成してある場合などである。
【0013】
各あご部4・4の前端側の対向面に、縦挟み歯13と、縦挟み歯13の左右に配置される前挟み歯12・12とが形成してあるプライヤーにおいて、各あご部4・4における前記逃げ面16・16を、両前挟み歯12・12の前部に設ける。
【0014】
図1に示すように、前記逃げ面16・16は、あご部4の前端へ向かって先すぼまり状に傾斜する斜面で構成する。
【0015】
図9に示すように、前記逃げ面16・16は、左右一対の前挟み歯12・12の前端に形成される上下方向の平坦面で形成し、前記逃げ面16・16の前端を条歯13aの前端17より後方に位置させる。
【0016】
図10に示すように、前記逃げ面16・16は、左右一対の前挟み歯12・12の対向面の前端に凹み形成した切欠面で形成し、前記逃げ面16・16の前端を条歯13aの前端17より後方に位置させる。
【0017】
上側のあご部4における条歯13aの側面形状を上凹み湾曲状に形成し、下側のあご部4における条歯13aの側面形状を下凹み湾曲状に形成する(図3参照)。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、あご部4・4の前端の左右に逃げ面16・16を形成し、左右の逃げ面16・16の間の各あご部4・4の対向面に、ビス頭21の周面を挟持する縦挟み歯13・13を凹み形成するようにした。このように、あご部4・4の前端の左右に逃げ面16・16を設けると、縦挟み歯13の条歯13aの前端17がビス締結面22に接当する状態で、ビス頭21の周面を一対の縦挟み歯13・13で確実に挟持することができる。また、従来のプライヤーに比べて、ビス頭41の周面を挟持するときの縦挟み歯13・13による挟み深さを大きくできる。したがって、本発明のプライヤーによれば、ねじ頭21の周面の厚み寸法Tが大きなビス20はもちろん、前記厚み寸法Tが小さなビス20であっても、条歯13aがビス頭21の周面に圧接ないし食い込ませてビス頭21を的確に挟持できる。これにより、ねじ軸がさび付き、あるいは操作溝が変形して潰れた状態のビス20であっても、ビス頭21を的確に挟持し、緩み方向へ回転操作して、締結対象から確実に取り外すことができる。
【0019】
縦挟み歯13・13の左右に前挟み歯12・12が設けてあるプライヤーにおいて、逃げ面16・16を前挟み歯12の前部に設けると、逃げ面16・16の殆どの部分を前挟み歯12・12に形成して、縦挟み歯13・13の形成範囲が逃げ面16で狭められるのを阻止できる。したがって、ねじ軸がさび付いたビス20や、操作溝が変形して潰れた状態のビス20であっても、ビス頭21の対向周面を一対の縦挟み歯13・13で確実に挟持して、締結対象から確実に取り外すことができる。また、縦挟み歯13・13の左右に前挟み歯12・12を設けることにより、縦挟み歯13・13を含むあご部前端の構造強度を向上して、縦挟み歯13・13によるビス取り外し作業を的確に行なうことができる。前挟み歯12・12による挟持機能を付加して、プライヤーの用途を多様化できる利点もある。
【0020】
図1に示すように、逃げ面16・16を、あご部4の前端へ向かって先すぼまり状に傾斜する斜面で構成すると、ビス頭21の周面を挟持するとき、あご部4がビス締結面22に対して僅かに傾いていたとしても、逃げ面16・16がビス締結面22に接当するのを避けられる。したがって、取り外し対象のビス20が狭小空間にある場合や、周囲の構造体に邪魔されてプライヤーをビス締結面22と垂直にできないような場合であっても、ビス頭21の周面を縦挟み歯13・13で確りと掴んで取り外すことができる。第1・第2のアーム1・2を連結軸3で組み付けた状態において、逃げ面16・16があご部4の両側面に露出するので、逃げ面16・16の加工をより簡便に行なうことができ、その加工に要する手間とコストを削減できる。
【0021】
図9に示すように、逃げ面16・16を、前挟み歯12・12の前端に設けた上下方向の平坦面で構成し、その前端を条歯13aの前端17より後方に位置させると、逃げ面16・12を斜面で構成する上記のプライヤーと同様に、逃げ面16・16の加工をより簡便に行なって加工に要する手間とコストを削減できる。さらに、上下方向の平坦面で逃げ面16・16を構成するので、逃げ面16・16によって前挟み歯12・12の形成範囲が狭められるのを抑止できる利点もある。
【0022】
図10に示すように、逃げ面16・16を、前挟み歯12・12の対向面に凹み形成した切欠面で形成すると、焼き入れ前の切削加工過程で、切欠面(逃げ面16)を前挟み歯12・12や縦挟み歯13・13とともに正確に形成でき、したがって、さらに少ない手間とコストで逃げ面16・16を形成できる。
【0023】
上下のあご部4・4における条歯13a・13aの側面形状を、上凹み湾曲状、あるいは下凹み湾曲状に形成すると、ビスサイズの違いに応じてあご部4・4を拡開するとき、上下の縦挟み歯13・13が平行な姿勢を越えて先広がり姿勢になるのを遅らせることができる。したがって、呼び寸法が小さなビス20を挟持する場合はもちろん、呼び寸法が大きなビス20を挟持する場合であっても、ビス頭21の周面に条歯13a・13aを確実に圧接ないし食い込ませることができる。つまり、呼び寸法が異なるビス20を広いサイズ範囲にわたって的確に挟持し、締結対象から取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るプライヤーの使用状態説明図である。
【図2】本発明に係るプライヤーの側面図である。
【図3】あご部の詳細構造を示す側面図である。
【図4】あご部の詳細構造を示す正面図である。
【図5】図3におけるA−A線断面図である。
【図6】本発明に係るプライヤーの一部を破断した使用状態説明図である。
【図7】図1におけるB−B線断面図である。
【図8】プライヤーの閉じ状態と開き状態を示す、側面図と使用状態説明図である。
【図9】逃げ面の別の実施例を示す部分平面図である。
【図10】逃げ面のさらに別の実施例を示す、部分平面図、および側面図である。
【図11】従来のプライヤーを示す斜視図、および平面図である。
【図12】従来のプライヤーの使用状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
図1ないし図8は本発明に係るプライヤーの実施例を示す。図2においてプライヤーは、X字状に配置した第1アーム1と第2アーム2とを連結軸3で相対揺動可能に連結して構成する。両挟持アーム1・2は圧縮コイル形の開きばね7で開き付勢してある。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図2および図4に示す交差矢印と前後、左右、上下の文字表示に従うこととする。
【0026】
各アーム1・2は、それぞれ前端にあご部4を有し、後端側を握り柄5とした鍛造品からなり、握り柄5の外面はプラスチック成形品からなるグリップ体6で覆われている。先の開きばね7は、握り柄5側の交差部分の近傍に配置してある。各あご部4の対向面には、交差部分の側からあご部前端にわたって切刃10と、後挟み歯11と、前挟み歯12と、縦挟み歯13とが形成してある。図3の拡大図に示すように、あご部4の前端面は側面から見て部分円弧状に丸められている。
【0027】
図3に示すように後挟み歯11は、左右方向に延びる鋸刃リブ状の条歯11aの一群を前後平行に配置して構成されており、主に挟持間隔が大きな対象を挟持するために設けてある。条歯11aの先端を結ぶ仮想線は、上側のあご部4においては上凹み湾曲状に形成され、下側のあご部4においては下凹み湾曲状に形成してある。
【0028】
前挟み歯12は、あご部4の前端側対向面の左右両側に形成してあり、各前挟み歯12の挟持面には浅いV字溝12aが一定間隔おきに形成してある。両アーム1・2を握り込んであご部4を閉じた状態における上下の前挟み歯12・12は、あご部4の前端へ向かって先すぼまり状に形成してあり、主に板片や軸状の突起などの比較的挟持間隔が小さな対象を挟持するために設けてある。後挟み歯11と前挟み歯12とは前後に長い区分突起15で前後に隔てられている。このように、第1・第2の両挟み歯11・12を区分突起15で隔てると、挟持対象を区分突起15で受け止めて、各挟み歯11・12で保持した挟持対象が前後にずれ動くのを防止できる。
【0029】
縦挟み歯13は、あご部4の前端を含む対向面に、前後方向に延びる3個の鋸刃リブ状の条歯13aを左右方向へ山谷状に連続させて構成してあり(図4参照)、主としてビス頭21の周面をビス締結面22と直交する状態で挟持するために設けてある。図3および図5に示すように、縦挟み歯13は、あご部4の前端から、後挟み歯11の前端に位置する条歯11aにわたって形成してある。閉じた状態のあご部4を側面から見るときの条歯13aは、上側のあご部4おいては上凹み湾曲状に形成され、下側のあご部4においては下凹み湾曲状に形成してある(図3参照)。同様に、あご部4を前端側から見るときの、3個の条歯13aの突端どうしを結ぶ仮想線は、上側のあご部4においては上凹み湾曲状に形成され、下側のあご部4においては下凹み湾曲状に形成してある(図4参照)。縦挟み歯13は、あご部4の対向面の左右中央に形成してあり、その左右両側に先の前挟み歯12・12が設けてある。
【0030】
上記構成のプライヤーにおいて、ビス頭21を縦挟み歯13で的確に挟持するために、図1に示すようにあご部4・4の前端面の左右両側に、各あご部4・4の前端両隅がビス締結面22に接触するのを避ける逃げ面16・16を形成する点に本発明の特長がある。詳しくは、左右の前挟み歯12・12の前部のそれぞれに、あご部4の前端へ向かって先すぼまり状に傾斜する斜面を形成して逃げ面16・16とした。図4に示すように逃げ面16・16の前端は、縦挟み歯13の左右両端の条歯13aの山裾部分に達している。
【0031】
上記のように、あご部4の前端面の左右両側に逃げ面16・16を形成すると、図1に示すようにビス頭21の周面を一対のあご部4・4で挟持するとき、縦挟み歯13の条歯13aの前端17がビス締結面22に接当する状態で、ビス頭21の周面を縦挟み歯13で確実に挟持することができる。したがって、周面の厚み寸法Tが小さなビス20であっても、図6および図7に示すように条歯13aをビス頭21の周面に圧接ないし食い込ませて、ビス20を緩み方向へ回転操作できる。この実施例では、ビス20がトラス小ねじである場合を例示したが、ビス20が丸小ねじである場合にも、同様にビス締結面22に接するビス頭21の周面に条歯13aを圧接ないし食い込ませて、ビス20を緩み方向へ回転操作できる。
【0032】
また、この実施例では、あご部4の前端の左右両側に斜面を形成して逃げ面16・16を構成するので、ビス頭21の周面を挟持するとき、あご部4がビス締結面22に対して傾いていたとしても、逃げ面16・16がビス締結面22に接当するのを回避できる。したがって、取り外し対象のビス20が狭小空間にあるような場合でも、ビス頭21の周面を縦挟み歯13・13で確りと掴んで取り外すことができる。また、逃げ面16の加工に要する手間とコストを削減できる。例えば、あご部4の周面に研削加工を施して仕上げ整形する際に、先の斜面を同時に整形して逃げ面16・16を容易に形成することができる。因みに、図12に示す従来のプライヤーにおいては、前挟み歯35の前端37の位置と、縦挟み歯34の条歯34aの前端との位置とに大きな開きがあるので、適切な逃げ面を形成するには、より多くの部分を削り取る必要があり、削り取る部分が多くなるほど前挟み歯35の機能が損なわれるおそれがある。
【0033】
図8(a)に両あご部4・4を閉じた状態を、また図8(b)に両あご部4・4を最大位置まで開いた状態をそれぞれ示している。両あご部4・4を閉じた状態においては、縦挟み歯13を構成する3個の条歯13aの前端17がほぼ面一になる。そのため、各条歯13aの前端17をビス締結面22に接触させることができる。また、両あご部4・4を最大位置まで開いた状態では、各条歯13aの突端どうしを結ぶ仮想線が、上凹み湾曲状あるいは下凹み湾曲状に形成してある関係で、左右両側の条歯13aの前端17のみがビス締結面22に接触する状態で、ビス頭21の周面を挟持できる。
【0034】
上記のように、上下の縦挟み歯13・13の姿勢は、あご部4・4の開き度合によって先すぼまり形状から先広がり形状まで変化するが、両縦挟み歯13・13の対向姿勢が先広がり状になるほど、ビス頭21を挟持するのが難しくなる。しかし、この実施例では、上側のあご部4における条歯13aの側面形状を上凹み湾曲状とし、下側のあご部4における条歯13aの側面形状を下凹み湾曲状とするので、上下の縦挟み歯13・13が先広がり状になるのを遅らせて、ビス頭21の周面に条歯13aを圧接ないし食い込ませることができる。したがって、呼び寸法が異なるビス20を広いサイズ範囲にわたって的確に挟持できる。なお、ビス20の呼び寸法が小さい場合には、条歯13aの前端17部分でビス頭21の締結面側の周面を挟持することになる。
【0035】
図9は逃げ面16の別の実施例を示す。そこでは左右の前挟み歯12・12の前端に、縦挟み歯13の条歯13aの山谷線と直交する上下方向の平坦面を形成して逃げ面16とした。この場合の逃げ面16は、想像線で示す前挟み歯12の前端を研削加工によって除去することで形成できる。あるいは第1・第2の両アーム1・2を型鍛造したした時点で先の平坦面を形成しておき、平坦面の表面を研削仕上げすることにより、逃げ面16を形成することができる。この実施例における平坦面(逃げ面16)は、条歯13aの前端17より後側に位置させておくことにより、先の実施例と同様に、条歯13aの前端17をビス締結面22に先当りさせることができる。
【0036】
図10は逃げ面16のさらに別の実施例を示す。そこでは、想像線で示す左右の前挟み歯12・12の前端対向面に凹み形成した切欠面で逃げ面16を構成した。詳しくは、前端対向面に切削加工を施して逃げ面16を円弧面状に形成した。この場合の逃げ面16は、その前端縁が条歯13aの前端17より後側に位置するように形成してあればよく、切削面形状は円弧面である必要はない。なお、図10(b)における円弧面の形成深さをより大きくすると、逃げ面16の前端縁を条歯13aの前端17よりさらに後方に位置させることができる。以上の説明から理解できるように、本発明に係る逃げ面16は、あご部4の前端の左右両側であれば、あご部4の側面、前面、対向面のいずれか、あるいは複数の面壁にわたって形成してあればよい。
【0037】
上記の実施例では、3個の条歯13aで縦挟み歯13を構成したが、その必要はなく、少なくとも2個以上の条歯13aで縦挟み歯13を構成することができる。縦挟み歯13は、前後方向に連続するリブ状の条歯13aで形成する以外に、条歯13aをその山谷線と直交する細い溝で分断して、断続するリブ状に形成することができる。必要があれば、凹面に設けたダイヤ模様状の凹凸体の一群で構成することができる。開きばね7は省略することができる。本発明は、コンビネーションプライヤーにも支障なく適用できる。
【0038】
切刃10、後挟み歯11、および前挟み歯12のいずれかは省略することができる。例えば、前挟み歯12を省略して、あご部4の前端対向面の左右方向の全幅にわたって縦挟み歯13を形成することができる。その場合には、あご部4の左右側面の前端に、ごく小さな面取り状の逃げ面16を形成するとよい。上下のあご部4における縦挟み歯13、および条歯13aの側面形状は上凹み湾曲状、あるいは下凹み湾曲状に形成するのが好ましいが、必要があれば上凹み屈折状や下凹み屈折状に形成することができる。さらに、あご部前端へ向かってすぼまる横臥V字状に形成することができる。側面から見るときのあご部4の前端面は部分円弧状に丸める必要はなく、平坦面で形成してあってもよい。また、あご部4の前端面を平坦面で形成する場合には、両あご部4・4を閉じた状態において、先の平坦面がプライヤーの前後中心軸と直交する形態と、先の平坦面がプライヤーの前後中心軸と斜めに交差する形態のいずれであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 第1アーム
2 第2アーム
3 連結軸
4 あご部
11 後挟み歯
12 第2水平挟み歯
13 垂直挟み歯
13a 条歯
16 逃げ面
17 条歯の前端
21 ビス頭
22 ビス締結面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端にあご部(4)を有し後端側に握り柄(5)を有する、第1アーム(1)と第2アーム(2)とが連結軸(3)でX字状に連結されており、
各あご部(4・4)の前端の左右に、各あご部(4・4)の前端両隅がビス締結面(22)に接触するのを避ける逃げ面(16・16)が形成されており、
左右の逃げ面(16・16)の間の各あご部(4・4)の対向面に、ビス頭(21)の周面を挟持する縦挟み歯(13・13)が凹み形成されており、
各縦挟み歯(13・13)が、前後方向に延びる複数個の条歯(13a)を左右方向へ山谷状に連続させて構成してあるプライヤー。
【請求項2】
各あご部(4・4)の前部の対向面に、縦挟み歯(13)と、縦挟み歯(13)の左右に配置される前挟み歯(12・12)とが形成されており、
各あご部(4・4)における前記逃げ面(16・16)が、両前挟み歯(12・12)の前部に設けてある請求項1に記載のプライヤー。
【請求項3】
前記逃げ面(16・16)が、あご部(4)の前端へ向かって先すぼまり状に傾斜する斜面で構成してある請求項2に記載のプライヤー。
【請求項4】
前記逃げ面(16・16)が、左右一対の前挟み歯(12・12)の前端に形成される上下方向の平坦面で形成されており、
前記逃げ面(16・16)の前端が条歯(13a)の前端(17)より後方に位置させてある請求項2に記載のプライヤー。
【請求項5】
前記逃げ面(16・16)が、左右一対の前挟み歯(12・12)の対向面の前端に凹み形成した切欠面で形成されており、
前記逃げ面(16・16)の前端が条歯(13a)の前端(17)より後方に位置させてある請求項2に記載のプライヤー。
【請求項6】
上側のあご部(4)における条歯(13a)の側面形状が上凹み湾曲状に形成され、下側のあご部(4)における条歯(13a)の側面形状が下凹み湾曲状に形成してある請求項2から5のいずれかに記載のプライヤー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−269434(P2010−269434A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125214(P2009−125214)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【特許番号】特許第4471315号(P4471315)
【特許公報発行日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(592038018)株式会社エンジニア (10)
【Fターム(参考)】