説明

プラスチックボトル及びそれを用いた飲料製品

【課題】本発明の目的は、プラスチックボトルにおいて、注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価した結果を踏まえて形状設計したプラスチックボトルを提案することである。
【解決手段】本発明に係るプラスチックボトル100は、胴部30が、水平断面形状が角を丸めた矩形であり、胴部10の短手辺Sの壁面61に、容器の主軸Oとの距離が、下方にいくに従って大きくなるテーパー面32を設け、テーパー面32の容器の主軸Oに対する傾斜角度が、8〜12°であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックボトルに関し、特には、プラスチックボトルの胴部の形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックボトルは、水、お茶、炭酸飲料、ジュース等の飲料の容器として広く利用されている。このようなプラスチックボトルは、様々な機能設計を重視したものが増加しているが、一方で、ユーザビリティに関する不満もある。例えば、容器が柔らかく、持つ時に落としそうになる、くぼみや引っかかるところがないと持ちにくい、片手では持ちにくく、こぼしやすいなどである。特に、2リットル程度の大容量プラスチックボトルで顕著である。
【0003】
このような大容量のプラスチックボトルの場合、その質量はかなり重くなり、持ち上げて注ぎだすのに相当な力を必要とする。また、大容量化にともない、容器の胴囲が大きくなり、片手で把持することが困難になるという問題があった。
【0004】
そこで、片手で把持しての取り扱いが安定した状態で容易にできるように胴部を設計した容器が提案されている。例えば、胴部の対向した箇所に、それぞれ陥没した凹部を有し、両凹部は胴部を把持した片手の指先が充分に余裕を持って進入できる高さ幅と横幅とを有し、かつ、この進入した指先が強く引っかかることのできる深さを有するプラスチックボトルである(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−230856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術などをはじめとするプラスチックボトルは、容器の胴部に設けられた凹部に母指及び人差し指(中指)を引っ掛けて、容器を把持することができるものの、母指及び人差し指(中指)に加え、母指及び人差し指(中指)との間の股部や掌部を容器に密着させて把持することは難しく、注ぎ出し動作が安定した状態でできるとはいい難い。ここで、注ぎ出し動作とは、容器を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の動作である。
【0007】
また、プラスチックボトルの「使いやすさ」、特には、注ぎ出し動作における「やりやすさ」を追求した容器形状の設計では、主観評価が中心で、曖昧で定性的であるため、容器設計の方針が定まりにくく、何度も設計する必要があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、プラスチックボトルにおいて、容器を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作における身体負担(筋負担)を客観的かつ定量的に評価した結果を踏まえて形状設計したプラスチックボトルを提案することである。つまりは、注ぎ出し動作における筋負担を低減できるプラスチックボトルを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、プラスチックボトルを把持するときのプラスチックボトルと手との接触面積に着目し、プラスチックボトルの胴部にテーパー面を設けることで、プラスチックボトルと手との接触面積が大きくなり、この結果、注ぎ出し動作における筋負担を低減できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るプラスチックボトルは、熱可塑性合成樹脂をボトルに成形した口部、肩部、胴部及び底部が連接したプラスチックボトルにおいて、前記胴部は、水平断面形状が角を丸めた矩形であり、前記胴部の短手辺の壁面に、容器の主軸との距離が、下方にいくに従って大きくなるテーパー面を設け、該テーパー面の前記容器の主軸に対する傾斜角度が、8〜12°であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るプラスチックボトルでは、前記胴部は、くびれ部を有し、該くびれ部の下端に連接して前記テーパー面を設けていることが好ましい。くびれ部では、プラスチックボトルの胴囲が小さくなり、強く把持することができる。また、くびれ部に指が引っかかるので、滑りにくくなり、余計な力を加える必要がなくなる。
【0011】
本発明に係るプラスチックボトルでは、前記テーパー面の上端が、容器の高さ中央部に位置することが好ましい。プラスチックボトルの重心部を把持することで、注ぎ出し動作が安定する。
【0012】
本発明に係るプラスチックボトルでは、前記テーパー面の下方に、前記容器の主軸と平行な絶壁平面を設け、該絶壁平面が下方にいくに従って拡幅する末広がり形状であり、前記絶壁平面の上端部を前記テーパー面上に設けることが好ましい。プラスチックボトルは、胴囲を把持できる大きさに維持しつつ、内容量を確保するために、水平断面形状を正方形又は矩形に近づけることが理想的である。本発明に係るプラスチックボトルも、胴部の水平断面形状の概形は、矩形である。テーパー面は、絶壁平面を介することで胴部の矩形部分になだらかにつながることができる。また、末広がり形状とすることで、テーパー面の面積を広く設けることができ、プラスチックボトルと手との接触面積をより広くすることができる。
【0013】
本発明に係るプラスチックボトルは、前記テーパー面が、斜楕円柱若しくは斜円柱の曲面の一部である又は円錐台の曲面の一部である形態を包含する。
【0014】
本発明に係る飲料製品は、本発明に係るプラスチックボトルに飲料が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、プラスチックボトルにおいて、容器を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作における身体負担(筋負担)を客観的かつ定量的に評価した結果を踏まえて形状設計したプラスチックボトルを提案することができる。つまりは、注ぎ出し動作における筋負担を低減できるプラスチックボトルを提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す正面図(長手面)である。
【図3】本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す側面図(短手面)である。
【図4】図2のX−X破断面の外周線である。
【図5】図3のY−Y破断面の外周線である。
【図6】本実施形態に係るプラスチックボトルのテーパー部の拡大斜視図(a)と手の概略図(b)であり、プラスチックボトルと手との接触面積について説明するための図である。
【図7】本実施形態に係るプラスチックボトルの胴部の拡大正面図である。
【図8】図7のA−A、B−B、C−C、D−D、E−E破断面の外周線である。
【図9】本実施形態に係るプラスチックボトルにおける別の一例の概略形状を示す側面図であり、(a)は、絶壁平面の境界線が三角形、(b)は、絶壁平面の境界線が台形、である。
【図10】テーパー面の傾斜角度と測定対象容器及び手の接触面積との関係を示したグラフである。
【図11】注ぎ出し動作におけるプラスチックボトルの持ち方を示す図である。
【図12】手及び腕の骨格筋を示す図である。
【図13】浅指屈筋の最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価との関係を示す。
【図14】図13における縦軸の被験者の主観的評価の数値の具体的基準(ボルグスケール)を示す。
【図15】持ち上げる動作の各動作筋の最大筋力比(%MVC)を示したグラフである。
【図16】注ぐ動作の各動作筋の最大筋力比(%MVC)を示したグラフである。
【図17】第1背側骨間筋、長母指外転筋及び総指伸筋の最大筋力比の合計を持ち上げる動作及び注ぐ動作における負担として示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0018】
図1は、本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す正面図である。図3は、本実施形態に係るプラスチックボトルの一例の概略形状を示す側面図である。図4は、図2のX−X破断面である。図1〜図4に示すように、本実施形態に係るプラスチックボトル100は、熱可塑性合成樹脂をボトルに成形した口部10、肩部20、胴部30及び底部40が連接したプラスチックボトルにおいて、胴部30は、水平断面形状が角を丸めた矩形であり、胴部10の短手辺Sの壁面61に、容器の主軸Oとの距離が、下方にいくに従って大きくなるテーパー面32を設け、テーパー面32の容器の主軸Oに対する傾斜角度θが、8〜12°である。
【0019】
プラスチックボトル100は、熱可塑性合成樹脂をボトル状に成形して得られる。熱可塑性合成樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂、アイオノマー樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリルニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂を例示することができる。この中で、PETが特に好ましい。プラスチックボトル100は、例えば、200ml〜2000mlの容量があるが、ここでは特に1000ml〜2000mlの容量とすることが好ましい。
【0020】
口部10は内容物である液体を注ぎ易いように通常、1.5〜4cmの直径で形成されており、ネジ部11にキャップ(不図示)が着脱可能に螺着される。肩部20は、胴部30につながるように胴部30に向かって胴径を拡径させて錐体形状をしている。なお、図1〜3に示した肩部20は曲面で形成されているが、複数のカット面から形成されていてもよい。胴部30は、主として消費者に把持される箇所であり、胴部30には、その外側にシュリンクラベル又はロールラベル等の商品表示ラベル(不図示)が装着される。底部40は、胴部30とほぼ同じ胴径にて連接される。また、肩部20と胴部30との間及び胴部30と底部40との間には、環状リブ35,41が設けられており、特に側面からの応力に対する強度を向上させ、ボトルが変形することを防止する。胴部30のうち環状リブ35の下方に隣接した長手辺Lの壁面62には、陥没したグリップ部34が設けられている。グリップ部34は、消費者が胴部30の上部を把持した場合に、指先がグリップ部34の陥没した凹部に入ることで、グリップ性を高めるために設けられている。
【0021】
図4に示すように、胴部30は、水平断面形状が角を丸めた矩形である。ここで矩形とは、グリップ部34における凹部、後に説明するテーパー面32の曲面などの変形部を勘案した胴部30の概形である。水平断面形状は、矩形の長手辺Lと短手辺Sが同じ長さ、すなわち正方形としてもよいが、矩形であることがより好ましい。矩形とすることで、短手辺を設けることができ、手の小さな人でも把持し易くなり、また冷蔵庫に収容し易くなる。なお、大容量のプラスチックボトルでは、胴囲を把持できる大きさに維持しつつ、内容量を確保するために、水平断面形状を矩形又は正方形に近づけることが理想的である。また、段ボール等に所定数量を梱包して輸送したり、店頭へ陳列したりするにあたり、胴部(底部)の水平断面形状が矩形又は正方形であるプラスチックボトルは、胴部(底部)の水平断面形状が円形であるものよりも、床面積効率が高いという利点もある。
【0022】
図5は、図3のY−Y破断面である。図5において、O´は、容器の主軸Oの平行線である。テーパー面32は、図5に示すとおり、容器主軸O(O´)に対する傾斜角度θが、8〜12°である。8〜12°の範囲は、成形時の誤差を包含した範囲であり、より好ましくは、10°である。ここで傾斜角度θは、容器の主軸Oを通り、かつ、短手辺Sの壁面61を縦割りする縦断面における傾斜角度である。図6に、本実施形態に係るプラスチックボトルのテーパー部の拡大斜視図と手の概略図であり、プラスチックボトルと手との接触面積について説明するための図を示す。図6に示すように、母指・人差し指(中指)のアーチU´及び掌の傾斜角度T´が形成する形状と、テーパー部のカーブU及びテーパーの傾斜角度Tが形成する形状が近似している。したがって、プラスチックボトルと手との接触面積が大きくなり、この結果として、小さな力での注ぎ出し動作が可能となる。
【0023】
本実施形態に係るプラスチックボトルでは、胴部30は、くびれ部31を有し、くびれ部31の下端に連接してテーパー面32を設けていることが好ましい。図7は、本実施形態に係るプラスチックボトルの胴部の拡大正面図である。図8は、図7のA−A、B−B、C−C、D−D、E−E破断面の外周線である。図7及び図8に示すとおり、くびれ部31(A−A破断面)では、プラスチックボトルの胴囲が小さくなるため、強く把持することができる。また、くびれ部31に指が引っかかるので、滑りにくくなり、余計な力を加える必要がなくなる。
【0024】
本実施形態に係るプラスチックボトルでは、テーパー面32の上端が、容器の高さ中央部に位置することが好ましい。ここで、容器の高さ中央部とは、プラスチックボトルの重心位置付近又は重心位置より下方である。具体的には、重心位置から重心位置の下方15mm程度の位置までの間である。容器の重心付近を把持することで注ぎ出し動作が安定するからである。
【0025】
本実施形態に係るプラスチックボトルでは、テーパー面32の下方に、容器の主軸Oと平行な絶壁平面33を設け、絶壁平面33が下方にいくに従って拡幅する末広がり形状であり、絶壁平面33の上端部をテーパー面32上に設けることが好ましい。図8を用いて、絶壁平面33について説明する。絶壁平面33は、テーパー面をプラスチックボトルの所定の胴部(底部)の輪郭(図8では、長手辺L、短手辺Sの矩形)に収めるために設けられている。プラスチックボトルの胴部(底部)の輪郭は、把持し易さ、内容量及び店頭等での陳列面積等の各種要求を考慮して形状及び寸法が設計されている。テーパー面32は、容器の主軸Oとの距離が、下方にいくに従って(図8では、AからE)大きくなるため、ある時点(図8ではC−C面)で設計された所定の胴部(底部)の輪郭を超えてしまう。そこで、絶壁平面33を設けることで、テーパー面を、所定の胴部(底部)の輪郭に収めることができる。
【0026】
絶壁平面は、図3に示すように、下方にいくに従って拡幅する末広がり形状であり、絶壁平面33の上端部33aをテーパー面32上に設けることが好ましい。テーパー面32の面積を大きく設けることができるため、プラスチックボトルと手との接触面積を増加することができ、かつ、テーパー面とテーパー面の下方に連接する水平断面形状が矩形である胴部とを滑らかにつなぐことができる。図3では、絶壁平面33は、逆放物線の境界線で描かれているが、本実施形態に係るプラスチックボトルでは、これに限定されない。図9には、本実施形態に係るプラスチックボトルにおける別の一例の概略形状を示す側面図を示した。図9に示すように、絶壁平面は、例えば、(a)絶壁平面の境界線が三角形、(b)絶壁平面の境界線が台形、であってもよい。
【0027】
本実施形態に係るプラスチックボトルでは、テーパー面32が、斜楕円柱若しくは斜円柱の曲面の一部である又は円錐台の曲面の一部である形態を包含する。図示された形態では、テーパー面が、斜楕円柱の曲面の一部である。しかし、他形態としてテーパー面が、斜円柱の曲面の一部であってもよいし、円錐台の曲面の一部であってもよい。斜楕円柱又は斜円柱の曲面の一部である場合は、図8に示すようにテーパー面における曲率半径(ra、rb、rc、rd、re)が一定となり、曲率半径の中心(a、b、c、d、e)は、容器の下方にいくに従って短手辺Sの壁面61側に移動する。一方、円錐台の曲面の一部である場合(不図示)は、容器の下方にいくに従って曲率半径が大きくなり、曲率半径の中心は、容器の主軸O上又は容器の下方にいくに従って斜楕円柱又は斜円柱の曲面の一部である場合よりも小さく短手辺Sの壁面側に移動する。
【0028】
本実施形態に係る飲料製品は、本実施形態に係るプラスチックボトルに飲料が充填されていることを特徴とする。飲料は、例えば、水、お茶、炭酸飲料、ジュースである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0030】
測定対象の容器は、胴部の水辺断面形状が角を丸めた矩形であり、かつ、内容量が2リットルであるプラスチックボトルにおいて、プラスチックボトルの高さ中央部に、短手辺の壁面に設けたテーパー面の傾斜角度が0°、10°、20°、30°である4種類のプラスチックボトルを準備した。これらの測定対象の容器について、容器と手との接触面積を測定した。また、注ぎ出し動作の負担推定方法により、注ぎ出し動作における負担を評価した。被験者は、手首と手のひらの境界から中指の先端までの手長が17.0cmであった。
【0031】
(容器と手との接触面積を測定)
容器の把持の方法は、プラスチックボトルの高さ中央が中指の位置にくるように、かつ、中指が水平方向を向くように指定した。接触面積の測定方法は、以下のとおりである。すなわち、測定対象の容器側面に紙を巻きつけ、被験者の手にインクをつけて把持し、インクが乾いた後、スキャナで画像を取り込んだ。スキャナで取り込んだ画像の色がついている部分(容器と手との接触部)と、色がついていない部分とを二値化し、二値化により黒くなった部分のピクセル数をカウントし、そのピクセル数から面積を算出した。図10は、テーパー面の傾斜角度及び測定対象の容器と手との接触面積の関係を示したグラフである。図10に示すとおり、テーパー面の傾斜角度が10°の場合が、容器と手との接触面積が一番大きいことがわかった。
【0032】
(注ぎ出し動作の負担推定方法による注ぎ出し動作における負担の評価)
注ぎ出し動作の負担推定方法とは、容器本体を持ち上げ、続いて容器本体を傾ける一連の注ぎ出し動作における身体負担を客観的かつ定量的に評価することで、主観的評価を推定する方法である。すなわち、注ぎ出し動作時に働く動作筋を特定し、この動作筋について、最大随意当尺性収縮時の筋電位情報の取得工程、筋電位情報の取得工程及び最大筋力比算出工程を経ることにより注ぎ出し動作の負担を評価する。この注ぎ出し動作の負担推定方法は、最大筋力比を指標として使用するため、個人間の差異が出にくい。よって、官能評価のように数多くの被験者を集める必要がなく、注ぎ出し動作における身体負担を客観的に評価することができ、また、最大筋力比という数値で表現できるため、定量的に把握できる。また、被験者として、身体的特徴(男女、手の大きさなど)の異なる特定の数名の被験者を集めで計測すれば、その身体的特徴を包含する被験者を想定して、注ぎ出し動作における身体負担を把握することが可能となる。例えば、被験者母集団の境界に位置するような人、例えば母集団の中で手の大きな人、小さな人、握力の大きい人、小さい人などを選定し、これらの人のデータを取ることで、最も母集団に適した容器を推定することができる。
【0033】
計測において、把持の方法及び注ぎ出し動作は、次のとおり指定した。すなわち、把持の方法は、プラスチックボトルの高さ中央が中指の位置にくるように、かつ、中指が水平方向を向くように把持する。注ぎ出し動作は、2秒で持ち上げ、3秒静止、2秒で傾け、3秒停止する。なお、注ぎ出し動作におけるプラスチックボトルの持ち方は、図11に示す持ち方とした。上記注ぎ出し動作を8回試行し、筋電位を最大筋力比に換算し、平均した。このとき、持ち上げ動作と、注ぎ動作を分けてそれぞれ最大筋力比を算出した。
【0034】
(動作筋の特定)
注ぎ出し動作において、上肢の各関節の動きは次のとおりである。
(1)把持する。つまり、母指の屈曲、内転及び第2〜5指の屈曲の動きである。
(2)持ち上げる。つまり、肘関節の屈曲、手関節の橈屈、伸展の動きである。
(3)コップに注ぐ。つまり、肩関節の外転、手関節の屈曲、尺屈の動きである。
【0035】
前記(1)〜(3)の動作の中で働く動作筋のうち、筋電図を計測可能な筋を選定した結果、持ち上げる動作では、第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋及び橈側手根伸筋であり、注ぐ(容器本体を傾ける)動作では、第1背側骨間筋、浅指屈筋、総指伸筋及び橈側手根伸筋であった。手及び腕の骨格筋としては、図12(出典:森,小川他,金原監修:分担解剖学1 総説・骨学・人体学・筋学,金原出版株式会社,1982)に示した筋がある。各骨格筋の働きは、例えば、第1背側骨間筋は、母指の内転(人差し指に近づける動作)、長母指外転筋は、母指の外転(人差し指から離れる動作)、総指伸筋は、第2指〜第5指の伸展(母指以外の指を伸ばす動作)である。
【0036】
筋電図は筋電位の経過時間を横軸とし、筋電位を縦軸とするグラフである。筋肉は脳からの指令によって収縮を行うが、この指令は電気信号として伝わる。この電気信号を皮膚表面に固定した電極によって測定したものを筋電位という。筋電位は計測系だけでなく、筋肉量や皮膚の厚さ、負荷に対する筋活動の現れ方など、個人差が大きいため、最大随意当尺性収縮(以下、「MVC:maximum voluntary contraction」ともいう)時の筋電位を100%とする相対値(%MVC)を用いて比較すると個人差等の誤差を少なくすることができる。%MVCは、最大筋力比であり、数1で求めることができる。
(数1)最大筋力比=動作に伴う筋電位/最大随意当尺性収縮時の筋電位
【0037】
最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価(例えば楽である、やや楽である、ややきつい、きついなど)との関係は、対数関数として対応可能である。図13に浅指屈筋の最大筋力比と筋負担に対する被験者の主観的評価との関係を示す。図14に、図13における縦軸の被験者の主観的評価の数値の具体的基準(ボルグスケール)を示した。注ぎ出し動作において、筋電位が一定の区間の平均をとった結果、持ち上げる動作及び注ぐ動作で主観評価との相関が顕著であった第1背側骨間筋、長母指外転筋、総指伸筋について評価を行うこととした。
【0038】
(動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報の取得工程)
前記の選定された動作筋についてそれぞれ最大随意当尺性収縮時の筋電位を求めた。筋電位の測定は、筋電計を用いて公知の方法、例えば手・腕の筋部位に電極を取り付け、筋電位を測定することで行った。
【0039】
(動作筋の筋電位情報の取得工程)
次に注ぎ出し動作がなされたときの動作筋の筋電位情報を取得した。筋電位の測定方法は、動作筋の最大随意当尺性収縮時の筋電位情報を取得する場合と同様である。
【0040】
(最大筋力比算出工程)
前記のとおり、筋電位を単に比較するのではなく、個人差等の測定値の変動要因を排除するために、最大随意当尺性収縮時の筋電位を100%とする相対値(%MVC=最大筋力比)を用いて比較する。%MVCは、最大筋力比であり、数1で算出した。
【0041】
以上の工程を経ることで、測定対象の容器について筋ごとに最大筋力比の値を算出した。図15は、持ち上げる動作の各動作筋の最大筋力比(%MVC)を示したグラフである。図16は、注ぐ動作の各動作筋の最大筋力比(%MVC)を示したグラフである。図15より、テーパー面の傾斜角度が大きくなるにつれて、第1背側骨間筋の筋負担が小さくなるが、長母指外転筋、総指伸筋の負担が大きくなることがわかる。テーパー面の傾斜角度が大きくなると母指を内転する必要がなくなるが、特に傾斜角度が20°、30°では手関節が押し上げられるため、指定した把持姿勢をとることが難しくなるからである。
【0042】
図16より、テーパー面の傾斜角度が20°、30°では、長母指外転筋及び総指伸筋の負担が大きくなることがわかる。テーパー面の傾斜角度が大きくなると、容器を傾ける角度を大きくする必要がある。結果として、多く手首を曲げる必要があるからである。
【0043】
図17は、第1背側骨間筋、長母指外転筋及び総指伸筋の最大筋力比の合計を持ち上げる動作及び注ぐ動作における負担として示したグラフである。横軸は、持ち上げる動作における負担、縦軸は、注ぐ動作における負担である。グラフの左下にある要素ほど注ぎ出し動作の負担が小さい容器といえる。図17より、テーパー面の傾斜角度が10°である容器が、注ぎ出し動作(持ち上げる動作及び注ぐ動作)において特異的に最も負担が小さいことが確認できた。
【0044】
容器と手との接触面積測定結果より、容器の胴部に傾斜角度が10°のテーパー面を設けることで、容器と手との接触面積が増加し、この結果として、小さな力での注ぎ出し動作が可能となることが確認できた。そして、注ぎ出し動作の負担推定方法の評価結果より、容器の胴部に傾斜角度が10°のテーパー面を設けた場合が、注ぎ出し動作における筋負担を最も低減できることが客観的かつ定量的に確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
注ぎ出し動作を伴う容器全般に利用することができる。例えば、洗剤、調味料、油である。
【符号の説明】
【0046】
10,口部
20,肩部
30,胴部
31,くびれ部
32,テーパー面
33,絶壁平面
33a,絶壁平面の上端部
34,グリップ部
35,41,環状リブ
40,底部
61,胴部の短手辺の壁面
62,胴部の長手辺の壁面
100,プラスチックボトル
S,胴部の短手辺
L,胴部の長手辺
O,容器の主軸
O´,容器の主軸の平行線
θ,テーパー面の傾斜角度
U,テーパー部のカーブ
U´,母指・人差し指(中指)のアーチ
T,テーパーの傾斜角度
T´,掌の傾斜角度
a,b,c,d,e,曲率半径の中心
ra,rb,rc,rd,re,テーパー面における曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂をボトルに成形した口部、肩部、胴部及び底部が連接したプラスチックボトルにおいて、
前記胴部は、水平断面形状が角を丸めた矩形であり、
前記胴部の短手辺の壁面に、容器の主軸との距離が、下方にいくに従って大きくなるテーパー面を設け、
該テーパー面の前記容器の主軸に対する傾斜角度が、8〜12°であることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項2】
前記胴部は、くびれ部を有し、
該くびれ部の下端に連接して前記テーパー面を設けていることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックボトル。
【請求項3】
前記テーパー面の上端が、容器の高さ中央部に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチックボトル。
【請求項4】
前記テーパー面の下方に、前記容器の主軸と平行な絶壁平面を設け、
該絶壁平面が下方にいくに従って拡幅する末広がり形状であり、
前記絶壁平面の上端部を前記テーパー面上に設ける、ことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のプラスチックボトル。
【請求項5】
前記テーパー面が、斜楕円柱若しくは斜円柱の曲面の一部である又は円錐台の曲面の一部であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のプラスチックボトル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のプラスチックボトルに飲料が充填されていることを特徴とする飲料製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図11】
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【図12】
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