説明

プラスチックレンズ及びプラスチックレンズの製造方法

【課題】400nmでの分光透過率を0%にすることが可能なプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】、エピスルフィド樹脂と、硫黄原子と、下記一般式(1)で表される紫外線吸収剤とを含む組成物からプラスチックレンズを形成する。この組成物は、硫黄原子が組成物全量に対して5〜30質量%、紫外線吸収剤が0.5〜5質量%含まれている。


(但し、式中Rは、炭素数1〜2のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピスルフィド樹脂と硫黄原子とを含み、高い屈折率を有するプラスチックレンズ及びその製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
高屈折率を有するプラスチックレンズ組成物、例えば屈折率1.74のプラスチックレンズ組成物として、エピスルフィド基を含む樹脂と硫黄原子とを含むプラスチックレンズが開発されている。しかし、エピスルフィド基を有する樹脂からなるプラスチックレンズでは、紫外線照射による黄変(黄色味着色)が発生してしまう。
【0003】
このため、含硫エピスルフィド樹脂からなるプラスチックレンズ組成物において、400〜430nmの範囲の光線透過率を低下させる紫外線吸収剤を添加することや、熱重合条件を所定の条件とすることにより、赤色発色及び黄変を防ぐことが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
また、プラスチックレンズ組成物に添加する紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール誘導体として、例えば、2−(4’−オクチルオキシ−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールを用いることが記載されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO 01/077717号公報
【特許文献2】特開2000−147201号公報
【特許文献3】特開2004−315556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された紫外線吸収剤では、400nmでの分光透過率を10%程度までしか低下させることができず、最高でも5%以上透過してしまう。プラスチックレンズの黄変を防ぐためには、400nmの分光透過率を0%にすることが望ましい。
また、分光透過率を低下させるために紫外線吸収剤を多量に添加した場合には、分光透過率の低下とともに紫外線吸収剤が組成物中に析出してしまう。
【0006】
上述した問題の解決のため、本発明においては、400nmの分光透過率を0%にすることが可能であり、耐候性に優れたプラスチックレンズを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチックレンズは、エピスルフィド樹脂と、硫黄原子と、下記一般式(1)で表される紫外線吸収剤とを含む組成物から形成される。この組成物は、硫黄原子が組成物全量に対して5〜30質量%、紫外線吸収剤が0.5〜5質量%含まれていることを特徴とする。
【0008】
【化3】

【0009】
(但し、式中Rは、炭素数1〜2のアルキル基を示す。)
【0010】
また、本発明のプラスチックレンズの製造方法は、エピスルフィド樹脂と、組成物全量に対して5〜30質量%の硫黄原子と、組成物全量に対して0.5〜5質量%の下記一般式で表される紫外線吸収剤とを混合して組成物を作製し、前記組成物を重合することを特徴とする。
【0011】
【化4】

【0012】
(但し、式中Rは、炭素数1〜2のアルキル基を示す。)
【0013】
本発明のプラスチックレンズによれば、エピスルフィド化合物に硫黄原子を組成物全量に対して5〜30質量%配合することにより、高屈折率のプラスチックレンズを提供することができ、さらに、上述の紫外線吸収剤を0.5〜5質量%含むことにより、400nmでの分光透過率を0%とすることが可能である。このため、プラスチックレンズの紫外線による黄変を防ぐことが可能となる。
また、本発明のプラスチックレンズの製造方法によれば、上述の本発明のプラスチックレンズを製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上述の紫外線吸収剤を用いることにより、400nmでの分光透過率を0%にすることが可能であり、耐候性に優れたプラスチックレンズを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明のプラスチックレンズは、エピスルフィド化合物に硫黄原子と紫外線吸収剤を混合して作製したプラスチックレンズ組成物から形成される。
【0016】
作製したプラスチックレンズ組成物を、炉内温度15〜30℃において、真空下又は大気下で重合を開始させる。さらに、炉内温度を例えば60°程度に加熱しエピスルフィド化合物に硫黄原子の一部を溶解しながら、エピスルフィド化合物を重合させる。
また、エピスルフィド化合物の重合の際に、プラスチックレンズ組成物に加硫化触媒を添加してもよい。加硫化触媒を添加することにより、エピスルフィド化合物と硫黄原子とを反応させ、硫黄原子を構造内に取り込んだエピスルフィド樹脂を形成することができる。硫黄原子の溶解度以上にプラスチックレンズに硫黄原子を加えることができる。
【0017】
上述のエピスルフィド樹脂を形成するためのエピスルフィド化合物としては、エピチオ構造を少なくとも1つ以上有するものを用いることができる。
上述のエピチオ化合物としては、例えば、ビスエピチオエチルスルフィド、ビスエピチオエチルジスルフィド、ビスエピチオエチルチオメタン、ビスエピチオエチルジチオメタン、1,1−ビスエピチオエチルチオエタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオエタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオエタン、1,2−ビスエピチオエチルチオエタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオエタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオエタン、1,1−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,1−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオプロパン、1−エピチオエチルチオ−2−エピチオエチルジチオプロパン、1,3−ビスエピチオエチルチオプロパン、1,3−ビスエピチオエチルジチオプロパン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオプロパン、2,2−ビスエピチオエチルチオプロパン、2,2−ビスエピチオエチルジチオプロパン、2−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオプロパン、1,2−ビスエピチオエチルチオブタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオブタン、1−エピチオエチルチオ−2−エピチオエチルジチオブタン、1,3−ビスエピチオエチルチオブタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオブタン、1−エピチオエチルチオ−3−エピチオエチルジチオブタン、1,4−ビスエピチオエチルチオブタン、1,4−ビスエピチオエチルジチオブタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオブタン、1,1−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオヘプタン、1,2−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオヘプタン、1,4−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,4−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオヘプタン、1,5−ビスエピチオエチルチオヘプタン、1,5−ビスエピチオエチルジチオヘプタン、1−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオヘプタン、1,3−ビス(エピチオエチルチオ)−2−チアプロパン、1,3−ビス(エピチオエチルジチオ)−2−チアプロパン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオ−2−チアプロパン、1,4−ビス(エピチオエチルチオ)−2−チアブタン、1,4−ビス(エピチオエチルジチオ)−2−チアブタン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオ−2−チアブタン、1,5−ビス(エピチオエチルチオ)−3−チアペンタン、1,5−ビス(エピチオエチルジチオ)−3−チアペンタン、1−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオ−3−チアペンタン、1,1−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,1−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,2−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,2−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,3−ビスエピチオエチルチオシクロペンタン、1,3−ビスエピチオエチルジチオシクロペンタン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオシクロペンタン、1,1−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,1−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−1−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,3−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,3−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,4−ビスエピチオエチルチオシクロヘキサン、1,4−ビスエピチオエチルジチオシクロヘキサン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオシクロヘキサン、1,2−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,2−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−2−エピチオエチルチオベンゼン、1,3−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,3−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオベンゼン、1,4−ビスエピチオエチルチオベンゼン、1,4−ビスエピチオエチルジチオベンゼン、1−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオベンゼン、1,2−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,2−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−2−エピチオエチルチオメチルベンゼン、1,3−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,3−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−3−エピチオエチルチオメチルベンゼン、1,4−ビス(エピチオエチルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(エピチオエチルジチオメチル)ベンゼン、1−エピチオエチルジチオメチル−4−エピチオエチルチオメチルベンゼン、4,5−ビスエピチオエチルチオ−1,3−ジチオラン、4,5−ビスエピチオエチルジチオ−1,3−ジチオラン、4−エピチオエチルジチア−5−エピチオエチルチア−1,3−ジチオラン、2,3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,3−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ジチアン、2−エピチオエチルジチオ−3−エピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,5−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、2,5−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ジチアン、2−エピチオエチルジチオ−5−エピチオエチルチオ−1,4−ジチアン、3,4−ビスエピチオエチルチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、3,4−ビスエピチオエチルジチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、3−エピチオエチルジチオ−4−エピチオエチルチオ−ビシクロ[4.3.0]−2,5,7,9−テトラチアノナン、2,3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ベンゾジチアン、2,3−ビスエピチオエチルジチオ−1,4−ベンゾジチアン、2−エピチオエチルジチオ−3−ビスエピチオエチルチオ−1,4−ベンゾジチアン等が挙げられる。これらの化合物は、シス−,トランス−異性体を有する場合がある。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、上述のエピスルフィド化合物に加えて、例えば、エポキシ化合物、ポリチオール化合物から選ばれる一種又は二種以上の化合物を重合させることで、屈折率、アッベ数、耐熱性、耐候性、透明性等を更に向上することができる。
【0019】
エポキシ化合物の例としては、例えば、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールスルフォン、ビスフェノールエーテル、ビスフェノールスルフィド、ビスフェノールスルフィド、ハロゲン化ビスフェノールA、ノボラック樹脂等の多価フェノール化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるフェノール系エポキシ化合物;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトール、1,3−及び1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−及び1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加物、ビスフェノールA・プロピレンオキサイド付加物等の多価アルコール化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるアルコール系エポキシ化合物;
アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘット酸、ナジック酸、マレイン酸、コハク酸、フマール酸、トリメリット酸、ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の多価カルボン酸化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるグリシジルエステル系エポキシ化合物;
エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、ビス−(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス−(3−アミノプロポキシ)エタン、1,3−ビス−(3−アミノプロポキシ)−2,2'−ジメチルプロパン、1,2−、1,3−又は1,4−ビスアミノシクロヘキサン、1,3−又は1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,3−又は1,4−ビスアミノエチルシクロヘキサン、1,3−又は1,4−ビスアミノプロピルシクロヘキサン、水添4,4'−ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、1,4−ビスアミノプロピルピペラジン、m−又はp−フェニレンジアミン、2,4−又は2,6−トリレンジアミン、m−又はp−キシリレンジアミン、1,5−又は2,6−ナフタレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−(4,4'−ジアミノジフェニル)プロパン等の一級ジアミン、N,N'−ジメチルエチレンジアミン、N,N'−ジメチル−1,2−ジアミノプロパン、N,N'−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N'−ジメチル−1,2−ジアミノブタン、N,N'−ジメチル−1,3−ジアミノブタン、N,N'−ジメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N'−ジメチル−1,5−ジアミノペンタン、N,N'−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン、N,N'−ジメチル−1,7−ジアミノヘプタン、N,N'−ジエチルエチレンジアミン、N,N'−ジエチル−1,2−ジアミノプロパン、N,N'−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N'−ジエチル−1,2−ジアミノブタン、N,N'−ジエチル−1,3−ジアミノブタン、N,N'−ジエチル−1,4−ジアミノブタン、N,N'−ジエチル−1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−又は2,6−ジメチルピペラジン、ホモピペラジン、1,1−ジ−(4−ピペリジル)−メタン、1,2−ジ−(4−ピペリジル)−エタン、1,3−ジ−(4−ピペリジル)−プロパン、1,4−ジ−(4−ピペリジル)−ブタン等の第二級ジアミンとエピハロヒドリンの縮合により製造されるアミン系エポキシ化合物;
3,4−エポキシシクロヘキシル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキサンジオキサイド、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−5,5−スピロ−3,4−エポキシシクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ化合物;シクロペンタジエンエポキシド、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、ビニルシクロヘキセンエポキシド等の不飽和化合物のエポキシ化により製造されるエポキシ化合物;
上述の多価アルコール、フェノール化合物とジイソシアネート及びグリシドール等から製造されるウレタン系エポキシ化合物等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらエポキシ化合物は、上述のエピスルフィド化合物の総量に対して0.01〜50モル%使用することが好ましい。
【0020】
また、ポリチオール化合物の例としては、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、テトラキスメルカプトメチルメタン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、2,3−ジメルカプトプロパノール、ジメルカプトメタン、トリメルカプトメタン、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、2,5−ビス(メルカプトメチル)―1,4−ジチアン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3−ジメルカプトメチルベンゼン、1,4−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,2,3,4−テトラメルカプトブタン等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらポリチオール化合物は、上述のエピスルフィド化合物の総量に対して0.01〜50モル%使用することが好ましい。
【0021】
また、上述のプラスチックレンズ組成物には、硫黄原子が添加されている。
硫黄原子は、例えば、硫黄原子を有する無機化合物として添加することができる。硫黄原子は、プラスチックレンズ組成物全体に対して、5〜30質量%含むことが好ましい。
硫黄原子を有する無機化合物としては、例えば、硫黄、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸およびその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等があげられる。これらの中で特に好ましくは硫黄である。
【0022】
硫黄原子は、上述のエピスルフィド化合物を重合してエピスルフィド樹脂を形成するときに混合される。そして、エピスルフィド化合物と硫黄原子とを反応させることにより、硫黄原子を含むエピスルフィド樹脂が形成される。
また、エピスルフィド化合物と硫黄原子との反応には、加硫化触媒を加える。
加硫化触媒としては、例えば、2メルカプト−N−メチルイミダゾール、イミダゾール、N−メチルイミダゾール,2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、N−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、N−ブチルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、4−ブチルイミダゾール、N−フェニルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、N−ベンジルイミダゾール、2−ベンジルイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール等のイミダゾール系、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン等のグアニジン系を使用することができる。
【0023】
硫黄原子を添加することによりプラスチックレンズの屈折率を大きくすることができ、例えば屈折率1.74のプラスチックレンズを実現することができる。
添加量が所定の範囲を超えると硫黄原子の析出が発生する。硫黄原子の添加量が所定の範囲以下では、プラスチックレンズの屈折率が低くなり、例えば屈折率1.74を実現することができない。
【0024】
上述の紫外線吸収剤としては、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体からなる紫外線吸収剤を用いることができる。
【0025】
【化5】

【0026】
(但し、式中Rは、炭素数1〜2のアルキル基を示す。)
【0027】
上記構造を有するベンゾトリアゾール誘導体としては、2−(2’−ヒドロキシ−4’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0028】
上記式(1)で示されるベンゾトリアゾール誘導体は、紫外線吸収剤として従来知られている2−(4’−オクチルオキシ−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールに比べて分子量が小さい。このため、単位質量当たりの紫外線吸収剤のモル数を大きくすることができる。このため、従来の紫外線吸収剤と同じ質量でプラスチックレンズ組成物に配合した場合には、より高い効果を得ることができる。
【0029】
また、フェニル基の4位にアルキル基が結合することにより、例えば、紫外線吸収剤として従来知られている2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールのような3位又は5位に官能基が結合した構造に比べ、ベンゾトリアゾール及びアルキルオキシ基を軸にしてフェニル基の回転が起こりやすい。
フェニル基が回転することにより、2位に結合されたヒドロキシル基が2位と6位に存在するように擬似的な振る舞いをする。このため、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−4’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾールにより、2−(2’,6’−ジヒドロキシ−4’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾールと同じ作用を得ることができる。そして、2−(2’−ヒドロキシ−4’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾールは、2−(2’,6’−ジヒドロキシ−4’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾールよりも分子量が小さいため、単位質量当たりの紫外線吸収剤のモル数を大きくすることができる。このため、従来の紫外線吸収剤と同じ質量でプラスチックレンズ組成物に配合した場合には、より高い効果を得ることができる。
【0030】
上述のように、上記式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を含む紫外線吸収剤を組成物全量に対して0.5〜5質量%含むことにより、400nmの分光透過率を0%とすることが可能であり、また、405nmの分光透過率を5%以下とすることが可能である。
上記式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体を含む紫外線吸収剤が、組成物全量に対して0.5質量%未満では、紫外線吸収剤としての性能であるUVカット性能を充分に得ることができない。このため、耐候性に優れたプラスチックレンズを作製することが困難になる。
また、組成物全量に対して5質量%を超えると、紫外線吸収剤とプラスチックレンズ組成物とが相溶できず、紫外線吸収剤の析出や沈降といった現象が起こりやすくなる。紫外線吸収剤が析出や沈降している状態の組成物を用いて製造してしまうと、プラスチックレンズ自体に曇りが生じてしまう恐れがある。このため、優れた品質のプラスチックレンズを安定して製造することが困難になる。
なお、プラスチックレンズ組成物には、上記式(1)で表されるベンゾトリアゾール誘導体以外の紫外線吸収剤を、組成物全量に対して紫外線吸収剤の合計量が0.5〜5質量%の範囲内で加えることも可能である。
【0031】
また、本実施の形態のプラスチックレンズでは、プラスチックレンズの表面に、例えば、ハードコート層、反射防止層、及び、撥水層等を備えることが可能である。
【0032】
(ハードコート層)
ハードコート層は、例えば、有機ケイ素化合物と無機微粒子とから形成される。
ハードコート層では、干渉縞の発生を抑えるために、上述の本実施の形態のプラスチックレンズと同程度の屈折率を備えることが必要である。このため、プラスチックレンズに高屈折率の素材を用いた場合には、ハードコート層にも高屈折率の材料を用いることが要求される。
【0033】
ハードコート層において高屈折率を得るためには、高屈折率を有する無機微粒子が適宜選択して添加される。
ハードコート層を形成する無機微粒子としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、または、これらの複合体等が挙げられ、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズが好ましい。
【0034】
また、ハードコート層の屈折率を調整するために、無機微粒子表面を他の無機化合物よって改質及び結合させた複合無機微粒子を使用しても良い。例えば、溶媒に分散させた酸化チタン微粒子にテトラアルコキシシラン(例えば、テトラエトキシシラン)を添加し、所定の温度と時間で撹拌し、酸化チタン微粒子表面を酸化ケイ素によって改質及び酸化ケイ素微粒子を結合させることができる。また、屈折率は酸化チタン微粒子表面の酸化ケイ素による改質量及び酸化ケイ素微粒子の結合量で調整することができる。
【0035】
ハードコート層において、有機ケイ素化合物と無機微粒子との混合比は、ハードコート層の硬度や、屈折率により決定される。例えば、ハードコート層中の無機微粒子の配合量は、5〜80質量%であることが好ましい。
ハードコート層への無機微粒子の配合量が少ないと、ハードコート層の耐摩耗性が低下する。また、ハードコート層への無機微粒子の配合量が多いと、ハードコート層にクラックを生じることがある。
【0036】
ハードコート層を形成する有機ケイ素化合物は、ハードコート層において無機微粒子のバインダとして用いられる。この有機ケイ素化合物としては、例えば、各種アルコキシシランが挙げられる。好ましいアルコキシシランとして、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシランが挙げられる。有機ケイ素化合物は単体で、又は、二種以上を混合した状態で、用いられる。例えば、プラスチック基材との接着性が要求されるときには、アルコキシシランにエポキシ基(グリシドキシ基、グリシジル基を含む)を導入したものを含有させてもよい。
【0037】
また、上述のハードコート層は、有機ケイ素化合物及び無機微粒子の他に、必要に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤及び光安定剤等を、ハードコート層の物性に影響を与えない限度において添加することができる。
【0038】
また、ハードコート層の形成では、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、又は、フローコート法を用いて、上述のハードコート組成物の溶液を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、ハードコート被膜を形成することができる。
【0039】
なお、ハードコート層の層厚は、0.05〜30μmであることが好ましい。層厚が0.05μm未満では、プラスチックレンズ10,20の硬度や耐擦過性等が低下する。また、層厚が30μmを越えると表面の平滑性が損なわれる場合や、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0040】
(有機反射防止膜)
有機反射防止膜は、上述のハードコート層上に形成される。また、有機反射防止膜は、折率の異なる複数の層から形成される積層構造であり、ハードコート層の直上に形成される第1の有機反射防止層と、第1の有機反射防止膜上に形成される第2の有機反射防止膜とから構成される。
第1の有機反射防止及び第2の有機反射防止は、有機ケイ素化合物と、無機微粒子とから構成される。
【0041】
上述の有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤から形成される。
シランカップリング剤としては、トリアルコキシシランやテトラアルコキシシランが好ましい。シランカップリング剤は、単体で、又は、二種以上混合した状態で用いることができる。
【0042】
トリアルコキシシランは、例えば、炭素数1〜8のアルコキシ基を有し、より好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基を有する。
また、トリアルコキシシランにおいてケイ素原子に結合するアルコキシ基以外の基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等炭素数6〜10のアリール基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基等の炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等を用いることができる。また、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、グリシドキシ基、アミノ基である。
また、これらの炭化水素基には官能基が導入されていてもよい。導入される官能基としては、例えば、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等が好ましい。
【0043】
上述のトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(2,3−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、好ましくはメチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、であり、特に好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランである。
【0044】
(無機微粒子)
また、第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜の屈折率を調整するために、微粒子状の無機微粒子が添加される。無機微粒子の成分は所望の屈折率が安定して得られる透明の材質であれば特に限定されない。具体的には、酸化物や窒化物やハロゲン化物等が挙げられる。
第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜に使用する無機微粒子としては、上述のハードコート層に用いられる無機微粒子と同じものが使用でき、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化タングステン、フッ化マグネシウム、又は、これらの複合体等が使用できる。また、特に、屈折率、透明性、分散安定性等から、低屈折率の層を形成するには、酸化ケイ素を主体とする微粒子が好ましく、高屈折率の層を形成するには、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズを主体とする無機酸化微粒子が好ましい。
なお、第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜の屈折率の調整は、微粒子の形状を工夫することで行うことができる。例えば、微粒子を中空状にすることで、膜全体の屈折率を低下させることができる。
第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜に添加される無機微粒子の粒径としては、通常20〜200nmであり、20〜60nmが好ましい。
【0045】
また、第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜の屈折率を調整するため、上述のハードコート層と同様に、無機微粒子表面を他の金属酸化物及びその微粒子によって改質及び結合させた複合微粒子状金属酸化物を使用しても良い。
例えば、酸化チタン微粒子表面を、酸化ケイ素によって改質、及び、酸化ケイ素微粒子を結合させたものが挙げられる。
【0046】
有機反射防止膜は、屈折率の異なる第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜が積層されることにより多層反射防止膜を構成する。
多層反射防止膜では、最外層が低屈折率層となるように高屈折率層と低屈折率層を交互に積層させればよい。各層の具体的な層厚は、レンズ基板の屈折率、及び、反射防止膜とハードコート層の屈折率により適宜調製される。例えば、nλ/4ごとの光学膜厚を微調整することで各層の膜厚を制御して、膜の構成を決定することができる。なお、上記nは整数である。また、λは波長であり、例えば、500〜550nmである。
【0047】
また、2層構造の有機反射防止膜において、反射防止膜は、基板側から高屈折率層)、低屈折率層で構成することができる。このとき、高屈折率層及び低屈折率層の屈折率は、特に限定されない。
また、低反射率を付与する観点から、低屈折率層と高屈折率層との屈折率の差が、例えば、0.15〜0.4の範囲であることが好ましい。さらに、0.2〜0.4の範囲が好ましく、特に0.22〜0.38の範囲であることが好ましい。
各層の好ましい屈折率の範囲は、低屈折率層の屈折率が1.30〜1.55、より好ましくは、1.40〜1.50である。また、高屈折率層の屈折率が1.48〜1.88、より好ましくは、1.60〜1.85である。
高屈折率層及び低屈折率層は、上述の材料を適宜選択することにより形成することができる。
【0048】
また、2層構造の有機反射防止膜では、高屈折率層における無機微粒子の含有量は、有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し400〜900質量部であることが好ましく、450〜650質量部であることがより好ましい。400質量部以下になると、有機ケイ素化合物の成分が過多になり、有機反射防止膜としての膜質が柔らかくなり、耐摩耗性が得られにくくなる。また、900質量部以上であると、無機微粒子が過多になり、有機反射防止膜の膜質が脆くなる。
【0049】
また、低屈折率層における無機微粒子の含有量は、有機ケイ素化合物の合計100質量部に対し100〜400質量部であることが好ましく、150〜230質量部であることがより好ましい。第2の反射防止層における無機微粒子の含有量が100質量部以下になると、有機ケイ素化合物の成分が過多になり、有機反射防止膜としての膜質が柔らかくなり、耐摩耗性が得られにくくなる。また、400質量部以上であると、無機微粒子が過多になり、有機反射防止膜の膜質が脆くなる。
このように、第1の有機反射防止膜及び第2の有機反射防止膜における無機微粒子の含有量が、上記の範囲を外れると、硬い膜質の有機反射防止膜を得難くなる。
【0050】
(撥水層)
また、本実施の形態のプラスチックレンズの表面には、フッ素含有アルコキシシラン化合物を含有する溶液を用いた、撥水層を形成することができる。
【0051】
(プライマー層)
また、本実施の形態のプラスチックレンズでは、必要に応じてプライマー層が形成される。プライマー層は、上述のプラスチック基材の表面と、上述のハードコート層の双方の界面に形成される。そして、プラスチック基材とハードコート層双方への密着性を向上させることができる。また、プライマー層を形成することにより、プラスチック基材の表面処理膜の耐久性を向上させることができる。さらに、プライマー層が外部からの衝撃吸収層として作用し、プラスチックレンズの耐衝撃性を向上させることができる。
プライマー層を構成する材料は特に限定されず、レンズ基板の材質や、ハードコート層の材質により適宜選択することができる。
例えば、プライマー層を構成する材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、又は、ポリウレタンアクリレート樹脂を用いることができる。好ましいプライマーの材料としては、成膜時にポリエステルポリオールとポリエーテルポリオールとイソシアネートを反応重合させたポリウレタン樹脂が挙げられる。また、基板やハードコートとの屈折率差をなくすために、プライマー層は、上記ポリマー成分中に、金属酸化物等の無機微粒子を分散させた構成とすることができる。
【0052】
(実施例)
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例において得られたプラスチックレンズの物性評価は以下の方法により行った。
(1)光透過率:日立製作所社製、分光光度計U−3410を使用し、350nm〜450nm波長領域において5nm刻みで分光透過率を測定した。
(2)CIELAB b*値:村上色彩技術研究所製、装置名DOT−3を用いて、キセノンランプによるサンシャインウェザーメーターにて48時間光照射した後、b*値を算出した。基準としては0.5以上を不良と判定した。
(3)プラスチックレンズ組成物の外観を目視にて確認した。相溶物が完全に溶けきっているものの評価を○とし、プラスチックレンズ組成物に濁り、沈降、又は、浮遊物が確認できたものを×とした。
【0053】
(実施例1)
まず、プラスチックレンズ組成物を作製した。
プラスチックレンズ組成物は、(エピスルフィド化合物の種類)79.924質量部に、紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールを1.75質量部、硫黄を14.00質量部混合して作製した。
そして、プラスチックレンズ組成物を20〜25℃に加熱してエピスルフィド化合物の重合を開始させた。さらに、組成物を加熱して60℃程度一定に保持し、加硫化触媒としてイミダゾール系触媒を0.46質量部添加した。組成物の屈折率が1.6620になった時点で組成物を20℃まで冷却して重合を停止させた。
その後ポリチオールモノマー(ジメルカプトエチルスルフィド)6.08質量部、臭化燐系重合触媒0.02質量部、離型剤0.001質量部を配合し、撹拌、脱気を行い樹脂を得た。
以上の方法により、屈折率1.74、中心厚1mmのS−0.00の実施例1のプラスチックレンズを作製した。
【0054】
(実施例2)
プラスチック組成物に紫外線吸収剤として配合する2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールの配合量を0.75質量部(組成物全量に対して0.75質量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により実施例2のプラスチックレンズを作製した。
【0055】
(実施例3)
プラスチック組成物に紫外線吸収剤として配合する2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールの配合量を4.5質量部(組成物全量に対して4.5質量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により実施例3のプラスチックレンズを作製した。
【0056】
(比較例1)
プラスチック組成物に紫外線吸収剤として配合する2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールの配合量を0.1質量部(組成物全量に対して0.1質量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により比較例1のプラスチックレンズを作製した。
【0057】
(比較例2)
プラスチック組成物に紫外線吸収剤として配合する2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾールの配合量を7.0質量部《組成物全量に対して7.0質量%》とした以外は、実施例1と同様の方法により比較例3のプラスチックレンズを作製した。
【0058】
(比較例3)
プラスチックレンズ組成物に加える紫外線吸収剤を2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾールとした以外は、実施例1と同様の方法により比較例3のプラスチックレンズを作製した。
【0059】
(比較例4)
プラスチックレンズ組成物に加える紫外線吸収剤を2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールとした以外は、実施例1と同様の方法により比較例4のプラスチックレンズを作製した。
【0060】
以上の方法により作製した実施例及び比較例のプラスチックレンズに上述の(1)〜(2)の物性評価を行った結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す結果から、実施例1〜3で作製したプラスチックレンズでは、400nmの分光透過率が0%であり、405nmの分光透過率が5%以下であった。特に、配合量を0.45質量%とした実施例3では、405nmの分光透過率が0.5%と、実施例中で一番良い結果が得られた。このことから、プラスチックレンズに配合される紫外線吸収剤の量が大きいほど、400nm、405nmでの分光透過率が小さくなる。このため、紫外線吸収能力が高く、耐候性に優れたプラスチックレンズを作製することができる。
【0063】
配合量を0.1質量%以下とした比較例1のプラスチックレンズでは、紫外線吸収剤の配合量が小さすぎるため、400nmの分光透過率が0.5%となり、405nmの分光透過率が12%となった。この結果から、プラスチックレンズに配合される紫外線吸収剤の量が少ない場合には、400nm、405nmでの分光透過率が大きくなり、耐候性に優れたプラスチックレンズを作製することが困難になる。
【0064】
比較例3では、紫外線吸収剤として2−(4’−オクチルオキシ−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールを使用したため、実施例で使用した紫外線吸収剤に比べて「質量当たり官能基の数が少なく、400nm、405nmの分光透過率が高くなったと考えられる。
また、比較例4では、紫外線吸収剤として用いた2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールは、メチル基がフェニル基の5位に結合している。これに対し、実施例で使用した紫外線吸収剤は、フェニル基の4位にエトキシ基が結合しているため、このアルキルオキシ基とベンゾトリアゾールを軸にフェニル基の回転が起こりやすい。
この結果、比較例4で使用した紫外線吸収剤では、フェニル基の回転により2位に結合されたヒドロキシル基が2位と6位に存在するように擬似的に振る舞う実施例の紫外線吸収剤よりも400nm、405nmの分光透過率が高くなったと考えられる。
従って、実施例とは異なる紫外線吸収剤を使用した比較例3及び比較例4のプラスチックレンズでは、00nm、405nmでの分光透過率が大きくなり、耐候性に優れたプラスチックレンズを作製することが困難になる。
【0065】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピスルフィド樹脂と、硫黄原子と、下記一般式で表される紫外線吸収剤とを含む組成物から形成されるプラスチックレンズであって、
前記組成物全量に対して、前記硫黄原子を5〜30質量%、前記紫外線吸収剤を0.5〜5質量%含む
ことを特徴とするプラスチックレンズ。
【化1】


(但し、式中Rは、炭素数1〜2のアルキル基を示す。)
【請求項2】
エピスルフィド樹脂と、組成物全量に対して5〜30質量%の硫黄原子と、組成物全量に対して0.5〜5質量%の下記一般式で表される紫外線吸収剤とを混合して組成物を作製し、前記組成物を重合することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【化2】

【請求項3】
前記組成物を15〜30℃の範囲で重合を開始することを特徴とする請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法。

【公開番号】特開2010−84006(P2010−84006A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254423(P2008−254423)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】