説明

プラスチック製光終端器

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、広くは光通信装置に関し、より具体的には、光ファイバのための終端器に関する。
【0002】
【従来の技術】光ファイバ通信ネットワークは、しばしば分岐要素を有する。その一例としては、一つの入力とN個の出力とを持つ1×N分割器がある。それらの出力の多くは、動作せず、将来のネットワーク拡張を待っている状態の場合もある。動作しないファイバの端部で光の反射が起こり、それが分岐デバイスを通じて伝播し、動作中のファイバを通じて流れている信号にひずみを与える。光終端器(光ターミネータ,optical terminator)は、そのような動作していない光通路の終端で反射を低く抑えるための要素である。
【0003】問題の光通路が、傾斜角をもって磨かれたコネクタの内部でテーパ状になっているとすると、予想される反射は−60dB未満であり、これは十分に小さいので、さらに反射を減らすための手段は不要である。終端部が、ファイバを切断したもの、すなわち空気に向かって平らに磨いたコネクタである場合は、反射は約−15dBになる。したがって、たとえば図1に示す1×2分割器について、非動作ファイバ302では、入力信号のパワーレベルよりも18dB低い信号が戻される。
【0004】最も一般的な溶融円錐台テーパ(fused-biconic taper)構造の分割器では、反射された信号が分割器の中を通過するときに、さらに3dBの降下がある。したがって、種々の不完全さに基づく損失を無視しても、上流側通路における反射信号は、入力信号のパワーに比べてー21dBになる。このレベルは、多くの単一モード応用において許容できないほど高いので、終端部に終端器が取り付けられる。その終端器の反射は通常、―40dB未満と規定される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】光ファイバネットワークの中で、動作中の分岐で信号を乱す反射を最小限に抑えるように、不完全な分岐をテーパ状にするのが望ましい場合が多い。不完全な分岐が、アダプタ(結合器)に結合された単一ファイバコネクタ内で自然に終端する場合、反射を抑制するためにコネクタタイプの終端器が使用され、その終端器は、アダプタの空いた端部に単純に差し込まれる。フェルールの中に磨かれた光ファイバが埋め込まれるので、そのような機器は通常、高価である。
【0006】米国特許第5,263,103号は光ファイバ終端器を開示する。この終端器は、一定長さのコアなしでガイドなし(ドープなしまたはドープありの)シリカファイバを有し、そのシリカファイバは、終端されるファイバとほぼ等しい直径(たとえば125μm)を持つ。反射の量は、終端器の長さと成分によって変わり、また、その光ファイバ終端器に施された非反射コーティングの使用によって変わる。
【0007】それから、その光ファイバ終端器は、融合スプライシングまたは屈折率を合致させたエポキシによって、動作中のファイバに取り付けられる。残念ながら、そのような小さな部品を取り扱うのは厄介であり、しかも、従来の融合スプライサでは、通常、ファイバ端部が比較的平坦であることを必要とするので、この小さな部品に対して、さらに、取付け前の追加の処理を施さなければならない。さらに、多くの応用機器において、終端とすべき光ファイバはすでに標準的光コネクタ内に設置済みであり、その光ファイバ自体にアクセスするだけのためにコネクタを開けることは好ましくない。
【0008】前記の困難は、他の種類の公知の終端器で解決できる。それは、一定長さのファイバを円筒状のフェルール内に保持するものである。円筒状フェルールは、終端すべき光ファイバに対向する端面を有する。上記一定長さのファイバの一端はその端面で終端する。それは、フェルールの中心軸に垂直(たとえば90度)に切断され、研磨される。上記一定長さのファイバのもう一端は、中心軸に対してある角度(たとえば80度)に切断される。そのような終端器は良い結果をもたらすが、その製造コストが高すぎる。
【0009】光終端器は長期間、光ファイバに押し付けられることがあるので、終端器の端面は変形に耐えるものであることが望ましい。結局、端面が変形すると、同じ光ファイバに対して同じ向きに取り付けない限り、再使用はできない。そうしないと、ファイバと終端器との間に空気の間隙ができてしまう。これは、終端器がプラスチックなどの非常に硬い材料から作られる場合には通常、問題にならない。終端器と光ファイバの間の接触圧力は約1Kgfでしかないからである。
【0010】しかし、光終端器をより安価に作ろうとすると、圧力の影響を受けにくいプラスチック材料を開発する必要がある。プラスチック材料は、加えられた圧力、時間、および温度の関数として変形し、その変形のしやすさは、その材料の係数(硬さ)に関係する。その係数が急激に低下しはじめる温度は、ガラス転移温度(Tg)として知られている。したがって、ガラス転移温度が高いほど、その材料は変形しにくいことになる。
【0011】プラスチック材料からなる光終端器は、米国特許出願第08/581,077号(出願日1995年12月29日)に開示されている。この終端器で反射されるパワーは、入射光信号のパワーレベルよりも少なくとも50dB低い。終端器はいくつかの部品からなるが、そのうちの一つは円筒状のフェルールである。フェルールは、高分子材料、好ましくはメチルペンタン共重合体であるが、これは比較的高価であり、しかも圧力に対してきわめて変形しやすい。それはガラス転移温度が約25℃でしかないことからもわかる。この光終端器自体は優れた特性を有するが、取り外した場合は廃棄しなければならないかもしれない。
【0012】多くの適用分野で、そのような高い性能は必要としないが、再使用可能な光終端器が所望されていると判断される。実際に、約―34dB未満の反射であれば十分と考えられる。したがって、ここで求められるのは、従来知られた光終端器よりも安価で、従来知られたプラスチック製光終端器よりも圧力に対して変形しにくい光終端器である。
【0013】
【課題を解決するための手段】光終端器は、光ファイバと端部同士で接触するように適用される。光終端器は、バックボーン部から突出する概略円柱状の部分を有する。概略円柱状の部分およびバックボーン部はプラスチック材料から一体構造物として鋳造されるものであり、そのプラスチック材料は、終端される光ファイバの屈折率にほぼ等しい屈折率を有する。プラスチック材料のガラス転移温度Tgは約80℃よりも高く、それにより、圧力による変形の程度が、プラスチック材料からなる公知の光終端器の変形の程度よりも小さくなる。
【0014】この発明の実施の形態において、光終端器は、終端される光ファイバとの機械的な接続をする構造の内部に配置される。光終端器の屈折率はn=1.46±0.06であり、光終端器は、たとえばポリメチル・メタクリレート(PMMA)などのアクリル高分子材料から製造される。この材料は、安価で、多数の業者から容易に入手できる。
【0015】この発明の一つの実施の形態においては、光終端器は、圧縮ばね部を含むコネクタハウジング内に配置されている。圧縮ばね部は、光終端器を、終端される光ファイバに押し付けるためのものである。この発明の他の実施形態では、光終端器およびコネクタハウジングは、同じプラスチック材料から一体構造物として鋳造される。
【0016】どの実施の形態においても、光終端器は、光ファイバが空気と接するときに発生する反射を低減することができる。たとえば、PMMAから作られた終端器は約―40dBの反射を生じ、これは多くの場合、許容できるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】まず、従来技術の説明で述べた内容を図1に基づいてさらに説明する。具体的には、送光器150は、光波信号を生成し、あらかじめ決められた距離の光ファイバ301へ伝送する。パワー分割器160は、ファイバ301に提供された入力信号を、光ファイバ302、304へと接続された二つの出力チャネルに分配する。図示のように、光ファイバ304は受光器170で終端する。説明の都合上、この終端は完全なもの(すなわち、受光器に入った光信号のうちでパワー分割器160へと反射して戻る分はまったくない)とする。しかし、光ファイバ302が適当に終端されていなければ反射が存在する。
【0018】大容量光ファイバシステムにおいて信号の反射は重大な問題を提起する。なぜなら、単一モードレーザの適当な運用に伴って、反射されたパワーが干渉を起こす可能性があるからである。そして、反射は、次の式で与えられるように、材料の屈折率と、境界面の屈折率の差との関数である。
反射 = - 10 log [(no - ni)2/(no + ni)2]たとえば、ガラス・空気境界面(空気についてno≒1.0、ガラスについてnI≒1.46)では、反射は14.6dBとなる。niがわずかにしか違わない二つの材料(たとえばnIが1.47対1.46)については、反射は−49.3dBになる。
【0019】この情報を図1に適用して、光ファイバ302をフェルール410内に保持する。フェルール410はセラミック製またはガラス製であり、その端面はよく磨かれている。終端コネクタ90などがない場合は、ガラス・空気境界が存在し、したがって、好ましくない反射が起きる。終端コネクタ90には円筒状のセラミック製フェルール910があって、このフェルール910は金属製のバックボーン(背骨)構造920によって支持されている。図示のように、光ファイバ303は、フェルール910の中心軸に沿って延びている。2本のファイバ302と303がよく接触するように、二つのフェルール410と910に軸方向の圧縮力を与えるために、ばね44が使用されている。
【0020】低反射終端は、ファイバ303を種々の方法でテーパ状にすることにより実現される。たとえば、ファイバは、中心軸に対して適当な角度(たとえば80度)で切断するか、単につぶすこともできる。他の方法として、低反射材料930をファイバ303の端部に取り付けることもできる(たとえば米国特許第5,079,643号参照)。こうした措置を取らないと、ファイバ303は損失が大きくなりうる。
【0021】本発明は、これらの比較的高価な技術を避けるものであって、図2に示すように終端器を構成する。具体的には、光終端器100は、フェルール部110とバックボーン部120とからなり、それらはプラスチック材料から一体的に鋳造(型成形)される。このプラスチック材料の屈折率は約1.46±0.06であり、ガラス転移温度Tgは80℃よりも高い。図2ではバックボーン部120を中実の円柱形として表しているが、どのような形でもよい。種々の好ましい形状が、図5R>5〜図8にさらに詳細に示してある。
【0022】図3と図4に、低反射の光ファイバ終端システムを示す。終端システムは、公知の光コネクタを使用するとよく説明できるので、光コネクタの設計を簡単に説明する。具体的には、ST光ガイドケーブルコネクタ40を説明する。ここに、「ST」はLucent Technologies社の米国登録商標である。STコネクタは、単に説明のために採用するものであって、本発明は、ファイバ終端システムで機械的に相互接続できる多種類のデバイスに利用できる。
【0023】光ファイバ302は、コアとクラッディングを含み、これらは少なくとも1層の保護のためのアクリレートコーティング材料に包囲されている。さらに、光ファイバは、緩衝層32として機能するポリ塩化ビニル(PVC)の層で包囲してもよい。さらにシースシステムが示されている。シースシステムは、たとえばアラミド繊維材料製の強度材料33と、PVC製の外側ジャケット35とからなる。これらの要素全体で一つの光ケーブル30を形成し、これは、優れた伝送特性と取り扱い性能を有するが、接続機器なしには他の光装置と接続することができない。その目的のために、光コネクタ40が必要となる。
【0024】光ファイバ302の端部はプラグ410内で終端する。このプラグはフェルールとも呼ばれる。プラグ410は、一般に円筒形であって、一端から他端へ貫通する軸方向の通路41(図2参照)を有し、ジルコニアなどのセラミック材料から作られる。プラグ410の外径は約2.5mmである。ただし、現在市販されている新しい世代の小型プラグでは外径が約1.25mmである。プラグ410の端面49には通路41の開口がある。
【0025】光ファイバ302を光コネクタ40に取り付けるには、光ファイバ302に前処理を施す必要がある。すなわち、光ファイバ302の端の部分から、アクリレートコーティングと、緩衝層32と、強度部材33と、外側ジャケット35は取り除く。それから、光ファイバの端の裸の部分が、プラグ410の通路41の内部に挿入されて固定され、光ファイバの端面は切断され、磨かれる。
【0026】コネクタ40はまた、フェルールを保持する金属構造(バックボーン)42と、圧縮ばね44と、プラスチックまたは金属材料からなるチューブ状のコネクタハウジング45とを有する。図からわかるように、プラグとバックボーンとコネクタハウジングはそれぞれ、円柱状の断面を有する。バックボーン42は、別部材からなって半径方向外向きに突出している方向決め(位置決め)キー43を有する。
【0027】バックボーン42は、コネクタハウジング45内に配置されたカラー48の開口を通って延びる小径部46を含む(図4参照)。保持座金19は、カラー48の外側で小径部46を囲む位置にある。ばね44は、バックボーン42の小径部46の周りで、カラー48と大径部51との間に配置されている。このような構造であるので、ばね44は、コネクタボディをコネクタハウジング45内に保持するように、ケーブルから外側方向にバックボーン42を付勢する。図示のように、コネクタハウジング45は、スロット57とそのスロットの端部でピンを保持する領域58とを有するラッチング構造を含む。スロット57とピン保持領域58は、コネクタ40を結合装置20などの結合デバイスに固定するために使用される。
【0028】コネクタ40を完成するために、図示のように、部材59があって、これは、コネクタハウジング45から光ケーブルに沿って円錐形状に延びている。コネクタ40のこの部材は、ケーブルが、他のケーブルと接続した後に、光ファイバに過大な応力がかからないという条件でコネクタのひずみを解放する機能を有し、使用中の繰り返しの曲げに耐えられることを保証するものである。
【0029】この光ファイバ終端システムは、さらに、ハウジング25と位置決めスリーブ23とを有する結合装置20を含む。この位置決めスリーブ23は長手方向のスロット21を有し、このスロット21は、わずかに直径の異なるフェルールを受け入れる。スリーブ23はハウジング25の内部に配置され、保持具24によって保持される。ハウジング25の両端それぞれに、直径方向の反対側に1対のピン27、27が配置されていて、各ピンは半径方向に延びている。これらのピンは1対のコネクタ10、40をしっかり接合するためのものである。
【0030】最後に、この光ファイバ終端システムは、その内部に配置された光終端器100を有する終端器コネクタ10を含んでいる。光終端器100は、プラグ410と同じ一般形状でかつ同じ寸法のフェルール部110を含むので、公知のコネクタ構造と公知の結合装置を用いて、簡単に端部同士の接触をさせることができる。図からわかるように、コネクタ10と40の形状は基本的に類似している。たとえば、両方のコネクタは同一形状のコネクタハウジング45を含む。
【0031】これらのコネクタハウジング45は、スロット57とそのスロットの端部のピン保持領域58とからなるラッチング構造を有する。コネクタ10、40が結合装置20に挿入されるとき、ラッチングピン27、27がスロット57、57に沿って動く。その動きの最後に、各ピン27は、スロット57のピン保持領域58内に捕らえられる。
【0032】図4に示すように、終端器100のバックボーン部120は、その一端に拡大領域123を含む。その直径は、コネクタ10内の内部フランジ48の直径よりもわずかに大きく(0.25mm)、このために、コネクタ40内で使用されているような保持座金19が不要である。
【0033】圧縮ばね44は、バックボーン120の外側を取り囲み、コネクタハウジング45に設けられた内部フランジ48に対して押し、そしてまたバックボーンに120に設けられたフランジ121に対して押して、フェルール110をフェルール410に押し付けてよく接触させる。コネクタ10と40の両方が圧縮ばねを有するが、接触を保証するのに必要な力を制限するためには一方のばねだけで十分である。したがって、終端コネクタ10は、ばねをなくしてさらに低コストで製造することも可能である。
【0034】図5は光終端器100をさらに詳細に示す。光終端器100はほぼ円柱形状の構造であって、長手方向の軸101を有する。軸101は、中央近くの端面115から、遠い方の端面124に延びている。これは、一体のものとして、プラスチック材料から成形されるものであって、バックボーン部120から突出するフェルール部を含む。このフェルール部は従来のフェルールと類似しているので、使用されないファイバを終端するために、このフェルール部を従来のコネクタ内に組み入れて、既存の機器とともに使用することができる。
【0035】従来のコネクタは、直径約2.5mmのフェルールを用いる。ただし、新しい世代の小型コネクタが出回るようになってきており、これは、直径約1.25mmのフェルールを用いる。この発明は、これらの直径のものとその他のものを両方とも考慮している。
【0036】既存の機器の中にフェルール部110を容易に挿入することができるようにするために、端面115は斜面116を含む。さらに、端面115は凸面であって、良く磨かれた(0.0001mm)ドーム形状であり、その半径Rは、30mm>R>5mmの範囲内であることが望ましい。ドーム形状は、端面115を光ファイバ302と確実に接触させるために使用する。光ファイバ302は、フェルール410の端面49上の中央に配置される(図3参照)。
【0037】上述のように、光終端器100のバックボーン部120がコネクタ10の内部フランジ48内へ容易に挿入されるように、その端面124は斜面124を有し、それによって、バックボーン部120はフランジ48に囲まれた開口に押し入れられることができる。さらに、端面124が開口を通して押された後にそれが捕獲されるように、バックボーン部120はその外側に小フランジ123を有する。終端器はプラスチック製であるから、そして、フランジ123は、バックボーン120のボディ122を越えてわずかな距離「d」だけ広がっているので、境界面の適合が可能である。dは好ましくは0.13mmに等しい。
【0038】図6は、本発明による終端コネクタ10の第1の実施の形態の展開斜視図である。コネクタ10は、光終端器100と、圧縮ばね44と、チューブ状コネクタハウジング45からなる。ばね44を光終端器のバックボーン部120上に配置した後に、終端器を、コネクタハウジング内の内部フランジ48に囲まれた開口の中に押し込む。ばね44は、光終端器100を図6の左方向に押す。それにより光ファイバとの端部同士の接触が実現される。ばねは、終端器と光ファイバの間の空気間隙を取り除く機能を有するだけでなく、光終端器の端面を変形させない接触力の大きさ(たとえば1Kgf)に制限する機能も有する。
【0039】他の方法として、終端コネクタ10がばねを持たないものもありうる。この場合は、光コネクタ40(図3参照)内のばね44が、光終端器100に向けてフェルール410を押す。さらに、光終端器のばねをなくすと、終端コネクタ10全体(すなわちコネクタハウジング45と終端器100)を一体のものとして鋳造できる。この場合は、ラッチング構造(すなわちスロット57とピン保持領域58)は、バックボーン部120の一部として一体のものになる。
【0040】図7は、本発明による終端コネクタ70の第2の実施の形態の斜視図である。この実施の形態は、米国特許出願第08/636,451号(出願日1996年4月23日)に示された光接続装置とともに使用するのに適している。終端コネクタ70は、バックボーン部720から突出する円柱部710を有する。バックボーン部720はラッチング構造750を含み、このラッチング構造750は、関係するレセプタクル(受け側)にコネクタ70を固定するために使用される。
【0041】ラッチング構造750は、固定端751と自由端752とを持つ片持ちレバーを有する。自由端752は、関係するレセプタクルの中に挿入されつつあるときに下方に変位する。そして、コネクタ70がレセプタクルの中に完全に挿入されたとき、自由端752はその復元力によって上方の固定位置まで戻る。ラッチング構造上の1対の肩部755、755は、コネクタ70をレセプタクル内に固定するために使用される。円柱部710は、たとえば外径約1.25mmで、長さ約7.0mmである。終端器70のフットプリント(断面の大きさ)は約4.6mm×4.6mmである。
【0042】図8は、図7の終端コネクタの端面図を示す。図からわかるように、コネクタ70は一体のものである。これは、プラスチック材料から鋳造(モールド)され、その材料のガラス転移温度Tgは80℃よりも高い。種々のプラスチック材料が使用できるが、ポリメチル・メタクリレート(polymethyl methacrylate)が、以下の理由により好ましい。
【0043】[材料の選択]本発明の実施にあたっては種々のプラスチック材料が使用可能であるが、次の特性を有するものが好ましい。
【0044】1.光ファイバ伝送に適合する波長(たとえば1200〜1600ナノメートル)の通常の入射光に対して、反射がー34dBを越えないような屈折率。目標は、終端器の屈折率を磨かれたファイバの端部の屈折率にほぼ合致させることにある。上記の反射の式によれば、対応する屈折率の範囲は、1.40<n<1.52
【0045】2.プラスチック材料は、光ファイバを擁する対向するフェルールにより、ばねで付勢された接触を通して約1Kgfの圧縮荷重を受ける。この圧縮力によるプラスチックの変形の結果、プラスチック終端器が変形する。この変形により、光コネクタをはずしたりはめたりした後に終端器の反射が増大し、その特性が劣化する。したがって、プラスチックのガラス転移温度は約80℃よりも高くあるべきである。
3.低いコストで製造でき、設計変更に柔軟に対応できるようにするために、射出鋳造できること。
【0046】これらの基準を満たす高分子材料は多くはない。高分子材料の多くは、ガラス転移温度(Tg)が80℃をはるかに下回っているアクリルか、または、光ファイバ伝送の近赤外線(IR)波長で不透明である(たとえばポリエチレンやポリプロピレン)。アクリルのガラス転移温度の低さは、ポリイミド(たとえばKamax(ELFAtochem社の商標))またはPVDF(Kynar(ELFAtochem社の商標))などの他の化合物を混合することにより改善できる。しかし、これらの混合により、許容できないほど屈折率が高くなる場合が多い。他の高分子混合物や共重合材料も使用可能である。
【0047】さらに、高分子材料のクリープが、使用中または使用後の熱的または機械的処理を通じて良い影響を与えることもありうる。たとえば、処理前に、高分子材料が1時間あたり5ミクロンのクリープを生ずる場合に、ガラス転移温度よりも10〜20℃低い温度に1時間さらすことにより、クリープ速度がたとえば10時間あたり5ミクロンに低下することがある。これについての議論は、Shiro Matsuoka編「Relaxation Phenomena in Polymers,(c)1992,Hanser Publishers」の中、特に第3章「The Glassy State」に開示されている。
【0048】ガラス転移温度の測定は、差分走査熱量測定法(DSC)または処理後の直接的クリープ測定によって実施できる。これについては、たとえば、Edith A.Turi編「Thermal Characterization of Polymeric Materials, Second edition Vol.1」に開示されている。
【0049】市販されているプラスチック材料で上記要件をすべて満たすものは、ポリメチル・メタクリレート(PMMA)である。これは多数の商標で製造販売されており、たとえば、AtoHaas North America社のPlexiglas(商標)とICI Acrylics社のLucite(商標)とがこれに含まれる。PMMAは、メチル・メタクリレートから誘導される加熱可塑性の高分子化合物であって、優れた光学特性を有する。PMMAのガラス転移温度Tgは約109℃であって、プラスチック材料としては、優れた耐クリープ性を持つ。PMMAの屈折率は約1.49であって、反射は―40dBとなり、ほとんどの応用分野に適している。
【0050】この光終端器にはPMMA以外の高分子材料の使用も可能であり、また、この光終端器を、コネクタとして知られているもの以外の機器に組み込むことも可能である。さらに、光終端器の屈折率を、ガラスでなくてプラスチックのファイバの屈折率に合致させるように選択することも可能である。
【0051】
【発明の効果】本発明によれば、反射の少ない、安価で、圧力に対して変形しにくい光終端器が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】光ファイバが従来知られた終端コネクタで終端する光波システムを示す図。
【図2】本発明による光終端器で終端する光ファイバを示す図。
【図3】光終端器システムの展開斜視図。
【図4】図3の光ファイバ終端器システムの立面図であって、相互に接続された状態を部分断面で示す図。
【図5】本発明による光終端器の断面図。
【図6】本発明による終端コネクタの第1の実施の形態の展開斜視図。
【図7】本発明による終端コネクタの第2の実施の形態の展開斜視図。
【図8】図7の光ファイバ終端コネクタの断面図。
【符号の説明】
10 コネクタ
19 保持座金
20 結合装置
21 スロット
23 位置決めスリーブ
24 保持具
25 ハウジング
27 ピン
32 緩衝層
33 強度部材
35 外側ジャケット
40 コネクタ
41 通路
42 金属構造(バックボーン)
43 方向決め(位置決め)キー
44 圧縮ばね
45 コネクタハウジング
46 小径部
48 カラー、内部フランジ
51 大径部
57 スロット
58 ピン保持領域
59 部材
70 終端器
90 終端コネクタ
100 光終端器
101 軸
110 フェルール部
115 端面
116 斜面
120 バックボーン部
121 フランジ
122 ボディ
123 拡大領域、小フランジ
124 端面
125 斜面
150 送光器
160 パワー分割器
170 受光器
301 光ファイバ
302 光ファイバ
303 光ファイバ
304 光ファイバ
410 フェルール(プラグ)
710 円柱部
720 バックボーン部
750 ラッチング構造
751 固定端
752 自由端
755 肩部
910 フェルール
920 バックボーン構造
930 低反射材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光ファイバコネクタ(40)に係合されるバックボーン部(120、720)と、前記光ファイバコネクタ(40)に終端される光ファイバ(302)に対向する円柱状部分(110、710)とを有する光ファイバ(302)を終端させる装置(10、70)において、前記バックボーン部と円柱状部分とは、共通の中心軸を有し、前記円柱状部分およびバックボーン部は、プラスチック材料から一体構造物として鋳造され、前記プラスチック材料は、終端される前記光ファイバ材料の屈折率にほぼ等しい屈折率を有し、前記プラスチック材料のガラス転移温度は、約80℃よりも高いこと、を特徴とする光ファイバを終端させる装置。
【請求項2】 請求項1の装置(10、70)において、前記プラスチック材料の屈折率は、波長領域1200〜1600ナノメートルの領域で1.46±0.06であること、を特徴とする装置。
【請求項3】 請求項1の装置(10、70)において、前記円柱状の部分(110、710)は、終端される前記光ファイバ(302)と境界を接する端面を有し、その端面が凸面であること、を特徴とする装置。
【請求項4】 請求項3の装置(10、70)において、前記端面の凸面の半径Rは約50ミリメートル未満であること、を特徴とする装置。
【請求項5】 請求項1の装置(10、70)において、前記円柱状の部分(110、710)およびバックボーン部(120、720)は射出鋳造により成形するものであること、を特徴とする装置。
【請求項6】 請求項1の装置(10、70)において、前記プラスチック材料はポリメチル・メタクリレートを有するものであること、を特徴とする装置。
【請求項7】 請求項1の装置(10)において、前記バックボーン部(120)を包囲してそのバックボーン部を保持するコネクタハウジング(45)をさらに有し、そのコネクタハウジングは、レセプタクルに取り付けるためのラッチング構造(57、58)を有するものであること、を特徴とする装置。
【請求項8】 請求項7の装置(10)において、前記バックボーン部(120)を包囲してそのバックボーン部を前記コネクタハウジング内の開口部に向けて押す圧縮ばね(44)をさらに有すること、を特徴とする装置。
【請求項9】 請求項1の装置(70)において、前記バックボーン部(720)は、前記装置をレセプタクルに固定するためのラッチング構造(750)を含み、それによって終端コネクタが形成されるものであること、を特徴とする装置。

【図2】
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【図8】
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【図1】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3273012号(P3273012)
【登録日】平成14年1月25日(2002.1.25)
【発行日】平成14年4月8日(2002.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−50646
【出願日】平成10年3月3日(1998.3.3)
【公開番号】特開平10−282349
【公開日】平成10年10月23日(1998.10.23)
【審査請求日】平成11年7月8日(1999.7.8)
【出願人】(596077259)ルーセント テクノロジーズ インコーポレイテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】Lucent Technologies Inc.
【住所又は居所原語表記】600 Mountain Avenue,Murray Hill, New Jersey 07974−0636U.S.A.
【参考文献】
【文献】特開 平7−225325(JP,A)
【文献】特開 平5−127039(JP,A)
【文献】特開 昭63−30803(JP,A)
【文献】米国特許5058983(US,A)