説明

プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】前面板の誘電体層でのクラックが効果的に防止または軽減されたPDPを提供すること。
【解決手段】基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るPDPであって、前面板の誘電体層Aがシロキサン骨格(またはシロキサン結合)を含んだガラス材料を含んで成り、隔壁が下層部と上層部とから成る2層構造となっており、下層部が誘電体層B上に設けられ、上層部が下層部の上に設けられたPDP。かかるPDPでは、隔壁上層部の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度以下となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルに関し、特に背面板の隔壁層に特徴を有したプラズマディスプレイパネルに関する。また、本発明は、かかるプラズマディスプレイパネルを得るための製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
高品位テレビジョン画像を大画面で表示するためのディスプレイ装置として、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPとも称す)を用いたディスプレイ装置への期待は高まっている。
【0003】
PDP(例えば3電極面放電型PDP)は、映像を見る人から見て表面側となる前面板とその裏側の背面板とを対向配置して、それらの周辺部を封着部材で封着した構造を有している。前面板と背面板との間に形成された放電空間にはネオンおよびキセノンなどの放電ガスが封入されている。前面板は、ガラス基板の一方の面に形成された走査電極と維持電極とから成る表示電極対と、これらの電極を覆う誘電体層と保護層とを備えている。背面板は、ガラス基板に上記表示電極対と直交する方向にストライプ状に形成された複数のアドレス電極と、これらのアドレス電極を覆う下地誘電体層と、アドレス電極毎に放電空間を区画する隔壁と、隔壁の側面および下地誘電体層上に塗布された赤色(R)・緑色(G)・青色(B)の蛍光体層とを備えている。
【0004】
表示電極対とアドレス電極とは直交していて、その交差部が放電セルを成している。これらの放電セルはマトリクス状に配列されており、表示電極対の方向に並ぶ赤色・緑色・青色の蛍光体層を有する3個の放電セルがカラー表示のための画素となる。このようなPDPでは、順次、走査電極とアドレス電極間、および走査電極と維持電極間に所定の電圧が印加されてガス放電を発生させている。そして、かかるガス放電で生じる紫外線により蛍光体層を励起して可視光を発光させることによってカラー画像表示を実現している。
【0005】
近年では、PDPの高精細化に伴って放電セルが微細化してきている(例えば、高精細化に伴って背面側の隔壁を約100μmピッチで形成する必要がある)。放電セルのサイズが小さくなると、発光輝度が低下し、消費電力が増大するという問題がある。これは、開口率の減少、画素数の増加に伴う1画素当りの発光時間の減少、発光効率の低下などに起因する。発光輝度を高める方法として、背面板の隔壁の幅を細くすることにより開口率の増加を図る方法があるが、それだけでは発光輝度が依然不足しており、更なる改善が必要である。
【0006】
発光輝度を高める他の方法として、前面板における誘電体層の誘電率を下げて放電時の無効電力を低減し、発光効率を高める方法がある。現行のPDP製造方法では、前面板側の誘電体層の形成に際して、まず、数μmの大きさのガラス粉末と有機バインダと溶媒を含むガラス材料をスクリーン印刷やダイコートなど公知の方法を用いてガラス板上に塗布している。次いで、塗布したガラス材料を乾燥工程、脱バインダ工程、焼成工程に付すことによって誘電体層を得ている。しかしながら、現行の誘電体材料ではガラス粉末を低温で溶融させるため、ガラスの融点を低下させる材料(一般的にBiなど)を加える必要がある(例えば、特許文献1を参照)。このような低融点ガラス材料は純度が低く、比誘電率が10以上と高い。また、他の物質(一般的にアルカリ金属など)を添加することで比誘電率を低下させることも可能であるものの、PDPの電極には銀などの高導電性金属が主成分として用いられているので、イオンマイグレーションによる銀の拡散およびコロイド化が促進され、誘電体に黄変現象が生じてしまう。これはPDPの光学特性に対して大きく悪影響を及ぼす。
【0007】
そこで誘電体層の誘電率を下げることで発光輝度を高めるためには、現行のガラスペーストに変わる新しい低誘電率材料およびその材料を用いた誘電体層の形成方法の開発が必要となる。高純度の酸化物誘電体層を形成する方法としては、固体酸化物を真空下でスパッタリングして基板に堆積させる方法(スパッタリング蒸着法)や、原料をプラズマにより分解し、堆積させる方法(化学蒸着法)などがある。これらの方法により高純度で低誘電率の誘電体層を形成できるものの、高価な真空設備を必要とし、成膜レートが毎分数100nm程度と小さい。また、必要とする膜厚は絶縁耐圧などの関係上、一般的には10μm以上は必要であり、生産性を高めながら誘電体層を形成するには、設備台数が増えてしまうといった問題がある。
【0008】
別法にて、純度の高いシリカを溶融させることが考えられるが、1000℃以上の高温を必要とするために現実的ではない。
【0009】
一方、生産性を確保しながら、低誘電率の誘電体を形成する方法としてゾルゲル法がある。この方法では、溶媒中の金属アルコキシドを加水分解してシリコン化合物を得た後、加熱に付して縮重合処理することによって、酸化ケイ素を主成分とする膜を形成する。例えばシリコン化合物が水酸化ケイ素(Si(OH))の場合、下記のような縮重合反応によって、−Si−O−Si−のネットワークが形成され、誘電体層となる固体のSiOが形成される:

nSi(OH)→nSiO+2nH
(n:1以上の整数)

また、シリコン化合物がシロキサンの場合では、下記のような縮重合反応によって誘電体層が形成される:


このような方法によれば、原料ペーストの塗布に既存の設備を利用できるので安価な製造コストと短いタクトとの両立が可能となるだけでなく、ガラスを溶融させる過程を経ないので低温で誘電体層を形成できる。しかしながら、縮合重合反応に起因した体積収縮によって誘電体層にクラックが発生する場合がある(図9および図10参照)。
【0010】
特に、前面板と背面板との貼合わせや封着排気工程に際しては、前面板と背面板隔壁との衝突に起因して、前面板の誘電体層が損傷を受ける可能性が高くクラックが特に発生し易い(図11参照)。また、最終的に得られたPDPにおいても、前面板と背面板隔壁との接触に起因して前面板の誘電体層が損傷を受ける可能性が高くクラックは発生し易いといえる(同じく図11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−053342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の課題は、前面板の誘電体層におけるクラックが効果的に防止または軽減されたPDPを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前面板の誘電体層Aがシロキサン骨格を含んだガラス材料(またはシロキサン結合を有するシリコン化合物を含んだガラス材料)を含んで成り、
隔壁が下層部と上層部とから成る2層構造となっており、下層部が誘電体層B上に設けられ、上層部が下層部の上に設けられており、
隔壁上層部の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度以下となっていることを特徴とするプラズマディスプレイパネルが提供される。
【0014】
本発明のプラズマディスプレイパネルの特徴の1つは、隔壁(リブ)が下層部と上層部とから成る2層構造となっており、上層部の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度以下となっていることである。
【0015】
本明細書において「前面板」とは、映像を見る人から見て表面側となるパネル基板を指しており、実質的には、蛍光体層および隔壁が存在していない側のパネル基板を指している(換言すれば、蛍光体層および隔壁が存在する“背面板”と対向配置されるパネル基板が“前面板”である)。
【0016】
また、本明細書において「硬度」とは、後述する「ダイナミック硬度」ないしは「ダイナミック硬さ(DH)」のことを実質的に意味しており、より具体的には、ダイナミック超微小硬度計を用いて測定された硬度のことを指している。
【0017】
ある好適な態様では、隔壁の頂部面が平坦化ないしは平滑化されている。即ち、隔壁の上層部における表面が平坦化・平滑化されている。具体的には、隔壁上層部の表面粗さが算術平均粗さRaで1μm以下となっている。
【0018】
別のある好適な態様では、隔壁上層部が、背面板基板、即ち、背面板の基板Bよりも高い軟化点を有する独立した粒子を含んで成る。あるいは、隔壁上層部が隔壁下層部よりも高い軟化点を有する独立した粒子を含んで成る。
【0019】
本発明のプラズマディスプレイパネルでは、隔壁上層部が前面板の誘電体層Aと同じ材質から形成されているものであってよい。つまり、隔壁上層部が前面板の誘電体原料から形成されたものであってよい。かかる場合、隔壁上層部は、前面板の誘電体層Aと同様、シロキサン骨格(またはシロキサン結合)を含んだガラス材料を含んで成り得る。また、前面板の誘電体層Aがシリカ粒子を含んで成る場合では、隔壁上層部がシリカ粒子を含んで成ることが好ましい。
【0020】
本発明では、上述のようなプラズマディスプレイパネルの製造方法も提供される。かかる本発明の製造方法は、基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
背面板の隔壁の形成が、
(i)第1隔壁原料を用いて隔壁下層部を形成する工程、および
(ii)第2隔壁原料を用いて、下層部の上に隔壁上層部を形成する工程
を含んで成る。
【0021】
本発明の製造方法は、第2隔壁原料として、前面板の誘電体層Aの原料を用いることを特徴としている。つまり、前面板の誘電体層Aがゾルゲル法の実施過程で得られる原料(シロキサン骨格を含んだガラス成分を含んで成る原料)から形成される場合、それと同様に、隔壁上層部もゾルゲル法の実施過程で得られる原料から形成する。ちなみに、隔壁下層部を形成するために用いられる第1隔壁原料についていえば、一般的なPDP製造法における隔壁原料を用いてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプラズマディスプレイパネルでは、前面板と接触し得る隔壁上層部が比較的軟らかくなっている。具体的には、隔壁上層部の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度以下となっている(例えば、隔壁上層部と誘電体層Aとが実質的に同じ硬度を有している)。従って、前面板と背面板との貼合わせや封着排気工程おいて前面板と背面板隔壁とが衝突したとしても、背面板隔壁によって前面板の誘電体層Aが損傷を受けることなくクラック発生が防止される。これは、最終的に得られたPDPにおいても同様である。つまり、PDPの完成後において前面板と背面板隔壁との接触により前面板の誘電体層Aが損傷を受けることなくクラック発生が効果的に防止される。このように誘電体層におけるクラックが防止されると、放電時の高電圧印加状態において絶縁破壊が生じることがない。即ち、誘電体層がクラックなどの物理的欠陥を実質的に含んでおらず、本発明のPDPは高精細化に対応可能な優れた耐絶縁性能を備えている。
【0023】
特に好ましい態様では、隔壁上層部が比較的軟らかくなっているだけでなく、隔壁表面が平坦化・平滑化されている。具体的には、隔壁上層部の表面粗さが算術平均粗さRaで1μm以下となっており、それゆえ、隔壁との接触に起因する誘電体層Aの損傷が更に効果的に防止され、クラック発生防止の効果が特に高くなっている。
【0024】
製造方法の観点でいえば、クラック発生を懸念することなくゾルゲル法で誘電体層を形成することができるので、比誘電率5以下の誘電体層を形成できる。つまり、本発明では材料の点から低誘電率化を図ることができるので、結果的に、高い発光効率が達成され、低消費電力のPDPを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】PDPの構成を模式的に示した図(図1(a):PDPの概略構成を模式的に示した斜視図、図1(b):PDP前面板を模式的に示した断面図)
【図2】本発明のPDPの隔壁構成を模式的に示す図
【図3】算術平均粗さ(Ra)の概念を模式的に示す図
【図4】本発明における隔壁態様を模式的に示す断面図
【図5】前面板の製作工程を模式的に示した断面斜視図
【図6】背面板の製作工程を模式的に示した断面斜視図
【図7】背面板の製作工程を模式的に示した断面斜視図
【図8】隔壁上層部の走査型電子顕微鏡写真(図8(a):従来例、図8(b):本発明)
【図9】誘電体層に発生し得るクラックを模式的に表した断面斜視図
【図10】誘電体層に発生したクラックの電子顕微鏡写真
【図11】前面板と背面板隔壁との衝突または接触に起因して前面板の誘電体層にクラックが発生する態様を模式的に表した図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下にて、図面を参照して、本発明のプラズマディスプレイパネルの製造方法を詳細に説明する。図面に示す各種の要素は、本発明の理解のために模式的に示したにすぎず、寸法比や外観などは実物と異なり得ることに留意されたい。
【0027】
プラズマディスプレイパネルの構成
まず、本発明の製造方法を経ることによって最終的に得られるプラズマディスプレイパネルを簡単に説明する。図1(a)に、PDPの構成を断面斜視図で模式的に示すと共に、図1(b)にPDPの前面板の断面図を模式的に示す。
【0028】
本発明のPDP(100)の構成は、図1(a)に示すように、「基板A(10)に電極A(11)と誘電体層A(15)と保護層(16)とが設けられた前面板(1)」および「基板B(20)上に電極B(21)と誘電体層B(22)と隔壁(23)と蛍光体層(25)とが設けられた背面板(2)」からなる。
【0029】
図示するように、前面板(1)では基板A(10)上に電極A(11)が設けられ、電極A(11)を覆うように誘電体層A(15)が基板A(10)上に設けられ、また、誘電体層A(15)上に保護層(16)が設けられている。背面板(2)では基板B(20)上に電極B(21)が設けられ、電極B(21)を覆うように誘電体層B(22)が基板B(20)上に設けられ、誘電体層B(22)上に隔壁(23)および蛍光体層(25)が設けられている。前面板(1)と背面板(2)とは、保護層(16)と蛍光体層(25)とが互いに向き合うように対向配置されている。前面板(1)および背面板(2)の周縁部は、例えば低融点フリットガラス材料などから成る封着部材によって気密封着されている(図示せず)。前面板(1)と背面板(2)との間に形成された放電空間(30)には放電ガス(ヘリウム、ネオンまたはキセノンなど)が例えば20kPa〜80kPa程度の圧力で封入されている。
【0030】
更に具体的に、本発明のPDP(100)を説明していく。本発明のPDP(100)の前面板(1)は、上述したように、基板A(10)、電極A(11)、誘電体層A(15)および保護層(16)を有して成る。基板A(10)は、透明で絶縁性を有する基板(厚さは例えば約1.0mm以上かつ約3mm以下)である。基板A(10)としては、例えば、フロート法などで製造されたフロートガラス基板を挙げることができる他、ソーダライムガラス基板またはホウケイ酸塩ガラス基板などを挙げることができる。電極A(11)は、基板A(10)上にストライプ状に平行に複数配置されるものであり、例えば、走査電極(12)および維持電極(13)から成る表示電極である。この場合、走査電極(12)および維持電極(13)は、それぞれ「酸化インジウム(ITO)または酸化スズ(SnO)などから成る透明導電膜である透明電極(12a、13a)」、および、かかる透明電極上に形成された「銀を主成分としたバス電極(12b、13b)」から構成される(図1(b)参照)。透明電極(12a、13a)は、蛍光体層で発生した可視光を透過させる電極として主に機能する一方、バス電極(12b、13b)は、透明電極の長手方向に導電性を付与するための電極として主に機能する。透明電極(12a、13a)の厚さは、好ましくは約50nm〜約500nmである。また、バス電極(12b、13b)の厚さは、好ましくは約1μm以上かつ約20μm以下である。尚、図1(a)に示すように、基板A(10)上にはブラックストライプ(14)(遮光層)もパターン形成され得る。
【0031】
誘電体層A(15)は、基板A(10)の表面に形成された電極A(11)を覆うように設けられている。かかる誘電体層A(15)は、主としてガラス成分およびビヒクル成分(=バインダ樹脂および有機溶剤などを含んだ成分)から成る誘電体原料ペーストを塗布および熱処理して得られるガラス組成から成る膜である。誘電体層A(15)の上には、例えば酸化マグネシウム(MgO)などから成る保護層(16)が形成されている(厚さは例えば約0.5μm以上かつ約1.5μm以下)。
【0032】
一方、本発明のPDPの背面板(2)は、上述したように、基板B(20)、電極B(21)、誘電体層B(22)、隔壁(23)および蛍光体層(25)を有して成る。基板B(20)は、透明で絶縁性を有する基板(厚さは例えば約1.0mm以上かつ約3mm以下)であることが好ましく、例えば、フロート法などで製造されたフロートガラス基板を挙げることができる他、ソーダライムガラス基板、ホウケイ酸塩ガラス基板または各種セラミック基板などを挙げることができる。電極B(21)は、基板B(20)上にストライプ状に複数形成される銀を主成分とした電極(厚さは例えば約1μm以上かつ約10μm以下)であり、例えば、アドレス電極(またはデータ電極)である。アドレス電極は、各放電セルを選択的に放電させる機能を主に有している。
【0033】
誘電体層B(22)は、下地誘電体層と一般に呼ばれるものであり、基板B(20)の表面に形成された電極B(21)を覆うように設けられている。かかる誘電体層B(22)は、主としてガラス成分およびビヒクル成分(=バインダ樹脂および有機溶剤などを含んだ成分)から成る誘電体原料ペーストを塗布および熱処理して得られるガラス組成から成る膜である。誘電体層B(22)の厚さは、例えば約5μm以上かつ約50μm以下である。誘電体層B(22)の上には、蛍光体材料を主成分とした蛍光体層(25)が形成されている(厚さは例えば約5μm以上かつ約20μm以下程度)。蛍光体層(25)は、放電によって放射された紫外線を可視光線に変換する機能を主に有している。かかる蛍光体層(25)は、赤色、緑色および青色を発する蛍光体層を構成単位としており、それぞれが隔壁(23)で区切られている。隔壁(23)は、放電空間をアドレス電極(21)毎に区画する目的で、ストライプ状または井桁状に誘電体層B(22)上に形成されている。なお、本発明においては、隔壁(23)は、後述するように、上層部と下層部との2層構造を有している。
【0034】
本発明のPDP(100)では、前面板(1)の表示電極(11)と背面板(2)のアドレス電極(21)とが直交するように、前面板(1)と背面板(2)とが放電空間(30)を挟んで対向して配置されている。このようなPDP(100)では、隔壁(23)によって仕切られ、アドレス電極(21)と表示電極(11)とが交差する放電空間(30)が放電セル(32)として機能することになる。換言すれば、マトリクス状に配列されている放電セルが画像表示領域を構成している。従って、外部駆動回路から表示電極(11)に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電ガスを放電させ、かかる放電によって生じる紫外線によって、各色の蛍光体層を励起させて赤色、緑色および青色の可視光を発生させると、カラー画像表示が実現される。
【0035】
PDPの一般的な製造方法
次に、PDPの一般的な製造方法について簡潔に説明する。特に言及しない限り、本発明に係るPDPは、原則、一般的なPDP製造法に基づいて得ることができる。また、特に言及しない限り、各種構成部材の原材料(原料ペースト)/構成材料なども一般的なPDP製造法で常套的に用いられているものであってよい。
【0036】
まず、ガラス基板である基板A(10)上に、電極Aとして走査電極(12)と維持電極(13)とから構成される表示電極(11)を形成する。走査電極(12)および維持電極(13)のそれぞれの透明電極(12a、13a)とバス電極(12b、13b)とは、露光・現像するフォトリソグラフィ法などを用いてパターニングできる。透明電極(12a、13a)は薄膜プロセスなどを用いて形成でき、バス電極(12b、13b)は銀(Ag)材料を含むペーストを乾燥(100〜200℃程度)および焼成(400〜600℃程度)に付すことによって形成できる。また、電極Aの形成に際して、遮光層(14)も形成してよく、黒色顔料を含んだ原料ペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料を含んだ原料をガラス基板の全面に設けた後、露光・現像するフォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することによって形成できる。次いで、走査電極(12)、維持電極(13)および遮光層(14)を覆うように基板A(10)上に、ガラス成分(SiO、Bなどから形成される材料)とビヒクル成分とを主成分とした誘電体原料ペーストをダイコート法または印刷法などにより塗布して誘電体ペースト層を形成する。塗布した後、所定の時間放置すると塗布された誘電体ペーストの表面がレベリングされて平坦な表面になる。その後、誘電体ペースト層を焼成すると誘電体層A(15)が形成される。誘電体層A(15)を形成した後、かかる誘電体層A(15)上に保護膜(16)を形成する。保護膜(16)は、一般的には、真空蒸着法、CVD法またはスパッタリング法などを用いて形成できる。
【0037】
以上の工程により、基板A(10)上に所定の構成部材である電極A(走査電極(12)および維持電極(13))、誘電体層A(15)および保護層(16)が形成され、前面板(1)が完成する。
【0038】
一方、背面板(2)は次のようにして形成する。まず、ガラス基板である基板B(20)上に、電極Bとしてアドレス電極(21)を形成する。具体的には、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、銀を主成分とした金属膜を全面に形成した後、露光・現像するフォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによって前駆体層を形成し、それを所望の温度(例えば約400〜約600℃)で焼成することによりアドレス電極(21)を形成する。この「アドレス電極」は、クロム/銅/クロムの3層薄膜上にフォトレジストを塗布したものをフォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターニングして形成してもよい。次いで、アドレス電極(21)が形成された基板B(20)上に、下地誘電体層となる誘電体層B(22)を形成する。まず、「ガラス成分(SiO、Bなどから形成される材料)およびビヒクル成分などを主成分とした誘電体原料ペースト」をダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト層を形成する。そして、かかる誘電体ペースト層を焼成することで誘電体層B(22)を形成できる。次いで、隔壁(23)を形成する。本発明では、後述するように「下層部」と「上層部」との2層構造の隔壁を形成することになるが、ここでは一般的な隔壁(23)の形成法について説明する。まず、誘電体層B(22)上に誘電体原料ペーストを塗布して所定の形状にパターニングすることにより、隔壁材料層を形成し、その後、それを焼成に付して隔壁(23)を形成する。例えば、低融点ガラス材料、ビヒクル成分およびフィラー等を主成分とした原料ペーストをダイコート法または印刷法によって塗布して約100℃〜200℃の乾燥に付した後、露光・現像するフォトリソグラフィ法でパターニングし、次いで、約400℃〜約600℃の焼成に付すことによって隔壁(23)を形成する。隔壁(23)の形成に引き続いて、蛍光体層(25)を形成する。隣接する隔壁(23)間の誘電体層B(22)上および隔壁(23)の側面に蛍光体材料を含む蛍光体原料ペーストを塗布し、焼成することによって蛍光体層(25)を形成する。より具体的には、蛍光体粉末およびビヒクル成分等を主成分とした原料ペーストをダイコート法、印刷法、ディスペンス法またはインクジェット法などによって塗布し、次いで、約100℃の乾燥に付すことによって蛍光体層(25)を形成する。
【0039】
以上の工程により、基板B(20)上に、所定の構成部材たる電極B(アドレス電極(21))、誘電体層B(22)、隔壁(23)および蛍光体層(25)が形成され、背面板(2)が完成する。
【0040】
このようにして所定の構成部材を備えた前面板(1)と背面板(2)とは、表示電極(11)とアドレス電極(21)とが直交するように対向配置させる。次いで、前面板(1)と背面板(2)の周囲をガラスフリットで封着すると共に、形成される放電空間(30)に放電ガス(ヘリウム、ネオンまたはキセノンなど)を封入することによってPDP(100)が完成する。
【0041】
本発明のPDP
本発明のPDPは、背面板の隔壁に特色を有している。具体的には、隔壁(23)が下層部(23a)と上層部(23b)とから成る2層構造となっている(図2参照)。下層部は誘電体層B上に設けられている一方、上層部はその下層部の上に設けられている。つまり、かかる隔壁態様では、上層部が隔壁頂部を構成することになる。
【0042】
ここで、本発明では、隔壁上層部の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度以下となっている。つまり、隔壁上層部の硬さが、前面板の誘電体層Aの硬さと実質的に同じ程度か、それ以下となっている。このように隔壁上層部が比較的軟らかいものとなっているので、隔壁との接触に起因する前面板の誘電体層Aの損傷が防止され、その結果、誘電体層Aにおけるクラック発生が防止される(ちなみに、前面板保護層は、前面板誘電体層Aに比べて十分薄いため、これらの硬度への影響などは無視できる)。
【0043】
「硬度」とは、上述したように、「ダイナミック硬度」ないしは「ダイナミック硬さ(DH)」のことを実質的に意味している。本発明においては前面板の誘電体層Aの硬度が10〜50kN/mm程度であるので、隔壁(23)の上層部(23b)の硬度は、約10〜50kN/mmのダイナミック硬度およびそれ以下のダイナミック硬度を有している。より好ましくは、前面板の誘電体層Aのダイナミック硬度が20〜40kN/mm程度であり、それゆえ、隔壁(23)の上層部(23b)のダイナミック硬度がより好ましくは約20〜40kN/mmおよびそれ以下となっている。この点、常套の隔壁のダイナミック硬度は約80〜120kN/mmであるので、本発明における隔壁上層部の硬度がそれよりも低く、隔壁上層部が軟らかくなっていることが理解できるであろう。尚、隔壁(23)の上層部(23b)の硬度の最小値についていえば、上層部(23b)の変形によって前面板と背面板とが位置ずれを起こすことがないように、およそ5kN/mm程度であることが好ましい。このように隔壁上層部(23b)は比較的軟らかくなっているものの、隔壁下層部(23a)の硬度は、特に制限はなく、従前の隔壁材料と同程度の約80〜120kN/mmのダイナミック硬度であってよい。
【0044】
ここで、本明細書における「ダイナミック硬度」/「ダイナミック硬さ」の値は、島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて、試験モード「負荷−除荷試験」、試験力10mN、負荷速度0.71mN/秒、保持時間5秒の条件にて測定することによって得られた値を前提としている。
【0045】
本発明のPDPでは、隔壁(23)の表面、即ち、隔壁(23)の上層部(23b)の表面が平坦化ないしは平滑化されていることが好ましい。具体的には、隔壁の上層部の表面粗さが算術平均粗さRaで好ましくは1μm以下となっており、より好ましくは0.07μm以下、更に好ましくは0.05μm以下となっている。即ち、隔壁の上層部(23b)の表面の算術平均粗さRaは、即ち、好ましくは0(0を除く)〜1μmとなっており、より好ましくは0(0を除く)〜0.07μm、更に好ましくは0(0を除く)〜0.05μmとなっている。このように隔壁上層部の表面が平坦化されていると、衝突時の応力を分散できるので、隔壁との接触に起因する前面板の誘電体層Aの損傷が更に効果的に防止され、クラック発生防止効果がより向上する。
【0046】
本明細書でいう「算術平均粗さ(Ra)」とは、図3に示すような粗さ曲線(本発明でいうと「上層部(23b)の表面の断面形状プロファイル」)から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分における平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して得られる値を平均化したものを実質的に意味している。
【0047】
図2を参照して隔壁(23)の寸法について例示する。隔壁下層部(23a)の高さ寸法haは50〜200μm程度であり、その平均幅寸法waは50〜150μm程度である。これに対して、隔壁上層部(23b)の高さ寸法hbは3〜20μm程度であり、その平均幅寸法wbは30〜100μm程度である。本発明では、隔壁(23)が下層部(23a)と上層部(23b)とから成る2層構造となっている点を除けば、全体的な形態・形状などは一般的なPDP隔壁と同様であってよい。つまり、横隔壁と縦隔壁とによって井桁形態が形成されていてよく、また、個々の隔壁(23)の断面形状は略台形形状となっていてよい。
【0048】
隔壁(23)の下層部(23a)は、一般的なPDP製造法で用いられる隔壁原料から形成されていてよい。例えば、低融点ガラスと、フィラーなどを含む無機材料粉末と、バインダ樹脂などを含む有機性添加物と、有機溶剤とを含有するペースト原料を用いることができる。かかるペースト原料を、ダイコート法又は印刷法などにより下地誘電体層(22)に塗布して下層部の前駆体となる膜を形成する。次いで、その前駆体膜を100℃〜200℃で乾燥する。引き続いて、乾燥後に得られた膜を、露光及び現像するフォトリソグラフィー法によりパターンニングし、400℃〜700℃で焼成することによって下層部(23a)を得ることができる。
【0049】
その一方、隔壁(23)の上層部(23b)は、好ましくは、背面板基板(即ち基板B)よりも高い軟化点を有する粒子を含んで成るか、あるいは、下層部(23a)よりも高い軟化点を有する粒子を含んで成る。例えば、背面板の基板Bがガラス基板である場合、その軟化点は610〜650℃程度であるので、上層部(23b)はかかる軟化点よりも高い軟化点を有する粒子を含んで成ることが好ましい。そのような粒子として、SiO粒子、Al粒子、MgO粒子、TiO粒子、ZnO粒子、Bi粒子、CeO粒子、CoO粒子、CuO粒子、Fe粒子およびSnO粒子から成る群から選択される少なくとも1種以上の粒子を用いることができる。かかる粒子の平均粒子サイズは、好ましくは5〜500nm程度であり、より好ましくは10〜200nm程度である。例えば、シリカ粒子および有機溶剤などを含んで成るペースト原料を塗布し、その後100℃〜200℃、引き続いて400℃〜700℃の熱処理を行うことによってシリカ粒子を含んで成る上層部(23a)を得ることができる。
【0050】
隔壁(23)の上層部(23b)は、前面板の誘電体層Aと同じ材質から成っていてよい。つまり、隔壁の上層部が前面板の誘電体原料から形成されたものであってよい。かかる場合、隔壁の上層部は、前面板の誘電体層Aと同様、シロキサン骨格(またはシロキサン結合)を含んだガラス材料を含んで成り得る。また、前面板の誘電体層Aがシリカ粒子を含んで成る場合、隔壁の上層部もシリカ粒子を含んで成ることが好ましい。
【0051】
『隔壁(23)の上層部(23b)が前面板の誘電体層Aと同じ材質から成る』ということは、上層部(23b)の硬度が前面板の誘電体層Aの硬度と実質的に同じとなっていることを意味している。従って、隔壁上層部が比較的軟らかくなり、その結果、隔壁との接触に起因する前面板の誘電体層Aの損傷が防止されて誘電体層Aにおけるクラック発生が防止される。
【0052】
ちなみに、このように上層部(23b)が背面板の基板Bよりも高い軟化点を有する粒子を含んでいたり、あるいは、前面板の誘電体層Aと同じ材質から形成されていたりすることによって、隔壁の上層部の表面粗さが算術平均粗さRaで1μm以下となり得る(図4参照)。
【0053】
本発明の製造方法
次に、本発明のPDPを製造する方法について説明する。かかる製造方法は、背面板隔壁の形成に特色を有している。
【0054】
本発明の製造方法は、基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
背面板の隔壁の形成が、
(i)第1隔壁原料を用いて隔壁下層部を形成する工程、および
(ii)第2隔壁原料を用いて、下層部の上に隔壁上層部を形成する工程
を含んで成り、工程(ii)では、第2隔壁原料として、前面板の誘電体層Aの原料を用いることを特徴としている。
【0055】
図面を参照して“前面板の製作”および“背面板の製作”の順で本発明の製造方法を説明する。
【0056】
(前面板の製作)
前面板の製作を図5を参照して説明する。前面板の製作に際しては、まず、「電極が形成された基板」を用意する。「電極が形成された基板」とは、「前面板側の電極Aが形成された基板A」のことを意味しており、より具体的には図5(a)に示すように「表示電極(11)が形成されたガラス基板(10)」のことを意味している。つまり、ガラス基板(10)上に、走査電極(12)と維持電極(13)とから構成される表示電極(11)が形成されたものを用意する。基板(10)は、ソーダライムガラスや高歪み点ガラス、各種セラミックスからなる絶縁基板であることが好ましく、厚さは1.0mm〜3mm程度であることが好ましい。走査電極(12)および維持電極(13)には、それぞれ、厚さ50〜500nm程度のITO等から成る透明電極(12a、13a)が形成されていると共に、表示電極の抵抗値を下げるべく透明電極上に、銀を含んで成る厚さ1〜10μm程度のバス電極(12b、13b)が形成されている(図1(b)参照)。具体的には、透明電極を薄膜プロセスなどで形成した後に、バス電極を焼成プロセスなどを経て形成する。特に、バス電極の形成に際しては、まず、銀を主成分とした導電性ペーストをスクリーン印刷法によりストライプ状に形成する。また、バス電極は銀を主成分とした感光性ペーストをダイコート法や印刷法により塗布した後に、100℃〜200℃で乾燥した後、露光・現像するフォトリソグラフィー法によりパターンニングすることによってストライプ状に形成してもよい。別法にてディスペンス法やインクジェット法を用いてもよい。最終的には、乾燥に付した後、400℃〜600℃の焼成に付すことによって、バス電極を得ることができる。尚、透明電極上には、Al、CuまたはCr等の金属やCr/Cu/Crのような積層体からなる金属電極を形成してもよい。
【0057】
表示電極(11)の形成に引き続いて誘電体層(15)を形成する。即ち、誘電体層Aを形成する。誘電体層A(15)の形成は、一般的なPDP製造法で採用され得るゾルゲル法を利用してよい。かかる誘電体層(15)の形成に際しては、まず、ガラス成分および有機溶剤を含んで成るペースト状誘電体原料を調製する。
【0058】
誘電体原料に含まれるガラス成分はポリシロキサン(即ち、シロキサン骨格[−Si−O−])を含んで成り、好ましくはゾルゲル法の実施過程で有機溶剤と前駆体材料とから得られるペースト状またはゾル状の流動性材料である。特に好ましいポリシロキサンは、シロキサン骨格およびアルキル基を有して成るポリシロキサンである。なぜなら、ポリシロキサンにアルキル基が含有されていると誘電体層形成時に生じ得る“クラック”を効果的に抑制できるからである。シロキサン骨格は、直鎖状であっても、環状であっても、または三次元網目状であってもかまわない。アルキル基の炭素数は1〜6程度であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基またはヘキシル基などのアルキル基を挙げることができる(これらアルキル基は単独または2種以上含まれていてよい)。また、アルキル基に必ずしも限定されるわけではなく、それに類する官能基、例えばアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基またはブチレン基など)等が含まれていてもよい。更にいえば、フェニル基やアクリル基などが含まれていてもよい。
【0059】
このようなガラス成分は、例えば、シリコンアルコキシドなどの前駆体材料と有機溶剤とを混和して、水や触媒などを添加することによって調製できる。より具体的にいえば、シリコンアルコキシド(特に好ましくはアルキル基を含んだシリコンアルコキシド)を有機溶剤に混和し、常温または加温条件下において、攪拌しながら水と触媒とを少量ずつ均等に添加し、加水分解や縮重合させることによってガラス成分を調製できる。
【0060】
ガラス成分の調製に用いる上記前駆体材料は、特に制限はなく、例えばメチルシリケートやエチルシリケートなどのアルキル基を含まない完全無機の前駆体材料であってよいものの、特に好ましくはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジフルオロジメトキシシラン、ジフルオロジエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、他のアルコキシド系有機シリコン化合物(Si(OR))、例えば、テトラターシャリーブトキシシラン(t−Si(OC)、テトラセコンダリーブトキシシランsec−Si(OCまたはテトラターシャリーアミロキシシランSi[OC(CHのようなアルキル基およびそれに類する官能基を含んだ前駆体材料である。これらの前駆体材料は1種類に限定されず、2種類以上の前駆体材料を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
誘電体原料に含まれる有機溶剤としては、特に制限されるわけではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2-プロパノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールを含むアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールを含むグリコール類、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンを含むケトン類、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールジアルキルエーテルアセテート類、モノアルキルセロソルブ類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。尚、最終的には有機溶剤が気化することが望まれるので、好ましくは約300℃以下(更に好ましくは200℃以下)の範囲に沸点を有していることが好ましい。
【0062】
誘電体層のクラックを効果的に防止すべく、誘電体原料ペーストにはシリカ粒子が含まれていてよい。用いられるシリカ粒子の平均粒子サイズ(平均粒子径)は50〜200nmであることが好ましい。粒子サイズを50nm以上にすると、形成される誘電体層内にて粒子間の空隙が大きくなることに起因して応力緩和を図ることができると共に、比表面積が下がることに起因して粒子表面に均一かつ十分な量のポリシロキサンを介在させることができるので、クラック発生をより効果的に抑制できる。一方、粒子サイズを200nm以下とすると、波長が400〜800nmである可視光の透過率を高めることができ、所望の光学特性を得ることができる。シリカ粒子は必ずしも単一サイズである必要はなく、2種類以上のサイズを含んで成るものであってもよい。2種類以上の粒子サイズを含む場合、得られる誘電体層中のシリカ粒子充填率を上げることが可能となり、クラックの発生をより効果的に防止できる。なお、本明細書にいう「粒子サイズ」とは、粒子のあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味しており、「平均粒子サイズ」とは、粒子の電子顕微鏡写真などに基づいて例えば10個の粒子サイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。
【0063】
使用するシリカ粒子は結晶性であっても非晶性(アモルファス)であってもよい。また、使用するシリカ粒子は乾燥粉末状のものであってもよく、あるいは、予め水や有機溶剤に分散されたゾル状のものであってもよい。シリカ粒子の表面状態、多孔度などについては特に制限はなく、市販されているシリカ粒子をそのまま用いることも可能である。シリカ粒子の添加は、ゾル状誘電体原料の調製前に添加しても、それを調製した後に添加してもよい。尚、“誘電体層の透過率”の点でいえば、シリカ粒子は誘電体原料ペースト中で十分に分散していることが好ましい。
【0064】
誘電体原料ペーストに含まれるシリカ粒子の量は、誘電体層中に残存するシロキサン骨格との比率により決定することが好ましいので、最終的に形成される誘電体層の重量を基準にして規定すると、10〜99重量%程度であり、好ましくは50〜90重量%程度である。最終的な誘電体層中に残存するシリカ粒子の量が多いほど、応力緩和能が高くなる一方、ガラス基板に対する密着性は低くなる。
【0065】
誘電体原料ペーストの塗布性を向上させるために、誘電体原料にバインダ樹脂を加えてもよい。加えるバインダ樹脂としては、特に制限はない。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体、ブチルメタクリレート樹脂またはセルロース系樹脂などを用いることができ、更には、これらを2種類以上組み合わせて用いてもよい。誘電体原料ペーストは有機溶剤の気化に起因して高い温度領域(200〜400℃程度)で重量減少を呈することになるが、バインダ樹脂の添加によりペースト材料全体の重量減少の速度を緩和させることができ、応力集中をより小さくできるといった効果も奏され得る(特に、乾燥時の応力緩和効果に起因して乾燥膜のクラックが抑制され得る)。更には、バインダ樹脂によって、より高温領域にてシリカ粒子同士の接着力が助力される効果も奏されることになる。
【0066】
上述した成分から調製される誘電体原料ペーストは、その名の通り、ペースト形態を有している。例えば、誘電体原料ペーストは室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において1mPa・s〜50Pa・s程度(特に3mPa・s〜50Pa・s程度)の粘度を有していることが好ましい。このような範囲に粘度を有すると、塗布領域における誘電体原料の濡れ広がりをより効果的に防止できる。
【0067】
誘電体原料ペーストの各種成分の割合は、典型的なPDP誘電体層を得る際に用いられる一般的な割合であれば、特に制限はない(より具体的には、いわゆる“ゾルゲル法”を利用して誘電体層を形成する際に一般的に採用される割合であれば特に問題はない)。ただし付言しておけば、本発明の効果をより引き出すためには、誘電体原料ペーストの固形分濃度が5重量%〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは15重量%〜40重量%である。ここでいう「固形分濃度」とは、誘電体原料ペーストの全重量に対する「ガラス成分+シリカ粒子」の重量割合、または、誘電体原料ペーストの全重量に対する「ガラス成分+シリカ粒子+バインダ樹脂」の重量割合を指している。誘電体層厚さを大きくするにはウェット状態での膜厚を大きくしなければならないが、固形分濃度が5重量%を下回ると多量のペーストを使用することになるので、材料コストが高くなる(また、固形分濃度が15重量%を下回るとペースト粘度の低下により塗布が一般に損なわれる傾向がある)。一方、固形分濃度が60重量%よりも上回ると、ガラス成分同士(例えばポリアルキルシロキサンオリゴマー同士)の距離が近くなり、凝集を起こしやすくなるために望ましくない(また、固形分濃度が40重量%よりも上回ると、ポリシロキサンの重合反応速度が増大し、実用的なポットライフを確保することが一般に難しい)。
【0068】
調製された誘電体原料ペーストを「電極が形成された基板」上に塗布することによって誘電体原料層が形成され、その後、かかる誘電体原料層を加熱処理することによって誘電体層(15)が形成されることになる(図5(b)参照)。
【0069】
誘電体原料ペーストの塗布には、例えば、スリットコータ法を用いてよい。「スリットコータ法」とは、巾広のノズルからペースト状原料を圧送吐出して所定の面にペースト状原料を塗布する方法である。また、別法にて、例えばディスペンス法を用いてもよい。ディスペンス法とは、小径ノズルを備えた円筒形容器に誘電体原料ペーストを仕込み、ノズルと反対側の開口部より空気圧を加えて誘電体原料ペーストを吐出する方法である。更に別法にて、スプレー法、印刷法、フォトリソグラフィー法等を用いてもよい。
【0070】
誘電体原料ペーストの塗布により得られた誘電体原料層は、その厚さが10〜200μm程度であることが好ましい(より好ましくは厚さが20〜100μm程度である)。これにより、熱処理後に得られる誘電体層の厚さも同程度となり、実質的には約5μm〜約200μm程度、好ましくは5μm〜150μm、より好ましくは10μm〜60μm、更に好ましくは10μm〜30μmとなり得る。かかる厚みをおよそ10μm以上にすると、絶縁耐圧が確保され易く、また、およそ10um未満であると低誘電率の効果である無効電力削減の効果が小さくなってしまう。一方、上記厚みをおよそ30μm以下とすると、誘電体層の誘電率の低下に起因して放電時の無効電力の低減化を図ることができ、また、およそ30μmを超えると放電電力を大きくする必要があり、放電に関わる回路などのコストが大きくなり得る。
【0071】
誘電体原料層は加熱処理されるが、誘電体原料層が加熱されることに起因して、有機溶剤が気化または分解などされると共に、誘電体原料層中にて縮重合反応が進行して最終的に誘電体層が形成されることになる。誘電体原料層にバインダ樹脂が含まれている場合では、かかるバインダ樹脂が燃焼して誘電体原料層から除去される。加熱温度は、縮重合反応に必要とされる熱量の他、原料層に含まれ得る有機溶剤の沸点および含有量などによって決定され得るが、一般的にいえば50〜600℃程度、好ましくは50℃〜300℃程度である。尚、誘電体原料層にバインダ樹脂が含まれる場合にはより高い加熱が必要となる。かかる場合、加熱温度はバインダ樹脂の分解点および含有量などによって決定されるが、一般的には200〜600℃程度の範囲となる。加熱温度に付す時間も、縮重合反応に要する熱量、原料層に含まれ得る有機溶剤の沸点や含有量などを総合的に考慮して決定され、誘電体原料の種類によって変わるものであるが、一般的には0.5〜4時間程度、好ましくは1〜2時間程度である。熱処理手段としては、焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。この場合、加熱チャンバー内に「表示電極および誘電体原料層を備えた基板」を供することによって、誘電体原料層を全体的に熱処理できる。
【0072】
誘電体層(15)が形成された後は、図5(c)に示すように保護層(16)を形成する。つまり、真空蒸着法または電子ビーム法(EB法)などを実施して誘電体層(15)を覆うように保護層(16)を形成する(厚さは例えば0.5μm〜1.5μm程度)。保護層の材質は酸化マグネシウム(MgO)に限定されず、酸化ベリリウム(BeO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)などであってもよい。別法として、熱CVD法や、プラズマCVD法やスパッタ法などを用いても保護層を形成できる。以上の工程を経ることによって、PDP前面板が完成することになる。
【0073】
(背面板の製作)
背面板の製作を図6および図7を参照して説明する。背面板の製作に際しては、「電極が形成された基板」を用意する。「電極が形成された基板」とは、「背面板側の電極Bが形成された背面基板B」のことを意味しており、より具体的には図6(a)に示すように「アドレス電極(21)が形成されたガラス基板(20)」のことを意味している。基板(20)は、ソーダライムガラスや高歪み点ガラス、各種セラミックスからなる絶縁基板であることが好ましく、厚さは1.0mm〜3mm程度であることが好ましい。アドレス電極(21)は、銀を主成分とした導電性ペーストをスクリーン印刷法により形成することができる。また、アドレス電極(21)は、銀を主成分とした感光性ペーストをダイコート法、又は印刷法などによって背面基板(20)に塗布した後、100℃〜200℃で乾燥し、露光及び現像するフォトリソグラフィー法によりパターンニングすることで形成することもできる。さらには、ディスペンス法、インクジェット法などの他の方法を用いてもよい。最終的には、アドレス原料ペーストの塗布及び乾燥後に、さらに400℃〜700℃で焼成されることが好ましく、それによって膜厚が好ましくは1μm〜4μmのアドレス電極(21)が形成される。
【0074】
次いで、アドレス電極(21)が形成された背面基板(20)の上に下地誘電体層を形成する。即ち、誘電体層Bを形成する。具体的には、図6(b)に示すように、アドレス電極(21)を覆うように下地誘電体層(22)を形成する。かかる下地誘電体層(22)は、前面板の誘電体層(15)と同様に形成することができる。従って、前面板の誘電体層(15)と同様にゾルゲル法を利用して形成することができる。しかしながら、特にそれに限定されず一般的なPDP製造法で行われる焼成法によって下地誘電体層(21)を形成してもよい。
【0075】
つまり、まず、低融点ガラスフリット、有機溶剤およびバインダ樹脂などを含んだ原料ペーストを塗布する。そして、それを乾燥させて有機溶剤を揮発させた後、焼成に付して、バインダ樹脂を燃焼させた後、低融点ガラスフリットを軟化させる。これにより、低融点ガラスの膜から成る下地誘電体層(22)を得ることができる。例示すると、まず、SiO−B系低融点ガラスフリット(平均粒子サイズ:約2μm)と、ターピネオールおよびブチルカルビトールアセテートを含む有機溶剤と、バインダ樹脂としてエチルセルロースとを含んで成る原料ペースト(約3mPa・s〜50Pa・s(25℃))をスクリーン印刷法で背面基板上に塗布して、下地誘電体の原料層を得る。そして、かかる原料層を60℃〜150℃程度の乾燥温度条件下に約0.1〜2時間付した後、焼成処理として300℃〜600℃程度の焼成温度条件下に0.1〜2時間付す。このような処理によって上記原料層から下地誘電体層(22)を得ることができる。得られる下地誘電体層(22)の厚さは、5μm〜200μm程度であることが好ましい。
【0076】
下地誘電体層(22)を形成した後、下層部と上層部とから成る2層構造の隔壁を形成する。まず、図6(c)に示すように下地誘電体層(22)上に隔壁の下層部(23a)を形成した後、図7(a)に示すように下層部(23a)の上に隔壁の上層部(23b)を形成する。これによって、図示するような井桁状の隔壁(23)を形成する。隔壁(特に下層部(23a))は、サンドブラスト法、ウェットエッチング法、感光性リブ形成法、転写法、埋め込み法、積層印刷法または成型法などの各種方法を利用することによって形成してよい。以下では、隔壁(23)の形成法につき一例を説明する。
【0077】
まず、下層部(23a)の形成工程においては、第1隔壁原料を下地誘電体層(22)上に塗布して第1隔壁原料膜を形成した後、かかる第1隔壁原料膜を乾燥処理に付す。次いで、乾燥後に得られた膜を、例えばフォトリソグラフィーなどを用いてパターニングした後、焼成処理に付すことによって下層部(23a)を得ることができる。
【0078】
第1隔壁原料は、低融点ガラスと、フィラーなどを含む無機材料粉末と、バインダ樹脂などを含む有機性添加物と、有機溶剤とを含有するペーストであってよい。「低融点ガラス」としては、低融点ガラスフリットを用いることができる。この「低融点ガラスフリット」とは、好ましくは約300℃〜400℃程度のガラス転移点を有するガラスフリットである。それゆえ、本明細書でいう「低融点」とは、約300℃〜400℃程度のガラス転移点のことを実質的に指している。第1隔壁原料に含まれるガラスフリットとしては、湿式ジェットミルやボールミルで平均粒子サイズが調製されたものであることが好ましく、例えば、ガラスフリットの平均粒子サイズは0.2〜10μm程度であってよく、好ましくは0.5〜3.0μm程度である。具体的な低融点ガラスフリットとしては、 PbO−SiO−B系ガラスフリット、PbO−P−SnF系ガラスフリット、PbF−SnF−SnO−P系ガラスフリットを用いることができる他、B−ZnO−SiO系ガラスフリットを含む非鉛系のガラスフリット等も用いることができる。「フィラ―」としては、アルミナ、シリカおよび炭化珪素から成る群から選択される少なくとも1種以上の無機材料を用いることができる。「バインダ樹脂」としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体またはブチルメタクリレート樹脂などを用いることができ、更には、これらを2種以上組み合せて用いることができる。「有機溶剤」としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。
【0079】
上述した成分から調製される第1隔壁原料は、好ましくはペースト形態を有している。例えば、第1隔壁原料は室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において好ましくは1mPa・s〜50Pa・s程度(特に3mPa・s〜50Pa・s程度)の粘度を有している。このような範囲に粘度を有すると、塗布領域における第1隔壁原料の濡れ広がりをより効果的に防止できる。第1隔壁原料の各種成分の割合は、典型的なPDP隔壁を得る際に用いられる原料の一般的な割合であれば、特に制限はない。ただし付言しておけば、本発明の効果をより引き出すためには、第1隔壁原料ペーストの固形分濃度が5重量%〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは15重量%〜40重量%である。ここでいう「固形分濃度」とは、第1隔壁原料の全重量に対する「低融点ガラス+無機材料粉末+有機性添加物」の重量割合を指している。
【0080】
第1隔壁原料の塗布には、ダイコート法、スリットコータ法を用いてよいし、あるいはディスペンス法を用いてもよい。また、別法にて第1隔壁原料をスクリーン印刷によって塗布してよいし、あるいは、スプレー法、フォトリソグラフィー法等を用いて塗布してもよい。尚、塗布に得られる第1隔壁原料膜の厚さは、好ましくは約80〜500μm程度であり、より好ましくは約150〜300μm程度である。第1隔壁原料膜は乾燥処理に付されることになる。乾燥処理では、第1隔壁原料膜を100℃〜200℃程度の乾燥温度条件下に約0.5〜3時間付すことが好ましい。乾燥後、例えば露光および現像するフォトリソグラフィー法によりパターングした後、焼成処理に付す。焼成処理では、400℃〜700℃程度の焼成温度条件下に約1〜6時間付すことが好ましい。そのような乾燥および焼成の手段としては、いわゆる焼成炉のような加熱チャンバーを用いてよい。以上のような処理を経ることによって、隔壁下層部(23a)を下地誘電体層(22)上に形成することができる(図6(c)参照)。
【0081】
隔壁下層部(23a)の形成に引き続いて、隔壁上層部(23b)を形成する。具体的には、第2隔壁原料を隔壁下層部(23a)上に供して第2隔壁原料層を形成した後、かかる第1隔壁原料層を熱処理に付すことによって隔壁上層部(23b)を得る。
【0082】
例えば「背面板基板あるいは隔壁下層部よりも高い軟化点を有する粒子を含んで成る上層部(23b)」を形成する場合では、まず、背面板基板または隔壁下層部よりも高い軟化点を有する粒子や有機溶剤などを含んで成る第2隔壁原料を調製する。「背面板基板ままたは隔壁下層部よりも高い軟化点を有する粒子」は、SiO粒子、Al粒子、MgO粒子、TiO粒子、ZnO粒子、Bi粒子、CeO粒子、CoO粒子、CuO粒子、Fe粒子およびSnO粒子から成る群から選択される少なくとも1種以上の粒子であってよい。かかる粒子の平均粒子サイズは、好ましくは5〜500nm程度であり、より好ましくは50〜200nm程度である。このような高い軟化点を有する粒子が含まれていると、後刻にて前面板と背面板とを封着排気工程の加熱に付した場合であっても、それらの粒子は実質的に溶融することがなく、最終的に隔壁上層部(23b)に存在させることができる。その結果、上層部(23b)にて所望の硬度および表面粗さを得ることができるようになる。「有機溶剤」としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン類;α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールを含むテルペン類;エチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を単独で用いることができる他、これらの溶剤から選ばれた少なくとも1種類または2種類以上の溶剤から成る混合物も用いることができる。第2隔壁原料にはバインダ樹脂を加えてもよい。かかる「バインダ樹脂」としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、メタクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、α−メチルスチレン重合体またはブチルメタクリレート樹脂などを用いることができ、更には、これらを2種以上組み合せて用いることができる。
【0083】
上述した成分から調製される第2隔壁原料は、好ましくはペースト形態を有している。例えば、第2隔壁原料は室温(25℃)およびずり速度1000[1/s]において好ましくは1mPa・s〜50Pa・s程度(特に3mPa・s〜50Pa・s程度)の粘度を有していることが好ましい。第2隔壁原料の各種成分の割合についていえば、第2隔壁原料ペーストの固形分濃度が5重量%〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは15重量%〜40重量%である。ここでいう「固形分濃度」とは、第2隔壁原料の全重量に対する「背面板基板よりも高い軟化点を有する粒子(+バインダ樹脂)」の重量割合を指している。
【0084】
第2隔壁原料の下層部(23a)への供給には、ディスペンス法、インクジェット法または印刷法などを用いてもよい。下層部(23a)上に形成される第2隔壁原料層の厚さは、好ましくは約5〜400μm程度であり、より好ましくは約10〜200μm程度である。かかる第2隔壁原料層は乾燥処理に付されることになる。乾燥処理では、第2隔壁原料層を100℃〜200℃程度の乾燥温度条件下に約0.5〜3時間付すことが好ましい。乾燥後、更に熱処理に付す。かかる熱処理では、400℃〜700℃程度の温度条件下に約1〜6時間付すことが好ましい。このような処理をするために下層部(23a)の形成と同様に加熱チャンバーを用いてよい。以上のような処理を経ることによって、最終的に隔壁下層部(23a)の上に「背面板基板または隔壁下層部よりも高い軟化点を有する粒子を含んだ隔壁上層部(23b)」を得ることができる(図7(a)参照)。
【0085】
尚、隔壁上層部(23b)は、前面板(1)の誘電体層(15)と同じ原料から形成することができる。つまり、前面板誘電体層の形成に用いるペースト状誘電体原料を用いてゾルゲル法を利用して形成することができる。かかる場合の形成法は、前面板(1)の誘電体層(15)の形成と同様であるので、重複を避けるために説明は省略する。尚、かかる場合、かかる場合、隔壁の上層部は、前面板の誘電体層Aと同様、シロキサン骨格(またはシロキサン結合)を含んだガラス材料を含んで成る。また、前面板の誘電体層Aがシリカ粒子を含んで成る場合、隔壁の上層部もシリカ粒子を含んで成ることになる。シリカ粒子は、その平均粒子サイズ(平均粒子径)が50〜200nmであることが好ましく、より好ましくは50〜150nmである。
【0086】
下層部(23a)と上層部(23b)とから成る2層構造の隔壁(23)が形成された後は、蛍光体層(25)を形成する。具体的には、図7(b)に示すように、互いに隣接する隔壁(23)と下地誘電体層(22)とで形成された溝部(24)の各々に蛍光体層(25)を配置する。蛍光体層(25)の原料・形成法自体は、一般的なPDP製造法で採用される蛍光体層の原料・形成法と同じであってよい。例示的に蛍光体層(25)の形成法を説明すると次のようになる。
【0087】
まず、蛍光体粉末と、バインダなどを含む有機性添加物と、有機溶剤とを含有する原料ペーストを、ダイコート法、印刷法、ディスペンス法、又はインクジェット法などにより溝部(24)に塗布することによって蛍光体層の原料膜を配置する。その後、当該原料膜を100℃〜200℃で熱処理する。これにより、原料膜から蛍光体層(25)が形成され、かかる蛍光体層を溝部(24)に配置することができる。蛍光体粉末としては、赤色、緑色、及び青色のそれぞれ公知の蛍光体粉末が使用できる。例えば、赤色の蛍光体粉末としては、Y:Eu、YVO:Eu、YS:Euなどを使用することができ、緑色の蛍光体粉末としては、ZnGeO:M、BaAl1219:Mn、LaPO:Tbなどを使用することができる。青色の蛍光体粉末としては、Sr(POCl:Eu、BaMgAl1424:Euなどを使用することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0089】
例えば、下層部と上層部とから成る2層構造の隔壁は井桁の形態に限らず、その他の形態を有していてもよい。即ち、本発明における隔壁の形態は、ストライプリブ、ボックスリブ(格子リブ)、ワッフルリブ、ミアンダリブなどの形態であってもよい。かかる場合であっても本発明の効果は同様に奏され得る。
【実施例】
【0090】
本発明に従って、前面板および背面板を製作した。
【0091】
《前面板の製作》
以下の誘電体原料ペーストを用いて前面板を製作し、その特性を評価した。
(誘電体原料ペースト)
誘電体層の形成には、以下の組成および物性を有する誘電体原料ペーストを用いた。
・ガラス成分:TEOS等から得られるポリシロキサンオリゴマーと直径10〜150nmの球状シリカ粒子
・有機溶媒成分(70重量%):イソプロピルアルコール、α−テルピネオール
・ペーストの粘度:50mPa・s(25℃)
【0092】
(作製プロセス)
まず、1.8mm厚さのガラス基板(日本電気硝子製のソーダライムガラス)の表面にITOから成る透明電極(透明電極幅0.12mm、厚さ100nm)を形成した後、かかる透明電極上にAgから成るバス電極(バス電極幅0.065mm、厚さ6μm)を形成した。次いで、誘電体原料ペーストをダイコート法によって、ガラス基板上に塗布することによって、厚さ0.015mmの誘電体原料層を形成した。引き続いて、電極と誘電体原料層とを有するガラス基板を500℃の加熱炉に供して、誘電体原料層の全体を20℃/分の昇温速度で加熱して誘電体原料層全体においてポリシロキサンオリゴマーの縮重合反応を進行させた。以上により、シロキサン骨格を含んだガラス材料を含んだ誘電体層を形成した。誘電体層形成後、電子ビーム蒸着法でMgOなどからなる膜を誘電体層上に設けることで保護層を形成して、前面板を完成させた。
【0093】
(誘電体層の特性)
形成された誘電体層の特性・仕様は次のとおりである
・100kHzでの比誘電率:3.0(國洋電機工業製の型式KC−555の測定器を使用)
・透過率:81%(ヘイズメータ(村上色彩技術研究所製、HM−150)を使用)
・物理的欠陥の有無:電子顕微鏡及び光学顕微鏡観察により電極上に沿うようなクラックは無し
・ダイナミック硬度:30kN/mm(島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて、試験モード「負荷−除荷試験」、試験力10mN、負荷速度0.71mN/秒、保持時間5秒の条件にて測定することによって得られた値)
【0094】
《背面板の製作》
以下の第1隔壁原料(隔壁下層部用の原料ペースト)および第2隔壁原料(隔壁上層部用の原料ペースト)を用いて、背面板を製作し、その特性を評価した。

(第1隔壁原料−隔壁下層部用の原料ペースト)
・低融点ガラス(35重量%):B−ZnO−SiO
・フィラ―(5重量%):シリカ
・バインダ樹脂(20重量%):アクリル酸エステル
・有機溶剤(40重量%):イソプロピルアルコール、α−テルピネオール
・ペーストの粘度:1〜30Pa・s(25℃)

(第2隔壁原料−隔壁上層部用の原料ペースト)
・ガラス成分:TEOS等から得られるポリシロキサンオリゴマーと直径10〜150nmの球状シリカ粒子
・有機溶媒成分(70重量%):イソプロピルアルコール、α−テルピネオール
・ペーストの粘度:50mPa・s(25℃)
【0095】
(作製プロセス)
まず、1.8mm厚さのガラス基板(日本電気硝子製のソーダライムガラス)の表面にAgから成るアドレス電極(バス電極幅0.065mm、厚さ2μm)を形成した。次いで、誘電体原料ペーストをダイコート法によって、ガラス基板上に塗布・熱処理することによって、厚さ0.010mmの下地誘電体層を形成した。引き続いて、第1隔壁原料ペーストダイコート法によって、誘電体層に塗布した後、100〜150℃の乾燥に付し、露光・現像した後、450〜550℃の焼成処理に付すことによって、厚さ0.120mmの隔壁下層部を形成した。隔壁下層部を形成した後、その隔壁下層部の上に隔壁上層部を形成した。具体的には、隔壁下層部の上に、印刷法によって隔壁上層部の原料層を形成した後、約500℃に加熱することによって「背面基板より高い軟化点のシリカ粒子を含んで成る隔壁上層部(厚さ10〜15μm)」を得た。下層部と上層部との2層構造の隔壁を形成した後、蛍光体原料ペーストをダイコート法により隔壁間に塗布・乾燥することで蛍光体層を形成して、背面板を完成させた。
【0096】
(隔壁層の特性)
得られた隔壁層のダイナミック硬度は次の通りであった(島津製作所製ダイナミック超微小硬度計DUH−W201を用いて、試験モード「負荷−除荷試験」、試験力10mN、負荷速度0.71mN/秒、保持時間5秒の条件にて測定することによって得られた値)

下層部:約90kN/mm
上層部:約30kN/mm
【0097】
図8(a)は、従来の低融点ガラスで形成された隔壁上層部を斜め上からの走査型電子顕微鏡で観察した写真である。隔壁頂部に低融点ガラスのフリット粒子形状に起因する凹凸が多数存在し、前面板衝突時に応力が集中し得ることが分かった。図8(b)は、本発明の隔壁上層部を斜め上から走査型電子顕微鏡で観察した写真であり、表面凹凸が緩和されており、隔壁上層部の表面が平坦化・平滑化されている。具体的には隔壁上層部の表面の粗さRaは約0.05μmとなっており、前面板衝突時に応力を分散できることが分かった。
【0098】
以上の実施例より、隔壁上層部が比較的軟らかいものとなっており、また、表面が平坦化されているので、隔壁壁との接触に起因する前面板の誘電体層の損傷が防止され、その結果、前面板誘電体層におけるクラック発生が防止されることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明では、背面板との衝突による膜の破壊を懸念することなくゾルゲル法で誘電体層を形成することができるので、比誘電率5以下の誘電体層を形成できる。つまり、本発明のPDPでは、誘電体層の破壊に起因した絶縁破壊を防止できることに加えて、材料の観点から低誘電率化できるので、結果的に、高い発光効率が達成され、低消費電力のPDPを実現できる。このように本発明の製造方法によって得られるPDPは、輝度劣化および誘電体層クラックの防止が図られた信頼性の高いものであるので、一般家庭向けテレビジョンおよび商業用のディスプレイとして好適に用いることができる他、その他の表示デバイスにも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 前面板
2 背面板
10 前面板側の基板
11 前面板側の電極(表示電極)
12 走査電極
12a 透明電極
12b バス電極
13 維持電極
13a 透明電極
13b バス電極
14 ブラックストライプ(遮光層)
15 前面板側の誘電体層
15a 誘電体原料層
16 保護層
20 背面板側の基板
21 背面板側の電極(アドレス電極)
22 背面板側の誘電体層
23 隔壁
24 溝部
25 蛍光体層
26 隔壁上層
30 放電空間
32 放電セル
50 クラック
100 PDP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルであって、
前記前面板の前記誘電体層Aがシロキサン骨格を含んだガラス材料を含んで成り、
前記隔壁が下層部と上層部とから成る2層構造となっており、前記下層部が前記誘電体層B上に設けられ、前記上層部が前記下層部の上に設けられており、
前記隔壁の前記上層部の硬度が前記前面板の前記誘電体層Aの硬度以下となっていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記隔壁の前記上層部の表面粗さが、算術平均粗さRaで1μm以下となっていることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記隔壁の前記上層部が、前記背面板の前記基板Bよりも高い軟化点を有する粒子を含んで成ることを特徴とする、請求項1または2に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記隔壁の前記上層部が、前記前面板の前記誘電体層Aと同じ材質から形成されており、該上層部がシロキサン骨格を含んだガラス材料を含んで成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記前面板の前記誘電体層Aおよび前記隔壁の前記上層部の双方がシリカ粒子を含んで成ることを特徴とする、請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
基板A上に電極Aと誘電体層Aと保護層とが形成された前面板と、基板B上に電極Bと誘電体層Bと隔壁と蛍光体層とが形成された背面板とが対向配置されて成るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記背面板の前記隔壁の形成が、
(i)第1隔壁原料を用いて隔壁下層部を形成する工程、および
(ii)第2隔壁原料を用いて、前記下層部の上に隔壁上層部を形成する工程
を含んで成り、
前記第2隔壁原料として、前記前面板の前記誘電体層Aの原料を用いることを特徴とする、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−238467(P2011−238467A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109004(P2010−109004)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】