説明

プラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペースト及びプラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のプラズマディスプレイパネルを実現することを目的とする。
【解決手段】プラズマディスプレイパネルにおいて、保護層9は、誘電体層8上に下地膜91を蒸着した後、その下地膜91に、金属酸化物と有機樹脂成分と希釈溶剤を含む金属酸化物ペーストを塗布し、その後金属酸化物ペーストを焼成することにより、前記下地膜91に金属酸化物の粒子を複数個付着させて形成し、かつ前記金属酸化物ペーストは、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペースト及びプラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットディスプレイパネル(以下、FPDと呼ぶ)と呼ばれるプラズマディスプレイ(以下、PDPと呼ぶ)、液晶ディスプレイや有機ELに代表されるFPDは近年高精細化が進んでおり、市場では低コスト・低消費電力・高輝度のフルHD(ハイ・ディフィニション)(1920×1080画素:プログレッシブ表示)FPDが要望されている。中でもPDPは、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、65インチクラスのテレビなどが製品化されている。
【0003】
PDPは、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法による硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、ガラス基板の一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。一方、背面板は、ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
【0004】
前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させて気密封着され、隔壁によって仕切られた放電空間にNe−Xeの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、青色の発光をさせてカラー画像表示を実現している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−48733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなPDPにおいて、前面板の誘電体層上に形成される保護層は、放電によるイオン衝撃から誘電体層を保護すること、アドレス放電を発生させるための初期電子を放出することなどがあげられる。イオン衝撃から誘電体層を保護することは、放電電圧の上昇を防ぐ重要な役割であり、またアドレス放電を発生させるための初期電子を放出することは、画像のちらつきの原因となるアドレス放電ミスを防ぐ重要な役割である。
【0006】
保護層からの初期電子の放出数を増加させて画像のちらつきを低減するためには、たとえばMgOにSiやAlを添加するなどの試みが行われている。
【0007】
近年、テレビは高精細化が進んでおり、市場では低コスト・低消費電力・高輝度のフルHD(ハイ・ディフィニション)(1920×1080画素:プログレッシブ表示)PDPが要求されている。保護層からの電子放出特性はPDPの画質を決定するため、電子放出特性を制御することは非常に重要である。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたもので、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のPDPを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明の金属酸化物ペーストは、金属酸化物の粒子と有機樹脂成分と希釈溶剤を含むプラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペーストであって、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の製造方法は、基板上に形成した表示電極を覆うように誘電体層を形成するとともにその誘電体層上に保護層を形成した前面板と、この前面板に放電空間を形成するように対向配置されかつ前記表示電極と交差する方向にアドレス電極を形成するとともに前記放電空間を区画する隔壁を設けた背面板とを有し、前記前面板の保護層は、前記誘電体層上に下地膜を蒸着した後、その下地膜に、金属酸化物と有機樹脂成分と希釈溶剤を含む金属酸化物ペーストを塗布し、その後金属酸化物ペーストを焼成することにより、前記下地膜に金属酸化物の粒子を複数個付着させて形成し、かつ前記金属酸化物ペーストは、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
PDPにおいて、保護層に不純物を混在させることで電子放出特性を改善しようとする試みが行われているが、保護層に不純物を混在させ、電子放出特性を改善した場合、これと同時に保護層表面に電荷が蓄積され、メモリー機能として使用しようとする際の電荷が時間と共に減少する減衰率が大きくなってしまうため、これを押さえるための印加電圧を大きくする等の対策が必要になる。このように保護層の特性として、高い電子放出能を有すると共に、メモリー機能としての電荷の減衰率を小さくする、すなわち高い電荷保持特性を有するという、相反する二つの特性を併せ持たなければならないという課題があった。
【0012】
本発明は、電子放出特性を改善するとともに、電荷保持特性も併せ持ち、高画質と、低コスト、低電圧を両立することのできるPDPを提供することにより、低消費電力で高精細で高輝度の表示性能を備えたPDPを実現することができる。
【0013】
また、本発明により、分散性、印刷性、燃焼性に優れた金属酸化物ペーストを提供することにより、金属酸化物の粒子をパネル面内に均一に付着させることができ、高精細で高輝度の表示性能を備えたPDPを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態におけるPDPについて図面を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図である。PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などよりなる前面板2と、背面ガラス基板11などよりなる背面板10とが対向して配置され、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、NeおよびXeなどの放電ガスが400Torr〜600Torrの圧力で封入されている。前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその表面に酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層9が形成されている。
【0016】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の走査電極4および維持電極5と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝にアドレス電極12毎に、紫外線によって赤色、緑色および青色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。走査電極4および維持電極5とアドレス電極12とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極6方向に並んだ赤色、緑色、青色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
【0017】
図2は、本発明の一実施の形態におけるPDP1の前面板2の構成を示す断面図であり、図2は図1と上下反転させて示している。図2に示すように、フロート法などにより製造された前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6と遮光層7がパターン形成されている。走査電極4と維持電極5はそれぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。金属バス電極4b、5bは、透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。誘電体層8は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bと遮光層7を覆って設けた、第1誘電体層81と、第1誘電体層81上に形成された第2誘電体層82の少なくとも2層構成とし、誘電体層8上に保護層9を形成している。
【0018】
次に、本発明に掛かるPDPの特徴である保護層9の構成について説明する。図2に示すように、保護層9は、誘電体層8上に、Alを不純物として含有するMgOからなる下地膜91を形成するとともに、その下地膜91上に、金属酸化物であるMgOの結晶粒子92を離散的に散布させ、全面に亘ってほぼ均一に分布するように形成している。また、MgOの結晶粒子92は、下地膜91上に2%〜12%の範囲の被覆率でかつ全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させている。
【0019】
ここで、前記被覆率とは、1個の放電セルの領域において、MgOの結晶粒子92が付着している面積aを1個の放電セルの面積bの比率で表したもので、被覆率(%)=a/b×100の式により求めたものである。実際に測定する場合の方法としては、例えば、隔壁14により区切られた1個の放電セルに相当する領域をカメラにより画像を撮影し、x×yの1セルの大きさにトリミングした後、トリミング後の撮影画像を白黒データに2値化し、その後その2値化したデータに基づきMgOの結晶粒子92による黒エリアの面積aを求め、上述したように、a/b×100の式により演算することにより求めたものである。
【0020】
次に、PDPの製造方法について説明する。まず、図2に示すように、前面ガラス基板3上に、走査電極4および維持電極5と遮光層7とを形成する。これらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bは、フォトリソグラフィ法などを用いてパターニングして形成される。透明電極4a、5aは薄膜プロセスなどを用いて形成され、金属バス電極4b、5bは銀(Ag)材料を含むペーストを所望の温度で焼成して固化している。また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成される。
【0021】
そして、走査電極4、維持電極5および遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体ペーストをダイコート法などにより塗布して誘電体ペースト層(誘電体材料層)を形成する。その後、誘電体ペースト層を焼成固化することにより、走査電極4、維持電極5および遮光層7を覆う誘電体層8が形成される。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料、バインダおよび溶剤を含む塗料である。
【0022】
さらに、誘電体層8上に酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層91を真空蒸着法により形成する。
【0023】
以上の工程により、前面ガラス基板3上に、本発明に掛かる保護層91以外の所定の構成物(走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層91)が形成される。
【0024】
次に、本発明に係る保護層を形成する製造工程について、図3を用いて説明する。図3に示すように、誘電体層8を形成する誘電体層形成工程A1を行った後、次の下地膜蒸着工程A2において、Alを含むMgOの焼結体を原材料とした真空蒸着法によって、MgOからなる下地膜を誘電体層8上に形成する。その後、下地膜蒸着工程A2において形成した未焼成の下地膜上に、金属酸化物であるMgOの結晶粒子92を離散的に形成させる工程を行なう。そして結晶粒子ペースト膜工程A3において、本発明の金属酸化物ペーストを用い、スクリーン印刷法により未焼成の下地膜上に結晶粒子ペースト膜を形成する。尚、本発明のペーストの詳細については、後ほど述べる。また未焼成の下地膜上に結晶粒子ペースト膜を形成する方法として、スクリーン印刷法以外に、スプレー法、スピンコート法、ダイコート法、スリットコート法等も用いることができる。
【0025】
次に結晶粒子ペースト膜を乾燥させる乾燥工程A4を行う。その後、下地膜蒸着工程A2において形成した未焼成の下地膜と、結晶粒子ペースト膜形成工程A3において形成し、乾燥工程A4を実施した結晶粒子ペースト膜とを、数百度の温度で加熱焼成する焼成工程A5において、同時に焼成を行い、結晶粒子ペースト膜に残っている溶剤や樹脂成分を除去することにより、下地保護膜91上にMgOの結晶粒子92を付着させた保護層9を形成することができる。
【0026】
なお、以上の説明では、保護層として、MgOを例に挙げたが、下地に要求される性能はあくまでイオン衝撃から誘電体を守るための高い耐スパッタ性能を有することであり、高い電荷保持能力、すなわちあまり電子放出性能が高くなくてもよい。従来のPDPでは、一定以上の電子放出性能と耐スパッタ性能という二つを両立させるため、MgOを主成分とした保護層を形成する場合が非常に多かったのであるが、電子放出性能が金属酸化物単結晶粒子によって支配的に制御される構成を取るため、MgOである必要は全くなく、Al等の耐衝撃性に優れる他の材料を用いても全く構わない。また、上述した本説明では、結晶粒子としてMgO粒子を用いて説明したが、この他の単結晶粒子でも、MgO同様に高い電子放出性能を持つSr,Ca,Ba,Al等の金属の酸化物による結晶粒子を用いても同様の効果を得ることができるため、粒子種としてはMgOに限定されるものではない。
【0027】
以上の工程により、前面ガラス基板3上に、本発明に係る保護層91を含めた所定の構成物(走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層91、保護層92)が形成される。
【0028】
一方、背面板10は次のようにして形成される。まず、背面ガラス基板11上に、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極12用の構成物となる材料層を形成し、それを所望の温度で焼成することによりアドレス電極12を形成する。次に、アドレス電極12が形成された背面ガラス基板11上にダイコート法などによりアドレス電極12を覆うように誘電体ペーストを塗布して誘電体ペースト層を形成する。その後、誘電体ペースト層を焼成することにより下地誘電体層13を形成する。なお、誘電体ペーストはガラス粉末などの誘電体材料とバインダおよび溶剤を含んだ塗料である。
【0029】
次に、下地誘電体層13上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布して所定の形状にパターニングすることにより、隔壁材料層を形成した後、焼成することにより隔壁14を形成する。ここで、下地誘電体層13上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。次に、隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上および隔壁14の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布し、焼成することにより蛍光体層15が形成される。以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0030】
このようにして所定の構成部材を備えた前面板2と背面板10とを走査電極4とアドレス電極12とが直交するように対向配置して、その周囲をガラスフリットで封着し、放電空間16にNe、Xeなどを含む放電ガスを封入することによりPDP1が完成する。
【0031】
次に、本発明による金属酸化物ペーストを用いて印刷性の効果を確認するために行った実験結果について説明する。以降の説明中で述べる使用薬品種及びその量などの数値条件は、本発明の範囲内の一例に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0032】
まず、MgOの結晶粒子を付着させた層を形成するためのペーストについて、表1に基づく組成成分からなる材料を三本ロールでよく混練し調製した。なお、表1中の有機樹脂成分はエチルセルロースを用いているが、それ以外にも、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートなどのセルロース誘導体を用いることができる。
【0033】
また、前記セルロース誘導体のほかに、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、ソルビン酸、ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキノンモノアクリレート、ヒドロキノンモノメタクリレート、ヒドロキノンジアクリレート、ヒドロキノンジ2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、N−ブチルアクリレート、N−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシアクリレート、フェノキシメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールプロパンテトラメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、カルドエポキシジアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレートエチレングリコールジアクリレート、これら例示化合物の(メタ)アクリレートをフマレートに代えたフマル酸エステル、マレエートに代えたマレイン酸エステル、クロトネートに代えたクロトン酸エステル、イタコネートに代えたイタコン酸エステル、ウレタンメタクリレート、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの重合体または共重合体などのアクリル系樹脂を単独もしくはセルロース誘導体と組合せて使用してもよい。
【0034】
また、表1に記載の希釈溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)とターピネオールを用いているが、それ以外にも、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、4−メトキシブチルアセテート、2−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−エチル−3−メトキシブチルアセテート、2−エトキシブチルアセテート、4−エトキシブチルアセテート、4−プロポキシブチルアセテート、2−メトキシペンチルアセテートなどを、単独でも、または2種以上を組合せても使用できる。
【0035】
また、ペースト中には、必要に応じて可塑剤としてフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブチルを添加し、分散剤としてグリセロールモノオレート、ソルビタンセスキオレヘート、ホモゲノール(Kaoコーポレーション社製品名)、アルキルアリル基のリン酸エステルなどを添加してもよい。
【0036】
【表1】

【0037】
以上のように調製した金属酸化物ペーストについて、走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8、保護層91が形成された基板上に、スクリーン印刷法を用いて塗布した際の印刷性の確認を行った。この結果を図4に示す。
【0038】
なお、図4は、エチルセルロース濃度(EC濃度)に対する粘度ηを示しており、図4において、スクリーン版にはL380Sメッシュを使用した。粘度ηは、レオストレスRS600(Hakke社製)を用いて、せん断速度D=1(1/s)時の粘度値を示している。印刷性の評価は、印刷時のノッキングを観察し、図4中、ノッキングが発生しているものについては黒塗りでプロットし、ノッキングが発生していないものについては、白抜きでプロットして示している。
【0039】
この図4からわかるように、エチルセルロースの分子量グレードによる粘度値に依らず、ペースト中に含まれるエチルセルロースの含有体積が、8.0vol%未満ではノッキングが発生していることがわかる。これはスクリーン印刷におけるスクリーン版とスキージとの摩擦抵抗が、ペースト粘度よりも、ペースト中に含まれる有機樹脂成分量に依存していることを表している。なお、誘電体ペーストなどでは、有機樹脂成分が5%程度のものが上市され使用されているが、これはペースト中に含まれる金属酸化物に代表される無機成分量が1.5vol%以上含まれていることから、スクリーン版とスキージとの摩擦抵抗を緩和しているためによる。
【0040】
またノッキングが発生した基板の被覆率を測定したところ、面内ばらつきが約10%以上となり、全面に亘り均一なMgOの結晶粒子層を形成することができなかった。一方、ノッキングが発生していない基板の被覆率は、面内ばらつきが約6%以内となり、面内に亘り均一な金属酸化物の結晶粒子層を形成できていた。
【0041】
ここで言う面内ばらつきとは、前述方法で求めた面内54点の被覆率について、標準偏差σと平均値Mを求め、σを平均で割った値である。すなわち、面内ばらつき=σ/M×100(%)で表される。
【0042】
以上のことから、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下のスクリーン印刷用ペーストにおいて、ノッキングせず良好な印刷性を有するには、前記有機樹脂成分量が8.0vol%以上必要なことがわかった。
【0043】
一方、図3の本発明に掛かる保護層を形成する製造工程において、結晶粒子ペースト膜形成工程A3及び乾燥工程A4の後に、焼成工程A5により、前記ペースト中に含まれる有機成分を除去する必要があるが、ペースト中に含まれる有機樹脂成分量が多くなれば、それだけ焼成残渣物が増える結果となり、完成後のPDPパネル内に有機物を持ち込むこととなり、放電特性へ悪影響を及ぼしてしまうことがわかった。これらの結果に基づき、実験と検討を繰り返した結果、ペースト中に含まれる有機樹脂成分量が20vol%以下であれば、有機樹脂成分の残渣物によるパネル放電特性への悪影響をなくすことができることがわかった。
【0044】
以上のことから、金属酸化物の粒子と有機樹脂成分と希釈溶剤を含む金属酸化物ペーストであって、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%含まれることにより、印刷性に適し、且つ有機樹脂成分の残渣による放電特性を悪化させないペーストを提供することが可能となる。
【0045】
次に、本発明による金属酸化物ペーストを用いて形成した保護層を有するPDPの効果を確認するために行った実験結果について説明する。
【0046】
まず構成の異なる保護層を有するPDPを試作した。試作品1は、MgOによる保護層のみを形成したPDP、試作品2は、Al,Siなどの不純物をドープしたMgOによる保護層を形成したPDP、試作品3は、本発明のペーストに掛かるPDPで、MgOによる保護層上に金属酸化物からなる結晶粒子を全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させたPDPである。なお、試作品3において、金属酸化物としては、MgOの単結晶粒子を用い、カソードルミネッセンスを測定したところ、図5に示すような特性を有していた。
【0047】
これらの3種類の保護層の構成を有するPDPについて、その電子放出性能と電荷保持性能を調べた。
【0048】
なお、電子放出性能は、大きいほど電子放出量が多いことを示す数値で、放電の表面状態及びガス種とその状態によって定まる初期電子放出量をもって表現する。初期電子放出量については表面にイオン、あるいは電子ビームを照射して表面から放出される電子電流量を測定する方法で測定できるが、パネルの前面板表面の評価を非破壊で実施することは困難を伴う。そこで、特開2007−48733号公報に記載されているように、放電時の遅れ時間のうち、統計遅れ時間と呼ばれる放電の発生しやすさの目安となる数値を測定し、その逆数を積分することで、初期電子の放出量と線形に対応する数値になるため、ここではこの数値を用いて評価している。この放電時の遅れ時間とは、パルスの立ち上がりから放電が遅れて行われる放電遅れの時間を意味し、放電遅れは、放電が開始される際にトリガーとなる初期電子が保護層表面から放電空間中に放出されにくいことが主要な要因として考えられている。
【0049】
また、電荷保持性能は、その指標として、PDPとして作成した場合に電荷放出現象を押さえるために必要とする、走査電極に印加する電圧(以下Vscn点灯電圧と呼称する)の電圧値を用いた。すなわち、Vscn点灯電圧の低い方が電荷保持能力が高いことを示す。このことは、PDPのパネル設計上でも低電圧で駆動できるため、電源や各電気部品として、耐圧および容量の小さい部品を使用することが可能となる。現状の製品において、走査電圧を順次パネルに印加するためのMOSFETなどの半導体スイッチング素子には、耐圧150V程度の素子が使用されており、Vscn点灯電圧としては、温度による変動を考慮し、120V以下に抑えるのが望ましい。
【0050】
これらの電子放出性能と電荷保持性能について調べた結果を図6に示している。この図6から明らかなように、MgOによる下地膜上に、本発明のペーストを用いてMgOの単結晶粒子を全面に亘ってほぼ均一に分布するように形成した試作品3は、電荷保持性能の評価において、Vscn点灯電圧を120V以下にすることができ、しかも電子放出性能は6以上の良好な特性を得ることができる。
【0051】
すなわち、一般的にはPDPの保護層の電子放出能力と電荷保持能力は相反する。例えば、保護層の製膜条件を変更し、また、保護層中にAlやSi、Baなどの不純物をドーピングして製膜することにより、電子放出性能を向上することは可能であるが、副作用としてVscn点灯電圧も上昇してしまう。しかしながら、本発明のペーストを用いてMgOの単結晶粒子を全面に亘ってほぼ均一に分布するように形成した試作品3は、電子放出能力としては、6以上の特性で、電荷保持能力としてはVscn点灯電圧が120V以下のものを得ることができ、高精細化により走査線数が増加し、かつセルサイズが小さくなる傾向にある、PDPの保護層に対しては、電子放出能力と電荷保持能力の両方を満足させることができる。
【0052】
次に、試作品3に用いた結晶粒子の粒径について説明する。なお、以下の説明において、粒径とは平均粒径を意味し、平均粒径とは、体積累積平均径(D50)のことを意味している。
【0053】
図7は、上記図6で説明した本発明の試作品3において、MgOの結晶粒子の粒径を変化させて電子放出性能を調べた実験結果を示すものである。なお、図7において、MgOの結晶粒子の粒径は、マイクロトラックHRA粒度分布計にて、試薬1級以上のエタノール溶液中で粒度分布を測定したときの平均粒径を示し、さらに結晶粒子をSEM観察することにより測定している。
【0054】
この図7に示すように、粒径が0.3μm程度に小さくなると、電子放出性能が低くなり、ほぼ0.9μm以上であれば、高い電子放出性能が得られることがわかる。
【0055】
ところで、放電セル内での電子放出数を増加させるためには、保護層上の単位面積当たりの結晶粒子数は多い方が望ましいが、本発明者らの実験によれば、前面板の保護膜と密接に接触する背面板の隔壁の頂部に相当する部分に結晶粒子が存在することで、隔壁の頂部を破損させ、その材料が蛍光体の上に乗るなどによって、該当するセルが正常に点灯消灯しなくなる現象が発生することがわかった。この隔壁破損の現象は、結晶粒子が隔壁頂部に対応する部分に存在しなければ発生しにくいことから、付着させる結晶粒子数が多くなれば、隔壁の破損発生確率が高くなる。
【0056】
図8は、上記図6で説明した本発明に掛かる試作品3において、単位面積当たりに粒径の異なる同じ数の結晶粒子を散布し、隔壁破損の関係を実験した結果を示す図である。この図8から明らかなように、結晶粒子径が2.5μm程度に大きくなると、隔壁破損の確率が急激に高くなるが、2.5μmより小さい結晶粒子径であれば、隔壁破損の確率は比較的小さく抑えることができることがわかる。
【0057】
以上の結果に基づくと、本発明に掛かるPDPにおける保護層においては、結晶粒子として、粒径が0.9μm以上2.5μm以下のものが望ましいと考えられるが、PDPとして実際に量産する場合には、結晶粒子の製造上でのばらつきや保護層を形成する場合の製造上でのばらつきを考慮する必要がある。
【0058】
このような製造上でのばらつきなどの要因を考慮するために、粒径分布の異なる結晶粒子を用いて実験を行った結果、図9に示すように、平均粒径が0.9μm〜2μmの範囲にある結晶粒子を使用すれば、上述した本発明の効果を安定的に得られることがわかった。
【0059】
以上のように本発明によるスクリーン印刷用金属酸化物ペーストを用いて形成した保護層を有するPDPにおいては、電子放出能力としては、6以上の特性で、電荷保持能力としてはVscn点灯電圧が120V以下のものを得ることができ、高精細化により走査線数が増加し、かつセルサイズが小さくなる傾向にあるPDPの保護層として、電子放出能力と電荷保持能力の両方を満足させることができ、これにより高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のPDPを実現することができる。
【0060】
ところで、本発明に掛かるPDPにおいては、上述したように、MgOの結晶粒子92は、2%〜12%の範囲の被覆率でかつ全面に亘って分布するように付着させている。これは、本発明者らがMgOの結晶粒子92の被覆率を変化させたサンプルを試作し、それらのサンプルの特性を調べた結果に基づいている。すなわち、MgOの結晶粒子の被覆率が高くなるにしたがって、Vscn点灯電圧が大きくなって悪化し、逆に被覆率が小さくなるにしたがって、Vscn点灯電圧が小さくなる特性を示すことがわかった。
【0061】
これらの結果に基づき、実験と検討を繰り返した結果、上述したようなMgOの結晶粒子を付着させたことによる効果を十分に発揮させるためには、MgOの結晶粒子の被覆率は12%以下とすれば良いことがわかった。
【0062】
一方、MgOの結晶粒子は、特性のばらつきを小さくするためには各放電セルに存在していることが必要であり、そのためには下地膜上に全面に亘ってほぼ均一に分布するように付着させる必要があるが、被覆率が小さい場合、面内でのばらつきが大きくなる傾向を示し、結晶粒子の放電セル間における付着状態のばらつきが大きくなってしまうことがわかった。本発明者らが実験した結果では、被覆率が4%以上になるようにMgOの結晶粒子を付着させると、面内ばらつきを約4%以下に抑えることができることがわかった。また、被覆率が2%以上になるようにMgOの結晶粒子を付着させた場合も、面内ばらつきを約6%程度に抑えることができ、実用上は問題ないことがわかった。
【0063】
これらの結果より、本発明においては、被覆率が2%〜12%の範囲になるようにMgOの結晶粒子を付着させるのが望ましく、さらには被覆率が4%〜12%の範囲になるようにMgOの結晶粒子を付着させるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように本発明は、高精細で高輝度の表示性能を備え、かつ低消費電力のPDPを実現する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図
【図2】同PDPの前面板の構成を示す断面図
【図3】本発明によるPDPの製造方法において、保護層形成の工程を示す工程図
【図4】同ペーストを用いて実験した結果を示す特性図
【図5】結晶粒子のカソードルミネッセンス測定結果を示す特性図
【図6】本発明による効果を説明するために行った実験結果において、PDPにおける電子放出特性とVscn点灯電圧の検討結果を示す特性図
【図7】結晶粒子の粒径と電子放出特性の関係を示す特性図
【図8】結晶粒子の粒径と隔壁の破損の発生率との関係を示す特性図
【図9】本発明によるPDPにおいて、結晶粒子の粒度分布の一例を示す特性図
【符号の説明】
【0066】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a,5a 透明電極
4b,5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間
91 下地膜
92 MgO結晶粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の粒子と有機樹脂成分と希釈溶剤を含むプラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペーストであって、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペースト。
【請求項2】
金属酸化物の粒子が酸化マグネシウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル用金属酸化物ペースト。
【請求項3】
基板上に形成した表示電極を覆うように誘電体層を形成するとともにその誘電体層上に保護層を形成した前面板と、この前面板に放電空間を形成するように対向配置されかつ前記表示電極と交差する方向にアドレス電極を形成するとともに前記放電空間を区画する隔壁を設けた背面板とを有し、前記前面板の保護層は、前記誘電体層上に下地膜を蒸着した後、その下地膜に、金属酸化物と有機樹脂成分と希釈溶剤を含む金属酸化物ペーストを塗布し、その後金属酸化物ペーストを焼成することにより、前記下地膜に金属酸化物の粒子を複数個付着させて形成し、かつ前記金属酸化物ペーストは、ペースト中に含まれる前記金属酸化物の粒子の含有量が1.5vol%以下で、ペースト中に含まれる前記有機樹脂成分が8.0〜20.0vol%であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項4】
スクリーン印刷法により金属酸化物ペーストを塗布することを特徴とする請求項3に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−252621(P2009−252621A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101196(P2008−101196)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】