説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】 電極上やその近傍に形成された薄膜誘電体層にクラックや歪みが発生しないプラズマディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【解決手段】 前面板390の基板の内面側において、複数のバス電極405a及びバス電極405bが並設され、これらバス電極405a及びバス電極405bを覆うように誘電体層406が形成されているプラズマディスプレイパネルであって、誘電体層406は誘電性材料からなる薄膜体であり、誘電体層406とバス電極405a及びバス電極405bとの間に熱応力緩和層408が挿設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルに関し、特に、製造過程における焼成プロセスにおいて品質不良の発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビ等に用いられているディスプレイ装置において、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という。)は、大型で薄型軽量化を実現することのできるディスプレイデバイスとして注目されており、特に、沿面放電を行うAC型PDPは長寿命化に適した構成であり、その主流となっている。
以下、AC型PDPの構成について説明する。
【0003】
従来のPDP1000は、図4に示すように、前面板1390と背面板1391とを対向させてその外周を封着ガラスによって封着された構成を有する。
前面板1390は、前面ガラス基板1401の表面上に帯状の透明電極1403a及び透明電極1403bがストライプ状に積層され、各透明電極の両縁部の一方にライン状のバス電極1405a及びバス電極1405bが積層され、さらに、その上に誘電体層1406及び保護層1407が順次積層されてなる。
【0004】
透明電極1403a及び透明電極1403bに、それぞれバス電極1405a及びバス電極1405bを合わせたものを表示電極という。
ここで、隣り合う表示電極同士が対をなしており、その一方をスキャン電極、他方をサステイン電極という。
バス電極1405は、高い導電性を有する銀などの金属材料を主成分とするため、全体の抵抗値を下げる役割を果たす。
【0005】
また、背面板1391は、背面ガラス基板1411の表面上にストライプ状のアドレス電極1412が形成され、その上に誘電体層1413が形成され、さらに、隣り合うアドレス電極1412同士の間に隔壁1414が形成され、形成された隣り合う隔壁1414間に蛍光体層1415が形成されてなる。
背面板1391と上記前面板とが、それぞれに配されているアドレス電極1412とバス電極1405とが直交するように対向配置され、背面板1391または前面板1390の外縁が封着されており、内部に形成される密閉空間に放電ガスが充填されている。
【0006】
上記一対のバス電極1405a及びバス電極1405bと1本のアドレス電極1412とが、放電空間を挟んで立体的に交差する領域が画像表示に寄与するセルとなる。
以下、PDP1000の透明電極の製造方法について説明する。
先ず前面板の製造方法について説明する。
蒸着法又はスパッタリング法などの公知技術を用いて、前面ガラス基板の表面上に、ITO(Indium Tin Oxide)またはSnO2などの透明性を有する導電体材料を平行に複数列生成することにより透明電極を形成する。
【0007】
さらに、スクリーン印刷法又はフォトリソグラフィ法などの公知技術を用いて、線状のAgペーストからなるバス電極の前駆体が帯状の各透明電極上をその長手方向に縦断して、その端部が前面ガラス基板の縁部にまで達するように形成した後、前面ガラス基板ごと焼成することによって、バス電極1405を厚膜形成する。
このようにすることにより、前面ガラス基板1401上には、放電セルの存する領域に配された透明電極と前面ガラス基板1401とに跨るようにバス電極1405が形成され、さらにこれらの上に、誘電体層1406の前駆体を印刷などにより塗布した後、焼成を行うことにより、膜厚30〜45μmの誘電体層1406を厚膜形成する。
【0008】
理論上、誘電体層の厚みが薄くなるほど、電界強度が高められ、放電開始電圧低くなり、発光効率が向上することが明らかとなっており、上記誘電体層において厚みを薄くしたいという要請がある。
また、誘電体層1406の前駆体、即ち、低融点ガラスペースト中には、有機バインダが含まれており、この有機バインダが焼成時に分解されてガス化することにより、図4に示すように、1)内部に気泡が生じ易く、また、2)厚みが部分的に不均一となり易くなるため、絶縁性能の低下、即ち、耐電圧の低下を招く恐れがある。
【0009】
近年、このような問題を改善するものとして、図5に示すように、誘電体層として薄膜体を多層積層した構造を採用したPDP2000がある(例えば、特許文献1)。
より具体的には、上述の多層積層構造の誘電体層2406は、バス電極1405a及びバス電極1405bを覆うようにAl23からなる第1層を形成し、その上に膜厚2〜10μmの高珪酸ガラスを主成分とする第2層およびAl23からなる第3層をそれぞれ真空蒸着法などによって薄膜体として順次積層させてなる。
【0010】
このような薄膜の多層積層構造を有する誘電体層は、ガラス基板と高珪酸ガラスの中間の熱膨張係数を有するAl23で高珪酸ガラスをサンドイッチしているため、クラックが生じ難いとされている。
【特許文献1】特開昭55−143754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のPDPは、クラックが生じ難いとされていながらも、誘電体層の縁部であって電極が存在する近傍において、誘電体層や電極にクラックや歪が生じる場合があり、クラックや歪の発生を十分に抑制できていないという問題がある。
特に、バス電極をAl−Nd系電極材料などにより形成した後、CVD法などによって薄膜の前記誘電体層を形成し、その後の高温プロセス(約450℃)で焼成を行った場合に、前記誘電体層の縁部において、上記クラックの発生は顕著となる。
【0012】
このように誘電体層にクラックが生じると、バス電極間、即ち表示電極間における耐電圧が低下し、電力損失が生じるために発光効率の低下を招く。
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、高い耐電圧性能を維持しながら、電極上やその近傍に形成された薄膜誘電体層にクラックや歪が発生しないプラズマディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラズマディスプレイパネルは、対向配置された一対の基板における一方の基板の内面側において、複数の電極が並設され、これら電極を覆うように誘電体層が形成されているプラズマディスプレイパネルであって、前記誘電体層は誘電性材料からなる薄膜体であり、前記誘電体層と前記電極との間に熱応力緩和層が挿設されていることを特徴する。
【発明の効果】
【0014】
上記構成により、前記誘電体層が厚膜体ではなく薄膜体であるため、厚膜体の形成時に問題となるガスの発生又は内部応力の増大に起因する耐電圧の低下がそもそも生じず、しかも、誘電体層と電極とが接合されている場合には、構造的に内部応力が集中し易い部分に、熱応力の発生を緩和する熱応力緩和層が挿設されているために、内部応力の集中が起こり難くなり、誘電体層及び電極にクラックや歪などの発生が抑制される。
【0015】
ここで、薄膜体とは、薄膜形成技法により作成される膜体のことを意味し、より具体的には、上記薄膜形成技法とは、ICP−CVD法(誘導結合プラズマCVD法)、Cat−CVD法(触媒CVD法)などのCVD法(化学気相成長法)のことを指す。
誘電体層及び電極にクラックや歪などの発生が抑制されることで、誘電体層による所定の絶縁性能が発揮され、耐電圧の低下が生じない。つまり、耐電圧低下時に電流リークで失われていた電力を、有効に活用することができるため、その分放電開始電圧が低減でき、発光効率を向上させることができる。
【0016】
さらに、前記熱応力緩和層の熱膨張係数の値は、前記誘電体層の熱膨張係数の値と前記電極の熱膨張係数の値とに挟まれる範囲内にあることが望ましい。
これにより、誘電体層形成時以降に実施される加熱プロセスにおいて、前記熱応力緩和層の熱収縮(膨張)量は、誘電体層の熱収縮(膨張)量と電極の熱収縮(膨張)量との間にあるので、直接、誘電体層と電極とが接触している場合よりも、熱応力の発生が抑制され、誘電体層及び電極にクラックや歪などの発生が抑制される。
【0017】
また、前記内面において、前記誘電体層が形成されている形成領域と形成されていない非形成領域とが存在し、前記熱応力緩和層は、前記形成領域と前記非形成領域との境界部又はその近傍に存在することが望ましい。
上述のように、形成領域と非形成領域と境界、即ち、誘電体層における境界部に臨む端部が開放端となっているので、例えば周囲に開放端が存在せず基板と密着している上記形成領域の中央領域によりも、加熱プロセス時における熱収縮(膨張)時の変位量が大きくなり易いため、内部応力が集中し易い前記境界部にも洩れなく内部応力の低減が図られる。
【0018】
また、前記熱応力緩和層は、前記電極の少なくとも一部表面を覆っていることが望ましい。
これにより、前記熱応力緩和層により前記電極が覆れている部分の近傍において、誘電体層及び電極の内部応力の集中が抑制され、誘電体層及び電極におけるクラックの発生や歪の発生などが抑制される。
【0019】
また、前記電極は、前記形成領域と前記非形成領域との境界部を跨いで配設されており、前記熱応力緩和層は、少なくとも前記電極と前記境界部とが交差する交差領域又はその近傍に形成されていることが望ましい。
これにより、加熱プロセス時における熱収縮(膨張)時の変位量が大きくなり易く、内部応力が集中し易い前記交差領域にも洩れなく内部応力の低減が図られる。
【0020】
また、前記熱応力緩和層は、前記交差領域又はその近傍のみに形成されていることが望ましい。
これにより、内部応力が集中する箇所を重点的に内部応力の低減が図られるので、効率的にクラックの発生や歪の発生などが抑制される。
また、前記電極は、バス電極であり、前記熱応力緩和層は、主として光透過性材料からなることが望ましい。
【0021】
これにより、バス電極が配設される前面板側、即ち、表示面において、前記熱応力緩和層が介在することによる発光効率の低下を抑制することができる。
また、前記電極は、アドレス電極であり、前記熱応力緩和層は、非光透過性材料から形成されてなることが望ましい。
これにより、アドレス電極が配設される背面板側、即ち、裏面において、前記熱応力緩和層が介在することによる反射率の低下を抑制することができ、発光効率の低下を抑制することができる。
【0022】
さらに、非光透過性材料は、光透過性材料よりも最良選択の余地が広く、設計の自由度が向上する。
また、前記熱応力緩和層は、金属酸化物、金属窒化物やセラミックスなどによる絶縁体薄膜であることが望ましい。
これにより、熱応力緩和性能が良好な材料が選定され易くなる。
【0023】
また、前記絶縁体薄膜は、SiNx(窒化シリコン)、AlOx(酸化アルミニウム)、ZrOx、TiOxおよびTaOx(酸化タンタル)の内の少なくとも1種を含むことが望ましい。
これにより、絶縁性能が良好な材料が選定され易くなる。
また、前記熱応力緩和層は、複数あり、各熱応力緩和層は、前記電極毎に独立して沿設されている導電性膜であることが望ましい。
【0024】
これにより、前記熱応力緩和層を前記電極として機能させることができ、前記電極の抵抗値を低減することにより、電力損失を低減することがきる。
つまり、発光効率が高められる。
また、前記導電性膜は、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Pt(白金)およびW(タングステン)の内の少なくとも1種を含む導電性膜であることが望ましい。
【0025】
これにより、これにより導電性能が良好な材料が選定され易くなる。
また、前記誘電体層は、緻密で高絶縁耐圧の薄膜体であることが望ましい。
これにより、耐電圧性能が高められて電力損失が低減され、また、内部応力が集中し難くなるため、発光効率の向上及び誘電体層及び電極のクラックや歪の発生が抑制される。
また、前記薄膜体は、化学気相成長法により少なくともSiO2を含んで形成されてなる。
【0026】
また、前記バス電極は、Al、NdおよびZrの内の少なくとも1種を含む電極材料より形成されてなることが望ましい。
これにより、いわゆるマイグレーション現象及びヒロック現象が生じ難くなる。
また、前記プラズマディスプレイパネルは、前記誘電体層を覆うように、保護膜が形成されており、前記保護膜は、その主たる成分がMgOであって、前記保護膜形成時における雰囲気が略真空状態となっており、前記保護膜形成時以降、前記保護層が大気に晒されていないことが望ましい。
【0027】
これにより、MgO膜表面に、不純物が吸着することが防止される。
なお、以上に述べた各構成は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
(実施の形態)
1.構造
図1は、本発明の実施の形態におけるPDP400の概略展開図である。
PDP400は、互いに主面を対向させて配設された前面板390および背面板391から構成される。
【0029】
図中、z方向がPDPの厚み方向、xy平面がPDP面に平行な平面に相当する。
前面板390は、前面ガラス基板401と、表示電極402と、熱応力緩和層408と、誘電体層406と、保護層407とからなる。
前面ガラス基板401は、前面板390のベースとなるガラス材料かなる板体で、この前面ガラス基板401上に表示電極402が形成されている。
【0030】
表示電極402は、各セルへの給電路を構成するものであって、スキャン電極402a及びサステイン電極402bからなる。
ここで、1つのセルに着目したとき、スキャン電極402aとサステイン電極402bとがこのセルを横切っている。
以降、上述のように、同じセルを横切っているスキャン電極402a及びサステイン電極のことを、対をなすスキャン電極402a及びサステイン電極、もしくは対をなす表示電極ということとする。
【0031】
スキャン電極402a及びサステイン電極402bは同様の構成を有しており、不図示の駆動回路と接続するために一方の端部において外方の空間に臨む露出部を有する。
スキャン電極402a及びサステイン電極402bの露出部は、それぞれ前面ガラス基板401上にある互いに相反する側の縁部に存する。
スキャン電極402aは、透明電極403aと、バス電極405aとからなり、サステイン電極402bは、透明電極403bと、バス電極405bとからなる。
【0032】
構造的には、透明電極403aと透明電極403b、バス電極405aとバス電極405bとはいずれも同構造である。
透明電極403aは、前面ガラス基板401上の片面に、x方向を長手方向として、ITO,SnO2,ZnO等の導電性金属酸化物を帯状に複数形成したものである。
バス電極405aは、電圧降下を抑えて上記透明電極403aに電力を供給するために設けられた、高導電性材料からなる幅の狭い線状の電極であり、当該バス電極405aよりも幅広な表示電極403上に積層されている。
【0033】
より具体的には、バス電極405aは、膜厚0.1〜4μm(望ましくは、0.3〜1μm)で、低抵抗の金属電極、例えばAl系電極材料を主たる成分として形成され、その中でも、いわゆるマイグレーション現象及びヒロック現象が生じ難いとされる低抵抗で信頼性の高いAl−Nd系、Al−Zr系電極材料などの希土類金属を混合して含んだAl系金属合金薄膜電極材料からなることが望ましい。
【0034】
ここで、上述のマイグレーション現象とは経時的な絶縁抵抗値の低下をいい、ヒロック現象とは、電極表面に微細な突起が形成される現象をいう。
バス電極405aの製法としては、薄膜化に適したスパッタリング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法などの薄膜形成プロセスにより、表示電極対よりも幅狭にパターニングされ形成される。
【0035】
これらの製法の適用により、スクリーン印刷法などを用いてAgペーストを印刷後、焼成して厚膜形成する方法よりも、緻密な金属電極として形成されるので、導電率を高めることができるため、スクリーン印刷法などの厚膜形成する手法を用いるものよりも1/50以上、1/10以下の厚さで形成することができる。
なお、透明電極403b及びバス電極405bは、それぞれ上述の透明電極403a及びバス電極405aと同内容であるためその詳細については説明を省略する。
【0036】
熱応力緩和層408は、その熱膨張係数(線膨張率)がバス電極405a及び405bよりも小さく、誘電体層406の熱膨張係数よりも大きい材料からなる膜厚が0.3以上、1μm以下の薄膜体であり、図1及び図2に示すように、誘電体層406の四方に存する縁部のうち、バス電極405a及びバス電極405bが露出する2つの縁部をそれぞれ取り囲む各縁部領域において、前面ガラス基板401及びその上に形成された表示電極402を覆うように配されている。
【0037】
誘電体層406は、表示電極402と熱応力緩和層408とが形成された前面ガラス基板401の表面全体を覆う誘電物質からなる層であって、例えばSiO2を含む材料からなり、その誘電率εの値が、およそ2以上、5以下の範囲に含まれ、また、その膜厚dの値が、1μm以上、25μm以下の範囲に含まれる。
保護層407は、酸化マグネシウム(MgO)からなる薄膜体であって、誘電体層406の表面全体を覆っている。
【0038】
背面板391は、背面ガラス基板411と、アドレス電極412と、誘電体層413と、隔壁414と、隣接する隔壁414どうしの間隙により形成される隔壁の溝(以下、「隔壁溝」という。)の壁面に積層された蛍光体層415からなる。
背面ガラス基板411は、背面板391のベースとなるガラス材料かなる板体であって、この背面ガラス基板411上にアドレス電極412が生成される。
【0039】
アドレス電極412は、金属電極(例えば、銀電極あるいはCr−Cu−Cr電極)であって、背面ガラス基板411上の片面に、y方向を長手方向として、Agを含む導電性材料を列状に複数形成したものである。
なお、アドレス電極は、別名データ電極とも呼ばれるが、以降、一貫してアドレス電極として説明する。
【0040】
誘電体層413は、アドレス電極412が形成された側の背面ガラス基板411の全面を覆うように形成された誘電物質からなる層であって、一般的に、鉛系低融点ガラスが用いられているが、ビスマス系低融点ガラス、或は鉛系低融点ガラスとビスマス系低融点ガラスの積層物で形成しても良い。
また、この誘電体層413上には、隣接するアドレス電極412の間隔に合わせて隔壁414が生成される。
【0041】
そして、隣接する隔壁414どうしの間隙により形成される隔壁溝の壁面には、RGBのいずれかに対応する蛍光体層415が形成されている。
より具体的には、この蛍光体層415は、放電された紫外線により赤、緑、青のそれぞれ異なる波長の光を発光する3種があり、隔壁溝の内壁に、赤、緑、青の蛍光体の順で繰り返し塗布されている。
【0042】
前面板390及び背面板391は、図1に示すように、重ねられた状態で封着され、内部に放電空間416が形成されている。
放電空間416には、He、Xe、Neなどの希ガス成分からなる放電ガス(封入ガス)が500〜600Torr(66.5〜79.8kPa)程度の圧力で封入されている。
【0043】
隣り合う一対の表示電極402と1本のアドレス電極412とが放電空間416を挟んで交叉する領域が、画像表示に寄与するセルとなる。
点灯させようとするセルのスキャン電極402aとアドレス電極412間に電圧が印加されてアドレス放電がなされた後に、対をなすスキャン電極402a及びサステイン電極402b間にパルス電圧が印加されることにより維持放電がなされる。
【0044】
この維持放電により紫外線(波長約147nmの共鳴線及び波長173の分子線)が発生し、発生した紫外線が蛍光体層415に当たることにより、この紫外線が可視光に変換され、セルが点灯することにより、画像が表示される。
(熱応力緩和層を配設した理由)
本実施の形態のPDP400は、熱応力緩和層408が、熱膨張係数の値が大きなバス電極405a及びバス電極405bと、熱膨張係数の値が小さな誘電体層406との間に配され、その熱膨張係数の値が、バス電極405a及びバス電極405bと誘電体層406の熱膨張係数の中間にあることにより、熱収縮熱膨張の度合もこれらの中間となるので、誘電体層406と熱応力緩和層408との境界部分における熱収縮(膨張)量の差が、誘電体層406とバス電極405a及びバス電極405bとの境界部分における熱収縮(膨張)量の差よりも小さくなるため熱応力が緩和される。
【0045】
これにより、誘電体層406のクラックの発生やバス電極405a及びバス電極405bの剥離が抑制される。
ここで、上記熱収縮(膨張)量の差とは、各部材が他の部材と結合されていない状態、即ち、フリーな状態となっている状態における熱収縮(膨張)量の差を意味する。実際には各部材が結合されているために、境界部分における熱収縮(膨張)量に差が生じているとは言えない。なお、以下の記載にも熱収縮(膨張)量の差という表現を用いているが、その意味は、上述した内容と同一である。
2.PDPの製造工程について
以下、PDP400の製造工程について説明する。
1)透明電極の形成工程
透明電極403a及び透明電極403bは、蒸着法又はスパッタリング法などの公知技術を用いて、厚さ約2.8mmのソーダガラスからなる前面ガラス基板401の表面上に、厚さ約1400オングストロームのITO(Indium Tin Oxide)またはSnO2などの導電体材料を平行に複数列生成することによりを形成される。
2)バス電極の形成工程
バス電極405a及びバス電極405bの形成方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法などの薄膜形成プロセスにより、透明電極403a及び透明電極403b上に、これらの幅よりも幅狭にパターニングする。
【0046】
これらの製法の適用により、スクリーン印刷法などを用いてAgペーストを印刷後、焼成して厚膜で形成する方法(以下、「厚膜形成方法」という。)よりも緻密な金属電極として形成され、導電率を高めることができるため、上記厚膜形成方法よりも1/50以上、1/10以下の厚さで形成することができる。
3)熱応力緩和層の形成工程
熱応力緩和層408は、バス電極405a及びバス電極405bと誘電体層406との中間的な熱膨張係数を有するように設定されており、光透過性の透明な電気的絶縁体材料から形成される。
【0047】
より具体的には、熱応力緩和層408は、ICP−CVD法、プラズマCVD法や触媒CVD法などの方法を使用して、金属窒化物、金属酸化物やセラミックスなどによる絶縁体薄膜として形成されることが望ましく、その組成としては、SiNx、AlOx、ZrOx、TiOx、TaOxなどを少なくとも1つ含むようにするとよい。
または、熱応力緩和層408が、例えばSiONx(酸窒化シリコン)のように形成されてもよい。さらに、熱応力緩和層408は、複数の種類の材料が組み合わされて積層形成されてもよい。
【0048】
薄膜体としての熱応力緩和層408がAl系の材料からなる場合は、その熱膨張係数(線膨張率)が0.24×10-4/K以上、0.4×10-4/K以下となり、また、SiNx、AlOx、TaOxなどの材料からなる場合は、熱応力緩和層の熱膨張係数は5×10-6/K以上、8×10-6/K以下となる。
熱応力緩和層408の形成範囲は、熱応力緩和層408の形成後に積層される誘電体層406の四方に存する縁部のうち、バス電極が露出する2方の縁部に沿った領域(以下、「縁部領域」という。)を少なくとも含む領域とする。
【0049】
これは、誘電体層406におけるクラック発生箇所が、上記縁部領域内にある縁部に集中していることを考慮したものであり、実施の形態のPDP400では、熱応力緩和層408を上記縁部領域のみに熱応力緩和層408を形成している。
4)誘電体層406の形成工程
誘電体層406は、Si(OC254(テトラエトキシシラン)などの原料などを使用して、ICP−CVD法(誘導結合プラズマCVD法)或いはCat−CVD法(触媒CVD)などのCVD法(化学気相成長法)によって、SiO2を主成分とするSiOx系の薄膜体を形成する。
【0050】
上記誘電体層406において、1.0×106V/cm以上の高絶縁耐圧を有する緻密な薄膜体を形成する上で、上記SiO2の組成比率を80以上、100%以下に調整することが望ましく、さらに、誘電率εの値が5に近い場合は、膜厚dを約25μmに調整し、また、誘電率εの値が2に近い場合は、膜厚dを約1μmに調整することで、より絶縁性に優れた薄膜体となる。
【0051】
このように、誘電体層406の膜厚が薄いことにより、厚み方向における内部応力歪みの偏在が生じ難くなるため、基板の反りを低減させることができる。
上述の成膜条件で成膜し、SiOxの成分比などの適切な条件に選択することにより、0.4×10-6/K以上、4×10-6/K以下の熱膨張係数にすることができる。
以上のように、バス電極405a及びバス電極405b、熱応力緩和層408及び誘電体層406を形成することにより、誘電体層とバス電極との間に、その熱膨張係数が、誘電体層の熱膨張係数とバス電極の熱膨張係数の間にある熱応力緩和層が設けられるので、その後の封着工程等の焼成による高温プロセス(約450℃)によっても、積層された薄膜部分の熱応力が緩和され誘電体層に歪みやクラックが発生しない。
【0052】
特に、歪みが発生しやすくクラックが発生しやすい場所である、バス電極405a及びバス電極405bの各両縁部のうち、露出する側の縁部及びその近傍に形成された誘電体層406の部分における歪みやクラックの発生が抑制され、誘電体層としての耐電圧性能や密閉性能を低下させることがない。
このように、クラック発生によう絶縁性能の低下が起こり難いことから、駆動時における維持放電電圧の設計狙い値を高めることができ、耐電圧を維持させることができ、かつ放電空間における電界強度を増大させ、放電開始電圧を小さくすることができる。
【0053】
ちなみに、誘電体層413についても、誘電体層406と同様に作成される。
(その他の部材の形成方法について)
5)前面板側の保護層の形成工程
保護層407は、誘電体層406の上に、真空蒸着法又はスパッリング法を用いた真空成膜プロセスにより、金属酸化物を含む材料をそれぞれ蒸着材料又はターゲット材料として、例えば約6000Åの膜厚で成膜する。
【0054】
例えば、上記金属酸化物としては、MgOを含む材料が用いられ、成膜時における減圧状態が破られることなく保管維持されることが望ましい。何故なら、減圧状態が保持されることで、MgO膜に不純物ガスが吸着することがないため、MgO膜の高い2次電子放出効率や耐スッパタ性を低下させることなく、その性能や信頼性を維持することができるからである。
【0055】
以上のように、前面板390を作成するために、1)から5)までの工程が順次実施される。
なお、保護層407の材料及び膜厚は、上述した内容に限定されるものではなく、誘電体層406を放電時の耐スパッタ性及び2次電子放出性能を狙通りに発揮可能な範囲で適宜選択され設計されるものである。
【0056】
以下、背面板側の形成工程について説明する。
6)アドレス電極の形成工程
アドレス電極412は、バス電極405a及びバス電極405bと同様の材料、例えば、Al―Nd系又はAl−Zr系電極材料などのAl系の材料を用いて、フォトリソグラフィ技術により、前面ガラス基板401上に形成される。
【0057】
上記材料の他にも、アドレス電極412の材料としてCu(銅)、Ni(ニッケル)やこれらの組み合わせも必要に応じて使用できる。
アドレス電極412は、不図示の駆動回路と接続するために一方の端部において外方の空間に臨む露出部を有する。
アドレス電極412の露出部は、それぞれ背面ガラス基板411上における一方の縁部に存する。
7)誘電体層413の形成工程
誘電体層413は、アドレス電極412が形成された側の背面ガラス基板411の全面にわたって覆うように誘電物質からなる層が形成されたものであり、上述した誘電体層406の形成工程と同様の工程を用いて作成してもよいが、CVD法などの薄膜形成技法に限定されず、スクリーン印刷法及び焼成などのPDPの製造において通常実施される厚膜形成技法を用いてもよい。
【0058】
また、当該誘電体層413は、誘電体層406で必須とされる透明性を必要としないことから、誘電性材料の選択の自由度は、誘電体層406よりも広く、一般的に、鉛系低融点ガラスが用いられ、この代替材料として、ビスマス系低融点ガラス、或は鉛系低融点ガラスとビスマス系低融点ガラスを用いても良い。
8)隔壁の形成工程
隔壁414は、低融点ガラス材料などを使用して塗布焼成され、放電セルの複数個の配列を、列方向に仕切る所定のパターンで、サンドブラスト法やフォトリソグラフィ法などによりリブ形状に形成される。
【0059】
より具体的には、隔壁414は、低融点ガラス材料とバインダとを混合した高粘性剤を目的の箇所に塗布した後に焼成し、その後、所定のパターンで、サンドブラスト法やフォトリソグラフィ法などにより、ほぼ一定の高さでリブ形状に形成される。
ここで、上記所定のパターンとは、本実施の形態においては、ストライプ状であるが、クロストーク防止をするための公知技術の範疇である隔壁を井桁状にする仕様においても、上述した隔壁の形成方法を、隔壁414と直交するもう1つの隔壁の形成に適用することができる。
9)蛍光体層の形成工程
赤、緑及び青の発光を有する各蛍光体層415として、それぞれ、(Y、Gd)BO3:Eu、Zn2SiO4:MnおよびBaMg2Al1424:Euなどの所望の蛍光体が使用される。
【0060】
隣り合う隔壁同士の間に、列毎に赤、緑及び青を発光する蛍光体の前駆体を順番に繰り返して塗布し、その後焼成を行うことにより、蛍光体の前駆体を蛍光体層にする。
以上のように、背面板391を作成するために、6)から9)までの工程が順次実施される。
10)封止工程
上述の工程を経ることにより、前面板390と背面板391とを作成した後、前面板390と背面板391とを対向させ、その対向面の周囲にフリットガラス粒子とバインダとの混合体を塗布した状態で重ね合わせて焼成することにより、混合体を硬化させてシールし、その後、放電空間を高真空に排気した後、放電ガスとして希ガスのキセノン・ネオンを含む混合ガスを例えば60kPa以上、67kPa以下の圧力で封入し、ガラス管からなるガス封入経路を溶融して封止することにり、PDP400パネルが作成される。
【0061】
なお、上記放電ガスの圧力は上記に特定されるものではない。
また、AC型PDPにおいて、現在使用されている材料が使用可能であり、使用条件も適宜選択され得る。
また、高キセノン分圧の混合ガスを封入したPDPとすることもできる。
3.評価試験
実施の形態におけるPDPと同様の試験品を用いて前面板側における誘電体層のクラックの発生抑制度合を評価した。
(試験品PDPの仕様)
以下、誘電体層のクラックに関係する部材の仕様について重点的に記載し、特に記載がない部材の仕様は、上述のPDP400における説明の記載と同様である。
1)バス電極
スパッタリング法を用いて、透明電極上にAl−Ndからなる膜厚約0.6μmのバス電極を形成した。
2)熱応力緩和層
図1における誘電体層の縁部からの出代Lmm、X軸方向における幅Wmmの熱応力緩和層を触媒CVD法により低温で絶縁体薄膜のSiNx膜として形成した。
3)誘電体層
誘電体材料として、Si(OC254(テトラエトキシシラン)を用い、ICP−CVD法により、SiO295%、膜厚dが約5μm、誘電率εが約4の薄膜の誘電体層を前面ガラス基板の両縁部を除く領域に形成した。
【0062】
上述の形成方法を用いることで、絶縁耐圧が高く、緻密で、低誘電率で、膜厚の薄い誘電体層を得た。
上記誘電体層の形成時の減圧状態を破ることなく、MgOを含む材料をターゲット材料とする電子ビーム蒸着法による真空成膜プロセスにより、誘電体層表面に膜厚約0.6μmの保護層を積層し、そのまま減圧状態を破ることなく保管維持し、次の工程である封着工程へと移行させた。
(その他の部材の仕様について)
4)アドレス電極
実施の形態におけるPDP400の製造方法と同様に、背面板391として、背面ガラス基板411の内表面に、真空成膜プロセス法により、Al−Ndからなる材料を用いて成膜しパターン化してアドレス電極412を形成した。
【0063】
アドレス電極412を覆って背面ガラス基板411の内面上に、誘電体層413を形成し、さらに低融点ガラス材料を使用して、ほぼ一定の高さを有する隔壁414と、この隔壁414と直交し、その形状及び材質が隔壁414に略同一の第2の隔壁とを形成して、各セルそれぞれを取り囲む井桁形状の隔壁を形成した。
5)蛍光体層
実施の形態におけるPDP400の製造方法と同様に、誘電体層413の表面に、蛍光体層415を形成した。
6)封着について
アドレス電極412とバス電極とが直交するように前面板390と背面板391とを対向させて、前面板390と背面板391の周囲を封止用ガラスにより約450℃の高温プロセスでシール封着し、放電ガスを約65kPaで封入封止しパネルを作成した。
【0064】
試験品PDPの効果を確認する上で、従来仕様のPDPを比較品として使用した。
(比較品PDPの仕様)
比較品1のPDPは、熱応力緩和層が配設されていない点を除き、上記試験品PDPと同一の仕様である。
比較品2のPDPは、熱応力緩和層が配設されていない点及び透明電極が、膜厚30〜45μmの厚膜で形成されていることを除き、上記試験品PDPと同一の仕様である。
(目視評価結果)
試験品PDPにおいて、封着工程などの焼成による高温プロセスにおける、バス電極の直上や近傍に形成した薄膜の誘電体層にクラックの発生は認められなかった。
(駆動評価結果)
試験品PDPにおいて、対をなす表示電極間の絶縁性能を測定した。
【0065】
その結果、全表示電極対において、品質基準値の耐電圧をクリアした。
比較品1のPDPにおいて、対をなしている表示電極間の絶縁性能を測定した。
その結果、全表示電極対において、品質基準値の耐電圧を下回る表示電極対の割合が大きかった。
これは、高温焼成のプロセスにおいて、バス電極上やその近傍に形成した薄膜の誘電体層にクラックが発生し、誘電体層の耐電圧が低下したためである。
【0066】
比較品2のPDPにおいて、対をなす表示電極間の絶縁性能を測定した。
その結果、全表示電極対において、品質基準値の耐電圧をクリアした。
(その他の特筆すべき事項)
上記試験品PDPの放電開始電圧を測定したところ、比較品2のPDPと比べて低くなっており、発光効率が向上していることが明らかとなった。
【0067】
これは、誘電体層を緻密な薄膜誘電体層とすることで、放電空間における電界強度が増大したことによるものと思われる。
以上のように、本実施の形態に記載のPDP400によれば、誘電体層は薄膜体であるため、放電空間における電界強度が増大して、放電開始電圧が低下して発光効率が低減される一方で、厚膜形成された誘電体層よりもクラックに対する耐力が低下し易いが、熱応力緩和層の存在により、誘電体層と熱応力緩和層との境界における変位に起因して生じる内部応力の値が、誘電体層とバス電極との境界における変位に起因して生じる内部応力よりも低減されるので、クラックの発生が抑制される。
【0068】
つまり、発光効率の向上と品質及び信頼性の維持とを両立可能なPDPとすることができる。
このように、内部応力が低減される理由は、上記熱応力緩和層の熱膨張係数が、上記誘電体層の熱膨張係数とバス電極の熱膨張係数の間にあるため、誘電体層と熱応力緩和層との境界部分における変位が小さくなり、内部応力が縮小する方向に働くためである。
(背面板側への適用)
上記実施の形態では、前面板390側に配された誘電体層406に発生するクラックに着目して、このクラックの発生を抑制する構成について説明したが、このようなクラックは、前面板390側に配された誘電体層406と同様に、背面板391側のアドレス電極412と誘電体層413との間に生じる熱応力によって誘電体層413にクラックが発生する懼れがある。
【0069】
このように誘電体層413におけるクラックの発生を抑制するために、背面板391側のアドレス電極412と誘電体層413との間に、誘電体層413の熱膨張係数とアドレス電極412の熱膨張係数とに挟まれた範囲に存する熱膨張係数を有する新たな熱応力緩和層(以下、「背面側熱応力緩和層」という。)を形成してもよい。
上記背面側熱応力緩和層の形成範囲は、熱応力緩和層408と同様に誘電体層413の4方に存する縁部のうち、アドレス電極412が外方の空間に臨んでいる露出部が存する側の1つの縁部及びその近傍である。つまり、背面側熱応力緩和層は、セルが存する領域の一部を覆っているに過ぎない。
(背面板側に存する誘電体層のクラックの抑制に関係する部材の製造方法について)
以下、背面板側に存する誘電体層のクラックの抑制に関係する背面側熱応力緩和層の製造方法について説明する。
1.背面側熱応力緩和層の形成方法
背面側熱応力緩和層は、上述した誘電体層413の形成に先行して形成される。
【0070】
より具体的には、上記背面側熱応力緩和層は、ICP−CVD法、プラズマCVD法や触媒CVD法などの方法を使用して金属窒化物、金属酸化物やセラミックスなどによる絶縁体薄膜として形成されることが望ましく、その組成としては、SiNx、AlOx、ZrOx、TiOx、TaOxなどを少なくとも1つ含むようにするとよい。
または、背面側熱応力緩和層が、例えばSiONx(酸窒化シリコン)のように形成されてもよい。さらに、背面側熱応力緩和層は、複数の種類の材料が組み合わされて積層形成されてもよい。
【0071】
薄膜体としての背面側熱応力緩和層がAl系の材料からなる場合は、その熱膨張係数(線膨張率)が0.24×10-4/K以上、0.4×10-4/K以下となり、また、SiNx、AlOx、TaOxなどの材料からなる場合は、熱応力緩和層の熱膨張係数は5×10-6/K以上、8×10-6/K以下となる。
また、上記背面側熱応力緩和層は、非光透過性材料からなる不透明な薄膜絶縁体材料により形成するとしてもよい。何故なら、蛍光体層で発光した光は、前面板390側へと放射されるので、背面板391が透明であるか否か問わないからである。
【0072】
また、積極的に前面板390側に光を放射するために、背面板391側に反射率を高めることが望ましく、背面側熱応力緩和層にこのような反射率の高い材料を用いて、さらに、背面側熱応力緩和層の形成範囲が全てのセルを網羅するように拡大することによって、発光効率を高めることができる。
つまり、背面側熱応力緩和層の配設範囲は、誘電体層の縁部に限るものではなく、例えば、背面ガラス基板におけるセル領域の全てにわたって形成しても構わない。
(変形例1)
以下、熱応力緩和層の形成範囲についての変形例を示す。
【0073】
実施の形態のPDP400では、熱応力緩和層408は、誘電体層406の四方に存する縁部のうち、バス電極405a及びバス電極405bが露出する2つの縁部をそれぞれ取り囲む各縁部領域において、前面ガラス基板401及びその上に形成された表示電極402を覆うように配されているとしたが、熱応力緩和層408の形成範囲としては、これに限らず、例えば、前面板390の中央の領域、即ち、本実施の形態において、熱応力緩和層408を形成していない領域にも熱応力緩和層408を配設してもよい。つまり、熱応力緩和層408のX軸方向の幅Wを上記中央の領域側に拡幅して、2つの熱応力緩和層408を繋げ、一体とする構成であっても構わない。
【0074】
このような場合、熱応力緩和層408は、通常、全てセルを覆うように形成されるので、蛍光体層415が発する光を透過し易い、即ち、透過率の高い材料が選択されることが望ましい。
上述の構成は、前面板390の前記中央の領域においてクラックが発生している場合の対応策として有効である。
(変形例2)
さらに、熱応力緩和層の形成範囲について上記とは別の変形例を示す。
【0075】
本実施の形態におけるPDP400の熱応力緩和層408及び変形例1の熱応力緩和層は、いずれもバス電極405a及びバス電極405bの両方を横切るように形成されている。
このため、これら熱応力緩和層は、バス電極405a及びバス電極405bの間の絶縁を確保するために非導電性材料であることが必要とされる。
【0076】
本来、熱応力緩和層は、誘電体層のクラック発生を抑制するために、線膨張係数が適切に選択された材料であることが重要であるが、本実施の形態及び変形例1では、これに加えて非導電性材料であることも必要なため、材料選定の自由度が狭められてしまう。
以下、非導電性能を問わない熱応力緩和層の採用を可能とする熱応力緩和層の形成範囲についての変形例を示す。
【0077】
変形例2のPDPは、熱応力緩和層における配設位置及びその電気的特性のみが本実施の形態におけるPDP400と異なる。
変形例2においては、図3に示すように、本実施の形態における熱応力緩和層408に相当するものが、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bであり、先ずこれらの形成範囲について説明する。
【0078】
熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bの形成範囲は、本実施の形態における熱応力緩和層408の形成範囲であって、それぞれバス電極405a及びバス電極405b毎に独立して形成されている。
熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bの形成範囲には、未図示の誘電体層406の端部が存在する。
【0079】
熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bは、実施の形態1の熱応力緩和層408と同様に、それぞれ熱膨張係数の値が大きなバス電極405a及びバス電極405bと、熱膨張係数の値が小さな誘電体層406との間に配され、それぞれの熱膨張係数の値が、バス電極405a及びバス電極405bと誘電体層406の熱膨張係数の中間にあることにより、熱収縮熱膨張の度合もこれらの中間となるので、誘電体層406とバス電極405a及びバス電極405bとの境界部分における熱収縮(膨張)量の差が縮小する方向に働くため熱応力が緩和される。
【0080】
これにより、誘電体層406のクラックの発生やバス電極405a及びバス電極405bの剥離が抑制される。
しかも、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bが、それぞれバス電極405a及びバス電極405b毎に独立して形成、即ち、熱応力緩和層808aと熱応力緩和層808bとが離れて形成されているため、熱応力緩和層808aと熱応力緩和層808bとの間に形成される誘電体層406によって絶縁されるため、例え熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bに、導電性材料を使用したとしても、バス電極405a及びバス電極405b間の絶縁性に影響を及ぼさない。
【0081】
つまり、誘電体層406の耐電圧が低下することがなく、隣接するバス電極405a及びバス電極405b間において電流リークが生じることがない。
形成方法としては、本実施の形態における熱応力緩和層408と同様に、ICP−CVD法、プラズマCVD法や触媒CVD法などの方法を適用して、パターンニングされて薄膜形成されることが望ましい。
【0082】
熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bは、誘電体層406の熱膨張係数とバス電極405a及びバス電極405bの熱膨張係数との間に挟まれる値の熱膨張係数を有する非光透過性材料であって、0.10μm以上、1.0μm以下の範囲の膜厚で形成されることが望ましい。
熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bの材料は、導電性か非導電性かを問わないが、熱膨張係数を考慮すると、非導電性の材料である場合には、本実施の形態における熱応力緩和層408の材料で列挙した材料が望ましく、また、導電性の材料である場合には、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Pt(白金)およびW(タングステン)の内の少なくとも1種を含む導電性材料が望ましい。
【0083】
導電性材料として列挙した上記材料のいずれかを用いることにより、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bは、Al系電極材料によって形成されたバス電極405a及びバス電極405bより熱膨張係数が大きく、SiOx系の誘電体層406より熱膨張係数が小さくなる。
このため、誘電体層406と熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bとの境界部分における熱収縮(膨張)量の差が、誘電体層406とバス電極405a及びバス電極405bとの境界部分における熱収縮(膨張)量の差よりも小さくなるため熱応力が緩和される。
【0084】
これにより、誘電体層406のクラックの発生やバス電極405a及びバス電極405bの剥離が抑制される。
なお、本変形例2における熱応力緩和層は、非光透過性材料により導電性膜として形成されパターンニングされるとしたが、本実施の形態における熱応力緩和層408と同様に、光透過性材料から構成されていても構わない。
(変形例3)
なお、変形例2において、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bの形成範囲は、本実施の形態における熱応力緩和層408の形成範囲であって、さらに図3に示すように、それぞれバス電極405a及びバス電極405b毎に独立して形成されているとしたが、変形例1における熱応力緩和層408の形成範囲であって、さらに図3に示すように、それぞれバス電極405a及びバス電極405b毎に独立して形成されているとしてもよい。
【0085】
つまり、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bそれぞれにおいて、長手方向における前面板における中央側に存する端を延長して行き、同一直線上に存する2つの熱応力緩和層808a、熱応力緩和層808b同士を繋げて一体とする構成であっても構わない。
これにより、誘電体層406において、前面板におけるバス電極405a及びバス電極405bが露出している両縁部の近傍だけでなく、前面板における中央の領域の近傍における熱応力の発生が緩和され、誘電体層のクラックの発生が抑制される。
【0086】
さらに、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bを上述の導電性材料で構成することにより、熱応力緩和層808a及び熱応力緩和層808bのそれぞれが、バス電極405a及びバス電極405bの給電路としても機能し、スキャン電極402a及びサステイン電極402bの電気抵抗を低減することができるため、それまで電力損失として失われていた電力を駆動用の電力として活用可能となり、より効率的な駆動が実現される。
【0087】
スキャン電極402aとサステイン電極402bの耐電圧は、変形例2と同等であるため、変形例2と同様に、誘電体層406の耐電圧が低下することがなく、隣接するバス電極405a及びバス電極405b間において電流リークが生じることがないことは言うまでもない。
(その他の事項)
また、本実施の形態において、保護層は、酸化マグネシウム(MgO)からなる薄膜体として説明したが、BaO、CaO、SrOおよびZnOなどの金属酸化物を使用しても構わない。
【0088】
また、本実施の形態における前面ガラス基板401及び背面ガラス基板411について、板厚については特に言及していないが、0.5mm以上、1mm以下の薄板であってもよく、また、熱膨張係数の小さいフレキシブルな透明樹脂基板やプラスチック基板を使用しても同様に実施可能である。
【0089】
上述した薄ガラス基板あるいは上記フレキシブルな基板を使用し、さらにバス電極やアドレス電極と誘電体層の間に熱応力緩和層を形成することにより、熱応力や内部応力歪みをさらに低減させることができ、品質が高いパネルとすることができる。
また、上記変形例2及び変形例3では、熱応力緩和層は、バス電極よりも幅広に形成していたが、これに限らず、バス電極の幅と同じ幅にしてもよい。
【0090】
このような状況であっても、熱応力緩和層がない従来の構成よりもクラックの発生が緩和される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によるプラズマディスプレイパネルは、薄膜形成技法により形成された誘電体層とバス電極との間に熱応力緩和層が設けることにより、電極上やその近傍に形成された薄膜誘電体層に歪みやクラックが発生せず、耐電圧が高く高品質の誘電体層となって、放電開始電圧を低減させ発光効率を向上させるプラズマディスプレイパネルを、中小型または大型のテレビジョンモニターや高精細テレビジョンあるいは大型表示装置など、映像機器産業、情報機器産業、宣伝機器産業、産業機器やその他の産業分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの展開部分断面図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるPDPの展開部分断面図拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態における変形例2について説明する図である。
【図4】従来例1のPDPの展開部分断面図である。
【図5】従来例2のPDPの展開部分断面図である。
【符号の説明】
【0093】
390 前面板
391 背面板
400 PDP
401 前面ガラス基板
402 表示電極
402a スキャン電極
402b サステイン電極
403 表示電極
403a 透明電極
403b 透明電極
405a バス電極
405b バス電極
406 誘電体層
407 保護層
408 熱応力緩和層
411 背面ガラス基板
412 アドレス電極
413 誘電体層
414 隔壁
415 蛍光体層
416 放電空間
808a 熱応力緩和層
808b 熱応力緩和層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された一対の基板における一方の基板の内面側において、複数の電極が並設され、これら電極を覆うように誘電体層が形成されているプラズマディスプレイパネルであって、
前記誘電体層は誘電性材料からなる薄膜体であり、
前記誘電体層と前記電極との間に熱応力緩和層が挿設されていることを特徴するプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記熱応力緩和層の熱膨張係数の値は、前記誘電体層の熱膨張係数の値と前記電極の熱膨張係数の値とに挟まれる範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記内面において、前記誘電体層が形成されている形成領域と形成されていない非形成領域とが存在し、
前記熱応力緩和層は、前記形成領域と前記非形成領域との境界部又はその近傍に存在することを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記熱応力緩和層は、前記電極の少なくとも一部表面を覆っていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記電極は、前記形成領域と前記非形成領域との境界部を跨いで配設されており、
前記熱応力緩和層は、少なくとも前記電極と前記境界部とが交差する交差領域又はその近傍に形成されていることを特徴とする請求項3から4のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記熱応力緩和層は、前記交差領域又はその近傍のみに形成されていることを特徴とする請求項5に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記電極は、バス電極であり、
前記熱応力緩和層は、主として光透過性材料からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
前記電極は、アドレス電極であり、
前記熱応力緩和層は、非光透過性材料から形成されてなることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項9】
前記熱応力緩和層は、金属酸化物、金属窒化物やセラミックスなどによる絶縁体薄膜であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項10】
前記絶縁体薄膜は、SiNx(窒化シリコン)、AlOx(酸化アルミニウム)、ZrOx、TiOxおよびTaOx(酸化タンタル)の内の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項9に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項11】
前記熱応力緩和層は、複数あり、
各熱応力緩和層は、前記電極毎に独立して沿設されている導電性膜であることを特徴とする請求項4から5および8のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項12】
前記導電性膜は、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Pt(白金)およびW(タングステン)の内の少なくとも1種を含む導電性膜であることを特徴とする請求項11に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項13】
前記誘電体層は、緻密で高絶縁耐圧の薄膜体であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項14】
前記薄膜体は、化学気相成長法により少なくともSiO2を含んで形成されてなることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項15】
前記誘電体層の誘電率は、2以上、5以下の範囲にあることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項16】
前記誘電体層は、膜厚が、1μm以上、25μm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項17】
前記バス電極は、Al、NdおよびZrの内の少なくとも1種を含む電極材料より形成されてなることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項18】
前記プラズマディスプレイパネルは、
前記誘電体層を覆うように、保護膜が形成されており、
前記保護膜は、その主たる成分がMgOであって、
前記保護膜形成時における雰囲気が略真空状態となっており、
前記保護膜形成時以降、前記保護層が大気に晒されていないことを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−109479(P2007−109479A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297828(P2005−297828)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】