プラズマディスプレイパネル
【課題】PDPの放電遅れ特性を改善する。
【解決手段】PDPの前面ガラス基板1と背面ガラス基板6の間の放電空間S内に形成された放電セルCにそれぞれ面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されている。
【解決手段】PDPの前面ガラス基板1と背面ガラス基板6の間の放電空間S内に形成された放電セルCにそれぞれ面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマディスプレイパネルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、面放電方式交流型プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、放電ガスが封入されている放電空間を挟んで互いに対向される二枚のガラス基板のうち、一方のガラス基板に行方向に延びる行電極対が列方向に並設され、他方のガラス基板に列方向に延びる列電極が行方向に並設されていて、放電空間の行電極対と列電極がそれぞれ交差する部分に、マトリックス状に単位発光領域(放電セル)が形成されており、さらに、行電極や列電極を被覆するために形成された誘電体層上の単位発光領域内に面する位置に、誘電体層の保護機能と単位発光領域内への2次電子放出機能とを有する酸化マグネシウム(MgO)膜が形成された構成を備えている。
【0003】
このような構成の従来のPDPには、互いに対抗する前面ガラス基板と背面ガラス基板の間の放電空間に面する位置に、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL(カソード・ルミネッセンス)発光を行う酸化マグネシウム結晶体の粉末から分級されて所定の粒径以上の結晶体の割合が所定値以上である粒度分布を有する結晶体粉末によって形成された結晶酸化マグネシウム層が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来のPDPは、放電空間に面するように形成された結晶酸化マグネシウム層が、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL発光を行う酸化マグネシウム結晶体を含んでいることによって、PDPにおける放電確率や放電遅れなどの放電特性が改善されて良好な放電特性を得ることが出来るとともに、この結晶酸化マグネシウム層を形成する酸化マグネシウム結晶体の粉末が、PDPの製造時に分級工程を経ることによって、所定の粒径以上の結晶体の割合が所定値以上である粒度分布を有するようになっていることにより、放電遅れ等のPDPの放電特性を改善することが出来る。
【0005】
しかしながら、市場におけるPDPの表示品質の向上に対する要求は年々高まって来ており、このため、PDPにおける放電遅れ特性のさらなる改善が強く要望されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−147417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記のような従来のPDPに対する要望に応えることをその技術的解決課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明(請求項1に記載の発明)によるPDPは、上記課題を達成するために、放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられているPDPにおいて、前記単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されていることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明は、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間の放電空間内に形成された放電セルにそれぞれ面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス(フォト・ルミネッセンス)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されているPDPを、その最良の実施形態としている。
【0010】
この実施形態におけるPDPによれば、放電空間に形成された各放電セルに面する位置に、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置されていることにより、波長146nmの紫外光による励起による放電セル内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性が従来のPDPに比べて大幅に向上される。
【0011】
上記実施形態のPDPにおいて、結晶体の粉末の波長172nmの紫外光による発光強度に対する波長146nmの紫外光による発光強度の発光強度比率が、130パーセント以上であることが好ましい。
これによって、PDP駆動時の放電遅れ特性のさらなる向上を達成することが出来る。
さらに、前記実施形態のPDPにおいて、結晶体の粉末が、230ないし250nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有していることが好ましく、また、マグネシウムの加熱によって発生するマグネシウム蒸気が気相酸化することによって得られる単結晶体を含んでいることが好ましい。
【0012】
前記実施形態のPDPにおいて、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置される位置の態様としては、この結晶体の粉末を含む結晶酸化マグネシウム層を行電極対を被覆する誘電体層上に形成して、この結晶酸化マグネシウム層の結晶体の粉末が放電セル内に露出するようにする態様や、放電セル内の背面ガラス基板上に形成された蛍光体層に含有させる態様などが挙げられ、何れにおいても、PDP駆動時の放電遅れ特性を大幅に向上させることが出来る。
【実施例】
【0013】
図1ないし3は、この発明によるPDPの実施形態の一実施例を示しており、図1はこの実施例におけるPDPを模式的に示す正面図、図2は図1のV−V線における断面図、図3は図1のW−W線における断面図である。
この図1ないし3に示されるPDPは、表示面である前面ガラス基板1の背面に、複数の行電極対(X,Y)が、前面ガラス基板1の行方向(図1の左右方向)に延びるように平行に配列されている。
【0014】
行電極Xは、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Xaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Xaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Xbとによって構成されている。
【0015】
行電極Yも同様に、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Yaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Yaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Ybとによって構成されている。
【0016】
この行電極XとYは、前面ガラス基板1の列方向(図1の上下方向)に交互に配列されており、バス電極XbとYbに沿って並列されたそれぞれの透明電極XaとYaが、互いに対となる相手の行電極側に延びて、透明電極XaとYaの幅広部の頂辺が、それぞれ所要の幅の放電ギャップgを介して互いに対向されている。
【0017】
前面ガラス基板1の背面には、列方向において隣接する行電極対(X,Y)の互いに背中合わせになったバス電極XbとYbの間に、このバス電極Xb,Ybに沿って行方向に延びる黒色または暗色の光吸収層(遮光層)2が形成されている。
【0018】
さらに、前面ガラス基板1の背面には、行電極対(X,Y)を被覆するように誘電体層3が形成されており、この誘電体層3の背面には、互いに隣接する行電極対(X,Y)の背中合わせに隣り合うバス電極XbおよびYbに対向する位置およびこの隣り合うバス電極XbとYbの間の領域部分に対向する位置に、誘電体層3の背面側に突出する嵩上げ誘電体層3Aが、バス電極Xb,Ybと平行に延びるように形成されている。
【0019】
そして、この誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面側には、蒸着法またはスパッタリングによって形成された薄膜の酸化マグネシウム層(以下、薄膜酸化マグネシウム層という)4が形成されていて、誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面の全面を被覆している。
【0020】
この薄膜酸化マグネシウム層4の背面側には、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光(CL発光)およびフォト・ルミネッセンス発光(PL発光)を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体を含む酸化マグネシウム層(以下、結晶酸化マグネシウム層という)5が形成されている。
この結晶酸化マグネシウム層5の構成については、後で詳述する。
【0021】
この結晶酸化マグネシウム層5は、薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面または一部、例えば、後述する放電セルに面する部分に形成されている(図示の例では、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面に形成されている例が示されている)。
【0022】
一方、前面ガラス基板1と平行に配置された背面ガラス基板6の表示側の面上には、列電極Dが、各行電極対(X,Y)の互いに対となった透明電極XaおよびYaに対向する位置において行電極対(X,Y)と直交する方向(列方向)に延びるように、互いに所定の間隔を開けて平行に配列されている。
【0023】
背面ガラス基板6の表示側の面上には、さらに、列電極Dを被覆する白色の列電極保護層(誘電体層)7が形成され、この列電極保護層7上に、隔壁8が形成されている。
【0024】
この隔壁8は、各行電極対(X,Y)のバス電極XbとYbに対向する位置においてそれぞれ行方向に延びる一対の横壁8Aと、隣接する列電極Dの間の中間位置において一対の横壁8A間を列方向に延びる縦壁8Bとによって略梯子形状に形成されており、各隔壁8が、隣接する他の隔壁8の互いに背中合わせに対向する横壁8Aの間において行方向に延びる隙間SLを挟んで、列方向に並設されている。
【0025】
そして、この梯子状の隔壁8によって、前面ガラス基板1と背面ガラス基板6の間の放電空間Sが、各行電極対(X,Y)において互いに対になっている透明電極XaとYaに対向する部分に形成される放電セルC毎に、それぞれ方形に区画されている。
【0026】
放電空間Sに面する隔壁8の横壁8Aおよび縦壁8Bの側面と列電極保護層7の表面には、これらの五つの面を全て覆うように蛍光体層9が形成されており、この蛍光体層9の色は、各放電セルC毎に赤,緑,青の三原色が行方向に順に並ぶように配列されている。
【0027】
嵩上げ誘電体層3Aは、この嵩上げ誘電体層3Aを被覆している結晶酸化マグネシウム層5(または、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の放電セルCに対向する部分にのみ形成されている場合には、薄膜酸化マグネシウム層4)が隔壁8の横壁8Aの表示側の面に当接される(図2参照)ことによって、放電セルCと隙間SLの間をそれぞれ閉じているが、縦壁8Bの表示側の面には当接されておらず(図3参照)、その間に隙間rが形成されて、行方向において隣接する放電セルC間がこの隙間rを介して互いに連通されている。
【0028】
放電空間S内には、キセノンを含む放電ガスが封入されている。
以下、結晶酸化マグネシウム層5の構成について詳述する。
上記結晶酸化マグネシウム層5は、前述したように、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が、スプレ法や静電塗布法などの方法によって誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aを被覆している薄膜酸化マグネシウム層4の背面側の表面に付着されることによって形成される。
【0029】
なお、この実施例においては、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成される例について説明が行われるが、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、この結晶酸化マグネシウム層5の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成されるようにしても良い。
【0030】
図4は、誘電体層3の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に、酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成されている状態を示している。
【0031】
また、図5は、誘電体層3の背面に酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、薄膜酸化マグネシウム層4が形成されている状態を示しているが、この場合も、酸化マグネシウム結晶体が放電空間側に露出されている。
上記PDPの結晶酸化マグネシウム層5は、下記の材料および方法によって形成されている。
【0032】
すなわち、結晶酸化マグネシウム層5の形成材料となる紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体とは、例えば、マグネシウムを加熱して発生するマグネシウム蒸気を気相酸化して得られるマグネシウムの単結晶体(以下、このマグネシウムの単結晶体を気相酸化マグネシウム単結晶体という)を含み、この気相酸化マグネシウム単結晶体には、例えば、図6のSEM写真像に示されるような、立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体と、図7のSEM写真像に示されるような、立方体の結晶体が互いに嵌り込んだ構造(すなわち、立方体の多重結晶構造)を有する酸化マグネシウム単結晶体が含まれる。
【0033】
さらに、この結晶酸化マグネシウム層5の形成材料となる紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体には、前述したような紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光(分子線)によるCL(およびPL)発光強度(以下、172nm発光強度と呼ぶ)よりも波長146nmの紫外光(共鳴線)によるCL(およびPL)発光強度(以下、146nm発光強度と呼ぶ)の方が大きく、この146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率(以下、発光強度比率と呼ぶ)が所定の値以上である酸化マグネシウム結晶体が含まれている。
【0034】
この実施例においては、結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、発光強度比率が130パーセント以上((146nm発光強度)/(172nm発光強度)≧1.30)の酸化マグネシウム結晶体の粉末が含まれている。
【0035】
次に、PDPの駆動時の結晶酸化マグネシウム層5の機能について説明を行う。
上記のPDPは、画像形成のためのリセット放電およびアドレス放電,サステイン放電が放電セルC内において行われる。
【0036】
そして、リセット放電およびアドレス放電が放電セルC内において発生される際に、この放電セルCに結晶酸化マグネシウム層5が面していることによって、リセット放電およびアドレス放電によるプライミング効果が長く持続し、これによってアドレス放電およびサステイン放電が高速化されて、PDPの放電遅れや放電確率等の放電特性が改善される。
【0037】
さらに、後で詳述するように、結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体粉末が含まれていることにより、放電セルC内への初期電子の放出特性が高くなって、PDPの駆動時の放電遅れが従来のPDPに比べて大幅に改善される。
【0038】
すなわち、図8および9に示されるように、結晶酸化マグネシウム層5が、上述したような例えば気相法や液相法等によって生成された酸化マグネシウム単結晶体によって形成されていることにより、放電によって放電ガスから発生する紫外線の照射によって、結晶酸化マグネシウム層5に含まれる酸化マグネシウム単結晶体から、300〜400nmにピークを有するCL(およびPL)発光に加えて、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光が励起される。
【0039】
この235nmにピークを有するCL(およびPL)発光は、図10に示されるように、通常の蒸着法によって形成される酸化マグネシウム層(この実施例における薄膜酸化マグネシウム層4)からは励起されず、300〜400nmにピークを有するCL(およびPL)発光のみが励起される。
【0040】
なお、この図10は、長軸側の粒径が約8000Åの柱状結晶によって形成された多結晶構造の蒸着酸化マグネシウム層(膜厚:約8000Å)についてのCL(およびPL)発光強度の測定結果を示している。
【0041】
また、図8および9から分かるように、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光は、酸化マグネシウム単結晶体の粒径が大きくなるほどそのピーク強度が大きくなり、この波長域200〜300nmのCL(およびPL)発光のピーク強度が大きくなるほど、放電遅れ等の放電特性の改善が図られる。
【0042】
この実施例においては、粒径が2000オングストローム以上の酸化マグネシウム単結晶体が用いられている。
【0043】
この結晶酸化マグネシウム層5による放電特性の改善は、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う酸化マグネシウム単結晶体が、そのピーク波長に対応したエネルギ準位を有し、そのエネルギ準位によって電子を長時間(数msec以上)トラップすることができ、この電子が電界によって取り出されることで、放電開始に必要な初期電子が得られることによって為されると推測される。
【0044】
図11のグラフは、CL(およびPL)発光強度とPDPの放電遅れとの相関関係を示しており、この図11から、酸化マグネシウム結晶体から励起される235nmのCL(およびPL)発光によってPDPにおける放電遅れが短縮され、さらに、この235nmピークのCL(およびPL)発光強度が大きくなるほど放電遅れが短縮されてゆくことが分かる。
【0045】
酸化マグネシウム単結晶体の粒径が大きくなるほど波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光の強度が大きくなり、このCL(およびPL)発光強度が大きくなるほど酸化マグネシウム単結晶体による放電特性の改善効果が大きくなるのは、以下のような理由による。
【0046】
すなわち、気相法によって大きな粒径の酸化マグネシウム単結晶体を形成しようとする場合には、マグネシウム蒸気を発生させる際の加熱温度を高くする必要があるため、マグネシウムと酸素が反応する火炎の長さが長くなり、この火炎と周囲との温度差が大きくなることによって、粒径が大きな酸化マグネシウム単結晶体ほど上述したようなCL(およびPL)発光のピーク波長(例えば、230〜250nm内,235nm付近)に対応したエネルギ準位が多数形成されるものと考えられる。
【0047】
そして、立方体の多重結晶構造の酸化マグネシウム単結晶体については、結晶面欠陥を多く含んでいて、その面欠陥エネルギ準位の存在が放電確率の改善に寄与していると考えられる。
【0048】
結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に含まれた146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体の粉末が、PDPの駆動時の放電遅れを従来のPDPに比べてさらに改善することが出来るのは、以下の理由による。
【0049】
すなわち、前述したように、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が放電空間に面する位置に位置されたPDPにおいては、駆動時の放電遅れが小さくなって放電特性が改善されるが、図12と13に示されるように、放電によって放電ガスから発生する真空紫外線のうち、波長146nmの紫外光(共鳴線)によって発生するCL(およびPL)発光による放電遅れの改善効果は、初期電子の放出特性が高いために、波長172nmの紫外光(分子線)によって発生するCL(およびPL)発光による放電遅れの改善効果よりも大きい。
【0050】
146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率が大きい酸化マグネシウム結晶体とは、CL(およびPL)発光を行う層(面欠陥エネルギ準位が形成されている層)が結晶体の表面に位置している結晶体であり、発光強度比率が小さい酸化マグネシウム結晶体とは、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の内部に位置している結晶体である。
【0051】
真空紫外線の波長172nmの紫外光(分子線)は結晶内部まで届くが、波長146nmの紫外光(共鳴線)は結晶内部まで届かないため、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の内部に位置している結晶体では146nm発光強度は小さくなり、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の表面に位置している結晶体では146nm発光強度が大きくなる。
【0052】
これは、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光が、図14に示されるように、酸化マグネシウム結晶体内において、伝導帯側の前述した面欠陥エネルギ準位から価電子帯側のマグネシウム欠損準位に電子が遷移する際に獲得するエネルギにより酸化マグネシウム結晶体から電子が放出されることによって行われるため、このCL(およびPL)発光を行う層が内部に位置している結晶体では、結晶表面にマグネシウム欠損準位が少ないために146nm発光強度が小さくなるが、CL(およびPL)発光を行う層が表面に位置している結晶体では、結晶表面にマグネシウム欠損準位が多く存在していて、電子の遷移の際に獲得するエネルギが大きくなって、146nm発光強度が増大するためである。
【0053】
図15は、結晶酸化マグネシウム層に含まれる酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率とPDPの放電遅れ特性との関係を示すグラフであり、図16は図15における酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度および172nm発光強度,発光強度比率のそれぞれの値とPDPの放電遅れ時間を示した表である。
【0054】
この図15および16から、結晶酸化マグネシウム層に146nm発光強度が172nm発光強度よりも大きい酸化マグネシウム結晶体が多く含まれることによってPDPの放電遅れ特性の改善が図られており、特に、146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率が130パーセント以上((146nm発光強度)/(172nm発光強度)≧1.30)になると、PDP駆動時の放電遅れ時間が大幅に改善されていることが分かる。
【0055】
上記の172nm発光強度に対する146nm発光強度の比率(発光強度比率)は、以下のような測定条件に基づいて行われた測定から得られた値である。
【0056】
すなわち、この発光強度比率を求める測定は、波長172nmの紫外線ランプ(以下、172nm紫外線ランプという)と波長146nmの紫外線ランプ(以下、146nm紫外線ランプという)を用い、波長172nmの紫外線を照射された酸化マグネシウム結晶体と波長146nmの紫外線を照射された酸化マグネシウム結晶体のそれぞれのPL発光を受光器によって受光し、得られたそれぞれのスペクトラムから所定の部分の発光強度の値をそれぞれ求め、後述する計算式を用いて発光強度比率の値を算出する手順で行われた。
【0057】
172nm紫外線ランプにはXeエキシマランプ(ウシオ電機(株)製UEM20H-172)が用いられ、146nm紫外線ランプにはKrエキシマランプ(ウシオ電機(株)製UEM20H-146)が用いられ、受光器には、CCD分光器((株)スペクトラコープ社製)が共通して用いられた。
【0058】
図17は、酸化マグネシウム結晶体に172nm紫外線ランプによって172nmの真空紫外線の照射を行い、酸化マグネシウム結晶体からのPL発光をCCD分光器によって受光して得られたスペクトルである。
【0059】
なお、CCD分光器には、172nm紫外線ランプの出力光の赤と赤外線の成分も受光されおり、このため、図17のおおよそ波長550nm以上の部分が172nm紫外線ランプの出力光のスペクトルを示している。
【0060】
図中の符号Wが、PL発光の波長240nmの位置のピークを示しており、以下、このピークWのPL強度を240nmPL強度Wという。
さらに、図中の符号Xが、172nm紫外線ランプの出力光の波長916nmの位置におけるピークを示しており、以下、このピークXの172nm紫外線ランプ出力光強度を172nm紫外線ランプ出力光強度Xという。
【0061】
図18は、酸化マグネシウム結晶体に146nm紫外線ランプによって146nmの真空紫外線の照射を行い、酸化マグネシウム結晶体からのPL発光をCCD分光器によって受光して得られたスペクトルである。
【0062】
なお、この場合も図17の場合と同様の理由により、図18のおおよそ波長550nm以上の部分が146nm紫外線ランプの出力光のスペクトルを示している。
そして、図中の符号Yが、PL発光の波長240nmの位置のピークを示しており、以下、このピークYのPL強度を240nmPL強度Yという。
さらに、図中の符号Zが、146nm紫外線ランプの出力光の波長976nmの位置におけるピークを示しており、以下、このピークZの146nm紫外線ランプ出力光強度を146nm紫外線ランプ出力光強度Zという。
【0063】
発光強度比率(146/172比)は、図17と18のスペクトルから読み取られたW点からZ点までの各ピークにおける強度値から、下記の計算式によって求められた。
【数1】
上記計算式において分母部分が172nm発光強度を表し、分子部分が146nm発光強度を表している。
【0064】
そして、172nm紫外線ランプでは出力光の916nmでのピーク強度が、146nm紫外線ランプでは出力光の976nmでのピーク強度が、それぞれ照射光の強度の代わりとして用いられている。
【0065】
これは、本来は、172nm紫外線ランプの172nm出力光の強度,146nm紫外線ランプの146nm出力光の強度を測定してそれぞれ照射光の強度とすれば良いのであるが、受光器であるCCD分光器の受光素子の帯域が200〜1000nmであるために、紫外線ランプの172nmと146nmの出力光の強度は測定することが出来ないためである。
【0066】
そして、上記計算式において、172nm紫外線ランプ出力光強度Xに係数0.0317が乗じられ、146nm紫外線ランプ出力光強度Zに係数0.129が乗じられているのは、酸化マグネシウム結晶体を172nm紫外線ランプで照射した場合と146nm紫外線ランプで照射した場合とでランプ光強度に違いが生じているため、上記計算式に172nm紫外線ランプの出力光の916nmピーク強度を、146nm紫外線ランプでは出力光の976nmピーク強度を、それぞれ照射光の強度として代入したことによって生じる分母と分子間での酸化マグネシウム結晶体の発光強度に対する影響の誤差を解消するためである。
【0067】
下記の表は、上記計算式による計算例を示している。
【表1】
【0068】
以上のように、上記実施例のPDPによれば、放電セルCに面する位置に、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が含まれた結晶酸化マグネシウム層5が形成され、さらに、この結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が多く含まれており、特に、この発光強度比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体の粉末が含まれていることによって、波長146nmの紫外光(共鳴線)による励起による放電セルC内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性を、従来のPDPに比べて大幅に向上させることが出来る。
【0069】
なお、上記の実施例においては、172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が、前面ガラス基板1側の薄膜酸化マグネシウム層4に積層して形成された結晶酸化マグネシウム層5に含まれている例が示されているが、この例に限らず、この172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が放電セル内に面する他の位置に配置されている場合にも、同様にPDP駆動時の放電遅れ特性を従来のPDPに比べて大幅に向上させることが出来る。
【0070】
例えば、この172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が背面ガラス基板側に形成された蛍光体層内に放電セルに露出した状態で含まれる場合にも、PDP駆動時の放電遅れ特性の大幅な向上を図ることが出来る。
【0071】
また、上記においては、この発明を、前面ガラス基板に行電極対を形成して誘電体層によって被覆し背面ガラス基板側に蛍光体層と列電極を形成した反射型交流PDPに適用した例について説明を行ったが、この発明は、前面ガラス基板側に行電極対と列電極を形成して誘電体層によって被覆し、背面ガラス基板側に蛍光体層を形成した反射型交流PDPや、前面ガラス基板側に蛍光体層を形成し背面ガラス基板側に行電極対および列電極を形成して誘電体層によって被覆した透過型交流PDP,放電空間の行電極対と列電極の交差部分に放電セルが形成される三電極型交流PDP,放電空間の行電極と列電極の交差部分に放電セルが形成される二電極型交流PDPなどの種々の形式のPDPに適用することが出来る。
【0072】
上記実施例によるPDPは、放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられており、単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されている実施形態のPDPを、その上位概念の実施形態としている。
【0073】
この実施形態のPDPによれば、放電空間に形成された各単位発光領域に面する位置に、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置位置されていることにより、波長146nmの紫外光による励起による単位発光領域内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性を大幅に向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明における実施例のPDPを示す正面図である。
【図2】図1のV−V線における断面図である。
【図3】図1のW−W線における断面図である。
【図4】同実施例において薄膜マグネシウム層上に結晶酸化マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。
【図5】同実施例において結晶酸化マグネシウム層上に薄膜マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。
【図6】立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。
【図7】立方体の多重結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。
【図8】同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径とCL発光の波長との関係を示すグラフである。
【図9】同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径と235nmのCL発光の強度との関係を示すグラフである。
【図10】蒸着法による酸化マグネシウム層からのCL発光の波長の状態を示すグラフである。
【図11】酸化マグネシウム単結晶体からの235nmのCL発光のピーク強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図12】172nm発光強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図13】146nm発光強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図14】CL発光の原理を示す説明図である。
【図15】発光強度比率と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図16】図15における酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度および172nm発光強度,発光強度比率のそれぞれの値とPDPの放電遅れ時間を示す表図である。
【図17】172nm紫外線ランプによって酸化マグネシウム結晶体を照射した場合のスペクトルである。
【図18】146nm紫外線ランプによって酸化マグネシウム結晶体を照射した場合のスペクトルである。
【符号の説明】
【0075】
1 …前面ガラス基板(前面基板)
3 …誘電体層
4 …薄膜酸化マグネシウム層
5 …結晶酸化マグネシウム層
6 …背面ガラス基板(背面基板)
7 …列電極保護層
9 …蛍光体層
C …放電セル
X,Y …行電極(放電電極)
D …列電極(放電電極)
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマディスプレイパネルの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、面放電方式交流型プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)は、放電ガスが封入されている放電空間を挟んで互いに対向される二枚のガラス基板のうち、一方のガラス基板に行方向に延びる行電極対が列方向に並設され、他方のガラス基板に列方向に延びる列電極が行方向に並設されていて、放電空間の行電極対と列電極がそれぞれ交差する部分に、マトリックス状に単位発光領域(放電セル)が形成されており、さらに、行電極や列電極を被覆するために形成された誘電体層上の単位発光領域内に面する位置に、誘電体層の保護機能と単位発光領域内への2次電子放出機能とを有する酸化マグネシウム(MgO)膜が形成された構成を備えている。
【0003】
このような構成の従来のPDPには、互いに対抗する前面ガラス基板と背面ガラス基板の間の放電空間に面する位置に、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL(カソード・ルミネッセンス)発光を行う酸化マグネシウム結晶体の粉末から分級されて所定の粒径以上の結晶体の割合が所定値以上である粒度分布を有する結晶体粉末によって形成された結晶酸化マグネシウム層が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この従来のPDPは、放電空間に面するように形成された結晶酸化マグネシウム層が、電子線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL発光を行う酸化マグネシウム結晶体を含んでいることによって、PDPにおける放電確率や放電遅れなどの放電特性が改善されて良好な放電特性を得ることが出来るとともに、この結晶酸化マグネシウム層を形成する酸化マグネシウム結晶体の粉末が、PDPの製造時に分級工程を経ることによって、所定の粒径以上の結晶体の割合が所定値以上である粒度分布を有するようになっていることにより、放電遅れ等のPDPの放電特性を改善することが出来る。
【0005】
しかしながら、市場におけるPDPの表示品質の向上に対する要求は年々高まって来ており、このため、PDPにおける放電遅れ特性のさらなる改善が強く要望されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−147417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記のような従来のPDPに対する要望に応えることをその技術的解決課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明(請求項1に記載の発明)によるPDPは、上記課題を達成するために、放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられているPDPにおいて、前記単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されていることを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明は、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間の放電空間内に形成された放電セルにそれぞれ面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス(フォト・ルミネッセンス)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されているPDPを、その最良の実施形態としている。
【0010】
この実施形態におけるPDPによれば、放電空間に形成された各放電セルに面する位置に、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置されていることにより、波長146nmの紫外光による励起による放電セル内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性が従来のPDPに比べて大幅に向上される。
【0011】
上記実施形態のPDPにおいて、結晶体の粉末の波長172nmの紫外光による発光強度に対する波長146nmの紫外光による発光強度の発光強度比率が、130パーセント以上であることが好ましい。
これによって、PDP駆動時の放電遅れ特性のさらなる向上を達成することが出来る。
さらに、前記実施形態のPDPにおいて、結晶体の粉末が、230ないし250nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有していることが好ましく、また、マグネシウムの加熱によって発生するマグネシウム蒸気が気相酸化することによって得られる単結晶体を含んでいることが好ましい。
【0012】
前記実施形態のPDPにおいて、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置される位置の態様としては、この結晶体の粉末を含む結晶酸化マグネシウム層を行電極対を被覆する誘電体層上に形成して、この結晶酸化マグネシウム層の結晶体の粉末が放電セル内に露出するようにする態様や、放電セル内の背面ガラス基板上に形成された蛍光体層に含有させる態様などが挙げられ、何れにおいても、PDP駆動時の放電遅れ特性を大幅に向上させることが出来る。
【実施例】
【0013】
図1ないし3は、この発明によるPDPの実施形態の一実施例を示しており、図1はこの実施例におけるPDPを模式的に示す正面図、図2は図1のV−V線における断面図、図3は図1のW−W線における断面図である。
この図1ないし3に示されるPDPは、表示面である前面ガラス基板1の背面に、複数の行電極対(X,Y)が、前面ガラス基板1の行方向(図1の左右方向)に延びるように平行に配列されている。
【0014】
行電極Xは、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Xaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Xaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Xbとによって構成されている。
【0015】
行電極Yも同様に、T字形状に形成されたITO等の透明導電膜からなる透明電極Yaと、前面ガラス基板1の行方向に延びて透明電極Yaの狭小の基端部に接続された金属膜からなるバス電極Ybとによって構成されている。
【0016】
この行電極XとYは、前面ガラス基板1の列方向(図1の上下方向)に交互に配列されており、バス電極XbとYbに沿って並列されたそれぞれの透明電極XaとYaが、互いに対となる相手の行電極側に延びて、透明電極XaとYaの幅広部の頂辺が、それぞれ所要の幅の放電ギャップgを介して互いに対向されている。
【0017】
前面ガラス基板1の背面には、列方向において隣接する行電極対(X,Y)の互いに背中合わせになったバス電極XbとYbの間に、このバス電極Xb,Ybに沿って行方向に延びる黒色または暗色の光吸収層(遮光層)2が形成されている。
【0018】
さらに、前面ガラス基板1の背面には、行電極対(X,Y)を被覆するように誘電体層3が形成されており、この誘電体層3の背面には、互いに隣接する行電極対(X,Y)の背中合わせに隣り合うバス電極XbおよびYbに対向する位置およびこの隣り合うバス電極XbとYbの間の領域部分に対向する位置に、誘電体層3の背面側に突出する嵩上げ誘電体層3Aが、バス電極Xb,Ybと平行に延びるように形成されている。
【0019】
そして、この誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面側には、蒸着法またはスパッタリングによって形成された薄膜の酸化マグネシウム層(以下、薄膜酸化マグネシウム層という)4が形成されていて、誘電体層3と嵩上げ誘電体層3Aの背面の全面を被覆している。
【0020】
この薄膜酸化マグネシウム層4の背面側には、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光(CL発光)およびフォト・ルミネッセンス発光(PL発光)を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体を含む酸化マグネシウム層(以下、結晶酸化マグネシウム層という)5が形成されている。
この結晶酸化マグネシウム層5の構成については、後で詳述する。
【0021】
この結晶酸化マグネシウム層5は、薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面または一部、例えば、後述する放電セルに面する部分に形成されている(図示の例では、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の全面に形成されている例が示されている)。
【0022】
一方、前面ガラス基板1と平行に配置された背面ガラス基板6の表示側の面上には、列電極Dが、各行電極対(X,Y)の互いに対となった透明電極XaおよびYaに対向する位置において行電極対(X,Y)と直交する方向(列方向)に延びるように、互いに所定の間隔を開けて平行に配列されている。
【0023】
背面ガラス基板6の表示側の面上には、さらに、列電極Dを被覆する白色の列電極保護層(誘電体層)7が形成され、この列電極保護層7上に、隔壁8が形成されている。
【0024】
この隔壁8は、各行電極対(X,Y)のバス電極XbとYbに対向する位置においてそれぞれ行方向に延びる一対の横壁8Aと、隣接する列電極Dの間の中間位置において一対の横壁8A間を列方向に延びる縦壁8Bとによって略梯子形状に形成されており、各隔壁8が、隣接する他の隔壁8の互いに背中合わせに対向する横壁8Aの間において行方向に延びる隙間SLを挟んで、列方向に並設されている。
【0025】
そして、この梯子状の隔壁8によって、前面ガラス基板1と背面ガラス基板6の間の放電空間Sが、各行電極対(X,Y)において互いに対になっている透明電極XaとYaに対向する部分に形成される放電セルC毎に、それぞれ方形に区画されている。
【0026】
放電空間Sに面する隔壁8の横壁8Aおよび縦壁8Bの側面と列電極保護層7の表面には、これらの五つの面を全て覆うように蛍光体層9が形成されており、この蛍光体層9の色は、各放電セルC毎に赤,緑,青の三原色が行方向に順に並ぶように配列されている。
【0027】
嵩上げ誘電体層3Aは、この嵩上げ誘電体層3Aを被覆している結晶酸化マグネシウム層5(または、結晶酸化マグネシウム層5が薄膜酸化マグネシウム層4の背面の放電セルCに対向する部分にのみ形成されている場合には、薄膜酸化マグネシウム層4)が隔壁8の横壁8Aの表示側の面に当接される(図2参照)ことによって、放電セルCと隙間SLの間をそれぞれ閉じているが、縦壁8Bの表示側の面には当接されておらず(図3参照)、その間に隙間rが形成されて、行方向において隣接する放電セルC間がこの隙間rを介して互いに連通されている。
【0028】
放電空間S内には、キセノンを含む放電ガスが封入されている。
以下、結晶酸化マグネシウム層5の構成について詳述する。
上記結晶酸化マグネシウム層5は、前述したように、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が、スプレ法や静電塗布法などの方法によって誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aを被覆している薄膜酸化マグネシウム層4の背面側の表面に付着されることによって形成される。
【0029】
なお、この実施例においては、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成される例について説明が行われるが、誘電体層3および嵩上げ誘電体層3Aの背面に結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、この結晶酸化マグネシウム層5の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成されるようにしても良い。
【0030】
図4は、誘電体層3の背面に薄膜酸化マグネシウム層4が形成され、この薄膜酸化マグネシウム層4の背面に、酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成されている状態を示している。
【0031】
また、図5は、誘電体層3の背面に酸化マグネシウム結晶体がスプレ法や静電塗布法などの方法によって付着されて結晶酸化マグネシウム層5が形成された後、薄膜酸化マグネシウム層4が形成されている状態を示しているが、この場合も、酸化マグネシウム結晶体が放電空間側に露出されている。
上記PDPの結晶酸化マグネシウム層5は、下記の材料および方法によって形成されている。
【0032】
すなわち、結晶酸化マグネシウム層5の形成材料となる紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体とは、例えば、マグネシウムを加熱して発生するマグネシウム蒸気を気相酸化して得られるマグネシウムの単結晶体(以下、このマグネシウムの単結晶体を気相酸化マグネシウム単結晶体という)を含み、この気相酸化マグネシウム単結晶体には、例えば、図6のSEM写真像に示されるような、立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体と、図7のSEM写真像に示されるような、立方体の結晶体が互いに嵌り込んだ構造(すなわち、立方体の多重結晶構造)を有する酸化マグネシウム単結晶体が含まれる。
【0033】
さらに、この結晶酸化マグネシウム層5の形成材料となる紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体には、前述したような紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光(分子線)によるCL(およびPL)発光強度(以下、172nm発光強度と呼ぶ)よりも波長146nmの紫外光(共鳴線)によるCL(およびPL)発光強度(以下、146nm発光強度と呼ぶ)の方が大きく、この146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率(以下、発光強度比率と呼ぶ)が所定の値以上である酸化マグネシウム結晶体が含まれている。
【0034】
この実施例においては、結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、発光強度比率が130パーセント以上((146nm発光強度)/(172nm発光強度)≧1.30)の酸化マグネシウム結晶体の粉末が含まれている。
【0035】
次に、PDPの駆動時の結晶酸化マグネシウム層5の機能について説明を行う。
上記のPDPは、画像形成のためのリセット放電およびアドレス放電,サステイン放電が放電セルC内において行われる。
【0036】
そして、リセット放電およびアドレス放電が放電セルC内において発生される際に、この放電セルCに結晶酸化マグネシウム層5が面していることによって、リセット放電およびアドレス放電によるプライミング効果が長く持続し、これによってアドレス放電およびサステイン放電が高速化されて、PDPの放電遅れや放電確率等の放電特性が改善される。
【0037】
さらに、後で詳述するように、結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体粉末が含まれていることにより、放電セルC内への初期電子の放出特性が高くなって、PDPの駆動時の放電遅れが従来のPDPに比べて大幅に改善される。
【0038】
すなわち、図8および9に示されるように、結晶酸化マグネシウム層5が、上述したような例えば気相法や液相法等によって生成された酸化マグネシウム単結晶体によって形成されていることにより、放電によって放電ガスから発生する紫外線の照射によって、結晶酸化マグネシウム層5に含まれる酸化マグネシウム単結晶体から、300〜400nmにピークを有するCL(およびPL)発光に加えて、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光が励起される。
【0039】
この235nmにピークを有するCL(およびPL)発光は、図10に示されるように、通常の蒸着法によって形成される酸化マグネシウム層(この実施例における薄膜酸化マグネシウム層4)からは励起されず、300〜400nmにピークを有するCL(およびPL)発光のみが励起される。
【0040】
なお、この図10は、長軸側の粒径が約8000Åの柱状結晶によって形成された多結晶構造の蒸着酸化マグネシウム層(膜厚:約8000Å)についてのCL(およびPL)発光強度の測定結果を示している。
【0041】
また、図8および9から分かるように、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光は、酸化マグネシウム単結晶体の粒径が大きくなるほどそのピーク強度が大きくなり、この波長域200〜300nmのCL(およびPL)発光のピーク強度が大きくなるほど、放電遅れ等の放電特性の改善が図られる。
【0042】
この実施例においては、粒径が2000オングストローム以上の酸化マグネシウム単結晶体が用いられている。
【0043】
この結晶酸化マグネシウム層5による放電特性の改善は、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光を行う酸化マグネシウム単結晶体が、そのピーク波長に対応したエネルギ準位を有し、そのエネルギ準位によって電子を長時間(数msec以上)トラップすることができ、この電子が電界によって取り出されることで、放電開始に必要な初期電子が得られることによって為されると推測される。
【0044】
図11のグラフは、CL(およびPL)発光強度とPDPの放電遅れとの相関関係を示しており、この図11から、酸化マグネシウム結晶体から励起される235nmのCL(およびPL)発光によってPDPにおける放電遅れが短縮され、さらに、この235nmピークのCL(およびPL)発光強度が大きくなるほど放電遅れが短縮されてゆくことが分かる。
【0045】
酸化マグネシウム単結晶体の粒径が大きくなるほど波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光の強度が大きくなり、このCL(およびPL)発光強度が大きくなるほど酸化マグネシウム単結晶体による放電特性の改善効果が大きくなるのは、以下のような理由による。
【0046】
すなわち、気相法によって大きな粒径の酸化マグネシウム単結晶体を形成しようとする場合には、マグネシウム蒸気を発生させる際の加熱温度を高くする必要があるため、マグネシウムと酸素が反応する火炎の長さが長くなり、この火炎と周囲との温度差が大きくなることによって、粒径が大きな酸化マグネシウム単結晶体ほど上述したようなCL(およびPL)発光のピーク波長(例えば、230〜250nm内,235nm付近)に対応したエネルギ準位が多数形成されるものと考えられる。
【0047】
そして、立方体の多重結晶構造の酸化マグネシウム単結晶体については、結晶面欠陥を多く含んでいて、その面欠陥エネルギ準位の存在が放電確率の改善に寄与していると考えられる。
【0048】
結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に含まれた146nm発光強度の172nm発光強度に対する比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体の粉末が、PDPの駆動時の放電遅れを従来のPDPに比べてさらに改善することが出来るのは、以下の理由による。
【0049】
すなわち、前述したように、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が放電空間に面する位置に位置されたPDPにおいては、駆動時の放電遅れが小さくなって放電特性が改善されるが、図12と13に示されるように、放電によって放電ガスから発生する真空紫外線のうち、波長146nmの紫外光(共鳴線)によって発生するCL(およびPL)発光による放電遅れの改善効果は、初期電子の放出特性が高いために、波長172nmの紫外光(分子線)によって発生するCL(およびPL)発光による放電遅れの改善効果よりも大きい。
【0050】
146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率が大きい酸化マグネシウム結晶体とは、CL(およびPL)発光を行う層(面欠陥エネルギ準位が形成されている層)が結晶体の表面に位置している結晶体であり、発光強度比率が小さい酸化マグネシウム結晶体とは、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の内部に位置している結晶体である。
【0051】
真空紫外線の波長172nmの紫外光(分子線)は結晶内部まで届くが、波長146nmの紫外光(共鳴線)は結晶内部まで届かないため、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の内部に位置している結晶体では146nm発光強度は小さくなり、CL(およびPL)発光を行う層が結晶体の表面に位置している結晶体では146nm発光強度が大きくなる。
【0052】
これは、波長域200〜300nm内(特に、230〜250nm内,235nm付近)にピークを有するCL(およびPL)発光が、図14に示されるように、酸化マグネシウム結晶体内において、伝導帯側の前述した面欠陥エネルギ準位から価電子帯側のマグネシウム欠損準位に電子が遷移する際に獲得するエネルギにより酸化マグネシウム結晶体から電子が放出されることによって行われるため、このCL(およびPL)発光を行う層が内部に位置している結晶体では、結晶表面にマグネシウム欠損準位が少ないために146nm発光強度が小さくなるが、CL(およびPL)発光を行う層が表面に位置している結晶体では、結晶表面にマグネシウム欠損準位が多く存在していて、電子の遷移の際に獲得するエネルギが大きくなって、146nm発光強度が増大するためである。
【0053】
図15は、結晶酸化マグネシウム層に含まれる酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率とPDPの放電遅れ特性との関係を示すグラフであり、図16は図15における酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度および172nm発光強度,発光強度比率のそれぞれの値とPDPの放電遅れ時間を示した表である。
【0054】
この図15および16から、結晶酸化マグネシウム層に146nm発光強度が172nm発光強度よりも大きい酸化マグネシウム結晶体が多く含まれることによってPDPの放電遅れ特性の改善が図られており、特に、146nm発光強度の172nm発光強度に対する発光強度比率が130パーセント以上((146nm発光強度)/(172nm発光強度)≧1.30)になると、PDP駆動時の放電遅れ時間が大幅に改善されていることが分かる。
【0055】
上記の172nm発光強度に対する146nm発光強度の比率(発光強度比率)は、以下のような測定条件に基づいて行われた測定から得られた値である。
【0056】
すなわち、この発光強度比率を求める測定は、波長172nmの紫外線ランプ(以下、172nm紫外線ランプという)と波長146nmの紫外線ランプ(以下、146nm紫外線ランプという)を用い、波長172nmの紫外線を照射された酸化マグネシウム結晶体と波長146nmの紫外線を照射された酸化マグネシウム結晶体のそれぞれのPL発光を受光器によって受光し、得られたそれぞれのスペクトラムから所定の部分の発光強度の値をそれぞれ求め、後述する計算式を用いて発光強度比率の値を算出する手順で行われた。
【0057】
172nm紫外線ランプにはXeエキシマランプ(ウシオ電機(株)製UEM20H-172)が用いられ、146nm紫外線ランプにはKrエキシマランプ(ウシオ電機(株)製UEM20H-146)が用いられ、受光器には、CCD分光器((株)スペクトラコープ社製)が共通して用いられた。
【0058】
図17は、酸化マグネシウム結晶体に172nm紫外線ランプによって172nmの真空紫外線の照射を行い、酸化マグネシウム結晶体からのPL発光をCCD分光器によって受光して得られたスペクトルである。
【0059】
なお、CCD分光器には、172nm紫外線ランプの出力光の赤と赤外線の成分も受光されおり、このため、図17のおおよそ波長550nm以上の部分が172nm紫外線ランプの出力光のスペクトルを示している。
【0060】
図中の符号Wが、PL発光の波長240nmの位置のピークを示しており、以下、このピークWのPL強度を240nmPL強度Wという。
さらに、図中の符号Xが、172nm紫外線ランプの出力光の波長916nmの位置におけるピークを示しており、以下、このピークXの172nm紫外線ランプ出力光強度を172nm紫外線ランプ出力光強度Xという。
【0061】
図18は、酸化マグネシウム結晶体に146nm紫外線ランプによって146nmの真空紫外線の照射を行い、酸化マグネシウム結晶体からのPL発光をCCD分光器によって受光して得られたスペクトルである。
【0062】
なお、この場合も図17の場合と同様の理由により、図18のおおよそ波長550nm以上の部分が146nm紫外線ランプの出力光のスペクトルを示している。
そして、図中の符号Yが、PL発光の波長240nmの位置のピークを示しており、以下、このピークYのPL強度を240nmPL強度Yという。
さらに、図中の符号Zが、146nm紫外線ランプの出力光の波長976nmの位置におけるピークを示しており、以下、このピークZの146nm紫外線ランプ出力光強度を146nm紫外線ランプ出力光強度Zという。
【0063】
発光強度比率(146/172比)は、図17と18のスペクトルから読み取られたW点からZ点までの各ピークにおける強度値から、下記の計算式によって求められた。
【数1】
上記計算式において分母部分が172nm発光強度を表し、分子部分が146nm発光強度を表している。
【0064】
そして、172nm紫外線ランプでは出力光の916nmでのピーク強度が、146nm紫外線ランプでは出力光の976nmでのピーク強度が、それぞれ照射光の強度の代わりとして用いられている。
【0065】
これは、本来は、172nm紫外線ランプの172nm出力光の強度,146nm紫外線ランプの146nm出力光の強度を測定してそれぞれ照射光の強度とすれば良いのであるが、受光器であるCCD分光器の受光素子の帯域が200〜1000nmであるために、紫外線ランプの172nmと146nmの出力光の強度は測定することが出来ないためである。
【0066】
そして、上記計算式において、172nm紫外線ランプ出力光強度Xに係数0.0317が乗じられ、146nm紫外線ランプ出力光強度Zに係数0.129が乗じられているのは、酸化マグネシウム結晶体を172nm紫外線ランプで照射した場合と146nm紫外線ランプで照射した場合とでランプ光強度に違いが生じているため、上記計算式に172nm紫外線ランプの出力光の916nmピーク強度を、146nm紫外線ランプでは出力光の976nmピーク強度を、それぞれ照射光の強度として代入したことによって生じる分母と分子間での酸化マグネシウム結晶体の発光強度に対する影響の誤差を解消するためである。
【0067】
下記の表は、上記計算式による計算例を示している。
【表1】
【0068】
以上のように、上記実施例のPDPによれば、放電セルCに面する位置に、紫外線によって励起されることにより波長域200〜300nm内にピークを有するCL(およびPL)発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体が含まれた結晶酸化マグネシウム層5が形成され、さらに、この結晶酸化マグネシウム層5を形成する酸化マグネシウム結晶体に、172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が多く含まれており、特に、この発光強度比率が130パーセント以上の酸化マグネシウム結晶体の粉末が含まれていることによって、波長146nmの紫外光(共鳴線)による励起による放電セルC内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性を、従来のPDPに比べて大幅に向上させることが出来る。
【0069】
なお、上記の実施例においては、172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が、前面ガラス基板1側の薄膜酸化マグネシウム層4に積層して形成された結晶酸化マグネシウム層5に含まれている例が示されているが、この例に限らず、この172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が放電セル内に面する他の位置に配置されている場合にも、同様にPDP駆動時の放電遅れ特性を従来のPDPに比べて大幅に向上させることが出来る。
【0070】
例えば、この172nm発光強度よりも146nm発光強度が大きい酸化マグネシウム結晶体が背面ガラス基板側に形成された蛍光体層内に放電セルに露出した状態で含まれる場合にも、PDP駆動時の放電遅れ特性の大幅な向上を図ることが出来る。
【0071】
また、上記においては、この発明を、前面ガラス基板に行電極対を形成して誘電体層によって被覆し背面ガラス基板側に蛍光体層と列電極を形成した反射型交流PDPに適用した例について説明を行ったが、この発明は、前面ガラス基板側に行電極対と列電極を形成して誘電体層によって被覆し、背面ガラス基板側に蛍光体層を形成した反射型交流PDPや、前面ガラス基板側に蛍光体層を形成し背面ガラス基板側に行電極対および列電極を形成して誘電体層によって被覆した透過型交流PDP,放電空間の行電極対と列電極の交差部分に放電セルが形成される三電極型交流PDP,放電空間の行電極と列電極の交差部分に放電セルが形成される二電極型交流PDPなどの種々の形式のPDPに適用することが出来る。
【0072】
上記実施例によるPDPは、放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられており、単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されている実施形態のPDPを、その上位概念の実施形態としている。
【0073】
この実施形態のPDPによれば、放電空間に形成された各単位発光領域に面する位置に、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する酸化マグネシウム結晶体の粉末が配置位置されていることにより、波長146nmの紫外光による励起による単位発光領域内への初期電子の放出特性が高くなって、PDP駆動時の放電遅れ特性を大幅に向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明における実施例のPDPを示す正面図である。
【図2】図1のV−V線における断面図である。
【図3】図1のW−W線における断面図である。
【図4】同実施例において薄膜マグネシウム層上に結晶酸化マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。
【図5】同実施例において結晶酸化マグネシウム層上に薄膜マグネシウム層が形成されている状態を示す断面図である。
【図6】立方体の単結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。
【図7】立方体の多重結晶構造を有する酸化マグネシウム単結晶体のSEM写真像を示す図である。
【図8】同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径とCL発光の波長との関係を示すグラフである。
【図9】同実施例において酸化マグネシウム単結晶体の粒径と235nmのCL発光の強度との関係を示すグラフである。
【図10】蒸着法による酸化マグネシウム層からのCL発光の波長の状態を示すグラフである。
【図11】酸化マグネシウム単結晶体からの235nmのCL発光のピーク強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図12】172nm発光強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図13】146nm発光強度と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図14】CL発光の原理を示す説明図である。
【図15】発光強度比率と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【図16】図15における酸化マグネシウム結晶体の146nm発光強度および172nm発光強度,発光強度比率のそれぞれの値とPDPの放電遅れ時間を示す表図である。
【図17】172nm紫外線ランプによって酸化マグネシウム結晶体を照射した場合のスペクトルである。
【図18】146nm紫外線ランプによって酸化マグネシウム結晶体を照射した場合のスペクトルである。
【符号の説明】
【0075】
1 …前面ガラス基板(前面基板)
3 …誘電体層
4 …薄膜酸化マグネシウム層
5 …結晶酸化マグネシウム層
6 …背面ガラス基板(背面基板)
7 …列電極保護層
9 …蛍光体層
C …放電セル
X,Y …行電極(放電電極)
D …列電極(放電電極)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられているプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記結晶体の粉末の波長172nmの紫外光による発光強度に対する波長146nmの紫外光による発光強度の発光強度比率が、130パーセント以上である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記結晶体の粉末が、230ないし250nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記結晶体の粉末が、マグネシウムの加熱によって発生するマグネシウム蒸気が気相酸化することによって得られる単結晶体を含んでいる請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記結晶体の粉末を含む結晶酸化マグネシウム層が誘電体層上に形成されて、この結晶酸化マグネシウム層の結晶体の粉末が単位発光領域内に露出している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記結晶酸化マグネシウム層が、誘電体層上に蒸着法またはスパッタリング法によって形成された薄膜の酸化マグネシウム層上に積層して形成されている請求項5に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記結晶体の粉末が、背面基板上の単位発光領域内に露出する位置に配置されている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
前記結晶体の粉末が、単位発光領域内の背面基板上に形成された蛍光体層に含有されている請求項7に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項1】
放電空間を介して対向する前面基板および背面基板と、この前面基板と背面基板の間に配置されて互いに交差する部分の放電空間にそれぞれ単位発光領域を形成する行電極対および列電極と、行電極対を被覆する誘電体層が設けられているプラズマディスプレイパネルにおいて、
前記単位発光領域に面する部分に、紫外線によって励起されて波長域200〜300nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有する酸化マグネシウム結晶体のうち、波長172nmの紫外光による発光強度よりも波長146nmの紫外光による発光強度が大きい特性を有する結晶体の粉末が配置されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記結晶体の粉末の波長172nmの紫外光による発光強度に対する波長146nmの紫外光による発光強度の発光強度比率が、130パーセント以上である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記結晶体の粉末が、230ないし250nm内にピークを有するカソード・ルミネッセンス発光を行う特性を有している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記結晶体の粉末が、マグネシウムの加熱によって発生するマグネシウム蒸気が気相酸化することによって得られる単結晶体を含んでいる請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記結晶体の粉末を含む結晶酸化マグネシウム層が誘電体層上に形成されて、この結晶酸化マグネシウム層の結晶体の粉末が単位発光領域内に露出している請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記結晶酸化マグネシウム層が、誘電体層上に蒸着法またはスパッタリング法によって形成された薄膜の酸化マグネシウム層上に積層して形成されている請求項5に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記結晶体の粉末が、背面基板上の単位発光領域内に露出する位置に配置されている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
前記結晶体の粉末が、単位発光領域内の背面基板上に形成された蛍光体層に含有されている請求項7に記載のプラズマディスプレイパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−164098(P2009−164098A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184560(P2008−184560)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
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