説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】電子放出材料の化学的安定性がMgOと同等以上であり、かつ駆動電圧の低いプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】第1のパネル1と第2のパネル8とを含み、第1のパネル1と第2のパネル8との間に放電空間14が形成されているプラズマディスプレイパネル200であって、放電空間14に面するように電子放出材料20が配置されており、前記電子放出材料が、ペロブスカイト構造を有し、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、O(酸素)とを主成分として含む材料である、プラズマディスプレイパネル200とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレィパネル(以下PDPと略す)は、薄型ディスプレィパネルの中で、大型化が容易、高速表示が可能、低コストといった特徴から、実用化され、急速に普及している。
【0003】
現在実用化されている、一般的なPDPの構造は、それぞれ前面側と背面側となる、2枚の対向するガラス基板に、それぞれ規則的に配列した一対の電極を設け、これらの電極を被覆するように低融点ガラス等の誘電体層を設ける。背面基板の誘電体層上には蛍光体層を設け、前面基板の誘電体層上には、誘電体層をイオン衝撃に対して保護し、かつ2次電子放出を目的とした保護層として、MgO層が設けられる。そして2枚の基板間にNe、Xe等の不活性ガスを主体とするガスを封入し、電極間に電圧を印加して放電を発生させることにより蛍光体を発光させて表示を行う。
【0004】
PDPにおいては、高効率化が強く要求されており、その手段としては、誘電体層を低誘電率化する方法や、放電ガスのXe分圧を上げる方法が知られている。しかしながら、このような手段を用いると、放電開始電圧や維持電圧が上昇してしまうという問題点があった。
【0005】
一方、保護層に用いる材料として、2次電子放出係数の高い材料を用いれば、放電開始電圧や維持電圧を下げることが可能であることが知られており、高効率化や、耐圧の低い素子を用いることによる低コスト化が実現可能となる。このため、MgOの代わりに、同じアルカリ土類金属酸化物であるが、より2次電子放出係数の高い、SrO、BaOを用いたり、これら同士の固溶体を用いたりすることが検討されている(特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−63663号公報
【特許文献2】特開2007−95436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、SrO、BaO等は、MgOに比べて化学的に不安定であり、空気中の水分や炭酸ガスと容易に反応して、水酸化物や炭酸化物を形成する。このような化合物が形成されると、2次電子放出係数が低下して、期待した低電圧化が得られない、あるいは電圧低下に必要とされるエージング時間が非常に長くなってしまい、実用的ではなくなるといった問題点があった。
【0008】
こうした化学反応による劣化は、実験室レベルで少量を作製する場合には、作業の雰囲気ガスを制御するといった方法で回避可能であるが、製造工場でのすべての工程を雰囲気管理するのは困難であり、また可能であっても高コスト化につながる。このため、上記材料のように、従来より2次電子放出係数の高い電子放出材料の使用が検討されてきたにもかかわらず、いまだに実用化されているのはMgOのみであり、充分な低電圧化や高効率化が実現されていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、電子放出材料の化学的安定性がMgOと同等以上であり、かつ駆動電圧の低いPDPを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1のパネルと第2のパネルとを含み、前記第1のパネルと前記第2のパネルとの間に放電空間が形成されているPDPであって、前記放電空間に面するように電子放出材料が配置されており、前記電子放出材料が、ペロブスカイト構造を有し、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、O(酸素)とを主成分として含む材料である、PDPを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子放出材料の化学的安定性がMgOと同等以上であり、かつ駆動電圧の低いPDPを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるPDPの一例について説明するための分解斜視図である。
【図2】図1に示したPDPの縦断面図である。
【図3】本発明によるPDPの他の一例について説明するための分解斜視図である。
【図4】図3に示したPDPの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者等は、詳細な検討の結果、2次電子放出効率は高いが化学的に不安定なSrO及び/又はBaOに、Sb25及び2価又は3価の金属元素を反応させて得られる、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、Oとを主成分として含むペロブスカイト構造を有する材料が、化学的安定性に優れることを見出した。さらに、本発明者等は、このような材料をPDPの電子放出材料として用いることによって、従来のMgOを用いた場合よりもPDPの駆動電圧を低下させることができることを見出した。
【0014】
なお、本発明において、「電子放出材料が、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、Oとを主成分とする」とは、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、Oとの合計が、電子放出材料全体の70原子%以上、好ましくは80原子%以上であることをいう。よってSr及び/又はBaや、Sb、2価又は3価の金属元素が、他の元素に部分置換されている化合物であってもよい。この場合、部分置換される元素の量は、Sr及び/又はBa、Sb、2価又は3価の金属元素及びOの合計が上記の範囲内を満たし、かつ、本発明における電子放出材料としての特性(化学的安定性及び2次電子放出特性)が本質的に損なわれない程度であればよい。
【0015】
例えば、Sbのサイトは、同じ5価となるNb等で部分置換可能である。また、Sr、Baも、同じ2価のMg、3価のLa、1価のK等で部分的に置換可能である。上述のとおり、本発明における電子放出材料では、ペロブスカイト構造を有し、主成分が、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、Oでありさえすれば、本発明の化合物の特性(化学的安定性及び2次電子放出特性)を本質的に損なうものでない限り、これら等の元素の少量の置換は許容される。
【0016】
なお、本発明における電子放出材料としての特性をより確実に得るためには、本発明における電子放出材料は、実質的に、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、2価又は3価の金属元素と、Oとからなることが望ましい。ここで、「実質的にある元素類からなる」とは、他の元素が含まれないか、又は、他の元素が含まれている場合でもその含有量が不純物として混入する程度であること(好ましくは、10原子%以下)をいう。
【0017】
本発明における電子放出材料は、より高い化学的安定性を得るために、一般式M1O・(M21/3・Sb2/3)O2、若しくはM1O・(In1/2・Sb1/2)O2で表される材料であることが好ましい。ここで式中、M1は、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、M2は、Mg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。以下、M1、M2を、同様の意味で用いる。
【0018】
ここで、電子放出材料の好適な例として、M1O・(M21/3・Sb2/3)O2及びM1O・(In1/2・Sb1/2)O2で表される材料を挙げたが、Sbは、Sb5+以外に、その一部がSb3+となりやすい元素であり、その場合には酸素欠陥が生じる。したがって、より正確には、M1O・(M21/3・Sb2/3)O2-δ及びM1O・(In1/2・Sb1/2)O2-δと記載すべきであるが、このδは、製造条件等によって変動し、一定値とはならない。よって便宜上M1O・(M21/3・Sb2/3)O2及びM1O・(In1/2・Sb1/2)O2と記載しているが、これは、酸素欠陥の存在を否定しているものではない。すなわち、ここで示すM1O・(M21/3・Sb2/3)O2及びM1O・(In1/2・Sb1/2)O2には、酸素欠陥が生じている化合物も含まれる。
【0019】
2次電子放出効率は、SrOよりもBaOを含む材料の方が高い。一方、化学的安定性は、BaOよりもSrOを含む材料の方が高い。
【0020】
Sr及びBaのいずれか1種類以上の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、Oとを主成分とするペロブスカイト構造を有する電子放出材料を合成する方法としては、その形態として、固相法、液相法、気相法が挙げられる。
【0021】
固相法は、それぞれの金属を含む原料粉末(金属酸化物、金属炭酸塩等)を混合し、ある程度以上の温度で熱処理して反応させる方法である。
【0022】
液相法は、それぞれの金属を含む溶液を作り、これより固相を沈殿させたり、あるいは基板上にこの溶液を塗布後、乾燥し、ある程度以上の温度で熱処理等を行って固相としたりする方法である。
【0023】
気相法は、蒸着、スパッタリング、CVD等の方法によって膜状の固相を得る方法である。
【0024】
本発明のPDPにおいて、電子放出材料は放電空間に面するように配置される。例えば、当該電子放出材料は、PDPを構成する第1のパネル及び第2のパネルから選ばれる少なくとも1つのパネル上に、放電空間に面するように配置できる。一般的には、これらの電子放出材料を前面板の電極を覆う誘電体層の上に形成すればよい。しかしながら、他の部位、例えば蛍光体や隔壁表面等の位置に形成しても、放電空間に面した位置であれば、形成しないものに比べて、駆動電圧低下の効果は認められる。
【0025】
次に、PDPに設けられる電子放出材料の形態例について説明する。電子放出材料は、粒子及び膜から選ばれる少なくとも1つの形態で配置することができる。例えば前面板(第1のパネル)の電極を覆う誘電体層(第1の誘電体層)の上に形成する場合を考えると、誘電体層の上に通常保護膜として形成されるMgO膜のかわりに、電子放出材料の膜を形成したり、電子放出材料の粉末を散布する。あるいはMgO膜を形成したさらにその上に、電子放出材料の膜を形成したり、電子放出材料の粉末を散布する、といった方法をとればよい。粉末で用いる場合の粒子径は、0.1μm〜10μm程度の範囲内で、セルサイズ等にあわせて選択すればよい。
【0026】
次に、本発明のPDPの具体例を、図を用いて説明する。本発明によるPDPの一例を図1及び2に示す。図1は、当該PDP100の分解斜視図である。図2は、当該PDP100の縦断面図(図1、I−I線断面図)である。図1及び2に示すように、PDP100は、前面板(第1のパネル)1と背面板(第2のパネル)8とを有している。前面板1と背面板8との間には、放電空間14が形成されている。このPDP100は、AC面放電型であって、保護層7が上述した化合物(電子放出材料)で形成されている以外は従来例にかかるPDPと同様の構成を有する。
【0027】
前面板1は、前面ガラス基板(第1の基板)2と、その内側面(放電空間14に臨む面)に形成された透明導電膜3及びバス電極4からなる表示電極(第1の電極)5と、表示電極5を覆うように形成された誘電体層(第1の誘電体層)6と、誘電体層6上に形成された保護層7とを備えている。表示電極5は、ITO又は酸化スズからなる透明導電膜3に、良好な導電性を確保するためAg等からなるバス電極4が積層されて形成されている。
【0028】
背面板8は、背面ガラス基板(第2の基板)9と、その片面に形成したアドレス電極(第2の電極)10と、アドレス電極10を覆うように形成された誘電体層(第2の誘電体層)11と、誘電体層11の上面に設けられた隔壁12と、隔壁12の間に形成された蛍光体層とを備えている。蛍光体層は、赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)及び青色蛍光体層13(B)がこの順に配列するように形成される。
【0029】
前記蛍光体層を構成する蛍光体としては、例えば、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Eu、緑色蛍光体としてZn2SiO4:Mn、赤色蛍光体としてY23:Euを用いることができる。
【0030】
前面板1及び背面板8は、表示電極5とアドレス電極10の各々の長手方向が互いに直交し、かつ互いに対向するように配置し、封着部材(図示せず)を用いて接合される。
【0031】
放電空間14には、He、Xe、Ne等の希ガス成分からなる放電ガスが封入されている。
【0032】
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電が発生し、放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13が励起されて可視光を発光する。保護層7に、上述した化合物(電子放出材料)が使用される。
【0033】
本発明によるPDPの他の一例を、図3及び4に示す。図3は、当該PDP200の分解斜視図である。図4は、当該PDP200の縦断面図(図3、I−I線断面図)である。PDP200は、保護層7がMgOからなり、上述した電子放出材料20が保護層7上に粒子の形態で配置されていること以外は、PDP100と同様の構造を有する。PDP200においても、電子放出材料20は、放電空間14に面している。
【0034】
次に、保護層7に従来のMgO膜を用い、その上に、上述した電子放出材料の粉末を散布した場合のPDP200の作製方法について、一例を挙げて説明する。まず、前面板1を作製する。平たんな前面ガラス基板2の一主面に、複数のライン状の透明電極3を形成する。引き続き、透明電極上に銀ペーストを塗布した後、前面ガラス基板1全体を加熱することによって銀ペーストを焼成してバス電極4を形成する。これにより、表示電極5が形成される。
【0035】
表示電極5を覆うように、前面ガラス基板2の上記主面に、本実施の形態のPDP200における誘電体層6用ガラスを含むガラスペーストを、ブレードコーター法によって塗布する。その後、前面ガラス基板2全体を90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、次いで、580℃前後の温度で10分間焼成を行う。
【0036】
誘電体層6上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって成膜し、焼成を行い、保護層7を形成する。この時の焼成温度は500℃前後である。
【0037】
保護層7上に、エチルセルロース等のビヒクルに粉末状の本発明の電子放出材料を混合してペースト状としたものを、印刷法等により塗布し、乾燥し、500℃前後の温度で焼成することによって、電子放出材料20の粒子が散布された層を形成する。
【0038】
次に背面板8を作製する。平たんな背面ガラス基板9の一主面に、銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、背面ガラス基板9全体を加熱して銀ペーストを焼成することによって、アドレス電極10を形成する。引き続き、前面板と同様の方法で、誘電体層11を形成する。
【0039】
隣り合うアドレス電極10の間にガラスペーストを塗布し、背面ガラス基板9全体を加熱してガラスペーストを焼成することによって、隔壁12を形成する。
【0040】
隣り合う隔壁12同士の間に、R、G、B各色の蛍光体インクを塗布し、背面ガラス基板9を約500℃に加熱して上記蛍光体インクを焼成することによって、蛍光体インク内の樹脂成分(バインダー)等を除去して蛍光体層を形成する。
【0041】
こうして得た前面板1と背面板8とを封着ガラスを用いて貼り合わせる。この時の温度は500℃前後である。その後、封止された内部を高真空排気した後、希ガスを封入する。
【0042】
以上のようにしてPDP200が得られる。
【0043】
なお、上述したPDP及びその製造方法は一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
MgO膜からなる保護層7のかわりに、上述した本発明における電子放出材料を薄膜として形成する場合、MgO膜と同様に、電子ビーム蒸着等の、通常の薄膜プロセスを適宜用いればよい。また、当該電子放出材料の粉末をビヒクルや溶媒等と混合して、電子放出材料粉末の含有率が比較的高いペースト状とし、これを印刷法等の方法で薄く広げた後、焼成して薄膜状、あるいは厚膜状としてもよい。
【0045】
一方、電子放出材料粉末を散布する場合は、電子放出材料粉末含有率が比較的低いペーストを用意して印刷法を用いたり、溶媒に粉末を分散させて散布したり、スピンコーター等を用いたりすればよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
[電子放出材料]
本実施例では、SrO、BaOにSb25及びMgO、又はZnO、あるいはIn23を固相法により反応させて合成した電子放出材料について、それぞれ化学的安定性の改善効果を示す。
【0048】
出発原料として、試薬特級以上のSrCO3、BaCO3、Sb25、MgO、ZnO、In23、CeO2を用いた。これらの原料を、各金属イオンのモル比が、表1に示すようになるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した後、乾燥し、混合粉末を得た。
【0049】
これらの混合粉末を白金坩堝に入れ、電気炉にて、空気中で1200℃〜1500℃で2時間焼成した。得られた粉末の平均粒径を測定し、粒径の大きいものについては、エタノールを溶媒に用いて湿式ボールミル粉砕し、いずれの組成においても、平均粒径約3μmとした。粉砕粉末の一部をX線回折法を用いて分析し、生成相を同定した。
【0050】
次に粉砕粉末の一部をひょう量した後、吸湿性のない多孔質のセルに充てんし、このセルを温度35℃湿度60%空気中の恒温恒湿槽に入れて12時間放置し、放置後再度重量を測定し、重量増加率を測定した。その後、さらに温度65℃湿度80%空気中の恒温恒湿槽に入れて12時間放置し、放置後再度重量を測定し、重量増加率(積算値)を算出した。この重量増加率が低いほど、化合物が、化学的な安定性に優れていることを意味する。一部の試料に対しては、恒温恒湿槽処理後のX線回折測定も行った。また比較のため、試料No.9として、MgOの粉末を用いて、同様の重量増加率を測定した。
【0051】
次に、粉砕粉末の一部をX線光電子分光法(XPS)を用いて分析し、得られるC1sのナロースペクトル中の、炭酸基由来のピーク(288〜290eV付近にピークトップが存在するピーク)の積分値を、炭酸化量として算出した。この炭酸化量が低いほど、化合物における炭酸化物の形成が少なく、安定性に優れていることを意味する。また比較のため、試料No.9として、MgOの粉末についても同様の方法で炭酸化量を測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表2において、生成相のX線回折による分析では、Sb25と反応させないNo.1はSrOに一部Sr(OH)2が混在しており、No.2はBaO自体は観察されず、Ba(OH)2とBaCO3の混合物であった。これは、SrO<BaOの順に化学的に不安定となるために、焼成後の冷却中に空気中の水分や炭酸ガスと反応し、水酸化物や炭酸塩となったものと考えられる。No.2では、既にBaOが存在しなかったので最も不安定である事は明白であり、恒温恒湿槽での重量増加率測定は行わなかった。一方、No.3〜8、No.10については、それぞれ目的のペロブスカイト構造の化合物の生成が認められた。
【0055】
次に恒温恒湿処理における重量増加率測定では、No.1のSrOでは、35℃60%12h放置でも増加率が非常に大きく、処理後の試料のX線回折では、酸化物の回折ピークは消失し、水酸化物と炭酸塩の生成が認められた。したがって、これもNo.2のBaOに次いで不安定である事は明白であり、65℃80%12hの追加条件は行わなかった。これに対してNo.3〜8は、No.1に比べて重量増加率が小さくなっており、化合物形成による安定化効果が確認できた。これらは65℃80%12hの条件でもほとんど重量増加を示さず、比較例であるNo.9のMgOと同等以上の安定性が確認された。しかしながら、化合物化してペロブスカイト構造になっていれば必ず安定化するわけではない。比較例であるNo.10のBaCeO3はペロブスカイト構造であるが、No.3〜8に比べて重量増加が大きく、安定化効果が小さいと考えられる。
【0056】
XPSによって得られたNo.3〜8の炭酸化量は、Sb25と反応させないNo.1、2に比べて小さく、炭酸化の点でも、化合物形成による安定化効果が確認できた。また、炭酸化の点においても、化合物化してペロブスカイト構造になっていれば必ず安定化するわけではない。比較例であるNo.10のBaCeO3はペロブスカイト構造であるが、No.3〜8に比べて炭酸化量が大きく、目指す安定化効果には達していないと考えられる。
【0057】
本発明者等は上記の組成以外にも、例えばNo.5とNo.6の中間組成、(Sr,Ba)(Zn1/3Sb2/3)O3のように、二種類のアルカリ土類金属を含む組成も検討したが、No.5とNo.6の中間的な特性が得られ、安定化効果が示された。他の比率で二種類以上のアルカリ土類金属を混合した混合体においても、同様の安定化効果が得られるものと考えられる。
【0058】
[PDP]
本実施例では、化学的安定性が改善された本発明における電子放出材料を用いたPDPについて示す。厚さ約2.8mmの平たんなソーダライムガラスからなる前面ガラス基板を用意した。この前面ガラス基板の面上に、ITO(透明電極)の材料を所定のパターンで塗布し、乾燥した。次いで、銀粉末と有機ビヒクルとの混合物である銀ペーストをライン状に複数本塗布した後、上記前面ガラス基板を加熱することにより、上記銀ペーストを焼成して表示電極を形成した。
【0059】
表示電極を作製したフロントパネルに、ガラスペーストをブレードコーター法を用いて塗布し、90℃で30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、585℃の温度で10分間焼成することによって、厚さ約30μmの誘電体層を形成した。
【0060】
上記誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着した後、500℃で焼成することによって保護層を形成した。
【0061】
次に、No.1、2、5、8、9の試料の粉末約3重量部をエチルセルロース系のビヒクル100重量部と混合し、3本ロールを通してペーストとした。このペーストを、印刷法により、保護層(MgO層)上に薄く塗布し、90℃で乾燥させた後、500℃で空気中で焼成した。この際、ペーストの濃度調整によって、焼成後の保護層が粉末によって被覆される割合が20%程度となるようにした。比較のため、ペースト印刷を行わないもの(本発明における電子放出材料を設けないパネル)も作製した。
【0062】
一方、以下の方法で背面板を作製した。
【0063】
まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上に、スクリーン印刷によって銀を主体とするアドレス電極をストライプ状に形成した。引き続き、前面板と同様の方法で、厚さ約8μmの誘電体層を形成した。
【0064】
次に、誘電体層上に、隣り合うアドレス電極の間に、ガラスペーストを用いて隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷及び焼成を繰り返すことによって形成した。
【0065】
引き続き、隔壁の壁面と隔壁間で露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗布し、乾燥及び焼成して蛍光体層を作製した。
【0066】
作製した前面板と背面板を封着ガラスを用いて500℃で貼り合わせた。そして、放電空間の内部を排気した後、放電ガスとしてXeを封入し、PDPを作製した。
【0067】
作製したパネルを駆動回路に接続して発光させたところ、放電維持電圧は、本発明における電子放出材料を設けなかったパネルを基準とした時に、No.9のMgO粉末を散布したパネルでは6%の低下であったのに対し、No.1、2の粉末を散布した場合、電圧低下が認められなかった。一方、No.5、8の粉末を散布した場合、それぞれ10%、14%低下し、本発明による改善効果を確認する事ができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、消費電圧のさらなる低減が要求されるPDPに、好適に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 前面板(第1のパネル)
2 前面ガラス基板(第1の基板)
3 透明導電膜
4 バス電極
5 表示電極(第1の電極)
6 誘電体層(第1の誘電体層)
7 保護層
8 背面板(第2のパネル)
9 背面ガラス基板(第2の基板)
10 アドレス電極(第2の電極)
11 誘電体層(第2の誘電体層)
12 隔壁
13 蛍光体層
14 放電空間
20 化合物(電子放出材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のパネルと第2のパネルとを含み、前記第1のパネルと前記第2のパネルとの間に放電空間が形成されているプラズマディスプレイパネルであって、
前記放電空間に面するように電子放出材料が配置されており、
前記電子放出材料が、ペロブスカイト構造を有し、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Sbと、少なくとも1種類の2価又は3価の金属元素と、O(酸素)とを主成分として含む材料である、プラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記電子放出材料が、一般式M1O・(M21/3・Sb2/3)O2(式中、M1はSr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、M2はMg及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)で表される、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記電子放出材料が、一般式M1O・(In1/2・Sb1/2)O2(式中、M1はSr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)で表される、請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記第1のパネルは、第1の基板と、前記第1の基板上に形成された第1の電極と、前記第1の電極を覆う第1の誘電体層とを含み、
前記第2のパネルは、第2の基板と、前記第2の基板上に形成された第2の電極と、前記第2の電極を覆う第2の誘電体層と、蛍光体層とを含み、
前記電子放出材料は、前記第1のパネル及び前記第2のパネルから選ばれる少なくとも1つのパネル上に、前記放電空間に面するように配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記電子放出材料が、粒子及び膜から選ばれる少なくとも1つの形態で配置されている、請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記第1の誘電体層上に保護層が形成されている、請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記保護層がMgOからなる、請求項6に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
前記電子放出材料が、粒子及び膜から選ばれる少なくとも1つの形態で、前記保護層上に配置されている、請求項6又は7に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項9】
前記保護層が前記電子放出材料を含む、請求項6に記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−267402(P2010−267402A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115482(P2009−115482)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】