説明

プラズマミグ溶接の監視方法

【課題】プラズマミグ溶接方法において、プラズマ電極1bと溶接ワイヤ1aとの間に発生する異常なアーク放電を防止する。
【解決手段】プラズマ電極1bと母材2との間にプラズマアーク3bを発生させる。溶接ワイヤ1aと母材2との間にミグアーク1aを発生させる。溶接を開始する前に、プラズマ電極1bの先端と母材2との距離であるトーチ高さLtを設定し、このトーチ高さLtの設定値及びプラズマ溶接電流の設定値Irを入力としてアーク特性関数によってプラズマ溶接電圧Vwpを推定し、このプラズマ溶接電圧Vwpの推定値とミグ溶接電圧の設定値Vrとの設定電圧差が基準電圧値よりも大きいときは異常なアーク放電が発生すると判別して警報を発する。警報が発せられたときは、溶接条件を見直すことで異常なアーク放電を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの溶接トーチを用いてミグアークとプラズマアークとを同時に発生させて溶接を行うプラズマミグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマ溶接方法とミグ溶接方法とを組み合わせたプラズマミグ溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このプラズマミグ溶接方法においては、溶接トーチ内に配置されたプラズマ電極と母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させる。同時に、プラズマ電極を中空形状とし、上記のプラズマ電極内に配置された給電チップを介して給電される溶接ワイヤを上記の中空形状内を通って送給し、溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させる。したがって、ミグアークはプラズマアークに包まれた状態となっている。溶接ワイヤは、ミグアークを発生させる電極として機能すると共に、その先端が溶融することにより溶滴となって母材の接合を補助する。したがって、プラズマミグ溶接方法は、厚板の高効率溶接、薄板の高速溶接等に使用されることが多い。
【0003】
上記のミグ溶接電流は、スパッタの発生を抑制し、かつ、溶滴を安定して供給するために、一般的にパルス波形が使用されることが多い。したがって、ミグ溶接方法は、一般的なミグパルス溶接方法である。もちろん、ミグ溶接方法に、直流のミグ溶接方法を使用することもできる。ミグパルス溶接方法を含む消耗電極式アーク溶接方法では、溶接中のアーク長を適正値に維持することが重要であるために、アーク長制御が行われる。上記のプラズマ溶接電流には、直流又はパルス波形が使用される。これ以降の説明において、単にアーク長と記載したときはミグアークのアーク長を意味している。以下、上述したプラズマミグ溶接方法について説明する。
【0004】
図6は、従来技術におけるプラズマミグ溶接の電流・電圧波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwmを示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwpを示し、同図(D)はプラズマ溶接電圧Vwpを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、ピーク期間Tp中のピーク電流Ip及びベース期間Tb中のベース電流Ibから成るミグ溶接電流Iwmが通電する。このピーク期間Tpとベース期間Tbとを合わせてパルス周期Tfになる。そして、このミグ溶接電流Iwmの通電に対応して、同図(B)に示すように、ピーク期間Tp中はピーク電圧Vpが溶接ワイヤと母材との間に印加し、ベース期間Tb中はベース電圧Vbが印加する。
【0006】
ミグパルス溶接では、良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、ミグ溶接電圧Vwmがアーク長と略比例関係にあることを利用して、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が制御される。ミグ溶接電圧Vwmの平均値は、ミグ溶接電圧Vwmをローパスフィルタに通すことによって生成される。このアーク長制御の方式は、周波数変調方式と呼ばれる。この場合、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、パルスパラメータとなる。ピーク電流Ipは臨界値以上の400〜500A程度に設定され、ピーク期間Tpと組み合わせてユニットパルス条件と呼ばれる。このユニットパルス条件は、1パルス周期1溶滴移行になるように設定される。ベース電流Ibは、臨界値未満の100〜180A程度の小電流値に設定される。ユニットパルス条件及びベース電流Ibは、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。ピーク電流Ipの値は一般的な単独のパルスアーク溶接のときに比べて小さくなっており、ベース電流Ibの値は大きくなっている。これは、ミグアークがプラズマアークに包まれており、溶接ワイヤはプラズマアークから熱を受けるために、ピーク電流Ip及びベース電流Ibの値をこのように設定しないと溶滴移行状態が安定しないためである。
【0007】
他方、同図(C)に示すように、プラズマ溶接電流Iwpは、定電流制御されており、予め定めた一定値の直流波形となる。また、同図(D)に示すように、プラズマ溶接電圧Vwpがプラズマ電極と母材との間に印加する。したがって、プラズマアークは、一定値のプラズマ溶接電流Iwpの通電によって発生している。プラズマ溶接電流Iwpをパルス波形にする場合もある。この場合には、プラズマ溶接電圧Vwpもパルス波形となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−229641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、プラズマアークは、プラズマ電極と母材との間に発生する。そして、ミグアークは、中空形状のプラズマ電極内を送給される溶接ワイヤと母材との間に発生する。プラズマ電極と溶接ワイヤとは絶縁される必要があるために、プラズマ電極内に筒状の絶縁物を設けて、その内部に溶接ワイヤを通すようにしている。したがって、プラズマ電極の内側と溶接ワイヤとは絶縁物によって分離されているので、両者が直接接触することはなく、かつ、プラズマ電極内で両者間に異常なアーク放電が発生することもない。
【0010】
しかしながら、プラズマ電極の貫通孔から送出された溶接ワイヤと、プラズマ電極の先端部(下端部)とは接触はしていないが、非常に接近した距離にある。このために、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間の電圧差が大きくなると、溶接ワイヤとプラズマ電極の先端部との間に異常なアーク放電が発生することがある。この異常なアーク放電が発生すると、プラズマアーク及びミグアークの発生状態が不安定になり、溶接品質が悪くなる。さらには、この異常なアーク放電が発生すると、プラズマ電極が部分溶融して溶接トーチが損傷することになり、溶接を継続することができなくなる場合も生じる。
【0011】
そこで、本発明では、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間に異常なアーク放電が発生することを防止して、溶接トーチの損傷を防止すると共に、溶接品質を良好に維持することができるプラズマミグ溶接の監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接トーチ内に配置されたプラズマ電極と母材との間にプラズマ溶接電圧を印加して予め設定されたプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させると共に、前記プラズマ電極を中空形状とし、前記プラズマ電極内に配置された給電チップを介して給電される溶接ワイヤを前記中空形状内を通って送給し、前記給電チップと前記母材との間に予め設定されたミグ溶接電圧を印加してミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
溶接を開始する前に、前記プラズマ電極の先端と前記母材との距離であるトーチ高さを設定し、このトーチ高さの設定値及び前記プラズマ溶接電流の設定値を入力として予め定めたアーク特性関数によって前記プラズマ溶接電圧を推定し、このプラズマ溶接電圧の推定値と前記ミグ溶接電圧の設定値との設定電圧差が予め定めた基準電圧値よりも大きいときは異常なアーク放電が発生すると判別して警報を発する、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接の監視方法である。
【0013】
請求項2の発明は、前記警報が発せられたときは、前記設定電圧差が前記基準電圧値以下になる前記プラズマ溶接電流の設定値を算出して表示する、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接の監視方法である。
【0014】
請求項3の発明は、前記警報が発せられたときは、前記設定電圧差が前記基準電圧値以下になる前記トーチ高さの設定値を算出して表示する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマミグ溶接の監視方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接を開始する前に、異常なアーク放電が発生するおそれがあるかを判別して、おそれがあるときは警報を発することができる。このために、本発明では、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間に異常なアーク放電が発生することを未然に防止することができ、溶接条件を見直すことによって、溶接トーチの損傷を防止すると共に、溶接品質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接の監視方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【図2】図1の溶接装置を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。
【図3】図1の溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。
【図4】図1の溶接装置を構成する監視装置AMのブロック図である。
【図5】図4の異常アーク放電判別回路ARに内蔵されているアーク特性関数を説明するための図である。
【図6】従来技術におけるプラズマミグ溶接の電流・電圧波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は、上述した本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
【0019】
本溶接装置は、破線で囲まれた溶接トーチWT、ミグ溶接電源PSM、プラズマ溶接電源PSP及び監視装置AMを備えている。溶接トーチWTは、シールドガスノズル52内に、プラズマノズル51、プラズマ電極1b及び給電チップ4が同心軸上に配置された構造となっている。シールドガスノズル52とプラズマノズル51との隙間からは、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のシールドガス63が供給される。プラズマノズル51とプラズマ電極1bとの間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のプラズマガス62が供給される。プラズマ電極1bと給電チップ4との間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のセンターガス61が供給される。
【0020】
プラズマ電極1bは、中空形状に形成されている。給電チップ4は、このプラズマ電極1bの中空形状内に絶縁されて配置されている。そして、この給電チップ4に設けられた貫通孔からは、溶接ワイヤ1aが送給される。給電チップ4は、溶接ワイヤ1aに対して導通している。しかし、溶接ワイヤ1aは、筒状の絶縁物8を介してプラズマ電極1bとは絶縁されている。絶縁物8は、例えばセラミックスから作製される。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。プラズマ電極1bは、たとえば銅又は銅合金からなり、図外の経路を通る冷却水によって間接的に水冷されている。プラズマノズル51は、たとえば銅又は銅合金からなり、冷却水を通す流路が形成されていることにより、直接冷却されている。溶接トーチWTは、通常ロボット(図示は省略)によって保持された状態で、母材2に対して移動させられる。もちろん、溶接作業者が溶接トーチWTを手動で操作する場合もある。この場合には、溶接トーチWTは通常の溶接トーチに比べて大型で重いので、手振れを生じやすい。溶接ワイヤ1aの先端と母材2との間には、ミグアーク3aが発生する。プラズマ電極1bと母材2との間には、プラズマガス62によって熱的に拘束されたプラズマアーク3bが発生する。したがって、ミグアーク3aは、プラズマアーク3bに包まれた状態になっている。このために、プラズマアーク3bは、ミグアーク3aの形状が広がるのを拘束する作用がある。同図に示すように、プラズマ電極1bの先端と母材2との距離がトーチ高さLt(mm)となる。
【0021】
ミグ溶接電源PSMは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1aと母材2との間に、ミグ溶接電圧Vwmを印加することにより、ミグ溶接電流Iwmを通電するための電源である。ミグ溶接電源PSMからは、送給モータWMに対して送給制御信号Fcが送られ、溶接ワイヤ1aの送給速度が制御される。ミグ溶接電源PSMから給電チップ4を介してミグ溶接電圧Vwmが印加されるときは、溶接ワイヤ1aが+側とされる。ミグ溶接電圧Vwmは、給電チップ4と母材2との間の電圧であるが、溶接ワイヤ1aと母材2との間の電圧であると見なすことができる。ミグ溶接電源PSMは、定電圧特性の電源であり、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めたミグ溶接電圧設定信号Vrの値と等しくなるように制御される。このミグ溶接電圧設定信号Vrは、監視装置AMに出力される。また、ミグ溶接電流Iwmは、溶接ワイヤ1aの送給速度によってその値が定まる。
【0022】
プラズマ溶接電源PSPは、プラズマ電極1bと母材2との間にプラズマ溶接電圧Vwpを印加することによりプラズマ溶接電流Iwpを通電するための電源である。プラズマ溶接電源PSPからプラズマ溶接電圧Vwpが印加されるときは、プラズマ電極1bが+側とされる。プラズマ溶接電源PSPは、定電流特性の電源であり、プラズマ溶接電流Iwpが予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Irの値と等しくなるように制御される。このプラズマ溶接電流設定信号Irは、監視装置AMに出力される。ミグ溶接電流Iwm、ミグ溶接電圧Vwm、プラズマ溶接電流Iwp及びプラズマ溶接電圧Vwpの波形図は、上述した図6と同一である。
【0023】
監視装置AMは、上記のミグ溶接電圧設定信号Vr及び上記のプラズマ溶接電流設定信号Irを入力として、図4で後述するように、プラズマ電極1bと溶接ワイヤ1aとの間に異常なアーク放電が発生するおそれがあるかを溶接を行う前に溶接条件から判別して、発生するおそれがあると判別した場合には警報を発する。また、監視装置AMは、警報が発せられたときは、溶接条件の修正方法を表示器に表示する。
【0024】
図2は、上述した図1の溶接装置を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0025】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、ミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ないその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、から構成される。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMに結合された送給ロール7によって給電チップ4内を通って送給され、母材2との間にミグアーク3aが発生する。溶接トーチの構造は図1のとおりであり、ここでは簡略化して図示している。
【0026】
電圧検出回路VDは、ミグ溶接電圧Vwmを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。ミグ溶接電圧平均値算出回路VMAは、この電圧検出信号Vdをローパスフィルタ(カットオフ周波数1〜10Hz程度)に通すことによって平均化(平滑化)して、ミグ溶接電圧平均値信号Vmaを出力する。
【0027】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値によって定まる送給速度Fwで溶接ワイヤ1aを送給するための送給制御信号Fcを送給モータWMに出力する。
【0028】
ミグ溶接電圧設定回路VRは、予め定めたミグ溶接電圧設定信号Vrを電圧誤差増幅回路EV及び監視装置AMに出力する。電圧誤差増幅回路EVは、このミグ溶接電圧設定信号Vrと上記のミグ溶接電圧平均値信号Vmaとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧/周波数変換回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間だけHighレベルになるトリガ信号である。
【0029】
ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。ピーク期間タイマ回路TPは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルになると上記のピーク期間設定信号Tprの値によって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号TpがHighレベルのときがピーク期間となり、Lowレベルのときがベース期間となる。
【0030】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。電流設定制御回路IRCは、上記のピーク期間信号TpがLowレベルのときは上記のベース電流設定信号Ibrを電流設定制御信号Ircとして出力し、Highレベルのときは上記のピーク電流設定信号Iprを電流設定制御信号Ircとして出力する。
【0031】
電流検出回路IDは、ミグ溶接電流Iwmを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定制御信号Ircと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって図6(A)で上述したミグ溶接電流Iwmが通電する。上述したミグ溶接電源PSMは、ミグ溶接電圧Vwmの平均値がミグ溶接電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期が変化して出力制御されるので、定電圧特性の電源となる。
【0032】
図3は、上述した図1の溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0033】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行いプラズマ溶接電流Iwpを出力する。このプラズマ溶接電流Iwpは、プラズマ電極1b、プラズマアーク3b、母材2を通って通電する。溶接トーチの構造は上述した図1のとおりであるが、ここでは簡略化して図示している。
【0034】
プラズマ溶接電流設定回路IRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Irを電流誤差増幅回路EI及び監視装置AMに出力する。電流検出回路IDは、上記のプラズマ溶接電流Iwpを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記のプラズマ溶接電流設定信号Irと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって、図6(C)で上述した直流のプラズマ溶接電流Iwpが通電する。上述したプラズマ溶接電源PSPは、プラズマ溶接電流Iwpがプラズマ溶接電流設定信号Irの値と等しくなるように出力制御されるので、定電流特性の電源となる。
【0035】
図4は、上述した図1の溶接装置を構成する監視装置AMのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0036】
監視装置AMは、破線で囲まれており、トーチ高さ設定回路LTR、基準電圧値設定回路VTH、異常アーク放電判別回路AR、報知回路HT及び表示器DPを含んでいる。
【0037】
トーチ高さ設定回路LTRは、予め定めたトーチ高さ設定信号Ltrを出力する。このトーチ高さ設定信号Ltrは、プラズマ電極先端と母材との間の距離を測定して予め設定する。また、溶接ロボットを使用した溶接においては、このトーチ高さのデータがロボット制御装置に記憶されているので、ロボット制御装置から送信するようにしても良い。トーチ高さ設定信号Ltrは、15〜30mm程度の範囲で設定される。
【0038】
基準電圧値設定回路VTHは、予め定めた基準電圧値信号Vthを出力する。この値をどのように設定するかを説明するために、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間に異常なアーク放電が発生する要因について説明する。トーチ高さが、継手形状の変化、ウィービング、手振れ等によって高くなると、プラズマ溶接電圧とミグ溶接電圧との電圧差が大きくなる。この電圧差は、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間の電圧となる。また、プラズマ溶接電流Iwpは50〜200A程度の範囲で設定されることが多いが、この値が大きくなると電圧差が大きくなる。電圧差がどのくらいの値になると、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間に異常なアーク放電が発生するかは、溶接トーチの構造、センターガス及びプラズマガスの種類、電圧が印加される時間、送給速度等によって異なるが、22〜32V以上になると確率が高くなる。この値以上の電圧差が2〜5秒以上継続して印加されると、異常なアーク放電が発生する場合が多い。したがって、基準電圧値信号Vthの値は、溶接条件に応じて異常なアーク放電が発生しない値に設定される。具体的には、20〜30V程度に設定される。
【0039】
異常アーク放電判別回路ARは、プラズマ溶接電源PSPからのプラズマ溶接電流設定信号Ir、ミグ溶接電源PSMからのミグ溶接電圧設定信号Vr、上記のトーチ高さ設定信号Ltr及び上記の基準電圧値信号Vthを入力として、図5を参照して説明する以下の処理を行い、警報信号Ar、プラズマ溶接電流推奨値信号Ips及びトーチ高さ推奨値信号Ltsを出力する。後述するが、警報信号ArがHighレベルのときは、異常なアーク放電が発生するおそれがあるとして警報を発していることになる。
【0040】
1) プラズマ溶接電圧の推定
図5は、横軸に示すプラズマ溶接電流Iwp(A)と縦軸に示すプラズマ溶接電圧Vwp(V)との関係を示すアーク特性図である。同図中の特性L1はトーチ高さLt=20mmのときであり、特性L2はトーチ高さLt=25mmのときであり、特性L3はトーチ高さLt=30mmのときである。プラズマ溶接電流設定信号Ir及びトーチ高さ設定信号Ltrが入力されると、これらのアーク特性を関数として、プラズマ溶接電圧Vwpを推定することができる。図5において数値例を示す。プラズマ溶接電流設定信号Ir=150Aであり、トーチ高さ設定信号Ltr=30mmであるとすると、特性L3上でプラズマ溶接電流Iwp=150Aとなる点が動作点Paとなる。この動作点Paの縦軸の数値52Vがプラズマ溶接電圧Vwpの推定値となる。
【0041】
2) 設定電圧差の算出
ミグ溶接電圧設定信号Vrは、図2で上述したように、パルス波形であるミグ溶接電圧Vwmの平均値を設定する信号である。設定電圧差=(プラズマ溶接電圧の推定値)−(ミグ溶接電圧設定信号Vr)を算出する。溶接トーチの構造から、プラズマ溶接電圧値の方がミグ溶接電圧値よりも大きな値となる。したがって、この設定電圧差は正の値となる。数値例では、ミグ溶接電圧設定信号Vr=28Vとすると、設定電圧差=52−28=24Vとなる。
【0042】
3) 異常アーク放電が発生するおそれがあることの判別
設定電圧差が基準電圧値信号Vthの値よりも大きいときは、異常アーク放電が発生するおそれがあると判別して、警報信号ArをHighレベルにして出力する。設定電圧差が基準電圧値信号Vth以下のときは、警報信号ArをLowレベルにして出力する。数値例では、設定電圧差=24Vであり、基準電圧値信号Vth=20Vとすると、この場合には、Highレベルの警報信号Arが出力されることになる。
【0043】
4) プラズマ溶接電流推奨値信号Ips及びトーチ高さ推奨値信号Ltsの算出
警報信号ArがHighレベルのときは、プラズマ溶接電流推奨値信号Ips及びトーチ高さ推奨値信号Ltsを算出する。警報信号ArがLowレベルのときは算出は行わない。プラズマ溶接電流推奨値信号Ipsの算出方法は、上述した図5を参照して以下のようにして行う。まず、ミグ溶接電圧設定信号Vrの値と基準電圧値信号Vthの値との加算値を目標電圧値として算出する。この目標電圧値は、異常アーク放電が発生しないプラズマ溶接電圧の最大値となる。次に、図5の動作点Paを始点として、特性L3上を左下方向に移動して、縦軸の値が目標電圧値となる動作点をPbとする。この動作点Pbの横軸の値がプラズマ溶接電流推奨値信号Ipsとなる。同様に、図5の動作点Paを始点として横軸の値が同一値になるように真下に移動して、縦軸の値が目標電圧値となる動作点をPcとする。この動作点Pcのトーチ高さがトーチ高さ推奨値信号Ltsとなる。数値例では、動作点Pbの横軸の値は50Aとなるので、プラズマ溶接電流推奨値信号Ips=50Aとなる。また、動作点Pcは特性L2上にあるので、トーチ高さ推奨値信号Lts=25mmとなる。動作点Pcが特性L1〜L3の中間に位置している場合には、特性L1〜L3のトーチ高さを保管して算出する。
【0044】
報知回路HTは、上記の警報信号Arを入力として、この信号がHighレベルのときは、表示灯の点灯、ブザーによる警報音等によって異常を報知する。また、この報知回路HTを解して、警報信号Arを溶接装置外部に出力するようにしても良い。ロボット溶接にあっては、ロボット制御装置に送信しても良い。
【0045】
表示器DPは、上記のプラズマ溶接電流推奨値信号Ips及び上記のトーチ高さ推奨値信号Ltsを入力として、これらのデータを表示する。この表示器DPは、例えば液晶ディスプレイである。これらの表示は、警報が発せられたときに、異常アーク放電を発生しないようにするためには、プラズマ溶接電流設定信号Ir又はトーチ高さ設定信号Ltrをどのような値にしたら良いかを表示している。このために、警報が発せられて、溶接条件を見直す必要が生じたときに、迅速に的確に解決方法を提示することができる。上述した異常アーク放電が発生するおそれがあるかの判別と警報、それに基づいた報知、警報が発せられたときの溶接条件の推奨値の表示は、全て溶接開始前に行われる。したがって、溶接中に異常アーク放電が発生して、溶接品質が悪くなったり、溶接トーチが損傷したりする前に、溶接条件を見直すことができる。
【0046】
v
図4で上述したアーク特性図に基づいたアーク特性関数は、溶接トーチの種類、センターガス及びプラズマガスの種類、流量等に応じて実験によって予め設定する。これまでの説明は、プラズマ溶接電流が直流波形である場合である。プラズマ電流がパルス波形である場合には、その平均値を代わりの値として処理すれば良い。
【0047】
上述した実施の形態によれば、溶接を開始する前に、異常なアーク放電が発生するおそれがあるかを判別して、おそれがあるときは警報を発することができる。このために、本実施の形態では、プラズマ電極と溶接ワイヤとの間に異常なアーク放電が発生することを未然に防止することができ、溶接条件を見直すことによって、溶接トーチの損傷を防止すると共に、溶接品質を良好に維持することができる。
【符号の説明】
【0048】
1a 溶接ワイヤ
1b プラズマ電極
2 母材
3a ミグアーク
3b プラズマアーク
4 給電チップ
51 プラズマノズル
52 シールドガスノズル
61 センターガス
62 プラズマガス
63 シールドガス
7 送給ロール
8 絶縁物
AM 監視装置
AR 異常アーク放電判別回路
Ar 警報信号
DP 表示器
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
Ips プラズマ溶接電流推奨値信号
IR プラズマ溶接電流設定回路
Ir プラズマ溶接電流設定信号
IRC 電流設定制御回路
Irc 電流設定制御信号
Iwm ミグ溶接電流
Iwp プラズマ溶接電流
HT 報知回路
L1〜L3 アーク特性
LTR トーチ高さ設定回路
Ltr トーチ高さ設定信号
Lts トーチ高さ推奨値信号
Pa〜Pc 動作点
PM 電源主回路
PSM ミグ溶接電源
PSP プラズマ溶接電源
Tb ベース期間
Tf パルス周期(信号)
TP ピーク期間タイマ回路
Tp ピーク期間(信号)
TPR ピーク期間設定回路
Tpr ピーク期間設定信号
Vb ベース電圧
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 電圧/周波数変換回路
VMA ミグ溶接電圧平均値算出回路
Vma ミグ溶接電圧平均値信号
Vp ピーク電圧
VR ミグ溶接電圧設定回路
Vr ミグ溶接電圧設定信号
VTH 基準電圧値設定回路
Vth 基準電圧値信号
Vwm ミグ溶接電圧
Vwp プラズマ溶接電圧
WM 送給モータ
WT 溶接トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ内に配置されたプラズマ電極と母材との間にプラズマ溶接電圧を印加して予め設定されたプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させると共に、前記プラズマ電極を中空形状とし、前記プラズマ電極内に配置された給電チップを介して給電される溶接ワイヤを前記中空形状内を通って送給し、前記給電チップと前記母材との間に予め設定されたミグ溶接電圧を印加してミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
溶接を開始する前に、前記プラズマ電極の先端と前記母材との距離であるトーチ高さを設定し、このトーチ高さの設定値及び前記プラズマ溶接電流の設定値を入力として予め定めたアーク特性関数によって前記プラズマ溶接電圧を推定し、このプラズマ溶接電圧の推定値と前記ミグ溶接電圧の設定値との設定電圧差が予め定めた基準電圧値よりも大きいときは異常なアーク放電が発生すると判別して警報を発する、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接の監視方法。
【請求項2】
前記警報が発せられたときは、前記設定電圧差が前記基準電圧値以下になる前記プラズマ溶接電流の設定値を算出して表示する、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接の監視方法。
【請求項3】
前記警報が発せられたときは、前記設定電圧差が前記基準電圧値以下になる前記トーチ高さの設定値を算出して表示する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマミグ溶接の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−783(P2013−783A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136145(P2011−136145)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】