説明

プラズマミグ溶接方法

【課題】1つの溶接トーチWTからミグアーク3a及びプラズマアーク3bを発生させるプラズマミグ溶接方法において、プラズマ溶接電流Iwpの平均値が変化しても安定したミグアークの溶滴移行状態を維持し、良好なビード外観を得ること。
【解決手段】溶接ワイヤ1aと母材2との間にピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期とするミグ溶接電流Iwmを通電することによってミグアーク3aを発生させると共に、溶接トーチWTと母材2との間にプラズマ溶接電流Iwpを通電することによってプラズマアーク3bを発生させるプラズマミグ溶接方法において、ピーク期間及びピーク電流をプラズマ溶接電流Iwpの平均値に応じてパルス周期が一定値になるように変化させる。これにより、1パルス周期当たりの溶滴サイズが略一定になり、安定した溶滴移行状態を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの溶接トーチを用いてミグアークとプラズマアークとを同時に発生させて溶接を行うプラズマミグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマ溶接方法とミグ溶接方法とを組み合わせたプラズマミグ溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このプラズマミグ溶接方法においては、溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させる。これと同時に、溶接ワイヤを囲むようにアルゴンなどのガスを供給し、このガスを介して溶接トーチと母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させる。溶接ワイヤは、ミグアークを発生させる電極として機能すると共に、その先端が溶融することにより溶滴となって母材の接合を補助する。したがって、プラズマミグ溶接方法は、厚板の高効率溶接、薄板の高速溶接等に使用されることが多い。
【0003】
上記のミグ溶接電流は、スパッタの発生を抑制し、かつ、溶滴を安定して供給するために、一般的に直流のパルス波形が使用される。したがって、ミグ溶接方法は、一般的なミグパルス溶接方法である。ミグパルス溶接方法を含む消耗電極式アーク溶接方法では、溶接中のアーク長を適正値に維持することが重要であるために、アーク長制御が行われる。上記のプラズマ溶接電流には、直流又は直流パルス波形が使用される。これ以降の説明において、単にアーク長と記載したときはミグアークのアーク長を意味している。以下、上述したプラズマミグ溶接方法について説明する。
【0004】
図5は、プラズマミグ溶接方法を示す波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwmを示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwpを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、ピーク期間Tp中のピーク電流Ip及びベース期間Tb中のベース電流Ibから成るミグ溶接電流Iwmが通電する。このピーク期間Tpとベース期間Tbとを合わせてパルス周期Tfになる。そして、このミグ溶接電流Iwmの通電に対応して、同図(B)に示すように、ピーク期間Tp中はピーク電圧Vpが溶接ワイヤと母材との間に印加し、ベース期間Tb中はベース電圧Vbが印加する。
【0006】
ミグ溶接では、良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、ミグ溶接電圧Vwmがアーク長と略比例関係にあることを利用して、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が制御される。ミグ溶接電圧Vwmの平均値は、ミグ溶接電圧Vwmをローパスフィルタに通すことによって生成される。このアーク長制御の方式は、周波数変調方式と呼ばれる。この場合、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、パルスパラメータとなる。ピーク電流Ipは臨界値以上に設定され、ピーク期間Tpと組み合わせてユニットパルス条件と呼ばれる。このユニットパルス条件は、1パルス周期1溶滴移行になるように設定される。ベース電流Ibは、臨界値未満の数十A程度の小電流値に設定される。ユニットパルス条件及びベース電流Ibは、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。
【0007】
他方、同図(C)に示すように、プラズマ溶接電流Iwpは、定電流制御されており、予め定めた一定値の直流波形となる。したがって、プラズマアークは、一定値のプラズマ溶接電流Iwpの通電によって発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−229641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
プラズマミグ溶接では、1つの溶接トーチと母材との間にミグアークとプラズマアークの2つのアークが同時に発生している。そして、ミグアークは、プラズマアークに包まれた状態で発生している。このために、ミグアークの溶接ワイヤは、プラズマアークから熱を受けることになる。ミグアークのアーク長は、送給速度と溶融速度とがバランスして所定値に維持される。送給速度は一定値である。溶融速度は、ミグ溶接電流Iwmの平均値に略比例する。プラズマミグ溶接では、プラズマ溶接電流Iwpの平均値に略比例する溶融速度が加味することになる。すなわち、送給速度=(ミグ溶接電流Iwmの平均値による溶融速度)+(プラズマ溶接電流Iwpの平均値による溶融速度)となる。送給速度が一定値であるので、プラズマ溶接電流Iwpの平均値による溶融速度が大きくなるとアーク長を一定値に維持するために、ミグ溶接電流Iwmの平均値による溶融速度は小さくなるようにアーク長制御が作用する。ミグ溶接電流Iwmの平均値は、図5(A)に示すように、パルス周期Tfに反比例する。この結果、プラズマ溶接電流Iwpの平均値が大きくなると、プラズマ溶接電流Iwpの平均値による溶融速度が大きくなり、ミグ溶接電流Iwmの平均値による溶融速度が小さくなるようにアーク長制御が作用し、ミグ溶接電流Iwmのパルス周期Tfが長くなる。パルス周期Tfが変化すると、1パルス周期ごとに移行する溶滴の大きさが変化することになる。プラズマ溶接電流Iwpの平均値が大きくなり、パルス周期があまり長くなると、溶滴のサイズが大きくなり、溶滴移行状態が不安定になる。このようになると、図6に示すように、ビード表面に筋があるごつごつとしたビード外観となる。数値例を挙げると、以下のようになる。溶接ワイヤ:直径1.2mmのアルミニウム合金ワイヤ、送給速度=9m/min、ピーク期間Tp=1.2ms、ピーク電流Ip=300A、ベース電流Ib=30Aの溶接条件において、プラズマ溶接電流Iwp=50Aのときパルス周期Tf=4.5msとなり、Iwp=100AのときTf=8msとなる。このように、パルス周期Tfは約2倍長くなっている。
【0010】
そこで、本発明では、プラズマ電流の設定値が変化しても安定した溶滴移行状態を維持することができ、かつ、良好なビード外観を得ることができるプラズマミグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期とするミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させると共に、前記溶接ワイヤを囲むように供給されるガスを介して前記溶接トーチと前記母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
前記ピーク期間及び前記ピーク電流を前記プラズマ溶接電流の平均値に応じて変化させる、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法である。
【0012】
請求項2の発明は、ミグ溶接電圧値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように前記パルス周期を制御してアーク長制御を行い、前記ピーク期間及び前記ピーク電流を前記プラズマ溶接電流の平均値に応じて前記パルス周期が一定値になるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プラズマ溶接電流の平均値に応じてミグ溶接電流におけるピーク期間及びピーク電流を変化させることによって、パルス周期を一定値に維持することができる。このために、プラズマ溶接電流の平均値が変化しても1パルス周期当たりの溶滴サイズが略一定になるので、溶滴移行状態が安定になる。この結果、表面に筋のない、なめらかな美しいビード外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプラズマ溶接電流Iwpの平均値に対するピーク期間Tp及びピーク電流Ipの変化を示す図である。
【図3】図1の溶接装置を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。
【図4】図1の溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。
【図5】従来技術におけるプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。
【図6】従来技術によるビード外観を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
【0017】
本溶接装置は、破線で囲まれた溶接トーチWT、ミグ溶接電源PSM及びプラズマ溶接電源PSPを備えている。溶接トーチWTは、シールドガスノズル52内に、プラズマノズル51、プラズマ電極1b及び給電チップ4が同心軸上に配置された構造となっている。シールドガスノズル52とプラズマノズル51との隙間からは、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のシールドガス63が供給される。プラズマノズル51とプラズマ電極1bとの間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のプラズマガス62が供給される。プラズマ電極1bと給電チップ4との間には、たとえばアルゴンガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの混合ガス等のセンターガス61が供給される。
【0018】
給電チップ4に設けられた貫通孔からは、溶接ワイヤ1aが送給される。給電チップ4は、溶接ワイヤ1aに対して導通している。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。プラズマ電極1bは、たとえば銅又は銅合金からなり、図外の経路を通る冷却水によって間接的に水冷されている。プラズマノズル51は、たとえば銅又は銅合金からなり、冷却水を通す流路が形成されていることにより、直接冷却されている。溶接トーチWTは、通常ロボット(図示は省略)によって保持された状態で、母材2に対して移動させられる。溶接ワイヤ1aの先端と母材2との間には、ミグアーク3aが発生する。プラズマ電極1bと母材2との間には、プラズマガス62によって熱的に拘束されたプラズマアーク3bが発生する。したがって、ミグアーク3aは、プラズマアーク3bに包まれた状態になっている。したがって、プラズマアーク3bは、ミグアーク3aの形状が広がるのを拘束する作用がある。
【0019】
ミグ溶接電源PSMは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1aと母材2との間に、ミグ溶接電圧Vwmを印加することにより、ミグ溶接電流Iwmを通電するための電源である。ミグ溶接電源PSMからは、送給モータWMに対して送給制御信号Fcが送られ、溶接ワイヤ1aの送給速度が制御される。ミグ溶接電源PSMからミグ溶接電圧Vwmが印加されるときは、溶接ワイヤ1aが+側とされる。ミグ溶接電源PSMは、定電圧特性の電源であり、ミグ溶接電圧Vwmが予め定めた電圧設定信号Vr(図示は省略)の値と等しくなるように制御される。また、ミグ溶接電流Iwmは、溶接ワイヤ1aの送給速度によってその値が定まる。
【0020】
プラズマ溶接電源PSPは、プラズマ電極1bと母材2との間にプラズマ溶接電圧Vwpを印加することによりプラズマ溶接電流Iwpを通電するための電源である。プラズマ溶接電源PSPからプラズマ溶接電圧Vwpが印加されるときは、プラズマ電極1bが+側とされる。プラズマ溶接電源PSPは、定電流特性の電源であり、プラズマ溶接電流Iwpが所定値になるように制御される。
【0021】
プラズマ溶接電流設定回路IWPRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Iwprをミグ溶接電源PSM及びプラズマ溶接電源PSPに出力する。このプラズマ溶接電流設定信号Iwprは、上記のプラズマ溶接電流Iwpを設定するための信号である。プラズマ溶接電流設定回路IWPRは、ロボット溶接にあってはロボット制御装置内に設けられている。
【0022】
ミグ溶接電流Iwm、ミグ溶接電圧Vwm及びプラズマ溶接電流Iwpの波形図は、上述した図5と同一である。但し、プラズマ溶接電流Iwpにパルス波形を使用する場合もある。そのために、プラズマ溶接電流Iwpのパラメータとしては、瞬時値ではなく平均値を使用することにする。プラズマ溶接電流Iwpが直流であるときは、瞬時値と平均値とは一致することになる。本実施の形態では、ユニットパルス条件であるピーク期間Tp及びピーク電流Ipがプラズマ溶接電流Iwpの平均値によって変化する。この点が従来技術とは異なっている。以下、この点について説明する。
【0023】
図2は、プラズマ溶接電流Iwpの平均値(A)とユニットパルス条件であるピーク期間Tp(ms)及びピーク電流Ip(A)との関係を示す図である。同図の横軸は、プラズマ溶接電流Iwpの平均値(A)を示し、実用上使用されることが多い50〜150Aの範囲を示している。縦軸は、ピーク期間Tp(ms)及びピーク電流Ip(A)を示している。同図において、実線はピーク期間Tpの変化を示し、破線はピーク電流Ipの変化を示す。溶接ワイヤには、上述した数値例のときと同様に、直径1.2mmのアルミニウム合金ワイヤを使用し、送給速度=9m/minの場合である。ベース電流Ibは30Aで一定値となっている。
【0024】
プラズマ溶接電流Iwpの平均値が50Aのとき、ピーク期間Tp=1.2ms及びピーク電流Ip=300Aに設定されている。このときのパルス周期Tfは4.5msとなっている。プラズマ溶接電流Iwpの平均値が大きくなるのに伴い、ピーク期間Tp及びピーク電流Ipは共に小さくなる。そして、プラズマ溶接電流Iwpの平均値が100Aとなると、ピーク期間Tp=0.8ms及びピーク電流Ip=270Aに設定される。このときのパルス周期Tfは上記と略同一値になる。プラズマ溶接電流Iwpの平均値が150Aになると、ピーク期間Tp=0.6ms及びピーク電流Ip=260Aとなる。このときのパルス周期Tfも上記と略同一値となる。ここで、パルス周期Tfが略同一値であるのは、上述したように、パルス周期Tfはミグ溶接電圧Vwmの平均値と予め定めた電圧設定値とが等しくなるようにフィードバック制御によって定まるために、全く同一値にはならない。±10%の範囲で同一値となる。
【0025】
プラズマ溶接電流Iwpの平均値が大きくなると、上述したように、ミグアークの溶接ワイヤの溶融速度への寄与分が大きくなる。このために、アーク長を一定値に維持するために必要なミグ溶接電流Iwmの平均値は小さくなる。このときに、同図に示すように、ユニットパルス条件であるピーク期間Tp及びピーク電流Ipが小さくなると、パルス周期Tfが変化しない状態で平均値が小さくなる。したがって、プラズマ溶接電流Iwpの平均値を大きくするのに伴い、ユニットパルス条件を小さくすると、パルス周期Tfを一定値に保持することができる。
【0026】
同図に示すプラズマ溶接電流Iwpの平均値に対するピーク期間Tpの変化をピーク期間算出関数と呼ぶことにする。また、プラズマ溶接電流Iwpの平均値に対するピーク電流Ipの変化をピーク電流算出関数と呼ぶことにする。これらの関数は、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。この設定は、実験によって行われる。
【0027】
図3は、上述した図1を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0028】
電源主回路PMは、3相200V等の賞用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、ミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ないその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、から構成される。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMに結合された送給ロール7によって給電チップ4内を通って送給され、母材2との間にミグアーク3aが発生する。溶接トーチの構造は図1のとおりであり、ここでは簡略化して図示している。
【0029】
電圧検出回路VDは、ミグ溶接電圧Vwmを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均値算出回路VAVは、この電圧検出信号Vdの平均値を算出して、電圧平均値信号Vavを出力する。
【0030】
図1で上述したように、ミグ溶接電源PSMの外部に設けられたプラズマ溶接電流設定回路IWPRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Iwprを出力する。プラズマ溶接電流平均値算出回路IWPAは、このプラズマ溶接電流設定信号Iwprを入力として、その値の平均値を算出して、プラズマ溶接電流平均値信号Iwpaを出力する。送給制御回路FCは、予め定めた送給速度設定値で溶接ワイヤ1aを送給するための送給制御信号Fcを送給モータWMに出力する。
【0031】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vrと上記の電圧平均値信号Vavとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。電圧/周波数変換回路VFは、この電圧誤差増幅信号Evの値に応じた周波数を有するパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfは、パルス周期ごとに短時間だけHighレベルになるトリガ信号である。
【0032】
ピーク期間設定回路TPRは、上記のプラズマ溶接電流平均値信号Iwpaを入力として、図2で上述したような予め定めたピーク期間算出関数に基づいてピーク期間設定信号Tprを出力する。ピーク期間タイマ回路TPは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルになると上記のピーク期間設定信号Tprの値によって定まる期間だけHighレベルになるピーク期間信号Tpを出力する。このピーク期間信号TpがHighレベルのときがピーク期間となり、Lowレベルのときがベース期間となる。
【0033】
ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。ピーク電流設定回路IPRは、上記のプラズマ溶接電流平均値信号Iwpaを入力として、図2で上述したようなピーク電流算出関数に基づいてピーク電流設定信号Iprを出力する。電流設定制御回路IRCは、上記のピーク期間信号TpがLowレベルのときは上記のベース電流設定信号Ibrを電流設定制御信号Ircとして出力し、Highレベルのときは上記のピーク電流設定信号Iprを電流設定制御信号Ircとして出力する。
【0034】
電流検出回路IDは、ミグ溶接電流Iwmを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定制御信号Ircと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって図5(A)で上述したミグ溶接電流Iwmが通電する。上述したミグ溶接電源PSMは、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなるようにパルス周期が変化して出力制御されるので、定電圧特性の電源となる。上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprがパルス波形であるときでも、上記のプラズマ溶接電流平均値算出回路IWPAによってプラズマ溶接電流設定信号Iwprの平均値Iwpaが算出される。そして、この平均値Iwpaに対応したピーク期間Tp及びピーク電流Ipが設定される。
【0035】
図4は、上述した図1を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0036】
電源主回路PMは、3相200V等の賞用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行いプラズマ溶接電流Iwpを出力する。このプラズマ溶接電流Iwpは、プラズマ電極1b、プラズマアーク3b、母材2を通って通電する。溶接トーチの構造は上述した図1のとおりであるが、ここでは簡略化して図示している。
【0037】
図1で上述したように、プラズマ溶接電源PSPの外部に設けられたプラズマ溶接電流設定回路IWPRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Iwprを出力する。電流検出回路IDは、上記のプラズマ溶接電流Iwpを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって、図5(C)で上述した直流のプラズマ溶接電流Iwpが通電する。上述したプラズマ溶接電源PSPは、プラズマ溶接電流Iwpがプラズマ溶接電流設定信号Iwprの値と等しくなるように出力制御されるので、定電流特性の電源となる。上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprをパルス波形状に変化させると、プラズマ溶接電流Iwpはパルス波形となる。
【0038】
上述した実施の形態によれば、プラズマ溶接電流の平均値に応じてミグ溶接電流におけるピーク期間及びピーク電流を変化させることによって、パルス周期を一定値に維持することができる。このために、プラズマ溶接電流の平均値が変化しても1パルス周期当たりの溶滴サイズが略一定になるので、溶滴移行状態が安定になる。この結果、表面に筋のない、なめらかな美しいビード外観を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1a 溶接ワイヤ
1b プラズマ電極
2 母材
3a ミグアーク
3b プラズマアーク
4 給電チップ
51 プラズマノズル
52 シールドガスノズル
61 センターガス
62 プラズマガス
63 シールドガス
7 送給ロール
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IRC 電流設定制御回路
Irc 電流設定制御信号
Iwm ミグ溶接電流
Iwp プラズマ溶接電流
IWPA プラズマ溶接電流平均値算出回路
Iwpa プラズマ溶接電流平均値信号
IWPR プラズマ溶接電流設定回路
Iwpr プラズマ溶接電流設定信号
PM 電源主回路
PSM ミグ溶接電源
PSP プラズマ溶接電源
Tb ベース期間
Tf パルス周期(信号)
TP ピーク期間タイマ回路
Tp ピーク期間(信号)
TPR ピーク期間設定回路
Tpr ピーク期間設定信号
VAV 電圧平均値算出回路
Vav 電圧平均値信号
Vb ベース電圧
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
VF 電圧/周波数変換回路
Vp ピーク電圧
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vwm ミグ溶接電圧
Vwp プラズマ溶接電圧
WM 送給モータ
WT 溶接トーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を1パルス周期とするミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させると共に、前記溶接ワイヤを囲むように供給されるガスを介して前記溶接トーチと前記母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
前記ピーク期間及び前記ピーク電流を前記プラズマ溶接電流の平均値に応じて変化させる、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法。
【請求項2】
ミグ溶接電圧値が予め定めた電圧設定値と等しくなるように前記パルス周期を制御してアーク長制御を行い、前記ピーク期間及び前記ピーク電流を前記プラズマ溶接電流の平均値に応じて前記パルス周期が一定値になるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−121057(P2011−121057A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278102(P2009−278102)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】