説明

プラネタリウムにおける恒星の瞬き装置

【課題】プラネタリウムにおいて、現実の星空に近い恒星の瞬き現象を再現する。
【解決手段】恒星投映装置の光学系内に、空気層と異なる屈折率を有する透過性の瞬き用部材5を挿入し、上記瞬き用部材を光軸に対し直交または傾斜する方向に運動させて光学系内を通過させる。瞬き用部材は規則的または不規則的に回転または揺動させることにより恒星投映装置の光学系内で運動させ、原版と投映レンズ系間に挿入されるか、投映レンズ系内に挿入されるか、原版とコンデンサレンズ系間に挿入されるか、コンデンサレンズ系内に挿入され、表面に細かな凹凸を形成し、表面に穴を開け、形状を不規則な形状とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は光学式プラネタリウムの恒星投映装置による投映像に瞬き(またたき)を生じさせるための瞬き装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現実の星空においては、恒星(以下、単に星と称する。)が瞬いて見えることは周知のところである。そこで、プラネタリウムにおいてもこの現象を再現しようと試みている。
【0003】
従来の瞬き装置は、光輝星のみを光彩絞りによって調光したり、あるいは投映装置の光源そのものを点滅あるいは調光制御するなどの手段によって、一部の恒星のみを瞬かせる方法と、光束を籠状にした金網や遮光板で遮り、これらを回転させるなどの手段により全ての恒星を瞬かせることが行なわれてきた。
【0004】
すなわち、従来の瞬き装置においては光源からの光を部分的あるいは全面的に点滅するか、遮光することで、恒星の瞬きを再現していた。
【0005】
【特許文献1】特開2000−155522号公報
【特許文献2】特公昭49−40653号公報
【特許文献3】特開2005−266037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、現実の星空における恒星の瞬き現象は、恒星が一定の周期で点滅しているわけでは決してない。即ち、この現象は大気温度が不規則に分布し、更にそれ自身が常にゆれ動いている大気層を恒星からの光が通過した際の各温度による屈折率の差による経路の変化により集光作用や発散作用が不規則に生じ、これが地表の観察者にとって星が明るくなったり暗くなったりする瞬きとして捉えられることに起因する。つまり、星の本来の明るさ、暗さには変化がなく、あくまでも大気層の作用により瞬き現象が生じるのである。
【0007】
しかしながら、従来技術の方法は、前記の本来の恒星の瞬き現象の原因とは異なり、実際の恒星の瞬きを正しく再現することができない。プラネタリウムにおける恒星の明暗は、基本的には投映像の直径、すなわち原板上にあけた孔(恒星像)の直径によって決まる。つまり、暗い星ほど孔は小さく、明るい星ほど大きい。ところが、金網などの遮光板による瞬き装置では、遮光体に対する相対面積が小さい暗い星ほど遮光状態が長く続き、相対面積が大きい明るい星ほど短くなり、実際の恒星の瞬き現象とは異なる状態を生じてしまう。
【0008】
また、金網などの遮光板による瞬き装置では、恒星数を増やしていったときには、遮光された星と遮光されない星の対比により、遮光体の輪郭がドーム上に映し出されてしまい、甚だ不自然なものとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は以上の従来技術の問題点を解消した恒星の瞬き装置を提供することを目的として創作されたものであり、恒星投映装置の光学系内に、空気層と異なる屈折率を有する透過性の瞬き用部材を挿入し、上記瞬き用部材を光軸に対し直交または傾斜する方向に運動させて光学系内を通過させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
これまでは、瞬きを遮光板による恒星の明滅により実現していたが、遮光体に対する恒星像の相対的な大きさの関係から理解されるように、暗い恒星(像が小さい) ほど、長時間遮光状態が続くことになる。しかしながら、現実は、星の明るさによらず同等の変光パターンとなっている。これは、無限遠の星から届く光が平行光線であり、大気の擾乱を受け、一部の光のみが観察者の瞳に届くためである。よって、どのような明るさの恒星からの光も、平行光線であり、擾乱の受け方に違いは無いからである(明るさの違いは、単位時間当たりの光子数の違いである) 。
【0011】
この発明によれば、光学系内に挿入した空気層と異なる屈折率を有する透過性の瞬き用部材により、投映される恒星の光束が一時的に分散し、投映面(ドーム面) に正しく結像しなくなりぼやけた状態となり、上記瞬き用部材が運動することにより光束に揺らぎが生じて、恒星が瞬いているように見えることになる。よって、この発明によれば、瞬きを遮光板による恒星の明滅により実現しているのではないので、全ての恒星における瞬きの程度はほぼ一定となり、現実の星空の瞬きに近い現象を再現することが可能となる。また、恒星数が多くなっても、遮光しているわけではないため、遮光された星と遮光されない星の対比により瞬き用部材の輪郭がドーム上に映し出されることはなく、観客がその存在に気付くことはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図5はこの発明の恒星の瞬き装置の第1実施例を示す図である。この発明の瞬き装置は恒星投映装置に取り付けることにより実施される。恒星投映装置は鏡筒10内に、光源1、コンデンサレンズ系2、恒星の投映原板3、投映レンズ系4を配した公知の構造のものである。
【0013】
図中符合5は恒星投映装置の光学系内に挿入される瞬き用部材であり、この実施例においては原版3と投映レンズ系4間に挿入される。この瞬き用部材5は空気層と異なる屈折率を有する透過性の素材よりなるものであり、光束を分散させる作用を生じる。ここでは瞬き用部材5の素材としてアクリル板(屈折率1.49)を採用しているが、素材はこれに限定されないことは勿論である。また、瞬き用部材5は平滑なものでなく表面に細かな凹凸を形成したり、穴を開けたものであってもよい。また、瞬き用部材の形状自体を不規則なものとしてもよい。
【0014】
前記の瞬き用部材5は光軸に対し直交または傾斜する方向に運動させて光学系内を通過させることにより光束に揺らぎを生じさせるが、ここでは弧状に折曲した瞬き用部材を軸7に軸支して揺動させることにより運動させる手段としている(図1および5参照)。図中符合6は駆動源となるモータであり、クランク機構8により回転運動を軸7の往復運動に変換している(図3参照)。上記の揺動は規則的あるいは不規則的に実行されるが、瞬き用部材は回転運動するものであってもよいことは勿論である。
【0015】
図6はこの発明の恒星の瞬き装置の第2実施例を示す図である。ここでは瞬き用部材5は投映レンズ系4の前面に挿入される。
【0016】
図7はこの発明の恒星の瞬き装置の第3実施例を示す図である。ここでは瞬き用部材5は投映レンズ系4内に挿入される。
【0017】
図8はこの発明の恒星の瞬き装置の第4実施例を示す図である。ここでは瞬き用部材5は原版3とコンデンサレンズ系2間に挿入される。
【0018】
図9はこの発明の恒星の瞬き装置の第5実施例を示す図である。ここでは瞬き用部材5はコンデンサレンズ系2内に挿入される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の恒星の瞬き装置の光学系を示す斜視図。
【図2】この発明の恒星の瞬き装置の一部切り欠き側面図。
【図3】同上、瞬き用部材の駆動機構を示す底面図。
【図4】この発明の恒星の瞬き装置の光学系を示す側面図。
【図5】同上、平面図。
【図6】この発明の恒星の瞬き装置の第2実施例の光学系を示す側面図。
【図7】この発明の恒星の瞬き装置の第3実施例の光学系を示す側面図。
【図8】この発明の恒星の瞬き装置の第4実施例の光学系を示す側面図。
【図9】この発明の恒星の瞬き装置の第5実施例の光学系を示す側面図。
【符号の説明】
【0020】
2 コンデンサレンズ系
3 投映原板
4 投映レンズ系
5 瞬き用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒星投映装置の光学系内に、空気層と異なる屈折率を有する透過性の瞬き用部材を挿入し、上記瞬き用部材を光軸に対し直交または傾斜する方向に運動させて光学系内を通過させることを特徴とするプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項2】
瞬き用部材は規則的または不規則的に、回転または揺動することにより恒星投映装置の光学系内で運動する請求項1記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項3】
瞬き用部材は原版と投映レンズ系間に挿入される請求項1または2記載のプラネタリウにおける恒星の瞬き装置。
【請求項4】
瞬き用部材は投映レンズ系の前面に挿入される請求項1または2記載のプラネタリウにおける恒星の瞬き装置。
【請求項5】
瞬き用部材は投映レンズ系内に挿入される請求項1または2記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項6】
瞬き用部材は原版とコンデンサレンズ系間に挿入される請求項1または2記載のプラネタリウにおける恒星の瞬き装置。
【請求項7】
瞬き用部材はコンデンサレンズ系内に挿入される請求項1または2記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項8】
瞬き用部材の表面に細かな凹凸を形成した請求項1から7のいずれかに記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項9】
瞬き用部材の表面に穴を開けた請求項1から8のいずれかに記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。
【請求項10】
瞬き用部材の形状を不規則な形状とした請求項1から9のいずれかに記載のプラネタリウムにおける恒星の瞬き装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−98571(P2009−98571A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272449(P2007−272449)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000142894)株式会社五藤光学研究所 (9)
【Fターム(参考)】