説明

プラント監視装置およびプラント監視方法

【課題】複数種類のプロセスデータに基づいて総合的に判断でき、運転員の負担を軽減できるようにする。
【解決手段】プラント監視装置は、事象パラメータ9に設定されている信号ごとにプロセス工学値データを読み込み、事象パラメータ9に設定された傾向量タイプに従いプロセス工学値データの傾向量を算出する傾向量算出部10と、傾向量算出部10で算出された傾向量と事象パラメータ9に設定された基準値およびしきい値を使用して傾向パターン値を算出する傾向パターン算出部11と、事象パラメータ9ごとに登録されている信号の傾向パターン値と事象履歴ファイル13内の履歴パターン値とを比較して、プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、アラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する傾向パターン判定部14と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラントのプロセスデータに異常またはその兆候があった場合に、現在の状態を把握して将来の予測をするプラント監視装置およびプラント監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの異常や急変を監視する監視装置は、プラントの挙動を示すプロセスデータまたはそれから求められる統計量(変化率や平均値など)に対して異常や急変を検知するためのしきい値を設定し、そのしきい値と現在のプロセスデータまたはその統計量との比較により、プラントの異常や急変の発生有無を検出する手法(しきい値監視)が広く利用されている。また、監視装置は、しきい値を厳し目に設定し異常に至る前の徴候(異常徴候監視または傾向監視)として利用される場合がある。
【0003】
このため、特許文献1に示す監視装置では、プラントの長期的な傾向判断を必要とする場合は、プロセスの長期的な時系列データ(1時間単位や1日単位など)を統計処理することによりプラントの長期傾向を判断し、プラントが不安定になる以前にプラントの回避操作をさせる予測アラームを発する傾向監視アラーム管理装置を導入する。この傾向監視アラーム管理装置では、プラントの傾向判断として、ある監視時間区間(たとえば1時間、運転員の交替時間である8時間、あるいは1日などの時間区間)内のプロセスデータ(時系列データ)を利用して、傾向判断となるプロセスデータの振れ幅、不安定領域の張り付き時間、変化率を算出し、プロセスが今後どの方向に向かうかを判断させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−219622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術を利用してプラントの異常に至る前の傾向を監視することを目的とした傾向監視アラーム管理装置では、以下の課題があった。
【0006】
(1)従来の傾向監視アラーム管理装置の監視手法では信号単体による監視を行なうため、傾向事象が複数の機器および系統にまたがる事象では総合的な判定ができず、精度の良い監視ができていなかった。これは、不要なアラームを多発させ運転員に多くの負担をかけていた。
【0007】
(2)従来の傾向監視アラーム管理装置の監視手法では、監視時間区間内での判定のため、監視時間区間内の傾向事象を判断できても、その傾向事象がどう変化してきたのか判断できないことから、監視時間区間内で傾向事象を検知しても過去の傾向事象の変化パターンを調査する必要があり、傾向事象を検知してもこの調査作業に時間がかかり、運転員に多くの負担をかけていた。
【0008】
(3)従来技術はプラントの運転状態に関係なく常時監視することから、たとえば出力50%以上で監視したいというような設定ができず、プラント出力10%の状態にある時でも監視してしまい、不要なアラームを検知させていた。
【0009】
この発明は、かかる課題を解決するためのものであって、複数種類のプロセスデータに基づいて総合的に判断して、運転員の負担を軽減できるプラント監視装置またはプラント監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラント監視装置は、プラントの挙動を監視するプラント監視装置において、前記プラントの複数種類のプロセスデータを取り込み、これらのプロセスデータをリアルタイムでプロセス工学値データに変換するプロセスデータ収集処理部と、前記プロセスデータ収集処理部で変換されたプロセス工学値データを時系列的に保存する時系列データファイルと、前記プラントの複数種類の異常事象のそれぞれに関係する複数の信号のプロセス工学値を時間変化パターンとして表わした複数の事象パラメータを保存する事象データベースと、前記事象データベースに保存された事象パラメータに設定されている信号ごとに、前記時系列データファイルより所定の監視時間区間ごとに決められたサンプリング間隔で前記プロセス工学値データを読み込み、当該事象パラメータに設定された傾向量タイプに従いプロセス工学値データの傾向量を算出する傾向量算出部と、前記傾向量算出部で算出された傾向量と前記事象パラメータに設定された基準値およびしきい値を使用して傾向パターン値を算出する傾向パターン算出部と、前記事象パラメータに設定された監視時間区間数に相当する数の履歴データエリアをそれぞれが持ち、前記傾向パターン算出部で算出された傾向パターン値を保存する事象履歴ファイルを複数個収容するパターン履歴データベースと、前記事象パラメータごとに登録されている信号の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する傾向パターン判定部と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るプラント監視方法は、プラントの挙動を監視するプラント監視方法において、前記プラントの複数種類のプロセスデータを取り込み、これらのプロセスデータをリアルタイムでプロセス工学値データに変換するプロセスデータ収集処理ステップと、前記プロセスデータ収集処理ステップで変換されたプロセス工学値データを時系列的時系列データファイルに保存する時系列データ保存ステップと、前記プラントの複数種類の異常事象のそれぞれに関係する複数の信号のプロセス工学値を時間変化パターンとして表わした複数の事象パラメータを事象データベースに保存する事象データ保存ステップと、前記事象データベースに保存された事象パラメータに設定されている信号ごとに、前記時系列データファイルより所定の監視時間区間ごとに決められたサンプリング間隔で前記プロセス工学値データを読み込み、当該事象パラメータに設定された傾向量タイプに従いプロセス工学値データの傾向量を算出する傾向量算出ステップと、前記傾向量算出ステップで算出された傾向量と前記事象パラメータに設定された基準値およびしきい値を使用して傾向パターン値を算出する傾向パターン算出ステップと、前記事象パラメータに設定された監視時間区間数に相当する数の履歴データエリアを持つパターン履歴データベースの複数の事象履歴ファイルに、前記傾向パターン算出ステップで算出された傾向パターン値を保存するパターン履歴データ保存ステップと、前記事象パラメータごとに登録されている全信号の全監視時間区間数に相当する数の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の全履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する傾向パターン判定ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、複数種類のプロセスデータに基づいて総合的に判断して、運転員の負担を軽減できるプラント監視装置またはプラント監視方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における不安定領域率算出方法の例を示すグラフである。
【図3】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における変動幅率算出方法の例を示すグラフである。
【図4】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における変化率算出方法の例を示すグラフである。
【図5】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における事象パラメータの例を示す模式図である。
【図6】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における傾向量算出方法の例を示す図である。
【図7】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における傾向パターン算出方法の例を示す図である。
【図8】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における傾向パターン判定方法の例を示す図である。
【図9】本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態における表示画面の例を示す図である。
【図10】本発明に係るプラント監視装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明に係るプラント監視装置の第2の実施形態における監視条件テーブルの例を示す図である。
【図12】本発明に係るプラント監視装置の第2の実施形態における監視条件判定方法の例を示すグラフである。
【図13】本発明に係るプラント監視装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明に係るプラント監視装置の第3の実施形態における基準値算出方法の例を示すグラフである。
【図15】本発明に係るプラント監視装置の第4の実施形態の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るプラント監視装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
(構成)
まず、図1から図9を用いて、本発明に係るプラント監視装置の第1の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態の構成を示すブロック図である。図2は、第1の実施形態における不安定領域率算出方法の例を示すグラフである。図3は、第1の実施形態における変動幅率算出方法の例を示すグラフである。図4は、第1の実施形態における変化率算出方法の例を示すグラフである。図5は、第1の実施形態における事象パラメータの例を示す模式図である。図6は、第1の実施形態における傾向量算出方法の例を示す図である。図7は、第1の実施形態における傾向パターン算出方法の例を示す図である。図8は、第1の実施形態における傾向パターン判定方法の例を示す図である。図9は、第1の実施形態における表示画面の例を示す図である。
【0016】
図1に示すように、プラント監視装置3は、プロセス入力装置2を介してプラント1と接続されている。また、プラント監視装置3が異常事象に類似する傾向を検知した場合に情報を出力する出力装置4および警報装置5と接続されている。
【0017】
プラント監視装置3は、プロセスデータ収集処理部6と、事象データベース8と、傾向量算出部10と、傾向パターン算出部11と、パターン履歴データベース12と、傾向パターン判定部14と、傾向判定結果出力部16とを有する。
【0018】
プロセスデータ収集処理部6は、状態把握を行なうためにプラント機器の生データ(プロセスデータ)を取り込み、リアルタイムでプロセス工学値に変換し、時系列データファイル7へ収集保存する。
【0019】
事象データベース8は複数の事象パラメータ9を収納しており、各事象パラメータ9は、予めシミュレーションにより異常事象ごとに関係する複数信号のプロセス値をパターンに加工したデータを持つ。すなわち、プロセス値が一定のときパターン値=0とし、プロセス値が上昇したときパターン値=1とし、プロセス値が下降したときパターン値=−1とする。
【0020】
傾向量算出部10は、事象パラメータ9に設定されている信号ごとに、時系列データファイル7より1時間単位およびプラント運転員の交替時間である直単位さらに日単位(以下、監視時間区間と称す)ごとに、決められたサンプリング間隔で時系列データを読み込み、事象パラメータ9に設定された傾向量タイプに従いプロセスの傾向量を算出する。
【0021】
傾向パターン算出部11は、傾向量算出部10で算出された傾向量と事象パラメータ9に設定された基準値としきい値を使用して傾向パターン値を算出し、事象パラメータ9に設定された監視時間区間数分の履歴データエリアを持つ事象履歴ファイル13へ保存する。パターン履歴データベース12には、複数種類の事象それぞれに対応する事象履歴ファイル13が収容されている。
【0022】
傾向パターン判定部14は、事象パラメータ9ごとに登録されている全信号の全監視時間区間分のパターン値と、事象履歴ファイル13内の全履歴パターン値とを比較し、プラントの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、事象パラメータ9で定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する。
【0023】
傾向判定結果出力部16は、傾向パターン判定部14から出力された傾向判定結果ファイル15を取り出し出力装置4および警報装置5へ結果を出力する。
【0024】
(作用)
プラント監視装置3は、プラントの状況把握を行なうためにプロセスデータ収集処理部6により、リアルタイムでプロセス入力装置2を介してプラント1のプロセスデータを時系列データファイル7へ収集保存し、その後傾向量算出部10に保存完了したことを通知する。
【0025】
傾向量算出部10では、図6に示すように事象データベース8の全ての事象パラメータ9(図5)に登録されている信号ごとに、前回傾向量算出してから事象パラメータ9に登録されている監視時間区間分の時間が経過した場合、監視時間区間ごとに予め定義してあるサンプリング間隔で時系列データファイル7よりデータを読み込み、事象パラメータ9に登録されている信号ごとの傾向量タイプに従い傾向量Yxが算出され、傾向パターン算出部11へ送られる。傾向量Yxには、たとえば、不安定領域率、変動幅率、変化率、平均値、標準偏差などが含まれる。
【0026】
不安定領域率、変動幅率、変化率の算出方法を、それぞれ、図2、図3、図4に示す。
【0027】
不安定領域率については、図2に示すように、監視時間区間Cの中で不安定上限値D以上または不安定下限値E以下にプロセス値が存在していた時間幅AおよびBを算出し、以下の式により不安定領域率を算出する。
【0028】
上限不安定領域率=(A/C)×100(%)
下限不安定領域率=(B/C)×100(%)
変動幅率については、図3に示すように、監視時間Cの中でプロセス値の最小値Pと最大値Qを取り出し、そのプロセス信号の運転管理幅(通常運転する場合のレンジ幅)をWとすると、以下の式により変動幅率を算出する。
【0029】
変動幅率=((Q−P)/W)×100(%)
変化率については、図4に示すように、監視時間C内のプロセスデータを一次式によりフィッティング処理して、先頭時間でのフィッティング式上の値PV2と最後のフィッティング式上の値PV1を算出し、以下の式により変化率を算出する。
【0030】
変化率=((PV1−PV2)/計器レンジ)×100(%)
傾向パターン算出部11では、図7に示すように事象パラメータ9に登録されている信号ごとに算出された傾向量Yxを事象パラメータ9に登録されている当該信号の基準値Ybaseとしきい値Δeを用いて、以下の式によりパターン値を算出し、事象パラメータ9と対となる事象履歴ファイル13へ保存する。
【0031】
Ybase+Δe<Yx の場合は、パターン値=1とする。
【0032】
Ybase−Δe≦Yx≦Ybase+Δe の場合は、パターン値=0とする。
【0033】
Ybase−Δe>Yx の場合は、パターン値=−1とする。
【0034】
傾向パターン判定部14は、図8に示すように事象パラメータ9ごとに登録されている全信号の全監視時間区間分のパターン値と、事象パラメータ9と対となる事象履歴ファイル13に保存されている現在までの傾向パターン値を、1信号の1監視時間区間を1ブロックとしてブロックごとに比較し、以下の方法により類似度を算出する。
【0035】
類似度=一致するブロック数/(信号数×監視時間区間数)
その後、算出した類似度は事象パラメータ9のアラーム類似度と比較され、アラーム類似度を超えた事象パラメータ9は傾向判定結果ファイル15に事象パラメータ番号・事象名・アラーム類似度・類似度を保存し、傾向判定結果出力部16を経由して出力装置4または警報装置5へ出力する。
【0036】
図9にこの出力装置4に表示された画面例を示す。図9に示す例で、たとえば、「1号機」が選択され、事象No.10が選択され、その選択されていることが色などにより表示されている。そのとき、傾向パターン履歴の表示の複数の矢印のうちの、事象とパターンが一致している部分の矢印の色を変えることなどにより事象とパターンが一致している部分が識別できるように表示されている。
【0037】
(効果)
このようにして構成されたプラント監視装置では、従来、単一の監視時間区間および単一の信号で傾向監視していたものが、複数監視時間区間および複数信号とのマッチングにより判定することにより、複数機器・系統に渡る総合的な傾向監視が可能となる。また、過去の傾向パターンとの比較を自動的に実施することが可能となり、運転員の調査・確認作業が軽減されると共に、信頼性のある傾向監視をすることができる。
【0038】
(第2の実施形態)
(構成)
次に、図10から図12を用いて、本発明に係るプラント監視装置の第2の実施形態を説明する。図10は、第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図11は、第2の実施形態における監視条件テーブルの例を示す図である。図12は、第2の実施形態における監視条件判定方法の例を示すグラフである。ここで、第1の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0039】
図10に示すように、第2の実施形態のプラント監視装置3は、監視条件テーブル17と監視条件判定部18を有することが第1の実施形態のプラント監視装置3と異なる。
【0040】
監視条件テーブル17は、事象パラメータ9ごとに監視条件を予め定義するものである。監視条件判定部18は、監視条件テーブル17に設定されている監視条件判定信号の監視時間区間内の時系列データを読み込んで平均値を求め、監視条件に一致するか判定し、監視条件テーブル17へ判定結果を保存する。
【0041】
傾向パターン判定部14は、監視条件判定部18で判定された条件判定結果が成立する事象パラメータ9について、事象パラメータ9に登録されている全信号の全監視時間区間分のパターン値と事象履歴ファイル13内の全履歴パターン値を比較し、プラントの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、事象パラメータ9で定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する。
【0042】
(作用)
プラント監視装置3は、第1の実施形態と同様に、プロセスデータ収集処理部6により、リアルタイムでプロセス入力装置2を介してプラント1のプロセスデータを時系列データファイル7へ収集保存し、その後傾向量算出部10に保存完了したことを通知する。傾向量算出部10では、事象データベース8の全ての事象パラメータ9に登録されている信号ごとに、前回傾向量算出してから事象パラメータ9に登録されている監視時間区間分の時間が経過した場合、監視時間区間ごとに予め定義してあるサンプリング間隔で時系列データファイル7よりデータを読み込み、事象パラメータ9に登録されている信号ごとの傾向量タイプに従い傾向量Yxが算出され、傾向パターン算出部11へ送られる。
【0043】
傾向パターン算出部11では、事象パラメータ9に登録されている信号ごとに算出された傾向量Yxを事象パラメータ9に登録されている当該信号の基準値Ybaseとしきい値Δeを用いて、パターン値を算出し、事象パラメータ9と対となる事象履歴ファイル13へ保存する。
【0044】
監視条件判定部18では、図12で示すように監視事象ごとの監視条件を定義する監視条件テーブル17(図11)を読み込み、監視条件となる信号のプロセスデータを時系列データファイル7から読み込み平均値を算出し、監視条件に一致するかを判定し監視条件テーブル17へ結果を保存する。
【0045】
傾向パターン判定部14では、監視条件テーブル17に保存された監視条件結果を読み込み、条件が成立する監視事象に対してのみ傾向パターンの類似度を算出する。
【0046】
アラーム類似度を超えた事象パラメータ9は、傾向判定結果ファイル15に事象パラメータ番号、事象名、アラーム類似度、類似度が保存され、傾向判定結果出力部16を経由して出力装置4または警報装置5へ出力される。
【0047】
(効果)
このようにして構成されたプラント監視装置によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができ、プラント運転状態に合わせた傾向監視が可能である。
【0048】
(第3の実施形態)
(構成)
次に、図13および図14を用いて第3の実施形態を説明する。図13は、第3の実施形態の構成を示すブロック図である。図14は、第3の実施形態における基準値算出方法の例を示すグラフである。この第3の実施形態は第1の実施形態の変形であって、第1の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0049】
プラント監視装置3は、事象パラメータ編集部19を有する。事象パラメータ編集部19は、事象パラメータ9にない新たな事象を指定された監視時間区間および監視時間区間数・信号に従い時系列データファイル7からプロセスデータを抽出し傾向量を算出し、指定された基準値としきい値により傾向パターン値を算出し新規の事象パラメータ9を作成し、また、既存の事象パラメータ9を編集する。
【0050】
プラント監視装置3は、プロセス入力装置2を介してプラント1と接続されている。
【0051】
また、プラント監視装置3が異常事象に類似する傾向を検知した場合に情報を出力する出力装置4および警報装置5と、事象パラメータ9を編集する入力装置20が接続されている。
【0052】
(作用)
プラント監視装置3の事象パラメータ編集部19では、予めシミュレーションにより作成した事象パラメータ9にない新たな事象を、指定された監視時間区間および監視時間区間数・信号に従い時系列データファイル7からプロセスデータを抽出し、傾向量算出部10と同じ傾向量算出方法で傾向量を算出する。さらに、図14に示すように全監視時間区間の傾向量を最小二乗法の一次近似式(ax+b)を用いて基準値bを算出し、指定されたしきい値から傾向パターン算出部11と同じ方法で傾向パターン値を算出し、新たな事象パラメータ9を作成する。また、既存事象パラメータ9を読み込み、基準値・しきい値・パターンを変更し保存することも可能とする。
【0053】
このようにして、予めシミュレーションで作成した事象にない異常事象の登録および既存事象パラメータをカスタマイズすることを可能とすることで、実プラントの挙動に合わせた傾向監視を可能とする。
【0054】
(効果)
この第3の実施形態によれば、第1の実施形態の効果が得られるほか、実プラント挙動に合わせた傾向監視するための事象パラメータを作成することができ、より精度の高い傾向監視が可能となり、運転員の調査・確認作業が軽減されると共に、信頼性のある傾向監視装置を提供できる。
【0055】
(第4の実施形態)
(構成)
次に、図15を用いて第4の実施形態を説明する。図15は、第4の実施形態の構成を示すブロック図である。この第4の実施形態は、第2の実施形態の構成に、第3の実施形態の事象パラメータ編集部19および入力装置20と同等のものを追加した構成である。
【0056】
この第4の実施形態によれば、第2の実施形態の効果が得られるほか、第3の実施形態と同様に、実プラント挙動に合わせた傾向監視するための事象パラメータを作成することができ、より精度の高い傾向監視が可能となり、運転員の調査・確認作業を軽減されると共に、信頼性のある傾向監視装置を提供できる。
【0057】
(他の実施形態)
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 プラント
2 プロセス入力装置
3 プラント監視装置
4 出力装置
5 警報装置
6 プロセスデータ収集処理部
7 時系列データファイル
8 事象データベース
9 事象パラメータ
10 傾向量算出部
11 傾向パターン算出部
12 パターン履歴データベース
13 事象履歴ファイル
14 傾向パターン判定部
15 傾向判定結果ファイル
16 傾向判定結果出力部
17 監視条件テーブル
18 監視条件判定部
19 事象パラメータ編集部
20 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの挙動を監視するプラント監視装置において、
前記プラントの複数種類のプロセスデータを取り込み、これらのプロセスデータをリアルタイムでプロセス工学値データに変換するプロセスデータ収集処理部と、
前記プロセスデータ収集処理部で変換されたプロセス工学値データを時系列的に保存する時系列データファイルと、
前記プラントの複数種類の異常事象のそれぞれに関係する複数の信号のプロセス工学値を時間変化パターンとして表わした複数の事象パラメータを保存する事象データベースと、
前記事象データベースに保存された事象パラメータに設定されている信号ごとに、前記時系列データファイルより所定の監視時間区間ごとに決められたサンプリング間隔で前記プロセス工学値データを読み込み、当該事象パラメータに設定された傾向量タイプに従いプロセス工学値データの傾向量を算出する傾向量算出部と、
前記傾向量算出部で算出された傾向量と前記事象パラメータに設定された基準値およびしきい値を使用して傾向パターン値を算出する傾向パターン算出部と、
前記事象パラメータに設定された監視時間区間数に相当する数の履歴データエリアをそれぞれが持ち、前記傾向パターン算出部で算出された傾向パターン値を保存する事象履歴ファイルを複数個収容するパターン履歴データベースと、
前記事象パラメータごとに登録されている信号の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する傾向パターン判定部と、
を有することを特徴とするプラント監視装置。
【請求項2】
前記傾向パターン判定部は、事象パラメータごとに登録されている全信号の全監視時間区間数に相当する数の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の全履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発すること、を特徴とする請求項1に記載のプラント監視装置。
【請求項3】
前記事象パラメータごとに監視条件を予め定義する監視条件テーブルと、
前記監視条件テーブルに設定されている監視条件判定信号の監視時間区間内の時系列データを読み込んでその時系列データの平均値を求めて、その時系列データの平均値がこのテーブルに設定されている監視条件に一致するか判定する監視条件判定部と、
をさらに有し、
前記傾向パターン判定部は、前記監視条件判定部で監視条件が成立したと判定されたものについて、前記事象パラメータごとに登録されている信号の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度マッチするかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発すること、
を有することを特徴とする請求項1に記載のプラント監視装置。
【請求項4】
事象パラメータにない新たな事象を指定された監視時間区間および監視時間区間数・信号に従って前記時系列データファイルからプロセスデータを抽出して傾向量を算出し、指定された基準値としきい値により傾向パターン値を算出して事象パラメータを作成しまたは既存の事象パラメータを編集する事象パラメータ編集部をさらに有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラント監視装置。
【請求項5】
前記傾向量算出部で算出される傾向量は、不安定領域率、変動幅率、変化率のうちの少なくとも一つであること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のプラント監視装置。
【請求項6】
前記傾向パターン値は、前記プロセス工学値データが、一定か、上昇したか、下降したかを区別するものであること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のプラント監視装置。
【請求項7】
プラントの挙動を監視するプラント監視方法において、
前記プラントの複数種類のプロセスデータを取り込み、これらのプロセスデータをリアルタイムでプロセス工学値データに変換するプロセスデータ収集処理ステップと、
前記プロセスデータ収集処理ステップで変換されたプロセス工学値データを時系列的時系列データファイルに保存する時系列データ保存ステップと、
前記プラントの複数種類の異常事象のそれぞれに関係する複数の信号のプロセス工学値を時間変化パターンとして表わした複数の事象パラメータを事象データベースに保存する事象データ保存ステップと、
前記事象データベースに保存された事象パラメータに設定されている信号ごとに、前記時系列データファイルより所定の監視時間区間ごとに決められたサンプリング間隔で前記プロセス工学値データを読み込み、当該事象パラメータに設定された傾向量タイプに従いプロセス工学値データの傾向量を算出する傾向量算出ステップと、
前記傾向量算出ステップで算出された傾向量と前記事象パラメータに設定された基準値およびしきい値を使用して傾向パターン値を算出する傾向パターン算出ステップと、
前記事象パラメータに設定された監視時間区間数に相当する数の履歴データエリアを持つパターン履歴データベースの複数の事象履歴ファイルに、前記傾向パターン算出ステップで算出された傾向パターン値を保存するパターン履歴データ保存ステップと、
前記事象パラメータごとに登録されている全信号の全監視時間区間数に相当する数の傾向パターン値と前記事象履歴ファイル内の全履歴パターン値とを比較して、前記プラントのプロセス工学値データの傾向が異常事象の傾向とどの程度合致するかを判定し、前記事象パラメータで定義されたアラーム類似度を超えた場合に傾向アラームを発する傾向パターン判定ステップと、
を有することを特徴とするプラント監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−29948(P2013−29948A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164931(P2011−164931)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】