説明

プリオンの測定方法

【課題】検体中のプリオンをPrPと識別して測定することが可能であり、迅速、安価に実施することができるプリオンの測定方法及びそのための試薬を提供すること。
【解決手段】プリオンの測定方法は、(1)特定のアミノ酸配列から成るオリゴペプチド1〜7、(2)上記オリゴペプチド1〜7の一端にスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド1〜7、並びに (3)上記オリゴペプチド1〜7及び上記スペーサー付オリゴペプチド1〜7に標識を付した標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7、から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを検体中のプリオンを接触させ、該オリゴペプチド及び/又は該修飾オリゴペプチドとプリオンとの相互作用を指標として検体中のプリオンを測定することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリオンの測定方法及びそのための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
プリオンは、感染性のタンパク粒子proteinaceous infectious particleである。ウイルスや細菌と同様に病原体の種類として提唱された名称がプリオンである。スローウイルス感染症といわれる人間や動物の脳神経病の原因として注目されている。ヒツジがかゆがり、脱毛し、体が震え、四肢がまひする病気のスクレイピー、伝達性ミンク脳病、牛海綿状脳症(BSE)、人間のクロイツフェルト・ヤコブ病などの原因になる。アメリカのカリフォルニア大学教授プルジナーが命名、当初は遺伝子なしに増殖できる謎のタンパク質と考えられた。その後の研究で人間や動物が自分のもつ遺伝子でプリオンタンパク質をつくった後、異常型にかわると病原性をもつとわかった。感染性因子はプリオンと名付けられたが、プリオンを構成する特定のタンパク質自体はプリオンタンパク質(Prion Protein, PrP)の名で呼ばれ、感染型と非感染型の両構造を取りうる物質として扱われる。すなわち、異常型(感染型)のプリオンタンパク質がプリオンであり、一方、正常型(非感染型)プリオンタンパク質は多くの哺乳動物体内に存在するがプリオンとは呼ばれない。
【0003】
BSEに代表されるプリオン病は感染性と致死性から人類の大きな脅威である。その病態はタンパク質構造変換に起因することが明らかとなったが、変換の機構はいまだ十分解明されていない。また、早期発見の手法も確立されていない。BSE(いわゆる狂牛病)は、牛を解体した後、脳の一部(延髄)を採取し、ELISA法でプリオンの有無の検査を行っているが、その感度は数マイクログラムであり、また4〜6時間を要する。当該アッセイは一次検査であり、非特異反応との識別は困難である。この一次検査陽性検体はさらにウエスタンブロット法(約8時間要する)により分子量情報も加味して判定される。各種改良法やそれらの専用キットも市販されているが、所要時間や操作の煩雑さ、そしてコスト等の問題で検査の障壁となっている。
【0004】
一方、プリオン、すなわち、異常型プリオンタンパク質(以下、本明細書において「PrPsc」と記載することがある)に結合するが、正常型プリオンタンパク質(以下、本明細書において「PrP」と記載することがある)とは結合しないオリゴペプチドが非特許文献1〜3に記載されている。また、本願発明者らの一部は、タンパク質とオリゴペプチドとの相互作用を指標として、タンパク質を同定する方法を発明し、特許出願した(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載の方法をプリオンの測定に適用することは記載も示唆もなく、当然ながら、PrPscとPrPとを識別可能なオリゴペプチドについても特許文献1には記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 02/090985 A1
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Biol. Chem. 1998, 273, 13203
【非特許文献2】J.Biol.Chem., 2007, 282, 7465
【非特許文献3】Proc.Natl. Acad. Sci. 2007, 104, 11551
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、検体中のプリオンをPrPと識別して測定することが可能であり、迅速、安価に実施することができるプリオンの測定方法及びそのための試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、特定のアミノ酸配列から成るオリゴペプチドが、プリオンと相互作用し、かつ、この相互作用を指標としてプリオンをPrPと識別して測定することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 下記各アミノ酸配列から成るオリゴペプチド1〜7、
オリゴペプチド1 PQGGGGWGQPHGGGW(配列番号1)
オリゴペプチド2 LFVATWSDLGLSKKR(配列番号2)
オリゴペプチド3 LSKKRPKPGGWNTGG(配列番号3)
オリゴペプチド4 WGQPHGGGWGQGGGT(配列番号4)
オリゴペプチド5 HGGGWGQPHGGGWGQ(配列番号5)
オリゴペプチド6 GGWGQPHGGGWGQPH(配列番号6)
オリゴペプチド7 KPSKPKTNMKHMAGA(配列番号7)
(2) 上記オリゴペプチド1〜7の一端にスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド1〜7、並びに
(3) 上記オリゴペプチド1〜7及び上記スペーサー付オリゴペプチド1〜7に標識を付した標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7、
から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを検体中のプリオンを接触させ、該オリゴペプチド及び/又は該修飾オリゴペプチドとプリオンとの相互作用を指標として検体中のプリオンを測定することを含む、プリオンの測定方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、下記各アミノ酸配列から成るオリゴペプチド1〜7、
オリゴペプチド1 PQGGGGWGQPHGGGW(配列番号1)
オリゴペプチド2 LFVATWSDLGLSKKR(配列番号2)
オリゴペプチド3 LSKKRPKPGGWNTGG(配列番号3)
オリゴペプチド4 WGQPHGGGWGQGGGT(配列番号4)
オリゴペプチド5 HGGGWGQPHGGGWGQ(配列番号5)
オリゴペプチド6 GGWGQPHGGGWGQPH(配列番号6)
オリゴペプチド7 KPSKPKTNMKHMAGA(配列番号7)
(2) 上記オリゴペプチド1〜7の一端にスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド1〜7、並びに
(3) 上記オリゴペプチド1〜7及び上記スペーサー付オリゴペプチド1〜7に標識を付した標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7、
から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを含む、プリオン測定試薬を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、プリオンをPrPと区別して測定することができる新規な測定方法が提供された。本発明の方法は、比較的低分子量のオリゴペプチド(オリゴペプチド)とプリオンとの相互作用を指標とするものであり、オリゴペプチドとタンパク質との相互作用はタンパク質を抗原とする抗原抗体反応よりも迅速であり、また、オリゴペプチドは容易に化学合成できるので、抗体よりも安価に製造することができる。従って、本発明の方法は、従来のELISA法やウェスタンブロット法のような免疫測定法よりも、迅速かつ安価に実施することができる。従って、本発明は、ウシのBSEの検査等、多数の検体を処理する必要があるプリオンの測定方法において特に威力を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、上記した配列番号1〜配列番号7にそれぞれ示される各アミノ酸配列から成るオリゴペプチドが、プリオンと相互作用し、かつ、その相互作用が、PrPとの相互作用と識別可能であるという新たな知見に基づく。ここで、「プリオンと相互作用し、かつ、その相互作用が、PrPとの相互作用と識別可能である」とは、プリオンとは相互作用するがPrPとは相互作用しないか、又はプリオンともPrPとも相互作用するが、相互作用後のオリゴペプチドの立体構造が両者で異なる等のためにどちらと相互作用したかが識別可能であることを意味する。より具体的には、例えば、下記実施例では、蛍光標識したオリゴペプチドを用い、プリオンを含む検体とプリオンを含まずPrPを含む検体と標識オリゴペプチドとを接触させている。オリゴペプチドに結合された蛍光標識からの蛍光強度は、オリゴペプチドの立体構造により変化する。このため、プリオンと接触した場合と、PrPと接触した場合で蛍光標識からの蛍光強度が異なるので、これを指標として検体中のプリオンを測定している。
【0013】
プリオンとの相互作用を指標とする本発明の測定方法では、プリオンと結合することにより信号が変化する標識により標識しておき、その標識の変化に基づいて、プリオンを測定する方法、表面プラズモン共鳴法、表面プラズモン共鳴法においてプリズムを用いない1変法であるGrating法、質量分析法等を採用することができるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、オリゴペプチドを、プリオンと相互作用することにより信号が変化する標識により標識しておき、その標識の変化に基づいて、プリオンを測定する方法が最も高感度で再現性が高く、好ましい。
【0014】
上記の通り、本発明で用いるオリゴペプチドは、プリオンと結合することにより信号が変化する標識により標識されていることが好ましい。このような標識の例として、蛍光標識、スピン標識、紫外光・可視光吸収色素、ラジオアイソトープ、安定同位体、化学発光反応を起こさせる酵素(アルカリフォスファターゼ、アシッドフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、グリーンフルオレッセンスタンパク質等)等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらのうち蛍光標識が最も好ましい。蛍光標識としては、フルオレッセイン及びカルボキシフルオレッセインのような、フルオレッセイン構造を有するその誘導体、ダンシル基やエチルダンシル基、およびそれらのようにダンシル基構造を有するその誘導体、クマリン誘導体、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体等、テトラメチルローダミンのようなローダミン誘導体等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。なお、これらの蛍光標識用試薬自体は周知であり、多くのものは市販もされている。また、市販の蛍光色素をアミノ基等のアミノ酸中の置換基に結合してアミノ酸を標識する方法自体は周知である。例えば、リシンやグルタミン酸あるいはシステイン残基側鎖やオリゴペプチドのアミノ末端やカルボキシル末端に共有結合により導入することがより容易に行うことができる。また合成に用いる各種の蛍光標識ビルディングブロックが米国Molecular Probe社等から市販されており、これらを購入してそのまま使用することも可能である。
【0015】
上記した標識は、オリゴペプチドとプリオンとが結合することによって、標識が発する信号が変化する。単一の標識をオリゴペプチドに結合させている場合でも変化するが、複数の異なる標識をオリゴペプチドの異なる位置に結合しておくと、信号の変化をより鋭敏に検出することができ、検出感度をより高めることができ、好ましい。特に好ましい態様では、蛍光波長の異なる2種類の蛍光色素をオリゴペプチドの異なる位置に結合する。このようにすることによって、蛍光共鳴エネルギー移動系(FRET)を利用して鋭敏な検出が可能になる。なお、FRETを実現するための好ましい蛍光標識の組合せとして、フルオレッセイン誘導体とローダミン誘導体、ダンシル誘導体とフルオレッセイン誘導体、ピレン誘導体とフルオレッセイン誘導体等が挙げることができるがこれらに限定されるものではない。またFRETと同様の機構を利用する蛍光消光系のための好ましい蛍光標識の組合せとして、ダンシル誘導体とダブシル誘導体、ピレン誘導体とニトロベンゼン誘導体等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0016】
標識を結合する位置は、オリゴペプチドの一端部又は両端部が好ましく、両端部にそれぞれ異なる標識、好ましくは蛍光波長の異なる2種類の蛍光標識を結合することが好ましいが、下記実施例に具体的に記載されるように単一の標識でも測定は可能である。
【0017】
本発明の方法において、上記オリゴペプチドとプリオンとの反応は、下記実施例に記載のとおり、溶液中で行うこともできるが、オリゴペプチドを固相に固定化しておくと測定操作がより簡便となり好ましい。ペプチドを固相に固定化する方法は、この分野において周知であり、特許文献1にも詳しく記載されている。化学合成したオリゴペプチドを固相に固定化することは、例えば、ペプチドのアミノ基やカルボキシル基等を基板上のアミノ基やカルボキシル基等と反応させて共有結合させることにより好ましく行うことができる。あるいは、ペプチドにビオチン又はアビジンを結合し(これは所望のアミノ酸の側鎖の官能基を介して常法により行うことができる)、基板上に固定化されたアビジン又はビオチンと結合させることもできる。
【0018】
上記オリゴペプチドは、そのまま基板等の固相に固定化することもできるが、プリオンとの自由な相互作用を確保するために、その一端にスペーサーを付加し、該スペーサーを介して固相に固定化することが好ましい。ここで、「スペーサー」は、上記オリゴペプチドと固相との間に介在するあらゆる構造を意味し、固相に結合することが可能で、オリゴペプチドとプリオンとの相互作用を妨害しないものであればどのような構造であってもよい。結合は共有結合が好ましい。好ましいスペーサーとして、オリゴペプチドに付加されたアミノ酸配列(グリシン、システイン、2-アミノプロピオン酸等)、ポリエチレングリコール、6-アミノヘキサン酸、グリシン、マレイミドカプロン酸等を挙げることができる。スペーサーとして機能する分子のサイズは何ら限定されないが、あまりに長いと合成コストが高く、またあまりに長くする必要もないので、通常アミノ酸配列では1〜10残基、好ましくは2〜5残基程度であり、ポリエチレングリコールの重合度で、1〜60000程度、好ましくは2〜3000程度である。なお、アミノ酸配列をスペーサーとして用いる場合、固相に結合される末端のアミノ酸をシステインとし、そのスルフヒドリル基を用いて固相に共有結合することもできる。なお、固相に固定化する場合、各オリゴペプチドの量は、何ら限定されるものではなく、検体中に含まれるプリオンの濃度や、オリゴペプチドとプリオンの反応性等に応じて適宜設定されるが、例えば、1fmol(1femto mol)〜1000nmol程度、好ましくは 0.01pmol〜1000pmol程度である。
【0019】
以上のように、本発明の測定方法には、上記オリゴペプチド、これらを標識した標識オリゴペプチド並びにこれらのオリゴペプチド及び標識オリゴペプチドにスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド及びスペーサー付標識オリゴペプチドから成る群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。なお、標識及び/又はスペーサーを結合したオリゴペプチドを総称して「修飾オリゴペプチド」と呼ぶ。従って、例えば、「修飾オリゴペプチド1」とは、標識オリゴペプチド1、スペーサー付オリゴペプチド1及び標識スペーサー付オリゴペプチド1の総称である。
【0020】
下記実施例に具体的に記載されるように、オリゴペプチド1(従って、当然ながら修飾オリゴペプチド1も、以下同様)は、Chandler株プリオンと識別可能に相互作用(すなわち、Chandler株プリオンとの相互作用とPrPとの相互作用(相互作用しない場合を含む)が識別可能という意味、以下同じ)するので、Chandler株プリオンの測定に有用である。同様に、オリゴペプチド1、2、3及び(4)は、BSE株プリオンの測定に有用である。特に、オリゴペプチド2はウシ由来の検体中のBSE株プリオンの測定に有用である。オリゴペプチド1,2,3,(4)はまた、ME7株プリオンの測定にも有用である。オリゴペプチド5及び6は、Scrapie株プリオンの測定に有用である。オリゴペプチド3及び7は、A-BSE株プリオンの測定に有用である。なお、これらの株は、プリオン病の分野において周知であり、確立されており、例えば、(1)Prusiner S B.,Strain of BSEs. In Prion Biology and Diseases,ed.Prusiner S B.,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York. 1999 pp40-;(2)BruceM. et al.TSE Strain Typing in Mice. In Techniques in Prion Research, ed.by Lehmann S and Grassi J. Birkhauser Verlag, Basel Boston Berlin p132-146, 2004;(3)Carlson G A , Dissecting prion strains using transgenic mice, In Transmissible subacute spongiform encephalopathies:Prion diseases. Ed. by Court L Dobet B. ELSEVIER 1996;(4)Bruce M, Chree A, McConnell I, Brown K, Fraser H, Transmission and strain typing studies of scrapie and bovine spongiform encephalopathy, In Transmissible subacute spongiform encephalopathies:Prion diseases. Ed. by Court L Dobet B. ELSEVIER 1996;(5)Scott M R. et al. Propagation of Prion Strains through Specific Conformers of the Prion Protein.(1997)J. Virol. 71 : 9032-9044.;(6)Iwamaru et al. Various Mouse-Adapted Prion Strains Infections in a Novel Microglial Cell Line (2007) J. Virol. 81 : 1524-1527.等の種々の文献にその特徴(アミノ酸配列の違い(由来動物種)以外に、高次構造の違いにより、実験動物への伝達性(感染性)、臨床症状、病変やプリオンの蓄積部位、プリオンの生化学的性状等)が記載されており、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 プリオン病研究センターに保管されている。
【0021】
これらの各種プリオン株を同時に測定しようとする場合には、測定しようとする株の測定に必要な複数種類のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを組み合わせて用いる。なお、上記各株は、ウシ、マウス又はヒツジから分離されたものであるが、プリオンは種を超えて感染することが可能であり、種を超えた感染後も、新たな宿主の中で、その株の特徴を維持する場合が少なくない。あるプリオン株の測定に有用なオリゴペプチドが複数ある場合には、そのうちの1つを用いればその株の測定が可能であるが、複数種類のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを組み合わせることにより、測定の正確性をさらに向上させることができる。
【0022】
本発明の方法では、プリオンを含む可能性がある検体と、上記オリゴペプチド又は修飾オリゴペプチドとを接触させ、上記した方法、好ましくは標識からの信号の変化により検体中のプリオンを測定する。なお、「測定」には検出と定量の両者が包含される。標識からの信号の変化等は、当然ながら、検体中のプリオン量が多いほど大きくなるので、本発明の方法により検体中のプリオンを定量することもできる。また、信号の変化等が所定値を超えた場合にプリオン感染検体と判定する、等によりプリオンの検出に用いることもできる。
【0023】
検体としては、プリオンを含む可能性があるものであれば何ら限定されないが、通常、哺乳動物の脳、脊髄、骨髄、腸、目、扁桃、リンパ節、神経節等の組織から調製されたものであり、好ましくは脳(特に延髄)から調製されたものである。これらの組織からの検体の調製方法としては、通常、濃度0.5〜2重量%程度、好ましくは1重量%程度の乳剤が検体として用いられるが、これに限られるものではなく、各組織のホモジネートの溶液又は懸濁液等でもよい。
【0024】
上記検体と、上記オリゴペプチド又は修飾オリゴペプチドとの反応は、上記オリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドと検体とを単に接触させることにより行うことができ、その相互作用は、例えば、標識からの信号の変化等を通常の方法により測定することにより測定することができる。反応温度は、1℃〜37℃程度で可能であるが、室温下で行うことが簡便で好ましい。また、反応時間は、特に限定されないが、通常、30分間〜60分間程度、好ましくは30分間程度でよい。また、溶液中で反応させる場合には、ポリペプチド及び/又は修飾ポリペプチドの濃度は、通常、0.1〜5μM程度、好ましくは0.5〜2μM程度である。オリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドが固相化されている場合には、該固相に検体を滴下すればよい。
【0025】
反応後は、上記した通り、標識からの信号の変化や、SPR等を、各手法における通常の方法により測定する。本発明の方法では、検体中にプリオンが含まれる場合、すなわち、その哺乳動物がプリオン病に感染している場合と、正常な場合とで測定結果が異なるので、検体中のプリオンを測定することができる。検体中にプリオンが含まれる場合と含まれない場合でどのような差が出るのかは、予めプリオンを含むことが分かっている標準検体と、プリオンを含まないことが分かっている正常検体とについて測定を行い、予め調べておく。定量の場合には、プリオン濃度が既知の複数の標準検体について測定を行い、検量線を作成しておく。これらの結果又は検量線に、未知検体についての測定結果を当てはめることにより未知検体中のプリオンの測定を行うことができる。
【0026】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
1. オリゴペプチド
プリオンと識別可能に相互作用するオリゴペプチドをスクリーニングした。オリゴペプチドとしては、タンパク質と相互作用した際に所期の立体構造(α−ヘリックス、β−シート、β−ループ等)をとるものが候補として考えられる(特許文献1)ため、各立体構造をとるオリゴペプチドを多数合成してスクリーニングに供した。スクリーニングに供したオリゴペプチド及び糖ペプチドは次の通りである。
【0028】
α−ヘリックスをとるもの
1 LKKLLKLLKKLLKL
2 LKKLLEALKKLLEA
3 LEELAKALKKLAEA
4 AQQAAKAAQQAAKA
5 AEEAARAARRAAEA
6 AEEAARAAEEAARA
7 LKKLIKILKKLIKI
8 LRRLIKILKKLIRI
9 LKKLLEILKKLLEI
10 LKKLIQILKKLIQI
11 LKKLISILKKLISI
12 LKKLLEFLKKLLEF
13 LKKLFQFLKKLFQF
14 FQQFFKFFKKFFQF
15 FKKFFSFFKKFFSF
16 LKKLVKVLKKLVKV
17 LKKLLEVLKKLLEV
18 AKKAIKIAKKAIKI
19 ARRAIRIARRAIRI
20 AEEAFKFAKKAFEF
21 AKKAVKAAKKAVKA
22 IKKIFRFIKKIFRF
23 IKKIFEFIKKIFEF
24 IKKIFQFIKKIFQF
25 IKKFFSFIKKFFSF
26 FRRFVRVFRRFVRV
【0029】
β-シートをとるもの
1 KLKAKAKA
2 KLKLKAKA
3 RLRLRLRA
4 EAEAEAEA
5 KLKLRLRL
6 KLRLRLRA
7 KLKAKAEA
8 KLKLKAEA
9 KAKAEAEA
10 RLRLEAEA
11 KLKLKLKI
12 KLRLRLRI
13 KFKFKFKF
14 KAKAKIKI
15 KARARIRI
16 KAKAKFKF
17 KAKAKVKV
18 KIRFRFRF
19 KIRIRFRF
20 KIKVKVRV
【0030】
β-ループをとるもの
1 KKITVYHSDKTYTE
2 KKITVRDSWKTYTE
3 KKITVLERGKTYTE
4 KKITVHQESKTYTE
5 KKITVRHEYKTYTE
6 KKITVWHGFKTYTE
7 KKITVPQLRKTYTE
8 KKITVPRWLKTYTE
【0031】
糖ペプチド
1 AKKAAKAAT(Lac)KAAKA
2 LKKLLT(Glc) LLKKLLKL
3 LKKLLKLLT(Glc) KLLKL
4 LKKLLKLLKKLLT(Glc) L
5 LKKLLKLLT(Man) KLLKL
6 LKKLLKLLKKLLT(Man) L
7 LKKLLT(Gal) LLKKLLKL
8 LKKLLKLLT(Gal) KLLKL
9 LKKLLKLLKKLLT(Gal) L
10 LKKLLKLLT(Lac) KLLKL
11 LKKLLKLLKKLLT(Lac) L
12 KLKLKAT(Man) A
13 T(Man) AKLKLKL
14 KLKLKAT(Gal) A
【0032】
各オリゴペプチドのN末端を市販の蛍光分子TAMRAで標識し、正常脳乳剤と混合したときの蛍光強度変化と、感染脳乳剤を混合したときの蛍光強度変化を比較して、変化割合が4.5%以上生じた場合にプリオンの感染・非感染の識別能を有すると判断した。なお、ペプチド濃度は1μM、脳乳剤の濃度は1%であった。反応は、マイクロプレートのウェル中で、室温で、30分間行った。
【0033】
検体としては、Chandler株に感染したICRマウスの脳乳剤、BSEに感染したICRマウスの脳乳剤、ME7株に感染したICRマウスの脳乳剤、正常なICRマウスの脳乳剤、Scrapieに感染したヒツジの脳乳剤、正常なヒツジの脳乳剤、BSEに感染したウシの脳乳剤、A-BSEに感染したウシの脳乳剤及び正常なウシの脳乳剤を用いた。なお、各プリオンの感染は、各感染動物の脳のホモジネートを各動物の脳に接種することにより行った。
【0034】
反応前後のTAMRAからの蛍光強度を、マイクロプレートリーダーで測定することにより行った。感染動物由来の検体の蛍光強度の変化割合と、正常動物由来の検体の蛍光強度の変化割合とを比較し、両者の間で4.5%以上の差があるものを、両者の識別が可能なオリゴペプチドと判定した。
【0035】
その結果、ICRマウスにおけるChandler株を識別可能なオリゴペプチドとして、上記オリゴペプチド1、ICRマウスにおけるBSEを識別可能なオリゴペプチドとして、上記オリゴペプチド1,2、3及び4、ICRマウスにおけるME7株を識別可能なオリゴペプチドとして、上記オリゴペプチド1,2,3,4、ヒツジにおけるScrapieを識別可能なオリゴペプチドとして上記オリゴペプチド1、5及び6、ウシにおけるBSEを識別可能なオリゴペプチドとして上記オリゴヌクレオチド2、ウシにおけるA-BSEを識別可能なオリゴペプチドとして上記オリゴヌクレオチド3及び7が見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 下記各アミノ酸配列から成るオリゴペプチド1〜7、
オリゴペプチド1 PQGGGGWGQPHGGGW
オリゴペプチド2 LFVATWSDLGLSKKR
オリゴペプチド3 LSKKRPKPGGWNTGG
オリゴペプチド4 WGQPHGGGWGQGGGT
オリゴペプチド5 HGGGWGQPHGGGWGQ
オリゴペプチド6 GGWGQPHGGGWGQPH
オリゴペプチド7 KPSKPKTNMKHMAGA
(2) 上記オリゴペプチド1〜7の一端にスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド1〜7、並びに
(3) 上記オリゴペプチド1〜7及び上記スペーサー付オリゴペプチド1〜7に標識を付した標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7、
から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを検体中のプリオンを接触させ、該オリゴペプチド及び/又は該修飾オリゴペプチドとプリオンとの結合を指標として検体中のプリオンを測定することを含む、プリオンの測定方法。
【請求項2】
上記(3)の標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドをプリオンと接触させることを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記標識が蛍光標識である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記結合は、前記標識からの信号の増減により測定される請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドが直接又はスペーサーを介して固相に固定化されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記オリゴペプチド1及び/又は修飾オリゴペプチド1とプリオンとの結合を指標としてChandlerプリオンを測定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記オリゴペプチド2〜4及び修飾オリゴペプチド2〜4から成る群より選ばれる少なくとも1種とプリオンとの結合を指標としてBSEプリオンを測定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記オリゴペプチド2及び修飾オリゴペプチド2から成る群より選ばれる少なくとも1種とプリオンとの結合を指標としてウシ由来の検体中のBSEプリオンを測定する請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記オリゴペプチド4及び/又は修飾オリゴペプチド4とプリオンとの結合を指標としてME7株プリオンを測定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記オリゴペプチド1及び修飾オリゴペプチド1、前記オリゴペプチド5及び修飾オリゴペプチド5並びに前記オリゴペプチド6及び修飾オリゴペプチド6から成る群より選ばれる少なくとも1種とプリオンとの結合を指標としてヒツジScrapieプリオンを測定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記オリゴペプチド3及び修飾オリゴペプチド3並びに前記オリゴペプチド7及び修飾オリゴペプチド7から成る群より選ばれる少なくとも1種とプリオンとの結合を指標としてA-BSEプリオンを測定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(1) 下記各アミノ酸配列から成るオリゴペプチド1〜7、
オリゴペプチド1 PQGGGGWGQPHGGGW
オリゴペプチド2 LFVATWSDLGLSKKR
オリゴペプチド3 LSKKRPKPGGWNTGG
オリゴペプチド4 WGQPHGGGWGQGGGT
オリゴペプチド5 HGGGWGQPHGGGWGQ
オリゴペプチド6 GGWGQPHGGGWGQPH
オリゴペプチド7 KPSKPKTNMKHMAGA
(2) 上記オリゴペプチド1〜7の一端にスペーサーを付加したスペーサー付オリゴペプチド1〜7、並びに
(3) 上記オリゴペプチド1〜7及び上記スペーサー付オリゴペプチド1〜7に標識を付した標識オリゴペプチド1〜7及び標識スペーサー付オリゴペプチド1〜7、
から成る群より選ばれる少なくとも1種のオリゴペプチド及び/又は修飾オリゴペプチドを含む、プリオン測定試薬。
【請求項13】
請求項12記載の試薬を含むプリオン測定キット。

【公開番号】特開2011−95085(P2011−95085A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248850(P2009−248850)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(502249851)株式会社ハイペップ研究所 (11)
【Fターム(参考)】