説明

プリプレグロールの梱包体

【課題】押さえ枠材の使用を取り止め、押さえ枠材を使用する場合の密封用樹脂フィルムの不具合発生のおそれを除去し、大重量のプリプレグロールに対しても保存や輸送にとって望ましい梱包形態を達成できるプリプレグロールの梱包体を提供する。
【解決手段】巻芯上にプリプレグを巻いたプリプレグロール2全体を覆う密封用樹脂フィルム5と、該樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールを、巻芯4の軸方向が上下方向となる姿勢で内部に収納する横断面形状が矩形の箱体8と、該箱体の内側面と樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの外周側面との間に上下方向に延びるよう配置され、プリプレグロールを箱体内部の中央部に保持する保持部材9とを有したプリプレグロールの梱包体1であって、前記樹脂フィルムに長径が0.5mm以上のピンホールが発生しないプリプレグロールの梱包体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維材に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグを巻いたプリプレグロールを梱包する梱包体に関し、とくに、プリプレグロールを密封する樹脂フィルム等に不具合が発生しないようにしたプリプレグロールの梱包体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維材に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグ(いわゆる、Bステージのプリプレグ)を比較的長尺の状態で保管や輸送を行う場合、保管や輸送の効率を上げたり、使用時に必要に応じた量だけ容易に供給できるようにするために、巻芯上にプリプレグを所定長巻いたプリプレグロールの形態を採ることが多い。そして、この強化繊維材に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグのロールは、安定した状態に維持するためにはとくに吸湿を嫌うので、通常、非透湿性の樹脂フィルムで密封されたパッケージ形態で、保管や輸送のための梱包が行われる。その場合、巻芯側からの吸湿を防止するために、巻芯側についても非透湿性の樹脂フィルムで遮蔽されることもある(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、保管や輸送のための梱包の際のプリプレグロールの姿勢としては、巻芯を水平状態に保ってプリプレグロールをその巻芯で支持することもあるが(例えば、特許文献2)、巻芯を両端部で支持するためには、通常、プリプレグの巻回体に対して巻芯に突き出し部を形成しておく必要がある。しかし、巻芯が突き出し部を有していると、プリプレグを巻き出してその使用に供する場合、とくに自動積層機(ATL)にてプリプレグシートを積層する場合、プリプレグの幅方向の位置制御が難しくなるという問題がある。また、巻芯上にプリプレグを長く巻いた場合、プリプレグロールの径が大きくなるので、プリプレグロールの姿勢としては、上記のように巻芯を水平状態に保つよりも、巻芯の軸方向を上下方向とする姿勢の方が、輸送等のための梱包形態として安定させやすい場合が多いが、この姿勢の場合には、上記のような巻芯の突き出し部は所望の姿勢をとるための障害になる可能性が高い。したがって、比較的長尺のプリプレグを巻芯上に巻いたプリプレグロールの場合には、巻芯に突き出し部がなく、かつ、輸送等のための梱包形態として、巻芯の軸方向を上下方向とする姿勢とすることが好ましい場合が多い。
【0004】
このような梱包形態を採用するために、従来のプリプレグロールの梱包体は、例えば図4に示すように構成されている。図4において、101は梱包体全体を示しており、この梱包体101においては、まず、紙管等からなる巻芯102上に所定長のプリプレグを巻いたプリプレグロール103が、非透湿性の樹脂フィルム104で密封される。この樹脂フィルム104で密封されたプリプレグロール103が、箱体105の下箱106内に収納され、その状態で、巻芯102内への挿入部107を有する押さえ枠材108がセットされ、その状態で箱体105の上箱109が下箱106に被せられて、箱体105が閉じられる。押さえ枠材108の外縁の箱体105の内面との当接等により、プリプレグロール103を箱体105内の所定位置に固定、保持し、輸送中等においてプリプレグロール103が位置ずれしたり、振動を受けたりすることが抑制されるようになっている。なお、図示は省略するが、プリプレグロール103の位置ずれや振動を受けることをより確実に防止するために、箱体105内の各所に緩衝材等の詰め物を施しておくこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−46897号公報
【特許文献2】特開2001−19073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、図4に示したような従来の梱包形態には、以下のような問題がある。
【0007】
(1)押さえ枠材108がその本体から屈曲して延びる挿入部107を有しており、この屈曲部と、巻芯102の先端縁における屈曲部との間で、樹脂フィルム104も急激に屈曲されその屈曲された状態に保持されてしまうので、輸送中等において繰り返し振動を受ける場合、樹脂フィルム104の屈曲部に繰り返し、応力が作用することになる。このような繰り返し応力が作用すると、樹脂フィルム104の屈曲部が疲労や摩耗による損傷を受けるおそれが生じ、最悪の場合、孔開きが生じてしまうおそれがある。このような状態に至ると、樹脂フィルム104は目標としていた防湿効果を発揮できなくなる。特に常温以下の低温、好ましくは氷点下、より好ましくは−10℃以下によって保管される場合、たとえ熱シールなどによって密閉した樹脂フィルム内部に、乾燥剤、脱湿剤等を使用していたとしても、冷却、低温保管、解凍の過程で、プリプレグロール103が吸湿したり、凝縮した水滴に接触したりして、品質低下を招くおそれがある。
【0008】
(2)また、プリプレグの巻き量が多くなりプリプレグロール103が比較的大径になると、プリプレグロール103の重量(質量)はかなり大きくなる。例えばATLに使用される一方向プリプレグやファブリックプリプレグにおいては、その重量が10〜150kgにも及ぶことがある。このような場合、図4に示したような従来の梱包形態では、基本的に箱体105内に収納されているプリプレグロール103の位置をその上端部にセットした押さえ枠材108を箱体105の内面に当接させることで固定するようになっているので、大重量のプリプレグロール103を上端部にて押さえ枠材108のみで固定することが困難になることがあり、より下部側に位置するプリプレグロール103の重心に対して振動等に起因する加速度や慣性力が生じた場合、プリプレグロール103が箱体105内で移動を繰り返すおそれが生じる。プリプレグロール103の下端部にも同様の押さえ枠材をセットすることもあるが、両押さえ枠材をセットした状態では箱体105内に収納しづらくなるとともに、両押さえ枠材をともに丁度箱体105の内面に当接させることは困難であるので、いずれかの押さえ枠材のみが箱体105の内面に当接した状態では、依然としてプリプレグロール103の箱体105内での繰り返し移動の問題が残ることとなる。また特にプリプレグロールはいわゆるBステージの樹脂で含浸された強化繊維からなるため、保管・輸送の際には低温に保たれることが一般的であり、低温下では樹脂フィルム104の可撓性、柔軟性が低下するため、上述の樹脂フィルム104の屈曲部における疲労や摩耗を助長するおそれもある。
【0009】
そこで本発明の課題は、上記のような従来の梱包形態における問題点に着目し、従来の押さえ枠材の使用を取り止めることにより、押さえ枠材の巻芯への屈曲挿入部による密封用樹脂フィルムの不具合発生のおそれを除去するとともに、押さえ枠材無しでも、簡便にかつ大重量のプリプレグロールに対しても容易に、プリプレグロールの箱体内での移動を適切に防止できるようにしたプリプレグロールの梱包体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るプリプレグロールの梱包体は、強化繊維材に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグを巻いたプリプレグロールの梱包体であって、少なくとも、プリプレグロール全体を外側から覆い、密封する樹脂フィルムと、該樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールを、ロールの軸方向が上下方向となる姿勢で内部に収納する開閉可能な横断面形状が矩形の箱体と、該箱体の内側面と前記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの外周面側との間に上下方向に延びるように介在され、前記プリプレグロールを箱体内部の中央部に保持する保持部材とを有したプリプレグロールの梱包体であって、JIS−Z−0232(2004)(包装貨物−振動試験法)の試験方法−7.1.1(ランダム振動試験)に準じ、下記する測定条件の振動試験に於いて、前記樹脂フィルムに長径が0.5mm以上のピンホールが発生しないことを特徴とするものからなる。
【0011】
上記強化繊維材を構成する強化繊維としては、代表的には、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられ、2種以上の強化繊維のハイブリッド構成も可能であり、この場合金属繊維が用いられる場合もある。またこれら強化繊維の使用形態としては、一方向材、一方向織物材、二方向織物材、バイヤスクロス、不織布、マット等が挙げられる。上記未硬化の樹脂としては、熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂等が挙げられ、この樹脂は、硬化させてFRP(繊維強化プラスチック)を成形する際にFRPのマトリックス樹脂となるものである。また、ATLにてプリプレグシートを積層するに際して使用されるプリプレグの幅は50〜700mm、好ましくは75〜350mmである。さらに、このプリプレグの単位面積当たりの重量は100〜500g/m程度であることが一般的であり、プリプレグロールの質量は10〜150kgが好ましく、より好ましくは20〜100kgである。このようなプリプレグロールは、通常担体として離型紙とともに巻き上げられ、プリプレグの表面保護のため樹脂フィルムが配せられる場合もあるが、特にATLに適したプリプレグでは、保護フィルムなしで提供されることが好ましい。
【0012】
上記のような本発明に係るプリプレグロールの梱包体においては、樹脂フィルムにより密封されたプリプレグロールは、図4に示した従来の梱包形態と同様に、巻芯の軸方向が上下方向となる姿勢で箱体内に収納されるが、収納されたプリプレグロールの箱体内での保持には、従来のような押さえ枠材は使用されず、箱体の内側面と樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの外周面側との間に介在される保持部材によって、箱体内部の中央部に保持される。従来の押さえ枠材が使用されないので、押さえ枠材の巻芯への屈曲挿入部と巻芯の先端縁における屈曲部との間において不具合を生じさせていた、密封用樹脂フィルムの急激な屈曲はなくなり、この樹脂フィルムの屈曲部における疲労や摩耗、さらには孔開き発生の問題は、それらの発生原因とともに解消される。したがって、密封用樹脂フィルムによる所望の防湿効果が良好に維持され、プリプレグロールの品質が良好に維持される。また、プリプレグロールの箱体内中央部への保持には、箱体の内側面と樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの外周面側との間で上下方向に延びる保持部材が用いられるので、樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールは、プリプレグロールの巻芯軸方向の広い範囲にわたって、好ましくは、実質的に巻芯軸方向の全長にわたって、箱体の内側面に対して支持、固定されるようになる。したがって、プリプレグロールの上端部や下端部のみで、あるいは両端部のみで従来の押さえ枠材で保持される場合に比べ、より安定して所定位置に保持されることになる。とくに比較的大径で大重量のプリプレグロールの場合にあっても、プリプレグロールを側面側から広い範囲にわたって支持、固定できるので、輸送中に振動等を受ける場合にあっても、プリプレグロールの箱体内での望ましくない移動を適切に防止できるようになる。この移動防止によって、プリプレグロールの品質がより確実に、良好に維持されることになる。
【0013】
さらに、本発明に係るプリプレグロール梱包体は、下記測定条件による振動試験の結果、密封用の樹脂フィルムに長径が0.5mm以上のピンホールが発生しない高い包装強度を有することを特徴とする。さらに好ましくは、同試験に於いてピンホールの発生が完全に見られず、樹脂フィルムの疲労や磨耗による白化を完全に防止する特徴を有することである。
【0014】
ここで説明される振動試験の測定条件を以下に記す。
【0015】
(1)温度条件
パレットに積載した梱包体サンプルを−18℃で2日間保管した後、試験場(試験環境温度5〜35℃)に搬出し、搬出後30分以内に試験を開始する。
【0016】
(2)振動条件
JIS−Z−0232(2004)(包装貨物−振動試験方法)の試験方法−7.1.1(ランダム振動試験)に準じて振動試験を行う。なお、試験時間および振動台の加速度パワースペクトル密度については表1および図5に示すように、JIS−Z−0232(2004)の付属書A(参考)加速度パワースペクトル密度(PSD)を引用する。
【0017】
【表1】

【0018】
ランダム振動試験では図5に示したPSDデータを1分間のランダム振動波形に再現し、これを30回繰り返すことで合計30分の加振を与えた。なお、JIS−Z−0232(2004)(包装貨物−振動試験方法)の付属書Aでは、振動数3〜200Hz、加速度実効値5.8m/sに対し最低30分の試験時間を推奨しているが、30分の試験時間はMIL−STD810規格に記述されている算出から計算すると、30分×100=3000分、つまり50時間の連続走行を想定した値となる。
【0019】
この本発明に係るプリプレグロールの梱包体においては、上記箱体を、上記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールを収納する下箱と、該下箱に被せられ該下箱を閉じる上箱とから構成できる。下箱の高さはプリプレグロールの高さ(すなわちプリプレグの幅)よりも低くてもよいが、上箱の高さは、下箱に被せられた上箱の側壁が実質的に下箱の底壁の位置まで延びるように設定されていることが好ましい。このような構成により、上箱を被せた後に例えばテープ巻き等の付加梱包を行う場合にあっても、箱体全体の強度を高く維持しながら、適切に付加梱包できるようになる。
【0020】
また、上記保持部材は、前記箱体の角部(特に4隅)に配置され、プリプレグロールにおけるプリプレグの巻き量に応じて横断面方向の大きさを変更可能な三角形の部材から構成できる。このような構成により、プリプレグの巻き量に応じて、とくに巻き量に応じたプリプレグロールの径に応じて、箱体の内側面と樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの間で、かつ前記箱体の角に上下方向に延びるよう配置される三角形の保持部材の横断面方向の大きさを変更することにより、プリプレグロールと保持部材の隙間を保持に最適な幅に容易に調整でき、それによって箱体内でのプリプレグロールの保持がより適切かつ確実なものとなる。このとき、プリプレグロールの箱体内での望ましくない移動を適切に防止するためには、保持部材とプリプレグロール外面とのクリアランスは0.5〜30mmが好ましく、より好ましくは1〜20mmである。
【0021】
また、上記箱体内における上記保持部材の高さは、該箱体内に収納されたプリプレグロールの高さよりも高いことが好ましい。このように保持部材の高さをプリプレグロールの高さよりも若干高くしておくことにより、梱包完了後、輸送中にあっても、プリプレグロール内の製品としてのプリプレグに、とくにその幅方向端面に、荷重が加わらない状態に保つことが可能になり、製品品質維持に寄与できることとなる。また上記三角形の保持部材はコルゲート状中芯を有する段ボール材で構成することが好ましく、この場合、コルゲートの段の延在方向がプリプレグロールの軸方向に対して平行となるよう配置すると、上下方向の荷重を保持部材が負担できるので好ましい。
【0022】
また、プリプレグロール径が規定長品と比べて小さい小径ロールの場合、ロールと箱体の隙間を埋めるため、前記三角形の保持部材のサイズを変更する際、隙間が広くサイズ変更が効率的でない場合は、プリプレグロールかつ三角形の保持部材と上記箱体の内側面との間に一枚以上の板状部材を配し、プリプレグロールを保持することで、プリプレグロールと三角形の保持部材との隙間を容易に調節することができる。板状部材は必要な場合には複数枚を重ねて使用できる。この場合、板状部材の高さを該箱体内に収納されたプリプレグロールの高さよりも高くし、さらにコルゲート状中芯を有する段ボール材で構成し、プリプレグロールの巻芯方向が段と並行になるように配置すれば、上下方向の荷重を板状部材が負担できるので好ましい。板状部材の高さは好ましくは前記三角形の保持部材の高さと同一とすることで、構造強度を向上させる。またこの場合、板状部材が上下方向の荷重を負担するので、三角形の保持部材のコルゲートの段の延在方向がプリプレグロールの軸方向に対して垂直に配置する構成を取ることも三角形の保持部材がプリプレグロールに潰されることなく、箱内での移動を適切に防止できるためより好ましい。また、上記板状部材を、箱体の矩形横断面形状の2辺に沿って延びるL字形の板状部材から構成すると、板状部材自体の配置姿勢も安定し、かつ、板状部材の積層枚数変更も容易に行うことができるようになるので、一層適切かつ確実なプリプレグロールの保持が可能になる。このとき、L字形の1片の長さは、少なくともプリプレグロールの半径以上あることが、プリプレグロールを適正に把持できるため好ましい。また上記板状部材は、箱体の矩形横断面形状の3辺に沿って延びるコ字形の板状部材から構成することも好ましい。このとき、プリプレグロールの箱体内での望ましくない移動を適切に防止するためには、三角形の保持部材とプリプレグロール外面とのクリアランスは0.5〜30mmが好ましく、より好ましくは1〜20mmである。
【0023】
また、上記箱体内に収納されたプリプレグロールの上面と該箱体の天井面との間に3〜50mmの隙間が設けられていることが好ましい。このように構成しておけば、上記同様、製品としてのプリプレグに荷重が加わらない状態に保つことが可能になるとともに、この間に後述の保護材あるいは緩衝材としての発泡体シートや段ボール等も介装しやすくなる。
【0024】
また、上記箱体の底面上には、上記プリプレグロールを支持可能でかつ箱体を補強可能な底板部材を配置することもできる。とくに大重量のプリプレグロールを収納する場合には、このような箱体自体の補強が、安定した取り扱いや輸送を確保する上で有効である。この底板部材の厚みとしては、収納スペースを大きく減殺させず、かつ、十分な箱体補強硬化を得るために、3〜10mm程度であることが好ましい。また、箱体および上記底板部材は、コルゲート状中芯を有する段ボール材で構成することが可能であるが、この場合、箱体の底壁を構成する段ボール材の中芯のコルゲートの段方向と底板部材を構成する段ボール材の中芯のコルゲートの段方向とが互いに直交していることが好ましい。このように中芯のコルゲート段方向を互いに直交させることにより、箱体の底壁と底板部材とが、より高強度の壁部を構成可能となり、大重量のプリプレグロールにあっても壁部の変形を抑えて安定した状態で良好に支持できるようになる。
【0025】
本発明に係るプリプレグロールの梱包体においては、さらに、上記箱体の内面と上記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールとの間に、発泡体シートを介装することも可能である。この発泡体シートは、軽量でありながら、プリプレグロールに対して保護材や緩衝材として、あるいは余剰の隙間を埋める充填材として機能可能であるので、発泡体シートの介装により、プリプレグロールをより適切に箱体内に保持することが可能となる。
【0026】
上記発泡体シートの介装位置としては、例えば、少なくとも、上記箱体の底面または上面と上記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールとの間に、上記発泡体シートを介装することができる。とくに、上記発泡体シートが、上記箱体の底面上に配置された底板部材と上記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールとの間に介装されている形態とすることができる。さらに、上記発泡体シートが、上記箱体内に収納された上記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロール上または側面に被せられている形態も採用できる。必要に応じて介装位置を設定すればよい。発泡体シートの厚みとしては、1〜10mm程度が適当である。また、この発泡体シートの気泡形態は、連続気泡形態(発泡による内部気泡が互いにかつ外部とも連通している形態)であることが好ましく、これによって、後述のような冷凍保存や冷凍輸送の際にも温度変化に伴う気泡体積変化に問題なく対応できるようになる。
【0027】
上記樹脂フィルムによるプリプレグロールの密封形態としては、例えば、熱シールにより内部を密封する形態を採用できる。この場合には、密封用樹脂フィルムは、熱シール可能な樹脂フィルムであればよい。
【0028】
プリプレグロール密封用樹脂フィルムとしては、取扱いや入手の容易さから、さらには上記熱シールを考慮して、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエステルフィルムまたはアルミ等の金属を蒸着させた樹脂フィルム等を挙げることができるが、安価で作業性がよいことから、ポリエチレンフィルムが好ましい。またポリエチレンフィルムの材質には、剛性が高い高密度ポリエチレン、突刺強度が高い低密度ポリエチレン、または耐寒性が高い線状低密度ポリエチレンやその一種であるメタロセンポリエチレン等やその組み合わせが好ましい。さらには、前述の樹脂フィルムを単独で用いることに加え、高密度ポリエチレンフィルムの両側に低密度ポリエチレンフィルムをラミネートしたラミネートフィルム、ポリアミドフィルムの両側にポリエチレンフィルムをラミネートした、ラミネートフィルムや線状低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレンを用いれば、剛性を有しながら、突刺強度にも優れたフィルムとなりより好ましい。またポリアミド6,ポリアミド6,6、ポリアミド12、変性ポリアミドなどのポリアミドフィルムも好ましい。また、これら樹脂フィルムの厚みは50〜200μmであることが好ましい。200μmより厚いと屈曲疲労性が低下する可能性があり、50μmより薄いと突き刺し強度やシール性が低下する可能性がある。
【0029】
また、樹脂フィルムのガラス転移点(Tg)は、通常の吸湿条件、例えば相対湿度50%で10℃以下が好ましく、より好ましくは−50℃以下である。また、効果的にプリプレグロールの吸湿を防止するために、樹脂フィルムの透湿度(JIS−Z−208(1976)の防湿包装材料の透湿度試験方法にて測定)は、8g・m/day以下であることが好ましく、より好ましくは5g・m/day以下である。密封した樹脂フィルムには、必要に応じて乾燥剤を同封させることが好ましい。上記巻芯としては、特に限定されないが、軽量性、強度、価格面等から、紙管を使用することが好ましく、その場合には、入手の容易な市販の紙管を使用することができる。
【0030】
また、保存や輸送の効率を考慮すれば、上記箱体は、多段積み可能に構成されていることが好ましい。この場合、フォークリフト等による取り扱いの利便性を確保するために、本発明では、前述の如き横断面矩形(正方形を含む)の箱体を採用する。
【0031】
さらに、本発明におけるプリプレグロールは、未硬化の樹脂を含むプリプレグを通常離型紙などのセパレーターとともに巻芯上に巻いたものであり、吸湿が防止されるとともに樹脂の硬化を進行させないためには、上記箱体内に収納されたプリプレグロールを、氷点下の温度に保存または氷点下の温度で輸送可能に(例えば、−10℃以下に維持可能に)梱包体を構成しておくことが好ましい。つまり、このような低温条件下でも問題が生じない素材で梱包体全体を構成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るプリプレグロールの梱包体によれば、従来の押さえ枠材の使用によるプリプレグロール密封用樹脂フィルムの不具合発生のおそれを完全に除去できるとともに、押さえ枠材無しでも、簡便にかつ大重量のプリプレグロールに対しても容易に、プリプレグロールの箱体内での移動を適切に防止でき、保管や輸送に対してプリプレグを望ましい品質に維持することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施態様に係るプリプレグロールの梱包体の概略縦断面図であり、図2のA-A’断面図である。
【図2】図1のプリプレグロールの梱包体の、上箱を除いた状態の概略平面図である。
【図3】図1のプリプレグロールの梱包体に段ボール材が使用される場合の、該段ボール材の構造例を示す拡大部分断面図である。
【図4】従来のプリプレグロールの梱包体の一例を示す概略縦断面図である。
【図5】振動試験における加速度パワースペクトル密度(PSD)と振動数との関係図である。
【図6】本発明の別の実施態様に掛るプリプレグロールの梱包体の、上箱を除いた状態の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0035】
図1、図2は、本発明の一実施態様に係るプリプレグロールの梱包体の概略縦断面を示しており、1はプリプレグロールの梱包体の全体を示している。2は、炭素繊維等からなる強化繊維材に未硬化のエポキシ樹脂等からなる熱硬化性樹脂を含浸させたシート状のプリプレグ3を紙管からなる巻芯4上に巻いたプリプレグロールを示している。このプリプレグロール2は、その全体を外側から覆うポリエチレンフィルム等の樹脂フィルム5によって、内部を過剰な空気を脱気した状態にて樹脂フィルム5を熱シールにすることにより密封されている。樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2は、巻芯4の軸方向が上下方向となる姿勢で、下箱6と上方から下箱6を閉じるように被せられる上箱7からなる開閉可能な横断面形状が矩形の箱体8の内部に収納される。箱体8の内側面(本実施態様では、下箱6の内側面)と樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2の外周面側との間には、保持部材9が上下方向に延びるように介在されており、プリプレグロール2は保持部材9によって箱体8内部の中央部に保持されている。本実施態様では、保持部材9は、図2に示すように、矩形横断面形状の箱体8の4つの隅に配した三角形の保持部材9からなっている。保持部材9を構成する三角形の保持部材の横断面方向の大きさは、プリプレグロール2の径(つまりプリプレグ3の巻き量)や、樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2の外周面と箱体8の内面との間隙寸法に応じて、適宜調整すればよい。
【0036】
本実施態様においては、箱体8(下箱6)の底面上に、樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2を支持可能でかつ箱体8を補強可能な、厚みが3〜10mmの平板状の底板部材10が配置されており、その上に、上記三角形の保持部材9が配置されている。保持部材9の高さは、図1に示すように、箱体8に収納されたプリプレグロール2の高さよりも高く設定されており、保持部材9の上端によって高さ方向の位置が規制される上箱7(箱体8)の天井面と箱体8内に収納されたプリプレグロール2の上面との間に3〜50mmの隙間が設けられている。したがって、樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2の上面は、上箱7の内面によって直接的には押さえ付けられない形態とされている。上記底板部材10および箱体8は、図3に示すようなコルゲート状中芯11を有する段ボール材12で構成されており、箱体8の下箱6の底壁
を構成する段ボール材12の中芯11のコルゲート延在方向と底板部材10を構成する段ボール材12の中芯11のコルゲート延在方向は、互いに直交する方向に設定されている。
【0037】
また、本実施態様においては、箱体8の内面と樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2との間に、保護材や緩衝材、さらには隙間充填材として機能可能な発泡体シートが介装されている。とくに本実施態様では、箱体8の底面(本実施態様では、上記底板部材10の上面)と樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2との間に発泡体シート13が介装されているとともに、箱体8内に収納された樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2上に発泡体シート14が被せられている。発泡体シートの介装位置は、図示例以外にも必要に応じて適宜設定できる。これら発泡体シート13、14の厚みは、前述の如く1〜10mm程度が適当である。また、温度変化に伴う気泡体積変化を考慮して、発泡体シート13、14の気泡形態は連続気泡形態であることが好ましい。
【0038】
保存や輸送上の効率を考慮して、上記箱体8は、多段積み可能に構成されている。また、箱体8を含め、プリプレグロール2の梱包体1を構成する材料は、例えば氷点下、好ましくは−10℃以下での冷凍保存や冷凍輸送が可能な素材で構成されている。
【0039】
このように構成されたプリプレグロール梱包体1においては、従来の押さえ枠材の使用は不要となるので、該押さえ枠材使用によるプリプレグロール密封用樹脂フィルム5に疲労や摩耗、さらには穴開きが生じるという不具合の発生は除去される。押さえ枠材の代わりに、樹脂フィルム5で密封されたプリプレグロール2を外周面側から保持部材9によって、箱体8内の中央部に保持でき、適切な位置に移動を防止した状態にて固定できるので、上記のような不具合を生じることなく、望ましい形態での保管や輸送が可能になり、とくにプリプレグロール2に対して目標とする密封による防湿効果を維持できるから、プリプレグ3を望ましい品質に保つことができるようになる。
【0040】
また、三角形の保持部材の横断面形状のサイズ変更を任意に設定可能な構成、板状部材の積層枚数を任意に設定可能な構成、最適な保持部材の高さ設定、底板部材の配置、発泡体シートの設置、段ボール材を使用する場合の中芯のコルゲート方向の最適な設定、等により、さらに安定した保管、輸送が可能になる。
【0041】
本発明に係る梱包体は、輸送・保管時、とくに冷凍での輸送・保管に優れた性能を示す。本発明の梱包体は振動試験で優れた特性を示す。
【0042】
振動試験は、従来の押さえ枠材を使用したプリプレグ梱包体の供試品A(No.1〜6)と、図1、図2に示した本発明に係るプリプレグ梱包体の供試品B(No.1〜6)とについて、パレット上に、縦、横2個、合計4個の梱包体を3段積みに積載した状態(計12個)および、従来の押さえ枠材を使用したプリプレグ梱包体の供試品A(No.7〜12)と、図6に示した本発明に係るプリプレグ梱包体の供試品C(No.1〜6)とについて、パレット上に、縦、横2個、合計4個の梱包体を3段積みに積載した状態(計12個)の2パレット(総計24個)にて、本文中に記載の測定条件にて振動試験を行って、各梱包体の包装強度を評価した。試験時の環境温度は8.6℃、湿度は27.0%であった。また、従来品としての供試品A(No.1〜12)と本発明品としての供試品B(No.1〜6)、供試品C(No.1〜6)の概要を表2に示す(表2において、Lは箱体の長さ、Wは箱体の幅、Hは箱体の高さを示しており、「質量」は収納したプリプレグロールを含む梱包体全体の質量を示している、またA(No.1〜3),A(No.4〜6),A(No.7〜9),A(No.10〜12),B(No.1〜3),B(No.4〜6),C(No.1〜3),C(No.4〜6)がそれぞれ3段積みになるよう積載した。)また密封用樹脂フィルムにはメタロセンポリエチレンフィルムを使用した。
【0043】
【表2】

【0044】
使用した振動試験機(電気油圧式振動試験機:(株)鷺宮製作所製)の主要諸元を下記表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
試験後の目視確認の結果、供試品A、BおよびCいずれも箱体の外観に破損、損傷、擦れなどの異常は確認されなかった。また、本発明品である供試品BおよびCはプリプレグを覆うフィルム袋に擦れや穴開きの兆候は全く確認されなかった。しかし、従来品である供試品Aでは、フィルム袋に、特に押さえ枠材の屈曲部に対応するフィルム袋の位置に長径が0.5〜2mm程度のピンホールが見られた。またさらに、同箇所周辺には、皺発生に伴う変形と、そこから振動により発展したフィルム袋の白化も見られ、フィルム袋の塑性変形が多数確認された。これらは穴開きには至らなかったが、あとわずかの加振で穴開きに至るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るプリプレグロール梱包体は、とくに大径、大重量のプリプレグロールが必要となる、ATL用プリプレグロールの梱包に好適なものである。
【符号の説明】
【0048】
1 プリプレグロールの梱包体
2 プリプレグロール
3 プリプレグ
4 巻芯
5 樹脂フィルム
6 下箱
7 上箱
8 箱体
9 三角形の保持部材
10 底板部材
11 コルゲート状中芯
12 段ボール材
13、14 発泡体シート
15、15a、15b 板状保持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維材に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグを巻いたプリプレグロールの梱包体であって、少なくとも、プリプレグロール全体を外側から覆い、内部を密封する樹脂フィルムと、該樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールを、ロールの軸方向が上下方向となる姿勢で内部に収納する開閉可能な横断面形状が矩形の箱体と、該箱体の内側面と前記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールの外周面側との間に上下方向に延びるように介在され、前記プリプレグロールを前記箱体内部の中央に保持する保持部材とを有したプリプレグロールの梱包体であって、JIS−Z−0232(2004)(包装貨物−振動試験法)の試験方法−7.1.1(ランダム振動試験)に準じ、明細書に記載の測定条件の振動試験に於いて、前記樹脂フィルムに長径が0.5mm以上のピンホールが発生しないことを特徴とするプリプレグロールの梱包体。
【請求項2】
前記箱体が、前記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールを収納する下箱と、該下箱に被せられ該下箱を閉じる上箱とからなる、請求項1に記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項3】
前記保持部材が、前記箱体の矩形横断面状の角部に配置される三角形の保持部材である、請求項1または2に記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項4】
前記箱体内における前記保持部材の高さが、該箱体内に収納されたプリプレグロールの高さよりも高い、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項5】
前記箱体の内側面内上にプリプレグロールの巻き量に応じて積層可能な板状部材からなる保持部材を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項6】
前記板状部材が、前記箱体の矩形横断面形状の2辺に沿って延びるL字形である、請求項5に記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項7】
前記箱体内に収納されたプリプレグロールの上面と該箱体の天井面との間に3〜50mmの隙間が設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項8】
前記箱体の底面上に、前記プリプレグロールを支持可能でかつ箱体を補強可能な底板部材が配置されている、請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項9】
前記底板部材の厚みが3〜10mmである、請求項8に記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項10】
前記箱体および前記底板部材が、コルゲート状中芯を有する段ボール材で構成されており、箱体の底壁を構成する段ボール材の中芯のコルゲート延在方向と底板部材を構成する段ボール材の中芯のコルゲート延在方向とが互いに直交している、請求項8または9に記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項11】
前記箱体の底面、側面、上面、前記底板部材のいずれか一つ以上と前記樹脂フィルムで密封されたプリプレグロールとの間に、厚み1〜10mmの発泡体シートが介装されている、請求項1〜10のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項12】
前記樹脂フィルムは、熱シールにより内部を密封してなり、その密封された内部に乾燥剤が封入されている、請求項1〜11のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項13】
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム、またはそれらの二種以上を組み合わせて接着したラミネートフィルムからなる、請求項1〜12のいずれかに記載のプリプレグロールの梱包体。
【請求項14】
前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセンポリエチレンの一つまたはその組み合わせからなる、請求項13に記載のプリプレグロールの梱包体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−41061(P2012−41061A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182845(P2010−182845)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】