説明

プリント装置およびプリント方法

【課題】 プリント前にシートが加熱される場合であっても、プリントヘッドの乾燥によるプリント不具合を抑制する。
【解決手段】 デカール等の処理に伴って加熱されたシートを強制冷却し、冷却されたシートに加湿気体を供給してシートの水分含有量を高める。水分含有量が高められたシートにインクジェット方式のプリントヘッドでプリントを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式のプリントヘッドを備えるプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリント装置では、プリントヘッドの下を高速で通過するシートが空気中の水分を吸収する。そのため、プリントヘッドのインク吐出ノズルの乾燥が早く進行し、ノズルのインク目詰まり等によりプリントが不適切になることがある。
【0003】
この課題に対して、特許文献1には、プリントヘッドの手前で事前にシートを加湿して、プリントヘッドの下でシートが吸湿することを抑制する機構を備えたプリント装置が開示されている。特許文献1の装置では、第1の供給口からシートに対して加湿気体を供給してシートの水分含有量を高める。さらに第1の供給口よりもプリントヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口からプリントヘッドのノズルが露出する空間に加湿気体を供給する。この構成により、ノズルが露出する空間の湿度を維持しノズルを保湿するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−1211354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリント装置には、プリントの前にシートを加熱する機構、例えばシートに熱を与えてカールを矯正するデカール機構を備えたものがある。このような装置では、特許文献1のようにプリントに先立ってシートに加湿気体を供給しても、シートが高温であるために十分な吸湿がなされない。なぜなら、紙などの吸湿性の高いシートは、シートの温度が高くなるほどシートが吸湿できる水分含有量が減少するからである。逆に言えば、シートの温度が低くなるほどシートが吸湿できる水分含有量が増加する。
【0006】
高温で十分な吸湿がなされない状態でプリント部にシートが送られると、その間のシートの温度低下によってシートの吸湿性が高まって、プリントヘッドのノズル露出空間から湿度を大きく奪う。その結果、ノズルが乾燥してプリントが不適切になる可能性がある。
【0007】
本発明は上述の課題の認識に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、プリント前にシートが加熱される場合であっても、プリントヘッドの乾燥によるプリント不具合を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプリント装置は、加熱されたシートを強制冷却する冷却手段と、前記冷却手段で冷却されたシートに加湿気体を供給してシートの水分含有量を高める加湿手段と、前記加湿手段で水分含有量が高められたシートにプリントを行うインクジェット方式のプリントヘッドと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プリント前にシートが加熱される場合であっても、プリントヘッドの乾燥によるプリント不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】プリント装置の内部構成を示す概略図
【図2】制御部のブロック図
【図3】冷却部の構成を示す斜視図
【図4】シート搬送経路に沿った主要ユニットの並び順序を示す模式図
【図5】シートの温度に対する水分含有量を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、ロール状に巻かれた連続シートを使用し、片面プリントおよび両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。本発明はプリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント装置に適用可能である。また、本発明はプリント装置に限らず、ユーザが装置稼働時刻を指定し且つ起動時の初期化動作に大きな時間を要する工場等で使用される産業機器(各種デバイスの製造装置、検査装置など)等の各種装置にも広く適用可能である。
【0012】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。本実施形態のプリント装置は、ロール状に巻かれたシートを用いて、シートの第1面と第1面の裏面側の第2面に両面プリントすることが可能となっている。プリント装置は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20、冷却部30、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。
【0013】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給するためのユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。
【0014】
デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させて通過させることでデカール力を作用させてカールを軽減させる。デカール部2の駆動ローラにはヒータが内蔵され、シートを加熱した状態でデカール力を作用させることでカール低減効果を高めている。
【0015】
斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。シートの斜行を矯正するために斜行矯正部3では、搬送されるシートに外側に膨らむループ状の弛み3aが形成される。ループ状の弛み3aで斜行矯正時に生じるシートのねじれを吸収することで、シートにダメージを与えることなくシートの斜行を矯正できる。また、斜行矯正部3には搬送されるシートを積極的に強制冷却するための冷却部30が内蔵されている。冷却部30の詳細については後述する。
【0016】
プリント部4は、搬送されるシートに対して上方からプリントヘッド14によりシート上にプリント処理を行なって画像を形成するユニットである。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラを備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数およびプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0017】
プリント部4において、プリントヘッド14のノズルが露出する空間には、加湿された高湿の加湿気体が供給され、ノズルの乾燥を抑制する。詳細については後述する。
【0018】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像をスキャナによって光学的に読み取って、プリントヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査して画像が正しくプリントされたかを判定するためのユニットである。スキャナはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有する。
【0019】
カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さに切断する機械的なカッタを備えたユニットである。カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラも備えている。
【0020】
情報記録部7は、切断されたシートの非プリント領域にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報(固有の情報)を記録するユニットである。記録はインクジェット方式、熱転写方式などで文字やコードをプリントすることで行なわれる。
【0021】
乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるためのユニットである。乾燥部8の内部では通過するシートに対して少なくとも下面側から熱風を付与してインク付与面を乾燥させる。なお、乾燥方式は熱風を付与する方式に限らず、電磁波(紫外線や赤外線など)をシート表面に照射する方式であってもよい。
【0022】
反転部9は両面プリントを行う際に表(おもて)面プリントが終了した連続シートを一時的に巻き取って表裏反転させるための、シート巻き取りユニットである。反転部9は、乾燥部8を通過したシートを再びプリント部4に供給するための、乾燥部8からデカール部2を経てプリント部4に到る経路(ループパス)の途中に設けられている。反転部9はシートを巻き取るための回転する巻取回転体(ドラム)を備えている。表面のプリントが済んで切断されていない連続シートは巻取回転体に一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取回転体が逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。
【0023】
排出搬送部10は、カッタ部6で切断され乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に仕分けるためのユニットである。仕分けられたシートは、複数のトレイからなる排出部12に排出される。
【0024】
加湿部20は加湿気体(空気)を生成して、プリント前のシートに供給するとともに、プリント部4のプリントヘッド14とシートの間の空間に供給して気流を生成するためのユニットである。加湿部20による加湿により、プリントヘッド14のノズルのインク乾燥が抑制される。
【0025】
加湿部20の加湿方式は、気化式、水噴霧式、蒸気式などの方式が採用される。気化式には、本実施形態の回転式の他に、透湿膜式、滴下浸透式、毛細管式などがある。水噴霧式には、超音波式、遠心式、高圧スプレー式、2流体噴霧式などがある。蒸気式には、蒸気配管式、電熱式、電極式などがある。
【0026】
加湿部20はシートに加湿気体を生成する。プリントヘッド14の手前には、シートの水分含有量を高めるために加湿気体をプリント前のシートに供給するための第1供給口21と、プリントヘッド14とシートの間の空間に加湿気体を供給するための第2供給口22が設けられている。加湿部20と、第1供給口21および第2供給口22とはダクト24によって接続されている。さらに加湿部20と乾燥部8はダクト23で接続されている。
【0027】
乾燥部8ではシートを乾燥させる際に多湿且つ高温の気体が生成される。この気体(熱)の一部はダクト23を通して加湿部20に導入され、加湿部20での加湿気体生成の補助エネルギとして利用される。加湿部20で生成された加湿気体の一部は、第1供給口21を通して、プリントヘッド14の手前においてシート表面に向けて供給される。また、加湿部20で生成された加湿気体の一部は、第2供給口22を通してプリントヘッド14直下の空間に上流側から導入され、上流から下流に向けての加湿気体の流れが形成される。
【0028】
制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、記憶装置、各種制御部を備えたコントローラ(制御部)、外部インターフェース、およびユーザが入出力を行なう操作部15を有する。プリント装置の動作は、コントローラまたはコントローラに外部インターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等のホスト装置16からの指令に基づいて制御される。
【0029】
図2は制御部13の概念を示すブロック図である。制御部13に含まれるコントローラ(破線で囲まれる範囲)は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、画像処理部207、エンジン制御部208、個別制御部209から構成される。CPU201(中央演算処理部)はプリント装置の各ユニットの動作を統合的に制御する。ROM202はCPU201が実行するためのプログラムやプリント装置の各種動作に必要な固定データを格納する。RAM203はCPU201のワークエリアとして用いられたり、種々の受信データの一時格納領域として用いられたり、各種設定データを記憶させたりする。HDD204(ハードディスク)はCPU201が実行するためのプログラム、プリントデータ、プリント装置の各種動作に必要な設定情報を記憶読出することが可能である。操作部15はユーザとの入出力インターフェースであり、ハードキーやタッチパネルの入力部、および情報を提示するディスプレイや音声発生器などの出力部を含む。
【0030】
高速なデータ処理が要求されるユニットについては専用の処理部が設けられている。画像処理部207は、プリント装置で扱うプリントデータの画像処理を行う。入力された画像データの色空間(たとえばYCbCr)を、標準的なRGB色空間(たとえばsRGB)に変換する。また、画像データに対し解像度変換、画像解析、画像補正等、様々な画像処理が必要に応じて施される。これらの画像処理によって得られたプリントデータは、RAM203またはHDD204に格納される。エンジン制御部208は、CPU201等から受信した制御コマンドに基づいてプリントデータに応じてプリント部4のプリントヘッド14の駆動制御を行なう。エンジン制御部208はさらにプリント装置内の各部の搬送機構の制御も行なう。個別制御部209は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、加湿部20、冷却部30の各ユニットを個別に制御するためのサブコントローラである。CPU201による指令に基づいて個別制御部209によりそれぞれのユニットの動作が制御される。外部インターフェース205は、コントローラをホスト装置16に接続するためのインターフェース(I/F)であり、ローカルI/FまたはネットワークI/Fである。以上の構成要素はシステムバス210によって接続されている。
【0031】
プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントと両面プリントとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0032】
片面プリントでは、シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3で処理されたシートは、プリント部4において表面のプリントがなされる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは、必要に応じて情報記録部7でシートの裏面にプリント情報が記録される。そして、カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10、ソータ部11を経由して、排出部12に順次排出され積載されていく。
【0033】
両面プリントでは、表面プリントシーケンスに次いで裏面プリントシーケンスを実行する。最初の表面プリントシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6ではカット動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路ではなく、反転部9の側の経路にシートが導入される。導入されたシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転する反転部9の巻取ドラムに巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端がカットされる。カット位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経て反転部9でシート後端(カット位置)まで全て巻き取られる。一方、カット位置よりも搬送方向上流側の連続シートは、シート先端(カット位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に巻き戻される。
【0034】
以上の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。反転部9の巻取ドラムが巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)はデカール部2に送り込まれる。デカール部2では先とは逆向きのカール矯正がなされる。これは、巻取ドラムに巻かれたシートは、シート供給部1でのロールとは表裏反転して巻かれ、逆向きのカールとなっているためである。その後、斜行矯正部3を経て、プリント部4で連続シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎にカットされる。カットシートは両面にプリントされているので、情報記録部7での記録はなされない。カットシートは一枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10、ソータ部11を経由して、排出部12に順次排出され積載されていく。
【0035】
次に、本実施形態のプリント装置の特徴的な構成である、加湿前にシートを強制冷却する冷却部について説明する。図3は、冷却部30の詳細な構成を示す斜視図である。
【0036】
冷却部30は冷却ファン30a、30bを有し、斜行矯正部3の内部に設けられている。斜行矯正部3の内部に形成されるシートのループ状の弛み3aに対して、シート表面(プリント面)側に冷却ファン30aが、シート裏面側に冷却ファン30bが配置されている。冷却ファン30a、30bで常温の空気をシートの両面吹き付けることで、搬送されるシートを積極的に強制冷却するものである。
【0037】
冷却部30に導入される前に、シートはデカール部2で加熱され高温になる。また、両面プリントにおいては、第1面にプリントされ乾燥部8を通過して加熱されたシートが、蓄熱したまま反転部9に巻き取られる。続いて第2面にプリントする際には、蓄熱したシートがさらにデカール部2で加熱されて、冷却部30に向けて搬送される 冷却部30はこのように加熱手段で加熱されたシートを、加湿部20での加湿の前に強制冷却する。
【0038】
斜行矯正部3では、ループ状の弛み3aが自由なサイズで形成されるように、シートの表面、裏面ともに物理的なシートガイドが存在しない。そのため、シート面の広い面積に対し冷却ファン30a、30bから空気を吹き付けることができ、コンパクトな冷却手段で効率的にシート冷却を行うことが可能となっている。内側の冷却ファン30bは、外側の冷却ファン30bよりも送風能力が大きいものであることが好ましい。表裏からの空気の吹き付けによってループ状の弛み3aの形状が、外側に膨らんだ状態を安定維持するためである。
【0039】
なお、冷却部30は、シートの表裏両面から冷却する構成に限らず、内側の冷却ファン30bのみを設けた構成であってもよい。すなわち、冷却部はループ状の弛みに少なくともループを膨らます方向から空気を吹き付けてアクティブに冷却するものであればよい。また、冷却部30は送風を伴うものに限らず、シートが通過する空間を低温の気体で満たしてシートを強制冷却する形態や、シートに冷却部材を接触させて強制冷却する形態であってもよい。
【0040】
図4は、シート搬送経路に沿った主要ユニットの並び順序の概念を模式的に示す模式図である。図中、図1と同じ符号は同一の部材を示す。
【0041】
ロールR1またはR2から供給されたシートは、デカール部2で加熱されながらデカール処理がなされる。加熱されたシートは、冷却部30において冷却ファン30a、30bによって空気が吹き付けられ、強制冷却がなされる。第1供給口21の手前で、シートはプリント部4でプリントヘッド14が露出しているノズル露出空間の温度以下の温度にまで冷却される。冷却されたシートは、第1供給口21から加湿気体から供給される領域を通過しながら水分を吸収し、水分含有量が高められる。第2供給口22からはプリントヘッド14のノズルが露出しているノズル露出空間に上流側から加湿気体が導入され、上流から下流に向けて流れる加湿気体によりノズルの乾燥が抑制される。シートは、第1供給口21での加湿により水分含量が高められ、ノズル露出空間の温度におけるシートの最大水分含有量よりも大きな水分含有量となる。そのため、続いてノズル露出空間を通過する際には、シートが空間の水分を吸収する量は少なく。ノズル露出空間の湿度低下は小さい。結果として、ノズル露出空間におけるプリントヘッド14のノズルのインク乾燥を効果的に抑制することができる。プリントの済んだシートは乾燥部8を通過した後、排出される。
【0042】
両面プリントモードでは、以上の手順でシートの第1面にプリントした後、乾燥部8を通過して加熱されたシートが第2面にプリントするためにデカール部2および冷却部30に向けて搬送される(図4の破線で示す経路)。再び、デカール部2を経てさらに温度が高まったシートは、冷却部30で強制冷却される。その後の処理手順は上述した手順と同じである。両面プリントモードでは、第1面、第2面いずれのプリントの前にもシートが加熱されるが、いずれにおいてもプリントヘッドの乾燥によるプリント不具合を抑制することができる。
【0043】
図5は、2種類の紙シート(シートA、シートB)について、シート温度と最大水分含有量の関係を実測してプロットしたグラフである。グラフの横軸は温度(単位:℃)、縦軸は最大水分含有量Δw(単位:mg/inch)である。同図から判るように、シート温度が低いほどシートの最大水分含有量が大きくなる。
【0044】
デカール部2を通過した直後のシートの温度は第1温度(35℃程度)であり、図5のグラフで判るとおりシートはほとんど水分を吸湿しない。続く冷却部30での強制冷却によりシートは第2温度(30℃程度)にまで冷却される。第2温度は、プリント部4でプリントヘッド14が露出しているノズル露出空間の温度(33℃程度)以下の温度である。図5のグラフで判るとおり、第2温度ではシートは第1温度に比べて大きな吸湿能力を持つ。したがって、第1供給口21から供給される加湿気体は効果的にシートに吸収され、続いてシートがプリントヘッド14の下のノズル露出空間を通過する際には、シートが当該空間の水分を吸収する量は少なく、ノズルのインク乾燥が効果的に抑制される。
【0045】
仮に、強制冷却を行う冷却部30が無いとすると、自然冷却ではシートの温度が十分に下がらないまま(例えば32℃程度)第1供給口21の領域にシートが移行する。第1供給口21での加湿気体は高温のシートに吸湿される量は少ない。吸湿が少ない状態でプリント部にシートが送られると、プリント部まで送られる間さらにはプリント部の内部で送られる間のシートの温度低下に伴ってシートの吸湿性が高まる。そのため、プリントヘッド14のノズル露出空間を通過するシートが空間の水分を吸収して空間の湿度が低下し、ノズルが乾燥してプリント不具合が生じる可能性が高まる。
【0046】
加えて、強制冷却を行う冷却部30が無いとすると、ノズル露出空間よりも温度が高いシートが当該空間に搬入されてくるので、プリントヘッドのノズル面に結露が生じ易くなる。結露が生じる理由は、高温のシートが入ってくると、ノズル露出空間の温度が高くなってノズル露出空間の飽和水蒸気量が多くなり、露点が高くなるためである。そのため、相対的に低温であるノズル面などの周辺部品に結露が生じやすくなる。ノズル面に結露が生じると、インクの吐出不良になってプリント不具合が生じたり、結露した液体が滴下してシートが汚れたりする可能性がある。
【0047】
本実施形態によれば、プリント前に加熱されたシートを、シート加湿の前に強制冷却することで加湿効果が高まり、プリントヘッドの乾燥によるプリント不具合を抑制することができる。加えて、プリントヘッドのノズル面への結露も防止することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 シート供給部
2 デカール部
3 斜行矯正部
3a ループ状の弛み
4 プリント部
8 乾燥部
9 反転部
13 制御部
14 プリントヘッド
15 コントローラ
20 加湿部
21 第1供給口
22 第2供給口
23 ダクト
24 ダクト
30 冷却部
30a、30b 冷却ファン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたシートを強制冷却する冷却手段と、
前記冷却手段で冷却されたシートに加湿気体を供給してシートの水分含有量を高める加湿手段と、
前記加湿手段で水分含有量が高められたシートにプリントを行うインクジェット方式のプリントヘッドと、
を有することを特徴とするプリント装置。
【請求項2】
搬送されるシートにループ状の弛みを形成してシートの斜行を矯正する矯正手段をさらに有し、
前記冷却手段は、前記ループ状の弛みに空気を吹き付けて強制冷却することを特徴とする、請求項1記載のプリント装置。
【請求項3】
前記冷却手段は、前記ループ状の弛みに少なくともループを膨らます方向から空気を吹き付けて強制冷却することを特徴とする請求項2記載のプリント装置。
【請求項4】
前記冷却手段は、前記ループ状の弛みにシートの表裏から空気を吹き付けて強制冷却することを特徴とする請求項3記載のプリント装置。
【請求項5】
前記加湿手段は、前記プリントヘッドのノズルが露出している空間の手前でシートに加湿気体を供給することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項6】
前記加湿手段は、前記プリントヘッドのノズルが露出している空間に加湿気体を供給することを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項7】
前記冷却手段は、シートの温度が前記空間の温度以下の温度になるよう強制冷却することを特徴とする、請求項6記載のプリント装置。
【請求項8】
シートに熱を付与しながらカールを低減させるデカール手段をさらに有し、
前記デカール手段で加熱されたシートが前記冷却手段に向けて搬送されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項9】
プリントされたシートに熱を付与して乾燥させる乾燥手段をさらに有し、
両面プリントにおいて第1面にプリントされ前記乾燥手段を通過して加熱されたシートが、第2面にプリントするために前記冷却手段に向けて搬送されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載のプリント装置。
【請求項10】
前記加湿手段には、前記加湿気体の生成のため前記乾燥手段で発生した熱の一部が導入されることを特徴とする、請求項9記載のプリント装置。
【請求項11】
加熱されたシートを強制冷却し、
前記冷却されたシートに加湿気体を供給してシートの水分含有量を高め、
前記水分含有量が高められたシートにインクジェット方式のプリントヘッドでプリントを行う
ことを特徴とするプリント方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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