説明

プリント装置の制御方法

【課題】 プリントスループットとプリント品質を高い次元で両立したプリント装置の提供。
【解決手段】 制御部は、搬送ローラの少なくとも1回転分について、第1取得部(ロータリエンコーダ)で取得した情報と第2取得部(ダイレクトセンサ)で取得した情報とを対応付けて補正データとして記憶するメモリを備える。シートの第1面と第2面に複数の画像を順次プリントする際に、第1取得部で取得した回転情報に対応した補正データをメモリから読み出して、プリントヘッドの駆動制御とローラの駆動制御の少なくとも一方を補正する。第1面にプリントするときと第2面にプリントするときで使用する補正データが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシートを搬送してプリントを行なうプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、速度センサでシート表面をダイレクトに速度計測して、プリントヘッドのインク吐出タイミングを制御するプリント装置が開示されている。図8は特許文献1の図25に開示されるプリント装置を簡略化した図である。ロール状に巻かれたシート500は上流側の搬送ローラ対501と下流側の搬送ローラ対502で搬送され、プリントヘッド503によってプリントされる。上流側の搬送ローラ対501とプリントヘッド503の間には、シートの移動速度をダイレクトに計測する速度センサ504(レーザドップラ式センサ)が配置されている。速度センサ504で計測された搬送速度に応じてプリントヘッド503の駆動制御タイミングが補正され、高品質のプリントを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−6655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリントラボのように大量プリントする分野では、画質を維持しながらプリント速度をいかに引き上げるかが課題である。また、フォトブック等の製本を考慮して、シートの両面にプリントする要望が高まってきている。
【0005】
特許文献1の装置では、連続したシートの片面に複数の画像を順次プリントすることはできるが、シートの両面にプリントすることはなんら考慮されていない。両面プリントでは、シートの第1面へのプリントと第2面プリントとでは、搬送ローラが接するシート面の摩擦係数が変化し、とくにインクが付与されるとシート面の摩擦係数は大きく変化する、その結果、第1面プリントに次ぐ第2面プリントでは、搬送ローラとシート面との間のスリップの度合いが変化して、同じ駆動力を与えてもシート搬送状態が異なったものとなる。そのため、特許文献1のような手法で第1面と第2面のプリントの際に同じ補正を行ったのでは、第2面の画像が本来とは異なるサイズとなって、表裏で画像サイズが一致しなくなってしまう。
【0006】
また、特許文献1に開示の装置で用いるレーザドップラ式センサは、その測定原理上、測定した情報を一旦保管して信号処理を行って結果を出力する。そのため、複雑な信号処理に要する検出遅延が律速となって、リアルタイム補正制御の高速化を妨げて、プリント速度(シートの移動速度)を引き上げることが困難になる場合がある。
【0007】
上記課題の認識に鑑み、本発明の第1の目的は、シート両面に正確に画像プリントを行なうことができ、且つ高いプリントスループットを実現した両面プリントが可能な手法の提供である。
【0008】
また、特許文献1の装置では、上流側の搬送ローラとプリントヘッドの間に速度センサが配置されている。速度センサ(レーザドップラ式センサ)は大きな設置スペースが必要なので、その分だけ搬送ローラとプリントヘッドとの間の距離が大きくなる。そのため、シートを導入した際に搬送ローラからプリントヘッドに到る間にシート先端部が浮き上がって、最上流のプリントヘッドのノズルとシート先端が接触する可能性が高まる。これを抑止するには、速度センサとプリントヘッドの間の距離を極力小さくする必要がある。しかし、速度センサとプリントヘッドが近づくほどに、以下に列挙する問題が顕在化する。
(1)シートが速度センサの計測位置から最上流のプリントヘッドに至るまでの時間内に、速度センサでの計算を済ませてインク吐出タイミングを制御することが間に合わなくなる可能性が高まる。この問題は、シートの搬送速度が大きくするほどに高まるので、プリント速度を向上させることが困難になる。
(2)プリントヘッドによるプリント領域と速度センサの計測位置とが近づくと、プリント直後にシートがインクを吸収する際に発生するコックリング(局所的なシート浮き)が、計測位置にまで影響を及ぼす可能性が高まる。もしセンサの計測位置でシートの浮きが生じると計測誤差の要因となる。
(3)プリントヘッドと速度センサが近づき且つその間に遮蔽物がないと、プリントヘッドからインクを吐出した際に発生して飛散するインクミスト(微細なインク滴)が速度センサに付着しやすくなる。速度センサ(レーザドップラ式センサ)は発光部および受光部を有しており、発光部や受光部にインクミストが付着すると検出信号レベルが低下して、安定した計測を行なうことができなくなる。
【0009】
上記(1)〜(3)の課題に鑑みて、本発明の第2の目的は、シート搬送の高速化と速度センサの計測精度を高レベルで両立させ、且つ長期間に渡る稼動でも高いプリント品質を維持することができる手法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある形態は、シートの第1面と第2面にプリント部で両面プリントを行なうことが可能なプリント装置の制御方法であって、駆動力が与えられたローラによってシートを搬送させ、回転する前記ローラの回転位相を示す情報を取得し、前記第1面および前記第2面へのプリントのときには、前記ローラの回転に伴って取得される前記回転位相を示す情報に対応する補正データを用いて、前記プリント手段の制御と前記ローラの駆動制御の少なくとも一方を補正するものであり、前記第1面へのプリントのときの補正に用いる前記補正データと、前記第2面へのプリントのときの補正に用いる前記補正データは異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プリント品質とプリントスループットを高い次元で両立したプリント装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】プリント装置の内部構成を示す概略図
【図2】制御部のブロック図
【図3】片面プリントモード、両面プリントモードでの動作を説明するための図
【図4】プリント部の詳細な構成図
【図5】搬送に伴うシート搬送誤差の変化を示すグラフ図
【図6】片面プリントモードにおける動作シーケンスを示すフローチャート
【図7】両面プリントモードにおける動作シーケンスを示すフローチャート
【図8】従来例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、インクジェット方式を用いたプリント装置の実施形態を説明する。本例のプリント装置は、長尺で連続したシート(搬送方向において繰り返しのプリント単位(1ページあるいは単位画像という)の長さよりも長い連続したシート)を使用し、片面プリントおよび両面プリントの両方に対応した高速ラインプリンタである。例えば、プリントラボ等における大量の枚数のプリントの分野に適している。なお、本明細書では、1つのプリント単位(1ページ)の領域内に複数の小さな画像や文字や空白が混在していたとしても、当該領域内に含まれるものをまとめて1つの単位画像という。つまり、単位画像とは、連続したシートに複数のページを順次プリントする場合の1つのプリント単位(1ページ)を意味する。プリントする画像サイズに応じて単位画像の長さは異なる。例えばL版サイズの写真ではシート搬送方向の長さは135mm、A4サイズではシート搬送方向の長さは297mmとなる。
【0014】
本発明はプリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置、各種デバイスの製造装置などプリント装置に広く適用可能である。プリント処理はインクジェット方式、電子写真方式、熱転写方式、ドットインパクト方式、液体現像方式など方式は問わない。また、本発明はプリント処理に限らず連続したシートに種々の処理(記録、加工、塗布、照射、読取、検査など)を行なうシート処理装置にも適用可能である。この場合はプリントヘッドに替えてプリント以外の処理を行なう処理ヘッドを用いる。
【0015】
図1はプリント装置の内部構成を示す断面の概略図である。本実施形態のプリント装置は、ロール状に巻かれたシートを用いて、シートの第1面と第1面の背面側の第2面に両面プリントすることが可能となっている。プリント装置内部には、大きくは、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、プリント部4、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12、制御部13の各ユニットを備える。シートは、図中の実線で示したシート搬送経路に沿ってローラ対やベルトからなる搬送機構で搬送され、各ユニットで処理がなされる。なお、シート搬送経路の任意の位置において、シート供給部1に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0016】
シート供給部1は、ロール状に巻かれた連続シートを保持して供給するためのユニットである。シート供給部1は、2つのロールR1、R2を収納することが可能であり、択一的にシートを引き出して供給する構成となっている。なお、収納可能なロールは2つであることに限定はされず、1つ、あるいは3つ以上を収納するものであってもよい。また、連続したシートであれば、ロール状に巻かれたものに限らない。例えば、単位長さごとのミシン目が付与された連続したシートがミシン目ごとに折り返されて積層され、シート供給部1に収納されるものでもよい。
【0017】
デカール部2は、シート供給部1から供給されたシートのカール(反り)を軽減させるユニットである。デカール部2では、1つの駆動ローラに対して2つのピンチローラを用いて、カールの逆向きの反りを与えるようにシートを湾曲させて通過させることでデカール力を作用させてカールを軽減させる。
【0018】
斜行矯正部3は、デカール部2を通過したシートの斜行(本来の進行方向に対する傾き)を矯正するユニットである。基準となる側のシート端部をガイド部材に押し付けることにより、シートの斜行が矯正される。
【0019】
プリント部4は、搬送されるシートに対して上方からプリントヘッド14によりシート上にプリント処理を行なって画像を形成するユニットである。つまり、プリント部4はシートに所定の処理を行なう処理部である。プリント部4は、シートを搬送する複数の搬送ローラも備えている。プリントヘッド14は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型プリントヘッドを有する。プリントヘッド14は、複数のプリントヘッドが搬送方向に沿って平行に並べられている。本例ではC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、LC(ライトシアン)、LM(ライトマゼンタ)、G(グレー)、K(ブラック)の7色に対応した7つのプリントヘッドを有する。なお、色数およびプリントヘッドの数は7つには限定はされない。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。各色のインクは、インクタンクからそれぞれインクチューブを介してプリントヘッド14に供給される。
【0020】
プリント部4において、プリントヘッド14の上流には、所定の計測位置でシート面を直接計測することでシートの移動状態(移動速度や移動距離)に関する情報を取得するダイレクトセンサ20が設けられている。また、上記計測位置の裏側からプリントヘッド14によってシートに形成されたマークを読み取るマーク読取器122が設けられている。ダイレクトセンサ20およびマーク読取器122の詳細については後述する。
【0021】
検査部5は、プリント部4でシートにプリントされた検査パターンや画像をスキャナによって光学的に読み取って、プリントヘッドのノズルの状態、シート搬送状態、画像位置等を検査して画像が正しくプリントされたかを判定するためのユニットである。スキャナはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサを有する。
【0022】
カッタ部6は、プリント後のシートを所定長さに切断する機械的なカッタを備えたユニットである。カッタ部6は、シートを次工程に送り出すための複数の搬送ローラも備えている。
【0023】
情報記録部7は、切断されたシートの非プリント領域にプリントのシリアル番号や日付などのプリント情報(固有の情報)を記録するユニットである。記録はインクジェット方式、熱転写方式などで文字やコードをプリントすることで行なわれる。情報記録部7の上流側且つカッタ部6の下流側には、切断されたシートの先端エッジを検知するセンサ23が設けられている。つまり、センサ23はカッタ部6と情報記録部7による記録位置との間でシートの端部を検知する、センサ23の検知タイミングに基づいて情報記録部7で情報記録するタイミングが制御される。
【0024】
乾燥部8は、プリント部4でプリントされたシートを加熱して、付与されたインクを短時間に乾燥させるためのユニットである。乾燥部8の内部では通過するシートに対して少なくとも下面側から熱風を付与してインク付与面を乾燥させる。なお、乾燥方式は熱風を付与する方式に限らず、電磁波(紫外線や赤外線など)をシート表面に照射する方式であってもよい。
【0025】
以上のシート供給部1から乾燥部8までのシート搬送経路を第1経路と称する。第1経路はプリント部4から乾燥部8までの間にUターンする形状を有し、カッタ部6はUターンの形状の途中に位置している。
【0026】
反転部9は両面プリントを行う際に表(おもて)面プリントが終了した連続シートを一時的に巻き取って表裏反転させるためのユニットである。反転部9は、乾燥部8を通過したシートを再びプリント部4に供給するための、乾燥部8からデカール部2を経てプリント部4に到る経路(ループパス)(第2経路と称する)の途中に設けられている。反転部9はシートを巻き取るための回転する巻取回転体(ドラム)を備えている。表面のプリントが済んで切断されていない連続シートは巻取回転体に一時的に巻き取られる。巻き取りが終わったら、巻取回転体が逆回転して巻き取り済みシートはデカール部2に供給され、プリント部4に送られる。このシートは表裏反転しているのでプリント部4で裏面にプリントを行うことができる。両面プリントのより具体的な動作については後述する。
【0027】
排出搬送部10は、カッタ部6で切断され乾燥部8で乾燥させられたシートを搬送して、ソータ部11までシートを受け渡すためのユニットである。排出搬送部10は、反転部9が設けられた第2経路とは異なる経路(第3経路と称する)に設けられている。第1経路を搬送されてきたシートを第2経路と第3経路のいずれか一方に選択的に導くために、経路の分岐位置には可動フラッパを有する経路切替機構が設けられている。
【0028】
ソータ部11と排出部12は、シート供給部1の側部で且つ第3経路の末端に設けられている。ソータ部11は必要に応じてプリント済みシートをグループ毎に仕分けるためのユニットである。仕分けられたシートは、複数のトレイからなる排出部12に排出される。このように、第3経路はシート供給部1の下方を通過して、シート供給部1を挟んでプリント部4や乾燥部8とは逆側にシートを排出するレイアウトとなっている。
【0029】
制御部13は、プリント装置全体の各部の制御を司るユニットである。制御部13は、CPU、記憶装置、各種制御部を備えた制御部(制御部)、外部インターフェース、およびユーザが入出力を行なう操作部15を有する。プリント装置の動作は、制御部または制御部に外部インターフェースを介して接続されるホストコンピュータ等のホスト装置16からの指令に基づいて制御される。
【0030】
図2は制御部13の概念を示すブロック図である。制御部13に含まれる制御部(破線で囲まれる範囲)は、CPU201、ROM202、RAM203、HDD204、画像処理部207、エンジン制御部208、個別ユニット制御部209から構成される。CPU201(中央演算処理部)はプリント装置の各ユニットの動作を統合的に制御する。ROM202はCPU201が実行するためのプログラムやプリント装置の各種動作に必要な固定データを格納する。RAM203はCPU201のワークエリアとして用いられたり、種々の受信データの一時格納領域として用いられたり、各種設定データを記憶させたりする。HDD204(ハードディスク)はCPU201が実行するためのプログラム、プリントデータ、プリント装置の各種動作に必要な設定情報を記憶読出することが可能である。操作部15はユーザとの入出力インターフェースであり、ハードキーやタッチパネルの入力部、および情報を提示するディスプレイや音声発生器などの出力部を含む。例えば、タッチパネル付きのディスプレイが用いられ、装置の動作ステータス、プリント状況、メンテナンス情報(インク残量、シート残量、メンテナンスステータスなど)等がユーザに対して表示される。ユーザはタッチパネルから各種の情報入力を行なうことができる。
【0031】
高速なデータ処理が要求されるユニットについては専用の処理部が設けられている。画像処理部207は、プリント装置で扱うプリントデータの画像処理を行う。入力された画像データの色空間(たとえばYCbCr)を、標準的なRGB色空間(たとえばsRGB)に変換する。また、画像データに対し解像度変換、画像解析、画像補正等、様々な画像処理が必要に応じて施される。これらの画像処理によって得られたプリントデータは、RAM203またはHDD204に格納される。エンジン制御部208は、CPU201等から受信した制御コマンドに基づいてプリントデータに応じてプリント部4のプリントヘッド14の駆動制御を行なう。エンジン制御部208は更にプリント装置内の各部の搬送機構の制御も行なう。エンジン制御部208は後述する補正データを記憶する不揮発性のメモリを備える。個別ユニット制御部209は、シート供給部1、デカール部2、斜行矯正部3、検査部5、カッタ部6、情報記録部7、乾燥部8、反転部9、排出搬送部10、ソータ部11、排出部12の各ユニットを個別に制御するためのサブ制御部である。制御部13には、後述するロータリエンコーダ19、ダイレクトセンサ20、その他のセンサの検出信号が入力される。CPU201による指令に基づいて個別ユニット制御部209によりそれぞれのユニットの動作が制御される。外部インターフェース205は、制御部をホスト装置16に接続するためのインターフェース(I/F)であり、ローカルI/FまたはネットワークI/Fである。以上の構成要素はシステムバス210によって接続されている。
【0032】
ホスト装置16は、プリント装置にプリントを行わせるための画像データの供給源となる装置である。ホスト装置16は、汎用または専用のコンピュータであってもよいし、画像リーダ部を有する画像キャプチャ、デジタルカメラ、フォトストレージ等の専用の画像機器であってもよい。ホスト装置16がコンピュータの場合は、コンピュータに含まれる記憶装置にOS、画像データを生成するアプリケーションソフトウェア、プリント装置用のプリンタドライバがインストールされる。なお、以上の処理の全てをソフトウェアで実現することは必須ではなく、一部または全部をハードウェアによって実現するようにしてもよい。
【0033】
次に、プリント時の基本動作について説明する。プリントは、片面プリントモードと両面プリントモードとでは動作が異なるので、それぞれについて説明する。
【0034】
図3(a)は片面プリントモードでの動作を説明するための図である。シート供給部1から供給され、デカール部2、斜行矯正部3でそれぞれ処理されたシートは、プリント部4において表面(第1面)のプリントがなされる。長尺の連続シートに対して、搬送方向における所定の単位長さの画像(単位画像)を順次プリントして複数の画像を並べて形成していく。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において単位画像ごとに切断される。切断されたカットシートは、必要に応じて情報記録部7でシートの裏面にプリント情報が記録される。そして、カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され乾燥が行なわれる。その後、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。一方、最後の単位画像の切断でプリント部4の側に残されたシートはシート供給部1に送り戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。このように、片面プリントにおいては、シートは第1経路と第3経路を通過して処理され、第2経路は通過しない。
【0035】
図3(b)は両面プリントモードでの動作を説明するための図である。両面プリントでは、表(おもて)面(第1面)プリントシーケンスに次いで裏面(第2面)プリントシーケンスを実行する。最初の表面プリントシーケンスでは、シート供給部1から検査部5までの各ユニットでの動作は上述の片面プリントの動作と同じである。カッタ部6では切断動作は行わずに、連続シートのまま乾燥部8に搬送される。乾燥部8での表面のインク乾燥の後、排出搬送部10の側の経路(第3経路)ではなく、反転部9の側の経路(第2経路)にシートが導びかれる。第2経路においてシートは、順方向(図面では反時計回り方向)に回転する反転部9の巻取回転体に巻き取られていく。プリント部4において、予定された表面のプリントが全て終了すると、カッタ部6にて連続シートのプリント領域の後端が切断される。切断位置を基準に、搬送方向下流側(プリントされた側)の連続シートは乾燥部8を経て反転部9でシート後端(切断位置)まで全て巻き取られる。一方、この巻取りと同時に、切断位置よりも搬送方向上流側(プリント部4の側)に残された連続シートは、シート先端(切断位置)がデカール部2に残らないように、シート供給部1に巻き戻されて、シートがロールR1またはR2に巻き取られる。この巻き戻しによって、以下の裏面プリントシーケンスで再び供給されるシートとの衝突が避けられる。
【0036】
上述の表面プリントシーケンスの後に、裏面プリントシーケンスに切り替わる。反転部9の巻取回転体が巻き取り時とは逆方向(図面では時計回り方向)に回転する。巻き取られたシートの端部(巻き取り時のシート後端は、送り出し時にはシート先端になる)は、図の破線の経路に沿ってデカール部2に送り込まれる。デカール部2では巻取回転体で付与されたカールの矯正がなされる。つまり、デカール部2は第1経路においてシート供給部1とプリント部4の間、ならびに第2経路において反転部9とプリント部4の間に設けられて、いずれの経路においてもデカールの働きをする共通のユニットとなっている。シートの表裏が反転したシートは、斜行矯正部3を経て、プリント部4に送られて、シートの裏面にプリントが行なわれる。プリントされたシートは検査部5を経て、カッタ部6において予め設定されている所定の単位長さ毎に切断される。カットシートは両面にプリントされているので、情報記録部7での記録はなされない。カットシートは1枚ずつ乾燥部8に搬送され、排出搬送部10を経由して、ソータ部11の排出部12に順次排出され積載されていく。このように、両面プリントにおいてはシートは第1経路、第2経路、第1経路、第3経路の順に通過して処理される。
【0037】
次に、上述の構成のプリンタにおけるプリント部4についてさらに詳しく説明する。図4はプリント部4の構成図である。プリント部4において、シートSは第1ローラ対、第2ローラ対、第3ローラ対の3種類のローラ対で図中の矢印A方向に搬送される。第1ローラ対は、駆動力を持つ搬送ローラ101と従動回転するピンチローラ102からなるローラ対である。第2ローラ対は、駆動力を持つ複数の搬送ローラ103a〜103gと、従動回転する複数のピンチローラ104a〜104gからなる各ローラ対(7組)を指す。第3ローラ対は、駆動力を持つ搬送ローラ105と従動回転するピンチローラ106からなるローラ対である。搬送ローラ101には、ローラの回転状態を検出するためのロータリエンコーダ19(第1取得部)が設けられている。
【0038】
第1搬送ローラ対の下流のプリント領域110には、各色に対応した7つのライン型プリントヘッド14a〜14gがシート搬送方向に沿って並べられている。ライン型プリントヘッド14a〜14gとピンチローラ104a〜104gは1つずつ交互に配置されている。プリントヘッド14a〜14gのそれぞれに対向した位置には、プラテン112a〜112gが設けられ、シートSを支持するようになっている。プリントヘッド14a〜14gの対向位置それぞれにおいて、シートSは上流下流の両側がローラ対でニップされ且つプラテンで支持されるのでシート搬送の挙動が安定する。特に最初にシートが導入される際には、シート先端が短い周期で複数のニップ位置を通過していくので、シート先端の浮きが抑制され安定したシート導入がなされる。
【0039】
ダイレクトセンサ20(第2取得部)はシート面を直接計測することでシートの移動状態(移動速度または移動距離)に関する情報をシートからダイレクトに取得する非接触型光学センサである。第1ローラ対のニップ位置と第3ローラ対のニップ位置の間が計測位置111となっている。ダイレクトセンサ20は計測位置111でシート面(プリント面の裏面側)を計測することでシートの移動状態に関する情報を取得する。ダイレクトセンサ20はシートSの裏面側に配置されているので、プリント中にプリントヘッド14から発生するインクミストがシートSで遮られ、センサへのインクミスト付着による検出性能の劣化が抑止される。なお、ダイレクトセンサ20はシートも表面側に配置するようにしてもよい。また、本実施形態では、ダイレクトセンサ20はシート幅方向に沿って2つ設けられている。ダイレクトセンサ20をシート幅方向に2つ設けたことで、搬送されるシートSの搬送速度が2箇所の計測位置で異なる(スキューの動きがある)場合でも、シートの挙動を正確に計測することができる。更に、一方のダイレクトセンサ20が計測不能になったとしても、もう一方のセンサでバックアップすることができるので信頼性が向上する。なお、ダイレクトセンサ20の個数は3つ以上にしてもよいし、1つだけにしてもよい。
【0040】
本例では、ダイレクトセンサ20はレーザドップラ式センサである。レーザドップラ式センサは移動面にレーザを照射してドップラシフトを捉えて移動速度や移動距離を計測する速度センサである。レーザドップラ式センサのより詳細な構成の計測原理については、上述の特許文献1(特開2009−6655号公報)やその他文献でも広く知られているのでここでは説明を省略する。
【0041】
ダイレクトセンサ20は、レーザドップラ式センサ以外の非接触型光学センサを用いることも可能である。例えば、イメージセンサ(CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサ)を用いたタイプのダイレクトセンサがある。このタイプのダイレクトセンサは、固定されたイメージセンサで移動するシート面を時系列に異なるタイミングで撮像して複数の画像データを取得する。そして、パターンマッチング等の手法により画像データ同士を比較処理することでシートの移動状態(移動距離、移動速度)を取得する。ダイレクトセンサ20の更に別の形態として、センサ表面がシートSの表面に物理的に接触する接触型ダイレクトセンサであってもよい。
【0042】
シート供給部1から供給されたシートSは、第3ローラ対、第1ローラ対、第2ローラ対の順にそれぞれ所定のニップ位置でニップされて搬送される。第1ローラ対から第3ローラ対までの搬送経路は直線である。なお、ここでいう直線とは厳密な直線に限定されずほぼ直線である形態も含まれる。
【0043】
各ローラ対がシートを搬送する搬送力については、次の式1の関係を満たすよう設定されている。
第1ローラ対>第2ローラ対>第3ローラ対 (式1)
【0044】
ローラ対の搬送力はピンチローラのニップ力により決定される。これはニップ力が大きいほどシートとローラ表面の間のスリップが生じ難くなるためである。ニップ力はピンチローラを搬送ローラに対して押圧するバネのバネ圧により決定される。本例では、第1ローラ対のピンチローラ102のバネ圧20kgf、第2ローラ対のピンチローラ104a〜104gの7本トータルのバネ圧4kgf、第3ローラ対のピンチローラ106のバネ圧1kgfとする。このような関係にすることにより、シート搬送精度に関して、第1ローラ対の支配力が最も大きくなるので、各ローラの中で第1ローラ対の搬送制御の精度向上に注力すれば全体としてのシート搬送精度が向上する。
【0045】
各ローラ対の搬送速度(搬送ローラの周速度)については、次の式2の関係を満たすよう設定されている。
第2ローラ対>第1ローラ対>第3ローラ対 (式2)
【0046】
第3ローラ対の搬送ローラ105には、同軸上にトルクリミッタが設けられている。トルクリミッタは所定の設定値以上の回転トルクがかかると滑りが生じて力の伝達を制限するものである。搬送ローラ105は搬送ローラ101よりも搬送速度が僅かに小さいので、搬送時には搬送ローラ105のトルクリミッタが作動して、搬送ローラ105が僅かに減速する。そのため、搬送ローラ105に若干の偏心やローラ形状の不均一があっても、全体としてのシート搬送精度にはほとんど影響を与えない。
【0047】
以上のような搬送力(式1)と搬送速度(式2)の関係により、メインの搬送手段である第1ローラ対のニップ位置(搬送ローラ101とシートSの間)ではほとんどスリップが生じない。第2ローラ対の各ニップ位置(搬送ローラ103a〜103gとシートSの間)では速度差によるスリップを生じる。第3ローラ対のニップ位置(搬送ローラ105とシートSの間)では速度差によるスリップを生じ、且つ、搬送ローラ105はトルクリミッタが作動する。以上の関係を満たすことで、第1ローラ対が全体としての搬送速度を決定づける。また、シートSはいずれのローラ対の間においても弱いテンションが付与され、局所的なシートの浮きが生じることが抑止される。そのため、プリント領域110においては各プリントヘッド14とシートSの距離が一定に保たれて高いプリント精度が維持される。また、ダイレクトセンサ20の計測位置111でも、ダイレクトセンサ20とシートSの距離が一定に保たれて高い計測精度が維持される。
【0048】
制御部13の制御部は、ダイレクトセンサ20で計測して取得されたシート搬送状態に関する情報に基づいて、各プリントヘッド14a〜14gそれぞれのノズルのインク吐出タイミング(駆動制御タイミング)を制御する。インク吐出タイミングは、基本的には搬送ローラ101に設けられたロータリエンコーダ19の計測値(検出パルスのカウント)に基づいて制御される。しかし、搬送ローラ101が僅かな偏芯を持っている場合や、搬送ローラ101とシートSの間で僅かなスリップが生じた場合には、ロータリエンコーダ19の計測値とシートSの搬送速度(または搬送距離)の間に誤差が生じる。ダイレクトセンサ20は、シート面の移動状態をダイレクトに計測するため、ロータリエンコーダ19よりもより高精度にシートSの搬送速度(または搬送距離)の情報を取得することができる。ダイレクトセンサ20の計測値とロータリエンコーダ19の計測値誤差の差分を求めることで、誤差の情報を得る。ただし、プリント中にリアルタイムにダイレクトセンサの計測を行うのでは、複雑な信号処理に要する検出遅延が律速となって、プリント速度(シートの移動速度)の高速化が困難になる場合がある。そこで、本実施形態では、補正データを予め取得してエンジン制御部208のメモリに記憶しておき、プリント時にはメモリの値を読み出して補正制御を行なう。すなわち、メモリに記憶されている誤差の情報を読み出して、プリントヘッド14a〜14gでのインク吐出タイミング(個々のノズルに与える駆動パルス信号のタイミング)を制御する。搬送ローラ101による僅かな搬送誤差を、プリントヘッドによるプリント形成のタイミングの側で補正して、プリントの高品質化と高速化を両立することができる。
【0049】
なお、プリント形成のタイミング補正と共に、もしくはプリント形成のタイミング補正は行なわずに、ダイレクトセンサ20での計測の結果を、シート搬送制御にフィードバックして搬送誤差を補正制御するようにしてもよい。シート搬補正制御は、搬送誤差を補正すべく、少なくとも第1ローラ対の搬送ローラ101の搬送速度を変化させるように補正する。好ましくは第2ローラ対および第3ローラ対の搬送速度も変化させる。つまり、制御部は、ダイレクトセンサ20で取得した情報に基づいて、プリントヘッドの駆動制御とローラの駆動制御の少なくとも一方を補正するような補正データを予めメモリに記憶して補正制御するものである。本発明はいずれの形態も包含するものであるが、高速化を追求するのであれば、プリントヘッドの記録タイミングを補正する形態のほうが好ましい。補正データを搬送ローラ101の回転速度制御にフィードバックした場合には、搬送ローラの駆動源のモータの回転速度制御に指令値を与えてから、駆動モータが目標の回転速度にまで変化するのに僅かなタイムラグを生じる。これに対して、プリントヘッドの記録タイミングにフィードバックすれば、搬送速度制御に較べてタイムラグはほとんど無いため、より高速な補正制御が可能となる。
【0050】
図5は、ロータリエンコーダ19とダイレクトセンサ20のそれぞれの検出出力の関係に基づく、シート搬送に伴う搬送誤差の変化を示すグラフである。横軸は搬送距離、縦軸はシート搬送誤差(設計上の値に対する搬送量の誤差)である。横軸の座標0位置がエンコーダの原点位置であり、ロータリエンコーダ19のパルス数が横軸の単位となる。搬送中にロータリエンコーダ19が連続して出力するパルス間隔は、設計上の所定の単位移動距離に対応する。原点とそこからのパルス数カウント値(=回転量)の2つの情報により回転位相が得られる。
【0051】
計測の際には、搬送中に、ロータリエンコーダ19が1パルスカウントアップするごとに、前のパルスの発生タイミングとの間の時間内に、シートが現実にどれだけ移動したかの移動量をダイレクトセンサ20で検出する。図5のグラフの実線は、このダイレクトセンサ20の検出値と設計上の所定の単位移動距離との差分(シート搬送誤差)をプロットして得たものである。同図から分かるように、搬送距離に応じてシート搬送誤差は等周期で増減して変動し、搬送ムラが起きている。これは、搬送ローラ101の回転軸が本来の中心位置から偏心しているために生じる現象である。つまり、搬送ローラを等角速度で回転させても、偏心があると搬送ローラがシートに接する部位の周速度(=シート搬送速度)は周期的に変動して、これが搬送ムラを引き起こすのである。また、図5のグラフでは、ダイレクトセンサの出力の曲線(実線)は全体的に搬送誤差がマイナス方向にシフトしている。これは搬送ローラ101とシートとの間に僅かなスリップが生じて、実際の搬送距離が本来の搬送距離よりも小さくなってしまったからである。なお、図5は、搬送ローラ101の外周が真円の場合の例であるが、搬送ローラ101が製造誤差などの理由で真円でない場合には、周期的な増減に更に非真円による局所的な誤差が上乗せされた複雑なグラフ曲線となる。
【0052】
図5の特性を考慮して、少なくとも搬送ローラ101回転の間の各プロット値(搬送誤差)を、原点0からのエンコーダパルスのカウント値(回転位相)と1対1で対応付けて、データテーブルの形で補正データとしてエンジン制御部208のメモリに記憶させる。
【0053】
別法として、設計値に対する搬送量の誤差ではなく、ダイレクトセンサ20の出力値そのものを、原点0からのエンコーダパルスのカウント値と1対1で対応付けて、データテーブルの形で補正データとしてメモリに記憶させるようにしてもよい。あるいは、シート搬送誤差を吐出タイミングのずらし時間(必要補正量)に換算して、データテーブルの形で補正データとしてメモリに記憶させるようにしてもよい。いずれにせよ制御部は、第1取得部で取得した情報(回転位相)と、第2取得部で取得した情報(シート搬送誤差、ダイレクトセンサの出力値、又は吐出タイミングのずらし時間)とを対応付けて補正データとしてメモリに記憶させるように制御する。この補正データのデータテーブルを参照することで、回転位相に応じた適切な補正値を取得することが出来る。
【0054】
なお、搬送ローラ101の駆動源にパルスモータを用いた場合は駆動パルスのパルス数が搬送距離に対応する。第1取得部は、搬送ローラ101の回転状態をロータリエンコーダ19で検出するものだが、パルスモータの駆動パルスから搬送ローラ101の回転情報を取得するようにしてもよい。
【0055】
<片面プリントモード>
次に、図6のフローチャートを用いて片面プリントモード時の動作シーケンスについて説明する。ステップS100でシーケンスを開始する。ステップ101では、シート供給部1において使用するロール(ロール1またはロールR2)をユーザが選択する。シートの種類、厚みあるいはサイズによってシートと搬送ローラ101との間の摩擦係数が異なるので、使用するシートによって最適な補正データは変わり得る。
【0056】
ステップS102では、使用するロールに対応した初期の補正データをエンジン制御部208のメモリに設定する。初期の補正データは、前回の片面プリントの後にロールの交換やロールの切り替えがなければ、前回設定された補正データがそのまま設定される。補正データを記憶するメモリは書換え可能な不揮発性メモリであり、プリント装置の電源がオフでもメモリの記憶内容が保持される。そのため、前回のプリントの後に電源オフにしても前回の補正データは消去されずに残っている。もし、前回の片面プリント後にロールの交換やロールの切り替え、あるいは両面プリントがなされた場合には、プリントに先立って実際にシートを搬送させながら、補正データを再取得して初期の補正データを設定する。この場合、搬送ローラ101の少なくとも一回転分の区間でダイレクトセンサ20及びロータリエンコーダ19の計測を行なって、補正データとしてエンジン制御部208のメモリに記憶させる。たとえ未知のシートであっても、そのシートに対する計測を行なうことで最適な補正データを設定することができる。
【0057】
ステップS103では、シート供給部1から選択されたシートを供給する。ステップS104ではプリント動作を開始する。ステップS105では、メモリに記憶されている補正データを用いて、シートの第1面に複数の画像を順次プリントする。メモリに記憶されている補正データを用いて、各ラインヘッドのインク吐出タイミング(駆動タイミング)に補正を加える。原点からのロータリエンコーダ19の出力パルス数を元に、このパルス数に対応付けて記憶された補正データをメモリから読み出す。読み出した補正データに基づいて、各ラインヘッドのインク吐出タイミングを本来のタイミングからずらして、シート上のインク着弾位置が理想的な位置に近づくようにする。図5の例では、搬送距離Aの位置においては誤差が−20μmであり、例えば搬送速度vが100mm/sの場合は、0.02/100=0.0002[秒]だけインク吐出タイミングを遅らせるように制御すれば良い。これにより、第2ジョブ以降のプリントについては、搬送ローラ101の偏心や形状精度に拠らず非常に高い精度での画像形成が可能となる。このように、制御部は、プリントの際には第1取得部で取得した情報(回転位相)に対応してメモリに記憶されている補正データに基づいて、プリントヘッドの記録タイミングを補正してプリントを行なうように制御する。
【0058】
ステップS106では、プリントの動作中に所定のタイミングで新しい補正データを再取得する。所定のタイミングについては後述する。少なくとも搬送ローラ101の一回転分の区間でダイレクトセンサ20及びロータリエンコーダ19の計測を行なう。ロータリエンコーダ19とダイレクトセンサ20のそれぞれの計測結果を比較する。ロータリエンコーダ19で取得された搬送ローラ101の回転位相と、ダイレクトセンサ20で取得した移動情報とを対応付けて補正データとしてメモリに一時記憶させる。
【0059】
プリント装置の使用経過に伴って搬送ローラの磨耗や取付精度の変化が生じて最適な補正データが変化する場合がある。それを考慮して、ステップS106では、所定のタイミングで補正データを再取得してメモリの内容を更新する。所定のタイミングとは、複数の画像を順次プリントする際の、所定枚数に1回のタイミングである。1つの単位画像ごとに最適な補正データが変更する可能性は小さいので、例えば、数十枚〜数百枚の画像を連続プリントするごとに一度、補正データを再取得する。なお、メモリの内容の更新する際には、前のデータの上に新しいデータを上書きする方法、前のデータは残して別の記憶エリアに新しいデータを書き込んで参照アドレスを変更する方法、いずれの形態であってもよい。
【0060】
ステップS107では、ステップS106で再取得した補正データと既存の補正データとの差分を求める。ローラ1周分の補正データ同士を比較して各回転位相における差分値を求め、最大となる差分値をここでの差分とする。求めた差分が予め決められた所定の第1閾値よりも大きいか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS20に移行し、判断がNoの場合はステップS110に移行する。
【0061】
ステップS20では、上記差分が、第1閾値よりもさらに大きな所定の第2閾値よりも大きいか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS112に移行し、判断がNoの場合はステップS109に移行する。
【0062】
ステップS109では、メモリの内容を再取得で取得した新しい補正データに更新する。ステップS110では、プリントした単位画像ごとにカッタ部6でシートを切断して、切断したカットシートを排出部12に排出する。ステップS111では、第1面にプリントすべき複数の画像すべてのプリントが済んだか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS115に移行し、判断がNoの場合はステップS105に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0063】
ステップS20の判断でステップS112に移行した場合は、ステップS112で片面プリントを中断する。続くステップS113では、上記差分が、第2閾値よりもさらに大きな所定の第3閾値よりも大きいか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS114に移行し、判断がNoの場合はステップS115に移行する。
【0064】
ステップS114では、シート搬送にジャムが発生したと判断し、操作部15にジャムが発生してユーザメンテナンスが必要である旨を表示する。ジャムが発生すると、搬送ローラ101は回転してもシートがスリップして実際にはシートの搬送はなされないか、もしくは僅かな移動しかしない。そのため、ロータリエンコーダ19とダイレクトセンサ20のそれぞれで取得した値の差分が大きくなる。すなわち、再取得した補正データ(各回転位相における補正量)は大きな値を示し、既存の補正データとの差分も大きな値となる。第3閾値はその差分の値を判断するものである。差分値が第2閾値よりも大きいな第3閾値を越えなければ、ジャムの発生はないものの、何らか原因で搬送精度が劣化して、高精度なプリントが保証できない状態である。そのためステップS112でプリント動作を中断する。
【0065】
ステップS115では、最後にプリントした画像の後ろ(上流)の位置で連続シートを切断する。ステップS116では切断位置の上流側に残された未使用のシートをシート供給部1に送り戻す(バックフィード)。
【0066】
ステップS117では、シートをバックフィードしながら新しい補正データを再取得する。取得の方法については、ステップS106で説明したのと同様である。より確実な補正データ取得のため、バックフィードのシート搬送速度はプリント時のシート搬送速度よりも小さくする。バックフィードはプリントが終了した後の動作なので、速度低下させても全体のプリントスループットには影響を与えない。なお、バックフィードしながら補正データを再取得するではなく、バックフィードの期間中にすでに取得した最新の補正値でメモリ内容を更新するようにしてもよい。
【0067】
ステップS118では、ステップS117で再取得した補正データと既存の補正データとの差分を求める。求めた差分が所定の第1閾値よりも大きいか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS119に移行し、判断がNoの場合はステップS119をスキップしてシーケンスを終了する。差分が小さい場合は、誤差を拾っているだけの可能性もあって信頼性が低いので、ステップS119をスキップする。
【0068】
ステップS119では、メモリの内容を再取得で取得した新しい補正データに更新する。メモリは不揮発性なので装置の電源をオフにした場合にも内容は保持され、次回のプリント動作で使用される。そしてシーケンスを終了する。
【0069】
以上の片面プリントモードの動作シーケンスにおいて、補正データの取得時のシート搬送速度は通常よりも小さくなるように制御することが好ましい。搬送速度が小さければ、それだけダイレクトセンサ20の信号処理に時間的な余裕が生まれるため、信号処理系の処理能力が小さいものでも済む。プリントスループットをより向上させるには、図6の動作シーケンスにおいて、ステップS107〜ステップS109、およびステップS112〜ステップS114は省略してもよい。この場合、補正データの設定は、ステップS102での初期設定とステップS119での初期データの更新の2回となる。
【0070】
<両面プリントモード>
次に、両面プリントモードについて説明する。両面プリントでは、シートの第1面プリントと続く第2面プリントとでは、搬送ローラが接するシート面の摩擦係数が変化する。第1面プリントでは、全体の搬送精度に最も支配力を持つ搬送ローラ101はインクが付与されてないシートの第2面に接する。続く第2面プリントでは、シートが表裏反転してインクが付与されて摩擦係数が変化した第1面に搬送ローラ101が接する。シートの種類によっては、シートへのインクの付与の有無によらず、そもそも第1面と第2面との摩擦係数が異なる場合もある。また、第1面プリントと第2面プリントとではシートのカールの向きも異なり、カールの向きに応じて搬送ローラ101との接触面積が異なる。これらの理由により、第1面プリントと第2面プリントとでは、搬送ローラ101とシート面との間のスリップの度合いが変化して同じ駆動力を与えてもシート搬送状態が異なる。したがって、最適な補正データは第1面プリントと第2面プリントとでは異なる。この課題を解決するため、本実施形態では、第1面にプリントするときと第2面にプリントするときで補正に用いる補正データを異ならせるように制御するものである。
【0071】
図7は両面プリントモード時の動作シーケンスを示すフローチャートである。ステップS200でシーケンスを開始する。ステップS101では、シート供給部1において使用するロール(ロール1またはロールR2)をユーザが選択する。
【0072】
ステップS202では、使用するロールに対応し且つ第1面のプリントに適した初期の補正データをエンジン制御部208のメモリに設定する。初期の補正データは、前回のプリント後にロールの交換やロールの切り替えがなければ、前回設定された補正データをそのまま設定する。もし、前回の両面プリント後にロールの交換やロールの切り替え、あるいは片面プリントがなされた場合には、プリントに先立って実際にシートを搬送させながら、補正データを再取得して初期の補正データを設定する。
【0073】
ステップS203では、シート供給部1から選択されたシートを供給する。ステップS204では、両面プリントにおける第1面へのプリント動作を開始する。
【0074】
ステップS205では、メモリに記憶されている補正データを用いて、シートの第1面に複数の画像を順次プリントする。具体的な補正方法についてはステップ105で説明したのと同様である。ステップS206では所定のタイミングで新しい補正データを取得する。
【0075】
ステップS207では、補正データの更新の必要があるか(Yes)否か(No)を判断する。判断の手法については、ステップS107〜ステップS114で説明したのと同様である。判断がYesの場合はステップS208に移行して、ステップS208にて、補正データを更新する。判断がNoの場合はステップS208はスキップしてステップS209に移行する。
【0076】
ステップS208では、第1面にプリントすべき複数の画像すべてのプリントが済んだか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS210に移行し、判断がNoの場合はステップS205に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0077】
ステップS210では、第1面へのプリント動作を終了し、最後にプリントした画像の後ろ(上流)の位置で連続シートを切断する。ステップS211では、切断位置の下流側のシートを反転部9にすべて巻き取る。これと同時に、切断位置の上流側に残された未使用のシートをシート供給部1に送り戻す。
【0078】
ステップ212では、使用するロールに対応し且つ第2面のプリントに適した初期の補正データをメモリに再設定する。上述したように、第1面プリントと第2面プリントとでは補正に用いる補正データは異なる。初期の補正データは、前回の両面プリント後にロールの交換やロールの切り替えがなければ、前回第2面プリントで設定された補正データをそのまま設定する。もし、前回の両面プリント後にロールの交換やロールの切り替え、あるいは片面プリントがなされた場合には、第2面プリントに先立って実際にシートを搬送させながら、補正データを再取得して初期の補正データを設定する。
【0079】
ステップS213では、反転部9の巻取回転体が逆回転させて、一時的に巻き取られたシートを表裏反転した状態で再びプリント部4に向けて供給する。ステップS214では、両面プリントにおける第2面へのプリント動作を開始する。
【0080】
ステップS215では、メモリに記憶されている補正データを用いて、シートの第2面に複数の画像を順次プリントする。具体的な補正方法についてはステップ105で説明したのと同様である。ステップS215では所定のタイミングで新しい補正データを取得する。
【0081】
ステップS217では、補正データの更新の必要があるか(Yes)否か(No)を判断する。判断の手法についてはステップS207と同様である。判断がYesの場合はステップS218に移行して、ステップS218にて、メモリの補正データを更新する。判断がNoの場合はステップS218はスキップしてステップS219に移行する。
【0082】
ステップS219では、プリントした単位画像ごとにカッタ部6でシートを切断して、切断したカットシートを排出部12に排出する。ステップS220では、第1面にプリントすべき複数の画像すべてのプリントが済んだか(Yes)否か(No)を判断する。判断がYesの場合はステップS221に移行し、ステップS221では第2面のプリント動作を終了して、続く処理がなければシーケンスを終了する。判断がNoの場合はステップS215に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0083】
以上の両面プリントモードの動作シーケンスにおいて、補正データの取得時のシート搬送速度は、プリント時の搬送速度よりも小さくなるように制御することが好ましい。搬送速度が小さければ、それだけダイレクトセンサ20の信号処理に時間的な余裕が生まれるため、信号処理系の処理能力が小さいものでも済む。プリントスループットをより向上させるには、図7の動作シーケンスにおいて、第1面プリントにおけるステップS206〜ステップS208、および第2面プリントにおけるステップS216〜ステップS218は省略してもよい。この場合、補正データの設定は、第1面プリントにおけるステップS202での初期設定、および第2面プリントにおけるステップS212での初期設定の2回となる。
【0084】
本実施形態のプリント装置によれば、プリントの際に第1取得部で取得した回転情報に対応した補正データをメモリから読み出して、プリントヘッドの駆動制御とシートの搬送制御の少なくとも一方を補正する。そして、第1面にプリントするときと第2面にプリントするときで補正に用いる補正データを異ならせるように制御する。これにより、シート両面に正確に画像プリントを行なうことができ、且つ高いプリントスループットを実現した両面プリントが可能なプリント装置が実現する。
【0085】
また、連続シートに複数の画像のプリントが済んで未使用のシートをシート供給部に送り戻す際に、補正データを再取得して必要に応じてメモリの内容を更新する。適切なタイミングで適切な補正データを取得してメモリに記憶させるので、プリントスループットとプリント品質を高い次元で両立した両面プリントが可能となる。
【0086】
加えて、本実施形態のプリント装置は、プリントヘッドの上流側でシートをニップする第1ローラ対と、プリントヘッドの下流側でシートをニップする第2ローラ対と、第1ローラ対の上流側でシートをニップする第3ローラ対を備える。そして、第1ローラ対のニップ位置と第3ローラ対のニップ位置の間の計測位置でシート面を計測するダイレクトセンサを設けた配置関係としている。この構成により以下に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)第1ローラ対とプリントヘッドとの間の距離を小さくすることができる。そのため、シートを導入した際に第1ローラ対からプリントヘッドに到る間にシート先端部が浮き上がって、最上流のプリントヘッドのノズルとシート先端が接触する可能性を小さくすることができる。
(2)ダイレクトセンサとプリントヘッドの間の距離が大きいので、シートがダイレクトセンサの計測位置から最上流のプリントヘッドに至るまでに、ダイレクトセンサでの計算を済ませてインク吐出タイミングを制御するための十分な時間を稼ぐことができる。言い換えれば、シートの搬送速度をより大きくしてプリント速度を向上させることができる。(3)ダイレクトセンサとプリントヘッドの間の距離が大きく、且つ第1ローラ対が間に配置されているので、プリント直後にシートがインクを吸収する際に発生するコックリングが、計測位置にまで影響を及ぼすことを防止している。
(4)ダイレクトセンサとプリントヘッドの間の距離が大きく、且つ第1ローラ対およびシートが遮蔽物として間に配置されているので、プリントヘッドからインクを吐出した際に発生して飛散するインクミストがダイレクトセンサに付着することを軽減している。このため、長期間に渡る稼動でもダイレクトセンサは高い計測精度を維持することでき、高いプリント品質を維持することができる。
【符号の説明】
【0087】
4 プリント部
13 制御部
19 ロータリエンコーダ(第1取得部に対応)
20 ダイレクトセンサ(第2取得部に対応)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの第1面と第2面にプリント部で両面プリントを行なうことが可能なプリント装置の制御方法であって、
駆動力が与えられたローラによってシートを搬送させ、
回転する前記ローラの回転位相を示す情報を取得し、
前記第1面および前記第2面へのプリントのときには、前記ローラの回転に伴って取得される前記回転位相を示す情報に対応する補正データを用いて、前記プリント手段の制御と前記ローラの駆動制御の少なくとも一方を補正するものであり、
前記第1面へのプリントのときの補正に用いる前記補正データと、前記第2面へのプリントのときの補正に用いる前記補正データは異なることを特徴とするプリント装置の制御方法。
【請求項2】
前記補正データは、前記ローラの少なくとも1回転分について、シート面を計測するダイレクトセンサを用いて取得したシートの移動状態を示す情報をもとに得たものであることを特徴とする、請求項1に記載のプリント装置の制御方法。
【請求項3】
前記補正データは記憶手段に記憶されており、前記プリント装置の使用時に所定のタイミングで更新されることを特徴とする、請求項2に記載のプリント装置の制御方法。
【請求項4】
連続したシートがロール状に巻かれた第1ロールと第2ロールを保持して、選択的に供給してプリントを行うものであり、前記補正データは前記第1ロールと前記第2ロールにそれぞれ対応して用意されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のプリント装置の制御方法。
【請求項5】
前記回転位相は、前記ローラの回転状態を検出するロータリエンコーダの出力、もしくは前記ローラに駆動力を与えるモータを制御する信号をもとに取得されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のプリント装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−166566(P2012−166566A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125639(P2012−125639)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【分割の表示】特願2010−109544(P2010−109544)の分割
【原出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】