プレキャストコンクリート製の床版、及び、その設計方法
【課題】
床版を複数のPCa部材で構成するが、施工後においては、床版を剛性の一体の部材として考えることができる床版及びその設計方法を提供する。
【解決手段】
複数のプレキャストコンクリート部材2A,2Bで構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材2A,2B相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、複数のプレキャストコンクリート部材2A,2Bの配列方向と直交する方向における鉄筋51の鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とし、前記配列方向の鉄筋52の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とする。
床版を複数のPCa部材で構成するが、施工後においては、床版を剛性の一体の部材として考えることができる床版及びその設計方法を提供する。
【解決手段】
複数のプレキャストコンクリート部材2A,2Bで構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材2A,2B相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、複数のプレキャストコンクリート部材2A,2Bの配列方向と直交する方向における鉄筋51の鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とし、前記配列方向の鉄筋52の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート製の床版、及び、その設計方法、より詳しくは、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版、及び、その設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のプレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)を水平方向に配置して構成された床版において、隣接するPCa部材相互を接合する方法として、例えば、次のような方法が知られている。
【0003】
図20に示すように、接合する一方のPCa部材101の接合面に凹状のシアコッター102を形成するとともに、そのPCa部材101内の鉄筋103を前記シアコッター102内に突出し、接合する他方のPCa部材104に、前記シアコッター102、鉄筋103に対応するシアコッター105、鉄筋106を設け、前記両PCa部材101、104を図20に示すように配置し、前記両鉄筋103,106間を接合筋107を介して溶接接合し、前記両シアコッター102,105内にグラウトを充填し、両PCa部材101,104を接合するものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の床版においては、隣接するPCa部材101,104相互は、前記両鉄筋103,106間を接合筋107を介して溶接接合した後に、両シアコッター102,105内にグラウトを充填しているだけである。
【0005】
そのため、床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成し、その短手方向(Ly方向)を相互に前記の接合方法で連結した場合、図21に示すように、この中央のPCa部材1bは、その自重等を長手方向(Lx方向)の両端部のみで支える、すなわち、一方向単純支持となる。
【0006】
一方、床版を、1枚のPCa部材で構成した場合には、二方向4辺支持として検討することができるため、床板を一方向単純支持のものよりも薄くすること等ができるため、耐震性等において有利となるが、床面積が大きい場合には、PCa部材の製造や搬送等において問題が生じる。
【0007】
そこで本発明は、床版を複数のPCa部材で構成するが、施工後においては、床版を剛性の一体の部材として考えることができる床版及びその設計方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における配筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した配筋量以上とし、
前記配列方向の配筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した配筋量以上としたことを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のプレキャストコンクリート製の床版において、予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における配筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出し、
前記配列方向の配筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出することを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法である。
【0011】
請求項4記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
一方向支持のたわみ量の計算式の荷重にプレキャストコンクリート部材の自重を導入して得た値と、
二方向支持のたわみ量の計算式の荷重に仕上げ荷重と使用荷重を合算した値を導入して得た値と、を
合算した値を、床版のたわみ量として用いることを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法である。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のプレキャストコンクリート製の床版の設計方法において、予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合することにより、圧着接合後の床版全体を剛性の一体の部材として考えることができるが、PCa部材相互を圧着接合する前は、複数枚のPCa部材として考えて、PCa部材を設計することができる。
【0014】
そこで、複数のPCa部材の配列方向と直交する方向の鉄筋量は、圧着接合前の複数枚の各PCa部材として考えて設計し、複数のPCa部材の配列方向の鉄筋量は、圧着接合後の床版全体を剛性の一体の部材として設計することができる。
【0015】
また、隣接するPCa部材を相互に接合する前は、自重によりたわみが発生する。その後に、PCa部材相互を圧着接合し、この接合後は、床版全体を剛性の一体の部材としてたわみが発生すると考えることができるため、請求項4記載の方法でたわみ量を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を示す床版の概略平面図。
【図2】本発明のPCa部材相互の接合状態を示す部分拡大平面図。
【図3】図2の接合部とPC鋼棒の斜視図。
【図4】図2の接合部におけるPC鋼棒を配置しない前の平面図。
【図5】図4のI−I線断面図。
【図6】図5のJ−J線断面図。
【図7】図4の状態においてPC鋼棒を配置した平面図。
【図8】図7のK−K線断面図。
【図9】図8のL−L線断面図。
【図10】図7の状態において接着材を充填した平面図。
【図11】図10のM−M線断面図。
【図12】図10における他方のナット部を示す拡大平面図。
【図13】図12のN−N線断面図。
【図14】図11のP−P線断面図。
【図15】直径9.2mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図16】直径13mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図17】図2の部分拡大図で配筋を破線で示した図。
【図18】図17の横断面図。
【図19】本願の接合方法を用いた床版の変形量を示す図。
【図20】従来の接合方法を示す平面図。
【図21】従来の接合方法を用いた床版の変形量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のプレキャストコンクリート製の床版は、複数の平板状のプレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)で構成され、方形状のPCa部材を配列方向に複数枚配置して構成されたものである。以下において、図1に示すように、3枚の平板状のPCa部材1a,1b,1cを水平方向に配置して床版1を構成した例に基づいて説明する。
【0018】
なお、図2〜18において、隣接して相互に接合される一方のPCa部材を2Aとし、他方のPCa部材を2Bとする。
【0019】
接合する一方のPCa部材2Aには、他方のPCa部材2Bと接合する接合面3が形成され、接合する一方のPCa部材2Aには、その一方の面(上面)4のみに開口する有底状の座堀り5が形成されており、該座堀り5の接合側面(受圧面)7と接合側端面3とは所定量離間するように形成されている。
【0020】
該座堀り5と前記接合側端面3間には、該PCa部材2Aの主体部と同厚の受圧部6がPCa部材2Aの主体部と一体にコンクリートで設けられている。該受圧部6の前記座堀り5側面、すなわち、座堀り5における前記接合側端面3側は、PCa部材2Aの一方の面4と直交する面からなる受圧面7になっている。この受圧面7から接合側端面3までの距離すなわち、受圧部6の幅をL1とする。
【0021】
前記受圧部6には、前記接合側端面3及び前記受圧面7に対して直交する方向に、PC鋼棒配置用溝8が形成されている。該PC鋼棒配置用溝8は、その外側が前記一方の面4に開口し、底部がPCa部材2Aの壁厚の中央部より深い位置に達し、溝方向の両端が前記接合側端面3と座堀り5に開口する有底溝に形成されている。更に、該PC鋼棒配置用溝8の溝幅は、後述するPC鋼棒9の直径よりも大きく、受圧面7より小さく形成されており、後述する接着材充填前には、該溝8内に配置されるPC鋼棒9の周りに空間が生じるようになっている。更に、溝幅は、図6に示すように、底部から一方の壁面4方向に至るにつれて拡径している。
【0022】
前記の座堀り5、受圧部6、PC鋼棒配置用溝8により接合部10を構成している。該接合部10は、図1,2に示すように、PC壁版1において、接合側端面3の長手方向に沿って複数個、適宜間隔L4を有して設けられている。該接合部10の個数、大きさ、間隔は任意に設定する。
【0023】
なお、図1のPCa部材2Aにおける接合側端面3に対する他方のPCa部材2Aの接合側端面側にも、必要により前記と同様の接合部10が前記と同様に配置される。
【0024】
次に、前記一方のPCa部材2Aに対して接合される他方のPCa部材2Bについて説明する。
【0025】
この他方のPCa部材2Bにおける前記一方のPCa部材2Aの接合側端面3と接合される接合側端面3a側には、前記一方のPCa部材2Aの前記接合部10と同様の接合部10aが両PCa部材2Aと2Bの接合中心線X(図4参照)を中心として略対称に配置形成されている。
【0026】
この接合部10aを構成する座堀り5a、受圧部6a、受圧面7a、PC鋼棒配置用溝8aは、前記の一方のPCa部材2Aの座堀り5、受圧部6、受圧面7、PC鋼棒配置用溝8と同一構造であるため、その説明は省略する。
【0027】
また、前記他方のPCa部材2Bの接合部10aは、図1に示すように、前記一方のPCa部材2Aの接合部10と同数、同間隔で形成配置され、両PCa部材2A,2Bを接合配置した際に、両接合部10,10aの両PC鋼棒配置用溝8,8aが、夫々の軸芯が同一線上に位置するように配置されている。
【0028】
次に、前記両PCa部材2A,2Bの接合に用いるPC鋼棒9について説明する。
PC鋼棒9は、一般に使用される丸棒のPC鋼棒を使用するもので、例えば、JISG3109の丸鋼棒に規定されるA種1号、B種1号,2号、C種1号等、引張強度1030N/mm2以上、伸び5%以上のものを使用する。また、該PC鋼棒9は所望の直径のものを使用し、その両端部には、雄ねじ9a,9aが刻設され、このPC鋼棒9の全長は、図7〜9に示すように、両PCa部材2A,2Bを接合位置に配置した状態において、両PCa部材2A,2B間の目地20の幅L2と、一方のPCa部材2Aの受圧部6の幅L1と、他方のPCa部材2Bの受圧部6aの幅L1の総合計よりも長く形成され、該PC鋼棒9を図7〜9に示すように、両PCa部材2A,2Bに渡ってPC鋼棒配置用溝8,8a内に配置した際に、その両端部の雄ねじ9a,9a部が両座堀り5,5a内へ突出するようになっている。なお、該PC鋼棒の全長は、実施に際し、約400mmのものを使用した。また、PC鋼棒9の両雄ねじ9a,9aの軸方向長は、後述するように、他方のナット13aを所定位置に配置でき、一方のナット13を所定の緊張力を導入できる位置まで締め回転できる長さに設定されている。
【0029】
また、前記PC鋼棒9の一方側には、支圧板11及びワッシャー12が嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13が螺合され、また、他方側には、支圧板11a及びワッシャー12aが嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13aが螺合されるようになっている。前記支圧板11,11aは、前記PC鋼棒配置用溝8,8aの溝幅より大きく、前記受圧面7,7aに係合する大きさに設定されている。
【0030】
前記両PCa部材2A,2Bの接合側端面3,3aには、図2に示すように、シアコッター30が形成されている。該シアコッター30は、図2に示すように、PCa部材の上下部と、前記接合部10,10間、10a,10a間に形成されている。
【0031】
次に、前記の構成による両PCa部材2A,2Bの圧着接合方法について説明する。
先ず、接合する両PCa部材2Aと2Bを図2に示すように、夫々の接合端面3,3aが目地分離間して対向するように配置して建て込む。
【0032】
次に、図7〜9に示すように、一端部に支圧板11、ワッシャー12を嵌合し、雄ねじ9aにナット13を螺合して備え、他端部に支圧板11a、ワッシャー12aを嵌合し、雄ねじ9aにナット13aを螺合して備えたPC鋼棒9を、両PCa部材2A,2Bの両PC鋼棒配置用溝8.8a内に、その開口側の面4側から挿入し、両PCa部材2A,2Bに渡って配置する。
【0033】
また、このPC鋼棒9の配置状態は、例えば、図7,8のナット締付け側である左側の支圧板11とワッシャー12とナット13は相互に接触するとともに、支圧板11が受圧面7に接触し、また、確認側である右側の支圧板11aは受圧面7aに接触し、この支圧板11aとワッシャー12aとは所定量L3分離間させて空隙dを設け、このワッシャー12aとナット13aとは接触した状態とする。なお、前記の所定量L3の空隙dは、受圧面7aとナット13a間に設けられていればよく、受圧面7aと支圧板11a間又はワッシャー12aとナット13a間において設けてもよい。すなわち、ナット13aは空転するように若干緩められている。
【0034】
また、前記の空隙dの所定量L3は、後述のように、充填された接着材の硬化によりPC鋼棒9が固定された状態において、ナット13aを若干空回転できて、ナット13aが締め忘れられていることが確認できる程度に設定するもので、例えば、所定量L3を0.5mm程度とする。
【0035】
前記により、図7,8の左側のナット13が締め付け用ナットとなり、右側のナット13aが確認用ナットとなっている。
【0036】
次に、前記PC鋼棒9の配置状態において、目地20の下開口部、PC鋼棒配置用溝8,8aにおける、PC鋼棒9部を除く左右開口部を、図示しない適宜閉塞手段(型枠等)で塞ぎ、目地20及びPC鋼棒配置用溝8,8aの上端開口部から接着材40を注入し、接着材40を図10〜14に示すように、目地20とPC鋼棒配置用溝8,8a内に充填し、接着材40を、PC鋼棒配置用溝8,8a内のPC鋼棒9の周面とPCa部材2A,2Bにおける受圧部6,6aに付着させる。
【0037】
この接着材40としては、モルタル、コンクリート、モルタルに膨張材を混入した無収縮グラウト、エポキシ系接着材などを使用でき、実施に際しては、無収縮グラウトを使用した。
【0038】
次に、前記の接着材40を養生硬化させた後、前記閉塞手段を外す。これにより、前記PC鋼棒9と両PCa部材2A,2Bは硬化した接着材40により接着される。この接着材40の硬化状態において、前記他方のナット(確認用ナット)13aを、ワッシャー12aが作業者の手で回転できる程度に緩めておく。例えば、ワッシャー12aと支圧板11aとの間に、前記所定量L3分の空隙dができるようにする。この所定量L3は、例えば0.5mm以下とする。
【0039】
次に、作業者が図示しない作業用トルクレンチのナット係合部を一方の座堀り5を通じて一方の締め付け用のナット13に係合し、該トルクレンチを手操作で締め作動して、一方のナット13を、設定されたトルク量まで回転し、PC鋼棒9に緊張力を導入する。このトルクレンチとしては、あらかじめ、締め付けたいトルクを目盛りで設定しておき、カチンという感触と音で締め付けトルクが分かるシグナル式トルクレンチや、負荷されているトルクを目盛りで読み取る直読式トルクレンチなどを用いることができる。
【0040】
前記の緊張力が導入されると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに、該PC鋼棒9の断面積が減少する。この断面積の減少現象は、PC鋼棒9の一方のナット13側から他方のナット13a側へ進み、この断面の減少により、PC鋼棒9の表面と接着材40との付着が、一方のナット13側から他方のナット13a側に順次切れる。
【0041】
このようにして、全体の付着が切れ、デボンド状態になると、引き伸ばされたPC鋼棒9は、その復元力により軸方向に縮小し、PC鋼棒9とともに他方のナット13a、ワッシャー12aが受圧面7a側へ移動する。
【0042】
このとき、前記PC鋼棒9の伸長量よりも前記空隙dのL3を小さく、例えば、PC鋼棒9の伸長量を0.5mmよりも大きくし、空隙dの所定量L3を0.5mm以下とすることにより、前記のPC鋼棒9の復元力による縮小により、ナット13aが受圧面7a側へ移動し、ナット13a、ワッシャー12a、支圧板11aが相互に圧着し、かつ、支圧板11aが受圧面7aに圧着する。
【0043】
この圧着状態で更に、一方のナット13を前記トルクレンチで締め方向に回転し、更に、PC鋼棒9に軸方向の緊張力(軸力)を導入する。
【0044】
この一方のナット13の回転に際しては、他方のナット13aが受圧面7a側へ圧着されるため、PC鋼棒9と他方のナット13aが一方のナット13の締め回転と供回りすることはなく、ナット13の回転により、PC鋼棒9に更に大きい緊張力(軸力)が導入される。この緊張力はトルク量の増大につれて増大する。
【0045】
トルク量が任意に定めた所定値に達すると、トクルレンチの回転操作を終了し、一方のナット13の回転を停止し、トルク導入作業を終了する。
【0046】
これにより、PC鋼棒9に所定の軸力が導入され、一方のPCa部材2Aの受圧部6と他方のPCa部材2Bの受圧部6a、すなわち、両PCa部材2A,2Bが、PC鋼棒9に導入された前記の所定の軸力、すなわち、所定のプレストレスで接合される。
【0047】
そして、図2の各接合部10において、前記の締め付け作業を行い、両PCa部材2A,2Bをプレストレストコンクリート工法で一体に連結する。
【0048】
また、各接合部10のうち前記のトルクレンチによる緊張力導入作業を忘れた接合部10には、その接合部10における他方のナット13a側に前記の所定量L3分の隙間dが残存したままであるため、そのワッシャー12aやナット13aは空転可能状態にある。
【0049】
そのため、作業者が各ワッシャー12aやナット13aが回転するか否かを手で確認することにより、ワッシャー12aやナット13aが回転すれば、軸力導入がされておらず、また、回転しなければ軸力導入されていることが分り、PC鋼棒9の緊張力導入をトルクコントロールにより行った場合でも、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっているか否かの確認ができる。これにより、PC鋼棒9の緊張力導入の管理が容易に行える。
【0050】
そして、緊張力導入作業後、必要により、座堀り5,5aをコンクリート等で埋める。
次に、前記の導入トルク量と導入軸力との関係及び接着材の切断時期等について説明する。
【0051】
一般に、ねじとトルクと軸力の関係式は次の公式で表わされる。
T=F1{d2/2(μ/cosα+tanβ)+μn・dn/2}・・・(1)
T:締付トルク[N・m]、F1:軸力[N]、d2:有効径[mm]、dn:座部有効径、μ:ねじ部摩擦係数、μn:座部摩擦係数、α:ねじれの半角(ISOねじ30°)、β:リード角(tanβ)
実施に用いる9.2mmのPC鋼棒と、これに螺合するナットを用い、そのPC鋼棒の雄ねじにナットを螺合し、このナットを締め回転して、その締付トルクとPC鋼棒の軸力(導入力)の関係を、上記(1)式より求めた結果、図15に示す破線(予測値)Aの結果が得られた。
【0052】
次に、前記と同様の直径が9.2mmのPC鋼棒とナットを用い、本発明の前記実施例のPCa部材の接合方法、すなわち、コンクリート部材とPC鋼棒9との間に接着材40を充填し、他方のナット13aをL3分離間し、一方のナット13を締め付け回転して接合する方法において、ナット13の回転トルクと、PC鋼棒9の軸力(導入力)を実験により測定した結果、図15の実線(実験値)Bの結果が得られた。
【0053】
この予測値Aと実験値Bを対比すると、実験値Bでは、トルク導入の開始(C点)から所定のトルク値(D点)までは、軸力は発生しなかった。これは、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力は発生しなかったと考えられる。
【0054】
更に、ナット13を回転してトルクを増大させると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに断面積の縮小により接着材40が切断され、他方のナット13aが受圧面7a側に圧着されて、軸力が増大し、その後、実験値Bのトルクと軸力の関係は、前記予測値Aのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0055】
そこで、直径9.2mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約20kN以上に対応する約40Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約71(Nm)のトルクで約28(kN)の軸力で接合するようにした。
【0056】
また、直径が13mmのPC鋼棒とナットを用いる場合は、図16の破線Eの予測値となる。一方実験値は実線Fとなった。この場合には、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力が発生しないトルク値はG点であった。
【0057】
更に、ナットを回転してトルクを増大させると、接着材40が切断され、実験値Fのトルクと軸力の関係は、前記予測値Eのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0058】
そこで、直径13mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約40kN以上に対応する約100Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約214(Nm)のトルクで約63(kN)の軸力で接合するようにした。
【0059】
また、PC鋼棒の直径は、接合箇所により異なり、前記の直径9.2mm、13mm以外に19.2mm以上23mm以下のものであれば任意の直径のものを使用することができ、これらのものについても、これらの予測値と実験値から前記のようにトルク値を定める。
【0060】
なお、PC鋼棒9の配置は、前記実施例とは左右反対にして、右側のナットを締め付け用ナットとし、左側のナットを確認用としてもよい。
【0061】
以上のようであるから、前記の実施例によれば、次のような効果を奏する。
PC鋼棒が接着材によりPCa部材に接着されているので、ナット13の回転初期において、PC鋼棒とナット13aが供回りすることがなく、PC鋼棒への緊張力の導入が確実に行える。
【0062】
PC鋼棒への緊張力の導入が、トルクレンチで行えるため、従来の荷重計付き油圧ジャッキを用いるものに比べて、作業が容易で、かつ、施工コストの低減を図ることができる。
【0063】
確認用ナット側を緩めた状態で接着材充填及びPC鋼棒に緊張力付与の作業を行い、所定の緊張力付与後は確認用ナット側のワッシャー、ナットがPC部材側に圧接して回転しないようにしたので、この回転の有無を確認することで、PC鋼棒の緊張力導入の有無を確認することができ、緊張力の導入をトルクコントロールにより行っても、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっていることの確認が容易にできる。
【0064】
また、PC鋼棒配置用溝8,8aを設けることにより、PC鋼棒9の配置が容易に行える。
【0065】
次に、複数のPCa部材を前記の接合方法により圧着接合してなる本願床版1の設計方法の一例について説明する。
【0066】
先ず、本願床版の図1のLx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋量の算出方法について説明する。
【0067】
PCa部材2A,2Bを所定位置に載置した際には、PCa部材2A,2BはLx方向の両端のみで支えられるために、Lx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋51(図17,18参照)の鉄筋量は、2辺単純支持の計算方法で算出する。
【0068】
M1=(W1+W2+W3)×Lx2/8 ・・・(2)
W1:PCa部材自体の自重[N/mm(m)]、W2:固定荷重から自重W1を除いた仕上げ荷重[N/mm(m)]、W3:使用荷重である地震力設計用荷重[N/mm(m)]
M2=at×ft×j ・・・(3)
at:鉄筋断面積[mm2]、ft:降伏点[t/mm2]、j:応力中心距離(=(7/8)d)[mm]、d:有効せい[mm]
M1≦M2となるように、鉄筋51の鉄筋量であるatを求める。
【0069】
次に、本願床版の図1のLy方向(配列方向)の鉄筋量の算出方法について説明する。
PCa部材2A,2B相互を圧着接合により接合した後は、図19に示すように、3枚のPCa部材は1枚の床版として考えることができるために、自重を除いた荷重を基にして、Ly方向の鉄筋52(図17,18参照)の鉄筋量は4辺単純支持としの計算方法で算出することができる。
【0070】
例えばLx:5500mm、Ly:6300mm、厚み:150mm、d=11mm、M1:3600N/mm2、M2:850N/mm2、M3:1800N/mm2の床版とし、この床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成した場合、
M3=0.034×(W2+W3)×Lx2 ・・・(4)
M3≦M2となるように、鉄筋量であるatを求めることができる。なお、(4)式の係数0.034は、床版のLx、Ly方向の大きさに応じて変化する。
【0071】
上記式よりLx方向の鉄筋量at=1247.81mm2となり、これはスラブ断面積の0.83%に当る。また、Ly方向の鉄筋量at=88.29mm2となり、これはスラブ断面積の0.06%に当る。
【0072】
一方、従来技術の接合方法の場合は、Lx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋量は、2辺単純支持の計算方法で算出し、Ly方向については、自重等をLy方向に伝えることが殆ど出来ないために、従来はスラブ断面の0.2%の鉄筋量として設計している。
【0073】
そのため、本願発明の接合方法の床版は、従来技術の接合方法の床版と比較してLy方向の鉄筋量を少なくすることができることが分る。
【0074】
次に、本願床版1のたわみ量の算出方法について説明する。
PCa部材2A,2Bを所定位置に載置するまでの間に、PCa部材2A,2Bは自重によりたわみが発生した後に、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合すると、床版1全体で、Lx方向とLy方向の二方向に荷重を伝えることができると考えられるため、自重については2辺単純支持の計算方法で算出し、自重以外の荷重については、4辺単純支持としの計算方法で算出しそれを合算した値を床版1のたわみ量として考えることができる。
【0075】
例えばLx:5500mm、Ly:6300mm、厚みt:150mm、d=11mm、自重M1:3600N/mm2、仕上げ荷重M2:850N/mm2、地震力設計用荷重M3:600N/mm2、ヤング係数E:2.66×104N/mm2、断面二次モーメントI:2.81×108mm3の床版とし、この床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成した場合は、例えば、
δ={5×M1×Lx4/(384EI)}
+{0.0873×(M2+M3)×Lx4/Et3 ・・・(5)
の式より、本願の床版1のたわみ量は6.82mmと算出される。なお、(5)式の係数0.0873は、床版のLx、Ly方向の大きさに応じて変化する。
【0076】
一方、従来技術の接合方法の場合には、常に2辺単純支持と考え、
δ=5×(M1+M2+M3)Lx4/(384EI) ・・・(6)
より、従来技術の接合方法による床版のたわみ量は8.05mmと算出される。
【0077】
これより、本願の圧着接合により床版のたわみ量を低減できることが分る。
さらに、長期たわみ倍率(Lx/250)/δが、本願床版では、3.2倍であるのに対し、従来の接合方法の床版では2.7倍となる。長期たわみ倍率は、経験則上3〜5の範囲に入ることが好ましいとされているが、本願床版1はこの範囲内に入るが、従来技術の接合方法の床版では入らない。この長期たわみ倍率を所定の範囲に入るようにするには、一般的には床版の厚みを厚くすることが行われている。
【0078】
更に、PCa部材を製造した後に、使用時の上面を下側に、反対側面を上側にするとともに、中央側が自重でしなるように橋桁を載置して、約2週間以上載置することで、PCa部材の中央部を左右両端部に対して、使用時の上面が上方に5〜10mm反らせておくと、PCa部材を所定位置に載置した際に、上方への反り状態から自重による下方へたわみむことにより、自重による下方へのたわみ量を減少させることができる。
【0079】
なお、前記実施例では、PCa部材の表裏の一面に開口するPC鋼棒配置用溝を設け、前記一面側からPC鋼棒を溝に挿入するようにしたが、このPC鋼棒配置用溝の代りに、PCa部材を貫通する穴とし、この穴の一端側からPC鋼棒を挿通してもよい。
【0080】
また、前記実施例の座堀りの双方又は1方を設けることなく、PC鋼棒を両PCa部材に貫通して配置し、その雄ねじ部をPCa部材の外側に突出させ、支圧板、ワッシャー、ナットを、PCa部材の外面に直接配置してもよい。
【0081】
また、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合するものであれば、任意の接合方法を取ることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 床版
2A,2B プレキャストコンクリート部材
Lx 配列方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート製の床版、及び、その設計方法、より詳しくは、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版、及び、その設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のプレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)を水平方向に配置して構成された床版において、隣接するPCa部材相互を接合する方法として、例えば、次のような方法が知られている。
【0003】
図20に示すように、接合する一方のPCa部材101の接合面に凹状のシアコッター102を形成するとともに、そのPCa部材101内の鉄筋103を前記シアコッター102内に突出し、接合する他方のPCa部材104に、前記シアコッター102、鉄筋103に対応するシアコッター105、鉄筋106を設け、前記両PCa部材101、104を図20に示すように配置し、前記両鉄筋103,106間を接合筋107を介して溶接接合し、前記両シアコッター102,105内にグラウトを充填し、両PCa部材101,104を接合するものが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の床版においては、隣接するPCa部材101,104相互は、前記両鉄筋103,106間を接合筋107を介して溶接接合した後に、両シアコッター102,105内にグラウトを充填しているだけである。
【0005】
そのため、床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成し、その短手方向(Ly方向)を相互に前記の接合方法で連結した場合、図21に示すように、この中央のPCa部材1bは、その自重等を長手方向(Lx方向)の両端部のみで支える、すなわち、一方向単純支持となる。
【0006】
一方、床版を、1枚のPCa部材で構成した場合には、二方向4辺支持として検討することができるため、床板を一方向単純支持のものよりも薄くすること等ができるため、耐震性等において有利となるが、床面積が大きい場合には、PCa部材の製造や搬送等において問題が生じる。
【0007】
そこで本発明は、床版を複数のPCa部材で構成するが、施工後においては、床版を剛性の一体の部材として考えることができる床版及びその設計方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における配筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した配筋量以上とし、
前記配列方向の配筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した配筋量以上としたことを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のプレキャストコンクリート製の床版において、予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における配筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出し、
前記配列方向の配筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出することを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法である。
【0011】
請求項4記載の発明は、複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
一方向支持のたわみ量の計算式の荷重にプレキャストコンクリート部材の自重を導入して得た値と、
二方向支持のたわみ量の計算式の荷重に仕上げ荷重と使用荷重を合算した値を導入して得た値と、を
合算した値を、床版のたわみ量として用いることを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法である。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のプレキャストコンクリート製の床版の設計方法において、予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合することにより、圧着接合後の床版全体を剛性の一体の部材として考えることができるが、PCa部材相互を圧着接合する前は、複数枚のPCa部材として考えて、PCa部材を設計することができる。
【0014】
そこで、複数のPCa部材の配列方向と直交する方向の鉄筋量は、圧着接合前の複数枚の各PCa部材として考えて設計し、複数のPCa部材の配列方向の鉄筋量は、圧着接合後の床版全体を剛性の一体の部材として設計することができる。
【0015】
また、隣接するPCa部材を相互に接合する前は、自重によりたわみが発生する。その後に、PCa部材相互を圧着接合し、この接合後は、床版全体を剛性の一体の部材としてたわみが発生すると考えることができるため、請求項4記載の方法でたわみ量を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を示す床版の概略平面図。
【図2】本発明のPCa部材相互の接合状態を示す部分拡大平面図。
【図3】図2の接合部とPC鋼棒の斜視図。
【図4】図2の接合部におけるPC鋼棒を配置しない前の平面図。
【図5】図4のI−I線断面図。
【図6】図5のJ−J線断面図。
【図7】図4の状態においてPC鋼棒を配置した平面図。
【図8】図7のK−K線断面図。
【図9】図8のL−L線断面図。
【図10】図7の状態において接着材を充填した平面図。
【図11】図10のM−M線断面図。
【図12】図10における他方のナット部を示す拡大平面図。
【図13】図12のN−N線断面図。
【図14】図11のP−P線断面図。
【図15】直径9.2mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図16】直径13mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図17】図2の部分拡大図で配筋を破線で示した図。
【図18】図17の横断面図。
【図19】本願の接合方法を用いた床版の変形量を示す図。
【図20】従来の接合方法を示す平面図。
【図21】従来の接合方法を用いた床版の変形量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のプレキャストコンクリート製の床版は、複数の平板状のプレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)で構成され、方形状のPCa部材を配列方向に複数枚配置して構成されたものである。以下において、図1に示すように、3枚の平板状のPCa部材1a,1b,1cを水平方向に配置して床版1を構成した例に基づいて説明する。
【0018】
なお、図2〜18において、隣接して相互に接合される一方のPCa部材を2Aとし、他方のPCa部材を2Bとする。
【0019】
接合する一方のPCa部材2Aには、他方のPCa部材2Bと接合する接合面3が形成され、接合する一方のPCa部材2Aには、その一方の面(上面)4のみに開口する有底状の座堀り5が形成されており、該座堀り5の接合側面(受圧面)7と接合側端面3とは所定量離間するように形成されている。
【0020】
該座堀り5と前記接合側端面3間には、該PCa部材2Aの主体部と同厚の受圧部6がPCa部材2Aの主体部と一体にコンクリートで設けられている。該受圧部6の前記座堀り5側面、すなわち、座堀り5における前記接合側端面3側は、PCa部材2Aの一方の面4と直交する面からなる受圧面7になっている。この受圧面7から接合側端面3までの距離すなわち、受圧部6の幅をL1とする。
【0021】
前記受圧部6には、前記接合側端面3及び前記受圧面7に対して直交する方向に、PC鋼棒配置用溝8が形成されている。該PC鋼棒配置用溝8は、その外側が前記一方の面4に開口し、底部がPCa部材2Aの壁厚の中央部より深い位置に達し、溝方向の両端が前記接合側端面3と座堀り5に開口する有底溝に形成されている。更に、該PC鋼棒配置用溝8の溝幅は、後述するPC鋼棒9の直径よりも大きく、受圧面7より小さく形成されており、後述する接着材充填前には、該溝8内に配置されるPC鋼棒9の周りに空間が生じるようになっている。更に、溝幅は、図6に示すように、底部から一方の壁面4方向に至るにつれて拡径している。
【0022】
前記の座堀り5、受圧部6、PC鋼棒配置用溝8により接合部10を構成している。該接合部10は、図1,2に示すように、PC壁版1において、接合側端面3の長手方向に沿って複数個、適宜間隔L4を有して設けられている。該接合部10の個数、大きさ、間隔は任意に設定する。
【0023】
なお、図1のPCa部材2Aにおける接合側端面3に対する他方のPCa部材2Aの接合側端面側にも、必要により前記と同様の接合部10が前記と同様に配置される。
【0024】
次に、前記一方のPCa部材2Aに対して接合される他方のPCa部材2Bについて説明する。
【0025】
この他方のPCa部材2Bにおける前記一方のPCa部材2Aの接合側端面3と接合される接合側端面3a側には、前記一方のPCa部材2Aの前記接合部10と同様の接合部10aが両PCa部材2Aと2Bの接合中心線X(図4参照)を中心として略対称に配置形成されている。
【0026】
この接合部10aを構成する座堀り5a、受圧部6a、受圧面7a、PC鋼棒配置用溝8aは、前記の一方のPCa部材2Aの座堀り5、受圧部6、受圧面7、PC鋼棒配置用溝8と同一構造であるため、その説明は省略する。
【0027】
また、前記他方のPCa部材2Bの接合部10aは、図1に示すように、前記一方のPCa部材2Aの接合部10と同数、同間隔で形成配置され、両PCa部材2A,2Bを接合配置した際に、両接合部10,10aの両PC鋼棒配置用溝8,8aが、夫々の軸芯が同一線上に位置するように配置されている。
【0028】
次に、前記両PCa部材2A,2Bの接合に用いるPC鋼棒9について説明する。
PC鋼棒9は、一般に使用される丸棒のPC鋼棒を使用するもので、例えば、JISG3109の丸鋼棒に規定されるA種1号、B種1号,2号、C種1号等、引張強度1030N/mm2以上、伸び5%以上のものを使用する。また、該PC鋼棒9は所望の直径のものを使用し、その両端部には、雄ねじ9a,9aが刻設され、このPC鋼棒9の全長は、図7〜9に示すように、両PCa部材2A,2Bを接合位置に配置した状態において、両PCa部材2A,2B間の目地20の幅L2と、一方のPCa部材2Aの受圧部6の幅L1と、他方のPCa部材2Bの受圧部6aの幅L1の総合計よりも長く形成され、該PC鋼棒9を図7〜9に示すように、両PCa部材2A,2Bに渡ってPC鋼棒配置用溝8,8a内に配置した際に、その両端部の雄ねじ9a,9a部が両座堀り5,5a内へ突出するようになっている。なお、該PC鋼棒の全長は、実施に際し、約400mmのものを使用した。また、PC鋼棒9の両雄ねじ9a,9aの軸方向長は、後述するように、他方のナット13aを所定位置に配置でき、一方のナット13を所定の緊張力を導入できる位置まで締め回転できる長さに設定されている。
【0029】
また、前記PC鋼棒9の一方側には、支圧板11及びワッシャー12が嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13が螺合され、また、他方側には、支圧板11a及びワッシャー12aが嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13aが螺合されるようになっている。前記支圧板11,11aは、前記PC鋼棒配置用溝8,8aの溝幅より大きく、前記受圧面7,7aに係合する大きさに設定されている。
【0030】
前記両PCa部材2A,2Bの接合側端面3,3aには、図2に示すように、シアコッター30が形成されている。該シアコッター30は、図2に示すように、PCa部材の上下部と、前記接合部10,10間、10a,10a間に形成されている。
【0031】
次に、前記の構成による両PCa部材2A,2Bの圧着接合方法について説明する。
先ず、接合する両PCa部材2Aと2Bを図2に示すように、夫々の接合端面3,3aが目地分離間して対向するように配置して建て込む。
【0032】
次に、図7〜9に示すように、一端部に支圧板11、ワッシャー12を嵌合し、雄ねじ9aにナット13を螺合して備え、他端部に支圧板11a、ワッシャー12aを嵌合し、雄ねじ9aにナット13aを螺合して備えたPC鋼棒9を、両PCa部材2A,2Bの両PC鋼棒配置用溝8.8a内に、その開口側の面4側から挿入し、両PCa部材2A,2Bに渡って配置する。
【0033】
また、このPC鋼棒9の配置状態は、例えば、図7,8のナット締付け側である左側の支圧板11とワッシャー12とナット13は相互に接触するとともに、支圧板11が受圧面7に接触し、また、確認側である右側の支圧板11aは受圧面7aに接触し、この支圧板11aとワッシャー12aとは所定量L3分離間させて空隙dを設け、このワッシャー12aとナット13aとは接触した状態とする。なお、前記の所定量L3の空隙dは、受圧面7aとナット13a間に設けられていればよく、受圧面7aと支圧板11a間又はワッシャー12aとナット13a間において設けてもよい。すなわち、ナット13aは空転するように若干緩められている。
【0034】
また、前記の空隙dの所定量L3は、後述のように、充填された接着材の硬化によりPC鋼棒9が固定された状態において、ナット13aを若干空回転できて、ナット13aが締め忘れられていることが確認できる程度に設定するもので、例えば、所定量L3を0.5mm程度とする。
【0035】
前記により、図7,8の左側のナット13が締め付け用ナットとなり、右側のナット13aが確認用ナットとなっている。
【0036】
次に、前記PC鋼棒9の配置状態において、目地20の下開口部、PC鋼棒配置用溝8,8aにおける、PC鋼棒9部を除く左右開口部を、図示しない適宜閉塞手段(型枠等)で塞ぎ、目地20及びPC鋼棒配置用溝8,8aの上端開口部から接着材40を注入し、接着材40を図10〜14に示すように、目地20とPC鋼棒配置用溝8,8a内に充填し、接着材40を、PC鋼棒配置用溝8,8a内のPC鋼棒9の周面とPCa部材2A,2Bにおける受圧部6,6aに付着させる。
【0037】
この接着材40としては、モルタル、コンクリート、モルタルに膨張材を混入した無収縮グラウト、エポキシ系接着材などを使用でき、実施に際しては、無収縮グラウトを使用した。
【0038】
次に、前記の接着材40を養生硬化させた後、前記閉塞手段を外す。これにより、前記PC鋼棒9と両PCa部材2A,2Bは硬化した接着材40により接着される。この接着材40の硬化状態において、前記他方のナット(確認用ナット)13aを、ワッシャー12aが作業者の手で回転できる程度に緩めておく。例えば、ワッシャー12aと支圧板11aとの間に、前記所定量L3分の空隙dができるようにする。この所定量L3は、例えば0.5mm以下とする。
【0039】
次に、作業者が図示しない作業用トルクレンチのナット係合部を一方の座堀り5を通じて一方の締め付け用のナット13に係合し、該トルクレンチを手操作で締め作動して、一方のナット13を、設定されたトルク量まで回転し、PC鋼棒9に緊張力を導入する。このトルクレンチとしては、あらかじめ、締め付けたいトルクを目盛りで設定しておき、カチンという感触と音で締め付けトルクが分かるシグナル式トルクレンチや、負荷されているトルクを目盛りで読み取る直読式トルクレンチなどを用いることができる。
【0040】
前記の緊張力が導入されると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに、該PC鋼棒9の断面積が減少する。この断面積の減少現象は、PC鋼棒9の一方のナット13側から他方のナット13a側へ進み、この断面の減少により、PC鋼棒9の表面と接着材40との付着が、一方のナット13側から他方のナット13a側に順次切れる。
【0041】
このようにして、全体の付着が切れ、デボンド状態になると、引き伸ばされたPC鋼棒9は、その復元力により軸方向に縮小し、PC鋼棒9とともに他方のナット13a、ワッシャー12aが受圧面7a側へ移動する。
【0042】
このとき、前記PC鋼棒9の伸長量よりも前記空隙dのL3を小さく、例えば、PC鋼棒9の伸長量を0.5mmよりも大きくし、空隙dの所定量L3を0.5mm以下とすることにより、前記のPC鋼棒9の復元力による縮小により、ナット13aが受圧面7a側へ移動し、ナット13a、ワッシャー12a、支圧板11aが相互に圧着し、かつ、支圧板11aが受圧面7aに圧着する。
【0043】
この圧着状態で更に、一方のナット13を前記トルクレンチで締め方向に回転し、更に、PC鋼棒9に軸方向の緊張力(軸力)を導入する。
【0044】
この一方のナット13の回転に際しては、他方のナット13aが受圧面7a側へ圧着されるため、PC鋼棒9と他方のナット13aが一方のナット13の締め回転と供回りすることはなく、ナット13の回転により、PC鋼棒9に更に大きい緊張力(軸力)が導入される。この緊張力はトルク量の増大につれて増大する。
【0045】
トルク量が任意に定めた所定値に達すると、トクルレンチの回転操作を終了し、一方のナット13の回転を停止し、トルク導入作業を終了する。
【0046】
これにより、PC鋼棒9に所定の軸力が導入され、一方のPCa部材2Aの受圧部6と他方のPCa部材2Bの受圧部6a、すなわち、両PCa部材2A,2Bが、PC鋼棒9に導入された前記の所定の軸力、すなわち、所定のプレストレスで接合される。
【0047】
そして、図2の各接合部10において、前記の締め付け作業を行い、両PCa部材2A,2Bをプレストレストコンクリート工法で一体に連結する。
【0048】
また、各接合部10のうち前記のトルクレンチによる緊張力導入作業を忘れた接合部10には、その接合部10における他方のナット13a側に前記の所定量L3分の隙間dが残存したままであるため、そのワッシャー12aやナット13aは空転可能状態にある。
【0049】
そのため、作業者が各ワッシャー12aやナット13aが回転するか否かを手で確認することにより、ワッシャー12aやナット13aが回転すれば、軸力導入がされておらず、また、回転しなければ軸力導入されていることが分り、PC鋼棒9の緊張力導入をトルクコントロールにより行った場合でも、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっているか否かの確認ができる。これにより、PC鋼棒9の緊張力導入の管理が容易に行える。
【0050】
そして、緊張力導入作業後、必要により、座堀り5,5aをコンクリート等で埋める。
次に、前記の導入トルク量と導入軸力との関係及び接着材の切断時期等について説明する。
【0051】
一般に、ねじとトルクと軸力の関係式は次の公式で表わされる。
T=F1{d2/2(μ/cosα+tanβ)+μn・dn/2}・・・(1)
T:締付トルク[N・m]、F1:軸力[N]、d2:有効径[mm]、dn:座部有効径、μ:ねじ部摩擦係数、μn:座部摩擦係数、α:ねじれの半角(ISOねじ30°)、β:リード角(tanβ)
実施に用いる9.2mmのPC鋼棒と、これに螺合するナットを用い、そのPC鋼棒の雄ねじにナットを螺合し、このナットを締め回転して、その締付トルクとPC鋼棒の軸力(導入力)の関係を、上記(1)式より求めた結果、図15に示す破線(予測値)Aの結果が得られた。
【0052】
次に、前記と同様の直径が9.2mmのPC鋼棒とナットを用い、本発明の前記実施例のPCa部材の接合方法、すなわち、コンクリート部材とPC鋼棒9との間に接着材40を充填し、他方のナット13aをL3分離間し、一方のナット13を締め付け回転して接合する方法において、ナット13の回転トルクと、PC鋼棒9の軸力(導入力)を実験により測定した結果、図15の実線(実験値)Bの結果が得られた。
【0053】
この予測値Aと実験値Bを対比すると、実験値Bでは、トルク導入の開始(C点)から所定のトルク値(D点)までは、軸力は発生しなかった。これは、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力は発生しなかったと考えられる。
【0054】
更に、ナット13を回転してトルクを増大させると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに断面積の縮小により接着材40が切断され、他方のナット13aが受圧面7a側に圧着されて、軸力が増大し、その後、実験値Bのトルクと軸力の関係は、前記予測値Aのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0055】
そこで、直径9.2mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約20kN以上に対応する約40Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約71(Nm)のトルクで約28(kN)の軸力で接合するようにした。
【0056】
また、直径が13mmのPC鋼棒とナットを用いる場合は、図16の破線Eの予測値となる。一方実験値は実線Fとなった。この場合には、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力が発生しないトルク値はG点であった。
【0057】
更に、ナットを回転してトルクを増大させると、接着材40が切断され、実験値Fのトルクと軸力の関係は、前記予測値Eのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0058】
そこで、直径13mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約40kN以上に対応する約100Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約214(Nm)のトルクで約63(kN)の軸力で接合するようにした。
【0059】
また、PC鋼棒の直径は、接合箇所により異なり、前記の直径9.2mm、13mm以外に19.2mm以上23mm以下のものであれば任意の直径のものを使用することができ、これらのものについても、これらの予測値と実験値から前記のようにトルク値を定める。
【0060】
なお、PC鋼棒9の配置は、前記実施例とは左右反対にして、右側のナットを締め付け用ナットとし、左側のナットを確認用としてもよい。
【0061】
以上のようであるから、前記の実施例によれば、次のような効果を奏する。
PC鋼棒が接着材によりPCa部材に接着されているので、ナット13の回転初期において、PC鋼棒とナット13aが供回りすることがなく、PC鋼棒への緊張力の導入が確実に行える。
【0062】
PC鋼棒への緊張力の導入が、トルクレンチで行えるため、従来の荷重計付き油圧ジャッキを用いるものに比べて、作業が容易で、かつ、施工コストの低減を図ることができる。
【0063】
確認用ナット側を緩めた状態で接着材充填及びPC鋼棒に緊張力付与の作業を行い、所定の緊張力付与後は確認用ナット側のワッシャー、ナットがPC部材側に圧接して回転しないようにしたので、この回転の有無を確認することで、PC鋼棒の緊張力導入の有無を確認することができ、緊張力の導入をトルクコントロールにより行っても、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっていることの確認が容易にできる。
【0064】
また、PC鋼棒配置用溝8,8aを設けることにより、PC鋼棒9の配置が容易に行える。
【0065】
次に、複数のPCa部材を前記の接合方法により圧着接合してなる本願床版1の設計方法の一例について説明する。
【0066】
先ず、本願床版の図1のLx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋量の算出方法について説明する。
【0067】
PCa部材2A,2Bを所定位置に載置した際には、PCa部材2A,2BはLx方向の両端のみで支えられるために、Lx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋51(図17,18参照)の鉄筋量は、2辺単純支持の計算方法で算出する。
【0068】
M1=(W1+W2+W3)×Lx2/8 ・・・(2)
W1:PCa部材自体の自重[N/mm(m)]、W2:固定荷重から自重W1を除いた仕上げ荷重[N/mm(m)]、W3:使用荷重である地震力設計用荷重[N/mm(m)]
M2=at×ft×j ・・・(3)
at:鉄筋断面積[mm2]、ft:降伏点[t/mm2]、j:応力中心距離(=(7/8)d)[mm]、d:有効せい[mm]
M1≦M2となるように、鉄筋51の鉄筋量であるatを求める。
【0069】
次に、本願床版の図1のLy方向(配列方向)の鉄筋量の算出方法について説明する。
PCa部材2A,2B相互を圧着接合により接合した後は、図19に示すように、3枚のPCa部材は1枚の床版として考えることができるために、自重を除いた荷重を基にして、Ly方向の鉄筋52(図17,18参照)の鉄筋量は4辺単純支持としの計算方法で算出することができる。
【0070】
例えばLx:5500mm、Ly:6300mm、厚み:150mm、d=11mm、M1:3600N/mm2、M2:850N/mm2、M3:1800N/mm2の床版とし、この床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成した場合、
M3=0.034×(W2+W3)×Lx2 ・・・(4)
M3≦M2となるように、鉄筋量であるatを求めることができる。なお、(4)式の係数0.034は、床版のLx、Ly方向の大きさに応じて変化する。
【0071】
上記式よりLx方向の鉄筋量at=1247.81mm2となり、これはスラブ断面積の0.83%に当る。また、Ly方向の鉄筋量at=88.29mm2となり、これはスラブ断面積の0.06%に当る。
【0072】
一方、従来技術の接合方法の場合は、Lx方向(配列方向と直交する方向)の鉄筋量は、2辺単純支持の計算方法で算出し、Ly方向については、自重等をLy方向に伝えることが殆ど出来ないために、従来はスラブ断面の0.2%の鉄筋量として設計している。
【0073】
そのため、本願発明の接合方法の床版は、従来技術の接合方法の床版と比較してLy方向の鉄筋量を少なくすることができることが分る。
【0074】
次に、本願床版1のたわみ量の算出方法について説明する。
PCa部材2A,2Bを所定位置に載置するまでの間に、PCa部材2A,2Bは自重によりたわみが発生した後に、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合すると、床版1全体で、Lx方向とLy方向の二方向に荷重を伝えることができると考えられるため、自重については2辺単純支持の計算方法で算出し、自重以外の荷重については、4辺単純支持としの計算方法で算出しそれを合算した値を床版1のたわみ量として考えることができる。
【0075】
例えばLx:5500mm、Ly:6300mm、厚みt:150mm、d=11mm、自重M1:3600N/mm2、仕上げ荷重M2:850N/mm2、地震力設計用荷重M3:600N/mm2、ヤング係数E:2.66×104N/mm2、断面二次モーメントI:2.81×108mm3の床版とし、この床版を、図1に示すように、長方形状の3枚のPCa部材1a,1b,1cで構成した場合は、例えば、
δ={5×M1×Lx4/(384EI)}
+{0.0873×(M2+M3)×Lx4/Et3 ・・・(5)
の式より、本願の床版1のたわみ量は6.82mmと算出される。なお、(5)式の係数0.0873は、床版のLx、Ly方向の大きさに応じて変化する。
【0076】
一方、従来技術の接合方法の場合には、常に2辺単純支持と考え、
δ=5×(M1+M2+M3)Lx4/(384EI) ・・・(6)
より、従来技術の接合方法による床版のたわみ量は8.05mmと算出される。
【0077】
これより、本願の圧着接合により床版のたわみ量を低減できることが分る。
さらに、長期たわみ倍率(Lx/250)/δが、本願床版では、3.2倍であるのに対し、従来の接合方法の床版では2.7倍となる。長期たわみ倍率は、経験則上3〜5の範囲に入ることが好ましいとされているが、本願床版1はこの範囲内に入るが、従来技術の接合方法の床版では入らない。この長期たわみ倍率を所定の範囲に入るようにするには、一般的には床版の厚みを厚くすることが行われている。
【0078】
更に、PCa部材を製造した後に、使用時の上面を下側に、反対側面を上側にするとともに、中央側が自重でしなるように橋桁を載置して、約2週間以上載置することで、PCa部材の中央部を左右両端部に対して、使用時の上面が上方に5〜10mm反らせておくと、PCa部材を所定位置に載置した際に、上方への反り状態から自重による下方へたわみむことにより、自重による下方へのたわみ量を減少させることができる。
【0079】
なお、前記実施例では、PCa部材の表裏の一面に開口するPC鋼棒配置用溝を設け、前記一面側からPC鋼棒を溝に挿入するようにしたが、このPC鋼棒配置用溝の代りに、PCa部材を貫通する穴とし、この穴の一端側からPC鋼棒を挿通してもよい。
【0080】
また、前記実施例の座堀りの双方又は1方を設けることなく、PC鋼棒を両PCa部材に貫通して配置し、その雄ねじ部をPCa部材の外側に突出させ、支圧板、ワッシャー、ナットを、PCa部材の外面に直接配置してもよい。
【0081】
また、隣接するPCa部材相互を圧着接合により接合するものであれば、任意の接合方法を取ることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 床版
2A,2B プレキャストコンクリート部材
Lx 配列方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とし、
前記配列方向の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上としたことを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版。
【請求項2】
予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とする請求項1記載のプレキャストコンクリート製の床版。
【請求項3】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出し、
前記配列方向の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出することを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【請求項4】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
一方向支持のたわみ量の計算式の荷重にプレキャストコンクリート部材の自重を導入して得た値と、
二方向支持のたわみ量の計算式の荷重に仕上げ荷重と使用荷重を合算した値を導入して得た値と、を
合算した値を、床版のたわみ量として用いることを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【請求項5】
予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とする請求項4記載のプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上とし、
前記配列方向の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出した鉄筋量以上としたことを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版。
【請求項2】
予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とする請求項1記載のプレキャストコンクリート製の床版。
【請求項3】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
複数のプレキャストコンクリート部材の配列方向と直交する方向における鉄筋量を、プレキャストコンクリート部材の自重と、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出し、
前記配列方向の鉄筋量を、仕上げ荷重と、使用荷重とを合算した荷重を基に算出することを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【請求項4】
複数のプレキャストコンクリート部材で構成するとともに、この隣接するプレキャストコンクリート部材相互を圧着接合により接合したプレキャストコンクリート製の床版の設計方法であって、
一方向支持のたわみ量の計算式の荷重にプレキャストコンクリート部材の自重を導入して得た値と、
二方向支持のたわみ量の計算式の荷重に仕上げ荷重と使用荷重を合算した値を導入して得た値と、を
合算した値を、床版のたわみ量として用いることを特徴とするプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【請求項5】
予め、その中央部を上方に反らせたプレキャストコンクリート部材を用いることを特徴とする請求項4記載のプレキャストコンクリート製の床版の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図19】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図19】
【図21】
【公開番号】特開2013−60768(P2013−60768A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200750(P2011−200750)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000241474)トヨタT&S建設株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000241474)トヨタT&S建設株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
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