説明

プレコート鋼板製ドア枠材の固着構造

【課題】 プレコート鋼板をドア枠材に使用し、見栄えの良いドア枠を簡便な工法で据え付ける。
【解決手段】 プレコート鋼板を曲げ加工して必要断面形状をもつドア枠材10とする際、ビスポケットとなる隙間11,12,15,16を同時成形しておく。鋼板製梁20のビス孔21,22,25,26に貫通したビス21a,22a,25a,26aを対応する隙間11,12,15,16に捩じ込み、開き防止ビス21b,22b,25b,26bを捩じ込むことにより、施工後の塗装を必要とせず見栄えの良いドア枠が構築される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート鋼板の成形加工で作製されたドア枠材を簡便な方法で且つ見栄え良く躯体に固着する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ドア閉鎖時の受け側となる金属製のドア枠材には従来からアルミニウム製が使用されてきたが、アルミニウム材は鋼材に比較して耐火性に劣るので、甲種耐火構造の部材として鋼製ドア枠材が必要とされている。
鋼製ドア枠材は、めっき鋼板等の素板を目標形状の部材に加工し、部材相互を溶接することにより組み立てられている。たとえば、互いに隣り合うプレート本体のフランジ同士をボルト・ナットで気密接合することにより、建築物の密閉された側壁が形成される(特許文献1)。
【特許文献1】WO2003/089727
【0003】
組立て後の塗装(ポストコート)でドア枠材に意匠性・耐食性を付与しているが、ポストコートではドア枠材の隘路に塗料が供給されず、十分な耐食性を得難い。そのため、塩害等の腐食環境に曝される地域で使用すると、ドア枠の外観を損なう赤錆が早期に発生しやすい。
ポストコートに比べ耐食性の良好なプレコート鋼板のドア枠材への使用が可能になると、長期にわたって美麗な外観を維持できることが期待される。しかし、プレコート鋼板をドア枠素材に使用する場合、ドア枠の組立工程で問題が生じる。具体的には、プレコート鋼板相互の接続には、意匠性を損なう溶接を適用できず、ビス止めが採用される。
【0004】
ビス止めによるプレコート鋼板の接続は、継ぎ金具を必要とし、組立て工数の増加を招く。工数増加は、ユニット形式のドア枠を製造する際に生産性低下の原因となる。継ぎ金具がドア枠の表面に位置すると見栄えを悪くするので、継ぎ金具が目立たない継手設計を工夫する必要がある。
また、プレコート鋼板から裁断された切板を接続すると、めっき層や塗膜のない切断端面が露出する構造になりやすく、端面からの錆発生が懸念される。このようなことから、プレコート鋼板をドア枠素材に使用することは実用化されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
継ぎ金具を不要とし、端面が露出しない継手設計が可能になると、プレコート鋼板本来の優れた特性が活用され、長期にわたって美麗な外観を維持するドア枠材が得られる。しかも、組立て後の塗装を基本的に必要としないので、施工コストの低減も図られる。
本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、ビスポケットを有する形状に成形したプレコート鋼板をドア枠素材に使用することにより、見栄えの良いドア枠の簡便な組立てに適した固着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プレコート鋼板を素材とし、ビスポケットとなる隙間を有する所定断面形状のドア枠材が建築物躯体に固着された構造において、ビスポケットとなる隙間がプレコート鋼板の曲げ加工で前記隙間が形成され、ドア枠材の断面形状が長手方向に関し一定しており、建築物躯体側のビス孔を貫通しビスポケットとなる隙間に捩じ込まれている固着用ビスでドア枠材が建築物躯体に固着されていることを特徴とする。
固着用のビスが捩じ込まれた隙間の外側から、固着用ビスに交差する方向に沿って開き防止ビスをドア枠材に捩じ込むことも可能である。
【発明の効果及び実施の形態】
【0007】
ドア枠,窓枠等に使用されるアルミニウムの押出材では、押出工程でビスポケットを有する断面形状に成形し、ドア枠,窓枠等を組み立てる際にビスポケットにビスをねじ込むことにより所定位置関係で押出材を固着している。本発明者等は、押出材のビスポケットと同様な機能をプレコート鋼板に付与する方法を種々調査・検討した。その結果、ロールホーミング,ベンダー曲げ等で所定断面形状にプレコート鋼板を加工すると、アルミニウム押出材と同じ要領で組み立てられるドア枠材として使用でき、アルミニウム押出材に比較して強度,耐火性が格段に優れたドア枠が得られることが判った。
【0008】
ロールホーミング.ベンダー曲げ等で、ビスポケットを有する断面形状にプレコート鋼板を成形加工する。ビスポケットを有する断面形状には、種々の形状が例示される(図1)。ロールホーミングによる場合、プレコート鋼板1の長手方向に関し同じ断面形状に成形でき、成形後のプレコート鋼板1を何れの部位で切断しても端面にビスポケットとなる隙間2が確保されるので有利である。ビスポケットとなる隙間2を形成する曲げ加工時に、所定幅に裁断されている切板の端面を内側に折り込み、腐食の起点になりやすい切断端面の外部露出を避けることが好ましい。
【0009】
最近のプレコート鋼板は、下地鋼に対する塗膜が良好で、図1に示す程度の加工では塗膜剥離が生じない。プレコート鋼板の製造に関する技術の進展も、ビスポケットとなる隙間2を有する断面形状への加工を可能にする要因である。また、ステンレス鋼,Zn-Al-Mg合金めっき鋼板等の高耐食材料を塗装原板に使用すると、切断端面からの腐食や赤錆発生も抑制される。
ビスポケットとなる隙間2を有する断面形状に成形されたプレコート鋼板1は、所定サイズに裁断された後、ドア枠材として建築物躯体の梁,支柱,帯板等に固着される。
中央柱となるドア枠材を鋼板製の梁にビス止めする場合を、図2を参照しながら具体的に説明する。図2では、天井側の鋼板製梁にドア枠材の上部を固着する状態を図示しているが、同様な作業手順で床側の梁にドア枠材の下部を固着することは勿論である。
【0010】
ドア枠材10は、プレコート鋼板のロールホーミングで製造され、ほぼ矩形状の断面をもち、ビスポケットとなる隙間11,12がプレコート鋼板の幅方向端部を折り返すことにより矩形状断面の正面に設けられている。矩形状断面の側面には、ドア開閉時の衝撃を緩和する緩衝材13,14が挟み込まれる挟持部が形成されているが、プレコート鋼板の曲げ加工で挟持部が成形されることを利用し、ビスポケットとなる隙間15,16を挟持部と同時成形する。
【0011】
隙間11,12,15,16が設けられたドア枠材10は、長手方向に関して断面形状が一定している。そのため、押出形材製のドア枠材のように長手方向どの部位で切断しても端面にビスポケットとなる隙間11,12,15,16が臨む。したがって、施工現場のサイズに応じた長さに切断すると、組付け可能なドア枠になる。
相手材である鋼板製梁20には、ドア枠材10の隙間11,12,15,16に対応する位置関係でビス孔21,22,25,26が穿孔されている。ビス孔21,22,25,26は、ドリル等を用いた現場作業で鋼板製梁20に形成することが通常であるが、同じサイズ,形状のドア枠材10を多量に固着するようなケースでは予めビス孔21,22,25,26を鋼板製梁20に設けておくことも可能である。
【0012】
鋼板製梁20のビス孔21,22,25,26にドア枠材10の隙間11,12,15,16を位置合せし、ビス21a,22a,25a,26aをビス孔21,22,25,26を貫通させて隙間11,12,15,16に捩じ込む。へたりやすいアルミニウム押出形材と異なり、剛性,強度の高い鋼板製であるため、ビス21a,22a,25a,26aを捩じ込んでも隙間11,12,15,16が開くことはほとんどなく、却って弾性復元力でビス21a,22a,25a,26aを締め付ける。なお、ビス21a,22a,25a,26aが隙間11,12,15,16に捩じ込まれた個所に外側から開き防止ビス21b,22b,25b,26bを打ち込むと、隙間11,12,15,16の開きが確実に防止される。
【0013】
このようにプレコート鋼板を所定断面形状にロールホーミング又はベンダー曲げ加工することにより作製されたドア枠材10は、隙間11,12,15,16を押出形材のビスポケットと同様に扱い、継ぎ金具等を必要とせずに建築物躯体に固着できる。そのため、固着作業が簡便で見栄え良く仕上げられると共に、プレコート鋼板の長所を十分活用できる。すなわち、下地鋼が露出している部分はドア枠材の上下端面だけであり、ドア利用者に見える表面には健全な塗膜が存在しており、プレコート鋼板本来の優れた耐食性,塗膜密着性,耐久性が維持される。
【0014】
曲げ加工で形成した隙間をビスポケットとして利用した接続であっても、十分な接合強度でドア枠材が建築物躯体に固着されることは、次の強度試験から理解できる。
被接合材として、板厚:1.6mmのプレコート鋼板を曲げ加工し、最大ギャップ:3.5mmの隙間を折り曲げ部に形成した試験片を用意した。相手材として、径:4.5mmのビス孔を形成した板厚:1.6mmの鋼板を使用した。試験片の隙間を鋼板のビス孔に合わせた後、ビス孔を貫通させた有効径:4mmのビスを隙間にトルク:30N・mで捩じ込むことにより試験片を鋼板に接合した。
次いで、試験片,鋼板それぞれに反対方向の力(引張り力)を加え、鋼板から試験片が分離するまで引張り力を増加させた。分離時の引張り力は120〜590N/mm2であり、上下方向から建築物躯体で支持されるドア枠としては十分な接合強度であった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
以上に説明したように、プレコート鋼板を所定形状に曲げ加工してドア枠材を作製する際、ビスポケットとなる隙間を同時成形している。得られたドア枠材を施工現場のサイズにあった長さに切断しても、ビスポケットとなる隙間が端面に臨んでいるので、建築物躯体にドア枠材を固着する際のビス止めに利用できる。そのため、耐食性に優れたプレコート鋼板の長所を活用し、施工後の塗装が不要で見栄えの良いドア枠が簡単に据え付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ビスポケットとなる隙間をつけたプレコート鋼板の断面図
【図2】ドア枠材を建築物躯体に固着する作業の説明図
【符号の説明】
【0017】
1:プレコート鋼板 2:ビスポケットとなる隙間
10:ドア枠材 11,12,15,16:隙間 13,14:緩衝材
20:鋼板製梁 21,22,25,26:ビス孔 21a,22a,25a,26a:固着用ビス 21b,22b,25b,26b:開き防止ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレコート鋼板を素材とし、ビスポケットとなる隙間を有する所定断面形状のドア枠材が建築物躯体に固着された構造であり、プレコート鋼板の曲げ加工で前記隙間が形成されており、ドア枠材の断面形状が長手方向に関して一定であり、建築物躯体側のビス孔を貫通し前記隙間に捩じ込まれている固着用ビスで建築物躯体にドア枠材が固着されていることを特徴とするドア枠材の固着構造。
【請求項2】
固着用ビスが捩じ込まれた隙間の外側から固着用ビスに交差する方向に沿って開き防止ビスがドア枠材に捩じ込まれている請求項1記載の固着構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−39963(P2007−39963A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224954(P2005−224954)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】