プレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法
【課題】絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができるプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法を提供する。
【解決手段】まず、実測した絶縁油中水分量とその時の最高油温度の値とを基に、劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量との関係などを使用して、プレスボード中水分量を推定し、平均的なプレスボード中水分量を求める。次に、その値から最適な絶縁油中水分量を決定し、劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量との関係などを使用して、巻線上部の巻線最高点温度部の温度と絶縁油中水分量とから、最適な絶縁紙中水分量を求める。最後に、求められた絶縁紙中水分量から変圧器の余寿命を診断する。
【解決手段】まず、実測した絶縁油中水分量とその時の最高油温度の値とを基に、劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量との関係などを使用して、プレスボード中水分量を推定し、平均的なプレスボード中水分量を求める。次に、その値から最適な絶縁油中水分量を決定し、劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量との関係などを使用して、巻線上部の巻線最高点温度部の温度と絶縁油中水分量とから、最適な絶縁紙中水分量を求める。最後に、求められた絶縁紙中水分量から変圧器の余寿命を診断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスボードまたは巻線絶縁紙の平均重合度残率から変圧器の余寿命を求める、プレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所や変電所、一般家庭などで使用されている密閉形の油入電力用変圧器の寿命は、巻線絶縁紙の劣化度合いにより決定される。この劣化度合いは、絶縁紙を構成しているセルロース分子のつながり度合いを示す「平均重合度」という値で評価されている。新しい絶縁紙の場合、「平均重合度」は1000程度であるが、機械的強度が急激に低下する値が450程度であることから、450程度までに低下した時が「寿命」すなわち「変圧器の更新時期」と定義されている。
【0003】
絶縁紙の劣化度合いを示す「平均重合度」を求めるためには、絶縁紙を採取して分析する必要があるが、運転中の変圧器から巻線絶縁紙を採取することは非常に困難である。そのため、従来、絶縁紙の採取による直接的な測定は行われておらず、絶縁紙劣化の進展に伴い絶縁紙から絶縁油中に生成される劣化指標生成物(CO2+COやフルフラールなど)の発生量と平均重合度低下との関係を参照して、間接的に平均重合度を診断するという手法が適用されている。この診断法は、劣化指標生成物が溶存する絶縁油を運転中でも採取可能で、容易に劣化指標生成物の発生量を調べることができるため、非常に簡便であり、一般的に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、劣化指標生成物は、巻線絶縁紙だけではなく、変圧器の内部構成材料であるプレスボードや木材等からも発生している。このため、巻線絶縁紙とプレスボード等との材料構成比が変圧器の型式等で違うことや、負荷率や外気温度の影響により劣化指標生成物が巻線絶縁紙やプレスボード等に吸脱着することなどが影響して劣化指標生成物の発生量に差異が生じ、さまざまな型式の変圧器の発生量と平均重合度との関係を図にプロットすると、発生量に対して平均重合度が数十%のばらつきを持った関係図が得られる。このため、精度良く絶縁紙の劣化度合いを診断することができないという問題があった。
【0005】
そこで、高精度に絶縁紙の劣化度合いを診断する方法として、CO2+COやフルフラール等の劣化指標生成物を全く用いず、最も絶縁紙劣化の進行が著しい部位(通常、巻線高さ方向で巻線上部の絶縁紙)に対し、絶縁紙劣化の主要因である熱の履歴と、熱劣化の際に紙中に存在した水分量との関係から絶縁紙の劣化度合いを診断し、変圧器の余寿命を推定する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−66435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の電力用変圧器の余寿命診断装置では、変圧器が運転中であっても容易に採取できる絶縁油の油中水分量を用い、新しい絶縁紙および新しい絶縁油から得られた紙−油間の水分平衡関係図を参照して、絶縁紙の紙中水分量を推定していた。しかしながら、長年使用して劣化した絶縁紙および絶縁油は、新しい絶縁紙および絶縁油と比べて、絶縁紙および絶縁油のそれぞれが分担する水分量が異なるため、推定された絶縁紙の紙中水分量に大きい誤差が含まれる可能性があり、電力用変圧器の余寿命の診断精度が低下する可能性があるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができるプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、日本の大多数の電力用変圧器は密閉形の構造となっていることから、外部から侵入する水分がなく、変圧器内部に存在する水分のみ考慮すればよいという利点を利用して、本願発明に関する研究を行った。本発明者等は、関連する文献や実証試験等によって、絶縁紙が劣化することにより紙−油間の水分平衡関係が変化するという知見を得、これにより、絶縁紙の劣化が進行している経年変圧器を対象とした診断については、絶縁紙等の劣化度合いに対応した紙−油間の水分平衡関係図を参照して紙中水分量を推定することで、変圧器の余寿命の診断精度が向上するものと考え、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法は、電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第1のステップと、あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブに基づいて、前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器のプレスボード中の水分量を求める第2のステップと、少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の絶縁油最高油温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第1のステップの測定時の前記プレスボードの寿命損失比を計算する第3のステップと、あらかじめプレスボードの加熱劣化試験によって得られた初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスタカーブ、および寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブに基づいて、前記第2のステップで求められた前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、劣化の指標となる前記プレスボードの重合度残率を求める第4のステップと、あらかじめ求められた劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブに基づいて、前記第4のステップで求められた前記プレスボードの重合度残率と前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記プレスボード中の水分量を補正する第5のステップと、前記第2マスターカーブおよび前記第3マスターカーブに基づいて、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、前記プレスボードの重合度残率を補正する第6のステップと、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と、前記第6のステップで補正された前記ブレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第7のステップとを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法は、劣化したプレスボードの重合度残率ごとに絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブをあらかじめ求めておき、この第4マスターカーブを利用してプレスボード中の水分量を推定することができる。このように、プレスボードの劣化を考慮してプレスボードの水分量を推定するため、新しいプレスボードと絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、プレスボード中の水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。なお、プレスボードとは、変圧器の巻線を挟むようにして巻線の上下に配置される電気絶縁紙である。余寿命診断に使用するプレスボードは、巻線上部に配置されたもので、絶縁油の油中温度を測定するための温度計の近傍に配置されている。
【0012】
本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法で、前記第7のステップは、前記第6のステップで補正された前記プレスボードの重合度残率と、補正前の前記プレスボードの重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第5のステップおよび前記第6のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記プレスボード中の水分量と前記プレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することが好ましい。この場合、より精度良く、劣化したプレスボード中の水分量とプレスボードの重合度残率とを推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をより高めることができる。
【0013】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法は、電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第8のステップと、あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブに基づいて、前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器の巻線絶縁紙中の水分量を求める第9のステップと、少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、負荷履歴、および運転時における点検の際に測定した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の巻線最高点温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第8のステップの測定時の前記巻線絶縁紙の寿命損失比を計算する第10のステップと、あらかじめ巻線絶縁紙の加熱劣化試験によって得られた初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、および寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブに基づいて、前記第9のステップで求められた前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、劣化の指標となる前記巻線絶縁紙の重合度残率を求める第11のステップと、あらかじめ求められた劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブに基づいて、前記第11のステップで求められた前記巻線絶縁紙の重合度残率と前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記巻線絶縁紙中の水分量を補正する第12のステップと、前記第6マスターカーブおよび前記第7マスターカーブに基づいて、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、前記巻線絶縁紙の重合度残率を補正する第13のステップと、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第14のステップとを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法は、劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとに絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブをあらかじめ求めておき、この第8マスターカーブを利用して巻線絶縁紙中の水分量を推定することができる。このように、絶縁紙の劣化を考慮して紙中水分量を推定するため、新しい絶縁紙と絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。
【0015】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法で、前記第14のステップは、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率と、補正前の前記巻線絶縁紙の重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第12のステップおよび前記第13のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記巻線絶縁紙中の水分量と前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することが好ましい。この場合、より精度良く、劣化した巻線絶縁紙中の水分量と巻線絶縁紙の重合度残率とを推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をより高めることができる。
【0016】
本発明に係る電力用変圧器の余寿命診断方法は、本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法により補正された前記プレスボード中の水分量と前記ブレスボードの重合度残率と、前記第1のステップで測定された前記絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて前記絶縁油中水分量を補正し、その絶縁油中水分量を前記第9ステップの前記絶縁油中水分量として使用して、本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法により前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする。
【0017】
本発明に係る電力用変圧器の余寿命診断方法は、絶縁油の油中温度を測定するための温度計の近傍に配置されたプレスボードと絶縁油との間の水分平衡関係を考慮して求めた絶縁紙中水分量を使用して、巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命を診断するため、電力用変圧器の余寿命の診断精度をさらに高めることができる。
【0018】
なお、本発明に係るプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法で、プレスボードや巻線絶縁紙の寿命損失比(熱履歴)を計算したり、プレスボードや巻線絶縁紙の水分量を推定したりするために必要なデータは、絶縁油の定期的な油中水分量や油温度の測定記録や、負荷日誌に記録した負荷履歴、電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、最寄りの気象観測データ等であり、いずれも比較的容易に入手することができる。また、第1〜第8マスターカーブを得るための水分平衡試験や加熱劣化試験等も、比較的容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができるプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第1のフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第2のフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第3のフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第1マスターカーブを示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第2マスターカーブを示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第3マスターカーブを示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第4マスターカーブを示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第5マスターカーブを示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第6マスターカーブを示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第7マスターカーブを示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第8マスターカーブを示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、変圧器周囲の外気温度変動と負荷による温度上昇とにより巻線最高点温度が変化する様子を表わした説明図である。
【図13】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、定格負荷時における変圧器内の絶縁油と巻線温度との関係を示した説明図である。
【図14】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、任意負荷時における変圧器内の絶縁油と巻線温度との関係を示した説明図である。
【図15】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の、実測の最高油温度による補正を行い、実測に近い巻線最高点温度ならびに最高油温度が得られる過程を示した説明図である。
【図16】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の診断対象の変圧器内部での、絶縁油中水分量、プレスボード中水分量および絶縁紙中水分量の位置関係を示す概略断面図である。
【図17】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法において、絶縁油中水分量の複数個の実測データからプレスボード中水分量を推定するときに、他のデータに比べて乖離の大きいデータを除外する手順を表す説明図である。
【図18】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法において、絶縁油中水分量の複数個の実測データからプレスボード中水分量を推定するときに、他のデータに比べて乖離の大きいデータを除外する手順を表す説明図である。
【図19】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の、絶縁紙の重合度残率と寿命損失比との関係図から決定されたマスターカーブと、求めるべき余寿命との関係を示す説明図である。
【図20】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法により推定された変圧器の絶縁紙の重合度残率と、実測された絶縁紙の重合度残率とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至図20は、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示している。
以下、図1乃至図3に示すフローチャートに従って、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法について説明する。
【0022】
まず、余寿命診断で使用する電力用変圧器のプレスボードおよび絶縁紙の各種物理量の関係を、マスターカーブとしてあらかじめ求めておく。求めるマスターカーブは、新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブ、初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスターカーブ、寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブ、劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブ、新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブ、初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブ、および劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブである。
【0023】
[第1マスターカーブ:水分平衡試験による新品のプレスボード中水分量と絶縁油中水分量との関係]
新品のプレスボード(重合度残率DPpb=100%)、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、プレスボード−油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードと絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpbと水分量とを変えて繰り返して行い、プレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られるプレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図4のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第1マスターカーブとする。
【0024】
[第2マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比とプレスボード中水分量との関係]
寿命損失比(熱履歴)Vr’は、プレスボードの加熱劣化試験で得られる加熱温度をθpbi、その継続時間をhpbiとすると、次式で求めることができる。
【数1】
ここで、aおよびbは定数である。
【0025】
プレスボードの加熱劣化試験を行い、加熱時間内の要所でプレスボードを1つずつ取り出して、プレスボード中水分量Wpbを測定する。プレスボードを取り出すまでの加熱温度θpbiおよびその継続時間hpbiを(1)式に代入し、寿命損失比Vr’を求める。この寿命損失比Vr’とプレスボード中水分量Wpbとの関係を求めると、図5のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第2マスターカーブとする。
【0026】
なお、図5の関係から、プレスボード中水分量Wpbは、寿命損失比Vr’を用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数2】
ここで、a0’〜a3’は初期プレスボード中水分量によって決まる定数(図5より得た回帰式の係数)である。
【0027】
[第3マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比とプレスボードの重合度残率との関係]
プレスボードの加熱劣化試験において、試験を開始する段階で、加熱温度がある値になり水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードを1つ取り出して、プレスボード中の水分量を測定し、これを加熱開始時の初期プレスボード中水分量とする。また、加熱劣化試験の加熱時間内の要所でプレスボードを1つずつ取り出し、平均重合度残率DPpbを測定する。
【0028】
プレスボードを取り出すまでの加熱温度θpbiおよびその継続時間hpbiを(1)式に代入し、寿命損失比Vr’を求める。初期プレスボード中水分量ごとに、この寿命損失比Vr’と平均重合度残率DPpbとの関係を求めると、図6のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第3マスターカーブとする。
【0029】
なお、図6の関係から、プレスボードの平均重合度残率DPpbrは、寿命損失比Vr’を用いて、次式で示される。
【数3】
ここで、βm’、γm’は初期プレスボード中水分量によって決まる定数(図6より得た回帰式の係数)である。
【0030】
[第4マスターカーブ:水分平衡試験による劣化したプレスボード中水分量と絶縁油中水分量との関係]
劣化したプレスボード、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し,加熱温度が設定温度になり、プレスボード−絶縁油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードと絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpb、水分量、プレスボードの重合度残率(DPpb=DPpbk%)を変えて繰り返して行い、プレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られるプレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図7のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第4マスターカーブとする。
【0031】
なお、図4および図7の関係から、プレスボード中水分量Wpbは、絶縁油中水分量Wo、プレスボードの重合度DPpb、温度Tpbを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数4】
ここで、A0’〜A6’は定数(図4および図7より得た回帰式の係数)である。
【0032】
[第5マスターカーブ:水分平衡試験による新品の絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量との関係]
新品の巻線絶縁紙(重合度残率DP=100%)、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、絶縁紙−油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に絶縁紙と絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpと水分量とを変えて繰り返して行い、絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られる絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図8のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第5マスターカーブとする。
【0033】
[第6マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比と絶縁紙中水分量との関係]
寿命損失比(熱履歴)Vrは、巻線絶縁紙の加熱劣化試験で得られる加熱温度をθi、その継続時間をhiとすると、次式で求めることができる。
【数5】
ここで、aおよびbは定数である。
【0034】
巻線絶縁紙の加熱劣化試験を行い、加熱時間内の要所で絶縁紙を1つずつ取り出して、絶縁紙中水分量Wを測定する。巻線絶縁紙を取り出すまでの加熱温度θiおよびその継続時間hiを(5)式に代入し、寿命損失比Vrを求める。この寿命損失比Vrと絶縁紙中水分量Wとの関係を求めると、図9のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第6マスターカーブとする。
【0035】
なお、図9の関係から、絶縁紙中水分量Wは、寿命損失比Vrを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数6】
ここで、a0〜a3は初期絶縁紙中水分量によって決まる定数(図9より得た回帰式の係数)である。
【0036】
[第7マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率との関係]
巻線絶縁紙の加熱劣化試験において、試験を開始する段階で、加熱温度がある値になり水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に巻線絶縁紙を1つ取り出して、絶縁紙中の水分量を測定し、これを加熱開始時の初期紙中水分量とする。また、加熱劣化試験の加熱時間内の要所で巻線絶縁紙を1つずつ取り出し、平均重合度残率DPを測定する。
【0037】
巻線絶縁紙を取り出すまでの加熱温度θiとその継続時間hiを(5)式に代入し、寿命損失比Vrを求める。初期紙中水分量ごとに、この寿命損失比Vrと平均重合度残率DPとの関係を求めると、図10のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第7マスターカーブとする。
【0038】
なお、図10の関係から、巻線絶縁紙の平均重合度残率DPrは、寿命損失比Vrを用いて、次式で示される。
【数7】
ここで、βm、γmは初期絶縁紙中水分量によって決まる定数(図10より得た回帰式の係数)である。
【0039】
[第8マスターカーブ:水分平衡試験による劣化した絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量との関係]
劣化した巻線絶縁紙、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、絶縁紙−絶縁油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に巻線絶縁紙と絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tp、水分量、巻線絶縁紙の重合度(DP=DPl%)を変えて繰り返して行い、絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られる絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図11のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第8マスターカーブとする。
【0040】
なお、図8および図11の関係から、絶縁紙中水分量Wは、絶縁油中水分量Woと絶縁紙の重合度DP、温度Tpを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数8】
ここで、A0〜A6は定数(図8および図11より得た回帰式の係数)である。
【0041】
[変圧器の巻線最高温度部および最高油温度部の寿命損失比]
次に、余寿命を診断する電力用変圧器の巻線最高点温度部および最高油温度部の寿命損失比を求める。まず、変圧器の過去の負荷記録(日時、負荷率等)や、変圧器が設置されている場所に最も近い気象観測地点で観測された外気温度データ、運転時における点検の際に測定した絶縁油温度等を用いて巻線最高点温度および最高油温度を算出する。
【0042】
図12に、変圧器周囲の外気温変動と、負荷による巻線最高点温度上昇の関係を示す。図12に示すように、巻線最高点温度がある一定の温度で継続する時間(以降、「継続時間」と呼ぶ)hにおける任意負荷時の巻線最高点温度θ0は、(9)式により求めることができる。
θ0[℃]=θt[℃]+θL[K] (9)
θ0[℃]:継続時間h[hour]における任意負荷時の巻線最高点温度
θt[℃]:継続時間h[hour]における任意負荷時の外気温度
θL[K]:継続時間h[hour]における任意負荷時の巻線最高点温度上昇値
【0043】
具体的な巻線最高点温度は、図13に示す定格負荷時の変圧器内部の温度分布と、図14に示す継続時間hにおける任意負荷時の変圧器内部の温度分布との関係から、以下の手順で求めることができる。
1.継続時間hにおける負荷率Lf
Lf[p.u.]=Px/Pn(=(負荷データ[kW]/力率)/変圧器定格容量[kVA]) (i)
Px[kVA]:継続時間h[hour]における任意負荷時の容量
Pn[kVA]:定格容量
【0044】
2.継続時間hにおける任意負荷時の負荷損Wcx
Wcx[kW]=(Lf)2×Wcn (ii)
Wcn[kW]:定格負荷時の負荷損(工場試験記録データ引用)
3.継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度上昇値θoil
(電気学会 電気規格調査会標準規格:JEC-2200-1995「変圧器」参照)
θoil[K]={(Wcx+Wfn)/(Wcn+Wfn)}0.8×θoiln (iii)
Wfn[kW]:無負荷損
θoiln[K]:定格負荷時の最高油温度上昇値(工場試験記録データ引用)
【0045】
4.定格負荷時の巻線最高点温度−最高油温度間の温度差Δθwmn(図13参照)
Δθwmn[K]=θwn+εmn(=15または10)−θoiln (iv)
θwn[K]:定格負荷時の中央部平均巻線温度上昇値
εmn[K]:巻線最高点温度と抵抗法によって測定される巻線平均温度との差
(油自然循環の場合には15[K]、油強制循環の場合には10[K])
5.継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度−最高油温度間の温度差Δθwm
(JEC-2200-1995「変圧器」ならびに図14参照)
Δθwm[K]=(Lf)1.6×Δθwmn (v)
【0046】
6.継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度上昇値θL(図14参照)
θL[K]=θoil+Δθwm (vi)
7.継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度θoilest
θoilest[℃]=θt+θoil (vii)
【0047】
次に、変圧器の巡視の際に記録していた絶縁油の最高油温度を用い、巡視時の最高油温度の記録と推定した最高油温度とを比較して、次式により巻線最高点温度ならびに最高油温度の補正を行う。
θ[℃]=θ0[℃]+(θoilmeasav[℃]−θoilestav[℃]) (10)
θoilh[℃]=θoilest[℃]+(θoilmeasav[℃]−θoilestav[℃]) (11)
θ[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の補正巻線最高点温度
θ0[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度
θoilh[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度
θoilmeasav[℃]:実測最高油温度
(定期的な巡視により測定される最高油温度記録の年間平均値)
θoilestav[℃]:最高油温度
((vii)式により得られる毎月の推定最高油温度最大値の年間平均値)
この処理により、図15に示すような補正が行われ、実際の温度に近い巻線最高点温度および最高油温度の推定を行うことができる。
【0048】
こうして推定した巻線最高点温度および最高油温度を用い、(5)式および(1)式に代入することにより、巻線最高点温度部および最高油温度部での寿命損失比VrならびにVr’を算出する。また、推定した毎正時の巻線最高点温度および最高油温度を用い、巻線最高点温度の平均温度Taおよび最高油温度の平均温度THを次式により算出する。
Ta[℃]=(θ(1)+θ(2)+θ(3)+・・・・・・・・・・・+θ(p))/p (12)
TH[℃]=(θoilh (1)+θoilh(2)+θoilh(3)+・・・+θoilh(q))/q (13)
【0049】
[絶縁油中水分量から絶縁紙中水分量を推定する手順]
紙中水分量を推定する際、実測した絶縁油中水分量と、その時のダイヤル温度計すなわち最高油温度の値とを基に、絶縁紙中水分量を求めていく。そのため、まず、図4〜図7の第1〜第4マスターカーブを使用して、図16に示すダイヤル温度計に近い上部プレスボードのプレスボード中水分量を推定し、平均的なプレスボード中水分量を求め、そこから最適な絶縁油中水分量Woを決定する。次に、図16に示すように、絶縁油中水分量Woは、冷却装置による対流があることから、Woの値のまま巻線部も対流していると考え、図8〜図11の第5〜第8マスターカーブを使用して、巻線上部の巻線最高点温度部の温度と油中水分量Woとから、最適な紙中水分量Wlを求める。
【0050】
次に、ある地方から撤去した変圧器(No.1〜11)を例に具体的に説明する。表1〜表3には、11個の撤去変圧器毎に、ある時期に測定した油中水分Woの実測値を示すと共に、その実測値に基づいて推定した各数値結果を示す。以下、この表1〜表3の数値結果を参照しながら、本発明の電力用変圧器の余寿命診断の手順について具体的に説明する。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
[変圧器の絶縁油中水分量の算出]
電力用変圧器については、日頃から定期的にその絶縁油中水分や絶縁油温度を測定しているから、撤去変圧器についても、そのデータを容易に得ることができる。表1〜表3には、その撤去変圧器毎に、複数回測定したときの油中水分の実測値を示す。
【0055】
変圧器の余寿命は、変圧器中のプレスボード中水分量やプレスボードの重合度残率が大きく影響するから、絶縁油中水分の実測値からこれらの値を推定する必要があるが、その推定に際し、上部プレスボードの重合度残率DPpbは未知であるから、第1番目の手順として新品の残率DPpb=100%と仮定して、図4に示すDPpb=100%のときのプレスボード中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、プレスボード中水分量Wpb0(i)を求めることとする(ステップ12)。
【0056】
ここで、絶縁油中水分量の値には、年間を通じて季節などによる変化があることから、1回の絶縁油中水分量のデータのみを使用した場合には、夏場に測定したデータであれば高めに、冬場に測定したデータであれば低めに偏った値を取り入れて評価することになる。これを回避するために、年間を通して絶縁油中水分量のデータを複数回(n回)測定し、それぞれの絶縁油中水分量から求められたプレスボード中水分量を平均することにより、絶縁油中水分量の季節変化による影響を排除している。
【0057】
具体的には、図4のグラフに絶縁油中水分の実測値をプロットして、図17に示すようなグラフを作成する。図17のグラフ中に例えばWo(5)やWo(6)のように、測定誤差等の理由で他のプレスボード中水分量と比較して乖離の大きいプレスボード中水分量があればそれを除外し、誤差要因を排除する(ステップ13)。残ったm個(m≦n)(図17では4個)の油中水分の実測値に基づいて求めたプレスボード中水分量から、それらプレスボード中水分量の平均値Wpb0を次式により求める(ステップ14)。
Wpb0[%]=(Wpb0(1)+Wpb0(2)+Wpb0(3)+・・・・+Wpb0(m))/m
(14)
【0058】
具体的には、上記平均値Wpb0の季節変化に伴う温度の影響を加味して、絶縁油中水分量Woを補正する必要がある。その補正は、上記で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpb0と、(13)式で求めた最高油温度の平均温度THとの数値から、図4に基づいて平均温度THの絶縁油中水分W0を求める。すなわち、図4は、プレスボード中水分と油中水分との間のTpb℃の水分平衡曲線を示すマスターカーブであるから、この図4のマスターカーブと上記平均値Wpb0の数値とから平均温度THに該当する絶縁油中水分Wo(補正値)を求めることができる(ステップ15)。表1〜表3には、変圧器(No.1〜11)について、(13)式で求めた「平均温度TH」を示す。
【0059】
変圧器を実測したときのプレスボード中水分量は、上述のとおり、図4から推定することができるが、プレスボード中水分の初期値も変圧器中の紙の劣化に大きく影響するので、余寿命の診断にはその影響をも考慮する必要がある。図5は、プレスボード中水分初期値と寿命損失比の関係を示すマスターカーブである。上から、水分初期値4%、3%、2%、1%のマスターカーブである。また、図6は、プレスボードの平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブをプレスボード中水分初期値毎に示したものである。
【0060】
変圧器毎のプレスボードの寿命損失比Vr´は、表1〜表3に11個の変圧器の数値を示すように、平均温度THと継続時間hとから、式(1)に基づいて算出することができる。
そこで、(14)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpb0と上記プレスボードの寿命損失比Vr’との値を図5にプロットし、両者の交点から、変圧器のプレスボード中水分初期値Wpb0’を求めることができる(ステップ16)。
【0061】
次に、図6には、プレスボードの平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブがプレスボード中水分初期値毎に示されているから、この図6に上記算出した寿命損失比Vr’をプロットすれば、水分初期値Wpb0’のときのプレスボードの平均重合度残率を求めることができる(ステップ17)。
【0062】
そして、求めた平均重合度残率が図4のマスターカーブ作成時の仮定値である「重合度100%」と近似していれば、仮定どおり余寿命の診断ができるとして、この手順を終了する。しかし、大きくかけ離れた、例えば40%の数値であれば、重合度100%と仮定したことに問題があるとして、重合度100%の図4を見直すこととする。すなわち、図4のマスターカーブについては、予め重合度を変えた複数種類のものが作成されているから、例えば上記のごとく40%の数値であれば、40%の場合のマスターカーブを示す図7を選択し、この図7に基づいて最初から同様の手順を繰り返して、仮定値に近い重合度が得られたときにこの手順を終了する。
【0063】
この手順のフローについては、図2に示す。プレスボード重合度残率DPpbとプレスボード重合度残率の推定値DPpbeとの差が、所定の閾値ΔDPpb以下であるか否かにより、次式を使用して、求められたプレスボードの重合度残率の妥当性を判別する(ステップ18)。
|DPpb−DPpbe|<ΔDPpb (15)
ここでは、DPpb=100、DPpbe=DPpb1を(15)式に代入して判別を行う。(15)式を満足する場合は、プレスボードの重合度残率の推定最終値DPpbにDPpb1を代入してプレスボードの重合度残率とし、絶縁油中水分量の推定最終値WkにWoを代入して絶縁油中水分量とする(ステップ19)。図3に示す絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出のステップに移行する。(15)式を満足しない場合は、k=1とし、プレスボードの重合度DPpbにDPpbk(k=1)を代入して、次の劣化プレスボードによる算出に移行する(ステップ20)。
【0064】
測定された絶縁油中水分量Wo(i)(i=1〜n)と絶縁油温度Tpb(i)、および上部プレスボードの重合度残率DPpb=DPpbk[%]を用い、図7に示すDPpb=DPpbk[%]の時の劣化プレスボード中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、プレスボード中水分量Wpbk(i)を求める(ステップ21)。
【0065】
図18に示すように、n個のプレスボード中水分Wpbk(i)を図7のグラフにプロットし、他のプレスボード中水分量と比較して乖離の大きいプレスボード中水分量を除外し、誤差要因を排除することは、上述したとおりである(ステップ22)。残ったm個(m≦n)のプレスボード中水分量から、プレスボード中水分量の平均値Wpbkを次式により求める(ステップ23)。
Wpbk[%]=(Wpbk(1)+Wpbk(2)+Wpbk(3)+・・・・+Wpbk(m))/m (16)
【0066】
(16)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpbkと、(13)式で求めた最高油温度の平均温度THを用いて、図7の関係に基づいて、絶縁油中水分量Wkを求める(ステップ24)。また、(16)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpbkと、(11)式および(1)式で求めた上部プレスボードの寿命損失比Vr’とを用いて、図5に示す寿命損失比とプレスボード中水分量との関係に基づいて、初期のプレスボード中水分量Wpbk’を求める(ステップ25)。図6に示す寿命損失比とプレスボード重合度残率との関係から、初期プレスボード中水分量がWpbk’の特性カーブを参照し、プレスボードの重合度残率DPpb(k+1)を求める(ステップ26)。
【0067】
次に、(15)式を用いて、求められたプレスボードの重合度残率の妥当性を判別する(ステップ27)。ここでは、DPpb=DPpbk、DPpbe=DPpb(k+1)を(15)式に代入して判別を行う。(15)式を満足する場合は、プレスボードの重合度残率の推定最終値DPpbにDPpbkを代入してプレスボードの重合度残率とし、絶縁油中水分量の推定最終値Wkを絶縁油中水分量とし(ステップ19)、図3に示す絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出のステップに移行する。(15)式を満足しない場合は、k=k+1とし、プレスボードの重合度DPpbにDPpb(k+1)を代入して、ステップ21からステップ27を繰り返す。
【0068】
以上により、図3に示すように、(15)式を満足した時の各値は次のようになる(ステップ28)。
絶縁油中水分量:Wk[ppm]
絶縁油最高油温度の平均温度:TH[℃]
上部プレスボード中水分量:Wpbk[%]
上部プレスボードの重合度残率:DPpbk[%]
【0069】
[プレスボードによる余寿命の診断]
以上の手順により、プレスボードの初期紙中水分量Wpbk’が求められることから、図6に示す寿命損失比とプレスボードの平均重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19は巻線絶縁紙の場合を示しているが、プレスボードの場合にも同様に考えられるため、図19を参照すると、決定されたマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(11)式および(1)式で求めた診断時の寿命損失比Vr’との差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを次式で算出することができる。
Vrm=V0−Vr’ (17)
【0070】
診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmは、次式で表すことができる。
Vrm=Σ{∫exp(bθ1i)dh2i} (18)
(18)式が(17)式と等価となる時が寿命到達点であることから、次式のように表される。
V0−Vr=exp(bθ11)×h21+exp(bθ12)×h22+・・・+exp(bθ1n)×h2n
(19)
(19)式の時間の総和を求めた値が余寿命h2iとなり、次式で表される。
h2i=h21+h22+・・・・・・・・・・・・+h2n (20)
(20)式から、プレスボードによる変圧器の余寿命を計算することができる。
【0071】
[変圧器の絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出]
ここまでは、変圧器中のプレスボードの平均重合度残率等の推定、およびプレスボードによる余寿命の診断について説明してきたが、変圧器の余寿命の診断では、変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率等の推定が必要であるから、以下、変圧器中の絶縁紙の重合度残率等の推定について、具体的に説明する。
【0072】
手順のフローを図3に示す。変圧器中の絶縁紙の重合度残率等の推定も、基本的には、プレスボードの平均重合度残率等の推定と同様である。電力用変圧器については、日頃から定期的にその絶縁油中水分や絶縁油温度を測定しているため、絶縁油中水分としてその実測値の平均値を使用する。プレスボードの場合と同様に、図8のマスターカーブから、巻紙絶縁中水分量Wを求めることができるが、巻線絶縁紙の重合度残率DPは、プレスボードの場合と同様に、その値が未知のために、新品の残率DP=100%と仮定して、図8に示すDP=100%のときの絶縁紙中水分−油中水分間の水分平衡曲線に基づいて、紙中水分量Wを求めることができる(ステップ29)。表1〜表3には、変圧器(No.1〜11)について、(12)式で求めた「平均温度Ta」を示す。
【0073】
巻線絶縁紙中の水分量の初期値は、変圧器中の絶縁紙の劣化に大きく影響するので、余寿命の診断にはその影響をも考慮する必要がある。図9は、絶縁紙中水分初期値と寿命損失比の関係を示すマスターカーブである。上から、水分初期値4%、3%、2%、1%のマスターカーブである。また、図10は、巻線絶縁紙の平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブを絶縁紙中水分初期値毎に示したものである。
【0074】
変圧器毎の巻線絶縁紙の寿命損失比Vrは、表1〜表3に11個の変圧器の数値を示すように、平均温度Taと継続時間hとから、式(5)に基づいて算出することができる。
そこで、図8で求めた紙中水分量Wと上記巻線絶縁紙の寿命損失比Vrとの値を図9にプロットし、両者の交点から、変圧器の初期の紙中水分量W0’を求める(ステップ30)。
【0075】
次に、図10には、巻線絶縁紙の平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブが初期紙中水分量毎に示されているから、この図10に上記算出した寿命損失比Vrをプロットすれば、水分初期値W0’のときの巻線絶縁紙の平均重合度残率DP1を求めることができる(ステップ31)。
【0076】
そして、求めた平均重合度残率が図8のマスターカーブ作成時の仮定値である「重合度100%」と近似していれば、仮定どおり余寿命の診断ができるとして、この手順を終了する。しかし、大きくかけ離れた、例えば40%の数値であれば、重合度100%と仮定したことに問題があるとして、重合度100%の図8を見直すこととする。すなわち、図8のマスターカーブについては、予め重合度を変えた複数種類のものが作成されているから、例えば上記のごとく40%の数値であれば、40%の場合のマスターカーブを示す図11を選択し、この図11に基づいて最初から同様の手順を繰り返して、仮定値に近い重合度が得られたときにこの手順を終了する。
【0077】
この手順については、まず、絶縁紙の重合度残率DPと絶縁紙の重合度残率の推定値DPeとの差が、所定の閾値ΔDP以下であるか否かにより、次式を使用して、求められた絶縁紙の重合度残率の妥当性を判別する(ステップ32)。
|DP−DPe|<ΔDP (21)
ここでは、DP=100、DPe=DP1を(21)式に代入して判別を行う。(21)式を満足する場合は、絶縁紙の重合度残率の推定最終値DPにDP1を代入して絶縁紙の重合度残率とし、絶縁紙中水分量の推定最終値としてWを代入して絶縁紙中水分量とし、これらの値を絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の最終的な推定値とする(ステップ33)。(21)式を満足しない場合は、l=1とし、絶縁紙の重合度DPにDPl(l=1)を代入して、次の劣化紙による算出に移行する(ステップ34)。
【0078】
絶縁油中水分量Wkと、(12)式で求めた巻線最高点温度部の平均温度Ta、および巻線上部絶縁紙の重合度残率DP=DPl[%]を用いて、図11に示すDP=DPl[%]の時の劣化絶縁紙中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、巻線上部絶縁紙中水分量Wlを求める(ステップ35)。
【0079】
求めた紙中水分量Wlと、(10)式および(5)式で求めた巻線上部絶縁紙の寿命損失比Vrとを用いて、図9に示す寿命損失比と紙中水分量との関係に基づいて、初期の紙中水分量Wl’を求める(ステップ36)。図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率との関係から、初期紙中水分量がWl’の特性カーブを参照し、絶縁紙の重合度残率DP(l+1)を求める(ステップ37)。
【0080】
次に、(21)式を用いて、求められた絶縁紙の重合度残率の妥当性を判別する(ステップ38)。ここでは、DP=DPl、DPe=DP(l+1)を(21)式に代入して判別を行う。(21)式を満足する場合は、絶縁紙の重合度残率の推定最終値DPにDPlを代入して絶縁紙の重合度残率とし、絶縁紙中水分量の推定最終値WにWlを代入して絶縁紙中水分量とし、これらの値を絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の最終的な推定値とする(ステップ39)。(21)式を満足しない場合は、l=l+1とし,絶縁紙の重合度DPにDP(l+1)を代入して、ステップ35からステップ38を繰り返す。
【0081】
以上により、(21)式を満足した時の各値は次のようになる(ステップ40)。
絶縁油中水分量:Wk[ppm]
巻線最高点温度の平均温度:Ta[℃]
巻線上部絶縁紙の紙中水分量:W[%]
巻線上部絶縁紙の絶縁紙重合度残率:DPl[%]
【0082】
[巻線絶縁紙による余寿命の診断]
以上の手順により、巻線上部絶縁紙の初期紙中水分量Wl’が求められることから、図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19に示すように、そのマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(5)式で求めた診断時の寿命損失比Vrとの差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを次式で算出することができる。
Vrm=V0−Vr (22)
診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、(18)式〜(20)式を使用して、巻線絶縁紙による変圧器の余寿命を計算することができる。
【0083】
[絶縁油中水分量の推定ならびに変圧器の絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出]
ここまで、変圧器中のプレスボードの平均重合度残率等の推定およびプレスボードによる余寿命の診断、ならびに、変圧器中の巻線絶縁紙の平均重合度残率等の推定および巻線絶縁紙による余寿命の診断について説明してきた。ここで、より実勢にあった余寿命の診断を行うためには、実測した絶縁油中水分ではなく、油温の影響を加味した絶縁油中水分Wkを使用して巻線絶縁紙中の水分量および平均重合度残率の推定を行うことが望ましい。
【0084】
油中水分を正確に求めるためには、油中水分に影響を与えるプレスボード中の水分量を求めることが望ましい。プレスボード中水分量は油温の影響を受けているが、油中温度を測定する温度計がプレスボードの上部近傍に配置されていることから、実測された油中温度を使用することにより、油温の影響を加味したプレスボード中の水分量を求めることができる。このプレスボード中水分量から求められた油中水分は、変圧器中を還流しているため、巻線絶縁紙の水分量の算出にあたって使用することができる。以下、油温の影響を加味した絶縁油中水分の推定、ならびに、巻線絶縁紙の重合度残率等の推定について、具体的に説明する。
【0085】
手順のフローを図1〜図3に示す。まず、油温の影響を加味したプレスボード中水分量は、図1および図2に示すフローにより求めることができる。求められたプレスボード中水分量および重合度残率と、測定された絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて実測の絶縁油中水分を補正する。これにより、油温の影響を加味した絶縁油中水分Wkを求めることができる。求められた絶縁油中水分量を使用して、図3に示すフローに従って、実勢にあった巻線絶縁紙中の水分量および平均重合度残率を推定することができる。
こうして、変圧器(No.1〜11)について求めた紙中水分量および平均重合度残率を、それぞれ表1〜表3の「紙中水分W」および「平均重合度残率DP」に示す。
【0086】
[余寿命の診断]
以上の手順により、巻線上部絶縁紙の初期紙中水分量Wl’が求められることから、図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19に示すように、そのマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(10)式および(5)式で求めた診断時の寿命損失比Vrとの差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを(22)式で算出することができる。診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、(18)式〜(20)式を使用して、変圧器の余寿命を計算することができる。
ここで、変圧器(No.1〜11)について求めた変圧器の余寿命を、表1〜表3の「余寿命年数」に示す。
【0087】
表1に示す撤去変圧器(No.1〜11)について、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法により求められた絶縁紙の重合度残率(推定値)と、実測された絶縁紙の重合度残率(実測値)とを比較した結果を、図20に示す。図20に示すように、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法による推定値は、従来のCO2+COの劣化指標生成物による推定値や、特許文献1に記載の新紙の水分平衡関係図から求めた推定値と比較して、実測値からの乖離幅が小さい。このため、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法によれば、高精度で変圧器の余寿命を求めることができるといえる。
【0088】
このように、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法は、プレスボードや絶縁紙の劣化を考慮して紙中水分量を推定するため、新しいプレスボードや絶縁紙と絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、プレスボード中水分量や絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。
【0089】
ステップ27およびステップ38で、補正後と補正前のプレスボードおよび巻線絶縁紙の重合度残率の差が所定の値より小さくなるまで計算を繰り返すため、より精度良く、絶縁油中水分量、劣化した巻線絶縁紙中の水分量および巻線絶縁紙の重合度残率を推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をさらに高めることができる。
【0090】
本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法は、例えば、プログラム化してCD−ROM等の記録媒体に記録されものを、コンピュータにインストールし、必要なデータを取込んで演算させることにより、診断対象変圧器の絶縁紙の劣化状態および余寿命を診断することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレスボードまたは巻線絶縁紙の平均重合度残率から変圧器の余寿命を求める、プレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所や変電所、一般家庭などで使用されている密閉形の油入電力用変圧器の寿命は、巻線絶縁紙の劣化度合いにより決定される。この劣化度合いは、絶縁紙を構成しているセルロース分子のつながり度合いを示す「平均重合度」という値で評価されている。新しい絶縁紙の場合、「平均重合度」は1000程度であるが、機械的強度が急激に低下する値が450程度であることから、450程度までに低下した時が「寿命」すなわち「変圧器の更新時期」と定義されている。
【0003】
絶縁紙の劣化度合いを示す「平均重合度」を求めるためには、絶縁紙を採取して分析する必要があるが、運転中の変圧器から巻線絶縁紙を採取することは非常に困難である。そのため、従来、絶縁紙の採取による直接的な測定は行われておらず、絶縁紙劣化の進展に伴い絶縁紙から絶縁油中に生成される劣化指標生成物(CO2+COやフルフラールなど)の発生量と平均重合度低下との関係を参照して、間接的に平均重合度を診断するという手法が適用されている。この診断法は、劣化指標生成物が溶存する絶縁油を運転中でも採取可能で、容易に劣化指標生成物の発生量を調べることができるため、非常に簡便であり、一般的に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、劣化指標生成物は、巻線絶縁紙だけではなく、変圧器の内部構成材料であるプレスボードや木材等からも発生している。このため、巻線絶縁紙とプレスボード等との材料構成比が変圧器の型式等で違うことや、負荷率や外気温度の影響により劣化指標生成物が巻線絶縁紙やプレスボード等に吸脱着することなどが影響して劣化指標生成物の発生量に差異が生じ、さまざまな型式の変圧器の発生量と平均重合度との関係を図にプロットすると、発生量に対して平均重合度が数十%のばらつきを持った関係図が得られる。このため、精度良く絶縁紙の劣化度合いを診断することができないという問題があった。
【0005】
そこで、高精度に絶縁紙の劣化度合いを診断する方法として、CO2+COやフルフラール等の劣化指標生成物を全く用いず、最も絶縁紙劣化の進行が著しい部位(通常、巻線高さ方向で巻線上部の絶縁紙)に対し、絶縁紙劣化の主要因である熱の履歴と、熱劣化の際に紙中に存在した水分量との関係から絶縁紙の劣化度合いを診断し、変圧器の余寿命を推定する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−66435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の電力用変圧器の余寿命診断装置では、変圧器が運転中であっても容易に採取できる絶縁油の油中水分量を用い、新しい絶縁紙および新しい絶縁油から得られた紙−油間の水分平衡関係図を参照して、絶縁紙の紙中水分量を推定していた。しかしながら、長年使用して劣化した絶縁紙および絶縁油は、新しい絶縁紙および絶縁油と比べて、絶縁紙および絶縁油のそれぞれが分担する水分量が異なるため、推定された絶縁紙の紙中水分量に大きい誤差が含まれる可能性があり、電力用変圧器の余寿命の診断精度が低下する可能性があるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができるプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、日本の大多数の電力用変圧器は密閉形の構造となっていることから、外部から侵入する水分がなく、変圧器内部に存在する水分のみ考慮すればよいという利点を利用して、本願発明に関する研究を行った。本発明者等は、関連する文献や実証試験等によって、絶縁紙が劣化することにより紙−油間の水分平衡関係が変化するという知見を得、これにより、絶縁紙の劣化が進行している経年変圧器を対象とした診断については、絶縁紙等の劣化度合いに対応した紙−油間の水分平衡関係図を参照して紙中水分量を推定することで、変圧器の余寿命の診断精度が向上するものと考え、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法は、電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第1のステップと、あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブに基づいて、前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器のプレスボード中の水分量を求める第2のステップと、少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の絶縁油最高油温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第1のステップの測定時の前記プレスボードの寿命損失比を計算する第3のステップと、あらかじめプレスボードの加熱劣化試験によって得られた初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスタカーブ、および寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブに基づいて、前記第2のステップで求められた前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、劣化の指標となる前記プレスボードの重合度残率を求める第4のステップと、あらかじめ求められた劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブに基づいて、前記第4のステップで求められた前記プレスボードの重合度残率と前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記プレスボード中の水分量を補正する第5のステップと、前記第2マスターカーブおよび前記第3マスターカーブに基づいて、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、前記プレスボードの重合度残率を補正する第6のステップと、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と、前記第6のステップで補正された前記ブレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第7のステップとを、有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法は、劣化したプレスボードの重合度残率ごとに絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブをあらかじめ求めておき、この第4マスターカーブを利用してプレスボード中の水分量を推定することができる。このように、プレスボードの劣化を考慮してプレスボードの水分量を推定するため、新しいプレスボードと絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、プレスボード中の水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。なお、プレスボードとは、変圧器の巻線を挟むようにして巻線の上下に配置される電気絶縁紙である。余寿命診断に使用するプレスボードは、巻線上部に配置されたもので、絶縁油の油中温度を測定するための温度計の近傍に配置されている。
【0012】
本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法で、前記第7のステップは、前記第6のステップで補正された前記プレスボードの重合度残率と、補正前の前記プレスボードの重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第5のステップおよび前記第6のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記プレスボード中の水分量と前記プレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することが好ましい。この場合、より精度良く、劣化したプレスボード中の水分量とプレスボードの重合度残率とを推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をより高めることができる。
【0013】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法は、電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第8のステップと、あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブに基づいて、前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器の巻線絶縁紙中の水分量を求める第9のステップと、少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、負荷履歴、および運転時における点検の際に測定した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の巻線最高点温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第8のステップの測定時の前記巻線絶縁紙の寿命損失比を計算する第10のステップと、あらかじめ巻線絶縁紙の加熱劣化試験によって得られた初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、および寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブに基づいて、前記第9のステップで求められた前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、劣化の指標となる前記巻線絶縁紙の重合度残率を求める第11のステップと、あらかじめ求められた劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブに基づいて、前記第11のステップで求められた前記巻線絶縁紙の重合度残率と前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記巻線絶縁紙中の水分量を補正する第12のステップと、前記第6マスターカーブおよび前記第7マスターカーブに基づいて、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、前記巻線絶縁紙の重合度残率を補正する第13のステップと、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第14のステップとを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法は、劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとに絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブをあらかじめ求めておき、この第8マスターカーブを利用して巻線絶縁紙中の水分量を推定することができる。このように、絶縁紙の劣化を考慮して紙中水分量を推定するため、新しい絶縁紙と絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。
【0015】
本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法で、前記第14のステップは、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率と、補正前の前記巻線絶縁紙の重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第12のステップおよび前記第13のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記巻線絶縁紙中の水分量と前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することが好ましい。この場合、より精度良く、劣化した巻線絶縁紙中の水分量と巻線絶縁紙の重合度残率とを推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をより高めることができる。
【0016】
本発明に係る電力用変圧器の余寿命診断方法は、本発明に係るプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法により補正された前記プレスボード中の水分量と前記ブレスボードの重合度残率と、前記第1のステップで測定された前記絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて前記絶縁油中水分量を補正し、その絶縁油中水分量を前記第9ステップの前記絶縁油中水分量として使用して、本発明に係る巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法により前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする。
【0017】
本発明に係る電力用変圧器の余寿命診断方法は、絶縁油の油中温度を測定するための温度計の近傍に配置されたプレスボードと絶縁油との間の水分平衡関係を考慮して求めた絶縁紙中水分量を使用して、巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命を診断するため、電力用変圧器の余寿命の診断精度をさらに高めることができる。
【0018】
なお、本発明に係るプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法で、プレスボードや巻線絶縁紙の寿命損失比(熱履歴)を計算したり、プレスボードや巻線絶縁紙の水分量を推定したりするために必要なデータは、絶縁油の定期的な油中水分量や油温度の測定記録や、負荷日誌に記録した負荷履歴、電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、最寄りの気象観測データ等であり、いずれも比較的容易に入手することができる。また、第1〜第8マスターカーブを得るための水分平衡試験や加熱劣化試験等も、比較的容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができるプレスボードまたは巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第1のフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第2のフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示す第3のフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第1マスターカーブを示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第2マスターカーブを示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第3マスターカーブを示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第4マスターカーブを示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第5マスターカーブを示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第6マスターカーブを示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第7マスターカーブを示すグラフである。
【図11】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される第8マスターカーブを示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、変圧器周囲の外気温度変動と負荷による温度上昇とにより巻線最高点温度が変化する様子を表わした説明図である。
【図13】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、定格負荷時における変圧器内の絶縁油と巻線温度との関係を示した説明図である。
【図14】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法で使用される、任意負荷時における変圧器内の絶縁油と巻線温度との関係を示した説明図である。
【図15】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の、実測の最高油温度による補正を行い、実測に近い巻線最高点温度ならびに最高油温度が得られる過程を示した説明図である。
【図16】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の診断対象の変圧器内部での、絶縁油中水分量、プレスボード中水分量および絶縁紙中水分量の位置関係を示す概略断面図である。
【図17】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法において、絶縁油中水分量の複数個の実測データからプレスボード中水分量を推定するときに、他のデータに比べて乖離の大きいデータを除外する手順を表す説明図である。
【図18】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法において、絶縁油中水分量の複数個の実測データからプレスボード中水分量を推定するときに、他のデータに比べて乖離の大きいデータを除外する手順を表す説明図である。
【図19】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法の、絶縁紙の重合度残率と寿命損失比との関係図から決定されたマスターカーブと、求めるべき余寿命との関係を示す説明図である。
【図20】本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法により推定された変圧器の絶縁紙の重合度残率と、実測された絶縁紙の重合度残率とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至図20は、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法を示している。
以下、図1乃至図3に示すフローチャートに従って、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法について説明する。
【0022】
まず、余寿命診断で使用する電力用変圧器のプレスボードおよび絶縁紙の各種物理量の関係を、マスターカーブとしてあらかじめ求めておく。求めるマスターカーブは、新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブ、初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスターカーブ、寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブ、劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブ、新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブ、初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブ、および劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブである。
【0023】
[第1マスターカーブ:水分平衡試験による新品のプレスボード中水分量と絶縁油中水分量との関係]
新品のプレスボード(重合度残率DPpb=100%)、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、プレスボード−油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードと絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpbと水分量とを変えて繰り返して行い、プレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られるプレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図4のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第1マスターカーブとする。
【0024】
[第2マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比とプレスボード中水分量との関係]
寿命損失比(熱履歴)Vr’は、プレスボードの加熱劣化試験で得られる加熱温度をθpbi、その継続時間をhpbiとすると、次式で求めることができる。
【数1】
ここで、aおよびbは定数である。
【0025】
プレスボードの加熱劣化試験を行い、加熱時間内の要所でプレスボードを1つずつ取り出して、プレスボード中水分量Wpbを測定する。プレスボードを取り出すまでの加熱温度θpbiおよびその継続時間hpbiを(1)式に代入し、寿命損失比Vr’を求める。この寿命損失比Vr’とプレスボード中水分量Wpbとの関係を求めると、図5のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第2マスターカーブとする。
【0026】
なお、図5の関係から、プレスボード中水分量Wpbは、寿命損失比Vr’を用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数2】
ここで、a0’〜a3’は初期プレスボード中水分量によって決まる定数(図5より得た回帰式の係数)である。
【0027】
[第3マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比とプレスボードの重合度残率との関係]
プレスボードの加熱劣化試験において、試験を開始する段階で、加熱温度がある値になり水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードを1つ取り出して、プレスボード中の水分量を測定し、これを加熱開始時の初期プレスボード中水分量とする。また、加熱劣化試験の加熱時間内の要所でプレスボードを1つずつ取り出し、平均重合度残率DPpbを測定する。
【0028】
プレスボードを取り出すまでの加熱温度θpbiおよびその継続時間hpbiを(1)式に代入し、寿命損失比Vr’を求める。初期プレスボード中水分量ごとに、この寿命損失比Vr’と平均重合度残率DPpbとの関係を求めると、図6のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第3マスターカーブとする。
【0029】
なお、図6の関係から、プレスボードの平均重合度残率DPpbrは、寿命損失比Vr’を用いて、次式で示される。
【数3】
ここで、βm’、γm’は初期プレスボード中水分量によって決まる定数(図6より得た回帰式の係数)である。
【0030】
[第4マスターカーブ:水分平衡試験による劣化したプレスボード中水分量と絶縁油中水分量との関係]
劣化したプレスボード、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し,加熱温度が設定温度になり、プレスボード−絶縁油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時にプレスボードと絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpb、水分量、プレスボードの重合度残率(DPpb=DPpbk%)を変えて繰り返して行い、プレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られるプレスボード中水分量Wpbと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図7のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第4マスターカーブとする。
【0031】
なお、図4および図7の関係から、プレスボード中水分量Wpbは、絶縁油中水分量Wo、プレスボードの重合度DPpb、温度Tpbを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数4】
ここで、A0’〜A6’は定数(図4および図7より得た回帰式の係数)である。
【0032】
[第5マスターカーブ:水分平衡試験による新品の絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量との関係]
新品の巻線絶縁紙(重合度残率DP=100%)、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、絶縁紙−油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に絶縁紙と絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tpと水分量とを変えて繰り返して行い、絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られる絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図8のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第5マスターカーブとする。
【0033】
[第6マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比と絶縁紙中水分量との関係]
寿命損失比(熱履歴)Vrは、巻線絶縁紙の加熱劣化試験で得られる加熱温度をθi、その継続時間をhiとすると、次式で求めることができる。
【数5】
ここで、aおよびbは定数である。
【0034】
巻線絶縁紙の加熱劣化試験を行い、加熱時間内の要所で絶縁紙を1つずつ取り出して、絶縁紙中水分量Wを測定する。巻線絶縁紙を取り出すまでの加熱温度θiおよびその継続時間hiを(5)式に代入し、寿命損失比Vrを求める。この寿命損失比Vrと絶縁紙中水分量Wとの関係を求めると、図9のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第6マスターカーブとする。
【0035】
なお、図9の関係から、絶縁紙中水分量Wは、寿命損失比Vrを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数6】
ここで、a0〜a3は初期絶縁紙中水分量によって決まる定数(図9より得た回帰式の係数)である。
【0036】
[第7マスターカーブ:加熱劣化試験による寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率との関係]
巻線絶縁紙の加熱劣化試験において、試験を開始する段階で、加熱温度がある値になり水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に巻線絶縁紙を1つ取り出して、絶縁紙中の水分量を測定し、これを加熱開始時の初期紙中水分量とする。また、加熱劣化試験の加熱時間内の要所で巻線絶縁紙を1つずつ取り出し、平均重合度残率DPを測定する。
【0037】
巻線絶縁紙を取り出すまでの加熱温度θiとその継続時間hiを(5)式に代入し、寿命損失比Vrを求める。初期紙中水分量ごとに、この寿命損失比Vrと平均重合度残率DPとの関係を求めると、図10のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第7マスターカーブとする。
【0038】
なお、図10の関係から、巻線絶縁紙の平均重合度残率DPrは、寿命損失比Vrを用いて、次式で示される。
【数7】
ここで、βm、γmは初期絶縁紙中水分量によって決まる定数(図10より得た回帰式の係数)である。
【0039】
[第8マスターカーブ:水分平衡試験による劣化した絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量との関係]
劣化した巻線絶縁紙、絶縁油および設定した水分量を封入した密閉容器を加熱し、加熱温度が設定温度になり、絶縁紙−絶縁油間の水分の移動がなくなる状態(水分平衡状態)となった時に巻線絶縁紙と絶縁油とを取り出し、それぞれの水分量を測定する。同様な試験を設定温度Tp、水分量、巻線絶縁紙の重合度(DP=DPl%)を変えて繰り返して行い、絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとを測定する。こうして得られる絶縁紙中水分量Wと絶縁油中水分量Woとの関係を求めると、図11のような関係が得られる。これを余寿命診断に用いる第8マスターカーブとする。
【0040】
なお、図8および図11の関係から、絶縁紙中水分量Wは、絶縁油中水分量Woと絶縁紙の重合度DP、温度Tpを用いて、次式に示す1つの式で表すことができる。
【数8】
ここで、A0〜A6は定数(図8および図11より得た回帰式の係数)である。
【0041】
[変圧器の巻線最高温度部および最高油温度部の寿命損失比]
次に、余寿命を診断する電力用変圧器の巻線最高点温度部および最高油温度部の寿命損失比を求める。まず、変圧器の過去の負荷記録(日時、負荷率等)や、変圧器が設置されている場所に最も近い気象観測地点で観測された外気温度データ、運転時における点検の際に測定した絶縁油温度等を用いて巻線最高点温度および最高油温度を算出する。
【0042】
図12に、変圧器周囲の外気温変動と、負荷による巻線最高点温度上昇の関係を示す。図12に示すように、巻線最高点温度がある一定の温度で継続する時間(以降、「継続時間」と呼ぶ)hにおける任意負荷時の巻線最高点温度θ0は、(9)式により求めることができる。
θ0[℃]=θt[℃]+θL[K] (9)
θ0[℃]:継続時間h[hour]における任意負荷時の巻線最高点温度
θt[℃]:継続時間h[hour]における任意負荷時の外気温度
θL[K]:継続時間h[hour]における任意負荷時の巻線最高点温度上昇値
【0043】
具体的な巻線最高点温度は、図13に示す定格負荷時の変圧器内部の温度分布と、図14に示す継続時間hにおける任意負荷時の変圧器内部の温度分布との関係から、以下の手順で求めることができる。
1.継続時間hにおける負荷率Lf
Lf[p.u.]=Px/Pn(=(負荷データ[kW]/力率)/変圧器定格容量[kVA]) (i)
Px[kVA]:継続時間h[hour]における任意負荷時の容量
Pn[kVA]:定格容量
【0044】
2.継続時間hにおける任意負荷時の負荷損Wcx
Wcx[kW]=(Lf)2×Wcn (ii)
Wcn[kW]:定格負荷時の負荷損(工場試験記録データ引用)
3.継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度上昇値θoil
(電気学会 電気規格調査会標準規格:JEC-2200-1995「変圧器」参照)
θoil[K]={(Wcx+Wfn)/(Wcn+Wfn)}0.8×θoiln (iii)
Wfn[kW]:無負荷損
θoiln[K]:定格負荷時の最高油温度上昇値(工場試験記録データ引用)
【0045】
4.定格負荷時の巻線最高点温度−最高油温度間の温度差Δθwmn(図13参照)
Δθwmn[K]=θwn+εmn(=15または10)−θoiln (iv)
θwn[K]:定格負荷時の中央部平均巻線温度上昇値
εmn[K]:巻線最高点温度と抵抗法によって測定される巻線平均温度との差
(油自然循環の場合には15[K]、油強制循環の場合には10[K])
5.継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度−最高油温度間の温度差Δθwm
(JEC-2200-1995「変圧器」ならびに図14参照)
Δθwm[K]=(Lf)1.6×Δθwmn (v)
【0046】
6.継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度上昇値θL(図14参照)
θL[K]=θoil+Δθwm (vi)
7.継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度θoilest
θoilest[℃]=θt+θoil (vii)
【0047】
次に、変圧器の巡視の際に記録していた絶縁油の最高油温度を用い、巡視時の最高油温度の記録と推定した最高油温度とを比較して、次式により巻線最高点温度ならびに最高油温度の補正を行う。
θ[℃]=θ0[℃]+(θoilmeasav[℃]−θoilestav[℃]) (10)
θoilh[℃]=θoilest[℃]+(θoilmeasav[℃]−θoilestav[℃]) (11)
θ[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の補正巻線最高点温度
θ0[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の巻線最高点温度
θoilh[℃]:継続時間hにおける任意負荷時の最高油温度
θoilmeasav[℃]:実測最高油温度
(定期的な巡視により測定される最高油温度記録の年間平均値)
θoilestav[℃]:最高油温度
((vii)式により得られる毎月の推定最高油温度最大値の年間平均値)
この処理により、図15に示すような補正が行われ、実際の温度に近い巻線最高点温度および最高油温度の推定を行うことができる。
【0048】
こうして推定した巻線最高点温度および最高油温度を用い、(5)式および(1)式に代入することにより、巻線最高点温度部および最高油温度部での寿命損失比VrならびにVr’を算出する。また、推定した毎正時の巻線最高点温度および最高油温度を用い、巻線最高点温度の平均温度Taおよび最高油温度の平均温度THを次式により算出する。
Ta[℃]=(θ(1)+θ(2)+θ(3)+・・・・・・・・・・・+θ(p))/p (12)
TH[℃]=(θoilh (1)+θoilh(2)+θoilh(3)+・・・+θoilh(q))/q (13)
【0049】
[絶縁油中水分量から絶縁紙中水分量を推定する手順]
紙中水分量を推定する際、実測した絶縁油中水分量と、その時のダイヤル温度計すなわち最高油温度の値とを基に、絶縁紙中水分量を求めていく。そのため、まず、図4〜図7の第1〜第4マスターカーブを使用して、図16に示すダイヤル温度計に近い上部プレスボードのプレスボード中水分量を推定し、平均的なプレスボード中水分量を求め、そこから最適な絶縁油中水分量Woを決定する。次に、図16に示すように、絶縁油中水分量Woは、冷却装置による対流があることから、Woの値のまま巻線部も対流していると考え、図8〜図11の第5〜第8マスターカーブを使用して、巻線上部の巻線最高点温度部の温度と油中水分量Woとから、最適な紙中水分量Wlを求める。
【0050】
次に、ある地方から撤去した変圧器(No.1〜11)を例に具体的に説明する。表1〜表3には、11個の撤去変圧器毎に、ある時期に測定した油中水分Woの実測値を示すと共に、その実測値に基づいて推定した各数値結果を示す。以下、この表1〜表3の数値結果を参照しながら、本発明の電力用変圧器の余寿命診断の手順について具体的に説明する。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
[変圧器の絶縁油中水分量の算出]
電力用変圧器については、日頃から定期的にその絶縁油中水分や絶縁油温度を測定しているから、撤去変圧器についても、そのデータを容易に得ることができる。表1〜表3には、その撤去変圧器毎に、複数回測定したときの油中水分の実測値を示す。
【0055】
変圧器の余寿命は、変圧器中のプレスボード中水分量やプレスボードの重合度残率が大きく影響するから、絶縁油中水分の実測値からこれらの値を推定する必要があるが、その推定に際し、上部プレスボードの重合度残率DPpbは未知であるから、第1番目の手順として新品の残率DPpb=100%と仮定して、図4に示すDPpb=100%のときのプレスボード中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、プレスボード中水分量Wpb0(i)を求めることとする(ステップ12)。
【0056】
ここで、絶縁油中水分量の値には、年間を通じて季節などによる変化があることから、1回の絶縁油中水分量のデータのみを使用した場合には、夏場に測定したデータであれば高めに、冬場に測定したデータであれば低めに偏った値を取り入れて評価することになる。これを回避するために、年間を通して絶縁油中水分量のデータを複数回(n回)測定し、それぞれの絶縁油中水分量から求められたプレスボード中水分量を平均することにより、絶縁油中水分量の季節変化による影響を排除している。
【0057】
具体的には、図4のグラフに絶縁油中水分の実測値をプロットして、図17に示すようなグラフを作成する。図17のグラフ中に例えばWo(5)やWo(6)のように、測定誤差等の理由で他のプレスボード中水分量と比較して乖離の大きいプレスボード中水分量があればそれを除外し、誤差要因を排除する(ステップ13)。残ったm個(m≦n)(図17では4個)の油中水分の実測値に基づいて求めたプレスボード中水分量から、それらプレスボード中水分量の平均値Wpb0を次式により求める(ステップ14)。
Wpb0[%]=(Wpb0(1)+Wpb0(2)+Wpb0(3)+・・・・+Wpb0(m))/m
(14)
【0058】
具体的には、上記平均値Wpb0の季節変化に伴う温度の影響を加味して、絶縁油中水分量Woを補正する必要がある。その補正は、上記で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpb0と、(13)式で求めた最高油温度の平均温度THとの数値から、図4に基づいて平均温度THの絶縁油中水分W0を求める。すなわち、図4は、プレスボード中水分と油中水分との間のTpb℃の水分平衡曲線を示すマスターカーブであるから、この図4のマスターカーブと上記平均値Wpb0の数値とから平均温度THに該当する絶縁油中水分Wo(補正値)を求めることができる(ステップ15)。表1〜表3には、変圧器(No.1〜11)について、(13)式で求めた「平均温度TH」を示す。
【0059】
変圧器を実測したときのプレスボード中水分量は、上述のとおり、図4から推定することができるが、プレスボード中水分の初期値も変圧器中の紙の劣化に大きく影響するので、余寿命の診断にはその影響をも考慮する必要がある。図5は、プレスボード中水分初期値と寿命損失比の関係を示すマスターカーブである。上から、水分初期値4%、3%、2%、1%のマスターカーブである。また、図6は、プレスボードの平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブをプレスボード中水分初期値毎に示したものである。
【0060】
変圧器毎のプレスボードの寿命損失比Vr´は、表1〜表3に11個の変圧器の数値を示すように、平均温度THと継続時間hとから、式(1)に基づいて算出することができる。
そこで、(14)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpb0と上記プレスボードの寿命損失比Vr’との値を図5にプロットし、両者の交点から、変圧器のプレスボード中水分初期値Wpb0’を求めることができる(ステップ16)。
【0061】
次に、図6には、プレスボードの平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブがプレスボード中水分初期値毎に示されているから、この図6に上記算出した寿命損失比Vr’をプロットすれば、水分初期値Wpb0’のときのプレスボードの平均重合度残率を求めることができる(ステップ17)。
【0062】
そして、求めた平均重合度残率が図4のマスターカーブ作成時の仮定値である「重合度100%」と近似していれば、仮定どおり余寿命の診断ができるとして、この手順を終了する。しかし、大きくかけ離れた、例えば40%の数値であれば、重合度100%と仮定したことに問題があるとして、重合度100%の図4を見直すこととする。すなわち、図4のマスターカーブについては、予め重合度を変えた複数種類のものが作成されているから、例えば上記のごとく40%の数値であれば、40%の場合のマスターカーブを示す図7を選択し、この図7に基づいて最初から同様の手順を繰り返して、仮定値に近い重合度が得られたときにこの手順を終了する。
【0063】
この手順のフローについては、図2に示す。プレスボード重合度残率DPpbとプレスボード重合度残率の推定値DPpbeとの差が、所定の閾値ΔDPpb以下であるか否かにより、次式を使用して、求められたプレスボードの重合度残率の妥当性を判別する(ステップ18)。
|DPpb−DPpbe|<ΔDPpb (15)
ここでは、DPpb=100、DPpbe=DPpb1を(15)式に代入して判別を行う。(15)式を満足する場合は、プレスボードの重合度残率の推定最終値DPpbにDPpb1を代入してプレスボードの重合度残率とし、絶縁油中水分量の推定最終値WkにWoを代入して絶縁油中水分量とする(ステップ19)。図3に示す絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出のステップに移行する。(15)式を満足しない場合は、k=1とし、プレスボードの重合度DPpbにDPpbk(k=1)を代入して、次の劣化プレスボードによる算出に移行する(ステップ20)。
【0064】
測定された絶縁油中水分量Wo(i)(i=1〜n)と絶縁油温度Tpb(i)、および上部プレスボードの重合度残率DPpb=DPpbk[%]を用い、図7に示すDPpb=DPpbk[%]の時の劣化プレスボード中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、プレスボード中水分量Wpbk(i)を求める(ステップ21)。
【0065】
図18に示すように、n個のプレスボード中水分Wpbk(i)を図7のグラフにプロットし、他のプレスボード中水分量と比較して乖離の大きいプレスボード中水分量を除外し、誤差要因を排除することは、上述したとおりである(ステップ22)。残ったm個(m≦n)のプレスボード中水分量から、プレスボード中水分量の平均値Wpbkを次式により求める(ステップ23)。
Wpbk[%]=(Wpbk(1)+Wpbk(2)+Wpbk(3)+・・・・+Wpbk(m))/m (16)
【0066】
(16)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpbkと、(13)式で求めた最高油温度の平均温度THを用いて、図7の関係に基づいて、絶縁油中水分量Wkを求める(ステップ24)。また、(16)式で求めたプレスボード中水分量の平均値Wpbkと、(11)式および(1)式で求めた上部プレスボードの寿命損失比Vr’とを用いて、図5に示す寿命損失比とプレスボード中水分量との関係に基づいて、初期のプレスボード中水分量Wpbk’を求める(ステップ25)。図6に示す寿命損失比とプレスボード重合度残率との関係から、初期プレスボード中水分量がWpbk’の特性カーブを参照し、プレスボードの重合度残率DPpb(k+1)を求める(ステップ26)。
【0067】
次に、(15)式を用いて、求められたプレスボードの重合度残率の妥当性を判別する(ステップ27)。ここでは、DPpb=DPpbk、DPpbe=DPpb(k+1)を(15)式に代入して判別を行う。(15)式を満足する場合は、プレスボードの重合度残率の推定最終値DPpbにDPpbkを代入してプレスボードの重合度残率とし、絶縁油中水分量の推定最終値Wkを絶縁油中水分量とし(ステップ19)、図3に示す絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出のステップに移行する。(15)式を満足しない場合は、k=k+1とし、プレスボードの重合度DPpbにDPpb(k+1)を代入して、ステップ21からステップ27を繰り返す。
【0068】
以上により、図3に示すように、(15)式を満足した時の各値は次のようになる(ステップ28)。
絶縁油中水分量:Wk[ppm]
絶縁油最高油温度の平均温度:TH[℃]
上部プレスボード中水分量:Wpbk[%]
上部プレスボードの重合度残率:DPpbk[%]
【0069】
[プレスボードによる余寿命の診断]
以上の手順により、プレスボードの初期紙中水分量Wpbk’が求められることから、図6に示す寿命損失比とプレスボードの平均重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19は巻線絶縁紙の場合を示しているが、プレスボードの場合にも同様に考えられるため、図19を参照すると、決定されたマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(11)式および(1)式で求めた診断時の寿命損失比Vr’との差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを次式で算出することができる。
Vrm=V0−Vr’ (17)
【0070】
診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmは、次式で表すことができる。
Vrm=Σ{∫exp(bθ1i)dh2i} (18)
(18)式が(17)式と等価となる時が寿命到達点であることから、次式のように表される。
V0−Vr=exp(bθ11)×h21+exp(bθ12)×h22+・・・+exp(bθ1n)×h2n
(19)
(19)式の時間の総和を求めた値が余寿命h2iとなり、次式で表される。
h2i=h21+h22+・・・・・・・・・・・・+h2n (20)
(20)式から、プレスボードによる変圧器の余寿命を計算することができる。
【0071】
[変圧器の絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出]
ここまでは、変圧器中のプレスボードの平均重合度残率等の推定、およびプレスボードによる余寿命の診断について説明してきたが、変圧器の余寿命の診断では、変圧器中の絶縁紙の平均重合度残率等の推定が必要であるから、以下、変圧器中の絶縁紙の重合度残率等の推定について、具体的に説明する。
【0072】
手順のフローを図3に示す。変圧器中の絶縁紙の重合度残率等の推定も、基本的には、プレスボードの平均重合度残率等の推定と同様である。電力用変圧器については、日頃から定期的にその絶縁油中水分や絶縁油温度を測定しているため、絶縁油中水分としてその実測値の平均値を使用する。プレスボードの場合と同様に、図8のマスターカーブから、巻紙絶縁中水分量Wを求めることができるが、巻線絶縁紙の重合度残率DPは、プレスボードの場合と同様に、その値が未知のために、新品の残率DP=100%と仮定して、図8に示すDP=100%のときの絶縁紙中水分−油中水分間の水分平衡曲線に基づいて、紙中水分量Wを求めることができる(ステップ29)。表1〜表3には、変圧器(No.1〜11)について、(12)式で求めた「平均温度Ta」を示す。
【0073】
巻線絶縁紙中の水分量の初期値は、変圧器中の絶縁紙の劣化に大きく影響するので、余寿命の診断にはその影響をも考慮する必要がある。図9は、絶縁紙中水分初期値と寿命損失比の関係を示すマスターカーブである。上から、水分初期値4%、3%、2%、1%のマスターカーブである。また、図10は、巻線絶縁紙の平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブを絶縁紙中水分初期値毎に示したものである。
【0074】
変圧器毎の巻線絶縁紙の寿命損失比Vrは、表1〜表3に11個の変圧器の数値を示すように、平均温度Taと継続時間hとから、式(5)に基づいて算出することができる。
そこで、図8で求めた紙中水分量Wと上記巻線絶縁紙の寿命損失比Vrとの値を図9にプロットし、両者の交点から、変圧器の初期の紙中水分量W0’を求める(ステップ30)。
【0075】
次に、図10には、巻線絶縁紙の平均重合度残率と寿命損失比とのマスターカーブが初期紙中水分量毎に示されているから、この図10に上記算出した寿命損失比Vrをプロットすれば、水分初期値W0’のときの巻線絶縁紙の平均重合度残率DP1を求めることができる(ステップ31)。
【0076】
そして、求めた平均重合度残率が図8のマスターカーブ作成時の仮定値である「重合度100%」と近似していれば、仮定どおり余寿命の診断ができるとして、この手順を終了する。しかし、大きくかけ離れた、例えば40%の数値であれば、重合度100%と仮定したことに問題があるとして、重合度100%の図8を見直すこととする。すなわち、図8のマスターカーブについては、予め重合度を変えた複数種類のものが作成されているから、例えば上記のごとく40%の数値であれば、40%の場合のマスターカーブを示す図11を選択し、この図11に基づいて最初から同様の手順を繰り返して、仮定値に近い重合度が得られたときにこの手順を終了する。
【0077】
この手順については、まず、絶縁紙の重合度残率DPと絶縁紙の重合度残率の推定値DPeとの差が、所定の閾値ΔDP以下であるか否かにより、次式を使用して、求められた絶縁紙の重合度残率の妥当性を判別する(ステップ32)。
|DP−DPe|<ΔDP (21)
ここでは、DP=100、DPe=DP1を(21)式に代入して判別を行う。(21)式を満足する場合は、絶縁紙の重合度残率の推定最終値DPにDP1を代入して絶縁紙の重合度残率とし、絶縁紙中水分量の推定最終値としてWを代入して絶縁紙中水分量とし、これらの値を絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の最終的な推定値とする(ステップ33)。(21)式を満足しない場合は、l=1とし、絶縁紙の重合度DPにDPl(l=1)を代入して、次の劣化紙による算出に移行する(ステップ34)。
【0078】
絶縁油中水分量Wkと、(12)式で求めた巻線最高点温度部の平均温度Ta、および巻線上部絶縁紙の重合度残率DP=DPl[%]を用いて、図11に示すDP=DPl[%]の時の劣化絶縁紙中水分−油中水分間の水分平衡関係に基づいて、巻線上部絶縁紙中水分量Wlを求める(ステップ35)。
【0079】
求めた紙中水分量Wlと、(10)式および(5)式で求めた巻線上部絶縁紙の寿命損失比Vrとを用いて、図9に示す寿命損失比と紙中水分量との関係に基づいて、初期の紙中水分量Wl’を求める(ステップ36)。図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率との関係から、初期紙中水分量がWl’の特性カーブを参照し、絶縁紙の重合度残率DP(l+1)を求める(ステップ37)。
【0080】
次に、(21)式を用いて、求められた絶縁紙の重合度残率の妥当性を判別する(ステップ38)。ここでは、DP=DPl、DPe=DP(l+1)を(21)式に代入して判別を行う。(21)式を満足する場合は、絶縁紙の重合度残率の推定最終値DPにDPlを代入して絶縁紙の重合度残率とし、絶縁紙中水分量の推定最終値WにWlを代入して絶縁紙中水分量とし、これらの値を絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の最終的な推定値とする(ステップ39)。(21)式を満足しない場合は、l=l+1とし,絶縁紙の重合度DPにDP(l+1)を代入して、ステップ35からステップ38を繰り返す。
【0081】
以上により、(21)式を満足した時の各値は次のようになる(ステップ40)。
絶縁油中水分量:Wk[ppm]
巻線最高点温度の平均温度:Ta[℃]
巻線上部絶縁紙の紙中水分量:W[%]
巻線上部絶縁紙の絶縁紙重合度残率:DPl[%]
【0082】
[巻線絶縁紙による余寿命の診断]
以上の手順により、巻線上部絶縁紙の初期紙中水分量Wl’が求められることから、図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19に示すように、そのマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(5)式で求めた診断時の寿命損失比Vrとの差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを次式で算出することができる。
Vrm=V0−Vr (22)
診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、(18)式〜(20)式を使用して、巻線絶縁紙による変圧器の余寿命を計算することができる。
【0083】
[絶縁油中水分量の推定ならびに変圧器の絶縁紙の重合度残率および絶縁紙中水分量の算出]
ここまで、変圧器中のプレスボードの平均重合度残率等の推定およびプレスボードによる余寿命の診断、ならびに、変圧器中の巻線絶縁紙の平均重合度残率等の推定および巻線絶縁紙による余寿命の診断について説明してきた。ここで、より実勢にあった余寿命の診断を行うためには、実測した絶縁油中水分ではなく、油温の影響を加味した絶縁油中水分Wkを使用して巻線絶縁紙中の水分量および平均重合度残率の推定を行うことが望ましい。
【0084】
油中水分を正確に求めるためには、油中水分に影響を与えるプレスボード中の水分量を求めることが望ましい。プレスボード中水分量は油温の影響を受けているが、油中温度を測定する温度計がプレスボードの上部近傍に配置されていることから、実測された油中温度を使用することにより、油温の影響を加味したプレスボード中の水分量を求めることができる。このプレスボード中水分量から求められた油中水分は、変圧器中を還流しているため、巻線絶縁紙の水分量の算出にあたって使用することができる。以下、油温の影響を加味した絶縁油中水分の推定、ならびに、巻線絶縁紙の重合度残率等の推定について、具体的に説明する。
【0085】
手順のフローを図1〜図3に示す。まず、油温の影響を加味したプレスボード中水分量は、図1および図2に示すフローにより求めることができる。求められたプレスボード中水分量および重合度残率と、測定された絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて実測の絶縁油中水分を補正する。これにより、油温の影響を加味した絶縁油中水分Wkを求めることができる。求められた絶縁油中水分量を使用して、図3に示すフローに従って、実勢にあった巻線絶縁紙中の水分量および平均重合度残率を推定することができる。
こうして、変圧器(No.1〜11)について求めた紙中水分量および平均重合度残率を、それぞれ表1〜表3の「紙中水分W」および「平均重合度残率DP」に示す。
【0086】
[余寿命の診断]
以上の手順により、巻線上部絶縁紙の初期紙中水分量Wl’が求められることから、図10に示す寿命損失比と絶縁紙重合度残率の関係から、参照すべきマスターカーブが決定される。図19に示すように、そのマスターカーブにおける寿命レベル(図19中ではDP=45%)の寿命損失比をV0とすると、(10)式および(5)式で求めた診断時の寿命損失比Vrとの差から、診断対象変圧器の余寿命損失比Vrmを(22)式で算出することができる。診断対象の変圧器が、今後も現在と同じ運転状況で運転されると仮定すれば、(18)式〜(20)式を使用して、変圧器の余寿命を計算することができる。
ここで、変圧器(No.1〜11)について求めた変圧器の余寿命を、表1〜表3の「余寿命年数」に示す。
【0087】
表1に示す撤去変圧器(No.1〜11)について、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法により求められた絶縁紙の重合度残率(推定値)と、実測された絶縁紙の重合度残率(実測値)とを比較した結果を、図20に示す。図20に示すように、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法による推定値は、従来のCO2+COの劣化指標生成物による推定値や、特許文献1に記載の新紙の水分平衡関係図から求めた推定値と比較して、実測値からの乖離幅が小さい。このため、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法によれば、高精度で変圧器の余寿命を求めることができるといえる。
【0088】
このように、本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法は、プレスボードや絶縁紙の劣化を考慮して紙中水分量を推定するため、新しいプレスボードや絶縁紙と絶縁油との水分平衡関係を使用する場合と比べて、プレスボード中水分量や絶縁紙の紙中水分量の推定誤差を小さくすることができ、電力用変圧器の余寿命の診断精度を高めることができる。
【0089】
ステップ27およびステップ38で、補正後と補正前のプレスボードおよび巻線絶縁紙の重合度残率の差が所定の値より小さくなるまで計算を繰り返すため、より精度良く、絶縁油中水分量、劣化した巻線絶縁紙中の水分量および巻線絶縁紙の重合度残率を推定することができる。これにより、電力用変圧器の余寿命の診断精度をさらに高めることができる。
【0090】
本発明の実施の形態の電力用変圧器の余寿命診断方法は、例えば、プログラム化してCD−ROM等の記録媒体に記録されものを、コンピュータにインストールし、必要なデータを取込んで演算させることにより、診断対象変圧器の絶縁紙の劣化状態および余寿命を診断することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第1のステップと、
あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブに基づいて、前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器のプレスボード中の水分量を求める第2のステップと、
少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の絶縁油最高油温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第1のステップの測定時の前記プレスボードの寿命損失比を計算する第3のステップと、
あらかじめプレスボードの加熱劣化試験によって得られた初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスタカーブ、および寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブに基づいて、前記第2のステップで求められた前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、劣化の指標となる前記プレスボードの重合度残率を求める第4のステップと、
あらかじめ求められた劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブに基づいて、前記第4のステップで求められた前記プレスボードの重合度残率と前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記プレスボード中の水分量を補正する第5のステップと、
前記第2マスターカーブおよび前記第3マスターカーブに基づいて、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、前記プレスボードの重合度残率を補正する第6のステップと、
前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と、前記第6のステップで補正された前記ブレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第7のステップとを、
有することを特徴とするプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記第7のステップは、前記第6のステップで補正された前記プレスボードの重合度残率と、補正前の前記プレスボードの重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第5のステップおよび前記第6のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記プレスボード中の水分量と前記プレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする請求項1記載のプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項3】
電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第8のステップと、
あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブに基づいて、前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器の巻線絶縁紙中の水分量を求める第9のステップと、
少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、負荷履歴、および運転時における点検の際に測定した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の巻線最高点温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第8のステップの測定時の前記巻線絶縁紙の寿命損失比を計算する第10のステップと、
あらかじめ巻線絶縁紙の加熱劣化試験によって得られた初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、および寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブに基づいて、前記第9のステップで求められた前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、劣化の指標となる前記巻線絶縁紙の重合度残率を求める第11のステップと、
あらかじめ求められた劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブに基づいて、前記第11のステップで求められた前記巻線絶縁紙の重合度残率と前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記巻線絶縁紙中の水分量を補正する第12のステップと、
前記第6マスターカーブおよび前記第7マスターカーブに基づいて、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、前記巻線絶縁紙の重合度残率を補正する第13のステップと、
前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第14のステップとを、
有することを特徴とする巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記第14のステップは、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率と、補正前の前記巻線絶縁紙の重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第12のステップおよび前記第13のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記巻線絶縁紙中の水分量と前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする請求項3記載の巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法により補正された前記プレスボード中の水分量と前記ブレスボードの重合度残率と、前記第1のステップで測定された前記絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて前記絶縁油中水分量を補正し、
その絶縁油中水分量を前記第9ステップの前記絶縁油中水分量として使用して、請求項3または4記載の巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法により前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、
特徴とする電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項1】
電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第1のステップと、
あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品のプレスボードに含まれるプレスボード中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第1マスターカーブに基づいて、前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器のプレスボード中の水分量を求める第2のステップと、
少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の絶縁油最高油温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第1のステップの測定時の前記プレスボードの寿命損失比を計算する第3のステップと、
あらかじめプレスボードの加熱劣化試験によって得られた初期プレスボード中水分量ごとの寿命損失比とプレスボード中水分量とに関する第2マスタカーブ、および寿命損失比とプレスボードの重合度残率と初期プレスボード中水分量とに関する第3マスターカーブに基づいて、前記第2のステップで求められた前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、劣化の指標となる前記プレスボードの重合度残率を求める第4のステップと、
あらかじめ求められた劣化したプレスボードの重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化したプレスボードの水分量とに関する第4マスターカーブに基づいて、前記第4のステップで求められた前記プレスボードの重合度残率と前記第1のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記プレスボード中の水分量を補正する第5のステップと、
前記第2マスターカーブおよび前記第3マスターカーブに基づいて、前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比とから、前記プレスボードの重合度残率を補正する第6のステップと、
前記第5のステップで補正された前記プレスボード中の水分量と、前記第6のステップで補正された前記ブレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第7のステップとを、
有することを特徴とするプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記第7のステップは、前記第6のステップで補正された前記プレスボードの重合度残率と、補正前の前記プレスボードの重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第5のステップおよび前記第6のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記プレスボード中の水分量と前記プレスボードの重合度残率とから、前記第3マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第3のステップで計算された前記プレスボードの寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする請求項1記載のプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項3】
電力用変圧器の絶縁油に含まれる絶縁油中水分量と絶縁油温度とを測定する第8のステップと、
あらかじめ水分平衡試験によって得られた電力用変圧器の新品の巻線絶縁紙に含まれる絶縁紙中水分量と絶縁油中水分量と絶縁油温度とに関する第5マスターカーブに基づいて、前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記電力用変圧器の巻線絶縁紙中の水分量を求める第9のステップと、
少なくとも前記電力用変圧器の運転時に記録した外気温度データ、負荷履歴、および運転時における点検の際に測定した絶縁油温度から、前記電力用変圧器の巻線最高点温度の履歴とその継続時間とを求めて前記第8のステップの測定時の前記巻線絶縁紙の寿命損失比を計算する第10のステップと、
あらかじめ巻線絶縁紙の加熱劣化試験によって得られた初期絶縁紙中水分量ごとの寿命損失比と絶縁紙中水分量とに関する第6マスターカーブ、および寿命損失比と巻線絶縁紙の重合度残率と初期絶縁紙中水分量とに関する第7マスターカーブに基づいて、前記第9のステップで求められた前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、劣化の指標となる前記巻線絶縁紙の重合度残率を求める第11のステップと、
あらかじめ求められた劣化した巻線絶縁紙の重合度残率ごとの絶縁油温度と絶縁油中水分量と劣化した絶縁紙中水分量とに関する第8マスターカーブに基づいて、前記第11のステップで求められた前記巻線絶縁紙の重合度残率と前記第8のステップで測定された前記絶縁油中水分量と前記絶縁油温度とから、前記巻線絶縁紙中の水分量を補正する第12のステップと、
前記第6マスターカーブおよび前記第7マスターカーブに基づいて、前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比とから、前記巻線絶縁紙の重合度残率を補正する第13のステップと、
前記第12のステップで補正された前記巻線絶縁紙中の水分量と、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断する第14のステップとを、
有することを特徴とする巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記第14のステップは、前記第13のステップで補正された前記巻線絶縁紙の重合度残率と、補正前の前記巻線絶縁紙の重合度残率との差が所定の値より小さくなるまで前記第12のステップおよび前記第13のステップを繰り返し、前記所定の値より小さくなったときの前記巻線絶縁紙中の水分量と前記巻線絶縁紙の重合度残率とから、前記第7マスターカーブに基づいて、前記電力用変圧器の寿命レベルの寿命損失比を求め、前記第10のステップで計算された前記巻線絶縁紙の寿命損失比との差から前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、特徴とする請求項3記載の巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のプレスボードによる電力用変圧器の余寿命診断方法により補正された前記プレスボード中の水分量と前記ブレスボードの重合度残率と、前記第1のステップで測定された前記絶縁油温度とから、第4マスターカーブに基づいて前記絶縁油中水分量を補正し、
その絶縁油中水分量を前記第9ステップの前記絶縁油中水分量として使用して、請求項3または4記載の巻線絶縁紙による電力用変圧器の余寿命診断方法により前記電力用変圧器の余寿命を診断することを、
特徴とする電力用変圧器の余寿命診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−182245(P2012−182245A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43018(P2011−43018)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人 電気学会 電力・エネルギー部門 刊行物名 :平成22年電気学会電力・エネルギー部門大会 論文集 発行年月日:2010年(平成22年)9月1日
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人 電気学会 電力・エネルギー部門 刊行物名 :平成22年電気学会電力・エネルギー部門大会 論文集 発行年月日:2010年(平成22年)9月1日
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
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