説明

プレス成形体及びこのプレス成形体の製造方法

【課題】順送りプレスによって製造するプレス成形体(半製品又は仕掛品)において、外形状及び外形寸法に高精度が要求される小さな部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造する場合などに好適に採用可能なようにする。
【解決手段】帯板状のストリップ2からブランク10を打ち抜くことで当該ストリップ2に形成される抜き孔11に対して打ち抜き後の前記ブランク10を厚さの一部のみが前記抜き孔11の内周面に係合するようにプッシュバックさせることにより、前記ストリップ2の一方面には前記ブランク10を突出させた凸部3が形成され且つ前記ストリップ2の反対面には前記抜き孔11を前記ブランク10で閉ざした凹部4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外形状及び外形寸法に高精度が要求される小さな部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造する場合などに好適に採用可能なプレス成形体と、このプレス成形体を製造する方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外径が10mmに満たないような小型の歯車を製造するには、円形断面の棒材を準備し、その外周面に周方向に均等間隔で長手方向に沿った溝(歯溝になる部分)を複数本形成し、また棒材中心部に軸孔を新規作成又は寸法出し加工(拡径処理)し、そのうえで、この加工後の棒材を、歯車の厚さ(「歯幅」方向の肉厚であって、以下では「歯厚」と言う)間隔で切断するという一連の機械加工を実施するのが一般的であった。加えて、切断後に得られる歯車は、回転するバレル内へ投入してバリ取り用の研磨仕上げを行う必要があった。
【0003】
しかし、このような機械加工は工数が多く、且つ外形状や外形寸法に高精度を持たせようとする場合には、熟練を要することから、製造効率が低く、しかも高コストになるという問題があった。
ところで、油圧発生用の歯車ポンプで用いる歯車部品のように、比較的大型の部品を製造する場合では、順送りプレスによる打抜きを行うことがある(例えば、特許文献1等参照)。このような歯車部品は、「歯車」と名称が付いてはいても油圧を発生させる程度の噛み合いが要求されるだけなので、外形状や外形寸法に、歯車伝動を行う「歯車」に相当するほどの高精度が必要とされるものではない。また、大型部品であるが故に、打抜き後の仕上げ加工なども必要に応じて簡単に行える事情がある。
【0004】
なお、このような歯車部品の順送りプレスでは、ストリップ(帯板状の素材)からブランク(歯車部品)を打ち抜いた後、ストリップに形成される抜き孔に対して打ち抜き後のブランクを嵌め戻し(プッシュバック)して、ブランクへの追加加工を施すことが知られている(前記特許文献1参照)。この場合、ブランクは、その板厚全部をストリップの抜き孔へ完全に戻して、ストリップの表裏面が面一になる状態にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−85852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記したように、従来の順送りプレスにより歯車部品を製造する場合では、プッシュバックをするに際して、ブランクの板厚全部をストリップの抜き孔へ完全に戻していた。そのために、プッシュバックをした時点で、ブランクはストリップの抜き孔内において周方向全部から圧縮力を受け、高い圧縮応力が内在するようになっている。従って、このようなブランクをその後、ストリップの抜き孔から取り出した際には、前記圧縮応力が解放されることに伴う周方向全部へ向けた膨張作用が生じるようになっていた。
【0007】
すなわち、外形寸法はもとより、軸孔として形成させた中心孔の内径に誤差が大きく含まれることになり、また製品ごとに生じる誤差のバラツキも大きく、これらをプレス前に予測し難いという問題があった。のみならず、外周縁にはダレやカエリも顕著に発生し、これらダレやカエリについても発生状況の予測が難しいため、対策の立てようがないという問題があった。
【0008】
これらのことから、外形状や外形寸法について、歯車伝動を行う「歯車」に相当するほどの高精度が必要とされる部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造するに際して、従来の順送りプレスやプッシュバック法を採用することはできなかった。
更に付言すれば、歯車伝動を行う「歯車」などでは、機械的強度や耐蝕性などでステンレスを素材にすることが好適とされているものの、ストリップとしてステンレスを用いる
ような場合では、高強度であり高硬度であることから材質的な膨張や収縮、粘りに一層の難しさがあって、従来の順送りプレスを採用することはできなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、外形状及び外形寸法に高精度が要求される小さな部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造する場合などに好適に採用可能なプレス成形体及びこのプレス成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るプレス成形体は、帯板状のストリップからブランクを打ち抜くことで当該ストリップに形成される抜き孔に対して打ち抜き後の前記ブランクを厚さの一部のみが前記抜き孔の内周面に係合するようにプッシュバックさせることにより、前記ストリップの一方面には前記ブランクを突出させた凸部が形成され且つ前記ストリップの反対面には前記抜き孔を前記ブランクで閉ざした凹部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
前記ストリップには、前記プッシュバックによって凸部及び凹部を形成するブランクが当該ストリップの帯長手方向に沿って一定ピッチで複数並んで設けられており、各ブランクの中心にはセンター孔が設けられ、前記センター孔が内径の小さな下孔とされているブランクと前記センター孔が前記下孔の内径を広げて成る拡大孔とされているブランクとが隣接して配置されたものとするのが好適である。
【0012】
前記ストリップがステンレスにより形成されたものとすることができる。
前記ストリップの前記抜き孔内周面に対して、前記ブランクが当該ブランクにおける厚さの20%以下で係合しているものとするのが好適である。
一方、本発明に係るプレス成形体の製造方法は、帯状に形成されたストリップに対してセンター孔を形成し、前記センター孔を位置中心とするブランクを前記ストリップから打ち抜き、前記ストリップから前記ブランクを打ち抜くことで形成される抜き孔に対して前記ストリップから打ち抜かれた前記ブランクを当該ブランクにおける厚さの一部のみを前記抜き孔の内周面に係合させてプッシュバックさせ、前記ストリップにプッシュバックされた前記ブランクに対して形成されている前記センター孔を同心で拡大形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るプレス成形体及びこのプレス成形体の製造方法では、外形状及び外形寸法に高精度が要求される小さな部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造する場合などに好適に採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るプレス成形体の第1実施形態を示した平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】順送りプレスを示した側断面図である。
【図4】図3のB部拡大図である。
【図5】順送りプレスの作動状況を拡大して示した側断面図であって(a)はプッシュバック工程であり(b)は面押し工程であり(c)はシェービング工程である。
【図6】本発明に係るプレス成形体に更に加工を施すことで製造された小型の歯車の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1及び図2は、本発明に係るプレス成形体1の第1実施形態を示している。このプレス成形体1は、帯板状のストリップ2の一方面に凸部3が形成され、その反対面に凹部4が形成されたものである。凸部3と凹部4とはストリップ2の表裏(図2の上下方向)で一致する位置に設けられており、これら表裏で位置的に一致した凸部3と凹部4とが互いに対を成すものとして、ストリップ2の帯長手方向(図1及び図2の左右方向)に沿って一定ピッチで複数並んで設けられている。
【0016】
このようなプレス成形体1は、図6に示すような小型の歯車7を順送りプレスによって
製造する場合の中間品とされる。ここにおいて『中間品』とは、加工の中途段階ではあるが商品としての流通も可能な『半製品』でもよいし、加工の中途段階として位置づけられる『仕掛品』でもよいとする。
このプレス成形体1は順送りプレスにより加工が施されるものであるため、帯長手方向に沿った両辺部(帯幅を形成している両サイド)には、一定ピッチでパイロット孔6が形成されている。
【0017】
なお、図6に示した歯車7は、例えば、電気バリカンや電気シェーバーといった片手で把持できる程度の小型の電化製品などにおいて、歯車伝動を行うための「小型の歯車」として用いられる。この歯車7の外径φは5.5mm程度、歯厚は1mm程度のものとされる。また、この歯車7の中心には、内径1.98mmの軸孔8が貫通形成されている。
この歯車7は歯車伝動に用いるので、その外形状や外形寸法には、騒音や振動がでないように円滑な噛み合いを可能にして、伝動効率を高めるための高精度が必要とされる。当然に、歯部のエッジにはダレやカエリが発生していないことが重要とされる。
【0018】
また、軸孔8は歯側面に対して垂直となるストレート孔にすると共に、軸孔8の内径についても、回転軸との嵌め合い時(圧入時)に偏心や傾斜、スリップ、回転軸の脱出などが起こらないように高精度にすることが重要とされている。同時に、この歯車7には摩耗や破損を防止できるような強度及び硬度も要求されている。
ストリップ2は、ステンレスにより形成されており、本実施形態では厚さ1mm、幅21mmとしてある。言うまでもなく、ストリップ2の厚さは、最終製品として製造する歯車7の歯厚に対応させたものである。
【0019】
凸部3は、ストリップ2から一旦、打ち抜かれたブランク10によって形成されている。ブランク10は、ストリップ2から最終的に分離させることで前記した歯車7とする部分である。このような凸部3を形成させるには、ストリップ2から一旦、ブランク10を打ち抜いた後、このブランク10を打ち抜くことでストリップ2に生じた抜き孔11に対して、直ちに、ブランク10を部分的に嵌め戻す(プッシュバックさせる)ようにしているものである。
【0020】
すなわち、ストリップ2に形成された抜き孔11はブランク10の外形状に対応する開口形状を有しているため、この抜き孔11に対してブランク10をプッシュバックさせることが可能である。そして、このプッシュバック時において、ブランク10における厚さの一部のみが抜き孔11の内周面に係合するようにすることで、係合部分以外をストリップ2の一方面で突出させ、この突出部分を凸部3とさせているものである。
【0021】
ストリップ2の抜き孔内周面に対して、ブランク10を係合させる程度としては、ブランク10(ストリップ2に同じ)における厚さtの20%以下とするのが好適である。すなわち、ブランク10の厚さをt、係合量をΔtとおけば0.2t≧Δtとする。更に好ましくは15%程度とする。本実施形態では、ブランク10の厚さを1mmとしているので、係合量は0.2mm〜0.15mmとした。
【0022】
ブランク10の係合量Δtが、ブランク10の厚さtに対する20%を超えると、ストリップ2の抜き孔11に対して生じる径方向内方へ向けた膨出作用(抜き孔11の開口を小さくしようとする作用)や、ブランク10に対して生じる径方向外方へ向けた膨張作用(ブランク10の外径が大きくなろうとする作用)が、プッシュバック後のブランク10に対して過剰に付与されることになる。その結果、ブランク10は抜き孔11内において周方向全部から圧縮力を受け、高い圧縮応力が内在するようになってしまう。
【0023】
このような高い圧縮応力を内在したブランク10を、その後、ストリップ2から最終的に分離させて歯車7を得ようとすると、ブランク10(即ち、歯車7)から前記圧縮応力が一気に解放されることに伴って、周方向全部へ向けた膨張作用が生じてしまう。すなわち、このようにして得られた歯車7は、外径寸法に誤差を大きく含むものとなり、また製品ごとのバラツキも大きくなって、実用に耐えないものとなる。このような理由により、ブランク10の厚さtと係合量Δtとの関係を前記のように0.2t≧Δtとする。
【0024】
加えて、ストリップ2から最終的に分離させたブランク10が歯車7である場合について言えば、歯車同士の噛み合いに必要とされる歯厚に、おおよそ0.6〜0.8tを確保
しなければならないという事情に対して、歯のエッジ部分に生じさせる係合量Δtを0.2t≧Δtと設定することは、理に叶っていると言うことができる。すなわち、この係合量Δtの中では、多少の寸法不足や肌荒れを含ませることが許容されることになる。
【0025】
一方、前記した凸部3に対し、その反対面に形成される凹部4は、抜き孔11の内周面のうち、厚さ方向においてブランク10が係合していない部分として形成されたものであって、抜き孔11がブランク10で閉ざされた状態(貫通していない状態)となっている。
前記したように、ストリップ2の表裏で互いに対を成すように配置された凸部3及び凹部4(すなわち、ストリップ2にプッシュバックされたブランク10)は、このストリップ2の帯長手方向に沿って一定ピッチで複数並んで設けられている。このようにして並んだ各ブランク10の中心には、それぞれセンター孔12が設けられている。ブランク10には、センター孔12が内径の小さな下孔12aとされているブランク10aと、センター孔12が前記下孔12aの内径を広げて成る拡大孔12bとされているブランク10bとがある。これらのブランク10a,10bは、ストリップ2の帯長手方向で互いに隣接して配置されている。
【0026】
更に言えば、ブランク10には、センター孔12が拡大孔12bとされた後に更に面押し(開口周縁に発生したカエリを押さえ込む操作)を施された整形孔12cとなっているブランク10cと、前記整形孔12cの内径をシェービング(規定寸法に整える操作)した仕上げ孔12dとなっているブランク10dとがある。これらのブランク10c,10dについても、ストリップ2の帯長手方向で互いに隣接して配置されている。
【0027】
各ブランク10a,10b,10c,10dは、図2の左方から右方へ向けてこの順番で2個ずつ配置されている。また最も左側となるブランク10aよりも更に左隣にはブランクを有しないで形成されたセンター孔12(下孔12a)が配置され、最も右側となるブランク10dよりも更に右隣にはブランクの抜けた抜き孔11が形成されたものとなっている。なお、これらブランク無しのセンター孔12やブランク抜け後の抜き孔11は、本発明に係るプレス成形体1において必須不可欠とされる構成ではない。
【0028】
次に、本発明に係るプレス成形体1の製造方法で用いる順送りプレス20について説明する。
図3〜図5は、順送りプレス20の一例を示している。この順送りプレス20は、上部ダイセット21にストリッパーガイド22が取り付けられ、下部ダイセット23にダイプレート24が取り付けられたものであって、上部ダイセット21と下部ダイセット23とを相対的に上下動(いずれが上下動してもよい)させるように動作し、この動作中に、ストリッパーガイド22とダイプレート24との上下間でストリップ2をその長手方向に沿って間欠横移動(水平送り)させるようになっている。
【0029】
この順送りプレス20には、図3の左方から右方へ向けて、パイロット孔抜き工程a、孔抜き工程b、プッシュバック工程c、第2孔抜き工程d、面押し工程e、シェービング工程f、落とし工程gが、この順番で配置されている。この順番は、順送りプレス20によるストリップ2への加工順である。
パイロット孔抜き工程aは、ストリップ2に対してパイロット孔6を打ち抜くための工程である。
【0030】
このパイロット孔抜き工程aでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態で丸棒状の孔開けパンチ30が固定されていると共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記孔開けパンチ30用の挿入孔を開口させるようにしてダイス31が固定されている。孔開けパンチ30の外径及びダイス31に形成された孔開けパンチ30用の挿入孔の内径は、パイロット孔6の孔径に対応させて形成してある。
【0031】
孔抜き工程bは、ストリップ2に対して、加工順で最初となるセンター孔12(図1の最も左側の下孔12a)を打ち抜くための工程である。
この孔抜き工程bでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態で丸棒状の孔開けパンチ32が固定されている
と共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記孔開けパンチ32の挿入孔を開口させるようにしてダイス33が固定されている。孔開けパンチ32の外径及びダイス33に形成された孔開けパンチ32用の挿入孔の内径は、下孔12aの孔径に対応させて形成してある。
【0032】
プッシュバック工程cは、図5(a)に示すように、ストリップ2に対して、加工順で最初となる凸部3及び凹部4(図1の最も左側のブランク10a)を形成させるための工程である。
このプッシュバック工程cでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態で抜きパンチ35が固定されていると共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記抜きパンチ35用の挿入孔を開口させるようにしてダイス36が固定され、更に、このダイス36内にバッド37が上下動自在な状態に保持されている。
【0033】
抜きパンチ35の断面形状及びダイス36に形成された抜きパンチ35用の挿入孔の開口形状は、ブランク10の外形状(図6に示した歯車7としての平面形状)に対応する形状及び大きさで形成されている。当然に、このダイス36の挿入孔内に嵌められたバッド37についても、その断面形状はブランク10の外形状に対応したものとなっている。
図4に示すように、バッド37の下端部は、ダイス36の下方を突き抜けて下部ダイセット23に届いており、この下部ダイセット23には、バッド37の下端部を受け止めるバッド基部38と、このバッド基部38を介してバッド37を上方へ押し出すように付勢する押圧付勢部材39とが保持されている。この押圧付勢部材39は、下部ダイセット23を支持しているホルダー40に対して埋め込まれた基礎部材41により、その下端部を支持されている。
【0034】
押圧付勢部材39は、ウレタンゴムにより、長手方向を上下方向へ向けた円柱形に形成されており、円柱形の両端から対向方向へ押圧力を受ければ軸方向圧縮し、また両端の押圧力が解除されれば圧縮前の初期形状に弾性復元する。
下部ダイセット23には、バッド基部38を収容する部分に、当該バッド基部38の厚さ(図4の上下方向寸法)よりも深い凹部42が形成されており、この凹部42内においてバッド基部38は上下動自在となっている。従って、押圧付勢部材39が軸方向圧縮をしていないとき(初期の円柱形であるとき)には、バッド基部38は凹部42内の上方位置で停止して、バッド37の上端部をダイプレート24から未突出となる高さ位置(ダイプレート24の上面から下方へ凹んだ高さ)に保持させる。このとき、ダイプレート24の上面からバッド37の上端部までの凹み量は、ストリップ2に対して凸部3が突出する量に等しくしてある。
【0035】
これに対し、バット37の上端部に下方へ押し下げる押圧力が加えられると、バッド37を介してバッド基部38が凹部42内の下方位置へ移動し、これに伴い、押圧付勢部材39がバッド基部38と基礎部材41との上下間で両端から対向押圧されるようになる。これによって押圧付勢部材39が軸方向圧縮され、押し下げられているバッド37を上方へ押し返す作用を生じることになる。この押し返す作用が、ストリップ2の抜き孔11に対してブランク10を嵌め戻すためのプッシュバック作用となる。
【0036】
第2孔抜き工程dは、ストリップ2に形成されたセンター孔12(内径の小さな下孔12a)の内径を広げて拡大孔12bとするための工程である。
この第2孔抜き工程dでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態で丸棒状の拡径パンチ45が固定されていると共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記拡径パンチ45用の挿入孔を開口させるようにしてダイス46が固定されている。
【0037】
拡径パンチ45の外径及びダイス46に形成された拡径パンチ45用の挿入孔の内径は、歯車7の軸孔8の内径に近似させることを目標としつつも、シェービング工程fでの取り代(仕上げ加工量)を残すことができる寸法として、形成してある。そのうえで、拡径パンチ45の外周面と、ダイス46における挿入孔の内周面との間にできるクリアランスを、軸孔8の内径に対する1%程度まで厳しくさせている(一般的なクリアランスでは8
%程度にするのが普通である)。このようにクリアランスを小さく設定するために、拡径パンチ45の外径やダイス46における挿入孔の内径を仕上げる工程では、ワイヤカット後のダイヤモンド研磨を行うようにしている。
【0038】
面押し工程eは、図5(b)に示すように、ストリップ2に形成された拡大孔12bの開口周縁を押さえてカエリを解消させるための工程である。
この面押し工程eでは、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24からストリップ2の厚さを超えて上突出する状態で上端部が段付きの先細りテーパ形に形成された面押しパンチ47が固定されていると共に、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22の下面で前記面押しパンチ47用の挿入孔を開口させるようにしてダイス48が固定されている。
【0039】
面押しパンチ47の上端部に形成される段付き部分は、径小部分47bが拡大孔12b内に突き刺し可能であり、径大部分47cが拡大孔12bを通らないように形成されてあり、これら径小部分47bと径大部分47cとの間にできる段差内面(内隅部分)で、拡大孔12bの開口周縁に発生したカエリを押さえるようになっている。径小部分47bよりも上端側に先細りのテーパ部分47aが形成されているのは、拡大孔12bに対する径小部分47bの突き刺しを容易且つ確実に導かせるためである。なお、ダイス48に形成された面押しパンチ47用の挿入孔の内径は、拡大孔12bから突き抜けるようになるテーパ部分47a(場合によっては径小部分47bを含む)を挿入できる寸法として、形成してある。
【0040】
シェービング工程fは、図5(c)に示すように、ストリップ2に形成された拡大孔12b(面押し後に整形孔12cとされたもの)に対して、内径を規定寸法に整える(サイジングする)ための工程である。
このシェービング工程fでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態で丸棒状のシェービングパンチ49が固定されていると共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記シェービングパンチ49用の挿入孔を開口させるようにしてシェービングダイス50が固定されている。シェービングパンチ49の外径及びシェービングダイス50に形成されたシェービングパンチ49用の挿入孔の内径は、拡大孔12b(整形孔12c)の孔径に対応させて形成してある。
【0041】
落とし工程gは、ストリップ2の抜き孔11から各種加工及び処理が終了したブランク10d(即ち、歯車7)を打ち落とすための工程である。
この落とし工程gでは、上部ダイセット21側に対し、ストリッパーガイド22からストリップ2の厚さを超えて下突出する状態でノックアウト51が固定されていると共に、下部ダイセット23側に対し、ダイプレート24の上面で前記ノックアウト51用の挿入孔を開口させるようにしてガイド52が固定され、更に、このガイド52内にブランク受け53が嵌められている。
【0042】
ノックアウト51は、ブランク10の側面に対して全面的に押圧力を分散させるのが好ましいため、当該ノックアウト51の断面形状はブランク10の外形状(歯車7の形状)と略同じとさせる。ガイド52に設ける挿入孔の開口形状や、この挿入孔に嵌るブランク受け53の断面形状についても、同様に、ブランク10の外形状(歯車7の形状)と略同じとさせる。
【0043】
とはいえ、ブランク10と全く同じとせず、ノックアウト51は、ブランク10の外形状よりも5/100程度、小さくし、ガイド52の挿入孔やブランク受け53については、ブランク10の外形状よりも5/100程度、大きくして、ブランク10(歯車7)に対する装置的な接触干渉を回避できるようにしておくとよい。
ブランク受け53の上端部は、ダイプレート24から未突出となる高さ位置(ダイプレート24の上面から下方へ凹んだ高さ)に保持されている。このとき、ダイプレート24の上面からブランク受け53の上端部までの凹み量は、歯車7の歯厚に等しくしてある。
【0044】
次に、本発明に係るプレス成形体1の製造方法について説明する。
順送りプレス20に対し、ステンレスを素材として帯状に形成されたストリップ2を供
給しつつ、順送りブレス20を動作させる。
本実施形態では、ストリップ2がステンレスであり、厚さ1mmであることを前提として、変形の生じない適切な打抜きを可能にするうえで、順送りプレス20には45tプレスを用いた。また、動作速度(上部ダイセット21と下部ダイセット23との相対的な上下動)を毎分30回程度の比較的ゆっくりした速度とした(一般的な順送りプレスでは毎分80回程度にするのが普通である)。このように、ゆっくりした速度で動作させることで、ストリップ2が過剰に加工熱を生じることなくなり、それだけ、加工精度として、その外形状及び外形寸法に高精度を出すことができるようになる。このことは、全ての工程(a〜g)に共通して言えることである。
【0045】
順送りプレス20の動作では、まず、パイロット孔抜き工程aにおいて、ストリップ2の帯長手方向に沿った両辺部に、孔開けパンチ30によってパイロット孔6を一定ピッチで打抜き形成する。
次に、孔抜き工程bにおいて、ストリップ2の帯幅方向中心部に、孔開けパンチ32によってセンター孔12(下孔12a)を形成する。
【0046】
次に、プッシュバック工程cにおいて、センター孔12(下孔12a)を位置中心としつつ、抜きパンチ35によってブランク10aを打ち抜く。また同時に、ストリップ2に形成される抜き孔11に対して、打ち抜かれたブランク10をバッド37によってプッシュバックさせる。
このプッシュバックについて付言すると、抜きパンチ35とダイス36との上下間で挟まれたストリップ2に対し、抜きパンチ35がダイス36へ向けて打ち込まれると、ストリップ2から打ち抜かれたブランク10aは、一旦、ダイス36の挿入孔内へ押し込められる。このブランク10aは、ダイス36の挿入孔内でバッド37により支持される。
【0047】
このバッド37は、ウレタンゴム製の押圧付勢部材39によって上方へ押し上げ付勢されているため、バッド37上のブランク10aは、ダイス36の挿入孔をガイドとしつつバッド37と一緒に上方へと押し上げられ、ストリップ2の抜き孔11へと嵌め戻される(プッシュバックされる)ようになる。
ここにおいて、押圧付勢部材39はウレタンゴムによって形成してあるので、ブランク10aにおける厚さの一部のみを抜き孔11の内周面に係合させるというプッシュバック作用が確実に得られるようになっている。当然に、このプッシュバック作用を得るために、押圧付勢部材39は、その外径、上下方向長さ、ゴム硬度などが適宜、設定されている。
【0048】
なお、押圧付勢部材39を保持させるために下部ダイセット23に設ける収容孔を、押圧付勢部材39(円柱形)が径方向にガタツキを生じないサイズの円形孔としておけば、押圧付勢部材39の圧縮及び復元変形は、上下方向のみに限定されるものとなる。このことにより、確実で安定したプッシュバック作用を、一層得やすくなる。
のみならず、押圧付勢部材39がウレタンゴムによって形成されていることで、コイルバネなどによる弾発力とは異なって、押し上げ速度の等速度性や押し上げ方向の直進性などが安定して得られるものとなっている。それ故に、ブランク10aにおける厚さの一部のみを抜き孔11の内周面に係合させるようなプッシュバックが確実に得られるという利点が得られているものである。
【0049】
なお、ストリップ2の抜き孔11に対してプッシュバックされたブランク10aは、ストリップ2から一旦は完全に打ち抜かれたものであり、ブランク10aの外周面と抜き孔11の内周面とは、外見的な接合状態にはあるが、素材や組織として一体ではない状態(乖離状態)にある。すなわち、このプッシュバック工程cは、打抜きを完全には行わずにストリップに対して片面へ凸を形成させる、いわゆる「半抜き」や「エンボス」などと呼称される技法とは明らかに異なるものである。
【0050】
次に、第2孔抜き工程dにおいて、ストリップ2にプッシュバックされたブランク10aに対し、センター孔12(下孔12a)を、同心のままで拡径パンチ45によって拡大形成させ、拡大孔12bとさせる。
次に、面押し工程eにおいて、拡大孔12bを備えたブランク10bに対し、センター
孔12(拡大孔12b)の開口周縁を面押しパンチ47で押さえ、カエリの解消した整形孔12cとさせる。
【0051】
次に、シェービング工程fにおいて、整形孔12cを備えたブランク10cに対し、センター孔12(整形孔12c)の内径を、シェービングパンチ49によって規定寸法に整え、仕上げ孔12d(即ち、軸孔8)とさせる。
最後に、落とし工程gにおいて、ノックアウト51によって、ストリップ2の抜き孔11から各種加工及び処理が終了したブランク10d(即ち、歯車7)を打ち落とす。
【0052】
以上、詳説したところから明らかなように、本発明に係るプレス成形体1では、外形状及び外形寸法に高精度が要求される小さな部品、例えば、軸心に対するブレが許されない回転体、とりわけ外径の小さな歯車などを製造する場合などに好適に採用可能である。
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0053】
例えば、順送りプレス20において、パイロット孔抜き工程a、孔抜き工程b、プッシュバック工程c、第2孔抜き工程d、面押し工程e、シェービング工程f、落とし工程gの順番を一部変更したり、省略したり、或いは別工程を追加したりすることは可能である。
また、パイロット孔抜き工程aの孔開けパンチ30やダイス31、孔抜き工程bの孔開けパンチ32やダイス33、プッシュバック工程cの抜きパンチ35やダイス36、第2孔抜き工程dの拡径パンチ45やダイス46、面押し工程eの面押しパンチ47やダイス48などについて、その製作過程で、ワイヤカット後のダイヤモンド研磨を行ってもよいことは言うまでもない。
【0054】
本発明は、歯車7を製造する場合に限定されるものではなく、ナット、座金、板カム、その他の小型部品などの製造にも実施可能である。
ストリップ2の外形寸法や材質、歯車7の外形寸法、順送りプレス20の諸元(動作能力を表す数値や各部の寸法など)などについても、前記したものに限定されないことは言うまでもない。例えば、材料コストの低コスト化や生産能率の向上を目的として、ストリップ2の幅寸法を小さくしたり、パイロット孔6のピッチを小さくしたりすることも可能である。
【0055】
ストリップ2の素材は、ステンレスに限らず、鉄、黄銅、アルミニウムなど、種々のものを採用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 プレス成形体
2 ストリップ
3 凸部
4 凹部
6 パイロット孔
7 歯車
8 軸孔
10(10a〜10d) ブランク
11 抜き孔
12 センター孔
12a 下孔
12b 拡大孔
12c 整形孔
12d 仕上げ孔
20 順送りプレス
21 上部ダイセット
22 ストリッパーガイド
23 下部ダイセット
24 ダイプレート
30 孔開けパンチ
31 ダイス
32 孔開けパンチ
33 ダイス
35 抜きパンチ
36 ダイス
37 バット
38 バッド基部
39 押圧付勢部材
40 ホルダー
41 基礎部材
42 凹部
45 拡径パンチ
46 ダイス
47 面押しパンチ
47a テーパ部分
47b 径小部分
47c 径大部分
48 ダイス
49 シェービングパンチ
50 シェービングダイス
51 ノックアウト
52 ガイド
53 ブランク受け
Δt 係合量
φ 外径
t 厚さ
a パイロット孔抜き工程
b 孔抜き工程
c プッシュバック工程
d 第2孔抜き工程
e 面押し工程
f シェービング工程
g 落とし工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板状のストリップからブランクを打ち抜くことで当該ストリップに形成される抜き孔に対して打ち抜き後の前記ブランクを厚さの一部のみが前記抜き孔の内周面に係合するようにプッシュバックさせることにより、前記ストリップの一方面には前記ブランクを突出させた凸部が形成され且つ前記ストリップの反対面には前記抜き孔を前記ブランクで閉ざした凹部が形成されていることを特徴とするプレス成形体。
【請求項2】
前記ストリップには、前記プッシュバックによって凸部及び凹部を形成するブランクが当該ストリップの帯長手方向に沿って一定ピッチで複数並んで設けられており、各ブランクの中心にはセンター孔が設けられ、前記センター孔が内径の小さな下孔とされているブランクと前記センター孔が前記下孔の内径を広げて成る拡大孔とされているブランクとが隣接して配置されていることを特徴とする請求項1記載のプレス成形体。
【請求項3】
前記ストリップがステンレスにより形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のプレス成形体。
【請求項4】
前記ストリップの前記抜き孔内周面に対して、前記ブランクが当該ブランクにおける厚さの20%以下で係合していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレス成形体。
【請求項5】
帯状に形成されたストリップに対してセンター孔を形成し、
前記センター孔を位置中心とするブランクを前記ストリップから打ち抜き、
前記ストリップから前記ブランクを打ち抜くことで形成される抜き孔に対して前記ストリップから打ち抜かれた前記ブランクを当該ブランクにおける厚さの一部のみを前記抜き孔の内周面に係合させてプッシュバックさせ、
前記ストリップにプッシュバックされた前記ブランクに対して形成されている前記センター孔を同心で拡大形成させる
ことを特徴とするプレス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107111(P2013−107111A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254808(P2011−254808)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(511283778)
【Fターム(参考)】