説明

プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、特に、その表面上に潤滑油を塗布して成形する際に、優れたプレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を有する、亜鉛めっき鋼板または亜鉛系合金めっき鋼板(以下、「亜鉛系めっき鋼板」と略称する)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】亜鉛系めっき鋼板は、耐食性に優れているので、各種の産業分野において広く使用されている。このような亜鉛系めっき鋼板を、複写機等の事務機器、音響機器、家庭電器製品等の材料として使用する場合には、亜鉛系めっき鋼板に対して種々のプレス成形が施され、また、モータカバー、カートリッジ式タンク等の材料として使用する場合には、亜鉛系めっき鋼板に対して絞り成形が施される。
【0003】亜鉛系めっき鋼板のプレス成形性は、冷延鋼板に比べて劣る。その原因は、プレス成形時における、成形用金型に対する亜鉛系めっき鋼板の摩擦抵抗が、冷延鋼板のそれよりも大きいためである。そこで、亜鉛系めっき鋼板のプレス成形性を向上させ、プレス成形後の外観を良好にならしめるために、一般に、プレス成形するに先立って、亜鉛系めっき鋼板の表面上に、潤滑油や防錆油を塗布することが行われている。
【0004】亜鉛系めっき鋼板の耐食性を、より向上させるために、亜鉛系めっき層の表面上に、クロメート被膜、または、クロメート被膜および樹脂被膜が形成されたクロメート処理亜鉛系めっき鋼板が知られている。このようなクロメート処理亜鉛系めっき鋼板の、平板状での耐食性は良好である。しかしながら、潤滑油等を塗布しないでプレス成形を施すと、クロメート被膜に剥離や黒化現象が発生して、亜鉛系めっき鋼板の耐食性および表面性状が劣化する。従って、クロメート処理亜鉛系めっき鋼板の場合においても、プレス成形を施す場合には、その表面上に、潤滑油等を塗布することが必要とされている。
【0005】一方、その表面上に潤滑性の樹脂被膜を形成することにより、潤滑油等を塗布しなくても、潤滑性およびプレス成形性に優れ、且つ、耐食性の良好な表面処理鋼板の開発が従来からなされており、その表面上に潤滑性の樹脂被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板として、例えば、特開昭61-60886号、特開平1-110140号、特開平1-301332号、特開平2-140294号、特開平5-39458 号のほか、本発明者等の発明による、特開平4-313367号および特開平4-313368号等(以下、先行技術という)が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した先行技術には、次のような問題がある。即ち、成形工程が複雑であり、且つ、より厳しいプレス成形が施された場合には、上記先行技術による表面処理鋼板では、プレス成形中に潤滑性被膜が剥離する結果、所期の潤滑性能を維持することができず、従って、成形不良や成形後の外観が劣化する問題が生ずる。
【0007】上述した問題に対する対策として、潤滑性被膜を有する亜鉛系めっき鋼板の潤滑性を補うために、プレス成形に先立って、その表面上に潤滑油例えば揮発性プレス油を塗布することが行われている。しかしながら、上述した、その表面上に潤滑油が塗布された、潤滑性被膜を有する亜鉛系めっき鋼板をプレス成形すると、プレス成形時に、潤滑油によって潤滑性被膜の剥離が促進される。従って、上述した方法では、優れたプレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を発揮させることができない。
【0008】従って、この発明の目的は、上述した問題を解決し、亜鉛系めっき鋼板のプレス成形性を高めるために、その表面上に潤滑性被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板に対し、潤滑油を塗布してプレス成形するに際し、厳しいプレス成形が施されても、プレス成形時に、その表面上に塗布された潤滑油によって、潤滑性被膜に剥離等が生ずることのない、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性にすぐれた亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した問題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、次の知見を得た。
(1) 特定の構造および物性を有する水酸基含有ウレタンプレポリマーと、ポリイソシアネート化合物またはアミノ化合物との架橋構造体からなる溶剤系熱硬化性樹脂が、被膜用ベース樹脂として優れた性能を有していることから、このような溶剤系熱硬化性樹脂と、特定の固形潤滑剤と、そして、防錆顔料とが所定の割合で配合された塗料を、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面上に形成されたクロメート被膜の上に塗布し、そして、これを加熱し硬化させて、所定範囲の厚さの樹脂被膜を形成すれば、その表面上に潤滑油を塗布してプレス成形を行った場合でも、優れたプレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を有する亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0010】(2) 特定成分の2種以上の水酸基含有ウレタンプレポリマーと、ポリイソシアネート化合物およびアミノ化合物の少なくとも1種とからなる複合架橋構造体が、ベース樹脂である溶剤系熱硬化性樹脂として、一段と優れた性能を有しており、ガラス転移温度の異なる2種以上の上記溶剤系熱硬化性樹脂と固形潤滑剤とそして防錆顔料とが所定割合で配合された塗料を、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面上に形成されたクロメート被膜の上に塗布し、そして、これを加熱し硬化させて、所定範囲の厚さの樹脂被膜を形成すれば、その表面上に潤滑油を塗布してプレス成形を行った場合でも、一段と優れたプレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を有する亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0011】この発明は、上記知見に基づいてなされたもので、亜鉛めっき鋼板または亜鉛系合金めっき鋼板の少なくとも1つの亜鉛系めっき層の上に、クロメート被膜が形成され、そして、前記クロメート被膜の上に、塗料を塗布しそしてこれを加熱硬化させることによって樹脂被膜が形成されている亜鉛系めっき鋼板であって、前記クロメート被膜の量は、前記鋼板の片面当たり、金属クロムに換算して5〜200mg/m2の範囲内であり、前記樹脂被膜の厚さは、前記鋼板の片面当たり、0.3 〜5.0 μm の範囲内であり、前記樹脂被膜は、固形分換算で、(A) 溶剤系熱硬化性樹脂: 100 重量部、(B) 固形潤滑剤 : 1〜30重量部、および、(C) 防錆顔料 : 3〜30重量部からなっており、前記溶剤系熱硬化性樹脂は、下記からなっており、(A) 下記化学成分組成を有する水酸基含有ウレタンプレポリマー、(a) ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選んだ少なくとも1種のポリオール、(b) イソシアネート化合物、および、(c) 2価のアルコール、および、(B) 硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーおよびアミノ樹脂のうちの少なくとも1種、そして、前記固形潤滑剤は、5μm 以下の粒径のフッ素樹脂、または、前記フッ素樹脂と1000以上の分子量を有するポリオレフィン樹脂とが、フッソ樹脂/ポリオレフィン樹脂で 10/0 〜2/8 の割合で配合されている樹脂からなっていることに特徴を有するものである。
【0012】請求項2の発明は、溶剤系熱硬化性樹脂が、ガラス転移温度の異なる2種以上の樹脂からなっていることに特徴を有するものであり、請求項3の発明は、ガラス転移温度の異なる2種以上の溶剤系熱硬化性樹脂が、硬化後のガラス転移温度が50℃以下である低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂と、硬化後のガラス転移温度が50℃超である高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂とからなっていることに特徴を有するものである。また、請求項4の発明は、低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂と、高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂との配合比が、9:1〜1:9の範囲内であることに特徴を有するものであり、そして、請求項5の発明は、防錆顔料が、クロム酸塩系化合物およびシリカのうちの少なくとも1種からなっていることに特徴を有するものである。
【0013】
【作用】この発明において、亜鉛系めっき層の表面上に形成される樹脂被膜のための塗料中に、ベース樹脂として溶剤系熱硬化性樹脂を使用する理由は、次ぎの通りである。
■ 溶剤系樹脂は、水系樹脂に比較して、樹脂中に添加される潤滑剤および防錆剤等の添加剤との相溶性に優れており、且つ、長期にわたる安定した性能を有している。
■ 熱硬化性樹脂には融点が存在しないので、熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比較して、高温時の機械的強度が高い。従って、このような樹脂からなる塗料によって被膜を形成すれば、プレス成形時の摩擦熱によって鋼板の温度が上昇しても、樹脂被膜に剥離や損傷が生じにくい。
【0014】溶剤系熱硬化性樹脂としては、前述したように、(A) 下記化学成分組成を有する水酸基含有ウレタンプレポリマー、(a) ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオール、(b) イソシアネート化合物、および、(c) 2価のアルコール、(B) 硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーおよびアミノ樹脂の少なくとも1種、からなっていることが必要である。以下にその具体的な組成について説明する。
【0015】水酸基含有ウレタンポリマーを構成するポリエーテルポリオールとして、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンのエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド付加物の如き直鎖状ポリアルキレンポリオール等を使用する。
【0016】水酸基含有ウレタンポリマーを構成するポリエステルポリオールとして、例えば、二塩基酸と低分子ポリオールとを反応させて得られる、分子鎖中にOH基を有する線状ポリエステルを使用する。そして、上記二塩基酸として、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テレフタル酸、ジメチルテレフタレート、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、または、上記各酸のエステル類を使用する。
【0017】水酸基含有ウレタンポリマーを構成するポリエーテルポリエステルポリオールとして、上記二塩基酸と上記ポリエーテルポリオールとの混合物、または、上記二塩基酸と低分子ポリオールとの混合物を、エステル化反応させて得られる、分子鎖中にOH基を有する線状ポリエステル、または、末端にカルボキシル基および/または水酸基を有するポリエステルと、アルキレンオキサイド(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)との付加反応によって得られたポリエーテルを使用する。
【0018】水酸基含有ウレタンポリマーを構成するイソシアネート化合物として、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、o-,m-,またはp-フェニレンジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、芳香族環が水素添加された2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'- ジイソシアネート、 3,3' −ジメチル−4,4'- ビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'- ジイソシアネート、ω,ω’−ジイソシアネート−1.4-ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3-ジメチルベンゼン等の、芳香族環を有するイソシアネート化合物を、各々単独またはその2種以上を混合して使用する。
【0019】2価のアルコールとして、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、水添ビスフェノールAの如きジオール類を使用する。
【0020】硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーとして、ポリイソシアネートを公知のブロック剤を使用してブロック化したブロックポリイソシアネートプレポリマー、例えば、「バーノックD−550 」、「バーノックD−500 」、「バーノックB7-887」(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、「タケネート N-815-N 」( 武田薬品工業株式会社製) 、「アヂトール(ADDITOL) VXL−80」( ヘキスト合成株式会社製) 等を使用する。
【0021】硬化剤としてのアミノ樹脂として、メラミン尿素アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、ステログアナミンまたはスピログアナミンのようなアミノ成分と、ホルムアルデヒド、パラホルム、アセトアルデヒド、グリオキサールのようなアルデヒド成分と、そして、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、iso-ブタノール、sec-ブタノールのようなアルコール成分とを反応させて得られる樹脂を使用する。
【0022】塗料中に添加される固形潤滑剤として、フッ素樹脂、または、フッ素樹脂とポリオレフィン樹脂の混合樹脂を使用すべきである。フッ素樹脂、または、フッ素樹脂とポリオレフィン樹脂の混合樹脂は、プレス成形時に生ずる、潤滑性被膜の剥離、かじり、鋼板の破断等を防止して、鋼板に対し、摺動、変形および摩耗に対する抵抗を付与し、そして、鋼板および金型の損傷を防止する作用を有している。特に、フッ素樹脂は、これを潤滑性被膜の表面上に塗布した場合に、潤滑性が劣化することなく、優れたプレス成形性を維持し得る作用を有しており、潤滑性被膜の剥離を防止するために、極めて有効である。
【0023】フッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロチレン樹脂、テトラフルオロチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂等のうちの1種または2種以上を混合して使用する。
【0024】上述したフッ素樹脂は、塗料の分散性および薄膜形成性の観点から、粒径5μm 以下好ましくは3μm 以下の微粉末であることが必要である。このような微粉末ではないフッ素樹脂を使用すると、プレス成形時の摺動などによって樹脂被膜が欠落し、所期の効果が得られない。
【0025】ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂等のオレフィン系炭化水素の重合体からなる、分子量1000以上のものについて、その1種または2種以上を混合して使用する。分子量が1000未満のポリオレフィン樹脂を使用したものでは、潤滑油を塗布してプレス成形した場合に、潤滑性が著しく低下する。
【0026】フッ素樹脂とポリオレフィン樹脂との配合比は、フッ素樹脂/ポリオレフィン樹脂:10/0〜2/8 の範囲内とすべきである。フッ素樹脂/ポリオレフィン樹脂が2/8 未満では、潤滑油を塗布してプレス成形した場合に、プレス成形性およびプレス成形後の外観性が低下する。フッ素樹脂とポリオレフィン樹脂との、より好ましい配合比は、フッ素樹脂/ポリオレフィン樹脂:10/0〜5/5 の範囲内である。
【0027】潤滑剤の含有量は、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して、1〜30重量部の範囲内とすべきである。潤滑剤の含有量が、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して1重量部未満では、潤滑性の向上効果が得られない。一方、潤滑剤の含有量が、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して30重量部を超えると、樹脂被膜自体の凝集力および強度が低下する結果、プレス成形時に樹脂被膜が剥離しやすくなる問題が生ずる。潤滑剤の、より好ましい含有量は、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して5〜20重量部の範囲内である。
【0028】塗料中に潤滑剤と共に添加される防錆顔料として、クロム酸塩系化合物およびシリカのうちの少なくとも1種を使用することが好ましい。クロム酸塩系化合物およびシリカは、防錆顔料として、亜鉛系めっき鋼板の耐食性を、より向上させる作用を有している。このように、樹脂被膜中にクロム酸塩系化合物およびシリカの少なくとも1種からなる防錆顔料が含有されていることによって、プレス成形が施されていない平板状での耐食性が向上することは勿論、プレス成形によって、樹脂被膜に変形等が発生した場合でも、耐食性の劣化が防止される。特に、この発明においては、プレス成形時に、樹脂被膜に疵等の損傷が生じにくいので、樹脂被膜中に含有されている防錆顔料の効果は極めて大きい。
【0029】クロム酸塩系化合物として、クロム酸カルシウム、クロム酸ストロンチウム、クロム酸バリウム、クロム酸鉛、クロム酸亜鉛、クロム酸亜鉛カリウム、クロム酸銀等を使用する。また、シリカとして、疎水性シリカ、親水性シリカ等を使用する。
【0030】防錆顔料の含有量は、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分 100重量部に対して、3〜30重量部の範囲内とすべきである。防錆顔料の含有量が、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して3重量部未満では、耐食性の向上効果が得られない。一方、防錆顔料の含有量が、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して30重量部を超えても、より以上の耐食性向上効果が得られないのみならず、樹脂被膜中の樹脂の凝集力が低下して、プレス成形時に樹脂被膜が剥離しやすくなる問題が生ずる。防錆顔料のより好ましい含有量は、溶剤系熱硬化性樹脂の固形分100 重量部に対して、5〜20重量部の範囲内である。
【0031】塗料中には、上述した溶剤系熱硬化性樹脂、固形潤滑剤および防錆顔料のほかに、必要に応じて、他の成分、例えば、顔料、染料などの着色剤、溶剤、界面活性剤、安定剤等を含有させてもよい。
【0032】上述した溶剤系熱硬化性樹脂、固形潤滑剤および防錆顔料からなる、所定の溶剤によって希釈した塗料を、亜鉛系めっき鋼板の表面上に塗布しそして加熱して架橋硬化させることにより、樹脂被膜が形成される。
【0033】上述のようにして形成される樹脂被膜を、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の上に形成されたクロメート被膜の上に形成することが必要である。このように、クロメート被膜の上に樹脂被膜を形成することにより、クロメート被膜中に含有されているCr6+のクロム酸イオンによって、不動態化効果が生ずる。更に、亜鉛系めっき層の表面が、クロム酸イオンの還元生成物であるCr3+のクロム水和酸化物被膜によって被覆されるので、アノードの面積が減少し、且つ、亜鉛系めっき層への水や酸素の侵入が防止される。従って、亜鉛系めっき鋼板の耐食性が向上し、且つ、樹脂被膜の形成も良好になる。なお、クロメート被膜の形成は、塗布処理、電解処理、反応処理等、既知のどのような手段で行ってもよい。
【0034】亜鉛系めっき層の上に形成されるクロメート被膜の量は、金属クロムに換算して、鋼板の片面当たり5〜200mg/m2の範囲内とすべきである。クロメート被膜の量が、金属クロムに換算して、鋼板の片面当たり5mg/m2 未満では、耐食性向上効果が得られない。一方、クロメート被膜の量が、金属クロムに換算して、鋼板の片面当たり200mg/m2を超えると、より以上の耐食性向上効果が得られないのみならず、鋼板の変形を伴う厳しいプレス成形が施された場合に、クロメート被膜が破損する問題が生ずる。クロメート被膜の、より好ましい量は、金属クロムに換算して、鋼板の片面当たり10〜150mg/m2の範囲内である。
【0035】亜鉛系めっき層と、上述した潤滑のための樹脂被膜との間に、上述したクロメート被膜のほか、潤滑剤を含まない他の樹脂被膜が形成されていてもよい。他の樹脂被膜が形成されている場合の、樹脂被膜の合計量は、鋼板の片面当り5μm以下、好ましくは3μm 以下であることが必要である。樹脂被膜の合計量が5μm を超えると、溶接性が劣化する問題が生ずる。
【0036】この発明において、潤滑のための樹脂被膜が形成されるべき鋼板は、その少なくとも1つの表面上に亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板であっても、亜鉛のほかに、ニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、アルミニウム、クロム、シリコン等のうちの少なくとも1つの成分を含有する亜鉛合金めっき層を有する亜鉛合金めっき鋼板でも、または、上述した亜鉛めっき層または亜鉛合金めっき層の複数層を有する複層亜鉛系めっき鋼板でもよい。亜鉛系めっき層を、その少なくとも1つの表面上に形成すべき鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス系鋼板等であっても、鋼以外の例えばアルミニウム、銅等の金属板であってもよい。
【0037】亜鉛系めっき鋼板の少なくとも1つの表面に対する樹脂被膜の形成は、次のようにして行われる。即ち、亜鉛系めっき層の上に形成されたクロメート被膜の表面上に、ロールコーター、カーテンフローコーターまたはスプレー塗装等の既知の方法によって、上述した組成の塗料を塗布し、または、上述した組成の塗料中に、その表面上にクロメート被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板を浸漬した後、付着した塗料を、ロールや空気の吹き付けにより絞って、所定量の被膜を形成する。次いで、これを熱風炉や誘導加熱装置により、150 〜250 ℃の温度に加熱して塗料中の溶剤を蒸発させ、樹脂を架橋硬化させる。かくして、亜鉛系めっき鋼板の表面上に形成されたクロメート被膜の上に、樹脂被膜が形成される。
【0038】上述のようにして形成された樹脂被膜の厚さは、鋼板の片面当たり、0.3 〜5.0 μm の範囲内とすべきである。樹脂被膜の厚さが、鋼板の片面当たり0.3 μm 未満では、プレス成形時に、亜鉛系めっき層が受ける損傷を防止することができない。一方、樹脂被膜の厚さが、鋼板片面当たり5.0 μm を超えると、溶接性が劣化し、且つ、プレス成形条件が特に厳しい場合には、プレス成形時に樹脂皮膜の剥離量が増加し、金型への付着や焼付け等の問題が生ずる。樹脂被膜の、より好ましい厚さは、鋼板の片面当たり、0.5〜3.0 μm の範囲内である。
【0039】樹脂被膜中の溶剤系熱硬化性樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種以上からなる樹脂を使用すると、潤滑油を使用した場合のプレス成形性およびプレス成形後の外観性を一段と向上させることができる。
【0040】即ち、ガラス転移温度の低い溶剤系熱硬化性樹脂は、低温時における柔軟性に優れている。従って、このような樹脂をベース樹脂とした樹脂被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板をプレス成形するに際し、プレス成形条件が、緩やかな場合または緩やかな部分においては、ガラス転移温度の低い溶剤系熱硬化性樹脂を使用した方が、プレス成形性およびプレス成形後の外観が良好になる。しかしながら、プレス成形条件が、表面が高温になるような酷しい場合または酷しい部分においては、プレス成形時に生ずる摩擦熱のために、樹脂被膜が軟化して剥離し、剥離した樹脂被膜が成形用金型に付着する結果、プレス成形性およびプレス成形後の外観性が劣化しやすくなる。
【0041】一方、ガラス転移温度の高い溶剤系熱硬化性樹脂は、高温強度に優れている。従って、このような樹脂をベース樹脂とした樹脂被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板をプレス成形するに際し、プレス成形条件が、表面が高温になるような厳しい場合または厳しい部分においても、樹脂被膜が軟化してめっき鋼板から剥離するようなことは生じない。
【0042】しかしながら、ガラス転移温度の高い溶剤系熱硬化性樹脂には、次のような問題がある。即ち、低温時における柔軟性が悪いために、プレス成形条件が緩やかな場合または緩やかな部分においては、樹脂被膜が粉化して剥離し、剥離した樹脂被膜が成形用金型に付着する結果、プレス成形性およびプレス成形後の外観性の劣化を招く。上述したことから、樹脂被膜中の溶剤系熱硬化性樹脂として、ガラス転移温度の異なる2種以上の溶剤系熱硬化性樹脂を使用すれば、上述したプレス成形の際の、低温時における柔軟性、および、高温時における強度を共に樹脂被膜に付与することができる。
【0043】好ましい溶剤系熱硬化性樹脂は、硬化後のガラス転移温度が50℃以下の低ガラス転移温度の樹脂と、硬化後のガラス転移温度が50℃超の高ガラス転移温度の樹脂とによって構成された樹脂である。上述した低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂の、より好ましいガラス転移温度は、10〜50℃の範囲内であり、そして、上述した高ガラス転移温度の溶剤系熱硬性性樹脂の、より好ましいガラス転移温度は、50℃超〜100 ℃の範囲内である。
【0044】低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂と、高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂との好ましい配合比は、9:1〜1:9の範囲内である。上記配合比が9超:1未満では、このような樹脂をベース樹脂とする樹脂被膜が形成された亜鉛系めっき鋼板のプレス成形時に、その成形条件が、鋼板表面が高温になるような酷しい場合に、樹脂被膜に軟化および剥離が生じやすくなる。一方、上記配合比が1未満:9超では、上記成形条件が、鋼板表面がそれほど高温にならないような緩やかな場合に、樹脂被膜に粉化や剥離が生じやすくなる。低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂と、高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂とのより好ましい配合比は、9:1〜5:5の範囲内である。
【0045】上述した50℃以下の低ガラス転移温度を有する溶剤系熱硬化性樹脂、および、50℃超の高ガラス転移温度を有する溶剤系熱硬化性樹脂は、水酸基含有ウレタンプレポリマーの化学成分を調整することによって得ることができる。
【0046】
【実施例】次ぎに、この発明を、実施例により、比較例と対比しながら説明する。
実施例1この発明の範囲内の亜鉛系めっき鋼板およびこの発明の範囲外の亜鉛系めっき鋼板を製造するための塗料を構成する溶剤系熱硬化性樹脂中の水酸基含有ウレタンプレポリマーとして、表1に示した成分組成のNo. 1〜8の8種類の水酸基含有ウレタンプレポリマーを準備した。
【0047】
【表1】


【0048】表1のNo.1水酸基含有ウレタンプレポリマーの製造例について以下に述べる。加熱装置、攪拌機、水分離器および温度計を備えた反応装置を使用し、この装置内に、ポリエステルポリオールとしての芳香族ポリエステルポリオール(AR):915 重量部および脂肪族ポリエステルポリオール(AL):915 重量部を供給し、これらを、不活性雰囲気下において加熱しそして融解した。融解したポリエステルポリオールを、攪拌しながら100 ℃の温度に加熱しそしてその温度で30〜60分間保温し次いで脱水した。
【0049】次いで、融解したポリエステルポリオールを70℃まで冷却し、その温度下のポリエステルポリオール中に、2価のアルコールとしての1,4-ブタンジオール:28重量部、イソシアネート化合物としてのジフェニルメタン-4,4'-ジイソシアネート:313 重量部、反応触媒としてのジブチルチンラウリレート:0.55重量部および溶剤としてのシクロヘキサノン:940重量部をそれぞれ添加しそして混合し、5〜10時間反応させた。上記混合物が所定の粘度になった後、2価のアルコールとしての1,3-ブタンジオール:10 重量部を添加して反応を終了させた。更に、溶剤としてのシクロヘキサノン:4,150重量部を添加し、かくして、不揮発分:30% 、粘度:1,400cps の水酸基含有ウレタンプレポリマーを調製した。表1に示した、No. 2〜8水酸基含有ウレタンプレポリマーも、上述したと同様の方法によって調製した。
【0050】上述のようにして調製されたNo. 1〜8の水酸基含有ウレタンプレポリマーの各々に、硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーとして、ヘキサメチレンジイソシアネート3量体を、NCO/ON=1/1 の等量比で添加した。かくして、水酸基含有ウレタンプレポリマ−No. 1〜8の各々と硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーとからなる8種類の溶剤系熱硬化性樹脂を調製した。このようにして得られた8種類の溶剤系熱硬化性樹脂の各々のガラス転移温度を、表1に併せて示す。
【0051】一方、表2に示した成分組成の、8種類の固形潤滑剤a〜hを準備した。
【0052】
【表2】


【0053】板厚0.8mm 、めっき量20g/m2の電気亜鉛めっき鋼板、または、板厚0.8mm 、めっき量90g/m2の溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の両面を、アルカリで脱脂し、次いで、亜鉛めっき層の上に、クロメート処理液をロールコーティング法により塗布した後、加熱そして乾燥して、亜鉛めっき層の上に、金属クロムに換算して50mg/m2 の量のクロメート被膜を形成した。
【0054】表1に示した水酸基含有ウレタンプレタンポリマーNo. 1〜8からなる溶剤系熱硬化性樹脂の各々と、表2に示した潤滑剤a+gと、そして、防錆顔料としての平均粒径12mmのシリカとからなる塗料を、上記電気亜鉛めっき鋼板の両面に形成されたクロメート被膜の上に、ロールコーティング法により塗布した。次いで、これを、誘導加熱炉内において200 ℃の温度に加熱して、クロメート被膜の上に、約1.5 μm の厚さの樹脂被膜を形成した。このようにして、表3に示す、この発明の範囲内の亜鉛系めっき鋼板(以下、「本発明鋼板」という)No. 1〜9を調製した。
【0055】比較のために、この発明の範囲外の樹脂を使用した塗料により、上記と同じように、クロメート被膜の上に約1.5 μm の厚さの樹脂被膜を形成し、この発明の範囲外の亜鉛系めっき鋼板(以下、「比較用鋼板」という)No. 1〜4、および、樹脂被膜を有せず、クロメート被膜の上にプレス油(日本工作油#660)を 2g/m2塗布した比較用鋼板No. 5を、表3に併せて示すように調製した。なお、表3において、「ア」は電気亜鉛めっき鋼板を示し、そして、「イ」は溶融亜鉛めっき鋼板を示す。
【0056】
【表3】


【0057】上述した本発明鋼板および比較用鋼板の各々について、その表面上に揮発性潤滑油(油研工業株式会社製 DS-720)を塗布した場合、および、塗油しない場合について、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を、以下に述べる性能試験によって評価した。評価結果を表4に示す。
【0058】
【表4】


【0059】(1) 潤滑性図1に概略正面図で示した試験機を使用した。試験機は、図1に示すように、箱状の枠2の一側2aに固定されたフラット面を有する雌ダイス1と、雌ダイス1と向き合った、所定高さの実質的に水平な突条3を有する雄ダイス4と、雄ダイス4を支持し、そして、雄ダイス4を雌ダイス1に向けて水平移動させるための、枠2の他側2bに固定された油圧シリンダ5とからなっている。雄ダイス4は、油圧シリンダ5のロッド5aに、ロードセル6を介して固定されている。なお、雄ダイス4の突条3の幅は10mmであり、その先端の長さは1mmである。
【0060】本発明鋼板および比較用鋼板から切り出された試験片7を、雌ダイス1と雄ダイス4との間の間隙に垂直に挿入し、そして、油圧シリンダ5を作動させて、雌ダイス1と雄ダイス4とにより試験片7を50Kgf(500 Kgf/cm2)の圧力で押しつけた。次いで、試験片7を矢印に示すように、100mm/分の速度で上方に引き抜き、そのときの動摩擦係数を調べ、これによって潤滑性を評価した。なお、試験は、常温(20℃) の試験片のほか、実際のプレス作業時の板温上昇を考慮して、150℃の温度の高温試験片についても行った。
【0061】(2) プレス成形性本発明鋼板および比較用鋼板から切り出された円形状の試験片を、ポンチ径:50mm、ダイス径:51.84mm 、しわ押さえ力:1トンの条件で、カップ状に成形したときの限界絞り比を調べ、これによって、プレス成形性を評価した。
【0062】(3) プレス成形後の外観性図2で概略断面図で示す試験機を使用した。試験機は、図2に示すように、箱状の枠2の一側2aに固定された、所定高さの実質的に水平な突条8を有する雄ダイス9と、雄ダイス9の突条8と向き合った所定深さの溝10を有する雌ダイス11と、雌ダイス11を支持し、そして、雌ダイス11を雄ダイス9の突条8に向けて水平に移動させるための、枠2の他側2bに固定された油圧シリンダ5とからなっている。雌ダイス11は、油圧シリンダ5のロッド5aに、ロードセル6を介して固定されている。なお、雄ダイス9の突条8の幅は30mmであり、突条8の先端の半径は0.25mmである。
【0063】本発明鋼板および比較用鋼板から切り出された試験片7を、雄ダイス9と雌ダイス11との間の間隙に垂直に挿入し、そして、油圧シリンダ5を作動させて、雄ダイス9と雌ダイス11とにより試験片7を100Kgf(1000 Kgf/cm2)の圧力で押しつけた。次いで、試験片7を矢印に示すように、100mm/分の速度で上方に引き抜き、そのときの試験片の外観を目視によって調べ、傷つき程度および黒化程度を評価した。評価基準は、次の通りである。
◎:全面にわたって殆ど変化がなく、外観が均一である。
○:傷つきおよび黒化が発生し、外観が多少不均一である。
△:局部的に傷つきおよび黒化が発生し、外観が明らかに不均一である。
×:コーナー部を中心に傷つきおよび黒化が激しく発生し、外観が極めて悪い。
【0064】(4) プレス成形後の耐食性本発明鋼板および比較用鋼板から切り出された円形状の試験片を、ブランク径:100mm 、ポンチ径:50mm 、ダイス径:51.84mm、しわ押さえ力: 1トンの条件でカップ状に成形し、次いで、その端縁部を、タールエポキシ塗料によってシールした後、JIS Z 2371に基づく塩水噴霧試験を120 時間施し、120 時間経過後の白錆発生率を調べ、これによってプレス成形後の耐食性を評価した。評価基準は、次ぎの通りである。
◎:白錆発生率 5%未満、○:白錆発生率 5 〜20% 未満、△:白錆発生率 20 〜40% 未満、×:白錆発生率 40%以上。
【0065】表3および表4から明らかなように、本発明以外の樹脂からなる塗料を使用した比較用鋼板No. 1〜4は、何れも高温での潤滑性、プレス成形後の外観性および耐食性が悪かった。そして、プレス油を塗布した比較用鋼板No. 5は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性およびプレス成形後の耐食性が何れも悪かった。これに対して、本発明鋼板No. 1〜9は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性およびプレス成形後の耐食性のすべてについて優れており、特に、潤滑油を塗油した場合の効果が顕著であった。
【0066】実施例2実施例1と同様のクロメート被膜がその両面に形成された鋼板のクロメート被膜の上に、前述した樹脂No.1の固形分100 重量部に対し、潤滑剤として、表2に示したa,a+g,b+g,c+g,d+gまたはa+hと、防錆顔料としてのシリカおよび/またはクロム酸バリウムとをこの発明の範囲内で含有する塗料を、実施例1と同様の方法により塗布し次いで加熱して、クロメート被膜の上に樹脂被膜を形成した。このようにして、表5に示す本発明鋼板No.10 〜26を調製した。なお、表5において、「ア」は電気亜鉛めっき鋼板を示す。
【0067】
【表5】


【0068】比較のために、表6に示すように、本発明の範囲外の潤滑剤を使用した比較用鋼板No. 6 〜9、潤滑剤の混合比が本発明の範囲を外れている塗料を使用した比較用鋼板No.10 、潤滑剤の含有量が本発明の範囲を外れて少ない塗料を使用した比較用鋼板No.11 、潤滑剤の含有量が本発明の範囲を外れて多い塗料を使用した比較用鋼板No.12 、防錆顔料の含有量が本発明の範囲を外れて少ない塗料を使用した比較用鋼板No.13 、防錆顔料の含有量が本発明の範囲を外れて多い塗料を使用した比較用鋼板No.14 、クロメート被膜の量が本発明の範囲を外れて少ない比較用鋼板No.15 、クロメート被膜の量が本発明の範囲を外れて多い比較用鋼板No.16 、および、樹脂被膜の厚さが本発明の範囲を外れて少ない比較用鋼板No.17を調製した。なお、表6において、「ア」は電気亜鉛めっき鋼板を示す。
【0069】
【表6】


【0070】表5に示した本発明鋼板No.10 〜26および表6に示した比較用鋼板No.6〜17の各々について、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を、前述した性能試験によって評価した。本発明鋼板No.10 〜26の評価結果を表7にそして比較用鋼板No.6〜17の評価結果を表8にそれぞれ示す。
【0071】
【表7】


【0072】
【表8】


【0073】表6および表8から明らかなように、本発明の範囲外の潤滑剤を使用した比較用鋼板No. 6〜9は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性が何れも悪かった。潤滑剤の混合比が本発明の範囲を外れた塗料を使用した比較用鋼板No.10 、および、潤滑剤の含有量が本発明の範囲を外れて少ない塗料を使用した比較用鋼板No. 11も、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性が何れも悪かった。潤滑剤の含有量が本発明の範囲を外れて多い塗料を使用した比較用鋼板No.12 は、被膜の凝集力の低下に基づく剥離量の増加のために、プレス成形後の耐食性が悪かった。
【0074】防錆顔料の含有量が本発明の範囲を外れて少ない塗料を使用した比較用鋼板No.13 は、プレス成形後の耐食性が悪かった。防錆顔料の含有量が本発明の範囲を外れて多い塗料を使用した比較用鋼板No.14 は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性およびプレス成形後の耐食性が何れも悪かった。クロメート被膜の量が本発明の範囲を外れて少ない比較用鋼板No.15 は、プレス成形後の耐食性が悪かった。クロメート被膜の量が本発明の範囲を外れて多い比較用鋼板No.16は、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性が悪かった。そして、樹脂被膜の量が本発明の範囲を外れて少ない比較用鋼板No.17 は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性が何れも悪かった。
【0075】これに対して、表5および表7から明らかなように、本発明鋼板No. 10〜26は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性のすべてについて優れており、特に、潤滑油を塗油した場合の効果が顕著であった。
【0076】実施例3溶剤系熱硬化性樹脂として、表1に示した水酸基含有ウレタンプレポリマーを使用し、そして、表9に示したように、そのガラス転移温度が異なる2種類のものを特定の配合比で組み合わせて、この発明において使用される9種類の溶剤系熱硬化性樹脂A〜Iを調製した。
【0077】
【表9】


【0078】実施例1と同様に、板厚0.8mm 、めっき量20g/m2の電気亜鉛めっき鋼板、または、板厚0.8mm 、めっき量90g/m2の溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の上に、この発明の範囲内のクロメート被膜を形成し、次いで、クロメート被膜の上に、表9に示した溶剤系熱硬化性樹脂と、表2に示した固形潤滑剤a+gと、そして、防錆顔料としてのシリカとからなる、約1.5 μm の厚さの樹脂被膜を形成した。このようにして、表10に示す、本発明鋼板No.27 〜36を調製した。比較のために、本発明の範囲外の潤滑剤を使用した、表10に併せて示す比較用鋼板No.18 〜21を調製した。なお、表10において、「ア」は電気亜鉛めっき鋼板を示し、そして、「イ」は溶融亜鉛めっき鋼板を示す。
【0079】
【表10】


【0080】上述した本発明鋼板No.27 〜36および比較用鋼板No.18 〜21の各々について、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性およびプレス成形後の耐食性を、前述した性能試験によって評価した。評価結果を表11に示す。
【0081】
【表11】


【0082】表10および表11と、前述した実施例1の表4とを対比すれば明らかなように、本発明の範囲外の潤滑剤を使用した比較用鋼板No.18 〜21は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性およびプレス成形後の耐食性が何れも悪かった。これに対し、本発明鋼板No.27 〜36は、潤滑性、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性のすべてについて一段と優れており、特に、潤滑油を塗油した場合の効果が顕著であった。
【0083】
【発明の効果】以上述べたように、この発明の亜鉛系めっき鋼板によれば、プレス成形性を高めるために、その表面上に潤滑油を塗布してプレス成形するに際し、厳しいプレス成形が施されても、プレス成形時に、その表面上に塗布された潤滑油によって、潤滑性樹脂被膜に剥離等が生ずることがなく、優れたプレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性を発揮することができる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験片の潤滑性を評価するための試験機の概略正面図である。
【図2】試験片のプレス成形後の外観性を評価するための試験機の概略正面図である。
【符号の説明】
1 雌ダイス、
2 枠、
3 突条、
4 雄ダイス、
5 油圧シリンダ、
6 ロードセル、
7 試験片、
8 突条、
9 雄ダイス、
10 溝、
11 雌ダイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 亜鉛めっき鋼板または亜鉛系合金めっき鋼板の少なくとも1つの亜鉛系めっき層の上に、クロメート被膜が形成され、そして、前記クロメート被膜の上に、塗料を塗布しそしてこれを加熱硬化させることによって樹脂被膜が形成されている亜鉛系めっき鋼板であって、前記クロメート被膜の量は、前記鋼板の片面当たり、金属クロムに換算して5〜200mg/m2の範囲内であり、前記樹脂被膜の厚さは、前記鋼板の片面当たり、0.3 〜5.0 μm の範囲内であり、前記樹脂被膜は、固形分換算で、(A) 溶剤系熱硬化性樹脂: 100 重量部、(B) 固形潤滑剤 : 1〜30重量部、および、(C) 防錆顔料 : 3〜30重量部からなっており、前記溶剤系熱硬化性樹脂は、下記からなっており、(A) 下記化学成分組成を有する水酸基含有ウレタンプレポリマー、(a) ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリエステルポリオールからなる群から選んだ少なくとも1種のポリオール、(b) イソシアネート化合物、および、(c) 2価のアルコール、および、(B) 硬化剤としてのブロックポリイソシアネートプレポリマーおよびアミノ樹脂のうちの少なくとも1種、そして、前記固形潤滑剤は、5μm 以下の粒径のフッ素樹脂、または、前記フッ素樹脂と1000以上の分子量を有するポリオレフィン樹脂とが、フッ素樹脂/ポリオレフィン樹脂で 10/0 〜2/8 の割合で配合されている樹脂からなっていることを特徴とする、プレス成形性、プレス成形後の外観性および耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】 前記溶剤系熱硬化性樹脂は、ガラス転移温度の異なる2種以上の樹脂からなっている、請求項1記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】 前記ガラス転移温度の異なる2種以上の溶剤系熱硬化性樹脂は、硬化後のガラス転移温度が50℃以下である、低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂、および、硬化後のガラス転移温度が50℃超である、高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂からなっている、請求項2記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】 前記低ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂と、前記高ガラス転移温度の溶剤系熱硬化性樹脂との配合比が、9:1〜1:9の範囲内である、請求項2または3に記載の亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】 前記防錆顔料は、クロム酸塩系化合物およびシリカのうちの少なくとも1種からなっている、請求項1から4の何れか1つに記載の亜鉛系めっき鋼板。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【特許番号】第2853547号
【登録日】平成10年(1998)11月20日
【発行日】平成11年(1999)2月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−343099
【出願日】平成5年(1993)12月15日
【公開番号】特開平7−163940
【公開日】平成7年(1995)6月27日
【審査請求日】平成8年(1996)10月31日
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)
【参考文献】
【文献】特開 平5−161874(JP,A)