説明

プレス機械のフィード装置およびそれを用いたフィード装置付きプレス機械

【課題】小型で、かつ簡易な構成でフィードバーのオーバーランを少なくする装置を提供する。
【解決手段】所定の隙間を空けて向かい合う2つのブレーキシュー16b、16bを有する固定部4と、フィードバー3と、そのフィードバーと共に移動し、かつ前記固定部の隙間に入り込むことのできる板状のブレーキプレート5とからなり、前記フィードバーがオーバランした際に、ブレーキプレートが固定プレートの隙間に入り込んでフィードバーを停止させるプレス機械のフィード装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス機械に用いられるフィード装置およびそれを用いたフィード装置付きのプレス機械に関する。さらに詳しくはトランスファプレスの金型間やタンデムプレスラインにおける隣り合うプレス機械間でのピッチ搬送を行うプレス機械のフィード装置およびそれを用いたフィード装置付きプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、制御技術の発展により、プレス機械のフィード装置に、サーボモータを用いるのが主流になっている。同時に、既存のプレス機械のフィード装置の駆動を、サーボモータによる駆動に変更するニーズも高まっている。しかし、既存のトランスファプレスなどのフィード装置の駆動をサーボモータ駆動に変換する場合、プレス機械の構造、仕組みあるいは形状などのプレス機械の全体的なスタイルの変遷や、年式の相違による形状の不一致などが問題となる。そのため、種々のプレス機械への取付けが容易で、かつ小型のフィード装置が必要とされている。
【0003】
また、プレス機械のフィード装置にサーボモータを用いる場合に、サーボモータがサーボ制御異常により暴走し、機械を破損したりする不測の事故が生じる可能性がある。大事故に至ると、復元工事に手間が掛かるし、生産計画の変更を余儀なくされることもある。特に、移動質量が大きく、移動速度が速いアドバンス−リターン軸系に不測の事故が起こると大事故に繋がる可能性が高い。
【0004】
特許文献1にはフィードバーのフィード装置が記載されている。このものはサーボモータにより2つのピニオンを同じ方向に回転させ、それらピニオンと噛み合うラック部材を移動させ、そのラック部材に連結されたフィードバーを前後に移動させるものである。このものの特徴は、前記ラック部材は移動限に達したときに一方のピニオンに噛合し、他方のピニオンに噛合しない長さにされているので、ラック部材を短くでき、省スペースにできることにある。
【0005】
また、特許文献2にはプレス機械のトランスファ装置が記載されている。そのプレス機械のトランスファ装置には、サーボモータの駆動によりラック−ピニオン機構を介してフィードバーをそれぞれクランプ・アンクランプおよびリフト・ダウンさせるものである。
【0006】
特許文献3にはトランスファ装置が記載されている。このものはサーボモータによりフィードバーを前後に移動させるものである。また、特許文献4にはプレス機械のワーク搬送装置が記載されている。このものはリニアモータによりフィードバーを前後に移動させるものである。さらに、特許文献5にはトランスファプレスに用いられるアドバンス・リターン装置が記載されている。このものも、サーボモータによりフィードバーを前後に移動させる機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−238373号公報
【特許文献2】特開平6−31358号公報
【特許文献3】特開2001−252733号公報
【特許文献4】特開2006−21235号公報
【特許文献5】特開平6−63668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のフィード装置は、サーボモータの往復回転をピニオン・ラック機構でフィードバーの往復直線運動に変換するものである。また、このものは減速機を備えておらず、サーボモータが異常により暴走すると、フィードバーが所定の範囲を超えて移動(オーバーラン)する可能性がある。
【0009】
また、特許文献2のプレス機械のトランスファ装置は、フィードバーのクランプ・アンクランプ方向の移動にピニオン・ラック機構を用いている。このものも減速機を備えておらず、サーボモータが異常により暴走すると、フィードバーがオーバーランする可能性がある。
【0010】
さらに、特許文献3〜5に記載の装置もサーボモータを使用しており、サーボモータが異常により暴走すると、フィードバーがオーバーランする可能性がある。上述の特許文献1〜5では誤作動によりモータが暴走すると、サーボモータのロータから下流側の部材(移動体)であるフィードバー、フィンガおよびワークがオーバランするので、大きな運動エネルギーとなり、それらを簡単な構造で、そして短い制動距離で停止させるのは困難である。
【0011】
そこで、本発明は小型で、かつ簡易な構成でフィードバーのオーバーランを少なくする装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプレス機械に用いられるフィード装置(請求項1)は、プレス加工される被搬送物をプレス機械内の金型間、または金型を取り付けたプレス間で搬送させるプレス機械のフィード装置であって、前記金型間で被搬送物を搬送するために所定範囲を移動するフィードバーと、フレーム部材に固定され、向かい合う少なくとも2個のブレーキシューを有する固定部と、前記フィードバーと共に移動するブレーキプレートとからなり、前記固定部が前記ブレーキシューを接近させる方向に付勢する付勢部材を備えており、前記フィードバーが所定範囲を超えて移動した際に、ブレーキプレートが付勢部材の付勢力に逆らって前記2つのブレーキシューの間に押し入ることにより、フィードバーを停止させることを特徴としている。
【0013】
このようなプレス機械のフィード装置は、前記ブレーキプレートが本体部と、その本体部の両端に形成される先端に向けて次第に板厚が薄くされたテーパ部とからなり、前記ブレーキシューが所定の隙間を空けて配置されており、その隙間が前記ブレーキプレートの本体部の板厚以下の幅で、かつ付勢部材に抗して押し入れることにより本体部の板厚とほぼ同じ幅に広がるものが好ましい(請求項2)。
【0014】
また、サーボモータにより回転が伝達されるピニオンと、そのピニオンの回転運動を直線運動に変換するラックとをさらに備えており、前記ラックは前記フィードバーの所定の移動範囲でピニオンと噛合し、フィードバーが前記移動範囲を超えて移動したときに、前記ピニオンとの噛合が外れる歯数を有するものが好ましい(請求項3)。
【0015】
また、前記ブレーキシューが2個であり、前記固定部が2つのブレーキシューの移動方向に延びる軸ボルトを備えており、前記付勢部材が、軸ボルトの両端部に配置され、かつ2つのブレーキシューを互いに接近させる方向に付勢しているものが好ましい(請求項4)。なお、軸ボルトはブレーキシューを貫通させたり、ブレーキシューを支持する板状部材を貫通させてもよい。
【0016】
さらに、本発明のプレス機械と、そのプレス機械に設置される上述のいずれかに記載のプレス機械のフィード装置とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプレス機械のフィード装置(請求項1)は、フィードバーがオーバーランした際に、ブレーキプレートが付勢部材の付勢力に逆らい、ブレーキシューを押しのけ、2個のブレーキシューの間に入り込んでくる。その際に、ブレーキプレートとブレーキシューとの間に摩擦力が生じ、その摩擦力によりフィードバーの運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、フィードバーを緊急停止させることができる。また、ブレーキプレートをブレーキシューにより挟持することにより、フィードバーを制動(ブレーキング)するので、ストッパにぶつけるような衝撃を伴う停止にならない。そのため、フィードバーを安全に、そしてソフトに停止させることができ、かつ装置の破損もないので緊急停止後の再稼動も容易である。
【0018】
このようなプレス機械のフィード装置が、前記ブレーキプレートが本体部と、その本体部の両端に形成される先端に向けて次第に板厚が薄くされたテーパ部とからなり、前記ブレーキシューが所定の隙間を空けて配置されており、その隙間が前記ブレーキプレートの本体部の板厚以下の幅で、かつ付勢部材に抗して押し入ることにより本体部の板厚とほぼ同じ幅に広がる場合には(請求項2)、オーバーランの際に、ブレーキプレートを2個のブレーキシューの隙間で確実に挟持することができる。
【0019】
また、サーボモータにより回転が伝達されるピニオンと、そのピニオンの回転運動を直線運動に変換するラックとをさらに備えており、前記ラックは前記フィードバーの所定の移動範囲でピニオンと噛合し、フィードバーが前記移動範囲を超えて移動したときに、前記ピニオンとの噛合が外れる歯数を有する場合は(請求項3)、フィードバーが所定の移動範囲を超えたときはピニオンとラックの噛合が失われるので、モータトルク、ローター、カップリングおよびピニオンのイナーシャトルクは空転し、フィードバーをブレーキプレートとブレーキシューにより停止させるのが容易である。また、噛合を失った惰性で移動しているフィードバーを含む部材(移動体)を停止させるので、ブレーキの制動距離を短くすることができる。さらに、緊急時にブレーキシューが吸収する運動エネルギは前記移動体の最大速度時の運動エネルギを見積もればよいので、机上の計算で容易に最適な設計を行うことができる。そして、重量、移動速度の大きなアドバンス・リターン方向の運動におけるオーバーランに起因する装置の破損を防止することができる。
【0020】
さらに、前記ブレーキシューが2個であり、前記固定部が2つのブレーキシューの移動方向に延びる軸ボルトを備えており、前記付勢部材が、軸ボルトの両端部に配置され、かつ2つのブレーキシューを互いに接近させる方向に付勢している場合は(請求項4)、フィードバーの重量や移動速度に合わせて、ブレーキの効き具合を最適にすることができる。また、調節を緩めると緊急停止したフィードバーの停止状態を容易に解除すこともできる。
【0021】
本発明のフィード装置付きプレス機械は上述のプレス機械のフィード装置を備えているので、サーボ異常によりフィードバーがオーバーランしても緊急停止することができる。そのため、前記オーバーランに起因するプレス機械の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明のフィード装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図2aは本発明のトランスファープレスの一実施形態を示す側面図、図2bは図2aのW−W線断面図である。
【図3】図3aは図1のX−X線断面図、図3bは図3aのY−Y線断面図である。
【図4】図4aは図3aのZ−Z線断面図、図4bは図4aの側面図、図4cは図4aのa−a線断面図、図4dは図4aのb−b線断面図である。
【図5】図5は図2aのI−I線断面図である。
【図6】図6は図2bのII−II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、図2aおよび図2bを用いて本発明のフィード装置付きプレス機械を説明する。図2aに示すフィード装置付きプレス装置は1つのプレス機械に複数の金型が取り付けられたトランスファープレスである。そのトランスファープレス20は、1以上の金型22・・が取り付けられたプレス機械21と、それら金型間でプレスされるべき部材(被搬送物)を搬送する本発明のフィード装置1とからなる。なお、フィード装置付きプレス機械としては、それぞれ1つの金型が取り付けられた複数のプレス機械と1以上のフィード装置とを1つのセットにしたものでもよい。その場合は、プレス機械間で被搬送物を搬送するようなタンデムプレスラインに用いる。
【0024】
前記プレス機械21は、ベッド23と、そのベッドの前後左右4箇所から立ち上がる4本のコラム24(図2b参照)と、それらのコラムの上端に設けられるクラウン25とから構成される枠状のフレームを備えている。前記ベッド23の上部にはボルスタ26が設けられている。また、クラウンには、図示していないクランク軸の両端が回転自在に支持されており、そのクランク軸に設けられたコンロッドを介してスライド27が上下動する。そのスライド27の下面には上型22aが、前記ボルスタ26の上面には下型22bがそれぞれ取り付けられるようにされている。
【0025】
図1に示すフィード装置1の動作は、被搬送物を左右のフィードバーで挟持(クランプ)し、持ち上げ(リフト)、前進(アドバンス)させ、下降(ダウン)させ、挟持解除(アンクランプ)して、次のプレス位置へ配置し、再び元の位置に後退(リターン)する、という一連の動作を繰り返すものである。まず、本発明のフィード装置1の特徴的な構成である被搬送物を前後方向にフィードし、かつそのフィードバーが所定範囲を超えて移動(オーバーラン)した際に、フィードバーを緊急停止させる構成について説明する。その後、クランプ・アンクランプ系、リフト・ダウン系の動作を行う構成について説明する。なお、前記フィードバーがオーバーランすると、サーボモータのロータから下流側の部材(移動体)であるフィードバー、フィンガ(図示せず)およびワークを含む全体がオーバランする。そのため、運動エネルギーが大きい。
【0026】
図1のフィード装置1は、ブラケット28によりコラム24に取り付けられたフィード駆動部2と、そのフィード駆動部2によりボルスタ26上で左右方向(アドバンス・リターン:図2bの矢印L・R方向)に駆動され、被搬送物を搬送するフィードバー3と、そのフィードバー3がフィード駆動部2の異常に起因してオーバーランした際に、フィードバー3を(緊急)停止させる、後述する停止機構(図3aの符号4、5参照)とを備えている。
【0027】
前記フィード駆動部2は、前記ブラケット28に取り付けられたコモンベース6と、そのコモンベース6に取り付けられるサーボモータ7と、そのサーボモータ7の出力軸7aから回転力が伝達されるピニオン8aと、そのピニオン8aと噛み合うラック8bとを備えている。前記コモンベース6の両端で、かつ下面側にはそれぞれリニアモーションガイド9、9がガイドされるガイド部9a、9aが設けられている。そして、このガイド部9a、9aにリニアモーションガイド9、9が吊り下げられ、それらのリニアモーションガイド9、9にラック8bが吊られており、アドバンスリターン方向に移動自在に支持している。
【0028】
図3aに示すように、前記ラック8bのピニオン8aと反対側の面(背面)からは連結部材10が延びている。その連結部材10はラック8bの背面からラックの歯と反対向きに延び、途中で下方に直角に屈曲され、棒状のフィードキャリア11の中間付近に連結されている。そのフィードキャリア11はラック8bの延びる方向とほぼ直交する棒状の部材であり、クランプ・アンクランプの動作をガイドする。そのフィードキャリア11の下端付近には2つのリニアモーションガイド12、12が長手方向に移動自在に設けられている。そのリニアモーションガイド12にはそれぞれピン12aが設けられ、下方に延びている。また、フィードキャリア11の両端上面からはそれぞれブラケット11a、11aが上方に延びている。そのブラケット11aにはそれぞれ前記リニアモーションガイド9が設けられている。なお、前記サーボモータ7の出力軸7aとピニオン8aとはカップリング13により直接連結されている。また、前記サーボモータ7はケース14で覆われている。
【0029】
図3bはラック8bのピニオン8aと噛み合う歯が形成されている範囲を示している。図中では前記ラック8bの全長を符号8cで示している。そのラックの両端付近を除く符号8dで示す範囲はピニオン8aと噛み合うための歯が形成されている範囲である。前記歯の形成された範囲(以下、単に範囲という)8dは、フィードバーが噛み合いにより移動する範囲でもある(所定の移動範囲)。そして、その範囲8dはフィードバー3が通常の運転時に移動(図2bの矢印L・R方向参照)する距離と等しいか、それより長くなるように形成されている。そのため、フィードバー3が前記範囲8dを超えて移動する緊急時(誤作動時)には、ピニオン8aはラック8bと噛み合う歯を失うので、ピニオン8aが空転し、それ以上ピニオン8a側からラック8b側へサーボモータ7からのトルクが伝達されなくなる。
【0030】
前記フィードバー3は、断面形状が四角形状の細長い部材であり、その根元(サーボモータ側)に形成された孔3aに前記ピン12aの下端部が差し込まれ、固定されていない。従って、前記フィードバー3はピン12aの延びる上下方向に移動自在である。それにより、リフト・ダウン動作が行われる。
【0031】
図3aに示すように、前記停止機構は、コモンベース6の前記リニアモーションガイド9よりさらに外側にそれぞれ設けられた固定部4と、その固定部4に形成された隙間に押し入り、その固定部4の内面との間に生じる摩擦力により停止するブレーキプレート5とからなる。そのブレーキプレート5は、フィードキャリア11の上部で前記リニアモーションガイド12のさらに外側に設けられている。
【0032】
図4aおよび図4bに示すように、前記固定部4はコモンベース6の両端にボルトなどの締結具で固定され、下方に延びる中間板15と、その中間板15を挟んで、隙間16eを空けて平行に配置される2枚の板状部材16、16とを備えている。それら板状部材16の両端部にはガイド孔16a、16aがそれぞれ形成されている。それらガイド孔16aを介してガイド棒17が中間板15を貫通している(図4c参照)。従って、板状部材16、16は前記ガイド棒17、17の延びる方向に移動自在にガイドされている。また、それら板状部材16のフィードキャリア11側(下方)で、かつそれらが向かい合っている側の面にはそれぞれブレーキシュー16b、16bが設けられている(図4d参照)。
【0033】
図4aに示すように、前記板状部材16の中央上方にはボルト孔16cが形成され軸ボルト18が通っている。その軸ボルト18は2枚の板状部材16、16および中間板15を貫通している。その軸ボルト18の両端には大径のワッシャ18b、18bが通され、それぞれ前記ボルト孔16cの大径の段部16dに収納されている。また、軸ボルト18
の一端には頭部18aが設けられている。他方のワッシャ18bを貫通した軸ボルト18の先端部にはオネジが形成されている。そのオネジは軸ボルト18に形成された段部18d(図4c参照)まで延びており、ナット18cが螺合している。前記ナット18cおよび頭部18aと、2つの板状部材16のそれぞれの段部16d、16dの内面との間にはバネ(付勢部材)19、19がそれぞれ配置されており、板状部材16、16を軸ボルト18に沿って互いに接近させる方向に付勢している。
【0034】
図4cに示すように、前記ナット18cは軸ボルト18の段部18dまでしか螺合しない。そのため、ナット18cは予め設定した挟持力を発生できるばね取付長になるように決められている。従って、再セットも容易である。また、緊急停止した後にも、固定部4に挟持されているブレーキプレート5をナット18cを緩めることにより、挟持解除することができる。そのため、フィード装置1の再稼動も容易である。
【0035】
図4cに示すように、前記ブレーキプレート5は板状の部材であり、中央の本体部5aと、その長手方向の端部に形成された先端にいくほど薄くなるテーパ状に形成されたテーパ部5bとからなる。
【0036】
なお、固定部4として、1つのバネを用いて、一方の板状部材16を軸ボルト18に対して、他方の板状部材16に接近させるようにすることもできる。また、前記ブレーキプレート5のテーパ部5bが押し入るのが容易になるように、板状部材16の端部にもブレーキプレート6を受け入れることができるテーパ状の部位を形成してもよい。
【0037】
上記フィード装置1は、前記ラック8bの歯数が範囲Cに形成(歯数制限)されている。そのため、サーボモータ7が暴走し、フィードバー3が所定の移動範囲を超えると、ラック8bとピニオン8aの噛み合いがなくなり、サーボモータ7のトルクはラック8b側へ伝達されない。その上で、オーバーランしたフィードバー3のブレーキプレート5がバネ19の付勢力に逆らい、ブレーキシュー16bを押しのけて隙間16eに押し入る。それにより、ブレーキプレート5とブレーキシュー16bとの間に摩擦力が生じ、その摩擦力によりラック8bからフィードバー3に至るまでの運動部分の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、フィードバー3を緊急停止させることができる。このように、モータ7が暴走しても、ピニオン8aを空転させることで、イナーシャ負荷を軽減することができる。その上で、ブレーキプレート5をブレーキシュー16bに挟持されるので、制動距離を短くすることができる。また、制動距離が短いので省スペースでもある。
【0038】
また、ブレーキプレートをブレーキシュー16bにより挟持することにより、フィードバーを制動(ブレーキング)するので、ストッパにぶつけるような衝撃を伴う停止にならない。そのため、フィードバーを安全に、そしてソフトに停止させることができ、かつ装置の破損もないので緊急停止後の再稼動も容易である。さらに、本発明では異常時には噛み合いを失い、惰性で移動するフィードバー3を含む部材をブレーキシュー16bが挟持する、いわば受動的なブレーキ構成であるので、異常をセンサーなどで検出し、その検出値に基づいて、電磁あるいは空圧により作動するブレーキシステムにくらべ、異常検知から停止までのタイムラグを少なくすることができ、制動距離を短くすることができる。また、そのようなセンサーや電磁あるいは空圧により作動するブレーキシステムが不要であるので、構造が簡易であり、誤作動も少なく、メンテナンスも容易である。そして、再稼動する際には、ナット18cを緩めることで、ブレーキシュー16b、16bに挟持されたブレーキプレート5を容易に引き出すことができる。その後、ナット18cを軸ボルト18の段部18dに当たるまで締め付ける。
【0039】
また、図示していないが、ブレーキプレート5を断面略円形にし、その周囲を3つ以上のブレーキシュー16bで取り囲むようにし、ブレーキさせるようにしてもよい。
【0040】
次に、前記フィードバー3をクランプ・アンクランプ動作およびリフト・ダウン動作させる構成について説明する。図2aに戻って、フィードバー3はボルスタ26の側方に設けられたクランプ・リフトユニット29によりクランプ・リフト動作される。図2bに示すように、前記クランプ・リフトユニット29は、フィードバー3をクランプ・アンクランプ方向(矢印B・F方向)に移動させるクランプ機構30と、リフト・ダウン方向(矢印U・D方向)に昇降させるリフト機構31とを備えている(図5参照)。前記クランプ・リフトユニット29はプレス機械21の左右の前後のコラム間にそれぞれ設けられている。
【0041】
図5に示すように、前記クランプ機構30はサーボモータ(クランプモータ)32を備えている。そのサーボモータ32の出力軸32aはカップリング33を介してシャフト34に連結されている。そのシャフト34の先端にはベベルギヤ35が設けられている。そのベベルギヤ35は受け側のへベルギヤ36と噛み合っている。図6に示すように、受け側のへベルギヤ36が設けられているシャフト37はクランプ・リフトユニット29のフレームに枢支されている。そのシャフト37にはボールネジのオネジが形成されている。そのシャフト37にはオネジと噛み合うメネジ部材37aが設けられている。そのメネジ部材37aは移動部材38に連結されている。
【0042】
前記移動部材38の上面にはフィードバー3を載せ、かつその前進後退をガイドする受け部38aが設けられている。そのため、前記クランプ機構30が作動すると、図2bの下側のフィードバー3が前後方向(矢印B・F方向)に移動する。
【0043】
図5に示すように、前記リフト機構31はサーボモータ(リフトモータ)39を備えている。そのサーボモータ39の出力軸39aはカップリング40を介してシャフト41に連結されている。そのシャフト41の先端にはベベルギヤ42が設けられている。そのベベルギヤ42は受け側のベベルギヤ43と噛み合っている。
【0044】
図6に示すように、受け側のベベルギヤ43はスプラインシャフト44の端部に設けられている。そのスプラインシャフト44にはベベルギヤ45aを枢支している移動子45が軸方向に移動自在に設けられている。前記ベベルギヤ45aは、その内径にスプラインシャフト44の雄型スプラインと噛み合う雌型スプラインが加工されている。そのため、ベベルギヤ45aはスプラインシャフト44の軸方向に移動可能で、かつスプラインシャフト44の回転を伝達できる。前記移動子45は前記移動部材38の下端に連結されており、スプラインシャフト44上を一体となって移動する。また、前記移動部材38の内側の部材38bを上下させるボールネジのオネジ46が上下に貫通しており、移動部材38に設けられたボールネジのメネジ47と噛み合っている。また、ボールネジのオネジ46の下端にはベベルギヤ46aが設けられており、移動子45のベベルギヤ45aと噛み合っている。
【符号の説明】
【0045】
1 フィード装置
2 フィード駆動部
3 フィードバー
3a 孔
4 固定部
5 ブレーキプレート
5a 本体部
5b テーパ部
6 コモンベース
7 サーボモータ
8a ピニオン
8b ラック
8c ラックの全長
8d 歯の形成された範囲
9 リニアモーションガイド
9a ガイド部
10 連結部材
11 フィードキャリア
11a ブラケット
12 リニアモーションガイド
12a ピン
13 カップリング
14 ケース
15 中間板
16 板状部材
16a ガイド孔
16b ブレーキシュー
16c ボルト孔
16d 段部
16e 隙間
17 ガイド棒
18 軸ボルト
18a 頭部
18b ワッシャ
18c ナット
18d 段部
19 バネ
20 トランスファープレス
21 プレス機械
22 金型
22a 上型
22b 下型
23 ベッド
24 コラム
25 クラウン
26 ボルスタ
27 スライダ
28 ブラケット
29 クランプ・リフトユニット
30 クランパ機構
31 リフト機構
32 サーボモータ
32a 出力軸
33 カップリング
34 シャフト
35 ベベルギヤ
36 受け側のヘベルギヤ
37 シャフト
37a メネジ
38 移動部材
38a 受け部
38b 内側の部材
39 サーボモータ
39a 出力軸
40 カップリング
41 シャフト
42 ベベルギヤ
43 受け側のヘベルギヤ
44 スプラインシャフト
45 移動子
45a ベベルギヤ
46 オネジ
46a ベベルギヤ
47 メネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工される被搬送物をプレス機械内の金型間、または金型を取り付けたプレス間で搬送させるプレス機械のフィード装置であって、
前記金型間で被搬送物を搬送するために所定範囲を移動するフィードバーと、
フレーム部材に固定され、向かい合う少なくとも2個のブレーキシューを有する固定部と、
前記フィードバーと共に移動するブレーキプレートとからなり、
前記固定部が前記ブレーキシューを接近させる方向に付勢する付勢部材を備えており、
前記フィードバーが所定範囲を超えて移動した際に、ブレーキプレートが付勢部材の付勢力に逆らって前記2つのブレーキシューの間に押し入ることにより、フィードバーを停止させるプレス機械のフィード装置。
【請求項2】
前記ブレーキプレートが本体部と、その本体部の両端に形成される先端に向けて次第に板厚が薄くされたテーパ部とからなり、
前記ブレーキシューが所定の隙間を空けて配置されており、その隙間が前記ブレーキプレートの本体部の板厚以下の幅で、かつ付勢部材に抗して押し入れることにより本体部の板厚とほぼ同じ幅に広がる請求項1記載のプレス機械のフィード装置。
【請求項3】
サーボモータにより回転が伝達されるピニオンと、
そのピニオンの回転運動を直線運動に変換するラックとをさらに備えており、
前記ラックは前記フィードバーの所定の移動範囲でピニオンと噛合し、フィードバーが前記移動範囲を超えて移動したときに、前記ピニオンとの噛合が外れる歯数を有する請求項1記載のプレス機械のフィード装置。
【請求項4】
前記ブレーキシューが2個であり、
前記固定部が2つのブレーキシューの移動方向に延びる軸ボルトを備えており、
前記付勢部材が、軸ボルトの両端部に配置され、かつ2つのブレーキシューを互いに接近させる方向に付勢している請求項1〜3のいずれかに記載のプレス機械のフィード装置。
【請求項5】
プレス機械と、
そのプレス機械に設置される請求項1〜4のいずれかに記載のプレス機械のフィード装置とからなるフィード装置付きプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230140(P2011−230140A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100781(P2010−100781)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)