説明

プレス装置

【課題】 比較的簡単な構成でもってスライドの下死点の変動を抑制することができるプレス装置を提供すること。
【解決手段】 プレス装置本体4と、プレス装置本体4に回転自在に支持されるクランク軸と、クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段と、潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段14と、潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段16と、冷却手段14及び加温手段16を制御するための制御手段18と、を備えており、制御手段18は、スライドの下死点の変位量や温度検出センサ54,55からの検出信号等に基づいて冷却手段14及び/又は加温手段16を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物をプレス加工するためのプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物をプレス加工する際にはプレス装置が用いられている。このプレス装置は、プレス装置本体と、プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、スライドの下死点の変動量を検出するための検出センサと、スライドの下死点を調節するためのサーボモータと、サーボモータを駆動制御するための制御手段と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレス装置では、プレス装置本体を通して潤滑油を循環させ、クランク軸の各摺動部分に潤滑油を送給することにより、クランク軸の回転を潤滑させている。クランク軸の回転によって発生する熱により潤滑油が加温され、この加温された潤滑油がプレス装置本体を通して循環されることによりプレス装置本体が加温され、これによりプレス装置本体の熱変位量が変動し、スライドの下死点が変動する。このようにスライドの下死点が変動すると、制御手段は、検出センサにより検出されたスライドの下死点の変動量に応じて、サーボモータを駆動させてスライドの下死点を上昇又は下降させることにより、スライドの下死点の変動が抑制される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−176698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のプレス装置では、次のような問題がある。スライドの下死点を調節するためのサーボモータ及びこれに関連する機構をプレス装置本体に組み込むと、プレス装置の構成が複雑になり、それ故に、プレス装置本体の剛性が低下してプレス加工精度が低下するとともに、プレス装置の製造コストが上昇してしまうという問題がある。また、上述したサーボモータ及びこれに関連する機構を既存のプレス装置のプレス装置本体に組み込むのは容易でなく、既存のプレス装置に対して容易に適用することができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、比較的簡単な構成でもってスライドの下死点の変動を抑制することができるプレス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のプレス装置では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置において、
前記スライドの下死点を検出するための下死点検出手段と、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段及び前記加温手段を制御するための制御手段と、を備えており、
前記制御手段は、前記スライドの下死点の変位量に基づいて前記冷却手段及び/又は前記加温手段を制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置では、前記制御手段は、前記下死点検出手段からの検出信号に基づいて、所定周期毎に前記スライドの下死点の変位量を演算するための変位量演算手段を備えており、
前記スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第1の所定値を超えると、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第2の所定値を超えると、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の請求項3に記載のプレス装置では、前記制御手段は、前記スライドの下死点が前記目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算するための第1到達時間予測手段を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第1の所定値を超え、且つ前記第1到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第1設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第2の所定値を超え、且つ前記第1到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第2設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載のプレス装置では、前記制御手段は、前記スライドの下死点の変位量を記憶するための記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記スライドの下死点の変位量を加算するための変位量加算手段と、を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、且つ前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が第3の所定値を超えると、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、且つ前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が第4の所定値を超えると、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の請求項5に記載のプレス装置では、前記制御手段は、前記スライドの下死点が前記目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算するための第2到達時間予測手段を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が前記第3の所定値を超え、且つ前記第2到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第3設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第2の所定値よりも小さく、前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が前記第4の所定値を超え、且つ前記第2到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第4設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載のプレス装置によれば、制御手段は、スライドの下死点の変位量に基づいて冷却手段及び/又は加温手段を制御するので、潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を冷却又は加温することによってスライドの下死点の変動を抑制することができる。例えば、スライドの下死点が上昇している(即ち、スライドの下死点が上方向に変位している)場合には、潤滑油の温度を加温することによってプレス装置本体の温度が上昇する。このようにプレス装置本体の温度が上昇すると、スライドの下死点が下方向に変位する傾向となり、これによりスライドの下死点の上方向への変位が相殺され、スライドの下死点の変動が抑制される。また例えば、スライドの下死点が下降している(即ち、スライドの下死点が下方向に変位している)場合には、潤滑油の温度を冷却することによって、プレス装置本体の温度が低下する。このようにプレス装置本体の温度が低下すると、スライドの下死点が上方向に変位する傾向となり、これによりスライドの下死点の下方向への変動が相殺され、スライドの下死点の変動が抑制される。また、プレス装置の構成が比較的簡単なものとなるので、プレス装置本体の剛性を高く保持することができ、高いプレス加工精度を確保することができるとともに、プレス装置の製造コストを低減することができる。また、既存のプレス装置に対しても容易に適用することができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置によれば、スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇(又は下降)している場合において、演算されたスライドの下死点の変位量が第1の所定値(又は第2の所定値)を超えると、制御手段は加温手段(又は冷却手段)を制御して潤滑油の温度を加温(又は冷却)するので、プレス装置本体の温度を上昇(又は下降)させてスライドの下死点の上方向(又は下方向)への変動を抑制することができ、これによりスライドの下死点の変動を確実に抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の請求項3に記載のプレス装置によれば、スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇(又は下降)している場合において、演算されたスライドの下死点の変位量が第1の所定値(又は第2の所定値)を超え、且つ第1到達時間予測手段により演算された予測到達時間が第1設定時間(又は第2設定時間)以内であるときには、制御手段は加温手段(又は冷却手段)を制御して潤滑油の温度を加温(又は冷却)するので、スライドの下死点が目標下死点を超えて上昇(又は下降)することを抑制しながら、的確なタイミングでプレス装置本体の温度を上昇(又は下降)させてスライドの下死点の上方向(又は下方向)の変動を抑制することができ、これによりスライドの下死点の変動をより確実に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の請求項4に記載のプレス装置によれば、スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇(又は下降)している場合において、変位量演算手段により演算されたスライドの下死点の変位量が第1の所定値(又は第2の所定値)よりも小さく、且つ変位量加算手段により加算されたスライドの下死点の変位量が第3の所定値(又は第4の所定値)を超えると、所定周期毎の変位量が小さくても加算された変位量が大きくなった時点で、制御手段は加温手段(又は冷却手段)を制御して潤滑油の温度を加温(又は冷却)するので、プレス装置本体の温度を上昇(又は下降)させてスライドの下死点の上方向(又は下方向)への変動を抑制することができ、これによりスライドの下死点の変動を確実に抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項5に記載のプレス装置によれば、スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇(又は下降)している場合において、変位量演算手段により演算されたスライドの下死点の変位量が第1の所定値(又は第2の所定値)よりも小さく、変位量加算手段により加算されたスライドの下死点の変位量が第3の所定値(又は第4の所定値)を超え、且つ第2到達時間予測手段により演算された予測到達時間が第3設定時間(又は第4設定時間)以内であるときには、制御手段は加温手段(又は冷却手段)を制御して潤滑油の温度を加温(又は冷却)するので、スライドの下死点が目標下死点を超えて上昇(又は下降)することを抑制しながら、的確なタイミングでプレス装置本体の温度を上昇(又は下降)させてスライドの下死点の上方向(又は下方向)への変動を抑制することができ、これによりスライドの下死点の変動をより確実に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図であり、図2は、図1のプレス装置の制御系を簡略的に示すブロック図であり、図3は、演算された変位量が第1の所定値を超えた場合における、潤滑油の温度及びスライドの下死点位置の時間変化を示すグラフであり、図4は、加算された変位量が第3の所定値を超えた場合における、潤滑油の温度及びスライドの下死点位置の時間変化を示すグラフであり、図5は、図1のプレス装置の運転の制御の流れを示すフローチャートである。
【0018】
図1及び図2を参照して、図示のプレス装置2は、プレス装置本体4と、プレス装置本体4に回転自在に支持されるクランク軸6と、クランク軸6の回転によって加工領域8に向けて往復移動されるスライド10と、潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段12と、潤滑油循環手段12により循環される潤滑油の温度を冷却するための冷却手段14と、潤滑油循環手段12により循環される潤滑油の温度を加温するための加温手段16と、冷却手段14及び加温手段16を制御するための制御手段18と、を備えている。以下、これら各構成要素について詳細に説明する。
【0019】
プレス装置本体4は、ベッド部20と、ベッド部20の上方に設けられたクラウン部22と、ベッド部20とクラウン部22との間に設けられた一対のコラム部24と、を備えている。クラウン部22の内部にはクランク軸6が回転自在に支持され、このクランク軸6は、一対のプランジャ26及び一対のコネクティングロッド28を介してスライド10と連結されている。スライド10は一対のコラム部24で囲まれた空間に移動自在に配設され、その下端部には可動金型30が取り付けられている。ベッド部20にはボルスタ34が取り付けられ、このボルスタ34の上端部には静止金型36が取り付けられており、この静止金型36にはスライド10の下死点を検出するための下死点検出センサ32(下死点検出手段を構成する)が設けられている。なお、この下死点検出センサ32は、可動金型30に設けるようにしてもよい。また、各コラム部24の内部にはそれぞれ上下方向に延びる潤滑油流路38が形成され、またベッド部20の内部には、潤滑油が貯められる潤滑油貯め空間40が形成されている。
【0020】
潤滑油循環手段12は、潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油をクラウン部22のクランク軸6の各摺動部分(図示せず)に送給するための第1送給ライン42と、クランク軸6の各摺動部分から排出される潤滑油を各コラム部24の潤滑油流路38の上端部へ導くための第2送給ライン44と、潤滑油流路38の下端部から排出される潤滑油を潤滑油貯め空間40へ戻すための戻しライン46と、第1送給ライン42に配設された第1循環ポンプ48と、から構成されている。
【0021】
潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油は、第1循環ポンプ48の作用によって第1送給ライン42を通してクラウン部22のクランク軸6の各摺動部分に送給され、クランク軸6の各摺動部分を潤滑した潤滑油は、第2送給ライン44を通して各コラム部24の潤滑油流路38へそれぞれ送給される。潤滑油流路38に送給された潤滑油はこの潤滑油流路38を流下し、戻しライン46を通して潤滑油貯め空間40に戻され、このようにして潤滑油がプレス装置本体4を通して循環される。
【0022】
冷却手段14及び加温手段16は、第1及び第2接続ライン50,52を介して潤滑油貯め空間40と連通されている。潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプ(図示せず)の作用によって第1接続ライン50を通して冷却手段14及び加温手段16に送給され、これら冷却手段14又は加温手段16により冷却又は加温され、その後に、第2接続ライン52を通して潤滑油貯め空間40に戻され、このようにして潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油の温度が調節される。また、第1接続ライン50には、この第1接続ライン50を通して冷却手段14及び加温手段16に送給される潤滑油の温度を検出するための第1温度検出センサ54が設けられ、また第2接続ライン52には、この第2接続ライン52を通して潤滑油貯め空間40に送給される潤滑油の温度を検出するための第2温度検出センサ55が設けられている。
【0023】
制御手段18は、変位量演算手段56、記憶手段58、変位量加算手段60、第1及び第2到達時間予測手段62,64、変位方向判定手段66、比較手段68、温度演算手段70、作動制御手段72、入力手段74及び表示手段76を含んでいる。
【0024】
変位量演算手段56は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、所定周期T(例えば、約1分)毎にスライド10の下死点の変位量を演算する。記憶手段58は例えばメモリなどから構成され、この記憶手段58には、変位量演算手段56により演算されたスライド10の下死点の変位量が上記所定周期T毎に記憶される。またこの記憶手段58には、後述する第1〜第4の所定値データ及び第1〜第4設定時間データがそれぞれ記憶されている。変位量加算手段60は、記憶手段58に記憶されたスライド10の下死点の変位量を加算する。第1及び第2到達時間予測手段62,64はそれぞれ、スライド10の下死点が目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算して予測する。変位方向判定手段66は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、スライド10の下死点の変位方向(上方向又は下方向)を判定する。
【0025】
比較手段68は、変位量演算手段56による演算結果と記憶手段58に記憶された第1及び第2の所定値とを比較し、また変位量加算手段60による加算結果と記憶手段58に記憶された第3及び第4の所定値とを比較し、また第1到達時間予測手段62による予測結果(予測到達時間)と記憶手段58に記憶された第1及び第2設定時間とを比較し、更に第2到達時間予測手段64による予測結果(予測到達時間)と記憶手段58に記憶された第3及び第4設定時間とを比較する。温度演算手段70は、比較手段68による比較結果に基づいて、冷却手段14による潤滑油の冷却温度及び加温手段16による潤滑油の加温温度を所要の通りに演算し、また作動制御手段72は、第1及び第2温度検出センサ54,55からの検出信号や温度演算手段70による演算結果に基づいて冷却手段14及び加温手段16を所要の通りに作動制御する。
【0026】
入力手段74は、例えばテンキーなどから構成され、この入力手段74を用いて各種データや各種処理命令などが入力される。また表示手段76は、例えば液晶パネルなどから構成され、この表示手段76には各種データなどが表示される。
【0027】
図3〜図5をも参照して、上述したプレス装置2の運転の制御の流れについて説明すると、次の通りである。プレス装置2の運転が開始されると(ステップS1)、クランク軸6が所定方向に回転され、クランク軸6の回転運動が一対のコネクティングロッド28によって直線運動に変換され、これによりスライド10が上死点と下死点との間を往復移動される。スライド10が上死点から下降して下死点まで移動すると、可動金型30が加工領域8に配設された被加工物(図示せず)に作用し、可動金型30及び静止金型36によって被加工物にプレス加工が施される。クランク軸6が更に所定方向に回転されると、スライド10が下死点から上昇して上死点まで移動する。
【0028】
また、潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油は、第1及び第2温度検出センサ54,55からの検出信号に基づいて、冷却手段14又は加温手段16により所定温度(例えば、約25℃)に調節された後に、潤滑油循環手段12によりプレス装置本体4を通して循環される。
【0029】
このようにプレス加工を行うと、クランク軸6の回転によって熱が発生し、この発生した熱により潤滑油の温度が上昇し、これによりプレス装置本体4の熱変位が生じ、時間の経過とともにスライド10の下死点が変動(本実施形態では上昇)する。このようにスライド10の下死点の変動が生じたときには、次のように制御される。
【0030】
図3を参照して、プレス装置2の運転開始後、時刻t1より所定周期T(例えば、約10分)が経過して時刻t2になると、変位量演算手段56は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、時刻t1から時刻t2までの間におけるスライド10の下死点の変位量ΔXを演算し(ステップS2)、この演算された変位量ΔXは記憶手段58に記憶される(ステップS3)。変位方向判定手段66は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、スライド10の下死点が上昇している(即ち、スライド10の下死点の変位方向が上方向である)と判定すると、ステップS4からステップS5に進む。
【0031】
比較手段68は、演算されたスライド10の下死点の変位量ΔXと記憶手段58に記憶された第1の所定値(例えば、約0.003mm)とを比較し、変位量ΔXが第1の所定値を超えている場合には、ステップS5からステップS6に進む。変位方向判定手段66は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、スライド10の下死点が目標下死点に近接する方向に変位していると判定すると、ステップS6からステップS7に進み、第1到達時間予測手段62は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、スライド10の下死点が目標下死点に到達するまでの予測到達時間Tp1を演算する。比較手段68は、この演算された予測到達時間Tp1と記憶手段58に記憶された第1設定時間(例えば、約1分)とを比較し、予測到達時間Tp1が第1設定時間以内である場合には、ステップS8からステップS9に進み、温度演算手段70は、演算されたスライド10の変位量ΔXに基づいて、加温手段16による潤滑油の加温温度(例えば、約27℃)を演算する。
【0032】
作動制御手段72は、温度演算手段70による演算結果に基づいて加温手段16を作動制御し、これにより潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油の温度が例えば約25℃から約27℃まで加温される(ステップS10)。このように加温された潤滑油がプレス装置本体4を通して循環されると、プレス装置本体4の温度が上昇してスライド10の下死点が下方向に変位する傾向となり、これによりスライド10の下死点の上方向への変位が相殺され、スライド10の下死点が目標下死点となるように調節される。なお、上述のように潤滑油の温度を加温する制御が行われない場合には、図3中の破線で示すように、スライド10の下死点は目標下死点を超えて上昇し続ける。その後、ステップS11を経てステップS2に戻り、上述したのと同様の制御が行われる。あるいは、プレス加工を終了する場合には、ステップS11からステップS12に進み、プレス装置2の運転が停止される。
【0033】
なお、ステップS6において、変位方向判定手段66により、スライド10の下死点が目標下死点より離隔する方向に変位していると判定された場合には、第1到達時間予測時間62による予測到達時間の演算は行われず、ステップS6からステップS9に進み、スライド10の下死点が目標下死点となるように、上述のように温度演算手段70により潤滑油の加温温度の演算が行われる。
【0034】
次に図4を参照して、ステップS1〜ステップS5が上述したのと同様にして行われ、ステップS5において、演算された時刻t1から時刻t2までの間の変位量ΔX1が第1の所定値よりも小さい場合、あるいはステップS1〜ステップS8が上述したのと同様にして行われ、ステップS8において、演算された予測到達時間が第1設定時間を超える場合には、ステップS13に進み、変位量加算手段60は、記憶手段58に記憶された時刻t1から時刻t2までの間の変位量ΔX1を加算する。比較手段68は、加算された変位量ΔX1と第3の所定値(例えば、約0.004mm)とを比較し、加算された変位量ΔX1が第3の所定値よりも小さい場合には、ステップS14からステップS2に戻り、ステップS2〜ステップS4が行われる。
【0035】
時刻t2から更に上記所定周期Tが経過して時刻t3となり、ステップS5において、演算された時刻t2から時刻t3までの間の変位量ΔX2が第1の所定値よりも小さい場合、あるいはステップS8において、演算された予測到達時間が第1設定時間を超える場合には、変位量加算手段60は、記憶手段58に記憶された時刻t1から時刻t2までの間の変位量ΔX1と、時刻t2から時刻t3までの間の変位量ΔX2とを加算する(ステップS13)。比較手段68は、加算された変位量ΔX’(=ΔX1+ΔX2)と第3の所定値とを比較し、加算された変位量ΔX’が第3の所定値を超えている場合には、ステップS14からステップS15に進む。変位方向判定手段66は、下死点検出センサ32からの検出信号に基づいて、スライド10の下死点が目標下死点に近接する方向に変位していると判定すると、ステップS15からステップS16に進み、第2到達時間予測手段64は、スライド10の下死点が目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算する。比較手段68は、この演算された予測到達時間Tp2と記憶手段58に記憶された第3設定時間(例えば、約2分)とを比較し、予測到達時間Tp2が第3設定時間以内である場合には、ステップS17からステップS18に進み、温度演算手段70は、加算されたスライド10の変位量ΔX’に基づいて潤滑油の設定温度(例えば、約27.5℃)を演算する。
【0036】
作動制御手段72は、温度演算手段70による演算結果に基づいて加温手段16を作動制御し、これにより潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油の温度が例えば約25℃から約27.5℃まで加温される(ステップS19)。このように加温された潤滑油がプレス装置本体4を通して循環されると、プレス装置本体4の温度が上昇してスライド10の下死点が下方向に変位する傾向となり、これによりスライド10の下死点の上方向への変位が相殺され、スライド10の下死点が目標下死点に調節される。なお、上述のように潤滑油の温度を加温する制御が行われない場合には、図4中の破線で示すように、スライド10の下死点は目標下死点を超えて上昇し続ける。その後、記憶手段58に記憶された時刻t1から時刻t3までの間の変位量データΔX1,ΔX2がリセット(消去)され(ステップS20)、ステップS11を経てステップS2に戻り、上述したのと同様の制御が行われる。あるいは、プレス加工を終了する場合には、ステップS11からステップS12に進み、プレス装置2の運転が停止される。
【0037】
なお、ステップS15において、変位方向判定手段66により、スライド10の下死点が目標下死点より離隔する方向に変位していると判定された場合には、第2到達時間予測時間64による予測到達時間の演算は行われず、ステップS15からステップS18に進み、スライド10の下死点が目標下死点となるように、上述のように温度演算手段70により潤滑油の設定温度の演算が行われる。また、ステップS17において、演算された予測到達時間Tp2が第3設定時間を超える場合には、ステップS2に戻る。
【0038】
本実施形態では、スライド10の下死点が上昇する場合について説明したが、スライド10の下死点が下降する(即ち、スライド10の下死点の変位方向が下方向である)場合についても、上述したのと同様の制御が行われる。かかる場合には、ステップS4において、変位方向判定手段66によりスライド10の下死点の変位方向が下方向であると判定されると、ステップS4からステップS21に進み、上述したのと同様にしてステップS21〜ステップS33が行われる。
【0039】
ステップS21において、比較手段68は、演算されたスライド10の下死点の変位量と記憶手段58に記憶された第2の所定値(例えば、約0.002mm)とを比較し、またステップS24において、比較手段68は、演算された予測到達時間と記憶手段58に記憶された第2設定時間(例えば、約1.5分)とを比較する。その結果、演算されたスライド10の下死点の変位量が第2の所定値を超えるとともに、スライド10の下死点が目標下死点に近接する方向に変位し、且つ予測到達時間が第2設定時間以内である場合には、温度演算手段70は冷却手段14による冷却温度(例えば、約23℃)を演算する(ステップS25)。作動制御手段72は、その演算結果に基づいて冷却手段14を作動制御し、これにより潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油の温度が例えば約25℃から約23℃まで冷却される(ステップS26)。このように冷却された潤滑油がプレス装置本体4を通して循環されると、プレス装置本体4の温度が低下してスライド10の下死点が上方向に変位する傾向となり、これによりスライド10の下死点の下方向への変位が相殺され、スライド10の下死点が目標下死点となるように調節される。
【0040】
また、ステップS28において、比較手段68は、加算された変位量と記憶手段58に記憶された第4の所定値(例えば、約0.005mm)とを比較し、またステップS30において、比較手段68は、演算された予測到達時間と記憶手段58に記憶された第4設定時間(例えば、約2.5分)とを比較する。その結果、加算されたスライド10の下死点の変位量が第4の所定値を超えるとともに、スライド10の下死点が目標下死点に近接する方向に変位し、且つ予測到達時間が第4設定時間以内である場合には、温度演算手段70は冷却手段14による冷却温度(例えば、約22.5℃)を演算する(ステップS32)。作動制御手段72は、その演算結果に基づいて冷却手段14を作動制御し、これにより潤滑油貯め空間40に貯められた潤滑油の温度が例えば約25℃から約22.5℃まで冷却され(ステップS33)、上述したのと同様にスライド10の下死点が目標下死点に調節される。
【0041】
従って、本実施形態のプレス装置2では、潤滑油循環手段12により循環される潤滑油の温度を冷却又は加温することによってスライド10の下死点の変動を抑制するので、プレス装置2の構成が比較的簡単なものとなり、それ故に、プレス装置本体4の高い剛性を保持することができ、高いプレス加工精度を確保することができるとともに、プレス装置2の製造コストを低減することができる。また、既存のプレス装置に対しても容易に適用することができる。
【0042】
以上、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、比較手段68は、スライド10の下死点が上昇している場合には、演算(加算)された変位量と第1(第3)の所定値とを比較し、またスライド10の下死点が下降している場合には、演算(加算)された変位量と第2(第4)の所定値とを比較するように構成したが、第1の所定値と第2の所定値とを同じ値に構成し、また第3の所定値と第4の所定値とを同じ値に構成してもよい。また、比較手段68は、スライド10の下死点が上昇している場合には、第1(第2)到達時間予測手段62(64)により演算された予測到達時間と第1(第3)設定時間とを比較し、スライド10の下死点が下降している場合には、第1(第2)到達時間予測手段62(64)により演算された予測到達時間と第2(第4)設定時間とを比較するように構成したが、第1設定時間と第2設定時間とを同じ値に構成し、また第3設定時間と第4設定時間とを同じ値に構成してもよい。
【0044】
また例えば、上記実施形態では、作動制御手段72は冷却手段14及び加温手段16の一方を作動制御するように構成したが、冷却手段14及び加温手段16を共に作動制御するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図である。
【図2】図1のプレス装置の制御系を簡略的に示すブロック図である。
【図3】演算された変位量が第1の所定値を超えた場合における、潤滑油の温度及びスライドの下死点位置の時間変化を示すグラフである。
【図4】加算された変位量が第3の所定値を超えた場合における、潤滑油の温度及びスライドの下死点位置の時間変化を示すグラフである。
【図5】図1のプレス装置の運転の制御の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
2 プレス装置
4 プレス装置本体
6 クランク軸
8 加工領域
10 スライド
12 潤滑油循環手段
14 冷却手段
16 加温手段
18 制御手段
56 変位量演算手段
58 記憶手段
60 変位量加算手段
62 第1到達時間予測手段
64 第2到達時間予測手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置において、
前記スライドの下死点を検出するための下死点検出手段と、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段及び前記加温手段を制御するための制御手段と、を備えており、
前記制御手段は、前記スライドの下死点の変位量に基づいて前記冷却手段及び/又は前記加温手段を制御することを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記下死点検出手段からの検出信号に基づいて、所定周期毎に前記スライドの下死点の変位量を演算するための変位量演算手段を備えており、
前記スライドの下死点が目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第1の所定値を超えると、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第2の所定値を超えると、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記スライドの下死点が前記目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算するための第1到達時間予測手段を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第1の所定値を超え、且つ前記第1到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第1設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が第2の所定値を超え、且つ前記第1到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第2設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記スライドの下死点の変位量を記憶するための記憶手段と、前記記憶手段に記憶された前記スライドの下死点の変位量を加算するための変位量加算手段と、を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、且つ前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が第3の所定値を超えると、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、且つ前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が第4の所定値を超えると、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする請求項2又は3に記載のプレス装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スライドの下死点が前記目標下死点に到達するまでの予測到達時間を演算するための第2到達時間予測手段を更に備えており、
前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって上昇している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第1の所定値よりも小さく、前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が前記第3の所定値を超え、且つ前記第2到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第3設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記加温手段を制御して潤滑油の温度を加温し、また、前記スライドの下死点が前記目標下死点に向かって下降している場合において、前記変位量演算手段により演算された前記スライドの下死点の変位量が前記第2の所定値よりも小さく、前記変位量加算手段により加算された前記スライドの下死点の変位量が前記第4の所定値を超え、且つ前記第2到達時間予測手段により演算された前記予測到達時間が第4設定時間以内であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を制御して潤滑油の温度を冷却することを特徴とする請求項4に記載のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173663(P2008−173663A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8980(P2007−8980)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(591041749)日本電産キョーリ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】