説明

プレス装置

【課題】 金型のメンテナンスを容易にすることができ、且つ被加工材の外観不良を抑制しえる凹陥部を有したプレス装置を提供する。
【解決手段】 被加工材を成形面でプレス成形する一対の金型を備えるプレス装置において、少なくとも一方の金型の成形面にゴミを溜める凹陥部5を形成し、前記凹陥部5は円環溝で形成されて前記金型を補修する円形形状のブッシングの縁10に介在させることなく配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフ、ドアアウタ、フードアウタのような自動車の外板部材を成形するプレス加工に用いられる一対の金型を構成する、例えば上型若しくは下型の少なくとも何れか一方の成形面に形成され金型の成形面にゴミを溜める複数の凹陥部を備えるプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の外板部材(ルーフ、ドアアウタ、フードアウタ等)は、対になった金型の間に金属パネルなどの被加工材を挟み、プレス機械によって金型を加圧するといったプレス加工により成形される。このようなプレス加工を連続的に行う場合、前記金型と被加工材との間に材料カス、切粉、異物等のゴミが入り込むことがある。このとき、前記ゴミが金型に食い込んでしまい、成形される被加工材にゴミキズが連続して発生してしまう。よって、前記金型と被加工材との間にゴミが入り込んだ場合は、1枚以上の被加工材にゴミキズが発生し手直しを要する。
【0003】
そのため、ゴミが入り込んでも金型に食い込まないようにするために、型の成形面に硬質クロムメッキ処理を実施し、被加工物にゴミが付着させる技術が従来から行われており、図5を用いて説明する。図5は従来のプレス装置におけるプレス加工時の状態を示す側面断面図である。図5に示すプレス装置は、上型(ダイス)36と下型(ポンチ)34を備え、上型36と下型34とで被加工材であるパネル32を挟み込んでいる。また、上型36と下型34にはその成形面にメッキ処理が施されている。
【0004】
図5において、金型とパネルとの間にゴミ38が入り込んだ場合、金型の成形面33に施されたメッキ処理によりゴミ38はパネル32に付着する。このようにして、連続して成形されるパネル32にゴミキズが発生することを防止する。
しかし、金型内のゴミを除去してゴミキズが連続して発生することは防ぐものの、成形される被加工材にゴミが付着した状態で生産されることは避けられず、プレス加工後の被加工材は外観不良品となる。
【0005】
そこで、ゴミを除去して被加工材の外観不良を低減させる技術として、特許文献1(特開2005−334908号公報)、特許文献2(特開昭56−62627号公報)が開示されている。
特許文献1では、ダイスとポンチとの間に介在させた被加工材を成形するためのプレス装置であって、ダイス及びポンチの少なくとも何れか一方の成形面に1以上の凹溝を形成しており、前記凹溝は、ある方向へ向って略平行に配置される複数の凹溝と、その方向に対して略直交する方向へ向って略平行に配置される複数の凹溝とで構成され、前記凹溝に異物を落とし込みやすくすることが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、プレス装置の成形面の一部に多数の丸穴をドリル加工にて形成し、金型と被加工材との間に入り込んだ異物を丸穴内に押し込めやすくすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−334908号公報
【特許文献2】特開昭56−62627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、プレス加工を連続的に行って前記金型と被加工材との間にゴミが入り込んで金型が損傷した場合、その損傷箇所を従来のブッシングにより補修するとブッシングの縁であるブッシングライン上の凹溝にブッシングバリが必ず存在してしまうため、メンテナンスが困難であり、また被加工材と金型との間の空気を排気する空気穴を設定することができない。
また、特許文献2では、ドリル加工にて丸穴を形成しているので丸穴加工時に発生する切粉が金型成形面に残留してしまい、必ず掃除はするものの、被加工材のゴミキズ発生の原因となる恐れがある。さらに、プレス装置に多数の丸穴を形成しているために、プレス機械により加圧すると金型の多数の丸穴が意匠としてプレス後の被加工材にあらわれる可能性もある。また、機械加工工数が多大となる。
【0009】
また従来、金型には被加工材と金型との間にたまる空気を排気する空気穴が設けられており、金型に形成される凹溝や丸穴により被加工材の外観不良が発生する恐れがあるが、空気穴との関係については特許文献1、特許文献2ともに何ら開示されていない。
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、金型のメンテナンスを容易にすることができ、且つ被加工材の外観不良を抑制しえる凹陥部を有したプレス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、被加工材を成形面でプレス成形する一対の金型を備えるプレス装置において、少なくとも一方の金型の成形面にゴミを溜める凹陥部を形成し、前記凹陥部は円環溝で形成されて前記金型を補修する円形形状のブッシングの縁に介在させることなく配置されていることを特徴とする。
【0011】
前記金型と被加工材との間にゴミが入り込んで金型が損傷したとき、従来のブッシングにより損傷箇所を補修するが、このときブッシングの縁(ブッシングライン)に凹陥部が存在すると金型成形面をならす際に凹陥部をあわせる必要があり、メンテナンスが困難である。そこで、かかる発明によれば、前記凹陥部を円環溝で形成して前記金型を補修する円形形状のブッシングの縁に介在させることなく配設させるので金型のメンテナンスを容易にする。
【0012】
また、前記凹陥部は、エッチングにより形成されることを特徴とする。
このようにして、凹陥部加工のときにエッチングを用いることにより、上述した円環溝を有するパターンを容易に加工することができる。
【0013】
また、前記一方の金型の成形面に開口し、前記被加工材と該金型との間の空気を排気する空気穴とを更に備え、前記開口は前記円環溝の中心部に配置されていることを特徴とする。
このようにして、前記凹陥部の円環溝の中心部に空気穴の開口を設けるので、被加工材と金型との間にたまる空気を速やかに排気することができる。
【0014】
さらに、前記金型は、前記成形面の背面に補強リブを備え、前記補強リブに対応する前記成形面に形成された前記凹陥部の円環溝の中心部は、円形形状の窪みが形成されていることを特徴とする。
前記金型は前記成形面の背面に補強リブを備えて補強が施こされるが、型を貫通する空気穴は補強リブ形成箇所には設けることができないので、前記補強リブに対応する前記成形面に形成された前記凹陥部の円環溝の中心は開口ではなく、円形形状の窪みを形成することで、前記金型と被加工材との間のゴミの除去、及び、被加工材と金型との間にたまる空気の排気とを効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金型のメンテナンスを容易にすることができ、且つ被加工材の外観不良を抑制しえる凹陥部を有したプレス装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るプレス装置の下型成形面を示す平面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図2のA−A線断面でのプレス加工時の状態を示す側面断面図である。
【図4】図2のB−B線断面でのプレス加工時の状態を示す側面断面図である。
【図5】従来のプレス装置におけるプレス加工時の状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0018】
図1、図2を用いて本発明の実施形態に係るプレス装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るプレス装置の下型成形面を示す平面図であって、下型4はその成形面に凹陥部5を備えている。この凹陥部5は、金型と被加工材であるパネルとの間に入り込む材料カス、切粉、異物等のゴミを収容して除去するものである。なお、図1では凹陥部5を偏り無く全体的に下型4の成形面に形成しているが、用途に応じて下型4成形面の一部分のみに設けることもできる。
【0019】
次に、金型に形成される凹陥部について図2を用いて説明する。図2は図1に示す下型4成形面の一部拡大図である。
下型4はその成形面に複数形成される凹陥部5と、該凹陥部5が形成されず被加工材と接触する接触面3と、型内の空気を抜く空気穴7とで構成される。また図示されないが、下型4はその背面に鋳物の強度を保つための縦壁であるリブを備えている。
【0020】
凹陥部5は、リング形状の溝部(円環溝)と、該リング形状の溝部の周囲に形成される複数の円形形状の窪み部とで構成され、図2のような規則的なパターンを形成している。このようなパターンとすることにより、また、溝部と窪み部とを組み合わせることでパネルを陥没させることなく、ゴミを溜める凹陥部5の面積を広げてゴミを捕集し、ゴミキズ不良率を低減させる。
また、前記パターンは樹脂型のシボ加工で使用されるエッチング(化学腐食)により形成される。このように、凹陥部5の加工にエッチングを使用することで前記凹陥部のパターンが容易に加工可能となる。
【0021】
なお、図2に示す凹陥部のパターンでは、リング形状の溝部の外径dを3.8mm、内径dを2.4mm、リング形状の溝部の中心に位置する円形形状の窪み部の径dを0.7mm、前記リング形状の溝部の周りに形成される円形形状の窪み部の径d、d、dを1.0mm、dを0.7mm、リング形状の溝部の中心からその周りに形成される円形形状の窪み部の中心までの距離d、dを4.5mmとしたが限定されるものではない。
【0022】
図3は、図2のA−A線断面でのプレス加工時の状態を示す側面断面図である。
図3に示すプレス装置は、上型6と下型4とを備えており、上型6と下型4とで被加工材であるパネル2を挟み込んでいる。下型4には、パネル2に対して垂直方向に凹陥する凹陥部5と、パネル2と接触する接触面3とが備えられている。
【0023】
本実施形態では、凹陥部5の加工深さhを0.2mmとしており、この加工深さはゴミ8を除去することができる深さである。なお、凹陥部5の加工深さhは、設備的な要因により入り込むような大きなゴミではなく、0.1mm前後の微細なゴミを除去する範囲内に形成することが好ましい。
【0024】
パネル2を成形するために上型6を下型4に向って下降させると、上型6と下型4とは協働し介在されるパネル2を塑性変形させる。このとき、パネル2は下型4の接触面3上を滑るため、パネル2と下型4との間にゴミが存在したとしても、パネル2が滑ることによって引きずられて移動する。すなわち、ゴミ8は前記凹陥部5へ落とし込まれることになる。これにより、金型とパネルとでゴミを挟み込むことを抑制することができ、ゴミキズの発生による手直しを低減することができ、費用を削減することができる。
【0025】
一方、ゴミが金型とパネルの間に挟み込まれると、ゴミが金型に食い込んで金型を損傷させてしまうことがある。この金型の損傷個所を補修する方法として、一般的にブッシングという方法が用いられる。ブッシングとは、損傷によって生じた開口部若しくは損傷部位を除去することで生じた開口部に、金型と同じ素材の塊を充填した後、塊の頂部とその周辺部とをならす補修方法である。このとき、金型と塊の継ぎ目であるブッシングライン(ブッシングの縁)に、ゴミを除去するための凹溝や穴が存在すると、塊をならすときに段差が形成されやすく、結果としてブッシングバリが発生し、ゴミの要因となりうるとともに、パネルに意匠としてあらわれ外観不良が生じることがある。
【0026】
本実施形態では、凹陥部5として複数の円形形状の窪みの他にリング形状の溝を組み合わせて設けられているため、図2に示すようにライン上に凹陥部5を存在させることなくブッシングライン10を設定することが可能となる。よって、金型と塊の継ぎ目が目立たなくなり、金型のメンテナンスが容易となる。なお、ここではブッシングライン10の径d10は20mmとする。
【0027】
次に、図2及び図4を用いて凹陥部と空気穴との位置関係について説明する。図4は、図2のB−B線断面でのプレス加工時の状態を示す側面断面図である。また、図4中に示した図2と同じ構成の部分には説明を省略するため同じ符号を示している。
図4に示すように、プレス装置は、上型6と下型4とを備えており、上型6と下型4とで被加工材であるパネル2を挟み込んでいる。下型4には、パネル2に対して垂直方向に凹陥する凹陥部5と、パネル2と接触する接触面3と、下型4を貫通して形成される空気穴7と、下型4を補強するリブ9とが備えられている。
【0028】
一般的に、下型4に空気穴7を開けると、下型4とパネル2の密着性が高まる。そのため、凹陥部5を空気穴7に接近する位置に形成すると、ある程度丸みを帯びたパネル2は真っ直ぐになろうとしたり、凹陥部5で陥没したりするためにパネル2が折れ曲がったように見える。一方、金型に形成される凹陥部5は、金型とパネル間に入り込むゴミを除去するためにできるだけ多くしたい。しかし、上述した理由から凹陥部を設ける範囲に制限がある。
そこで、外観不良の発生を抑制しえる凹陥部の範囲を設定する。
【0029】
本実施形態では、空気穴7は凹陥部5のリング形状の溝部(以下、円環溝とする)の中心に形成される。
また、凹陥部5の円環溝の中心に円形形状の窪み部12を形成した窪み部付円環溝と、凹陥部5の円環溝の中心に空気穴7を形成した空気穴付円環溝とを混在させている。
このようにして空気穴7と凹陥部5を設けることにより、窪み部付円環溝と空気穴付円環溝とはパネル2に対して同様な接触を確保できるので、これらを組み合わせることによって均一な接触を確保することができ、空気穴によって型とパネルの密着性を向上させることが可能となり、パネルの外観不良を抑制することができる。また、前述のように金型とパネル間に入り込むゴミを除去するためにできるだけ成形面全体に凹陥部5を設けて金型とパネル間のゴミを除去して、ゴミキズの発生による手直しを低減して費用を削減することができる。
なお、本実施形態では下型に着目して説明したが、上述する凹陥部を上型のみ若しくは下型と上型の両方に配設させても同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、図4に示すように下型4を貫通して形成される空気穴7は、下型4を補強するリブ9が備えられた箇所には設けることができないので、少なくともリブ9に対応する成形面3には前記窪み部付円環溝を有する凹陥部を形成することで、より効率的に凹陥部や空気穴を成形面3に形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、金型のメンテナンスを容易にすることができ、且つ被加工材の外観不良を抑制しえる凹陥部を有しているので、プレス装置への適用に際して有益である。
【符号の説明】
【0032】
2 パネル
3 接触面
4 下型
5 凹陥部
6 上型
7 空気穴
8 ゴミ
9 リブ
10 ブッシングライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材を成形面でプレス成形する一対の金型を備えるプレス装置において、
少なくとも一方の金型の成形面にゴミを溜める凹陥部を形成し、前記凹陥部は円環溝で形成されて前記金型を補修する円形形状のブッシングの縁に介在させることなく配置されていることを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記凹陥部は、エッチングにより形成されることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記一方の金型の成形面に開口し、前記被加工材と該金型との間の空気を排気する空気穴とを更に備え、
前記開口は前記円環溝の中心部に配置されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
前記金型は、前記成形面の背面に補強リブを備え、
前記補強リブに対応する前記成形面に形成された前記凹陥部の円環溝の中心部は、円形形状の窪みが形成されていることを特徴とする請求項3記載のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−240688(P2010−240688A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91919(P2009−91919)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】