説明

プレス金型構造およびワークのプレス成形方法

【課題】プレス金型開放時に、ワークがプレス金型に持っていかれ、ワークの位置ずれや変形が生じるのを防止し、ワーク姿勢を安定化させ、プレス装置の高速化を図るもの。
【解決手段】本発明に係るプレス金型構造は、対をなすプレス下型17とプレス上型18を相対移動可能に設け、プレス下型17とプレス上型18の間に搬入されるワークWをプレス成形して成形済みワークを形成するものである。そして、プレス下型17の型成形面28に凹部29を設け、この型成形面28の凹部29にバキュームスタビライザ20の吸着カップ26を設け、吸着カップ26は、少なくともプレス金型開放時にワークWを弾力的に吸着保持してワーク姿勢を安定化させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属プレスの製造技術に係り、特に板状ワークをプレス加工して三次元的な製品ワークを成形するプレス金型構造およびワークのプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業では、トランスファプレス機やタンデムプレス機のようなプレス装置を用いてプレス成形加工する生産技術がある。トランスファプレス機では、必要な製品形状の成形品を得るために、例えば成形工程→切断工程→曲げ工程→穴あけ工程のように、4工程4型の自動プレスラインで、これらの型にワークを順にプレス加工することが行なわれている。
【0003】
このようなプレス装置において、生産効率を高めるために、運転速度を上昇させていくと、成形工程等の各工程の運転速度が早くなり、プレス下型に対してプレス上型の昇降速度が上昇する。
【0004】
しかし、プレス装置の各工程の運動速度が速くなってくると、プレス金型開放時にプレス上型にワークが引っ張られたり、付着して踊り出すことがある。甚だしい場合には、ワークがプレス金型から飛び出すことがある。
【0005】
また、ワークが踊り出してシフトすると、前工程のプレス金型からワークを取り出して次工程のプレス金型にセットすることが困難となったり、正確に行なうことができなくなる。このため、プレス装置の運転速度を向上させることが困難となり、スピードアップの限界となっている。
【0006】
一方、プレス装置の運転速度を向上させるために、特許文献1に記載されたようにトランスファプレス機の曲げ工程に用いられるプレス装置に吸着カップを用いたワーク保持技術がある。
【0007】
引用文献1に記載のプレス装置は、成形工程ではなく、曲げ工程のプレス金型を対象とするものである。このプレス金型は、プレス下型の下型本体にエアシリンダを収納し、このエアシリンダにより昇降するワークリフタに吸着カップを設けたものである。
【0008】
また、引用文献2には、治具に固定されるエアシリンダと、吸着カップとを備えた吸着機構を複数設け、板状のワークを吸着カップで吸着保持するワーク位置決め装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−76333号公報
【特許文献2】特開平10−85654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
引用文献1に記載のプレス装置は、曲げ工程のプレス金型において、ワークリフタを昇降動作させるエアシリンダを備え、このワークリフタの動作に同期して吸着カップをON/OFF動作させるもので、吸着カップはワークリフタの動作時にワークを所定位置に吸着保持したものである。
【0011】
しかし、引用文献1に記載のプレス装置では、曲げ工程のプレス金型への搬出入装置の動作タイミング、ワークリフタの動作タイミングおよび吸着カップの動作タイミングをそれぞれとって、プレス上型を昇降ストロークさせているために、制御動作が複雑になるとともに、ワークリフタを備えたプレス装置を、成形工程のプレス金型に適用することは困難であり、できない。
【0012】
また、特許文献2に記載のワーク位置決め装置は、成形工程のプレス装置に適用することは考慮 しておらず、プレス装置に適用することはできない。
【0013】
仮に、ワーク位置決め装置をプレス装置に適用しても、プレス装置のプレス金型の運動速度を向上させることができない。ワーク位置決め装置をプレス装置のプレス下型に固定させても、プレス金型開放時に、吸着カップに吸着不良が生じたり、吸着(真空)が解除されると、スプリングの作用で吸着カップが上動するため、プレス上型にワークが付着したり、付着するのを助長することとなり、ワークの踊りを抑制することができない。
【0014】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、プレス金型開放時に、ワークがプレス金型に持っていかれてワークの位置ずれが生じるのを防止してワーク姿勢を安定化させ、プレス装置の高速化を図ることができるプレス金型構造およびワークのプレス成形方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の他の目的は、成形工程のプレス金型開放時に、ワークの位置ずれや変形が起こるのを防止し、プレス装置を一層高速化させることができるプレス金型構造およびワークのプレス成形方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るプレス金型構造は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、対をなすプレス下型とプレス上型を相対移動可能に設け、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入されるワークをプレス成形して成形済みワークを形成するプレス金型構造において、前記プレス下型の型成形面に凹部を設け、前記型成形面の凹部にバキュームスタビライザの吸着カップを設け、前記吸着カップは、少なくともプレス金型開放時に前記ワークを弾力的に吸着保持してワーク姿勢を安定化させたことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係るワークのプレス成形方法は、上述した課題を解決するために、請求項4に記載したように、対をなすプレス下型とプレス上型を相対移動可能に設け、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入されるワークをプレス成形してプレス済みワークを形成するワークのプレス成形方法において、前記プレス下型の型成形面に形成された凹部に、バキュームスタビライザの吸着カップを弾力的に設け、前記吸着カップは、少なくともプレス金型開放時に前記ワークを吸着保持してワーク姿勢を安定化させることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、プレス装置のプレス金型開放時にプレス金型にワークが貼り付くのを防止し、応答性に優れ、ワークの位置ずれや変形を防いでワーク姿勢を安定化させ、プレス装置の一層の高速化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プレス装置による各プレス工程の流れを順に説明した工程図。
【図2】成形工程のプレス装置に用いられる一対のプレス金型の一実施形態を示す斜視図。
【図3】成形工程のプレス装置のプレス金型に用いられるバキュームスタビライザの構成を示す図。
【図4】(A)はプレス装置を構成するプレス金型の昇降ストロークとプレス装置の軸角度の関係を示す図、(B)はプレス装置の搬出入装置、ワークリフタおよびバキュームスタビライザの作動タイミングと作動範囲(作動時間)の関係例を示す図。
【図5】プレス装置を構成するプレス金型による成形工程の作動略図を示すもので、(A)はプレス金型によるプレス成形時、(B)はプレス金型開放時におけるプレス上型上昇時をそれぞれ示す図。
【図6】プレス装置に用いられるプレス金型の他の実施形態を示すもので、(A)はプレス金型のプレス下型の型成形面の凹部に設けられるバキュームスタビライザの吸着カップの吸着前の設置例、(B)は吸着カップの吸着中の設置例をそれぞれ示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1はトランスファプレス機(ライン)を構成するプレス装置10の各プレス工程を示すものである。このプレス装置10は、板状ワークをプレス成形して必要な形状の製品ワークを得るもので、基本的には、成形工程11→切断工程12→曲げ工程13→穴あけ工程14のように4工程4型等の自動プレスラインの製造工程で構成される。プレス装置10は各プレス工程を実施するプレス金型に順次ワークを送って必要な製品形状を得るものである。プレス装置10で成形される製品形状如何によっては、切断工程12のプレス金型に切断と部品成形を行なうプレス金型が必要に応じて用いられ、また、穴あけ工程14のプレス金型に部分成形と穴あけを行なうプレス金型が用いられる。
【0022】
成形工程11のプレス金型16には、図2および図3に示すプレス下型17とプレス上型18が相対移動可能に設けられる。図2では、プレス上型18が固定されたプレス下型17に対し、昇降移動する例を示す。
【0023】
図2に示すプレス装置10はトランスファプレス機(ライン)を構成しており、隣接した装置10間においてワークWを搬送するためにシャトルコンベア(図示せず)が用いられる。プレス装置10のプレス金型16に対して矢印1方向からワーク(パネル)Wが送り込まれ、また、矢印O方向へ向けてワークが送り出される。
【0024】
具体的に、プレス装置10のプレス金型16には、シャトルコンベア(図示せず)等の自動搬送装置により、プレス金型16の下型17と上型18の間に板状の材料ワークWが搬入され、搬入された材料ワークWはワークリフタで下降してプレス金型16で成形加工された後、再びワークリフタで上動し、自動搬送装置により次工程(切断工程)へ搬出させる。
【0025】
プレス金型16の下型17と上型18の間に搬入された板状の材料ワークWは、ワークリフタ(図示せず)の上昇位置で受け、その下降によりガイドメンバ19に導かれて加工位置に案内される。この加工位置ではプレス上型18の昇降により必要な三次元形状にプレス成形加工される。
【0026】
成形工程11は、板状の材料ワーク(パネル)Wから三次元的な凹凸形状を形づくる工程をいい、成形工程11が完了した成形品を成形済みワークWと定義する。成形工程11ではプレス金型16の上型18が下型17から離れて上昇する際、成形済みワークWとプレス上型18との接触面に発生する負圧(以下、型負圧という。)や加工油の粘性のために、成形済みワークWがプレス上型18に貼り付く虞が生ずる。プレス金型16には成形済みワークWがプレス上型18に貼り付くのを防止する装置がバキュームスタビライザ20として設けられる。
【0027】
成形工程11において、プレス成形後、プレス金型16開放時に成形済みワークWはプレス上型18の上昇により開放される。プレス金型16開放時に、成形済みワークWはプレス上型18の型負圧により追従してプレス上型に持っていかれ、ワークダブルが踊り出したり、ワーク姿勢が不安定になる虞がある。このワーク姿勢の不安定化はバキュームスタビライザ20の吸着カップ26により防止される。
【0028】
ところで、バキュームスタビライザ20は成形工程11のプレス金型16の下型17に設けられる。バキュームスタビライザ20は、プレス金型16が開放したときに、成形済みワークWがプレス上型18の型負圧により貼り付いて上動するのを防止し、成形済みワークWのワーク姿勢を安定化させる装置である。バキュームスタビライザ20は、吸着カップあるいは真空パッド等のワーク吸着装置23を用いて、成形済みワークWがプレス上型の型負圧により貼り付いて上動するのを防止するワークのプレス上型貼り付き防止装置であり、ワーク姿勢を安定化させる装置である。
【0029】
バキュームスタビライザ20は、図3に示すように、エア供給源21からのエア供給により負圧を発生させる負圧(真空)発生装置22と、この負圧発生装置22に接続されるワーク吸着装置23と、図示を省略したエア制御装置とを有する。負圧発生装置22は、エア制御装置の制御により、エア供給源21からエアが供給された時にのみ負圧を発生させるエジェクタ25タイプの装置である。エジェクタタイプの装置に代えて、ベンチュリタイプの装置であってもよい。
【0030】
また、図3に示されるワーク吸着装置23は、成形工程11におけるプレス金型16の下型17に設けられる。ワーク吸着装置23は、プレス下型17の下型本体25に保持される吸着カップ26を有する。吸着カップ26はプレス金型16の開放時に成形済みワークWの下面に接触して、この下面を吸着保持し、プレス成形後は、プレス上型18の型負圧に追従して成形済みワークWが上昇しても、ワークの位置ずれを生じさせることなく、ワーク姿勢を安定的に保持するものである。
【0031】
プレス下型17の下型本体25には、型成形面28側に開口する凹部(あるいは凹溝)29が所定の位置に設けられ、この凹部29に吸着カップ26が昇降可能に収容される。凹部29は、下型本体25の型成形面28に1個または複数個設けられ、下型本体25の凹部29に吸着カップ26が設けられる。吸着カップ26は、カップ頂部が自由状態で型成形面28から少し、例えば数mm〜数cm突出している。この凹部29にはフランジ付ガイドスリーブ30が埋設される。フランジ付ガイドスリーブ30は下部本体25の凹部29に下部本体25を貫通して固定される。このガイドスリーブ30の内部に中空シャフト31をスライド可能に案内している。
【0032】
吸着カップ26は、プレス下型17の平面部に設置される。この平面部は、プレス金型16の開放時にプレス上型18の型負圧により成形済みワークWの持ち上がりが大きい部位に対応する部分である。吸着カップ26の取付位置は、プレス下型17の型成形面28の凹凸部たて壁近くの平面部、具体的には成形済みワークWの凹凸部たて壁近くの平面部に設けられる。例えば、成形済みワークWがサイドボディやドア(インナ)、(リア)フロア等のパネルのように、成形品の部品サイズや部品形状によって吸着カップ26の取付位置は種々異なる。一般的には、プレス装置10の後工程(切断工程)でスクラップとなる部分に対応するプレス下型17の(型成形面)平面部に設けられる。成形品が車体のリアフロアのような場合には、製品内に対応するプレス下型17の平面部に設けられる。
【0033】
また、吸着カップ26には、市販されている鋼板用カップが用いられる。吸着カップ26は真空パッドとして用いられ、カップ形状が円形、楕円形、長円形等の様々な種類と大きさ、形状のものがある。
【0034】
吸着カップ26は、径違いニップル等の接続具31を介して配管用ターミナル32に接続される。この配管用ターミナル32はワッシャ33付き中空シャフト34を介してエアワース45に接続される。中空シャフト34は、下型本体25の凹部29に埋設されたフランジ付ガイドスリーブ35内をスライド自在に挿入され、このガイドスリーブ35から下方に大きく突出している。ガイドスリーブ35は下型本体25凹部の底部に固定される一方、ガイドスリーブ35のフランジ上に、弾性体で構成された衝撃吸収リング等の衝撃吸着材36が固定され、この衝撃吸収材36に中空シャフト34のワッシャ33が着脱自在に支持される。
【0035】
中空シャフト34の下方突出部にリニア状の多段配列された多段式ばね機構38が備えられる。多段式ばね機構38は、例えばコイルスプリングなどのスプリング39とワッシャ40とスプリング受け41を中空シャフト34の軸方向に多段状に組み合せて配列したもので、多段式ばね機構38のばね力(弾性力)で吸着カップ26を下型本体25の凹部29に、多段式ばね機構38により衝撃吸収材36側の収納方向(下方)にばね付勢力が作用した状態で弾力的に保持される。
【0036】
中空シャフト34の下端は、ワンタッチ式の接続具44を介して負圧発生装置22からのエアホース45に接続される。その際、ワーク吸着装置23の吸着カップ26は、多段式ばね機構38により弾力的に保持され、中空シャフト34がフランジ付ガイドスリーブ35内を案内されて昇降し、大きな昇降ストロークSを得ることができる。このため、ワーク(W)に吸着されて昇降する吸着カップ26の吸着可能範囲(有効昇降ストローク)Sを、例えば20mm≦S≦200mmと大きくすることができ、成形済みワークWに吸着カップ26が吸着保持される時間を長くとることができる。したがって、吸着カップ26の作動時間を長くして、多段式ばね機構38の付勢力(ばね力)が成形済みワークWに働く時間を長くすることができる。これにより、成形済みワークWは、プレス金型16の開放時に位置ずれを生じさせることなくワーク姿勢が安定的に保持される。
【0037】
ところで、バキュームスタビライザ20のエア供給源21は、エア制御装置(図示せず)を介してエアホース46により負圧発生装置22に接続され、この負圧発生装置22で発生した負圧によりワーク吸着装置23を吸引し、吸着カップ26を働かせてバキュム作用させる。ワーク吸着装置23は、真空発生装置1組につき、エアサクションフィルタ48から分岐して複数個設けられる。一例として、例えば2個設けられる。
【0038】
また、プレス装置10は、電動モータ(図示せず)のモータ駆動によりプレス装置のプレス軸を回転させ、プレス金型16をストローク動作させるように構成されている。トランスファプレス機を構成するプレス装置10の搬出入装置、ワークリフタおよびバキュームスタビライザ20は、プレス装置10の軸角度に基づく所定の動作タイミングで作動制御される。
【0039】
図4(A)は、プレス装置10を構成するプレス金型16の昇降ストロークとプレス装置の軸角度(クランク角度)の関係を、また(B)は搬出入装置、ワークリフタおよびバキュームスタビライザ(吸着カップ)の作動タイミングと作動範囲(作動時間)の関係をそれぞれ示す図である。
【0040】
このうち、図4(A)は成形工程11におけるプレス金型16の上型18の昇降ストロークとプレス装置の軸角度(クランク角度)の関係を示すもので、領域WAは、プレス上型18がワーク(W)と接触している作動時間に相当する領域であり、バキュームスタビライザ20の作動範囲を示すものである。
【0041】
プレス上型18は下降工程で材料ワーク(パネル)Wに接触してプレス下型17と協動してプレス成形加工される。領域WAはワークWの成形開始から成形完了を経て成形済みワークWが上昇する途中までの領域をいう。プレス上型18は下死点到達する前に材料ワークWと接触してプレス下型17と協動し、プレス成形が開始される。プレス成形が進んで材料ワークWの成形が完了してプレス上型18がプレス下型17から離れて上昇し、成形済みワークWが型負圧などでプレス上型18とともに上昇しても、成形済みワークWは、バキュームスタビライザ20のバキューム作用で、吸着カップ26に吸着された状態に保持され、ワーク姿勢が保たれる。
【0042】
また、図4(B)に示す搬出入装置、ワークリフタおよびバキュームスタビライザ20の動作タイミングの一例をプレス装置10の軸角度(プレス上型18の昇降ストロークS)との関係で示す。
【0043】
搬出入装置は、プレス装置10の軸角度に対応して所定の動作タイミングで搬入動作Iおよび搬出動作Oを実行しており、搬出動作Oと搬入動作Iとの間の符号Cは、シャトルコンベアによる次工程(切断工程)への搬送動作を示す。
【0044】
さらに、ワークリフタは、成形工程11において、搬出入装置と連動して動作するもので、ワークリフタもプレス装置10の軸角度に対応した所定の動作タイミングで下降動作Dと上昇動作Uが実行される。ワークリフタの動作中における符号USは、上昇位置で待機している期間を示している。
【0045】
一方、バキュームスタビライザ20は、成形工程11のプレス装置10のプレス成形加工に連動してバキューム動作(ON)するものである。バキュームスタビライザ20は、成形される成形品の形状や大きさによりプレス成形条件やプレス装置10のモーションが異なり、バキュームスタビライザ20の作動時間や作動タイミングが異なる。バキュームスタビライザ20は、具体的にはプレス上型18がワークW(W)に接触している領域で作動してバキューム動作ONしている。
【0046】
バキュームスタビライザ20の動作タイミングは、図3に示すエア供給源21からのエア供給ラインに設けられたカップ吸着用電磁弁またはエアバルブをエア制御装置で開閉制御することが作動制御される。その際、負圧発生装置22から吸着カップ26に至るエア吸引ラインの途中に昇降シリンダのような大きなボリュームが存在しないので、負圧の応答特性が良好となる。
【0047】
次に、バキュームスタビライザ20の作用を説明する。
【0048】
トランスファプレス機の成形工程11において、プレス装置10の軸角度に基づいて、搬出入装置、ワークリフタおよびバキュームスタビライザ20の動作タイミングが、ワーク(W)の大きさや形状、プレス条件に応じて図3に示すように一例として設定される。
【0049】
このうち、バキュームスタビライザ20は、負圧発生装置22により発生した負圧は負圧ライン(47,48,45)を経てワーク吸着装置23に迅速に伝達され、吸着カップ26を吸引動作させる。吸着カップ26の吸引動作により、プレス金型16に搬入され、下降してプレス下型17上に載置された材料ワーク(パネル)Wの下面に接触してワークWが吸着保持される。
【0050】
一方、吸着カップ26の吸引動作とほぼ同期してプレス上型18が下降して材料ワークWに上方から接触して押圧し、プレス成形が図5(A)に示すように開始される。プレス金型16によるプレス開始時には、吸着カップ26は、弾性変形可能な衝撃吸収材36により弾性保持され、材料ワークWをプレス下型17の型成形面28上に吸着保持している。その際、吸着カップ26の頂部は、プレス下型17の型成形面28と略面一となっている。吸着カップ26がプレス下型17の型成形面28と面一となっても、吸着カップ26の変形は弾性領域で行われて小さく、吸着カップ26の塑性変形を防止することができる。したがって、プレス金型16による成形時の吸着カップ26のカップ変形量を小さく抑えることができ、吸着カップ26の耐久性・寿命を向上させることができる。
【0051】
プレス金型16の成形開始からプレス成形が進んでプレス上型18が図5(A)に示す下死点を通り、成形が完了すると、プレス上型18はプレス下型17から離れて上昇する。
【0052】
プレス金型開放時にプレス上型18が上昇工程に入ると、プレス上型18の型負圧により、成形済みワークWを吸着して上昇させる。しかし、プレス上型18の上昇に追従して成形済みワークWが上昇しても、吸着カップ26は負圧(バキューム)作用により吸着状態に保持され、成形済みワークWの上昇と一体となって上昇する。
【0053】
吸着カップ26の上昇は、中空シャフト34がガイドスリーブ35に案内されてスライドするので、成形済みワークWの上昇に伴う位置ずれを防止することができる。成形済みワークWは吸着カップ26によりワーク姿勢を保って上昇するので、成形済みワークWを正確に送ることができる。
【0054】
したがって、プレス装置10を高速化することができ、プレス装置10のプレス動作が早くなっても、成形済みワークWは、位置ずれが生じることなく安定したワーク姿勢が保たれる。成形済みワークWはプレス上型18の型負圧により引っ張られ、付着状態で上昇しても、吸着カップ26の伸長により、吸着カップ26の吸着可能範囲(有効昇降ストロークSc)が拡大して安定したワーク姿勢が保持される。
【0055】
ワーク吸着装置23は、吸着カップ26に成形済みワークWが吸着している間、多段式ばね機構38の収縮力(バネ力)が下向きに作用する。プレス上型18の型負圧の勝る下向きのばね付勢力が、吸着カップ26に作用するまで、吸着カップ26は成形済みワークWに負圧による吸着状態に保持される。しかも、吸着カップ26は中空シャフト34によりスライドが案内されて昇降するので、昇降ストロークSを大きくとることができ、吸着カップ26の作動時間を延長することができる。吸着カップ26は多段式ばね機構38のばね力が成形済みワークWに働く時間を長くすることができる。吸着カップ26は成形済みワークWに吸着されている間、成形済みワークWにばね付勢力が作用して安定したワーク姿勢を保つことができる。
【0056】
また、バキュームスタビライザ20は、ワーク吸着装置23へのエアホース(エアチューブ)45に弾性変形可能なコイルばねタイプを採用し、吸着カップ26の上下動にエアホース45が追従できるようにしてもよい。エアホース45を弾性変形に柔軟な可撓性のチューブを採用することにより、吸着カップ26はスムーズに昇降ストロークすることができ、エアホース45とプレス装置10の干渉を無くし、破損や故障、エアの漏れを有効的に防止することができる。
【0057】
また、ワーク吸着装置23に用いられる吸着カップ26には、鋼板専用品である市販の鋼板用カップを用いることができる。吸着カップ26は成形済みワークWのプレス条件変更にも迅速に対応することができる。吸着カップ26は構造が単純であり、修理や取換えのメンテナンスが容易である。
【0058】
図2ないし図5に示すプレス金型構造では、プレス工程11に用いられるプレス装置10のプレス金型16にバキュームスタビライザ20の吸着カップ26を設け、この吸着カップ26は少なくともプレス金型開放時にワークW(W)を弾力的に吸着保持してワーク姿勢を安定化させたので、プレス上型18には成形済みワークWが貼り付いて持っていかれ、ワークの位置ずれやワークの変形が生じるのを防ぐことができる。したがって、プレス装置10のプレス運転速度を高速化させることができ、プレス装置10を高速化させても、ワークの位置ずれやワーク変形を確実に防止できる。プレス装置10のプレス運転速度はSPMで表わされ、1分間に何枚生産できるかの指標として表わされる。
【0059】
トランファプレス機に用いられるプレス装置では、プレス運転速度SPMはワークWが大型パネルと中型パネルと小型パネルとで異なるが、成形工程11にバキュームスタビライザ20の吸着カップ26を設けると、プレス運転速度SPMは2割から5割程度上昇させることができる。
【0060】
例えば、サイドボディなどの大型パネルでは、バキュームスタビライザ付きのSPMの上限値は、従来の6SPMから7〜8SPMに、ドアインナなどの中型パネルのSPM上限値は、従来の約10SPMから13.5SPMとなった。トランファプレス機に代えてタンデムプレス機を用いたプレス装置でも、上昇させることができる。
バキュームスタビライザ20のワーク吸着装置23に吸着カップ26を設けて、プレス金型16開放時の成形済みワークWのワーク姿勢を安定化させたので、プレス装置10を高速化しても、次工程(曲げ工程)に送られる成形済みワークWのワーク着座誤差を防ぐことができ、生産性の向上に寄与する。
トランスファプレス機(ライン)は、例えば成形工程、切断工程、曲げ工程、穴あけ工程等の各工程を同時に動かして加工するプレス装置であり、各工程間の搬送には、フィードバーという自動搬送装置が用いられる。タンデムプレス機(ライン)は、各工程の型が独立して動くラインであり、各工程間の搬送には、ロボット、クロスバー等が用いられる。
【0061】
また図6は、本発明の他の実施形態を示すものである。
【0062】
この実施形態に示されたプレス装置10Aは、トランファプレス機の成形工程に用いられるプレス金型16Aを示すものである。プレス金型16Aの全体的構成は図2および図3に示すプレス金型16と異ならないので、同じ構成には同一符号をして説明を省略する。
【0063】
プレス金型16Aはプレス下型17Aとプレス上型18Aの間に平板状の材料ワークWが搬入され、このワークWをプレス上型18の昇降動作によりプレス成形加工するものである。プレス下型17Aにはバキュームスタビライザ20のワーク吸着装置23Aが設けられる。ワーク吸着装置23Aを除いたバキュームスタビライザ20の全体的構成は、図3に示すものと異ならないので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0064】
ワーク吸着装置23Aは、プレス下型17Aと型成形面28に形成された凹部29または凹溝に固定式あるいは半固定式の吸着カップ60が設けられる。吸着カップ60は、接続具および配管用ターミナル32を介してエアホース45に接続され、図示しない負圧発生装置により、吸着カップ60に負圧が供給されるようになっている。なお、符号35はフランジ付ガイドスリーブ、符号36は衝撃吸収材である。
【0065】
吸着カップ60は、プレス下型17Aの型成形面からワークWの吸着前の自然状態で図6(A)に示すように上方に突出しており、ワーク吸着中には、図6(B)に示すようにワークW(W)に接触して伸長し、ワークW(W)を吸着保持している。ワークWはプレス金型16Aのプレス下型18Aの昇降動作により、プレス上型18Aとプレス下型17Aの型成形面28間に挟持されてプレス成形加工される。
【0066】
プレス金型16Aの成形加工後に成形済みワークWが成形工程のプレス上型18Aに貼り付く現象を防止するために、バキュームスタビライザ20が設けられる。バキュームスタビライザ20の吸着カップ60は、プレス上型18Aの型負圧に勝る負圧力(バキューム力、引き戻し力)を成形済みワークWに与えて、成形済みワークWをプレス上型18Aからソフトに引き剥がすようになっている。
【0067】
ワーク吸着装置23Aの吸着カップ60は、少なくともプレス金型開放時に成形済みワークWを吸着保持しているために、プレス上型18Aの型負圧により成形済みワークWが上動するとき、吸着カップ60は弾性変形して伸長される。吸着カップ60の弾性変形による伸長により、吸着カップ60が成形済みワークWを吸着保持してワーク姿勢を保持するようになっている。
【0068】
しかし、吸着カップ60の弾性変形による吸着保持可能範囲(有効ストローク)が小さく、バキュームスタビライザ20の作動時間が小さいため、作動範囲が小さくなる。この吸着カップ26は小型パネルや凹凸変形量の小さなワークには適するが、大型パネル等のワークには適さない。
【0069】
また、この実施形態に用いられるワーク吸着装置23Aの吸着カップ60は、カップ変形量が大きく、吸着カップ60の耐久性が低いという問題があり、吸着カップ60を頻繁に取り換える必要があった。ただ、吸着カップ60は、市販で対応できるため、吸着カップ60の交換が安価で経済性に優れるメリットがある。
【符号の説明】
【0070】
10,10A プレス装置
11 成形工程
12 切断工程
13 曲げ工程
14 穴あけ工程
16,16A プレス金型
17,17A プレス下型
18,18A プレス上型
19 ガイドメンバ
20 バキュームスタビライザ
21 エア供給源
22 負圧発生装置
23,23A ワーク吸着装置
24 エジェクタ
25 下型本体
26,60 吸着カップ
28 型成形面
29 凹部あるいは凹溝
31 接続具
32 配管用ターミナル
33 ワッシャ
34 中空シャフト
35 フランジ付ガイドスリーブ
36 衝撃吸収材
38 多段式ばね機構
39 コイルスプリング
40 ワッシャ
41 スプリング受け
44 接続具
45,46,47 エアホース(エアチューブ)
48 エアサクションフィルタ
50 台座
51 衝撃吸収材
52 ワッシャ
53 配管用ターミナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなすプレス下型とプレス上型を相対移動可能に設け、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入されるワークをプレス成形して成形済みワークを形成するプレス金型構造において、
前記プレス下型の型成形面に凹部を設け、前記型成形面の凹部にバキュームスタビライザの吸着カップを設け、
前記吸着カップは、少なくともプレス金型開放時に前記ワークを弾力的に吸着保持してワーク姿勢を安定化させたことを特徴とするプレス金型構造。
【請求項2】
前記プレス下型の型成形面凹部に吸着カップを設け、
成形工程の少なくともプレス金型開放時に前記プレス上型が上昇する際、前記吸着カップは前記ワークを吸着保持して前記ワークの位置ずれを防止した請求項1記載のプレス金型構造。
【請求項3】
前記プレス下型の型成形面凹部に、その収納方向にばね付勢された吸着カップを設け、
成形工程のプレス金型開放時に前記プレス上型が上昇する際、前記吸着カップは前記プレス上型に追従する前記成形済みワークに吸着保持されて伸長ストロークし、
前記吸着カップは、前記成形済みワークに吸着されている間、前記成形済みワークにばね付勢力が作用する構造とした請求項1記載のプレス金型構造。
【請求項4】
対をなすプレス下型とプレス上型を相対移動可能に設け、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入されるワークをプレス成形してプレス済みワークを形成するワークのプレス成形方法において、
前記プレス下型の型成形面に形成された凹部に、バキュームスタビライザの吸着カップを弾力的に設け、
前記吸着カップは、少なくともプレス金型開放時に前記ワークを吸着保持してワーク姿勢を安定化させることを特徴とするワークのプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45571(P2012−45571A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189461(P2010−189461)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】