説明

プロアントシアニジン高含有物の製造方法

植物体の抽出物または搾汁を材質、細孔半径、比表面積、および分子量分画範囲の少なくとも1つの点が異なる少なくとも2種の吸着体で処理することによって、生理活性の高いOPCを多く含むプロアントシアニジン含有物を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、生理活性の高いOPCを多く含むプロアントシアニジン含有物を、効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
プロアントシアニジンは、各種植物中に存在する縮合または重合(以下、縮重合という)したタンニンであり、フラバン−3−オールまたはフラバン−3,4−ジオールを構成単位として縮重合した化合物群である。これらは、酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジンなどのアントシアニジンを生成することから、プロアントシアニジンという名称が与えられている。
プロアントシアニジンは、ポリフェノール類の一種で、植物が作り出す強力な抗酸化物質であり、植物の葉、樹皮、果物の皮もしくは種の部分に集中的に含まれている。プロアントシアニジンは、具体的には、ブドウの種、松の樹皮、ピーナッツの皮、イチョウ葉、ニセアカシアの果実、コケモモの果実などに含まれている。また、西アフリカのコーラナッツ、ペルーのラタニアの根、日本の緑茶にも、プロアントシアニジンが含まれることが知られている。プロアントシアニジンは、ヒトの体内では、生成することのできない物質である。
プロアントシアニジンは、一般的には植物体からの抽出によって得られる。抽出に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、酢酸エチルなどの有機溶媒;またはこれらの混合物が挙げられる(特開平11−80148号公報)。しかし、単に溶媒による抽出のみでは、プロアントシアニジンの回収量は低く、純度も低い。したがって、健康食品、化粧品および医薬品原料として使用するためには、純度を上げるために、さらなる濃縮、精製などの工程が必要であり、コストおよび時間がかかる。
プロアントシアニジンを含むポリフェノール類を回収する方法が報告されている。例えば、特開平5−279264号公報および特開平6−56689号公報には、ポリフェノール類をキチンに吸着させ、ポリフェノール類が吸着したキチンをポリフェノール製品として利用すること、そして特開2002−97187号公報には、植物抽出液にアスコルビン酸およびアルカリ金属またはその塩を添加して、pHを6〜11としてポリフェノール類の金属塩を沈殿させ、この沈殿物をイオン交換樹脂などで脱塩することによって遊離ポリフェノールを回収する方法が記載されている。
ところで、近年、プロアントシアニジンの中でも、特に重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)が、抗酸化作用に優れていることが報告されている。本明細書では、この重合度が2〜4の縮重合体を、OPC(オリゴメリック・プロアントシアニジン;oligomeric proanthocyanidin)という。OPCは、さらに抗酸化作用のほか、口腔内のバクテリア増殖を抑制してプラーク(歯こう)を減少させる効果;血管の弾力性を回復させる効果;血液中でのリポタンパク質が活性酸素によりダメージを受けるのを防止して、損傷したリポタンパク質が血管の内壁に凝集し、コレステロールが付着することを防止する効果;活性酸素によって分解されたビタミンEを再生させる効果;ビタミンEの増強剤としての効果などを有することが知られている。
しかし、上記の方法で回収されるプロアントシアニジンは、重合度が高いものがほとんどであり、生理活性が高い2〜4量体のOPCの含有量は極めて低い。
特開平4−190774号公報、特開平10−218769号公報、特開2001−131027号公報、およびEberhard Scholzら,Proanthocyanidins from Krameria triandra Root,Planta Medica,55(1989),379−384頁には、植物体からOPCを抽出する方法および/またはOPCを合成する方法が記載されている。しかし、上記抽出方法においては、植物体の抽出液を吸着体に接触させて、吸着した成分を溶出させ、得られた画分を回収した後、この画分を用いてさらに同じ工程を繰り返さなければ、OPC含有量の高いOPC含有物を得ることができず、効率的ではない。合成方法についても、工程数が多く、コストおよび時間がかかるなどの問題がある。さらに廃液処理の問題もある。
そこで、OPCを多く含有するプロアントシアニジンの精製方法が求められている。
【発明の開示】
本発明者らは、有用な生理活性を有するOPCを高い割合で含有するプロアントシアニジン含有物を効率よく得る方法について鋭意検討した。その結果、植物体の抽出物または搾汁を2種類以上の吸着体で処理することによって、生理活性の高いOPCを多く含むプロアントシアニジン含有物が効率良く得られることを見出して本発明を完成させた。
本発明のプロアントシアニジン含有物の製造方法は、植物体の抽出物または搾汁を、少なくとも2種の吸着体で処理する工程を包含し、該吸着体は、それぞれ材質、細孔半径、比表面積、および分子量分画範囲のうちの少なくとも1つの点で異なる。
好ましい実施態様においては、上記吸着体のうちの少なくとも1種は、合成吸着剤である。
好ましい実施態様においては、上記方法は、2種の吸着体を用いて行われ、第1の吸着体が合成吸着剤であり、第2の吸着体が合成吸着剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂、アガロース誘導体、およびセルロース誘導体からなる群より選択される。
好ましい実施態様においては、上記吸着体のうちの少なくとも1種は、植物体の抽出物または搾汁から5量体以上のプロアントシアニジンまたは夾雑物を除去し得る。
好ましい実施態様においては、上記吸着体のうちの少なくとも1種は、多孔性であり、90Å以下または100Å以上の細孔半径を有する。
好ましい実施態様においては、上記吸着体のうちの少なくとも1種は、分子量100以上20,000以下の分子量分画範囲を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のプロアントシアニジン含有物の製造方法は、植物体の抽出物または搾汁を2種以上の吸着体で処理する工程を包含し、該2種以上の吸着体が、それぞれ材質、比表面積、細孔半径、分子量分画範囲のうちの少なくとも1つの点で異なる。本発明の製造方法によって得られるプロアントシアニジン含有物は、2〜4量体のプロアントシアニジンであるOPCを豊富に含む。
(植物体の抽出物または搾汁)
まず、植物体の抽出物または搾汁を得る。
本発明に用いられる植物体は、プロアントシアニジンを含有する植物体であればその種類に特に制限はない。杉、檜、松などの植物の樹皮;ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、アボガド、ニセアカシア、コケモモ、エルダーベリーなどの植物の果実、果皮、および種子;大麦;小麦;大豆;黒大豆;カカオ;小豆;トチの実の殻;ピーナッツの薄皮;イチョウ葉;茶葉および茶抽出液;モロコシキビ;リンゴ果実;クマザサ;フコイダン;ヤーコン葉;コーラナッツ(例えば、西アフリカのコーラナッツ);ラタニア(例えば、ペルーのラタニア)の根などが挙げられる。これらの中で、特に松樹皮、ブドウ種子および果皮、ピーナッツの薄皮などが好適に用いられる。
植物体の抽出物を得る場合には、植物体に抽出溶媒を添加し、必要に応じて所定温度で保持することによって行う。
抽出を行う場合には、抽出効率の点から、好ましくは植物体を適当な大きさに破砕し、体積当たりの表面積を大きくする。破砕方法は、特に限定されない。例えば、カッター、スライサーなどで処理した破砕物;ミキサー、ジューサー、ブレンダー、マスコロイダーなどで処理した粉砕物などでもよい。破砕物または粉砕物の大きさは、0.01〜10cm、好ましくは0.01〜5cmの細片である。破砕効率を上げるために、破砕時に水、あるいはエタノール、メタノール、酢酸エチルなどの有機溶媒を加えてもよい。
抽出溶媒としては、水または有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。さらに、水−有機溶媒の混合溶媒も好ましく用いられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。なお、製造時の廃液処理の観点あるいは後述する金属または金属塩の添加を行う観点から、水が好適に用いられる。
植物体に添加する抽出溶媒の量は、目的とするプロアントシアニジン濃度および抽出効率を考慮して設定し得る。例えば、水を抽出溶媒として使用する場合、植物体と水との比が重量比で1:5〜1:100、好ましくは1:10〜1:50である。水および/または有機溶媒を添加して破砕した場合は、破砕に使用した量を考慮し、添加する抽出溶媒の量を調整すればよい。
抽出温度は、抽出効率を高めるためには高い方が好ましい。例えば、水を用いる場合、50〜120℃、好ましくは70〜100℃で熱水抽出する。植物体に熱水を加えてもよく、植物体に水を加えた後、加熱してもよい。抽出時間は、一般的には10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間であるが、抽出温度により適宜決定され得る。上記の加熱を行った場合は、さらに0℃〜30℃にて1日間〜2日間放置することにより、植物体から溶出しにくいプロアントシアニジンを効率よく抽出することができる。
有機溶媒を用いる抽出方法として、加温抽出法、超臨界流体抽出法による抽出を行ってもよい。加温抽出法としては、植物体に加温した溶媒を加える方法、または植物体に溶媒を添加して加温する方法が用いられる。例えば、粉砕した植物体に対して、水とエタノールとの比が、重量比で1:1〜1:9である水−エタノール混合溶媒を抽出溶媒として植物体の1倍量〜20倍量使用して、70〜75℃で還流させながら、0.5時間〜6時間攪拌する方法が挙げられる。還流をしない場合は、一度上記混合溶媒を加えた後、加温抽出し、濾過等により上清を回収し、残った残渣について、再度上記混合溶媒を加えて加温することによっても、抽出効率を上げることが可能である。なお、有機溶媒を使用する場合の抽出温度は、その有機溶媒の沸点以下に設定する必要がある。
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて目的成分を抽出する方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが用いられ、二酸化炭素が好ましく用いられる。
超臨界流体抽出法は、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程および目的成分と超臨界流体とを分離する分離工程からなる。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、または吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、超臨界流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、またはケトン類を2〜20W/V%程度添加し、得られた抽出流体で超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類(後述)などの目的とする被抽出物の抽出流体に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、プロアントシアニジンを効率的に抽出する方法である。
抽出には、例えば、回分式、半連続式、または連続式などのいずれの抽出装置を用いてもよい。
植物体の搾汁を得る場合には、植物体を直接圧搾し、あるいは適宜切断または破砕した後に圧搾する。この方法は、水分含量の高い植物体を使用する場合に好適に採用される。例えば、ブドウ果実の場合には、圧搾によりプロアントシアニジンを含む搾汁が得られる。植物体を破砕して得られる植物体由来の固形分を含む植物体破砕物(例えば、上記ブドウ果実破砕物)もまた搾汁と同様に用いられ、本明細書中では、この植物体由来の固形分を含む植物体破砕物も搾汁に包含される。
(吸着体)
本発明の方法においては、上述のように少なくとも2種の吸着体が採用される。本発明に用いられる個々の吸着体としては、一般にカラムクロマトグラフィーに用いられる充填剤であれば特に制限はない。吸着体としては、例えば、合成吸着剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂(ゲル状で使用)、アガロース誘導体、セルロース誘導体、シリカゲル、逆相シリカゲルなどが挙げられる。好ましくは、合成吸着剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂(ゲル状で使用)、アガロース誘導体、セルロース誘導体などが挙げられる。より好ましくは合成吸着剤である。ここで、合成吸着剤とは、イオン交換基等の官能基を有さず、多孔性で、かつ微細な連続孔(細孔)を有するものをいい、例えば、ファンデルワールス力で吸着し得る。
合成吸着剤は、さらにその材質によって分類され、芳香族系合成吸着剤、置換芳香族系合成吸着剤、アクリル系合成吸着剤などの合成吸着剤に分類される。これらの合成吸着剤は、材質により親水性および疎水性の程度が異なる。合成吸着剤の安定性、プロアントシアニジン(OPC)の吸着効率、および分離・分画能の点から、好ましくは芳香族系合成吸着剤である。
芳香族系合成吸着剤は、架橋スチレン系樹脂などの多孔質樹脂でなる吸着体である。市販の吸着体としては、例えば、ダイアイオン(登録商標)HP−10、HP−20、HP−21、HP−30、HP−40、およびHP−50、(以上、三菱化学株式会社製);アンバーライト(登録商標)XAD−4、XAD−16、XAD−1180、およびXAD−2000(以上、株式会社オルガノ製);ならびにセパビーズ(登録商標)SP−825、SP−800、SP−850、およびSP−875(以上、三菱化学株式会社製)が挙げられる。
置換芳香族系合成吸着剤は、芳香族重合体の芳香核に臭素原子などを結合させた疎水性の強い樹脂でなる吸着体である。市販の吸着体としては、例えば、セパビーズ(登録商標)SP−205、SP−206、およびSP−207(以上、三菱化学株式会社製)が挙げられる。
アクリル系合成吸着剤は、メタクリル酸エステル重合体などを骨格とする親水性の強い樹脂でなる吸着体である。市販の吸着体としては、例えば、ダイアイオン(登録商標)HP1MGおよびHP2MG(以上、三菱化学株式会社製);ならびにアンバーライト(登録商標)XAD−7(株式会社オルガノ製)が挙げられる。
上記合成吸着剤は、上記のように微細な連続孔(細孔)を有する多孔性であるため、溶液中に存在する目的の溶質を分子ふるいの効果により分離することができる。すなわち、合成吸着剤と溶液とを接触させると、小さな溶質分子は、その細孔を通って合成吸着剤の内部まで浸透拡散して吸着する。他方、この細孔のサイズよりも大きな分子は、合成吸着剤内に拡散できず、吸着されない。
陽イオン交換樹脂でなる吸着体としては、例えば、官能基としてスルホン酸塩基を有する樹脂である、アンバーライト(登録商標)CG−4000、CG−5000、CG−6000、CG−8000、IR−116、IR−118、IR−120B、IR−122、IR−124、XT−1007、XT−1009、XT−1002(以上、株式会社オルガノ製)などが挙げられる。
陰イオン交換樹脂でなる吸着体としては、例えば、官能基として4級アミンを有する弱塩基性陰イオン交換樹脂である、OPTIPORE−XUS40285.00、OPTIPORE−XUS40390.00(以上、ダウケミカル株式会社製)などが挙げられる。
架橋デキストラン誘導体でなる吸着体としては、セファデックス(登録商標)LH20、LH60(以上、アマシャムバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられる。
ポリビニル系樹脂(ゲル)でなる吸着体としては、トヨパールHW−40、50(東洋曹達工業株式会社)などが挙げられる。
アガロース誘導体でなる吸着体としては、セファロースCL、4B、6B(以上アマシャムバイオサイエンス株式会社)、Bio−GelA(バイオラッド株式会社)などが挙げられる。
セルロース誘導体でなる吸着体としては、セルロファインCL−90、GCL−300、GCL−1000(以上、生化学工業株式会社)などが挙げられる。
上記の吸着体の中でも、多孔性で網目状分子構造を有する吸着体であることが特に好ましい。例えば、ダイアイオンHP−20、アンバーライトXAD−4などの合成吸着剤でなる吸着体、セファデックスLH20、LH60などの架橋デキストラン誘導体でなる吸着体が特に好ましい。
上記の少なくとも2種の吸着体は、それぞれ材質、細孔半径、比表面積、および分子量分画範囲のうちの少なくとも1つの点で異なる。例えば、材質が同じ吸着体であっても、細孔半径、比表面積、または分子量分画範囲の異なる吸着体は、異なる種類の吸着体として扱う。用いられる吸着体のうちの少なくとも1種が、5量体以上のプロアントシアニジンを除去し得る吸着体または夾雑物を除去し得る吸着体であることが好ましく、これらの両者の吸着体を含むことがより好ましい。
上記のような5量体以上のプロアントシアニジンを除去し得る吸着体(以下、第1の吸着体という)とは、具体的には、OPCを効果的に吸着することが可能で、5量体以上のプロアントシアニジンを吸着しにくい吸着体である。夾雑物を除去し得る吸着体(以下、第2の吸着体という)とは、具体的には、プロアントシアニジンを容易に吸着し、かつ夾雑物を吸着しにくい吸着体、好ましくはこのような性質に加え、さらにプロアントシアニジンを吸着後、該プロアントシアニジンからOPCを選択的に分離・分画して溶出し、OPC含有量が高い溶液を得る吸着体である。
第1の吸着体および第2の吸着体を材質を基準に選択する場合、第1の吸着体としては、好ましくは芳香族系合成吸着剤が選択される。第2の吸着体としては、好ましくは合成吸着剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂、アガロース誘導体、およびセルロース誘導体からなる群より選択される。より好ましくは合成吸着剤または架橋デキストラン誘導体が、特に好ましくは芳香族系合成吸着剤または架橋デキストラン誘導体が選択される。
吸着体としては、上記のように、細孔を有する多孔性の合成吸着剤が好ましく、この細孔半径を基準に第1の吸着体および第2の吸着体を選択し得る。細孔半径によって、吸着される分子の大きさまたはその分子に対する吸着力が異なるためである。
第1の吸着体は、好ましくは90Å以下、より好ましくは20〜90Å、さらに好ましくは30Å〜80Åの細孔半径を有することが好ましい。細孔半径が小さい程、高分子よりも低分子(分子量数千以下)に対する吸着能力が高い。そのため、低分子量の化合物を吸着する一方、比較的分子量の高い5量体の以上のプロアントシアニジンを吸着することなく除去することが可能である。このような吸着体としては、例えば、芳香族系合成吸着剤でなる吸着体であるセパビーズSP−825、セパビーズSP−850、アンバーライトXAD−4、およびXAD−2000が好適である。
第2の吸着体は、好ましくは100Å以上、より好ましくは100Å〜500Å、さらに好ましくは100Å〜300Åの細孔半径を有することが好ましい。細孔半径が大きい程、分子量が数千から数万までの広い分子量のプロアントシアニジンを効率的に吸着するが、夾雑物を吸着させる力が弱いため、該夾雑物を吸着させることなく、これを容易に除去し得る。このような吸着体としては、例えば、芳香族系合成吸着剤でなる吸着体であるダイアイオンHP−20、ダイアイオンHP−21、およびアンバーライトXAD−16、あるいは架橋デキストラン誘導体でなる吸着体であるセファデックスLH20が好適である。
第1の吸着体および第2の吸着体を比表面積を基準に選択する場合、吸着力の観点から、第1の吸着体および第2の吸着体はいずれも、比表面積が500m/g以上であることが好ましい。さらに、OPCを効率的に吸着する点から、第1の吸着体としては、比表面積が700m/g以上であることがより好ましい。吸着体の比表面積は、個々の吸着体のサイズによって、あるいは多孔性の吸着体の場合は細孔の大きさおよび数によって異なるので、必要とされる比表面積の吸着体を適宜選択することが可能である。
吸着体として、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂(ゲル状を使用する)などの吸着体を用いて、分子量によって分画する場合、分子量分画範囲に特に制限はないが、第1の吸着体は、分子量分画範囲が、100〜20,000、好ましくは100〜5,000であることが好ましい。第2の吸着体は、分子量分画範囲が、100〜20,000、好ましくは100〜10,000であることが好ましい。このような分子量分画範囲を有する吸着体は、プロアントシアニジンを吸着し、夾雑物を除去し得る。さらに、吸着したプロアントシアニジン中のOPCを溶出させて分取することが可能である。中でもセファデックスLH−20およびセファデックスLH−60が好適である。
上記種々の吸着体のうちで、第1の吸着体としては、多孔性であり、90Å以下の細孔半径を有し、比表面積が700m/g以上の芳香族系合成吸着剤でなる吸着体であるアンバーライト(登録商標)XAD−4ならびにセパビーズSP825およびSP850が特に好適である。第2の吸着体としては、多孔性であり、100Å以上の細孔半径を有し、比表面積が500m/g以上の芳香族系合成吸着剤でなる吸着体であるダイアイオン(登録商標)HP−20および架橋デキストラン誘導体でなる吸着体であるセファデックスLH20が特に好適である。
吸着体の量は、被処理物(植物体の抽出物または搾汁あるいは吸着体からの回収物)に含まれる固形分量、溶媒の種類(後述)、吸着体の種類等によって適宜設定すればよい。例えば、被処理物に含まれる固形分の乾燥重量1重量部に対して、0.1〜100重量部、好ましくは0.1〜50重量部の吸着体を使用することが好ましい。0.01重量部より少ないと、プロアントシアニジンの回収率が低下し、100重量部を超えると、十分吸着することはできるが、吸着体からの回収率が悪いという問題点があるため、好ましくない。OPCの吸着効率が高い吸着体を用いる場合、より簡便に操作をするために、被処理物中の乾燥重量を測定せずに、処理する前の植物体の重量を基準として吸着体の量を設定してもよい。例えば、例えば、ダイアイオンHP−20、セパビーズSP−825、アンバーライトXAD−16などの芳香族系合成吸着剤でなる吸着体またはセファデックスLH20などの架橋デキストラン誘導体でなる吸着体を用いる場合は、処理する前の植物体の乾燥重量1重量部に対して、吸着体を乾燥重量で0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部用いることで、被処理物と吸着体との接触が十分に行われ、効率よく吸着し得る。具体的には、松樹皮をダイアイオンHP−20で処理する場合は、松樹皮1kgに対して、ダイアイオンHP−20を0.1kg〜10kg(吸着体の体積で0.15L〜15Lに相当)用いる。架橋デキストラン誘導体の吸着体を用いる場合は、水を加えると膨潤して体積が増えるため、処理する液に含まれるの固形分の乾燥重量1重量部に対して、膨潤した体積で100容量部〜1000容量部、好ましくは120容量部〜500容量部の吸着体を使用することが好ましい。
(吸着体処理)
本発明の方法によれば、植物体の抽出物または搾汁を、上記の少なくとも2種の吸着体を組み合わせて用いて処理し、さらに必要に応じて、濃縮処理、塩処理などの処理を行うことにより、プロアントシアニジン含有物が得られる。例えば、植物体の抽出物または搾汁を、上記第1の吸着体に接触させることによって、吸着されない5量体以上のプロアントシアニジンを除去し、所定の溶媒で吸着物を回収し、次いで他の吸着体を用いて、回収物からOPCを高い割合で含有するプロアントシアニジン含有物を得ることができる。この場合、第1の吸着体による処理と他の吸着体による処理との順序は逆であってもよい。あるいは、植物体の抽出物または搾汁を、第2の吸着体に接触させることによって、非吸着物として夾雑物を除去し、次いで他の吸着体を用いて、回収物からOPCを高い割合で含有するプロアントシアニジン含有物を得ることができる。この場合、第2の吸着体による処理と他の吸着体による処理との順序は逆であってもよい。上記第1の吸着体による処理および第2の吸着体による処理を組み合わせて行うことがより好適である。この場合、第1の吸着体による処理および第2の吸着体による処理の順序が逆であってもよい。さらに、他の吸着体による処理を適宜行い、3種以上の吸着体で処理してもよい。
被処理物(植物体の抽出物または搾汁あるいは吸着体からの回収物)と、吸着体との接触は、いかなる方法で行ってもよい。例えば、簡易な方法としては、吸着体をカラムに充填し、そのカラムに被処理物を通過させるカラム法、吸着体を被処理物に加え、一定時間後、吸着体を除去するバッチ法などが挙げられる。
カラム法を用いて処理するには、まず、必要に応じて被処理物の溶媒を吸着体との接触に適した溶媒に置換する。この置換は、加熱乾燥、凍結乾燥、減圧濃縮乾固、透析などの当業者が通常用いる工程を含む方法により行われ得る。例えば、ダイアイオンHP−20等の芳香族系合成吸着剤でなる吸着体の場合は、水に置換し、セファデックスLH20等の架橋デキストラン誘導体でなる吸着体の場合は、エタノールに置換される。次いで、第2の吸着体をカラムに充填し、そのカラムに植物体の抽出物または搾汁あるいは回収物を通液し、吸着体の体積に対し、例えば3倍〜10倍の体積の水を通液させる。これにより、夾雑物である糖類および有機酸が除去される。その後、適切な溶媒(後述)によりプロアントシアニジンを溶出する。なお、カラム法における種々の条件は、用いる吸着体により適宜決定すればよく、例えば、イオン交換樹脂でなる吸着体を用いる場合、カラム温度を10℃〜120℃に設定し、カラム内を常圧または加圧された状態にすることが好ましい。
バッチ法を用いて処理するには、上記カラム法と同様の重量比の吸着体を被処理物に加え、攪拌しながら1〜3時間接触させた後に、濾過または遠心分離により吸着体を回収する。例えば、吸着体として第2の吸着体を用いた場合には、この操作により夾雑物を除去し得る。次いで、プロアントシアニジンが吸着された第2の吸着体を、さらに適切な溶媒(後述)で1時間〜3時間攪拌し、プロアントシアニジンを溶出させ、次いで濾過または遠心分離して上清を回収することにより、プロアントシアニジンまたはOPCをより多く含むプロアントシアニジン含有物を得ることができる。
溶出溶媒は、吸着体の種類、ならびに吸着または溶出すべき物質の種類により適宜選択すればよい。例えば、第1の吸着体を用いる場合の溶出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。安全性の面から好ましくは水とエタノールとの混合溶媒が用いられる。水とエタノールとの混合比は、例えば、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−2000、セパビーズSP825、セパビーズSP850などの5量体以上のプロアントシアニジンを除去する芳香族系合成吸着剤でなる吸着体の場合は、5量体以上のプロアントシアニジンが除去されていることから10容量%以上、好ましくは30容量%以上、より好ましくは50容量%以上の比較的高い濃度のエタノール水溶液を用いることが吸着したOPCを溶出させるときの回収率を高める観点から好ましい。
第2の吸着体を用いる場合の溶出溶媒としては、分子量を問わずにプロアントシアニジンが吸着するため、吸着したプロアントシアニジンからOPCを選択的に溶出し分離・分画し得る溶媒を選択することが好ましい。好ましくは、水とエタノールとの混合溶媒(エタノール水溶液)である。例えば、ダイアイオンHP−20、HP−21、XAD−16などの芳香族系合成吸着剤でなる吸着体の場合は、吸着物からOPCを高含有するプロアントシアニジン含有物を分離・分画する目的から、10容量%〜50容量%、好ましくは10容量%〜30容量%のエタノール水溶液が好ましい。また、セファデックスLH−20、セファデックスLH−60などの架橋デキストラン誘導体でなる吸着体の場合は、70容量%以上、好ましくは80容量%以上のエタノール水溶液が好ましい。
イオン交換樹脂でなる吸着体を用いる場合は、溶出溶媒として水を用いることが好ましい。
上記のように異なる種類の吸着体を用いることによって、植物体の抽出物または搾汁からの2〜4量体のプロアントシアニジン(OPC)の回収率を高めることができ、得られるプロアントシアニジン含有物中のOPC含有率を効率的に高めることができる。
(濃縮処理および塩処理)
上述のように、少なくとも2種の吸着体処理の前後または1の吸着体処理と次の吸着体処理との間に、必要に応じて、濃縮処理または塩処理を行ってもよい。
濃縮処理は、吸着体への吸着効率を高めると共に、濃縮により5量体以上のプロアントシアニジンが沈殿を形成することがあるため、これをろ過等によって除去することにより、OPCの含有量をより高めたプロアントシアニジン含有物を得ることができる。さらに、芳香族系合成吸着剤でなる吸着体を用いて吸着処理する場合は、樹脂の性質上、溶媒が水である必要があるため、植物体の抽出物または搾汁中に有機溶媒が含まれる場合、吸着体処理前に濃縮処理を行うことによって溶媒の除去も同時に並行して行うことができる。
濃縮処理は、減圧濃縮法、凍結乾燥法などの当業者が通常用いる濃縮方法によって行われ得る。加熱による濃縮を行う場合は、加熱によるプロアントシアニジンの変性を防ぐために、40℃〜100℃の温度で行う。プロアントシアニジンの変性の少ない減圧濃縮法もしくは凍結乾燥法が好ましい。
さらに、濃縮処理を比較的低い温度で短時間に行うためには、被処理物に用いられる溶液は、水よりも沸点の低いエタノールなどの有機溶媒か、これらの有機溶媒と水の混合溶液であることが好ましい。食品や医薬品として用いる場合の安全性の面からも、エタノールまたはエタノールと水との混合溶液が好適である。
濃縮処理は、濃縮の程度を調製しやすいように、好ましくは、一度ろ過を行い、被処理物の不溶物を除去してから行うことが好ましい。
得られた濃縮物の濃縮率に特に制限はない。濃縮物の体積が、濃縮前の被処理物の体積に比べて、好ましくは1/2〜1/100容量、より好ましくは1/5〜1/70容量、さらに好ましくは1/10〜1/50容量となるように濃縮が行われる。
塩処理は、被処理物に塩を添加することによって、重合度の高いプロアントシアニジンを、例えば、沈殿物などの不溶物として生じさせてこの不溶物を除去することができる。塩処理は、被処理物中の溶媒を水に置換することが好ましい。水に置換すると、塩の溶液中の電離がよくなり、重合度の高いプロアントシアニジンを効率よく除去できる。
塩を添加する時の被処理物の温度に特に制限はない。1〜40℃に低下した後に、塩を加えることが好ましい。
被処理物に添加する塩は、溶液中で電離するものであればよい。塩としては、例えば、一価の金属塩、二価の金属塩、および非金属性の塩が挙げられる。
一価の金属塩としては、アルカリ金属であるリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどの塩が好適である。
二価の金属塩としては、ベリリウム、マグネシウム、アルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)などの金属塩が挙げられる。
非金属性の塩としては、例えば、硫安などが好適に用いられる。
二価の金属塩は、特にプロアントシアニジンに対して吸着力が強いため、重合度の高いプロアントシアニジンだけでなくOPCにも結合して沈殿を生じやすくなる。また、二価の金属塩を添加する場合、溶液中のpHが上がりやすいため、プロアントシアニジンが酸化される恐れがある。二価の金属塩は、溶液中のpHが好ましくは7.5未満、より好ましくは6未満、さらに好ましくは5.5以下となるように添加する。pHが7.5以上になる場合、予めプロアントシアニジンを安定化するための助剤(例えば、アスコルビン酸などのpH調整剤)を加えておけばよい。さらに、二価の金属塩は、酸化剤として用いられる金属(例えば、銅など)を含む塩を用いると、上記の同様、プロアントシアニジンが酸化される恐れがあるため注意を要する。このように、OPCと塩との結合をできるだけ小さくしてOPCの精製効率を高める点で、一価のアルカリ金属塩または硫安が好ましい。
このような一価の金属塩としては、例えば、ハロゲン化物塩(塩化物塩、臭化物塩など)、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩(酢酸塩などのカルボン酸塩、スルホン酸塩など)などが挙げられる。具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。特に塩析に好ましく用いられる硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および硫安が好ましい。
上記塩は、塩の種類によって異なるが、被処理物の全体重量に対し、3重量%〜50重量%、好ましくは5重量%〜45重量%となるように添加し得る。また、好ましくは塩の水への最大溶解量を100重量部とした場合に、10〜75重量部、より好ましくは20〜60重量部に相当する量を濃縮物に添加する。また、塩としてカルシウム塩、マグネシウム塩などの二価の金属塩を用いる場合は、濃縮物中に0.1重量%〜30重量%となるように添加すればよい。
塩による処理、特に金属塩による処理に際しては、酸性側で処理を行うことが好ましい。弱〜強アルカリ性ではプロアントシアニジンの安定性が悪くなり分解する恐れがある。そのため、このような金属塩を用いる場合は、予め所定の最終濃度の2〜10倍濃度の溶液をpHを4〜6、好ましくは4〜5.5、より好ましくは4〜5に調整した後、この溶液を被処理物に添加することが好ましい。
塩を添加後、例えば、1℃〜40℃で30分〜48時間静置し、十分に沈殿物などの不溶物を生じさせる。なお、静置時間は、48時間以上でもよいが、OPCが自動酸化し、赤褐色が濃い褐色に変色する前に次工程に移ることが好ましい。
次いで、生じた沈殿物などの不溶物を除去する。不溶物を除去する方法としては、当業者が通常用いる方法、例えば、濾過や遠心分離などが挙げられる。処理時間の点から、濾過が好適に用いられる。濾過は、好ましくは1〜40℃で行われ得る。低温であるほど、より多くの重合度の高いプロアントシアニジンを除去することができ、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下で行われる。この濾過処理は、塩を添加する前に行ってもよいが、塩添加後にも沈殿物などの不溶物を除去するために濾過する必要がある。また、ろ過による損失を最小限に抑えるために、ろ過後に残った残渣を、飽和濃度が同様の水溶液を用いて洗浄し、洗浄液を回収してもよい。
本発明において、吸着体での処理前に塩処理を行った場合は、吸着体で処理する工程で塩を除去し得るため、塩を除去する工程が必ずしも必要でない。
(プロアントシアニジン含有物)
このようにして得られたプロアントシアニジン含有物は、プロアントシアニジンを高い割合で含有する。プロアントシアニジンは、生理活性の点から重合度の低いプロアントシアニジン、好ましくは重合度が2〜30の縮重合体(2〜30量体)、より好ましくは重合度が2〜10の縮重合体(2〜10量体)、さらに好ましくは重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体;OPC)が好ましい。本発明の方法により得られるプロアントシアニジン含有物は、特にOPCを高い割合で含有し、好ましくは、乾燥重量換算で35重量%以上、より好ましくは40重量%以上含有する。さらに、OPC1重量部に対して、5量体以上のプロアントシアニジンの割合が1重量部以下となるため、水への溶解性および生理活性が高く、収斂味等が低減された優れたプロアントシアニジン高含有物となる。
本発明によって得られるプロアントシアニジン含有物に含有される全プロアントシアニジン中に占めるOPCの割合は、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。このように、少なくとも2種の吸着体で処理することによって得られたプロアントシアニジン含有物は、植物体の抽出物または搾汁、あるいは単一の吸着体で処理することによって得られた処理物に比べて、全プロアントシアニジン中に占めるOPCの割合が高く、好ましくは植物体の抽出物または搾汁に比べて、3倍以上、好ましくは3.5倍以上となる。
本発明の方法により得られたプロアントシアニジン含有物は、さらに、乾燥重量換算でカテキン類を好ましくは10〜15重量%含有し得る。カテキン(catechin)類は、単独では水溶性が乏しく、その生理活性が低いが、OPCは、カテキン類と共存すると、カテキン類の水溶性を増加させると同時に、カテキン類の作用を活性化する性質を有する。したがって、OPCとカテキン類とを含有するプロアントシアニジン含有物は、特に有用である。
カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレートなどが挙げられる。さらに、天然物由来のアフゼレキン、ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘導体も含む。
カテキン類の作用としては、発癌抑制作用、動脈硬化予防作用、脂肪代謝異常の抑制作用、血圧上昇抑制作用、血小板凝集抑制作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、虫歯予防作用、口臭防止作用、腸内細菌叢正常化作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、抗酸化作用、血糖の上昇を抑制する抗糖尿病作用などが挙げられる。
本発明によって得られた、OPC含量が極めて高いプロアントシアニジン含有物は、その後、当業者が通常用いる方法によって濃縮物、希釈物などにすることができる。濃縮には、膜濃縮、加熱濃縮、真空(減圧)濃縮、凍結濃縮などの種々の方法が用いられる。さらに必要に応じて、これらのプロアントシアニジン含有物を殺菌処理して保存する。殺菌は、気流殺菌、高圧殺菌、加熱殺菌などの当業者が通常用いる方法により行われる。
また、これらのプロアントシアニジン含有物は、殺菌後、濃縮、乾燥、および粉末化してもよい。乾燥は、当業者が通常用いる方法によって行われる。中でも、凍結乾燥、真空乾燥、および噴霧乾燥が好ましく用いられる。
このようにして得られたプロアントシアニジン含有物は、食品、医薬品、化粧品、および医薬部外品の原料として使用することができる。
本発明によって得られたプロアントシアニジン含有物を食品として利用する場合、ドリンク剤およびゲル化した飲食物などとしてもよい。さらに、プロアントシアニジン含有物は、そのままあるいは添加剤を加えて飲食に供し得る。添加剤としては、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、香料、栄養成分、食品添加物、調味料などが挙げられる。例えば、栄養成分として、ローヤルゼリー、ビタミン類、プロテイン、カルシウム、キトサン、レシチン、カフェインなどが配合され、さらに食品添加物として、糖液および調味料を加えて味を整えることができる。これらは、必要に応じて、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、もしくは丸剤に、または粉末状、顆粒状、飴状などの形状に成形され得る。そしてこれらは、その形状または好みに応じて、そのまま食してもよいし、水、湯、牛乳などに溶いたり、ティーバッグなどに入れて湯などに煎じて飲んでもよい。
本発明によって得られたプロアントシアニジン含有物を医薬品として利用する場合においても、そのままあるいは当業者が通常用いる添加剤などを用いて、上記食品と同様の形状に成形され得る。
本発明によって得られたプロアントシアニジン含有物を化粧品および医薬部外品として利用する場合、水溶液の溶解性に優れるため、軟膏、クリーム、乳液、ローション、化粧水、パック、浴用剤などの当業者が通常用いる形状に成形され得る。
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、この実施例は本発明を制限するものではない。実施例に示す単位(V/V)は(容量/容量)を、(W/W)は(重量/重量)を示す。
(抽出液の調製)
松樹皮1kgに精製水5.4Lを加え、ブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、100℃で24時間還流しながら加熱抽出した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を精製水1.6Lで洗浄し、濾液と洗浄液とを合わせて7Lの松樹皮抽出液を得た。この抽出液10mLを凍結乾燥したところ、乾燥重量は70mgであった。この抽出液を25℃まで放冷した。
【実施例1】
上記抽出液1L(抽出物粉末乾燥重量7g)を、比表面積700m/g、細孔半径80Å以下の芳香族系合成吸着剤でなるアンバーライト(登録商標)XAD−4(株式会社オルガノ製;5量体以上のプロアントシアニジンを除去し得る吸着体(第1の吸着体))を300mL(約200g相当)充填した直径5cmのカラムに通液した。次いで、このカラムを600mLの精製水で洗浄した。さらに80V/V%のエタノール水溶液800mLを通液して吸着物を溶出させた。この処理液を減圧濃縮し、エタノールを除去した後、加水して500mLに調整した。次に、この溶液を、さらに比表面積600m/g、細孔半径100〜120Åの芳香族系合成吸着剤でなるダイアイオン(登録商標)HP−20(三菱化学株式会社製;夾雑物を除去し得る吸着体(第2の吸着体))を200mL(約140g相当)充填した直径5cmのカラムに通液した。このカラムを600mLの精製水で洗浄した後に、20V/V%のエタノール水溶液200mLを通液し、さらに500mLを通液して、これらを合わせた。得られた溶液をプロアントシアニジン含有液Aとする。
次に、得られたプロアントシアニジン含有液A中の各成分の含有量を調べるために、該プロアントシアニジン含有液A中の成分をOPC画分、5量体以上のプロアントシアニジン画分、カテキン類を含む画分、およびカテキン類以外の成分の画分に、以下のようにして分離した。プロアントシアニジン含有液Aを減圧濃縮乾固し、乾燥粉末とし、その重量(固形物重量)を測定した。水で膨潤させたセファデックスLH−20(アマシャムバイオテック株式会社製)25mLを15×300mmのカラムに充填し、50mLのエタノールで洗浄した。100mgの上記乾燥粉末を2mLのエタノールに溶解させ、この溶液をカラムに通液して吸着させた後、100〜80V/V%エタノール−水混合溶媒でグラジエント溶出し、10mLずつ分取した。分取の際に、2〜4量体のOPCの標品(2量体:プロアントシアニジンB−2(Rf値:0.6)、3量体:プロアントシアニジンC−1(Rf値:0.4)、および4量体:シンナムタンニンA(Rf値:0.2))を指標として、各画分中のOPCの有無をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)により以下の条件で検出した。
TLC:シリカゲルプレート(Merck & CO.,Inc.製)
展開溶媒:ベンゼン/蟻酸エチル/蟻酸(2/7/1)
検出試薬:硫酸およびアニスアルデヒド硫酸
サンプル量:各10μL
TLCによりOPCが含まれることを確認した溶出画分を合わせて、OPC画分を得た。
次いで、OPCが検出されなくなった時点で、300mLの50%(V/V)水−アセトン混合溶媒を通液し、カラムに吸着した残りの吸着物を溶出させた。
回収したOPC画分以外の溶出画分について、TLCを行い、カテキン類を含む画分と5量体以上のプロアントシアニジンを含む画分とに分離した。TLCの展開条件および検出方法は上記と同様に行った。
カテキン類を含む画分については、さらに、以下のようにしてカテキン類とカテキン類以外の成分とに分離した。まず、カテキン類を含む画分を凍結乾燥し、粉末を得た。この粉末を3mLの水に溶解させ、この溶液を水で膨潤させた20mLのMCIゲル(三菱化学株式会社製)を15×300mmのカラムに充填したカラムに通液して吸着させた。このカラムを水で洗浄した後、10〜100%(V/V)エタノール−水混合溶媒でグラジエント溶出し、7mLずつ分取した。溶出終了後、カテキンを指標として、各画分中のカテキン類をTLCにより検出し、カテキン類画分とカテキン類以外の成分の画分とに分けた。
上記のようにして得たOPC画分、5量体以上のプロアントシアニジン画分、カテキン類画分、およびカテキン類以外の成分の画分をそれぞれ凍結乾燥により粉末化し、乾燥重量を測定した。なお、OPC画分、5量体以上のプロアントシアニジン画分、カテキン類画分、カテキン類以外の成分の画分、およびその他の成分の画分の総和は、プロアントシアニジン含有液Aの乾燥粉末100mgに対して99.0〜99.9mgであり、ほぼ全量回収されていることがわかる。
表1に、プロアントシアニジン含有液Aの固形物重量、プロアントシアニジン含有液Aに含まれるOPC、5量体以上のプロアントシアニジン、全プロアントシアニジン(OPCおよび5量体以上のプロアントシアニジンの合計)、およびカテキン類の乾燥重量および含有率、ならびに全プロアントシアニジン中のOPCの割合を示す。表1は、さらに吸着体の処理条件を示す。○印は、第1または第2の吸着体を使用したことを示し、×印は、第1または第2の吸着体を使用しなかったことを示す。
【実施例2】
第1の吸着体による処理と第2の吸着体による処理との順番を逆にしたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、プロアントシアニジン含有液Bを得、これを実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例1)
第2の吸着体による処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例2)
第2の吸着体による処理を行わなかったことおよび第1の吸着体による処理の80V/V%のエタノール水溶液の代わりに、20V/V%のエタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例3)
第1の吸着体による処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例4)
第2の吸着体による処理を行わなかったことおよび第2の吸着体による処理の20V/V%のエタノール水溶液の代わりに、80V/V%のエタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例5)
第1の吸着体による処理を行わなかったことおよび第2の吸着体による処理の20V/V%のエタノール水溶液の代わりに、5V/V%のエタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例6)
第2の吸着体による処理の代わりに、再度第1の吸着体による処理を行ったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例7)
第1の吸着体による処理の代わりに、再度第2の吸着体による処理を行ったこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、得られた処理液を実施例1と同様に分析した。結果を表1に示す。
(比較例8)
プロアントシアニジン含有液Aの代わりに、松樹皮からの抽出液を実施例1と同様の方法で分析した。結果を表1に示す。

表1の結果から、異なる2種類の吸着体を用いた実施例1および2においては、OPCを高い割合で含有するプロアントシアニジン含有物が得られることが分かる。特に、実施例1および2は、5量体以上のプロアントシアニジンを溶出して除去する吸着体(第1の吸着体)と、夾雑物を除去してOPCを分取する吸着体(第2の吸着体)とを組み合わせて処理しているので、得られる乾燥粉末中にOPCを40重量%以上含有していることが分かる。
比較例1と4とに用いる吸着体は、特に細孔半径の点で異なる。細孔半径が90Å以下の吸着体を用いた比較例1においては、細孔半径が100Å以上の吸着体を用いた比較例4の場合に比べて、OPC含有率が高い。他方、比較例4は、比較例1に比べて、乾燥粉末中の全プロアントシアニジン含有率が高い。このように、細孔半径が90Å以下の吸着体を用いると、プロアントシアニジンが吸着体に吸着するに際し、5量体以上のプロアントシアニジンが除去され易いため、得られる処理物のOPC含有量が、比較的高くなる。細孔半径100Å以上の吸着体を用いると、得られる処理物の全プロアントシアニジン含有率が比較的高くなる傾向がある。比較例1および2を比較すると、細孔半径が90Å以下の吸着体を用いた場合は、抽出溶媒を変更してもOPC含有率に変化がないのに対して、比較例3および4を比較すると、細孔半径が100Å以上の吸着体を用いた場合は、抽出溶媒を変更すると、OPC含有率が変化することがわかる。このことから、溶媒の濃度によりOPCを選択的に溶出する場合には細孔半径が100Å以上の吸着体が適すると考えられる。また、比較例5では、第2の吸着体1種類のみで、OPCと5量体以上のプロアントシアニジンとを分離することにより、OPC含有量が高いプロアントシアニジン含有物を得ることを目的としている。この比較例5では、OPCのみを溶出する条件の溶出溶媒(5V/V%エタノール水溶液)を使用しているが、OPCが十分溶出されず、OPC自体の回収量が低いことがわかる。
【実施例3】
松樹皮100gに2Lの精製水を加え、ブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、95℃で1時間加熱した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を精製水1Lで洗浄し、濾液と洗浄液とを合わせて3Lの抽出液を得た。
次いで、この抽出液3Lに70g(約100mL相当)のセパビーズSP850を加え、3時間攪拌した後に、濾過し、プロアントシアニジンが吸着した固形物を回収した。この固形物を250mLの精製水で洗浄し、150mLの80(V/V)%エタノール水溶液を加え、1時間攪拌した後に濾過し、濾液を回収した。この濾液を減圧濃縮してエタノールを除去し、精製水を加えて1Lとした。この溶液にさらに70gのダイアイオン(登録商標)HP−20を加え、3時間攪拌した後に、濾過し、プロアントシアニジンが吸着した固形物を回収し、この固形物を250mLの精製水で洗浄し、150mLの15(V/V)%エタノール水溶液を加え、1時間攪拌した後に濾過し、濾液を回収した。この濾液を凍結乾燥し、351mgのプロアントシアニジン含有粉末を得た。この100mgのプロアントシアニジン含有乾燥粉末を用いて、上記実施例1と同様にOPCおよびカテキン類の含有率を測定したところ、乾燥重量換算でOPCを42.3重量%、5量体以上のプロアントシアニジンを10重量%、およびカテキン類を14.9重量%含有していた。
【実施例4】
松樹皮100gに1Lの精製水を加え、ブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、100℃で12時間加熱した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を精製水200mLで洗浄し、濾液と洗浄液とを合わせて1.2Lの抽出液を得た。この抽出液を80g(約100mL相当)のアンバーライト(登録商標)XAD−4を充填したカラムに通液した。このカラムを精製水300mLで洗浄した後、600mLの20(V/V)%エタノール水溶液を通液して溶出液を得た。溶出液を減圧濃縮乾固し、得られた粉末をさらに500mLの無水エタノールに溶解させた。水で膨潤させた300mLのセファデックスLH−20を充填したカラムを300mLのエタノールで洗浄した後に、上記の溶出液を通液した。このカラムを無水エタノール600mLで洗浄した後に、80V/V%のエタノール水溶液1.5Lを通液してプロアントシアニジン含有液を得た。この含有液を減圧濃縮乾固して421mgのプロアントシアニジン含有物を得た。上記実施例1と同様にOPCおよびカテキン類の含有率を測定したところ、乾燥重量換算でOPCを46.2重量%、5量体以上を15.2重量%、およびカテキン類を11.1重量%含有していた。
【産業上の利用可能性】
本発明の方法によれば、植物体の抽出物または搾汁を材質、比表面積、細孔半径、および分子量分画範囲の少なくとも1つの点が異なる少なくとも2種の吸着体で処理することことによって、効率的に生理活性の高いOPCを高い割合で含有するプロアントシアニジン含有物を容易に得ることができる。これらのプロアントシアニジン含有物は、血管増強、高血圧、冷え性などの改善に効果があり、食品、医薬品、化粧品、および医薬部外品の製造原料として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体の抽出物または搾汁を、少なくとも2種の吸着体で処理する工程を包含するプロアントシアニジン含有物の製造方法であって、
該吸着体が、それぞれ材質、細孔半径、比表面積、および分子量分画範囲のうちの少なくとも1つの点で異なる、方法。
【請求項2】
前記吸着体のうちの少なくとも1種が、合成吸着剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、2種の吸着体を用いて行われ、第1の吸着体が合成吸着剤であり、第2の吸着体が合成吸着剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂、アガロース誘導体、およびセルロース誘導体からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記吸着体のうちの少なくとも1種が、植物体の抽出物または搾汁から5量体以上のプロアントシアニジンまたは夾雑物を除去し得る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記吸着体のうちの少なくとも1種が、多孔性であり、90Å以下または100Å以上の細孔半径を有する、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着体のうちの少なくとも1種が、分子量100以上20,000以下の分子量分画範囲を有する、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/033053
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509307(P2005−509307)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012620
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】