説明

プロジェクションディスプレイ用スクリーン

【要 約】
【課 題】 拡散光強度分布特性の任意制御が可能であり、かつ拡散角度領域が特定の角度領域からの入射光に対して変化しない拡散フィルムの実現を目標とし、それをスクリーンとして用いた高品位プロジェクションディスプレイシステムの提供を目指した。
【解決手段】 隣接相互間で異なる屈折率を有して複数のステップインデックス型光導波路をなす複数の層1、1が、フィルム面内の一方向に並んだ縞を形成し、フィルム厚さ方向に対して所定の角度範囲に略トップハット型に分布する層傾き角度の方向に延在する構造、または、フィルム厚さ方向の一部位に、層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布を有する光導波路をなす複数の層2が、所定の範囲に略トップハット型に分布する層長さをもってフィルム厚さ方向または該方向から傾いた方向に延在する構造、または、これらが組み合わさった構造を有する拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクションディスプレイ用スクリーンに関し、特に、製作が簡便にでき、製作コストが低く、しかも高品位な画像表示特性を有するプロジェクションディスプレイ用スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクションディスプレイ用スクリーンに関する従来技術として、特定の角度領域内からの入射光を特定の角度領域内に拡散させる拡散フィルム(例えば非特許文献1参照)からなるリアプロジェクションディスプレイ用スクリーンが存在する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このスクリーンは、従来一般に用いられているフレネルレンズ、レンティキュラレンズ、および拡散フィルムからなるスクリーンと異なり、図10に示すように特定の角度領域内からの入射光を特定の角度領域内に拡散させる拡散フィルムのみからなるため構造が簡単であり低コスト化が容易である、および図11に示すように拡散光強度部分布特性が特定の角度領域内からの入射光に対してほぼ均一であり画面内輝度の変化が少ない、といった非常に有用な特長を備えている。
【特許文献1】国際公開WO2004/034145号公報
【非特許文献1】沖田ら:住友化学1991−I、p.37−48
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいてはその拡散光強度分布特性の任意制御が可能であることが非常に重要であるが、前述のスクリーンにおいてその特性を実現するにあたり重要な役割を果たす拡散フィルムの原理に関して、入射光の回折による拡散モデルが提案されてはいるものの(非特許文献1参照)、そのモデルを用いて拡散光強度分布特性を明確に記述することはできず、拡散光強度分布特性の任意制御は実現されていない。
【0005】
そこで本発明は拡散光強度分布特性の任意制御が可能であり、かつ拡散角度領域が特定の角度領域からの入射光に対して変化しない拡散フィルムの実現を目標とし、それをスクリーンとして用いた高品位プロジェクションディスプレイシステムの提供を目指した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、光導波路の原理を用い入射光の伝搬方向を面内方向に層状に積層させた平板導波路内で変化させることで、
1)拡散光強度分布特性の任意制御が可能である、
2)拡散角度領域が特定の角度領域からの入射光に対して変化しない、
3)入射光のボケが少ない、
4)高い透過率および低い後方散乱を実現する、
5)入射光の偏光が保持される、
という優れた特性を実現する拡散フィルムの構造に想到した。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(発明項1) 入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、隣接相互間で異なる屈折率を有して複数のステップインデックス型光導波路をなす複数の層が、フィルム面内の一方向に並んだ縞を形成し、フィルム厚さ方向に対して所定の角度範囲に略トップハット型に分布する層傾き角度の方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
(発明項2) 入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、隣接相互間で異なる屈折率を有して複数のステップインデックス型光導波路をなす複数の層が、フィルム面内の一方向に並んだ縞を形成し、フィルム厚さ方向に対して所定の角度範囲に1または2以上のピークを含み該ピーク以外は略トップハット型に分布する層傾き角度の方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
(発明項3) 前記拡散フィルムの構造は、フィルム厚さLおよび縞の幅の最大値ymaxが次式を満たすものであることを特徴とする発明項1または2に記載のプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【0008】
L≧10×ymax
(発明項4) 入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、フィルム厚さ方向の一部位に、層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布を有する光導波路をなす複数の層が、所定の範囲に略トップハット型に分布する層長さをもってフィルム厚さ方向または該方向から傾いた方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
(発明項5) 前記拡散フィルムの構造は、前記光導波路の屈折率分布がグラジエントインデックス型であり、層の傾き角度θ、層長さの最大値Lzmax、最小値Lzminおよび光導波路のピッチPが次式を満たすものであることを特徴とする発明項4記載のプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【0009】
Lzmax−Lzmin≧(P/2)×cosθ
(発明項6) 入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、発明項1〜3のいずれかに記載の拡散フィルムと同じ構造の部分と発明項4または5に記載の拡散フィルムと同じ構造の部分とがフィルム厚さ方向またはフィルム面内方向に混在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
(発明項7) 入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、発明項1〜3のいずれかに記載の拡散フィルムの構造と発明項4または5に記載の拡散フィルムの構造とが融合してなる構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、
1)拡散光強度分布特性の任意制御が可能である、
2)拡散角度領域が特定の角度領域からの入射光に対して変化しない、
3)入射光のボケが少ない、
4)高い透過率および低い後方散乱を実現する、
5)入射光の偏光が保持される、
という優れた特性を備えたプロジェクションディスプレイ用スクリーンを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、発明項1ないし3に記載の拡散フィルム(フィルム(1))について説明する。
【0012】
図1は、フィルム(1)の1例を示す模式図である。フィルム(1)1は、以下に述べる構造を有することで、入射光拡散角度領域θinから入射した光を出射光拡散角度領域θoutに拡散させることができる。なお、フィルム(1)1の厚さLの方向に平行にz軸をとり、z軸に垂直な面内で互いに直交するx軸、y軸をとった。
【0013】
フィルム(1)1は、隣接相互間で異なる屈折率n1、n2(n1>n2)を有する層11、12がフィルム面内(xy面内)の一方向に交互に並んだ縞(縞の幅y1、y2)を形成し、フィルム厚さ方向(z方向)に対して平均傾き角度θの方向に延在する構造を有する。ここで、入射光を均一に拡散させるための層11、12の縞の幅y1、y2の条件は、フィルム(1)1の厚さLを用いて以下のように表される。
【0014】
L≧10×y1、 L≧10×y2
層傾き角度θは、z軸に対する層境界の傾き角度で定義され、図2に示すように、フィルム(1)1の厚さ方向位置により最小傾き角度(θ−Δθmax)から最大傾き角度(θ+Δθmax)にかけての範囲内で変化する。ここで、θは平均傾き角度、Δθmaxはθのばらつき範囲の1/2であり、層傾き角度θの座標系(値の符号)は、図2の右側に示すように、水平方向(z方向)から左回転方向(反時計回り)に+、右回転方向(時計回り)に−とした。
【0015】
このとき、入射光を均一に拡散させるための平均傾き角度θの条件は、屈折率nを用いて以下のように表される。
【0016】
−sin-1(1/n1)≦θ≦sin-1(1/n1
上記のような構造を有するフィルム(1)1内の各層はステップインデックス型光導波路と同等である。かかる層では、入射光を均一に拡散させるための層傾き角度の分布条件は、図3に示すように、層傾き角度θの存在確率が所定の範囲((θ−Δθmax)〜(θ+Δθmax))でトップハット型(矩形波状)に分布するというものである。もっとも、実際には完全なトップハット型とするのは困難であるから、本発明では、層傾き角度の所定の範囲での存在確率が、その分布曲線において、プラトー部の存在確率がその平均値の±40%以内でばらつくこと、および立上り部と立下り部の各変域幅が分布曲線全体の最尤半値幅の±30%以内でばらつくことを許容し、略トップハット型に分布するものと規定した。
【0017】
また、実際には、所定の範囲内での層傾き角度の略トップハット型の分布に1個または2個以上のピークが混在する場合があるが、この存在確率のピーク値がピークを除いた平均値の1000%以下であれば本発明の効果への悪影響は小さいので、かかる場合も本発明に含めた。なお、ピーク個数は5個程度以下であることが好ましい。
【0018】
拡散光強度の一様性は層傾き角度存在確率のみでなく層長さにも依存し、層が長くなればなるほど入射光は多重反射を繰り返すことから均一な拡散光強度分布特性が得られる。このためフィルム厚さLが50×ymaxを超えるような厚いフィルムでは上記許容範囲はさらに大きくなる。
【0019】
以上の条件を満たすフィルム(1)では、これに入射光拡散角度領域から入射した光は出射光拡散角度領域に略一様な光強度で拡散される。
【0020】
ここで、入射光拡散角度領域θinは以下の式で表される。
【0021】
Min[θ1,θ1,θ2,θ2]≦θin≦Max[θ1,θ1,θ2,θ2]
θ1=sin-1[n1×sin{θ+Δθmax+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(1)
θ1=sin-1[n1×sin{θ−Δθmax+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(2)
θ2=−sin-1[n1×sin{−(θ+Δθmax)+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(3)
θ2=−sin-1[n1×sin{−(θ−Δθmax)+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(4)
また、出射光拡散角度領域θoutは以下のように表される。
【0022】
Min[θ1,θ1,θ2,θ2]≦θout≦Max[θ1,θ1,θ2,θ2] ‥‥(5)
以上の入射角と出射角の関係を図4に示す。
【0023】
上記角度θ1,θ1,θ2,θ2は、次のようにして導出される。
【0024】
フィルム(1)は、ステップインデックス型の光導波路(以下、単に導波路ともいう)が1次元的アレイをなし、層構造を構成しているものであり、この層の方向がバラツキを有しているフィルムである。層の平均方向をθとし、このθを中心に±Δθmaxだけバラツイたモデルを考える。このモデルで層傾き角度の分布が(θ−Δθmax)〜(θ+Δθmax)の間で均一にバラツイている場合、(θ−Δθmax)で決まる臨界角と、(θ+Δθmax)で決まる臨界角の間の角度の光線は多重反射をくりかえし、この間の角度を一様に埋めてゆくことになる。このメカニズムは、反射面が直線ではなく曲線で構成され、ある方向から入射した平面波(光線)が曲面波(反射面が2次曲線で構成された場合球面波)に変換され、臨界角を超える角度になるとそれ以上反射がほとんど起らず、入射方向には依存しないトップハット的な拡散特性が発現する。このトップハット特性を決めるのが、(θ−Δθmax)で決まる臨界角と、(θ+Δθmax)で決まる臨界角である。
【0025】
層傾き角度(θ−Δθmax)で決まる臨界角には、導波路の上側と下側の2通りあり、同様に、層傾き角度(θ+Δθmax)で決まる臨界角にも、導波路の上側と下側の2通りあるため、計4通りの角度が存在することになる。
【0026】
まず、層傾き角度(θ+Δθmax)の場合について導出を行う。空気の屈折率をnair、コア11の屈折率をn1、クラッド12の屈折率をn2(n1>n2)とし、図14の入射側のフィルム界面でスネル則を適用すると、
air×sinθ1=n1×sinθ3 ‥‥ (A1)
次に、コア11に入った光がクラッド12との上側の界面で全反射するぎりぎりの角度、つまり臨界角は、次式で与えられる。
【0027】
1×sin{π/2−θ3+(θ+Δθmax)}=n2×sin90° ‥‥(A2)
(A1)、(A2)式より、
θ1= sin-1[n1×sin{θ+Δθmax+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(A3)
次に、導波路の下側の界面で決まる角の導出を行う。図15の入射側のフィルム界面にスネル則を適用すると、
air×sin(−θ2’)=n1×sin(−θ4) ‥‥(A4)
次に、コア11に入った光がクラッド12との下側の界面で全反射するぎりぎりの角度(臨界角)は次式で与えられる。
【0028】
1×sin{π/2−(−θ4)−(θ+Δθmax)}=n2×sin90° ‥‥(A5)
(A4)、(A5)式より、
θ2=−sin-1[n1×sin{−(θ+Δθmax)+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(A6)
以上が、層傾き角度(θ+Δθmax)の場合の上側、下側のコア/クラッド界面で決まる角θ1とθ2の導出である。
【0029】
同様に、層傾き角度(θ−Δθmax)の場合、(A3)、(A6)式において(θ+Δθmax)を(θ−Δθmax)に置換すればよいため、
θ1=sin-1[n1×sin{θ−Δθmax+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(A7)
θ2=−sin-1[n1×sin{−(θ−Δθmax)+cos-1(n2/n1)}] ‥‥(A8)
となり、4つの角度の導出が完了する。
【0030】
フィルム(1)では層傾き角度の存在確率により出射光の拡散光強度分布特性が決定される。上記例では入射光をトップハット的な光強度分布で拡散させるために、図3のように層傾き角度の存在確率をトップハット型に分布するものとしたが、同様の物理法則に則った議論により存在確率を略トップハット型(台形型等を含む)に分布するように変化させることで、トップハット的なもの以外(例えば台形型、ガウス分布型等)の所望の拡散光強度分布特性を得ることが可能である。
【0031】
なお、図1〜2の例では厚み方向にのみ層傾き角度がばらつき、面内方向には層傾き角度にばらつきを有さないフィルムを示したが、厚み方向のみでなく面内方向にも層傾き角度をばらつかせる、または面内方向にのみ層傾き角度をばらつかせ、上記例と同じ物理法則に則った議論により層傾き角度存在確率を変化させることで、所望の拡散光強度分布特性を得ることが可能である。
【0032】
また、図1〜図2の例ではフィルム面を平面としたが、フィルム面が曲面である場合についても、曲面を微小な平面の集まりと考えることで同様に扱うことが可能である。
【0033】
また、図1〜図2の例では層を2種類としているが、3種類以上の層を有する構造であっても同様に扱うことができる。
【0034】
次に、発明項4ないし5に記載の拡散フィルム(フィルム(2))について説明する。
【0035】
図5は、フィルム(2)の1例を示す模式図である。また、図5の要部を拡大して図6に示す。フィルム(2)2は、以下に述べる構造を有することで、入射光拡散角度領域θinから入射した光を出射光拡散角度領域θoutに拡散させることができる。なお、フィルム(2)2の厚さLの方向に平行にz軸をとり、z軸に垂直な面内で互いに直交するx軸、y軸をとった。
【0036】
フィルム(2)2は、フィルム厚さ方向の一部位に、z方向と傾き角度θ(フィルム(1)の平均傾き角度と同じ記号θを用いる)をなす界面で区切られた厚さb1の層21がy方向に複数重なった構造を有する。層21は、層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布を有する光導波路をなす。なお、層21以外のフィルム(2)部分は一定の屈折率ngを有する。ここで、入射光を均一に拡散させるための層の厚さb1の条件は、フィルム(2)の厚さLを用いて以下のように表される。
【0037】
L≧10×b1
z方向に対する層21の相互界面の角度(層の角度)θは0°(層21の延長方向がフィルム面に垂直)であってもよい。層21の層長さ(フィルム厚さ方向の長さ)をLzmin〜Lzmaxとする。図6に示すように、z軸、y軸をx軸の回りに角度θだけ回転させたものをa軸、b軸とする。すなわちb軸は層の厚さ方向に平行、a軸はb軸とx軸に垂直である。
【0038】
層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布関数の例としては、図7に示すようなものが挙げられる。図7(a)は、次式で表される屈折率分布を有するグラジエントインデックス型光導波路に該当する。
【0039】
n(b)=n1×(1−(A/2)×b2))、 −b1/2≦b≦b1/2、A:係数‥‥(6)
ここで、入射光を均一に拡散させるための層長さの条件は、層傾き角度θ、層長さの最大値Lzmax、最小値Lzminおよび光導波路のピッチPを用いて次式で表される。
【0040】
Lzmax−Lzmin≧(P/2)×cosθ ‥‥(7)
P=2×π/√A ‥‥(8)
A=(8/b12)×(n1−n2)/n1 ‥‥(9)
このとき、層長さの存在確率は図8に示すようにトップハット型に分布するのが理想であるが、実際には完全なトップハット型とするのは困難であるから、本発明では、Lzmin〜Lzmaxの範囲での層長さの存在確率が、その分布曲線において、プラトー部の存在確率がその平均値の±40%以内でばらつくこと、および立上り部と立下り部の各変域幅が分布曲線全体の最尤半値幅の±30%以内でばらつくことを許容し、略トップハット型に分布するものと規定した。
【0041】
以上の条件を満たすフィルム(2)では、これに入射光拡散角度領域から入射した光は出射光拡散角度領域に略一様な光強度で拡散される。
【0042】
ここで、入射光拡散角度領域θinは以下の式で表される。
【0043】
θNA2≦θin≦θNA1 ‥‥(10)
θNA1=sin-1{n×sin(θ+θg1)} ‥‥(11)
θNA2=sin-1{n×sin(θ−θg1)} ‥‥(12)
sinθg1=(n1/n)×sin{tan-1(n1×√A×b1/2)} ‥‥(13)
また、出射光拡散角度領域θoutは以下のように表される。
【0044】
θNA2≦θout≦θNA1 ‥‥(14)
以上の入射角と出射角の関係を図9に示す。
【0045】
図7(a)の屈折率分布をもつグラジエントインデックス型光導波路に入射した光は、導波路内部において、
θ−tan-1(n1×√A×b1/2) 〜 θ+tan-1(n1×√A×b1/2) ‥‥(15)
の範囲で進行方向を変えながら伝搬することから、層長さの存在確率の違いにより拡散光強度分布特性が決定される。
【0046】
上記のように、フィルム(2)の1形態では、グラジエントインデックス型光導波路がアレイ構造をなし、光導波路の長さ方向の位置により光の伝搬方向が異なるため、導波路の長さがばらついている場合導波路ごとの出射端面での出射角度が変化し、光の拡散が発現する。このため導波路内部での伝搬方向の変化が導波路長さに対して線形であるとき、長さのバラツキが均一であることによりトップハット的な光の拡散特性が実現する。
【0047】
ここで、このメカニズムを解析する式の導出と説明を行う。
【0048】
まず、光導波路の1つに着目する。図16に示すように、光導波路の中心から対称に、屈折率分布関数が、2次関数
n(r)=n×(1−A/2×r) ‥‥(B1)
で与えられるとする。ここで、nは中心軸上の屈折率、Aは屈折率分布定数、rは中心からの距離である。光導波路の厚さ方向の両界面位置座標±b/2での屈折率をnとすれば、A=(8/b)×(n−n)/n である。
【0049】
図17に示すように、グラジエントインデックス型光導波路の中心にz軸をとり、光の入射面の位置をz=zとする。このz軸からの距離がrである。光の入射面の位置でのz軸からの距離をr、この位置での光導波路内の光線の方向を、r=dr/dz=tanθとする。同様に、光の出射面においても、その位置をz=zとし、z軸からの距離をr、この位置での光導波路内の光線の方向を、r=dr/dz=tanθとする。
【0050】
光入射面の光線の位置と方向を表すベクトル(入力ベクトル)〔r〕と光出射面の光線の位置と方向を表すベクトル(出力ベクトル)〔r〕の間には次式(B2)式の関係が成り立つ。
【0051】
【数1】

【0052】
(B2)式は光の入射位置rとその位置での光線の方向rによらず、ある一定の距離だけz軸方向に進むと、z軸からの距離とその位置での光線の方向が周期的に元の状態に戻ることを意味している。この周期的に元の状態に戻るz軸方向の距離がグラジエントインデックス型光導波路のピッチ(P)である。簡単のために入射面の位置をz=0とすると、(B2)式は次式(B3)式となる。
【0053】
【数2】

【0054】
(B3)式よりピッチ(P)を求める。(B3)式中の2×2行列の成分はsinとcosの関数であるため、√A×zが2π変化すると光線の位置と方向が元に戻るため、ピッチ(P)は次式より求まる。
【0055】
√A×P=2π ‥‥(B4)
よって、 P=2π/√A ‥‥(B5)
次に、開口数NA(Numerical Aperture)の計算を行う。このNAはグラジエントインデックス型光導波路を伝搬できる光線と光軸との角度のうち、最大の角度で与えられる。NAを求めるため、図18に示すように、グラジエントインデックス型光導波路の長さzをP/4とし、入射光線をz=0の面で光線位置r=b/2(光導波路の厚さ方向の端)、光線方向を光軸と平行とする(r=dr/dz=tanθ=0)。
【0056】
よって、入力ベクトル〔r〕は次式(B6)式となる。
【0057】
【数3】

【0058】
出力ベクトル〔r〕は、グラジエントインデックス型光導波路の長さz=P/4で、入射光が光軸と平行であるためr=0となるので、次式(B7)式で与えられる。
【0059】
【数4】

【0060】
(B5)式よりP=2π/√Aを用いると、z=P/4は次式となる。
【0061】
=P/4=π/(2×√A) ‥‥(B8)
(B6)、(B7)、(B8)式を(B3)式へ代入し、整理すると次式(B9)式となる。
【0062】
【数5】

【0063】
(B9)式より、光導波路内での出射面における光軸との角度θNA0は次式より与えられる。
【0064】
=tanθNA0=−n×√A×b/2 ‥‥(B10)
よって、(B10)式より、θNA0を正の値とすると、θNA0は次式で与えられる。
【0065】
θNA0=tan-1(n×√A×b/2) ‥‥(B11)
この光の空気層への出射角θ’NA0は、光軸上の出射面にスネル則を適用して、次式の関係を満たす。
【0066】
air×sinθ’NA0=n×sinθNA0 ‥‥(B12)
ここで、nairは空気の屈折率である。
【0067】
(B11)と(B12)式より、このグラジエントインデックス型光導波路のNAは次式で与えられる。
【0068】
NA=sinθ’NA0=(n/nair)×sin{tan-1(n×√A×b/2)} ‥‥(B13)
よって、グラジエントインデックス型光導波路長さのバラツキLzmax−LzminがP/2より大きく、均一にバラツイている場合、(B13)式で与えられるNAの角度±θ’NA0内でトップハット的な光の拡散が発現することになる。
【0069】
以上の解析は、グラジエントインデックス型光導波路の光軸がフィルム面の法線と一致している場合についてのものである。
【0070】
次に、光軸がフィルム面の法線と角度θだけ傾いた場合の解析を行う。図19に示すように、フィルム内でθだけ傾いたグラジエントインデックス型光導波路が存在すると、光導波路の入射側と出射側に、同じ頂角のプリズムが逆向きに設置された光学系となる。この光学系のNAを求めれば、θだけ傾いたグラジエントインデックス型光導波路により構成されるフィルムのトップハット特性を記述できる。
【0071】
図19に示す光学系は入射側と出射側とが同じ構造であるので、出射側で解析する。図19中のθNAOは(B11)式で与えられるものである。グラジエントインデックス型光導波路の光軸と、出射側プリズムとの境界部にスネル則を適用すると次式を得る。
【0072】
×sinθNA0=n×sinθg1 ‥‥(B14)
ここで、nはプリズムの屈折率である。
【0073】
次に、上側へ進行する光線に着目し、この光線がプリズムから空気層へ出射する境界にスネル則を適用すると次式を得る。
【0074】
×sin(θ+θg1)=nair×sinθNA1 ‥‥(B15)
次に、下側へ進行する光線に着目し、プリズムから空気層へ出射する境界にスネル則を適用すると次式を得る。
【0075】
×sin(θ−θg1)=nair×sinθNA2 ‥‥(B16)
(B11)式のθNAOを(B14)式に代入し、sinθg1を求めると次式を得る。
【0076】
sinθg1=(n/n)×sin{tan-1(n×√A×b/2)} ‥‥(B17)
air=1.0として、(B15)、(B16)式よりθNA1とθNA2を求めるとそれぞれ次式として与えられる。
【0077】
θNA1=sin-1{n×sin(θ+θg1)} ‥‥(B18)
θNA2=sin-1{n×sin(θ−θg1)} ‥‥(B19)
よって、この光学系は入射側と出射側は同じ構造なので、入出力のNAの角度はそれぞれ次式のようになる。
【0078】
θNA2≦θin≦θNA1 ‥‥(B20)、 θNA2≦θout≦θNA1 ‥‥(B21)
光導波路内の光の蛇行する角は、光軸がθ傾いているので、θ−θNA0〜θ+θNA0となる。これに(B11)式のθNA0を代入する次式となる。
【0079】
θ−tan-1(n×√A×b/2)〜θ+tan-1(n×√A×b/2) ‥‥(B22)
また、光軸がθ傾いているため、バラツキの長さは、θ=0°の時のcosθ倍に変わるため、Lzmax−Lzminは次式で与えられる。
【0080】
Lzmax−Lzmin ≧(P/2)×cosθ ‥‥(B24)
以上で、フィルム(2)の層が図7(a)の屈折率分布を有するものについての式の導出および説明を終了する。
【0081】
一方、図7(b)の屈折率分布は、グラジエントインデックス型光導波路のそれとはいくぶん異なるが、これも層厚さ方向に集光能力(入射光を層内部に留めようとする集光能力)を発現しうるので、グラジエントインデックス型光導波路の場合と同様に扱うことができ、層長さの存在確率を変化させることで、所望の拡散光強度分布特性を得ることが可能である。
【0082】
また、フィルムの場所ごとに異なる屈折率分布を有するグラジエントインデックス型光導波路が形成された場合であっても、同様に扱うことが可能である。
【0083】
フィルム(2)では層内部での光の伝搬方向と層長さの存在確率により出射光の拡散光強度分布特性が決定される。上記例では入射光をトップハット的な光強度分布で拡散させるために層長さの存在確率をトップハット型に分布するものとしたが、同様の物理法則に則った議論により層内部の屈折率分布および存在確率のいずれか一方または両方を変化させることで、トップハット的なもの以外(例えば台形型、ガウス分布型等)の所望の拡散光強度分布特性を得ることが可能である。
【0084】
なお、図5〜6では層傾き角度にばらつきを有さないフィルムを示したが、面内方向で層傾き角度をばらつかせ、フィルム(1)の場合と同様に層傾き角度存在確率を変化させることで、所望の拡散光強度分布特性を得ることが可能である。
【0085】
また、図5、図6の例ではフィルム面を平面としたが、フィルム面が曲面である場合についても、曲面を微小な平面の集まりと考えることで同様に扱うことが可能である。
【0086】
また、図5、図6では、隣り合う層が接触する場合を示したが、隣り合う層が多少離れている場合でも同様に扱うことができる。ただし、この場合は、入射光の一部は層内部を伝搬せずにフィルム(2)内部の屈折率一定(ng)の部分を進むため、直進透過光の割合が大きくなる。
【0087】
また、図5、図6では一方の側のフィルム面を入射側としたが、その反対側のフィルム面を入射側とした場合でも同様に扱うことができる。
【0088】
次に、発明項6ないし7に記載の拡散フィルム(フィルム(3)、フィルム(4)、フィルム(5))について説明する。これらは、フィルム(1)の構造とフィルム(2)の構造とが組合わさった構造を有する。
【0089】
図12(a)はフィルム(3)の1例を示す模式図である。同図に示されるように、フィルム(3)3は、フィルム(1)と同じ構造の部分31とフィルム(2)と同じ構造の部分32とが、フィルム厚さ方向に混在する構造を有するものである。
【0090】
図12(b)はフィルム(4)の1例を示す模式図である。同図に示されるように、フィルム(4)4は、フィルム(1)と同じ構造の部分41とフィルム(2)と同じ構造の部分42とが、フィルム面内方向に混在する構造を有するものである。
【0091】
図12(c)はフィルム(5)の1例を示す模式図である。同図に示されるように、フィルム(5)5は、フィルム(1)の構造とフィルム(2)の構造とが融合してなる構造5Aを有するものである。
【0092】
図12に例示したいずれの拡散フィルムにおいても、それぞれフィルム(1)、フィルム(2)に分解して扱うことができ、入射光拡散角度領域はそれぞれのフィルムの重ね合せにより導かれる。
【0093】
次に、本発明のスクリーンに用いる拡散フィルムの製造方法について述べる。
【0094】
この拡散フィルムは、異なる屈折率を有する少なくとも2種類の光重合可能なモノマーあるいはオリゴマーからなる混合物に2方向以上の方向から光を照射し硬化させることで得られる。この光の照射条件は、本発明の要件が満たされる適正条件とするが、この適正条件は実験で決定される。
【0095】
ここで、光重合可能なモノマーあるいはオリゴマーとは、分子内にアクリロイル基、メタアクリロイル基、ビニル基などの重合可能な基を1個以上有するモノマーまたはオリゴマーである。これら化合物の複数の混合物を基板上に塗布するかまたはセル中に封入し膜状とし、2方向以上の方向から光を照射しながら徐々に硬化させる。
【0096】
照射する光はモノマーあるいはオリゴマーを含有する組成物を硬化させるものであればどのような波長でもよく、例えば可視光線および紫外線等がよく用いられる。
【0097】
紫外線は水銀ランプやメタルハライドランプ等を用いて照射されるが、棒状ランプを用いた場合はその照射条件を調整することにより、生成したシート状の硬化物に光源の長軸と短軸方向に対し異方性を発現させ、光源の長軸方向を軸として回転させた場合のみ光を拡散させることができる。
【0098】
2方向以上の方向からの光は、硬化時の硬化試料表面に対する光の入射角度を変えるために用いられる。隣り合う2つの光源から試料に入射する角度差が50°以上である場合、拡散フィルムの拡散角度領域が狭くなってしまうため、50°以内、好ましくは30°以内である。
【実施例1】
【0099】
実施例1に用いた拡散フィルムは、フィルム(1)に該当し、図20に示すように、構造的には入射側部分と出射側部分とに分かれている。入射側部分は、y方向に交互に積層した2種の層の屈折率nとnの差が比較的小さく、層傾き角度のバラツキの大きい、ステップインデックス型光導波路に相当する層アレイからなる。一方、出射側部分は、y方向に交互に積層した2種の層の屈折率nとnの差が比較的大きく、層傾き角度のバラツキがほとんどなく、その層傾き角度はフィルムの法線に対し−3°である、ステップインデックス型光導波路に相当する層アレイからなる。なお、この拡散フィルムは、ymax=4μm、L=300μmであり、発明項3の要件(L≧10×ymax)を満たしている。
【0100】
入射側部分の屈折率は、n=1.5325、n=1.5275、屈折率差Δn=n−n=0.005、層傾き角度の分布は、図13に測定結果の例を示し、図20にその概要を示すように、0°〜+6.5°の略均一にバラツイた第1成分と、0°に集中的に存在する第2成分との2要素からなる。図13、図20における層傾き角度の「頻度」が前述の「存在確率」に相当する。トップハット的な拡散特性を実現しているのが第1成分であり、第2成分が測定結果のピークを形成している。
【0101】
拡散特性を記述する(1)〜(4)式に、入射側部分のパラメータθ+Δθmax=6.5°、θ−Δθmax=0°、n=1.5325、n=1.5275を代入して、θ1,θ1,θ2,θ2、を計算すると、θ1=17.2°、θ1=7.11°、θ2=2.87°、θ2=−7.11°となる。よって、(5)式より、この入射側部分の出射光拡散角度領域θoutは、−7.11°≦θout≦17.2°となる。よって、第1成分により、−7.11°≦θin≦17.2°の範囲で入射した光は、−7.11°≦θout≦17.2°の範囲に略一様に拡散することになる。
【0102】
次にこの光が、出射側部分の層アレイに入射することになる。出射側部分の屈折率は、n=1.55、n=1.51、屈折率差Δn=n−n=0.04であり、層傾き角度は−3°でほとんどバラツキはない。
【0103】
入射側部分で−7.11°≦θout≦17.2°の範囲に略一様に拡散した光は、出射側部分をなすn=1.55のステップインデックス型光導波路に捕えられ、多重反射を繰り返すことになる。出射側部分の内部では−4.58°≦θin≦11.0°の一様に拡散した光となり、層傾き角度が−3°であるので、−4.58°≦θin≦−3°と、−3°≦θin≦11.0°の角度範囲の光が、−3°を中心に対称に全反射を繰り返していくことになる。ただし、−3°≦θin≦11.0°の角度範囲の光のうち、全反射できる角度範囲は、n=1.55、n=1.51より、−3°≦θin≦10.0°の範囲の光である。よって、出射側部分の内部では、−16.0°≦θin≦11.0°の角度範囲で略一様に拡散することになる。この範囲の光が空気層へ出射すると、−25.4°≦θout≦17.2°の角度範囲で略一様に拡散することになる。これは、測定結果と略一致する。
【0104】
次に、光のピークについて解析する。入射側部分の層傾き角度の分布において、0°のところに頻度のピークが存在するため、0°入射の場合、その入射光はこのピークの影響で0°のままで入射側部分を抜けていく。この抜けた光が出射側部分に入ると、−3°の層で全反射し、奇数回反射した場合−6°方向へ、偶数回反射した場合0°方向へ進むことになり、0°と−6°の光が生じる。これが空気層に出ると、0°と−9.32°の方向へ進むことになり、測定結果において0°と−9.32°にピークが生じている。
【実施例2】
【0105】
実施例2に用いた拡散フィルムは、フィルム(3)に該当し、図21に示すように、構造的には入射側部分と出射側部分とに分かれている。入射側部分はグラジエントインデックス型の層アレイで構成され、出射側部分はステップインデックス型の層アレイで構成されている。なお、この拡散フィルムは、それ自体としては上記実施例1のそれと同じものであるが、この実施例2では、拡散フィルムの入射側部分が、上述のグラジエントインデックス型のモデルにもあてはまり、当該モデルによってもその拡散特性をよく記述できることを示す。
【0106】
入射側部分の層アレイは、導波路の光軸が図13の測定例に示すようにバラツイている。なお、光軸がバラツイているとは、光軸とフィルム面の法線とのなす角度(図13の層傾き角度に相当)にバラツキがあることを意味する。個々の導波路内の屈折率分布関数は、(6)式で表されるパラボリックな分布関数であり、パラメータは、b=2μm、n=1.5325、n=1.5275である。よって、(9)式より、A=6.525×10であり、(8)式より、P/2=38.89μmである。光軸のバラツキは0°〜6.5°であるので、(7)式は、θ=0°で成立すればよく、すなわちLzmax−Lzmin≧38.89μmである。本実施例ではLzmax−Lzminは、図21に示すように40μm程度であるので、入射光を均一に拡散させることができる。本実施例の拡散フィルムでは、光軸が0°〜6.5°の範囲にバラツイているが、トップハット的な拡散特性のエッジ部を決めるのは、0°と6.5°の導波路であるので、0°と6.5°の解析を行う。
【0107】
まず、6.5°の導波路について解析する。導波路内部では(15)式より導かれる範囲で光は蛇行することになる。よって、この導波路による拡散角は−0.557°〜13.56°である。n=nとすると、この拡散光が、出射側部分をなすステップインデックス型の層アレイへ入射することになる。出射側部分のパラメータは、n=1.55、n=1.51、屈折率差Δn=n−n=0.04であり、層傾き角度は−3°でほとんどバラツキはない。
【0108】
入射側部分で−0.557°〜13.56°の範囲に一様に拡散した光は、出射側部分のn=1.55のステップインデックス型光導波路に捕われ、多重反射を繰り返すことになる。出射側部分の内部では、光は−0.551°〜13.4°の一様に拡散した光となり、層傾き角度が−3°であるので、−3°を中心に対称に全反射を繰り返していくことになる。ただし、−0.551°〜13.4°の角度範囲の光のうち、全反射できる角度範囲の光は、n=1.55、n=1.51より、−0.551°〜10°の角度範囲のみである。よって、出射側部分の内部では、−16.0°〜−5.45°、−0.551°〜13.4°の角度範囲で一様に拡散することになる。−5.45°〜−0.551°の間には光がないが、0°〜6.5°のクラジエントインデックス型光導波路が間を埋めるため、−16°〜13.4°の角度範囲で一様に拡散する。この光が空気層へ出射すると、−25.4°〜21.1°の角度範囲で一様に拡散することになる。
【0109】
入射側部分のグラジエントインデックス型導波路が0°の場合についても同様に解析すると、出射側部分を出た光は、−20.4°〜10.9°の角度範囲で一様に拡散することになる。よって、−25.4°〜21.1°の間に含まれており、0°〜6.5°の間で光軸のバラツイたグラジエントインデックス型光導波路の層アレイで構成された入射側部分とステップインデックス型光導波路の層アレイで構成された出射側部分との積層モデルでは、−25.4°〜21.1°の角度範囲で一様に光を拡散させることになる。
【0110】
次に、光のピークについて解析する。入射側部分の導波路の光軸のバラツキ分布において、0°のところに頻度のピークが存在するため、0°の導波路の間に隙間があると擦り抜ける光が存在する。この光は0°入射の場合、そのまま出射側部分へ入射することになる。出射側部分の層は−3°傾いているので、−3°の層で全反射し、奇数回反射した場合−6°方向へ、偶数回反射した場合0°方向へ進むことになり、0°と−6°の光が生じる。これが空気層に出ると、0°と−9.32°の方向へ進むことになり、測定結果において0°と−9.32°にピークが生じている。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、リア(またはフロント)プロジェクションディスプレイ用スクリーンの設計・製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】フィルム(1)の1例を示す模式図である。
【図2】フィルム(1)の層傾き角度を示す模式図である。
【図3】フィルム(1)の層傾き角度が所定の範囲に一様に分布した状態を示す分布図である。
【図4】フィルム(1)の入射角と出射角の関係を示す光強度分布図である。
【図5】フィルム(2)の1例を示す模式図である。
【図6】図5の要部を拡大して示すフィルム厚さ方向の断面図である。
【図7】層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布関数の例を示す図である。
【図8】フィルム(2)の層長さが所定の範囲に一様に分布した状態を示す分布図である。
【図9】フィルム(2)の入射角と出射角の関係を示す光強度分布図である。
【図10】特定の角度領域内からの入射光を特定の角度領域内に拡散させる拡散フィルムからなるリアプロジェクションディスプレイ用スクリーンの概念図である。
【図11】図10のスクリーンの拡散特性を示す光強度分布図である。
【図12】(a)はフィルム(3)の1例、(b)はフィルム(4)の1例、(c)はフィルム(5)の1例を示す模式図である。
【図13】本発明に用いる拡散フィルムの入射側部分の層傾き角度分布の測定結果の例を示すグラフである。
【図14】フィルム(1)のモデル式導出の説明図である。
【図15】フィルム(1)のモデル式導出の説明図である。
【図16】グラジエントインデックス型光導波路の屈折率分布を示す図である。
【図17】グラジエントインデックス型光導波路内の光の伝搬を示す図である。
【図18】NAの計算方法の説明図である。
【図19】グラジエントインデックス型光導波路の光軸がフィルム面の法線と角度θ傾いた場合のNAの計算方法の説明図である。
【図20】実施例1に用いた拡散フィルムの構造および拡散特性の説明図である。
【図21】実施例2に用いた拡散フィルムの構造および拡散特性の説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1 フィルム(1)
1 層(コア)
2 層(クラッド)
2 フィルム(2)
1
3 フィルム(3)
4 フィルム(4)
1、41 フィルム(1)と同じ構造の部分
2、42 フィルム(2)と同じ構造の部分
5 フィルム(5)
A フィルム(1)の構造とフィルム(2)の構造とが融合してなる構造
10 拡散フィルム(散乱フィルム)
11 保護板
12 プロジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、隣接相互間で異なる屈折率を有して複数のステップインデックス型光導波路をなす複数の層が、フィルム面内の一方向に並んだ縞を形成し、フィルム厚さ方向に対して所定の角度範囲に略トップハット型に分布する層傾き角度の方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【請求項2】
入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、隣接相互間で異なる屈折率を有して複数のステップインデックス型光導波路をなす複数の層が、フィルム面内の一方向に並んだ縞を形成し、フィルム厚さ方向に対して所定の角度範囲に1または2以上のピークを含み該ピーク以外は略トップハット型に分布する層傾き角度の方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【請求項3】
前記拡散フィルムの構造は、フィルム厚さLおよび縞の幅の最大値ymaxが次式を満たすものであることを特徴とする請求項1または2に記載のプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
L≧10×ymax
【請求項4】
入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、フィルム厚さ方向の一部位に、層厚さ方向に集光能力を発現する屈折率分布を有する光導波路をなす複数の層が、所定の範囲に略トップハット型に分布する層長さをもってフィルム厚さ方向または該方向から傾いた方向に延在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【請求項5】
前記拡散フィルムの構造は、前記光導波路の屈折率分布がグラジエントインデックス型であり、層の傾き角度θ、層長さの最大値Lzmax、最小値Lzminおよび光導波路のピッチPが次式を満たすものであることを特徴とする請求項4記載のプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
Lzmax−Lzmin≧(P/2)×cosθ
【請求項6】
入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、請求項1〜3のいずれかに記載の拡散フィルムと同じ構造の部分と請求項4または5に記載の拡散フィルムと同じ構造の部分とがフィルム厚さ方向またはフィルム面内方向に混在する構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。
【請求項7】
入射光拡散角度領域から入射した光を出射光拡散角度領域に拡散させる拡散フィルムからなるプロジェクションディスプレイ用スクリーンにおいて、前記拡散フィルムは、請求項1〜3のいずれかに記載の拡散フィルムの構造と請求項4または5に記載の拡散フィルムの構造とが融合してなる構造を有することを特徴とするプロジェクションディスプレイ用スクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−84563(P2006−84563A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267170(P2004−267170)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(592235008)株式会社東北テクノブレインズ (19)
【Fターム(参考)】