説明

プロセス管理システム

【課題】HART通信対応機器を採用する場合であっても、比較的安価なコストでシステムを再構築する。
【解決手段】HART通信信号を送受信するHART通信対応機器10と、HART通信対応機器10から受信したHART通信信号に含まれる直流信号とデジタル信号とをそれぞれ別の系統に送信するHART−IOユニット11と、HART−IOユニット11から送信された直流信号を通信バス18を介して受信する制御系統と、HART−IOユニット11から送信されたデジタル信号を通信ケーブル16を介して受信する監視系統と、HART−IOユニット11に接続可能な現場端末21と、を備え、制御系統および監視系統は同一のネットワーク上に形成され、現場端末21は、制御系統および監視系統から通信ケーブル16を介してHART−IOユニットの情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生産プロセスを管理する現場では、発信機能を有する各種のフィールド機器(例えばセンサやバルブ等)をプラントに設置し、フィールド機器から発信される信号をシステムに取り込むことで、各種の生産プロセスを管理している。生産プロセスを管理するシステムとして、例えばセンサから取得した流量や温度、圧力等に基づいてバルブの開度等を制御するものがある。近年、このようなプロセス管理システムに接続されるフィールド機器として、HART(Highway Addressable Remote Transducer)通信機能を搭載したもの(以下、「HART通信対応機器」という。)が採用されている。HART通信対応機器は、測定値や制御値を示す4〜20mAの直流信号に、デジタル信号の論理を1200Hzと2200Hzとの周波数信号に割り当てて表した交流信号を重畳することで生成される信号(以下、「HART通信信号」という。)を入出力する。つまり、HART通信対応機器は、測定値や制御値の他に、各種の情報を付加してやりとりすることができる。下記特許文献1および特許文献2には、HART通信対応機器を用いたシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−186503号公報
【特許文献2】特許第4129715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した各特許文献のシステムでは、通信バスやコントローラでHART通信信号を使用している。一般に、プロセス管理システムの通信バスやコントローラは、4〜20mAの直流信号を使用することを前提にして設計されている。したがって、通信バスやコントローラで4〜20mAの直流信号にデジタル信号(交流信号)を重畳したHART通信信号を用いる場合には、通信バスをより高速な通信バスに交換し、コントローラをより処理能力の高いコントローラに交換する必要がある。しかしながら、通信バスやコントローラを交換するには、多大なコストを要する。
【0005】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、HART通信対応機器を採用する場合であっても、比較的安価なコストでシステムを再構築することができるプロセス管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプロセス管理システムは、第1信号に第2信号を重畳して生成されるHART通信信号を送受信するHART通信機能を有するHART通信対応機器と、前記HART通信対応機器と前記HART通信信号を送受信し、前記HART通信対応機器から受信した前記HART通信信号に含まれる前記第1信号と前記第2信号とをそれぞれ別の系統に送信する入出力装置と、前記入出力装置により送信される前記第1信号を、第1ラインを介して受信し、当該第1信号に基づいてプロセスを制御する制御系統と、前記入出力装置により送信される前記第2信号を、第2ラインを介して受信し、当該第2信号に基づいて前記HART通信対応機器の状態を監視する監視系統と、前記入出力装置または前記第2ライン上に接続可能な端末と、を備え、前記制御系統および前記監視系統は、同一のネットワーク上に形成され、前記端末は、前記入出力装置から前記制御系統および前記監視系統にそれぞれ送信される情報を、前記第2ラインを介して前記制御系統および前記監視系統から受信する。
【0007】
かかる構成を採用することで、HART通信対応機器とHART通信信号を送受信する入出力装置に対して、第1ラインを介して制御系統を接続し、第1ラインとは別の経路となる第2ラインを介して監視系統を接続することができる。これにより、入出力装置において、監視系統と制御系統とを独立して別個に管理することが可能となる。
【0008】
また、前記入出力装置または前記第2ライン上に接続可能な電話機を、さらに備えることとしてもよい。
【0009】
さらに、前記第1信号は4〜20mAの直流信号であり、前記第2信号はデジタル信号の論理を、異なる周波数信号に割り当てて表される交流信号であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、HART通信対応機器を採用する場合であっても、比較的安価なコストでシステムを再構築することができるプロセス管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態におけるプロセス管理システムの構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【0013】
まず、図1を参照して、実施形態におけるプロセス管理システムの構成について説明する。図1に示すように、プロセス管理システム1は、HART通信対応機器10i、10oと、HART通信機能を有する入出力装置(以下、「HART−IOユニット」という。)11i、11oと、フィールド機器12i、12oと、IOユニット13i、13oと、HUB14と、機器監視装置15と、コントローラ17と、運転操作装置19と、現場端末21と、を有する。
【0014】
なお、HART通信対応機器10i、10o、HART−IOユニット11i、11o、フィールド機器12i、12o、およびIOユニット13i、13oについては、以下において特に区別して記載する必要がない場合に、それぞれHART通信対応機器10、HART−IOユニット11、フィールド機器12、およびIOユニット13と記載する。
【0015】
本実施形態では、HUB14および機器監視装置15が、HART通信対応機器10の状態等を監視する監視系統を構成し、コントローラ17および運転操作装置19が、プロセスを制御する制御系統を構成する。
【0016】
監視系統を構成する機器監視装置15とHART−IOユニット11との間は、例えば、イーサネット(登録商標)規格の通信ケーブル16を用い、HUB14を介して接続される。制御系統を構成するコントローラ17とHART−IOユニット11およびIOユニット13との間は、例えば、通信バス18で接続される。機器監視装置15と運転操作装置19とは、例えば、イーサネット(登録商標)規格の通信ケーブル20で接続されている。
【0017】
HART通信対応機器10iおよびフィールド機器12iとしては、例えば、流量センサや圧力センサ、温度センサ等の各種センサを用いることができる。一方、HART通信対応機器10oおよびフィールド機器12oとしては、例えば、流量制御弁や圧力制御弁等のバルブまたはポンプやファン等のアクチュエータを用いることができる。
【0018】
HART通信対応機器10は、HART通信機能を搭載したフィールド機器であり、HART通信信号を入出力する。HART通信信号は、4〜20mAの直流信号に、デジタル信号の論理を1200Hzと2200Hzとの周波数信号に割り当てて表した交流信号を重畳することで生成される信号である。
【0019】
上記4〜20mAの直流信号は、HART通信対応機器10やフィールド機器12ごとに設定される一つの変数の値を示す信号である。変数の値としては、例えば、流量、圧力、温度等の測定値や、弁開度等の制御値が該当する。上記デジタル信号は、例えば、HART通信対応機器10内で収集可能な各種のデータを示す信号である。各種のデータとしては、例えば、HART通信対応機器10におけるプロセス情報や、HART通信対応機器10に組み込まれているハードウェアの故障情報が該当する。なお、HART通信対応機器10の測定値や制御値を、上記各種のデータに含めることとしてもよい。
【0020】
HART通信対応機器10は、例えば、以下のようにしてHART通信信号を生成する。最初に、HART通信対応機器10は、例えば1と0とで表されるデジタル信号を、それぞれ1200Hzの周波数信号と2200Hzの周波数信号とに割り当てて交流信号に変換する。続いて、HART通信対応機器10は、変換後の交流信号を、測定値や制御値等を示す4〜20mAの直流信号に重畳する。これにより、HART通信信号が生成される。
【0021】
HART−IOユニット11は、HART通信対応機器10との間でHART通信信号を送受信するとともに、制御系統または監視系統との間で4〜20mAの直流信号またはデジタル信号を送受信する入出力装置である。HART−IOユニット11は、例えば、以下のようにしてHART通信信号から4〜20mAの直流信号とデジタル信号とを生成する。最初に、HART−IOユニット11は、受信したHART通信信号を、1200Hzの周波数信号および2200Hzの周波数信号の組み合わせで表される交流信号と4〜20mAの直流信号とに分離する。続いて、HART−IOユニット11は、分離後の交流信号を、1と0とで表されるデジタル信号に変換する。
【0022】
機器監視装置15は、HART−IOユニット11から出力されたデジタル信号を、通信ケーブル16およびHUB14を介して受信する。機器監視装置15は、受信したデジタル信号に基づいて、HART通信対応機器10でのプロセスの実行状況や、HART通信対応機器10に組み込まれているハードウェアの故障状況、HART通信対応機器10のメンテナンスおよび修理の必要時期等を診断する。機器監視装置15は、診断結果等をモニタ(不図示)に表示する。これにより、運用者は、HART通信対応機器10を監視することができる。さらに、機器監視装置15は、通信ケーブル20を経由して、ハードウェアの故障状況等を運転操作装置19に送信する。
【0023】
コントローラ17は、HART通信対応機器10やフィールド機器12を監視、制御することで、生産プロセスの実施状態を制御する。具体的に、例えば、コントローラ17は、HART通信対応機器10iまたはフィールド機器12iの4〜20mAの直流信号から取得した流量や圧力等の測定値に基づいて、HART通信対応機器10oまたはフィールド機器12oを4〜20mAの直流信号で制御することにより、バルブの開度等を調節する。
【0024】
運転操作装置19は、コントローラ17で受信した4〜20mAの直流信号に基づいてHART通信対応機器10およびフィールド機器12の運転内容をモニタ(不図示)に表示するとともに、コントローラ17で処理された警報を監視する。これにより、運用者は、HART通信対応機器10およびフィールド機器12の運転内容を把握することが可能となる。運転操作装置19は、運用者の操作指示に従って、HART通信対応機器10またはフィールド機器12の運転状態を操作する。運転状態の操作内容としては、例えば、バルブの開度等の調節、機器の起動操作や停止操作等が該当する。
【0025】
このように、本実施形態におけるプロセス管理システム1では、HART通信対応機器10とHART通信信号を送受信するHART−IOユニット11に対して、通信バス18を介して制御系統を接続し、通信バス18とは別の経路となる通信ケーブル16を介して監視系統を接続することができる。これにより、HART−IOユニット11の上位側において、監視系統と制御系統とを独立して別個に管理することが可能となる。
【0026】
したがって、例えば、制御系統のみを有する既存のシステムに監視系統を追加する場合であっても、制御系統をそのまま使用し、かつ制御系統に影響を及ぼすことなく、監視系統を追加することが可能となる。つまり、4〜20mAの直流信号を使用するシステムから、HART通信信号を使用するシステムに再構築する場合であっても、既存の通信バスやコントローラを交換する必要がない。それゆえに、HART通信対応機器10を採用する場合であっても、比較的安価なコストでシステムを再構築することが可能となる。
【0027】
図1に示す現場端末21は、任意のHART−IOユニット11に対し、ケーブル22を用いて適宜接続可能な端末である。現場端末21は、例えばノート型パーソナルコンピュータであってもよいし、携帯情報端末であってもよい。
【0028】
現場端末21は、HART−IOユニット11から監視系統と制御系統とに分離して送信された情報を、通信ケーブル16、HART−IOユニット11およびケーブル22を介して、機器監視装置15と運転操作装置19とからそれぞれ取得する。具体的に、現場端末21は、接続したHART−IOユニット11から、当該HART−IOユニット11を一意に特定する識別IDを取得し、この識別IDを含むリクエストを、機器監視装置15および運転操作装置19に送信する。現場端末21からリクエストを受信した機器監視装置15および運転操作装置19は、リクエストに含まれる識別IDに対応する情報を、現場端末21に送信する。これにより、現場端末21は、HART−IOユニット11から機器監視装置15および運転操作装置19に送信された情報を取得することができる。
【0029】
ここで、上述したように、HART−IOユニット11は、HART通信対応機器10から受信したHART通信信号のうち、デジタル信号に対応する情報を、通信ケーブル16およびHUB14を介して機器監視装置15に送信する。一方、HART−IOユニット11は、HART通信対応機器10から受信したHART通信信号のうち、4〜20mAの直流信号に対応する情報を、通信バス18を介してコントローラ17に送信する。そして、コントローラ17に送信された情報は、コントローラ17から通信ケーブル20を介して運転操作装置19に送信される。
【0030】
つまり、HART−IOユニット11は、HART通信対応機器10から受信したHART通信信号に含まれる情報を2種類の情報に分離し、分離した情報を監視系統と制御系統とにそれぞれ分けて送信する。このようなプロセス管理システムにおいて、例えば、監視系統や制御系統で故障が発生する等した場合には、HART−IOユニット11から送信された情報の一部または全部が、機器監視装置15や運転操作装置19に伝送されない事態が起き得る。
【0031】
情報が伝送されない場合には、HART通信対応機器10やHART−IOユニット11が保有する情報と、機器監視装置15や運転操作装置19が保有する情報との間に、不一致が生ずる。つまり、現場の作業員が把握可能な内容とシステムの運用者が把握可能な内容との間に不一致が生ずる。
【0032】
監視系統や制御系統が保有する情報を現場側から確認する場合、作業員が携帯電話やトランシーバ等を用いて運用者と通話をしながら確認することも考えられる。しかしながら、この確認方法では、プラント内で無線通信を行うことになるため、プラント内に配備されている様々な電子機器に対して影響を来すおそれがある。したがって、この確認方法を採用することは好ましくない。
【0033】
これに対して、本実施形態におけるプロセス管理システム1によれば、HART−IOユニット11に接続した現場端末21が、通信ケーブル16およびHUB14を経由して機器監視装置15にアクセスし、さらに通信ケーブル20を経由して運転操作装置19にアクセスすることで、機器監視装置15および運転操作装置19からHART−IOユニット11によって送信された情報を取得することができる。これにより、作業者は、現場端末21が取得した情報と、現場に配備されているHART通信対応機器10やHART−IOユニット11が保有する情報とを、現場で比較することができる。そして、この比較によって、HART−IOユニット11から送信された情報が機器監視装置15および運転操作装置19に間違いなく伝送されているか否かを判断することが可能となる。
【0034】
また、機器監視装置15および運転操作装置19にアクセスする経路として、通信ケーブル16を使用するため、通信バス18を経路として使用する制御系統の処理に負荷をかけることもない。
【0035】
さらに、上述したように、通信ケーブル16およびHUB14は、機器監視装置15とHART−IOユニット11との通信に使用されており、通信ケーブル20は、機器監視装置15と運転操作装置19との通信に使用されているため、現場端末21は、通信ケーブルやHUBを新たに設けることなく、機器監視装置15や運転操作装置19との通信を実現することができる。
【0036】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、現場端末21をHART−IOユニット11に接続しているが、現場端末21を接続する箇所はHART−IOユニット11に限定されない。作業員が作業する現場付近にあり、かつ、HART−IOユニット11と機器監視装置15とを接続する通信ケーブル16上にあれば、他の箇所(例えばHUB14)であってもよい。現場端末21をHART−IOユニット11以外に接続する場合には、例えば、HART−IOユニット11を特定する識別IDを現場端末21から入力する等して、情報を取得する対象となるHART−IOユニット11を特定することとすればよい。
【0037】
また、上述した実施形態におけるプロセス管理システム1において、HART−IOユニット11に有線接続方式の電話機を接続することとしてもよい。これにより、現場の作業員が運用者と連絡をとる際に、無線通信を使用せずに、有線通信で通話することができるため、プラント内に配備されている電子機器に影響を及ぼすこともない。また、有線接続方式の電話機を接続する箇所は、HART−IOユニット11に限定されず、上述した現場端末21と同様に他の箇所(例えばHUB14)であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…プロセス管理システム、10…HART通信対応機器、11…HART−IOユニット、12…フィールド機器、13…IOユニット、15…機器監視装置、16…通信ケーブル、17…コントローラ、18…通信バス、19…運転操作装置、20…通信ケーブル、21…現場端末、22…ケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号に第2信号を重畳して生成されるHART通信信号を送受信するHART通信機能を有するHART通信対応機器と、
前記HART通信対応機器と前記HART通信信号を送受信し、前記HART通信対応機器から受信した前記HART通信信号に含まれる前記第1信号と前記第2信号とをそれぞれ別の系統に送信する入出力装置と、
前記入出力装置により送信される前記第1信号を、第1ラインを介して受信し、当該第1信号に基づいてプロセスを制御する制御系統と、
前記入出力装置により送信される前記第2信号を、第2ラインを介して受信し、当該第2信号に基づいて前記HART通信対応機器の状態を監視する監視系統と、
前記入出力装置または前記第2ライン上に接続可能な端末と、を備え、
前記制御系統および前記監視系統は、同一のネットワーク上に形成され、
前記端末は、前記入出力装置から前記制御系統および前記監視系統にそれぞれ送信される情報を、前記第2ラインを介して前記制御系統および前記監視系統から取得する、
ことを特徴とするプロセス管理システム。
【請求項2】
前記入出力装置または前記第2ライン上に接続可能な電話機を、さらに備えることを特徴とする請求項1記載のプロセス管理システム。
【請求項3】
前記第1信号は4〜20mAの直流信号であり、前記第2信号はデジタル信号の論理を異なる周波数信号に割り当てて表される交流信号である、ことを特徴とする請求項1または2記載のプロセス管理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−243008(P2012−243008A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111254(P2011−111254)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】