プロトン導電体、及びその製造方法、並びに炭素量検出センサ
【課題】高いプロトン導電性を発揮できると共に、機械的強度に優れたプロトン導電体及びその製造方法、並びに、該プロトン導電体を用いた炭素量検出センサを提供すること。
【解決手段】4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体及びその製造方法である。プロトン導電体は、多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、多孔質焼結体を加熱することにより製造することができる。また、炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサである。炭素量検出センサは、少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備する。
【解決手段】4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体及びその製造方法である。プロトン導電体は、多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、多孔質焼結体を加熱することにより製造することができる。また、炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサである。炭素量検出センサは、少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質焼結体の少なくとも表面及び細孔壁に4価の金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体及びその製造方法、並びに該プロトン導電体を用いた炭素量検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の電解質等の用途に適した、温度100℃以上の環境下において高いプロトン導電率を示すプロトン導電体の研究が盛んに行われている。その中で、金属ピロリン酸塩のMP2O7(MはSi、Ge、Sn、Ti)は、100〜400℃の中温域で高いプロトン導電率を示す材料として注目されている(非特許文献1を参照)。
しかし、MP2O7は難焼結性材料であるため、その使用形態はMP2O7粉末の加圧成型体に限られる。したがって、十分な機械強度を有するプロトン導電体を得ることは困難であった。また、粉末の加圧成形体であるため、ガスリークも問題となるため、気密性が要求される用途に適用することは困難であった。
【0003】
かかる問題点に対して、金属ピロリン酸塩の表面に過剰のリン酸を共存させる技術(特許文献1参照)や、従来知られている金属ピロリン酸塩化合物の前駆体物質を変更することによって、緻密な加圧成型体を得る技術(特許文献2参照)が開発されている。
また、金属ピロリン酸塩と含窒素系有機高分子化合物、及び合成樹脂を複合化し、機械強度とガスバリア性を向上させた電解質膜が開発されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/083835号パンフレット
【特許文献2】特開2009−249194号公報
【特許文献3】特開2010−103000号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エム・ナガオ・エト・オール(M.Nagao et al)、ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサエティ(Journal of the Electrochemical Society)、米国、2006年、第153巻、第8号、p.A1604−A1609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のピロリン酸塩からなる成形体は、粉末の加圧成形体に過ぎないため、機械強度が不十分であるという問題がある。また、ピロリン酸塩と有機化合物との複合体は、耐熱性に懸念がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高いプロトン導電性を発揮できると共に、機械的強度に優れたプロトン導電体及びその製造方法、並びに、該プロトン導電体を用いた炭素量検出センサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されていることを特徴とするプロトン導電体にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体の製造方法であって、
上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させることを特徴とするプロトン導電体の製造方法にある(請求項3)。
【0010】
第3の発明は、炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサであって、
少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、
上記測定電極を被測定ガスに対向させ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離させてあり、
上記プロトン導電体は、請求項1に記載のものであることを特徴とする炭素量検出センサにある(請求項7)。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明のプロトン導電体においては、上記多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されている。そのため、4価金属のピロリン酸塩の優れたプロトン導電性を生かして、上記プロトン導電体は、高温で高いプロトン導電性を示すことができる。
【0012】
また、上記プロトン導電体において、上記ピロリン酸塩は、上記多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に形成されている。そのため、上記プロトン導電体は、焼結体としての優れた機械的強度を示すことができ、従来の粉末の加圧成形体に比べて優れた機械的強度を発揮することができる。
また、上記プロトン導電体において、ピロリン酸塩は上記多孔質焼結体の細孔内にまで形成されている。そのため、上記プロトン導電体は、緻密でガスリークを防止することができる。それ故、燃料電池や後述の炭素量検出センサ等のように気密性が要求される用途に好適である。
【0013】
次に、第2の発明の製造方法においては、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体に、リン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱する。これにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に4価の上記金属元素のピロリン酸塩を生成させることができる。即ち、第1の発明の構成のプロトン導電体を製造することができ、該プロトン導電体は、上記のごとく、高温環境下においても高いプロトン導電性を発揮できると共に、優れた機械的強度を発揮することができる。
【0014】
上記製造方法においては、上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱させている。そのため、上記多孔質焼結体を構成する4価の金属元素と、リン酸とが反応して、4価の金属カチオンのピロリン酸塩が生成する。このピロリン酸塩は、上記多孔質焼結体の表面や細孔壁のみならず、細孔内にまで形成される。これは、生成して析出したピロリン酸塩が細孔内を埋めるためであると考えられる。その結果、ガスリークのほとんどない緻密で気密性の高い上記プロトン導電体を得ることができる。
【0015】
次に、第3の発明の炭素量検出センサにおいては、上記電源から上記電極間への通電により、上記測定電極上で被測定ガス中の炭素成分を電気化学反応により酸化しつつ炭素量の検出が可能となる。特に、上記炭素量検出センサにおいては、高いプロトン導電性を示す上記第1の発明のプロトン導電体を用いてあるため、感度の高い炭素量検出センサを実現することができる。
【0016】
また、上記炭素量検出センサは、例えば自動車の排ガス中に含まれるパティキュレートマター(PM)等の炭素物質の検出に用いることができるが、自動車のような振動や衝撃を受けやすい環境下に適用しても、上記プロトン導電体の優れた機械的強度を生かして、破損などが発生することを防止することができる。
また、上記プロトン導電体は気密性に優れている。そのため、上記炭素量検出センサに適用してもガスリークを防止することができ、長期に渡って高い信頼性を維持できる炭素量検出センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)の表面のXRDパターンを示す説明図。
【図2】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)の内部のXRDパターンを示す説明図。
【図3】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(b)。
【図4】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)についてのSn元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)についてのSn元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(b)。
【図5】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)についてのP元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)についてのP元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(b)。
【図6】実施例1における、プロトン導電体の気密性評価装置の構成を展開図で示した説明図。
【図7】実施例1における、プロトン導電体の気密性評価装置の構成を断面図で示した説明図。
【図8】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)と多孔質焼結体(試料C1)についての温度とリーク水素ガス濃度との関係を示す説明図。
【図9】実施例2における、プロトン導電体の導電性評価装置の構成を展開図で示した説明図。
【図10】実施例2における、プロトン導電体(試料E1〜試料E6)及び多孔質焼結体(試料C1)についての温度と導電率との関係を示す説明図。
【図11】実施例3における、プロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)及び多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)についての温度と導電率との関係を示す説明図。
【図12】実施例4における、炭素量検出センサの主要構成の概略を示す説明図。
【図13】実施例4における、炭素量検出センサに用いられる炭素量検出素子の構成部材の展開図を示す説明図。
【図14】実施例4における、炭素量検出センサによる、測定時間と検出電流との関係を示す説明図。
【図15】実施例4における、炭素量検出センサによる、カーボン濃度と検出電流との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記プロトン導電体は、上述のごとく、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されている。
上記プロトン導電体は、上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させて製造することができる。
【0019】
4価の金属元素(4価の金属カチオン)としては、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、及びCe等を用いることができる(請求項2、請求項4)。
例えば、酸化スズ(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、ピロリン酸スズ(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。また、例えば酸化チタン(IV)又は酸化珪素(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、それぞれピロリン酸チタン(IV)又はピロリン酸珪素(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。また、例えば酸化ゲルマニウム(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、又は酸化セリウム(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、それぞれピロリン酸ゲルマニウム(IV)、ピロリン酸ジルコニウム(IV)、又はピロリン酸セリウム(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。
【0020】
好ましくは、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Ce、又はZrであることがよい。
この場合には、上記プロトン導電体のプロトン導電性をより向上させることができる。さらに好ましくはSnがよい。
【0021】
また、上記製造方法において、リン酸を含む液体と接触させて加熱する前の上記多孔質焼結体としては、気孔率10〜50%のものを採用することが好ましい。気孔率が10%未満の場合には、細孔壁及び細孔内にまで十分な量のピロリン酸塩を形成することができなくなるおそれがある。一方、50%を超える場合には、上記プロトン導電体の気密性が損なわれるおそれがある。気孔率の下限は、20%がより好ましく、30%がさらにより好ましい。気孔率の上限は、45%がより好ましく、40%がさらにより好ましい。
【0022】
気孔率は、例えば以下のようにして測定することができる。
具体的には、まず、多孔質焼結体の質量と体積から嵩密度を算出する(嵩密度=質量÷体積)。次いで、算出した嵩密度と真密度(文献値)とから相対密度を算出する(相対密度=嵩密度÷真密度)。次に、相対密度から気孔率を算出する(気孔率=(1−相対密度)×100)。
【0023】
上記製造方法において、リン酸を含む液体としては、リン酸水溶液を用いることができる。上記製造方法においては、例えば、上記多孔質焼結体をリン酸水溶液に浸漬した後に、加熱する方法や、密閉容器中で上記多孔質焼結体を少なくとも部分的にリン酸水溶液に浸した状態で加熱する方法等を採用することができる。
【0024】
上記多孔質焼結体の加熱は、温度200〜700℃で行うことが好ましい(請求項5)。この場合には、多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内にまで十分にピロリン酸塩を形成させることができる。そのため、得られるプロトン導電体のプロトン導電性、機械的強度、気密性をより向上させることができる。
温度200℃未満の場合には、ピロリン酸塩を十分に生成させることができず、プロトン導電性等の特性を十分に向上させることが困難になるおそれがある。一方、温度700℃を超える場合には、多孔質焼結体にクラックが発生し、気密性やプロトン導電性などの特性が低下してしまうおそれがある。より好ましくは、加熱温度は300℃以上、650℃以下がよく、さらに好ましくは400℃以上がよい。
【0025】
加熱時には、上記のごとく、4価の金属元素(4価の金属カチオン)のピロリン酸塩が生成する。このとき、ピロリン酸塩が生成すると共に、ピロリン酸塩にリン酸や水(水和水)が析出・結合する場合があると考えられる。そして、これらのリン酸や水もプロトン導電体の導電性に寄与していると考えられる。
【0026】
上記多孔質焼結体は、焼成時に焼失する焼失材料と上記金属元素の酸化物とを混合し、成形し、焼成してなることが好ましい(請求項6)。
この場合には、簡単に上記金属元素の酸化物からなる上記多孔質焼結体を得ることができる。
【0027】
上記焼失材料としては、例えばカーボン等を採用することができる。
上記焼失材料は、上記金属元素の酸化物100質量部に対して例えば1〜20質量部添加することができる。好ましくは、焼失材料は酸化物100質量部に対して2.0〜10質量部がよく、より好ましくは2.0〜8.7質量部がよい。
【0028】
次に、上記炭素量検出センサは、上記プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備する。具体的には、炭素量検出センサは、例えば板状のプロトン導電体と、その対向する一対の表面に形成した一対の電極対とからなり、これらの電極対のうち一方が測定電極、他方が基準電極となる。そして、電極対に電気的に接続された電源を備える。
【0029】
上記炭素量検出センサにおいては、上記電源から上記電極間への通電により、被測定ガス中に存在する炭素成分と水蒸気とを上記測定電極上において電気化学反応させることが好ましい。
この場合には、被測定ガス中に存在する水蒸気の電気分解によって発生した極めて酸化力の強い活性酸素によって非測定ガス中の炭素成分を酸化させることができる。したがって、測定電極上に非測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することがなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0030】
具体的には、上記電極対に所定の電流を流し、上記電極対間に発生する電位を測定する電位計測手段を具備することが好ましい。
この場合には、電位を常時モニタリングすることにより、所定の電流値に対する電位の変化によって、被測定ガス中の炭素量を正確に算出することができる。したがって、測定電極上に非測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することがなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0031】
また、上記電極対に所定の電圧を印加し、上記電極対間に流れる電流を測定する電流計測手段を具備する構成とすることもできる。
この場合には、被測定ガス中の炭素成分を酸化しつつ、検出された電流値により炭素量を算出することができる。したがって、測定電極上に被測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0032】
また、上記炭素量検出センサにおいて、上記測定電極及び上記基準電極は、例えば金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又はサーメット電極から構成することができる(請求項8)。
【0033】
また、上記炭素量検出センサにおいて、通電により上記プロトン導電体を所定の温度に加熱する発熱部を具備することが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記プロトン導電体の温度を安定させることができ、より高い精度で被測定ガス中の炭素量を検出することが可能になる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明のプロトン導電体の実施例について図1〜図8を用いて説明する。
本例においては、酸化スズ(IV)(SnO2)からなる多孔質焼結体の細孔壁、細孔内に、ピロリン酸スズ(IV)(SnP2O7)が形成されたプロトン導電体を製造する。その製造にあたっては、酸化スズ(IV)からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱する。
【0035】
以下、本例のプロトン導電体の製造方法につき、詳細に説明する。
具体的には、まず、以下のようにして酸化スズ(IV)(SnO2)からなる多孔質焼結体を製造した。
【0036】
即ち、まず、酸化スズ(IV)と、焼結助剤としての酸化亜鉛(ZnO)とをモル比でSnO2:ZnO=99:1となるように混合した。次いで、混合粉をエタノール中で回転速度250rpmの遊星ボールミルを用いて6時間粉砕し、その後乾燥した。次いで、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボン8.7質量部と、バインダーとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.5質量部とを添加し、混合した。その後、混合材料を圧力2MPaで円盤状に加圧成形した。次に、成形体を温度1500℃で10時間熱処理した。このようにして、酸化スズ(IV)からなる、厚み1mm、直径φ13.5mm、気孔率39.7%の円盤状の多孔質焼結体を製造した。これを試料C1とする。
【0037】
次に、多孔質焼結体の表面を研磨した後、耐熱性容器内に載置し、この容器内に多孔質焼結体が浸る程度の量の濃度85wt%のリン酸水溶液を入れた。次いで、温度600℃で4時間加熱した。その後、超音波洗浄機を用いて脱イオン水で洗浄し、温度100℃で乾燥してプロトン導電体を得た。これを試料E1とする。
【0038】
上記のようにして作製した試料E1の表面及び内部について、CuKα線を用いたX線回折測定(XRD、2θ法)を行った。その結果(XRDパターン)を図1及び図2に示す。図1は、試料E1の表面のXRDパターンを示し、図2は、試料E1の内部のXRDパターンを示す。図1及び図2においては、いずれも横軸は回折角2θ(°)を示し、縦軸は強度比を示す。また、図1及び図2においては、SnP2O7由来のピーク位置を□で示し、SnO2由来のピーク位置を△で示す。
【0039】
図1及び図2より知られるごとく、試料E1のプロトン導電体においては、表面及び内部においては、SnO2由来ピークとは異なる回折ピーク、即ちSnP2O7由来の回折ピークが確認された。
図1及び図2においては明確に示していないが、上記試料E1とはリン酸水溶液に浸して加熱するときの温度を変えて作製した試料(プロトン導電体)についても同様のX線回折測定を行ったところ、加熱温度を大きくするにつれてSnP2O7由来の回折ピークの強度が大きくなる傾向にあることを確認している。
【0040】
また、本例においては、プロトン導電体(試料E1)の作製に用いたリン酸水溶液中に浸漬する前の多孔質焼結体(試料C1)、及びプロトン導電体(試料E1)を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その観察結果(SEM写真)を図3(a)及び図3(b)に示す。図3(a)は、試料C1の多孔質焼結体についてのSEM写真を示し、図3(b)は、試料E1のプロトン導電体についてのSEM写真を示す。
【0041】
また、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて、試料C1及び試料E1について、Sn元素及びP元素の分布を調べた。
試料C1についてのSn元素を対象としたEDX像を図4(a)に示し、試料E1についてのSn元素を対象としたEDX像を図4(b)に示す。また、試料C1についてのP元素を対象としたEDX像を図5(a)に示し、試料E1についてのP元素を対象としたEDX像を図5(b)に示す。
なお、図4(a)及び(b)、図5(a)及び(b)においては、EDX像の右下に対象とする元素(Sn又はP)の種類を示し、また「La1」は特性X線のLα1線による検出であることを示し、「Ka1」は特性X線のKα1線による検出であることを示す。
【0042】
図3〜図5、及び上述の図1及び図2の結果より知られるごとく、試料C1においては、SnP2O7は形成されておらず、細孔内は空隙のままであるのに対し、試料E1においては、SnP2O7が多孔質焼結体の表面及び細孔壁に形成されており、さらに細孔内にもSnP2O7が形成され、細孔の空隙が埋められていることがわかる。
【0043】
次に、試料E1のプロトン導電体について、気密性の評価を行った。
具体的には、図6及び図7に示すごとく、まず、円盤状のプロトン導電体1(試料E1)を2本のガス管191、192の間に挟み込み、ガス管191、192とプロトン導電体1との間をそれぞれガラスシール181、182で密封した。ガス管191、192は、図7に示すごとく、中心管191a、192aとこれよりも径の大きな外周管191b、192bとから構成され、外周管191b、192b内に、中心管191a、192aが挿入された二重構造になっている。そして、ガス管191、192は、中心管191a、192a内にガスが供給されると、外周管191b、192bから排出されるように構成されている。
【0044】
次に、ガス管191、192で挟んだプロトン導電体1を縦型管状炉(図示略)に配置した。そして、縦型管状炉の上方からガス管191の中心管191a内にH2を10体積%含むアルゴンガスを供給し、縦型管状炉の下方からガス管192の中心管192a内にアルゴンガスを供給した。そして、縦型管状炉の下方側のガス管192のガス排気口に取り付けたガスクロマトグラフィ(図示略)により、下方のガス管192(外周管192b)から排出されるガスに含まれる水素濃度を検出した。即ち、かかる評価試験においては、プロトン導電体1がガスをリークする場合には、上方のガス管191から供給した水素ガスがプロトン導電体1を透過して下方のガス管192から排出されてガスクロマトグラフィにより検出される。水素濃度の検出は、縦型管状炉内の温度200〜700℃という条件で行った。その結果を図8に示す。
また、比較用として、プロトン導電体1(試料E1)の代わりに多孔質焼結体(試料C1)を用いて同様の気密性の評価試験を行った。その結果を図8に示す。
【0045】
図8において、横軸は、測定温度(℃)を示し、縦軸は、試料E1又は試料C1を透過してリークした水素ガスの濃度(%)を示す。
【0046】
図8より知られるごとく、試料C1の多孔質焼結体においては、温度200〜700℃の範囲において、水素ガスが検出されており、多孔質焼結体を水素ガスが透過してリークしていることがわかる。これは、多孔質焼結体の細孔の空隙から水素ガスリークしたためである。
一方、試料E1のプロトン導電体においては、温度200〜700℃の範囲において、水素は検出されず、水素ガスを透過させていないことがわかる。これは、プロトン導電体においては、多孔質焼結体の細孔の空隙が上述のピロリン酸スズで埋められ、緻密化しているためである。
【0047】
したがって、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成された緻密なプロトン導電体(試料E1)が得られることがわかる。かかるプロトン導電体は、焼結体から構成されているため従来の加圧成形体からなるプロトン導電体に比べて優れた機械的強度示し、さらに上述のごとく優れた気密性を発揮することができる。
【0048】
(実施例2)
次に、本例においては、実施例1の試料E1とは、製造条件を変更して複数のプロトン導電体を作製し、その導電性を評価する例である。
具体的には、まず、リン酸水溶液に浸した後の加熱温度を試料E1とは変更して、さらに5種類のプロトン導電体(試料E2〜E6)を作製した。
【0049】
具体的には、試料E2は、リン酸水溶液に浸した後、温度200℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E3は、リン酸水溶液に浸した後、温度300℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E4は、リン酸水溶液に浸した後、温度400℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E5は、リン酸水溶液に浸した後、温度500℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E6は、リン酸水溶液に浸した後、温度700℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E2〜試料E6は、上述の加熱温度を変更した点を除いては、試料E1と同様にして作製した。
【0050】
次に、試料E1〜試料E6のプロトン導電体について、導電性の評価を行った。
具体的には、図9に示すごとく、円盤状のプロン導電体(試料E1〜E6)の両面に、一対の金電極171、172を形成した。金電極171、172は、プロトン導電体1の両面に金スラリーを面積0.785cm2で印刷し、温度105℃で乾燥後、温度400℃で2時間焼成することにより形成した。一対の金電極171、172が形成されたプロトン導電体は、セル(電池)を構成する。
【0051】
次いで、プロトン導電体1に形成された一対の金電極171、172上に、それぞれ白金からなる集電体161、162を重ね、一方の集電体161に一対のリード線141、151を電気的に接続し、他方の集電体162にも一対のリード線142、152電気的に接続した。
そして、集電体161、162で挟んだセル(金電極171、172を形成したプロトン導電体1)を縦型管状炉に配置した。そして、大気雰囲気下、室温〜700℃の温度域で、交流四端子法(振幅電圧:10mV、測定周波数域:10〜106Hz)により、導電率を測定した。その結果を図10に示す。
【0052】
また、比較用として、試料E1〜試料E6のプロトン導電体の代わりに多孔質焼結体(試料C1)を用いて、上述の方法と同様にして交流四端子法により導電率を測定した。その結果を図10に示す。
【0053】
図10において、横軸は測定温度のアレーニウムプロットである1000T-1(K-1)を示し、縦軸は導電率の対数(Scm-1)を示す。
【0054】
図10より知られるごとく、プロトン導電体(試料E1〜試料E6)の導電率は、多孔質焼結体(試料C1)に比べて向上していることがわかる。導電率は、温度600℃の加熱で作製した試料E1が最も優れていた。また、図10より知られるごとく、加熱温度を高くする程導電率は向上する傾向にあるが、温度700℃での加熱においては、導電率はむしろ低下していた。したがって、加熱温度は、300℃以上、650℃以下が好ましいことがわかる。さらに好ましくは400℃以上がよい。
【0055】
したがって、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより得られたプロトン導電体(試料E1〜E6)は、優れたプロトン導電性を発揮できることがわかる。
【0056】
(実施例3)
次に、本例においては、気孔率の異なる多孔質焼結体を用いて複数のプロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)を作製し、その導電率を測定することにより、多孔質焼結体の気孔率とプロトン導電性との関係を調べる例である。
具体的には、まず、焼失材料の添加量を変えることにより、気孔率の異なる3種類の多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)を作製した。
【0057】
試料C1は、上述の実施例1に示すように、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを8.7質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、39.7%である。
試料C2は、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを4.2質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、31.8%である。
試料C3は、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを2.0質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、22.8%である。
試料C2及び試料C3は、焼失材料の添加量を変更した点を除いては、実施例1における試料C1と同様にして作製した。
【0058】
次いで、各試料C1〜試料C3の多孔質焼結体を用いて、3種類のプロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)を作製した。
試料E1は、試料C1の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体であり、実施例1のプロトン導電体と同様のものである。
試料E7は、試料C2の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体であり、試料E8は、試料C3の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体である。
試料E7及び試料E8は、それぞれ試料C2及び試料C3の多孔質焼結体を用いた点を除いては、試料E1と同様にして作製した(実施例1参照)。
【0059】
次に、試料E1、試料E7、及び試料E8のプロトン導電体、並びに試料C1〜試料C3の多孔質焼結体について、実施例2と同様にして交流四端子法により導電率を測定した。その結果を図11に示す。同図において、横軸は測定温度のアレーニウムプロットである1000T-1(K-1)を示し、縦軸は、導電率の対数(Scm-1)を示す。
【0060】
図11に示すごとく、いずれの気孔率においても多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)は、導電性は不十分であったが、多孔質焼結体にピロリン酸スズを生成させたプロトン導電体(試料E1、試料E2、及び試料E3)は、優れた導電性を示した。また、気孔率が高い程導電性は向上する傾向にあることがわかる。
【0061】
(実施例4)
本例は、プロトン導電体を用いた炭素量検出センサの例である。
図12に示すごとく、本例の炭素量検出センサ3は、炭素成分を含む被測定ガス流路400内に載置し、被測定ガスG中の炭素量を検出するものである。
図12及び図13に示すごとく、炭素量検出センサ3は、少なくとも、プロトン導電体300と、その表面に形成した測定電極310と基準電極320とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源(直流電源)341とを具備する。炭素量検出センサ3においては、測定電極310を被測定ガスGに対向させ、かつ、基準電極320を被測定ガスGから隔離させてある。
【0062】
以下、本例の炭素量検出センサについて詳細に説明する。
本例の炭素量検出センサは、内燃機関の燃焼排気中の粒子状物質(パティキュレート・マター(PM))に由来する炭素量を正確に検出して、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF)の再生時期の判断や、DPFの性能劣化、破損などを検知するオンボード・ダイアグノーシス(OBD)や、燃焼排気中に燃料を噴射して、PMやNOxの低減を図るリッチスパイク制御等に利用することができる。
【0063】
図12に示すごとく、炭素量検出センサ3は、内燃機関(図示略)から排出される燃焼排気を被測定ガスGとし、被測定ガス流路壁4に固定され、被測定ガス流路400内に、炭素量検出素子30の測定部が載置される。
炭素量検出素子30は、実施例1の試料E1と同様にして作製した板状のプロトン導電体300と、その一方の表面に形成された測定電極310と、他方の表面に測定電極310に対向して形成された基準電極320とから構成されている。
【0064】
測定電極310は、被測定ガスG中に晒されている。一方、基準電極320は、プロトン排出路330を形成するプロトン排出路形成層331によって覆われ、被測定ガスGから離隔されている。
測定電極310と基準電極320とには、測定電極310側を正極として直流電源341が接続され、電極対間に所定の直流電圧を印加したときに電極対間に発生する電流を検出する電流検出手段342又は、電極対間に発生する電圧を検出する電圧検出手段343が接続され、さらに、電流検出手段342又は電圧検出手段343の検出結果に基づいて被測定ガス中の炭素量を算出する演算装置340が接続されている。
【0065】
被測定ガスGである燃焼排気中には、煤や未燃焼炭化水素(HC)、可溶性有機成分(SOF)、イオウ酸化物等からなる粒子状物質PMの他、燃料の燃焼生成物である水蒸気(H2O)が存在する。
測定電極310と基準電極320とからなる電極対間に所定の直流電圧を印加すると、下記式(1)に示す反応が起こり、測定電極110上では、水蒸気の電気化学反応によって活性酸素が生成され、この活性酸素によってPM中の炭素が燃焼し二酸化炭素を生成する。
C+2H2O → CO2+4H++4e- ・・・(1)
この際、プロトン導電体300内を水素イオンが移動するのに伴って、上記電極対間に流れる電流I又は、上記電極対間に発生する電圧Vは、測定電極310表面上で分解される炭素量と相関がある。
【0066】
したがって、電流検出手段342又は電圧検出手段343によって検出された電極対間に流れる電流I又は、電極対間に発生する電圧Vから測定電極310上で分解される炭素量、即ち、被測定ガス中に存在するPMの濃度を検出することができる。
また、水蒸気の電気化学反応によって生成された水素イオンは、プロトン導電体300内を移動して、基準電極320側に移動し、プロトン排出流路330内に導入されている大気中の酸素と反応し、H2Oとなって外部に排出される(図12参照)。
本例における炭素量検出センサ3では、測定電極310表面に接触するPMに含まれる炭素が電気化学反応によって発生する極めて酸化力の強い活性酸素種O*によって酸化されるので、センサ表面にPMが堆積してセンサ機能を低下するおそれがない。
【0067】
図13を参照して、本例n炭素量検出素子10のより具体的な構成並びに製造方法の概要について説明する。
本例において、プロトン導電体100は、実施例1の上記試料E1と同様にして作製した。本例においては、略平板状に形成されたプロトン導電体を採用した。
【0068】
図13に示すごとく、炭素量検出素子30において、プロトン導電体300の一方の面には、測定電極310、測定電極リード部311、測定電極端子部312、基準電極端子部322が形成され、他方の面には、基準電極320、基準電極リード部321が形成され、基準電極リード部321と基準電極端子部322とはプロトン導電体300を貫通するスルーホール電極323を介して接続されている。なお、測定電極310及び基準電極320は、金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又は、サーメット電極からなり、厚膜印刷、蒸着、メッキ等の公知の電極形成方法によって形成することができる。
測定電極リード部311、測定電極端子部312、基準電極リード部321、基準電極端子部322、スルーホール電極323は、電気伝導性の良好な金属を含み厚膜印刷、蒸着、メッキ等の公知の導体形成方法によって形成することができる。
【0069】
また、図13に示すごとく、本例の炭素量検出素子30においては、プロトン導電体300の基準電極320の形成された側に積層して、プロトン排出経路形成層331と基底層332とが形成されている。
プロトン排出経路形成層331と基底層332とは、例えば、アルミナAl2O3等の絶縁性セラミックスが用いられ、ドクターブレード法や加圧成型法等の公知のセラミック成形方法により平板状に形成されている。プロトン排出経路形成層331は、平板の一部を切り欠いた略コ字型に形成され、プロトン排出経路330が形成されている。
測定電極310、基準電極320等を形成したプロトン導電体300とプロトン排出経路形成層331と基底層332とを積層、焼成することにより一体の炭素量検出素子10を形成することができる。
【0070】
また、図13に示すごとく、炭素量検出素子30には、プロトン電導体300を加熱するためのヒータ部が設けられる。
具体的には、ヒータ基体370と、ヒータ基体370のプロトン導電体300側の表面に形成された発熱体360及び、発熱体リード部361a、361bと、ヒータ基体370の対向する表面に形成された発熱体端子部362a、162bと、ヒータ基体370を貫通して発熱体リード部361a、361bと発熱体端子部362a、362bとを接続する発熱体スルーホール363a、363bとによってヒータ部が構成され、電極対の形成されたプロトン導電体300及びプロトン排出路330を構成する基底部332の下面側に積層、焼成され、一体の炭素量検出素子30を形成している。
【0071】
本例の炭素量検出素子10においては、通電によって発熱体360が高温に発熱し、プロトン導電体300を活性化することができる。そのため、安定して炭素量を検出できる。
【0072】
次に、本例の炭素量検出センサを用いてカーボン濃度をモニタしたときのセンサ出力の変化の一例を図14に示す。
具体的には、内燃機関の燃焼排気を模擬した被測定ガスGとして、所定濃度のカーボンと3体積%の水蒸気を含む湿潤空気を用い、この被測定ガスGを所定の温度(例えば200℃)で炭素量検出センサ3に供給した(図12参照)。そして、外部電源から基準電極と測定電極との間に定電圧(例えば0.4V)を印加した状態で、カーボンが測定電極に付着した際に流れる電気化学的な電流を測定した(図12参照)。その結果を図14に示す。
【0073】
カーボンが測定電極310に到達すると、上述の式(1)に示す電気化学反応が起こり、電流検知手段342において検知電流を検出できるが(図12参照)、本例の炭素量検出センサ3においては、図14に示すごとく、検知電流はカーボン濃度に比例して大きくなることを確認した。そして、図15に示すごとく、検知電流と、カーボン濃度との関係からカーボン濃度(PM濃度)を見積もることができる。
【0074】
このように、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより得られたプロトン導電体(試料E1)を用いることにより、炭素量を検出できる炭素量検出センサを構成できることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
1 プロトン導電体
3 炭素量検出センサ
30 炭素量検出素子
300 プロトン導電体
310 測定電極
320 基準電極
330 プロトン排出路
331 プロトン排出路形成層
340 演算装置
341 電源
342 電流検出手段
343 電圧検出手段
4 被測定ガス流路壁
400 被測定ガス流路
G 被測定ガス
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質焼結体の少なくとも表面及び細孔壁に4価の金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体及びその製造方法、並びに該プロトン導電体を用いた炭素量検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の電解質等の用途に適した、温度100℃以上の環境下において高いプロトン導電率を示すプロトン導電体の研究が盛んに行われている。その中で、金属ピロリン酸塩のMP2O7(MはSi、Ge、Sn、Ti)は、100〜400℃の中温域で高いプロトン導電率を示す材料として注目されている(非特許文献1を参照)。
しかし、MP2O7は難焼結性材料であるため、その使用形態はMP2O7粉末の加圧成型体に限られる。したがって、十分な機械強度を有するプロトン導電体を得ることは困難であった。また、粉末の加圧成形体であるため、ガスリークも問題となるため、気密性が要求される用途に適用することは困難であった。
【0003】
かかる問題点に対して、金属ピロリン酸塩の表面に過剰のリン酸を共存させる技術(特許文献1参照)や、従来知られている金属ピロリン酸塩化合物の前駆体物質を変更することによって、緻密な加圧成型体を得る技術(特許文献2参照)が開発されている。
また、金属ピロリン酸塩と含窒素系有機高分子化合物、及び合成樹脂を複合化し、機械強度とガスバリア性を向上させた電解質膜が開発されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/083835号パンフレット
【特許文献2】特開2009−249194号公報
【特許文献3】特開2010−103000号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エム・ナガオ・エト・オール(M.Nagao et al)、ジャーナル・オブ・ザ・エレクトロケミカル・ソサエティ(Journal of the Electrochemical Society)、米国、2006年、第153巻、第8号、p.A1604−A1609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のピロリン酸塩からなる成形体は、粉末の加圧成形体に過ぎないため、機械強度が不十分であるという問題がある。また、ピロリン酸塩と有機化合物との複合体は、耐熱性に懸念がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高いプロトン導電性を発揮できると共に、機械的強度に優れたプロトン導電体及びその製造方法、並びに、該プロトン導電体を用いた炭素量検出センサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されていることを特徴とするプロトン導電体にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体の製造方法であって、
上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させることを特徴とするプロトン導電体の製造方法にある(請求項3)。
【0010】
第3の発明は、炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサであって、
少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、
上記測定電極を被測定ガスに対向させ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離させてあり、
上記プロトン導電体は、請求項1に記載のものであることを特徴とする炭素量検出センサにある(請求項7)。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明のプロトン導電体においては、上記多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されている。そのため、4価金属のピロリン酸塩の優れたプロトン導電性を生かして、上記プロトン導電体は、高温で高いプロトン導電性を示すことができる。
【0012】
また、上記プロトン導電体において、上記ピロリン酸塩は、上記多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に形成されている。そのため、上記プロトン導電体は、焼結体としての優れた機械的強度を示すことができ、従来の粉末の加圧成形体に比べて優れた機械的強度を発揮することができる。
また、上記プロトン導電体において、ピロリン酸塩は上記多孔質焼結体の細孔内にまで形成されている。そのため、上記プロトン導電体は、緻密でガスリークを防止することができる。それ故、燃料電池や後述の炭素量検出センサ等のように気密性が要求される用途に好適である。
【0013】
次に、第2の発明の製造方法においては、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体に、リン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱する。これにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に4価の上記金属元素のピロリン酸塩を生成させることができる。即ち、第1の発明の構成のプロトン導電体を製造することができ、該プロトン導電体は、上記のごとく、高温環境下においても高いプロトン導電性を発揮できると共に、優れた機械的強度を発揮することができる。
【0014】
上記製造方法においては、上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱させている。そのため、上記多孔質焼結体を構成する4価の金属元素と、リン酸とが反応して、4価の金属カチオンのピロリン酸塩が生成する。このピロリン酸塩は、上記多孔質焼結体の表面や細孔壁のみならず、細孔内にまで形成される。これは、生成して析出したピロリン酸塩が細孔内を埋めるためであると考えられる。その結果、ガスリークのほとんどない緻密で気密性の高い上記プロトン導電体を得ることができる。
【0015】
次に、第3の発明の炭素量検出センサにおいては、上記電源から上記電極間への通電により、上記測定電極上で被測定ガス中の炭素成分を電気化学反応により酸化しつつ炭素量の検出が可能となる。特に、上記炭素量検出センサにおいては、高いプロトン導電性を示す上記第1の発明のプロトン導電体を用いてあるため、感度の高い炭素量検出センサを実現することができる。
【0016】
また、上記炭素量検出センサは、例えば自動車の排ガス中に含まれるパティキュレートマター(PM)等の炭素物質の検出に用いることができるが、自動車のような振動や衝撃を受けやすい環境下に適用しても、上記プロトン導電体の優れた機械的強度を生かして、破損などが発生することを防止することができる。
また、上記プロトン導電体は気密性に優れている。そのため、上記炭素量検出センサに適用してもガスリークを防止することができ、長期に渡って高い信頼性を維持できる炭素量検出センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)の表面のXRDパターンを示す説明図。
【図2】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)の内部のXRDパターンを示す説明図。
【図3】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図(b)。
【図4】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)についてのSn元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)についてのSn元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(b)。
【図5】実施例1における、多孔質焼結体(試料C1)についてのP元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(a)、プロトン導電体(試料E1)についてのP元素を対象としたエネルギー分散型蛍光X線分析像を示す説明図(b)。
【図6】実施例1における、プロトン導電体の気密性評価装置の構成を展開図で示した説明図。
【図7】実施例1における、プロトン導電体の気密性評価装置の構成を断面図で示した説明図。
【図8】実施例1における、プロトン導電体(試料E1)と多孔質焼結体(試料C1)についての温度とリーク水素ガス濃度との関係を示す説明図。
【図9】実施例2における、プロトン導電体の導電性評価装置の構成を展開図で示した説明図。
【図10】実施例2における、プロトン導電体(試料E1〜試料E6)及び多孔質焼結体(試料C1)についての温度と導電率との関係を示す説明図。
【図11】実施例3における、プロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)及び多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)についての温度と導電率との関係を示す説明図。
【図12】実施例4における、炭素量検出センサの主要構成の概略を示す説明図。
【図13】実施例4における、炭素量検出センサに用いられる炭素量検出素子の構成部材の展開図を示す説明図。
【図14】実施例4における、炭素量検出センサによる、測定時間と検出電流との関係を示す説明図。
【図15】実施例4における、炭素量検出センサによる、カーボン濃度と検出電流との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記プロトン導電体は、上述のごとく、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されている。
上記プロトン導電体は、上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させて製造することができる。
【0019】
4価の金属元素(4価の金属カチオン)としては、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、及びCe等を用いることができる(請求項2、請求項4)。
例えば、酸化スズ(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、ピロリン酸スズ(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。また、例えば酸化チタン(IV)又は酸化珪素(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、それぞれピロリン酸チタン(IV)又はピロリン酸珪素(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。また、例えば酸化ゲルマニウム(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、又は酸化セリウム(IV)からなる多孔質焼結体を採用した場合には、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、それぞれピロリン酸ゲルマニウム(IV)、ピロリン酸ジルコニウム(IV)、又はピロリン酸セリウム(IV)が形成されたプロトン導電体を得ることができる。
【0020】
好ましくは、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Ce、又はZrであることがよい。
この場合には、上記プロトン導電体のプロトン導電性をより向上させることができる。さらに好ましくはSnがよい。
【0021】
また、上記製造方法において、リン酸を含む液体と接触させて加熱する前の上記多孔質焼結体としては、気孔率10〜50%のものを採用することが好ましい。気孔率が10%未満の場合には、細孔壁及び細孔内にまで十分な量のピロリン酸塩を形成することができなくなるおそれがある。一方、50%を超える場合には、上記プロトン導電体の気密性が損なわれるおそれがある。気孔率の下限は、20%がより好ましく、30%がさらにより好ましい。気孔率の上限は、45%がより好ましく、40%がさらにより好ましい。
【0022】
気孔率は、例えば以下のようにして測定することができる。
具体的には、まず、多孔質焼結体の質量と体積から嵩密度を算出する(嵩密度=質量÷体積)。次いで、算出した嵩密度と真密度(文献値)とから相対密度を算出する(相対密度=嵩密度÷真密度)。次に、相対密度から気孔率を算出する(気孔率=(1−相対密度)×100)。
【0023】
上記製造方法において、リン酸を含む液体としては、リン酸水溶液を用いることができる。上記製造方法においては、例えば、上記多孔質焼結体をリン酸水溶液に浸漬した後に、加熱する方法や、密閉容器中で上記多孔質焼結体を少なくとも部分的にリン酸水溶液に浸した状態で加熱する方法等を採用することができる。
【0024】
上記多孔質焼結体の加熱は、温度200〜700℃で行うことが好ましい(請求項5)。この場合には、多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内にまで十分にピロリン酸塩を形成させることができる。そのため、得られるプロトン導電体のプロトン導電性、機械的強度、気密性をより向上させることができる。
温度200℃未満の場合には、ピロリン酸塩を十分に生成させることができず、プロトン導電性等の特性を十分に向上させることが困難になるおそれがある。一方、温度700℃を超える場合には、多孔質焼結体にクラックが発生し、気密性やプロトン導電性などの特性が低下してしまうおそれがある。より好ましくは、加熱温度は300℃以上、650℃以下がよく、さらに好ましくは400℃以上がよい。
【0025】
加熱時には、上記のごとく、4価の金属元素(4価の金属カチオン)のピロリン酸塩が生成する。このとき、ピロリン酸塩が生成すると共に、ピロリン酸塩にリン酸や水(水和水)が析出・結合する場合があると考えられる。そして、これらのリン酸や水もプロトン導電体の導電性に寄与していると考えられる。
【0026】
上記多孔質焼結体は、焼成時に焼失する焼失材料と上記金属元素の酸化物とを混合し、成形し、焼成してなることが好ましい(請求項6)。
この場合には、簡単に上記金属元素の酸化物からなる上記多孔質焼結体を得ることができる。
【0027】
上記焼失材料としては、例えばカーボン等を採用することができる。
上記焼失材料は、上記金属元素の酸化物100質量部に対して例えば1〜20質量部添加することができる。好ましくは、焼失材料は酸化物100質量部に対して2.0〜10質量部がよく、より好ましくは2.0〜8.7質量部がよい。
【0028】
次に、上記炭素量検出センサは、上記プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備する。具体的には、炭素量検出センサは、例えば板状のプロトン導電体と、その対向する一対の表面に形成した一対の電極対とからなり、これらの電極対のうち一方が測定電極、他方が基準電極となる。そして、電極対に電気的に接続された電源を備える。
【0029】
上記炭素量検出センサにおいては、上記電源から上記電極間への通電により、被測定ガス中に存在する炭素成分と水蒸気とを上記測定電極上において電気化学反応させることが好ましい。
この場合には、被測定ガス中に存在する水蒸気の電気分解によって発生した極めて酸化力の強い活性酸素によって非測定ガス中の炭素成分を酸化させることができる。したがって、測定電極上に非測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することがなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0030】
具体的には、上記電極対に所定の電流を流し、上記電極対間に発生する電位を測定する電位計測手段を具備することが好ましい。
この場合には、電位を常時モニタリングすることにより、所定の電流値に対する電位の変化によって、被測定ガス中の炭素量を正確に算出することができる。したがって、測定電極上に非測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することがなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0031】
また、上記電極対に所定の電圧を印加し、上記電極対間に流れる電流を測定する電流計測手段を具備する構成とすることもできる。
この場合には、被測定ガス中の炭素成分を酸化しつつ、検出された電流値により炭素量を算出することができる。したがって、測定電極上に被測定ガス中に含まれる炭素成分が堆積することなく、長期に渡って信頼性を高く維持できる炭素量検出センサが実現できる。
【0032】
また、上記炭素量検出センサにおいて、上記測定電極及び上記基準電極は、例えば金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又はサーメット電極から構成することができる(請求項8)。
【0033】
また、上記炭素量検出センサにおいて、通電により上記プロトン導電体を所定の温度に加熱する発熱部を具備することが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記プロトン導電体の温度を安定させることができ、より高い精度で被測定ガス中の炭素量を検出することが可能になる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
次に、本発明のプロトン導電体の実施例について図1〜図8を用いて説明する。
本例においては、酸化スズ(IV)(SnO2)からなる多孔質焼結体の細孔壁、細孔内に、ピロリン酸スズ(IV)(SnP2O7)が形成されたプロトン導電体を製造する。その製造にあたっては、酸化スズ(IV)からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱する。
【0035】
以下、本例のプロトン導電体の製造方法につき、詳細に説明する。
具体的には、まず、以下のようにして酸化スズ(IV)(SnO2)からなる多孔質焼結体を製造した。
【0036】
即ち、まず、酸化スズ(IV)と、焼結助剤としての酸化亜鉛(ZnO)とをモル比でSnO2:ZnO=99:1となるように混合した。次いで、混合粉をエタノール中で回転速度250rpmの遊星ボールミルを用いて6時間粉砕し、その後乾燥した。次いで、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボン8.7質量部と、バインダーとしてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.5質量部とを添加し、混合した。その後、混合材料を圧力2MPaで円盤状に加圧成形した。次に、成形体を温度1500℃で10時間熱処理した。このようにして、酸化スズ(IV)からなる、厚み1mm、直径φ13.5mm、気孔率39.7%の円盤状の多孔質焼結体を製造した。これを試料C1とする。
【0037】
次に、多孔質焼結体の表面を研磨した後、耐熱性容器内に載置し、この容器内に多孔質焼結体が浸る程度の量の濃度85wt%のリン酸水溶液を入れた。次いで、温度600℃で4時間加熱した。その後、超音波洗浄機を用いて脱イオン水で洗浄し、温度100℃で乾燥してプロトン導電体を得た。これを試料E1とする。
【0038】
上記のようにして作製した試料E1の表面及び内部について、CuKα線を用いたX線回折測定(XRD、2θ法)を行った。その結果(XRDパターン)を図1及び図2に示す。図1は、試料E1の表面のXRDパターンを示し、図2は、試料E1の内部のXRDパターンを示す。図1及び図2においては、いずれも横軸は回折角2θ(°)を示し、縦軸は強度比を示す。また、図1及び図2においては、SnP2O7由来のピーク位置を□で示し、SnO2由来のピーク位置を△で示す。
【0039】
図1及び図2より知られるごとく、試料E1のプロトン導電体においては、表面及び内部においては、SnO2由来ピークとは異なる回折ピーク、即ちSnP2O7由来の回折ピークが確認された。
図1及び図2においては明確に示していないが、上記試料E1とはリン酸水溶液に浸して加熱するときの温度を変えて作製した試料(プロトン導電体)についても同様のX線回折測定を行ったところ、加熱温度を大きくするにつれてSnP2O7由来の回折ピークの強度が大きくなる傾向にあることを確認している。
【0040】
また、本例においては、プロトン導電体(試料E1)の作製に用いたリン酸水溶液中に浸漬する前の多孔質焼結体(試料C1)、及びプロトン導電体(試料E1)を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その観察結果(SEM写真)を図3(a)及び図3(b)に示す。図3(a)は、試料C1の多孔質焼結体についてのSEM写真を示し、図3(b)は、試料E1のプロトン導電体についてのSEM写真を示す。
【0041】
また、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて、試料C1及び試料E1について、Sn元素及びP元素の分布を調べた。
試料C1についてのSn元素を対象としたEDX像を図4(a)に示し、試料E1についてのSn元素を対象としたEDX像を図4(b)に示す。また、試料C1についてのP元素を対象としたEDX像を図5(a)に示し、試料E1についてのP元素を対象としたEDX像を図5(b)に示す。
なお、図4(a)及び(b)、図5(a)及び(b)においては、EDX像の右下に対象とする元素(Sn又はP)の種類を示し、また「La1」は特性X線のLα1線による検出であることを示し、「Ka1」は特性X線のKα1線による検出であることを示す。
【0042】
図3〜図5、及び上述の図1及び図2の結果より知られるごとく、試料C1においては、SnP2O7は形成されておらず、細孔内は空隙のままであるのに対し、試料E1においては、SnP2O7が多孔質焼結体の表面及び細孔壁に形成されており、さらに細孔内にもSnP2O7が形成され、細孔の空隙が埋められていることがわかる。
【0043】
次に、試料E1のプロトン導電体について、気密性の評価を行った。
具体的には、図6及び図7に示すごとく、まず、円盤状のプロトン導電体1(試料E1)を2本のガス管191、192の間に挟み込み、ガス管191、192とプロトン導電体1との間をそれぞれガラスシール181、182で密封した。ガス管191、192は、図7に示すごとく、中心管191a、192aとこれよりも径の大きな外周管191b、192bとから構成され、外周管191b、192b内に、中心管191a、192aが挿入された二重構造になっている。そして、ガス管191、192は、中心管191a、192a内にガスが供給されると、外周管191b、192bから排出されるように構成されている。
【0044】
次に、ガス管191、192で挟んだプロトン導電体1を縦型管状炉(図示略)に配置した。そして、縦型管状炉の上方からガス管191の中心管191a内にH2を10体積%含むアルゴンガスを供給し、縦型管状炉の下方からガス管192の中心管192a内にアルゴンガスを供給した。そして、縦型管状炉の下方側のガス管192のガス排気口に取り付けたガスクロマトグラフィ(図示略)により、下方のガス管192(外周管192b)から排出されるガスに含まれる水素濃度を検出した。即ち、かかる評価試験においては、プロトン導電体1がガスをリークする場合には、上方のガス管191から供給した水素ガスがプロトン導電体1を透過して下方のガス管192から排出されてガスクロマトグラフィにより検出される。水素濃度の検出は、縦型管状炉内の温度200〜700℃という条件で行った。その結果を図8に示す。
また、比較用として、プロトン導電体1(試料E1)の代わりに多孔質焼結体(試料C1)を用いて同様の気密性の評価試験を行った。その結果を図8に示す。
【0045】
図8において、横軸は、測定温度(℃)を示し、縦軸は、試料E1又は試料C1を透過してリークした水素ガスの濃度(%)を示す。
【0046】
図8より知られるごとく、試料C1の多孔質焼結体においては、温度200〜700℃の範囲において、水素ガスが検出されており、多孔質焼結体を水素ガスが透過してリークしていることがわかる。これは、多孔質焼結体の細孔の空隙から水素ガスリークしたためである。
一方、試料E1のプロトン導電体においては、温度200〜700℃の範囲において、水素は検出されず、水素ガスを透過させていないことがわかる。これは、プロトン導電体においては、多孔質焼結体の細孔の空隙が上述のピロリン酸スズで埋められ、緻密化しているためである。
【0047】
したがって、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成された緻密なプロトン導電体(試料E1)が得られることがわかる。かかるプロトン導電体は、焼結体から構成されているため従来の加圧成形体からなるプロトン導電体に比べて優れた機械的強度示し、さらに上述のごとく優れた気密性を発揮することができる。
【0048】
(実施例2)
次に、本例においては、実施例1の試料E1とは、製造条件を変更して複数のプロトン導電体を作製し、その導電性を評価する例である。
具体的には、まず、リン酸水溶液に浸した後の加熱温度を試料E1とは変更して、さらに5種類のプロトン導電体(試料E2〜E6)を作製した。
【0049】
具体的には、試料E2は、リン酸水溶液に浸した後、温度200℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E3は、リン酸水溶液に浸した後、温度300℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E4は、リン酸水溶液に浸した後、温度400℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E5は、リン酸水溶液に浸した後、温度500℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E6は、リン酸水溶液に浸した後、温度700℃で加熱して作製したプロトン導電体である。
試料E2〜試料E6は、上述の加熱温度を変更した点を除いては、試料E1と同様にして作製した。
【0050】
次に、試料E1〜試料E6のプロトン導電体について、導電性の評価を行った。
具体的には、図9に示すごとく、円盤状のプロン導電体(試料E1〜E6)の両面に、一対の金電極171、172を形成した。金電極171、172は、プロトン導電体1の両面に金スラリーを面積0.785cm2で印刷し、温度105℃で乾燥後、温度400℃で2時間焼成することにより形成した。一対の金電極171、172が形成されたプロトン導電体は、セル(電池)を構成する。
【0051】
次いで、プロトン導電体1に形成された一対の金電極171、172上に、それぞれ白金からなる集電体161、162を重ね、一方の集電体161に一対のリード線141、151を電気的に接続し、他方の集電体162にも一対のリード線142、152電気的に接続した。
そして、集電体161、162で挟んだセル(金電極171、172を形成したプロトン導電体1)を縦型管状炉に配置した。そして、大気雰囲気下、室温〜700℃の温度域で、交流四端子法(振幅電圧:10mV、測定周波数域:10〜106Hz)により、導電率を測定した。その結果を図10に示す。
【0052】
また、比較用として、試料E1〜試料E6のプロトン導電体の代わりに多孔質焼結体(試料C1)を用いて、上述の方法と同様にして交流四端子法により導電率を測定した。その結果を図10に示す。
【0053】
図10において、横軸は測定温度のアレーニウムプロットである1000T-1(K-1)を示し、縦軸は導電率の対数(Scm-1)を示す。
【0054】
図10より知られるごとく、プロトン導電体(試料E1〜試料E6)の導電率は、多孔質焼結体(試料C1)に比べて向上していることがわかる。導電率は、温度600℃の加熱で作製した試料E1が最も優れていた。また、図10より知られるごとく、加熱温度を高くする程導電率は向上する傾向にあるが、温度700℃での加熱においては、導電率はむしろ低下していた。したがって、加熱温度は、300℃以上、650℃以下が好ましいことがわかる。さらに好ましくは400℃以上がよい。
【0055】
したがって、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより得られたプロトン導電体(試料E1〜E6)は、優れたプロトン導電性を発揮できることがわかる。
【0056】
(実施例3)
次に、本例においては、気孔率の異なる多孔質焼結体を用いて複数のプロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)を作製し、その導電率を測定することにより、多孔質焼結体の気孔率とプロトン導電性との関係を調べる例である。
具体的には、まず、焼失材料の添加量を変えることにより、気孔率の異なる3種類の多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)を作製した。
【0057】
試料C1は、上述の実施例1に示すように、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを8.7質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、39.7%である。
試料C2は、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを4.2質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、31.8%である。
試料C3は、酸化スズ(IV)100質量部に対して、焼失材料(造孔剤)としてのカーボンを2.0質量部添加して作製した多孔質焼結体である。その気孔率は、22.8%である。
試料C2及び試料C3は、焼失材料の添加量を変更した点を除いては、実施例1における試料C1と同様にして作製した。
【0058】
次いで、各試料C1〜試料C3の多孔質焼結体を用いて、3種類のプロトン導電体(試料E1、試料E7、及び試料E8)を作製した。
試料E1は、試料C1の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体であり、実施例1のプロトン導電体と同様のものである。
試料E7は、試料C2の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体であり、試料E8は、試料C3の多孔質焼結体を用いて作製したプロトン導電体である。
試料E7及び試料E8は、それぞれ試料C2及び試料C3の多孔質焼結体を用いた点を除いては、試料E1と同様にして作製した(実施例1参照)。
【0059】
次に、試料E1、試料E7、及び試料E8のプロトン導電体、並びに試料C1〜試料C3の多孔質焼結体について、実施例2と同様にして交流四端子法により導電率を測定した。その結果を図11に示す。同図において、横軸は測定温度のアレーニウムプロットである1000T-1(K-1)を示し、縦軸は、導電率の対数(Scm-1)を示す。
【0060】
図11に示すごとく、いずれの気孔率においても多孔質焼結体(試料C1〜試料C3)は、導電性は不十分であったが、多孔質焼結体にピロリン酸スズを生成させたプロトン導電体(試料E1、試料E2、及び試料E3)は、優れた導電性を示した。また、気孔率が高い程導電性は向上する傾向にあることがわかる。
【0061】
(実施例4)
本例は、プロトン導電体を用いた炭素量検出センサの例である。
図12に示すごとく、本例の炭素量検出センサ3は、炭素成分を含む被測定ガス流路400内に載置し、被測定ガスG中の炭素量を検出するものである。
図12及び図13に示すごとく、炭素量検出センサ3は、少なくとも、プロトン導電体300と、その表面に形成した測定電極310と基準電極320とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源(直流電源)341とを具備する。炭素量検出センサ3においては、測定電極310を被測定ガスGに対向させ、かつ、基準電極320を被測定ガスGから隔離させてある。
【0062】
以下、本例の炭素量検出センサについて詳細に説明する。
本例の炭素量検出センサは、内燃機関の燃焼排気中の粒子状物質(パティキュレート・マター(PM))に由来する炭素量を正確に検出して、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF)の再生時期の判断や、DPFの性能劣化、破損などを検知するオンボード・ダイアグノーシス(OBD)や、燃焼排気中に燃料を噴射して、PMやNOxの低減を図るリッチスパイク制御等に利用することができる。
【0063】
図12に示すごとく、炭素量検出センサ3は、内燃機関(図示略)から排出される燃焼排気を被測定ガスGとし、被測定ガス流路壁4に固定され、被測定ガス流路400内に、炭素量検出素子30の測定部が載置される。
炭素量検出素子30は、実施例1の試料E1と同様にして作製した板状のプロトン導電体300と、その一方の表面に形成された測定電極310と、他方の表面に測定電極310に対向して形成された基準電極320とから構成されている。
【0064】
測定電極310は、被測定ガスG中に晒されている。一方、基準電極320は、プロトン排出路330を形成するプロトン排出路形成層331によって覆われ、被測定ガスGから離隔されている。
測定電極310と基準電極320とには、測定電極310側を正極として直流電源341が接続され、電極対間に所定の直流電圧を印加したときに電極対間に発生する電流を検出する電流検出手段342又は、電極対間に発生する電圧を検出する電圧検出手段343が接続され、さらに、電流検出手段342又は電圧検出手段343の検出結果に基づいて被測定ガス中の炭素量を算出する演算装置340が接続されている。
【0065】
被測定ガスGである燃焼排気中には、煤や未燃焼炭化水素(HC)、可溶性有機成分(SOF)、イオウ酸化物等からなる粒子状物質PMの他、燃料の燃焼生成物である水蒸気(H2O)が存在する。
測定電極310と基準電極320とからなる電極対間に所定の直流電圧を印加すると、下記式(1)に示す反応が起こり、測定電極110上では、水蒸気の電気化学反応によって活性酸素が生成され、この活性酸素によってPM中の炭素が燃焼し二酸化炭素を生成する。
C+2H2O → CO2+4H++4e- ・・・(1)
この際、プロトン導電体300内を水素イオンが移動するのに伴って、上記電極対間に流れる電流I又は、上記電極対間に発生する電圧Vは、測定電極310表面上で分解される炭素量と相関がある。
【0066】
したがって、電流検出手段342又は電圧検出手段343によって検出された電極対間に流れる電流I又は、電極対間に発生する電圧Vから測定電極310上で分解される炭素量、即ち、被測定ガス中に存在するPMの濃度を検出することができる。
また、水蒸気の電気化学反応によって生成された水素イオンは、プロトン導電体300内を移動して、基準電極320側に移動し、プロトン排出流路330内に導入されている大気中の酸素と反応し、H2Oとなって外部に排出される(図12参照)。
本例における炭素量検出センサ3では、測定電極310表面に接触するPMに含まれる炭素が電気化学反応によって発生する極めて酸化力の強い活性酸素種O*によって酸化されるので、センサ表面にPMが堆積してセンサ機能を低下するおそれがない。
【0067】
図13を参照して、本例n炭素量検出素子10のより具体的な構成並びに製造方法の概要について説明する。
本例において、プロトン導電体100は、実施例1の上記試料E1と同様にして作製した。本例においては、略平板状に形成されたプロトン導電体を採用した。
【0068】
図13に示すごとく、炭素量検出素子30において、プロトン導電体300の一方の面には、測定電極310、測定電極リード部311、測定電極端子部312、基準電極端子部322が形成され、他方の面には、基準電極320、基準電極リード部321が形成され、基準電極リード部321と基準電極端子部322とはプロトン導電体300を貫通するスルーホール電極323を介して接続されている。なお、測定電極310及び基準電極320は、金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又は、サーメット電極からなり、厚膜印刷、蒸着、メッキ等の公知の電極形成方法によって形成することができる。
測定電極リード部311、測定電極端子部312、基準電極リード部321、基準電極端子部322、スルーホール電極323は、電気伝導性の良好な金属を含み厚膜印刷、蒸着、メッキ等の公知の導体形成方法によって形成することができる。
【0069】
また、図13に示すごとく、本例の炭素量検出素子30においては、プロトン導電体300の基準電極320の形成された側に積層して、プロトン排出経路形成層331と基底層332とが形成されている。
プロトン排出経路形成層331と基底層332とは、例えば、アルミナAl2O3等の絶縁性セラミックスが用いられ、ドクターブレード法や加圧成型法等の公知のセラミック成形方法により平板状に形成されている。プロトン排出経路形成層331は、平板の一部を切り欠いた略コ字型に形成され、プロトン排出経路330が形成されている。
測定電極310、基準電極320等を形成したプロトン導電体300とプロトン排出経路形成層331と基底層332とを積層、焼成することにより一体の炭素量検出素子10を形成することができる。
【0070】
また、図13に示すごとく、炭素量検出素子30には、プロトン電導体300を加熱するためのヒータ部が設けられる。
具体的には、ヒータ基体370と、ヒータ基体370のプロトン導電体300側の表面に形成された発熱体360及び、発熱体リード部361a、361bと、ヒータ基体370の対向する表面に形成された発熱体端子部362a、162bと、ヒータ基体370を貫通して発熱体リード部361a、361bと発熱体端子部362a、362bとを接続する発熱体スルーホール363a、363bとによってヒータ部が構成され、電極対の形成されたプロトン導電体300及びプロトン排出路330を構成する基底部332の下面側に積層、焼成され、一体の炭素量検出素子30を形成している。
【0071】
本例の炭素量検出素子10においては、通電によって発熱体360が高温に発熱し、プロトン導電体300を活性化することができる。そのため、安定して炭素量を検出できる。
【0072】
次に、本例の炭素量検出センサを用いてカーボン濃度をモニタしたときのセンサ出力の変化の一例を図14に示す。
具体的には、内燃機関の燃焼排気を模擬した被測定ガスGとして、所定濃度のカーボンと3体積%の水蒸気を含む湿潤空気を用い、この被測定ガスGを所定の温度(例えば200℃)で炭素量検出センサ3に供給した(図12参照)。そして、外部電源から基準電極と測定電極との間に定電圧(例えば0.4V)を印加した状態で、カーボンが測定電極に付着した際に流れる電気化学的な電流を測定した(図12参照)。その結果を図14に示す。
【0073】
カーボンが測定電極310に到達すると、上述の式(1)に示す電気化学反応が起こり、電流検知手段342において検知電流を検出できるが(図12参照)、本例の炭素量検出センサ3においては、図14に示すごとく、検知電流はカーボン濃度に比例して大きくなることを確認した。そして、図15に示すごとく、検知電流と、カーボン濃度との関係からカーボン濃度(PM濃度)を見積もることができる。
【0074】
このように、本例によれば、4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより得られたプロトン導電体(試料E1)を用いることにより、炭素量を検出できる炭素量検出センサを構成できることがわかる。
【符号の説明】
【0075】
1 プロトン導電体
3 炭素量検出センサ
30 炭素量検出素子
300 プロトン導電体
310 測定電極
320 基準電極
330 プロトン排出路
331 プロトン排出路形成層
340 演算装置
341 電源
342 電流検出手段
343 電圧検出手段
4 被測定ガス流路壁
400 被測定ガス流路
G 被測定ガス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されていることを特徴とするプロトン導電体。
【請求項2】
請求項1に記載のプロトン導電体において、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、又はCeであることを特徴とするプロトン導電体。
【請求項3】
4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体の製造方法であって、
上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法において、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、又はCeであることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法において、上記多孔質焼結体の加熱は、温度200〜700℃で行うことを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の製造方法において、上記多孔質焼結体は、焼成時に焼失する焼失材料と上記金属元素の酸化物とを混合し、成形し、焼成してなることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項7】
炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサであって、
少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、
上記測定電極を被測定ガスに対向させ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離させてあり、
上記プロトン導電体は、請求項1又は2に記載のものであることを特徴とする炭素量検出センサ。
検出センサ。
【請求項8】
請求項7に記載の炭素量検出センサにおいて、上記測定電極及び上記基準電極は、金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又はサーメット電極からなることを特徴とする炭素量検出センサ。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の炭素量検出センサにおいて、通電により上記プロトン導電体を所定の温度に加熱する発熱部を具備することを特徴とする炭素量検出センサ。
【請求項1】
4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁、細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されていることを特徴とするプロトン導電体。
【請求項2】
請求項1に記載のプロトン導電体において、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、又はCeであることを特徴とするプロトン導電体。
【請求項3】
4価の金属元素の酸化物からなる多孔質焼結体の表面、細孔壁及び細孔内に、4価の上記金属元素のピロリン酸塩が形成されたプロトン導電体の製造方法であって、
上記多孔質焼結体にリン酸を含む液体を接触させ、該多孔質焼結体を加熱することにより、該多孔質焼結体の表面、細孔壁、及び細孔内に上記ピロリン酸塩を生成させることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法において、4価の上記金属元素は、Sn、Ti、Si、Ge、Zr、又はCeであることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法において、上記多孔質焼結体の加熱は、温度200〜700℃で行うことを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の製造方法において、上記多孔質焼結体は、焼成時に焼失する焼失材料と上記金属元素の酸化物とを混合し、成形し、焼成してなることを特徴とするプロトン導電体の製造方法。
【請求項7】
炭素成分を含む被測定ガス流路内に載置し、被測定ガス中の炭素量を検出する炭素量検出センサであって、
少なくとも、プロトン導電体と、該プロトン導電体の表面に形成した測定電極と基準電極とからなる電極対と、該電極対間に所定の電流又は電圧を印加する電源とを具備し、
上記測定電極を被測定ガスに対向させ、かつ、上記基準電極を被測定ガスから隔離させてあり、
上記プロトン導電体は、請求項1又は2に記載のものであることを特徴とする炭素量検出センサ。
検出センサ。
【請求項8】
請求項7に記載の炭素量検出センサにおいて、上記測定電極及び上記基準電極は、金Au、白金Pt、パラジウムPd、炭化珪素SiCのいずれかを含む多孔質金属電極、又はサーメット電極からなることを特徴とする炭素量検出センサ。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の炭素量検出センサにおいて、通電により上記プロトン導電体を所定の温度に加熱する発熱部を具備することを特徴とする炭素量検出センサ。
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−54081(P2012−54081A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195339(P2010−195339)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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