説明

プロピレン系ポリマー発泡体の製造方法

【課題】 ポリプロピレンおよび類似のポリマーや、それを含むポリマーブレンドから、超臨界状態の流体を用いる発泡体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 ポリマー中のプロピレン単位の量が80モル%以上の熱可塑性ポリマー、それを含有するポリマーブレンド、またはそれらを含有するポリマー組成物から発泡体を製造する方法であって、上記ポリマーまたはそれを含有する材料に、常温で気体である物質を、超臨界状態で、かつ示差走査熱量計による測定によって得られたポリマーの結晶化温度より22〜32K{22〜32℃}高い温度で含浸させた後、0.3〜1.0MPa/sの圧力減少速度で圧力を減少させることを特徴とする、プロピレン系ポリマー発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発泡倍率を有するプロピレン系ポリマー発泡体の製造方法に関し、さらに詳細には、超臨界状態の流体を用いる上記プロピレン系ポリマー発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子発泡体は、連続気泡を有する発泡体が、微細フィルター、ウイルス分離膜、人工肺などに、また独立気泡を有する発泡体が、断熱材、クッションなどに用いられるなど、各方面に用いられている。発泡体の製造には、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジド化合物のような発泡剤をポリマーに混練した後、加熱して、窒素のような分解ガスによって発泡させ、独立気泡発泡体を形成させる方法;硬化反応の際に生じる炭酸ガス、水素のような副生ガスによって発泡させ、独立気泡発泡体を形成させる方法;これらの方法によって得られる独立気泡発泡体に機械的応力によって破泡させて、連続気泡発泡体とする方法;水溶性物質をポリマーに混練した後、水で該物質を抽出することにより、連続気泡発泡体を得る方法などがある。
【0003】
常温で液体である物質を、超臨界状態でポリマーまたはそれを主成分とする組成物に含浸させた後、急激な冷却と減圧によって発泡体を得る方法が、10〜20μmのような微細で、かつ均一な発泡体が得られること;および発泡剤を用いず、また副生物の生成を伴う硬化反応を用いないので、不純物の少ない発泡体が得られることから、着目されている。たとえば、特許文献1、2および非特許文献1には、超臨界状態の流体を用いて、ポリスチレン、ABSおよびポリカーボネートの発泡体を製造する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、ポリプロピレンおよび類似のポリマー、特にイソタクチックポリプロピレンや、それを含むポリマーブレンドは、結晶性が高いので、発泡条件、特に含浸温度の制御が困難であった。具体的には、結晶化温度以下では系が硬くて、超臨界状態の流体を系中に充分に分散させることができず、結晶化温度を越える温度では、系の形状を保持するのが困難な程度に流動性になって、微細で均一な発泡体が得られない。平均分子量の高いポリプロピレンは、溶融張力が高くて、溶融状態の形状保持性が良好であるが、そのような高溶融張力ポリプロピレンでも、高い発泡倍率の発泡体を得ることが困難で、特にポリマーブレンドの場合に、その困難性が著しかった。したがって、このようなプロピレン系ポリマー(以下、ポリマーブレンドを包含する)は、結晶化温度より10〜20K{10〜20℃}低い温度で発泡させているが、充分に均一な発泡体は得られていない。
【特許文献1】特開平10−76560号公報
【特許文献2】特開2003−2912033号公報
【非特許文献1】成嶋大介、斎藤拓;「光散乱による超臨界二酸化炭素含浸下での多孔構造形成過程の追跡」、成形加工シンポジア(プラスチック成形加工学会)、01、特別セッションII、p.139〜140(2001.5.31〜6.1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ポリプロピレンおよびプロピレン系共重合体や、それらを含むポリマーブレンドから、超臨界状態の流体を用いて、高い発泡倍率の発泡体(以下、高発泡体という)を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成するために研究を重ねた結果、ポリマーを溶融状態から冷却させる際の結晶化の過程を追跡した結果、特定の結晶化エネルギーを有するポリマーを用い、かつその結晶化ピーク温度よりも特定範囲高い含浸温度で、ポリマーに超臨界状態の流体を含浸させることにより、その課題を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリマー中のプロピレン単位の量が80モル%以上の熱可塑性ポリマー、それを含有するポリマーブレンド、またはそれらを含有するポリマー組成物から発泡体を製造する方法であって、ポリマーの結晶化温度領域の幅が25K{25℃}以下、結晶化エネルギーが1.0〜50.0J/gであるポリマーを用い、かつ上記ポリマーまたはそれを含有する材料に、常温で気体である物質を、超臨界状態で、かつ示差走査熱量計による測定によって得られたポリマーの結晶化ピーク温度より22〜32K{22〜32℃}高い温度で含浸させた後、0.3〜1.0MPa/sの圧力減少速度で圧力を減少させることを特徴とする、プロピレン系ポリマー発泡体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、プロピレン系ポリマーまたはそれを含有するポリマーブレンドの高発泡体を容易に得る方法が提供される。また、本発明により、プロピレン系ポリマーまたはそれを含有するポリマーブレンドの高発泡体を得るため、および発泡体の使用目的に合致するための、材料設計が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が対象とするポリマーは、プロピレン単位の量が80モル%以上の熱可塑性ポリマーである。そのような熱可塑性ポリマーとしては、ポリプロピレンのほか、80モル%以上のプロピレン単位と、残余の他の構成単位からなる熱可塑性共重合体を包含し、他の構成単位としては、エチレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、オクチレン、酢酸ビニルなどの単位が例示される。共重合体は、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよく、熱可塑性樹脂でも熱可塑性エラストマーでもよい。これらを包括して、プロピレン系ポリマーと総称する。ポリプロピレンとしては、アタクチック、イソタクチックおよびシンジオタクチックのいずれをも包含し、本発明の効果を典型的に発揮するにはイソタクチックポリプロピレンが特に好ましい。
【0010】
本発明は、上記のプロピレン系ポリマーを構成成分として含むポリマーブレンドにも適用される。このようなポリマーブレンドとしては、ポリプロピレン/HDPEブレンド、ポリプロピレン/エチレン−ブチレン共重合体ブレンド、ポリプロピレン/ポリカーボネートブレンド、ポリプロピレン/ポリスチレンブレンド、ポリプロピレン/ABSブレンドのような熱可塑性樹脂とのポリマーブレンド;およびポリプロピレン/EPRブレンド、ポリプロピレン/HDPE/EPRブレンド、ポリプロピレン/EPDMブレンドのような熱可塑性エラストマーとのポリマーブレンドなどが例示され、ポリマー相互の相溶性が優れ、かつ発泡のために含浸させる超臨界流体を良好に取り込んで、効果的に発泡させることができ、さらに、得られた発泡体の機械的性質が優れていることから、ポリプロピレン/EPDMブレンドが好ましい。ポリプロピレンとEPDMの組成比は、優れた発泡体が安定して得られることから、ポリマー中、ポリプロピレン60〜90重量%が好ましく、70〜85重量%がさらに好ましい。
【0011】
発泡に用いるポリマーやポリマーブレンドとしては、結晶化が速く、発泡後の形状維持が容易で、高発泡体が得られることから、示差走査熱量計による測定によって得られるその結晶化領域の幅、すなわち系の温度を下げて結晶化させたときに、結晶化を開始する温度と結晶化を終了する温度との差が、25K{25℃}以下のものが用いられる。結晶化領域の幅が25K{25℃}を越えると、セルの成長を抑制することが困難で、破泡や発泡後の収縮を生じやすく、良好な高発泡体を制御よく得ることができない。
【0012】
同様の理由から、結晶化エネルギーが1.0〜50.0J/g、好ましくは10.0〜45.0J/gのものが用いられる。結晶化エネルギーが1.0J/g未満では、良好な発泡体が得られず、50.0J/gを越えると、急速に発泡するため、その制御が困難で、破泡や発泡後の収縮を生じやすい。また、同様に、結晶化度が10〜60%のものが好ましい。
【0013】
本発明において、発泡体に適切な性質を与え、または発泡体の作製や加工を容易にするために、ポリマーの種類や使用目的に応じて、流動パラフィン、炭化水素系プロセスオイル、高級脂肪酸グリセリンエステル、高級脂肪酸アミドのような滑剤;リン酸エステル、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、炭酸亜鉛、塩素化パラフィン、ヘキサクロロシクロペンタジエンのような難燃剤;芳香族アミン類、ベンゾイミダゾール類、ジチオカルバミン酸塩類、フェノール化合物、亜リン酸エステル類のような老化防止剤;2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンのような酸化防止剤;導電性カーボンブラック、銅粉、ニッケル粉、酸化スズのような導電材;カーボンブラック、有機顔料、染料のような着色剤;ならびにシリカ、アルミナ、酸化チタンおよび上記の各種添加剤のうち充填剤の機能を有するもののような充填剤などを配合することができる。また、ゴムのうち発泡とともに架橋を伴う系では、硫黄、有機過酸化物、フェノール系化合物のような架橋剤;グアニジン類、ベンゾチアゾール類、チオ尿素類、チウラム類のような加硫促進剤などを配合することもできる。
【0014】
超臨界状態で上記範囲のプロピレン系ポリマーまたはポリマーブレンド(以下、この項で単に「ポリマー」という)またはそれを含む組成物に含浸させる流体は、その状態でポリマーに浸透するものであればよく、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、プロパンなど、およびそれらの混合ガスが例示され、取扱いが容易で、安全性が高いことから、二酸化炭素および窒素が好ましい。
【0015】
常温で気体である物質をポリマーに含浸させる温度は、該物質の超臨界状態であるという前提で、示差走査熱量計による測定によって得られたポリマーの結晶化ピーク温度より22〜32K{22〜32℃}高い温度である。含浸温度がこの22K{22℃}未満では、ポリマー内の結晶部分が強固に結束し合うために、超臨界流体を結晶部分に完全には含浸しにくい。そのため、発泡が不均一になったり、充分な発泡倍率が得られなかったりする。一方、32K{32℃}を越えると、圧力減少工程で、冷却されたポリマーが結晶化するにつれて、発泡体が収縮する。
【0016】
含浸圧力は、含浸が完全に行われ、しかも液状の滑剤のような添加剤を超臨界流体によって抽出されることがないことから、該物質の超臨界状態であるという前提で、8MPa以上が好ましく、10〜15MPaがより好ましい。
【0017】
常温で気体である物質をポリマーに含浸させる時間は、必要な含浸量および含浸温度・圧力によって異なるが、通常5分〜1日、好ましくは10分〜2時間である。
【0018】
本発明においては、上記の条件で、常温で気体である物質をポリマーに含浸させた後、圧力を、減少速度0.3〜1.0MPa/s、好ましくは0.4〜0.8MPa/sで減少させることにより、発泡させる。圧力減少速度が0.3MPa/s未満では、結晶化の進行とともに発泡が抑制されたり、逆に発泡が早く進行して、均一で細かい発泡体が得られない。一方、1.0MPa/sを越えると、含浸させた気体が形成過程の発泡体から抜けるために、泡が成長せず、発泡体の収縮が大きい。
【0019】
本発明の製造方法において、後工程として、切断、スキン層の除去などを行うこともできる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例によってさらに詳細に説明する。実施例および比較例において、部は、重量部を表す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】
実施例および比較例において、表1に示すポリマーを用いた。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例および比較例において、次の測定法を用いた。
結晶化温度、結晶化エネルギー:ポリマーを、示差走査熱量計にかけて測定した。
結晶化度:用いたポリマーまたはポリマーブレンドの融解熱を、示差走査熱量計によって測定した。一方、同一種のポリマーまたはポリマーブレンドの完全結晶体の融解熱を、同様な方法によって測定し、下記の式により、結晶化度を求めた。
【0024】
【数1】

【0025】
発泡体の見掛け密度:JIS K6400を準用して測定した。
発泡体のセル径の範囲:断面を電子顕微鏡により撮影して、画面を肉眼で観察し、画面のセルの80〜90%が分布しているセル径の範囲を、セル径の範囲とした。
【0026】
実施例1〜6、比較例1〜4
ポリマーとして、表1に示されたポリプロピレンまたはプロピレン系共重合体と、EPDMの未硬化ポリマーまたはエチレン−ブチレン共重合体とを用い、混合して得られたポリマーブレンドに水酸化アルミニウムおよびパラフィン系プロセスオイルを配合して、表2に示す配合比のポリマー組成物1〜6を調製した。これを耐圧容器に仕込み、二酸化炭素を送入して、表2に示す温度において、圧力13.0MPaに10分保ち、ポリマー組成物に二酸化炭素を含浸させた。ついで、圧力を0.4MPa/sの減少速度で減じるとともに、温度を室温まで放冷して、独立気泡の発泡体を得た。
【0027】
用いたポリマーの結晶化ピーク温度、結晶化温度領域の幅、結晶化エネルギーおよび結晶化度を、表2に示す。また、得られた発泡体の見掛け密度、およびそれと真密度から算出した発泡倍率、ならびにセル径の範囲を、それぞれ表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から明らかなように、結晶化ピーク温度より22〜32K{22〜32℃}高い温度で二酸化炭素を含浸させた実施例1〜6においては、高い発泡倍率と細かいセル径を有する優れた発泡体が得られた。これに対して、含浸温度と結晶化ピーク温度との差が22K{22℃}より小さい比較例1および2、ならびに32K{32℃}これより大きい比較例3および4では、発泡倍率の低い発泡体しか得られなかった。
【0030】
比較例5
発泡材料としてPP−3を単独で用い、含浸温度を150℃としたほかは実施例3と同様の方法により、含浸および発泡を行った。このものの結晶化ピーク温度は122.0℃、結晶化温度領域の幅は18.3K{18.3℃}、結晶化エネルギーは78.5J/g、結晶化度は61.0%であった。その結果、得られた発泡体の見掛け密度は0.287g/cm3、発泡倍率は3.1倍であり、満足すべき発泡倍率の発泡体が得られなかった。
【0031】
実施例7、比較例6、7
ポリマー組成物1を用い、圧力減少速度を0.2MPa/s(比較例6)、0.8MPa/s(実施例7)および1.2MPa/s(比較例7)とした以外は実施例1と同様にして、含浸および発泡を行った。その結果、実施例7では、良好な発泡体が得られ、その見掛け密度は0.168g/cm3、発泡倍率は5.4倍であった。それに対して、比較例6では、発泡体の収縮が認められ、得られた発泡体のセルは不均一であって、その見掛け密度は0.307g/cm3、発泡倍率は2.9倍であった。また比較例7においても、いったん形成した発泡体が収縮して、得られた発泡体の見かけ密度は0.255、発泡倍率は3.5倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明で得られる、プロピレン系ポリマーまたはポリマーブレンドの発泡体、特に高発泡体は、家具用クッション、OA機器用クッション、家庭用品、医療用品、シール材などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー中のプロピレン単位の量が80モル%以上の熱可塑性ポリマー、それを含有するポリマーブレンド、またはそれらを含有するポリマー組成物から発泡体を製造する方法であって、結晶化温度領域の幅が25K{25℃}以下、結晶化エネルギーが1.0〜50.0J/gであるポリマーを用い、かつ上記ポリマーまたはそれを含有する材料に、常温で気体である物質を、超臨界状態で、かつ示差走査熱量計による測定によって得られたポリマーの結晶化ピーク温度より22〜32K{22〜32℃}高い温度で含浸させた後、0.3〜1.0MPa/sの圧力減少速度で圧力を減少させることを特徴とする、プロピレン系ポリマー発泡体の製造方法。
【請求項2】
ポリマーが、ポリプロピレン/EPDMブレンドである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ポリマーブレンド中のポリプロピレンの量が、60〜90重量%である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
ポリマーの結晶化度が、10〜60%である、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−1962(P2006−1962A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176579(P2004−176579)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】