説明

ヘッドホンユニット、及びヘッドホン

【課題】個々の使用者の個人差に対応して装着感を向上させると共に、出力される音声の外部への漏れを防止し、さらに、感度の低下を防止するようにしたヘッドホンユニットと、これを用いたヘッドホンを提供する。
【解決手段】ヘッドホンユニット1は、内部に放音手段3が配されたヘッドホン本体2と、放音手段の音声出力側外周を囲むようにヘッドホン本体に配されたイヤーパッド部4とを備える。ヘッドホン本体は、イヤーパッド部のヘッドホン本体側への押圧に応じ、放音手段をヘッドホン本体の内部から外方へ押進させるバランス手段を備えている。バランス手段は、放音手段が配される部位に設けられた第一伸縮管11と、イヤーパッド部が配される部位に設けられた第二伸縮管12と、第一伸縮管と第二伸縮管とを連通する連絡域13と、第一伸縮管、第二伸縮管、及び連絡域の内部に密閉充填された流動部材14と、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンユニット、及びヘッドホンに係るものであり、詳しくは、ヘッドバンドを用いて頭部へ装着する形式のヘッドホンにおいて、感度の低下を防止すると共に、使用者の個人差無く装着感を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンは、使用者の頭の上を跨ぐヘッドバンドを介して、その両方の端部にそれぞれ取り付けた左右一対のヘッドホンユニットを連結したものである。このヘッドホンは、前記ヘッドホンユニットを近接させるような前記ヘッドバンドの弾性力を利用して、前記ヘッドホンユニットによって使用者の顔を両側面から挟み込み、左右のヘッドホン本体に配置されているイヤーパッドで使用者の左右の耳を周囲から囲むように装着している。
【0003】
上記ヘッドホンユニットの基本的な構成は、例えば図4に示すとおりである。
図4において、ヘッドホンユニット101は、内部に放音手段としてスピーカ103が配されたヘッドホン本体102と、スピーカ103の放音側外周を囲むようにヘッドホン本体102に配されたイヤーパッド104とを少なくとも備えている。図4は片方のヘッドホンの片側のみを示している。
このイヤーパッド104はクッション性を有しており、使用者の頭部や顔の形状に合わせて耳の周りの側頭側顔部(以下、単に「耳の周り」という)にヘッドホン本体102をフィットさせることで、音漏れを防止している。また、イヤーパッド104は、頭部へのヘッドホンの保持の役目も果たしている。このようなイヤーパッド104は、通常、ウレタンフォーム等のクッション材を、塩化ビニールシートや合成皮革等の外装膜で包んだ環状構造を有している。
【0004】
ところが、使用者の頭や顔、耳の形状、及びその寸法には個人差がある。そのため、ヘッドホンの装着時に耳の周りに加える側圧は、個人によって過不足が生じてしまう。
たとえば、図5に示すように、イヤーパッド104を使用者Uの耳の外周に位置させ、音漏れを少なくし、頭部への保持強度を高くするために、ヘッドバンド105の弾性力を利用して左右から強く挟み込むように装着する。そうすると、イヤーパッド104の接触面104aが耳の周りに当接し、使用者Uの側頭部の形状、その他の条件によって、図中矢印で示すように、部分的に圧迫される。そのため、使用者Uにとって装着感が悪いと共に、長時間の使用が苦痛となる。
一方、図6に示すように、イヤーパッド104を使用者Uの耳の外周に位置させ、部分的な圧迫を回避するために、左右から挟みつけるヘッドバンド105の弾性力を小さくして装着したとする。そうすると、部分的に圧迫されることは無いが、イヤーパッド104の接触面104aと、使用者Uの耳の周りの下方部との間に隙間110が生じてしまう。そのため、外部に音漏れし、周囲の人に迷惑を掛けてしまうと共に、保持強度の不足が発生してしまう。
【0005】
このように、従来のヘッドホンでは、イヤーパッドで耳の周りを左右から挟み込むように装着するだけでは、個々の使用者に対応することが出来ないものであった。
また、ジンバル機構に類似の連結構造を備えることによって、ヘッドホンユニット101をヘッドバンドに対して上下左右方向に調整できる構造もあるが、図5及び図6を示して上に述べたように、イヤーパッドが強く当って痛くなる部分と、弱く当って音漏れしてしまう部分が発生する。
【0006】
そこで、音漏れを防止すると共に、装着感を向上させるようにしたヘッドホンが幾つか提案されている(たとえば、特許文献1乃至3参照)。
しかしながら上記特許文献1乃至3に記載されたものは何れも、ヘッドホンの装着感を向上させるようにすることは出来るものの、ヘッドホンの装着において個々の使用者に対応しつつ、好ましい装着感を覚える適切な状態を継続して維持することが出来るものではない。
【0007】
また、図4に示すように、スピーカから耳までの空間(空気室)βの容積が大きいと、耳に加わる音圧が低下し、感度が低下する。さらに、イヤーパッドと頭部の隙間から低域の音声が漏洩し、周波数応答が劣化する虞がある。
【0008】
図7は、従来のヘッドホンユニットの断面図であり、図8は、その等価回路である。ここで、Peは耳が受ける音圧、Zeは耳のインピーダンス、sfは耳の空洞のスチフネス、mlはイヤーパットから漏れる音響質量、rlはイヤーパットから漏れる音響抵抗、moは振動板の実効質量、soは振動板のスチフネス、Fは駆動力、s1は振動板の後方のスチフネス、r1はユニットのダンパーの抵抗、s2はヘッドホンのキャビティのスチフネス、をそれぞれ示す。
図7及び図8に示すように、耳のインピーダンスZeに対して、耳の空洞のスチフネスsf、イヤーパッドから漏れる音響抵抗rl、イヤーパッドから漏れる音響質量mlで構成される部分のインピーダンスが低いと、耳が受ける音圧Peが低下するので、この部分のインピーダンスは高い方がよい。耳の空洞のスチフネスsfは小さい方が良く、イヤーパッドから漏れる音響抵抗rl及び、漏洩孔質量mlは、大きい方が良い。これによって上記インピーダンスが高くなるからである。しかるに、ヘッドホンが使用者Uの耳の外周にフィットして耳の空洞のスチフネスsfが小さくなり、イヤーパッドから漏れる音響抵抗rl及び、漏洩孔質量mlが大きくなれば良いが、人の頭部の形状、及びその寸法には個人差がある。
したがって、ヘッドホンの装着感を損ねず、イヤーパッドと頭部の隙間から音声が漏れないようにし、さらに、感度の低下を防止することが望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−327291号公報
【特許文献2】特開平8−88889号公報
【特許文献3】特開平11−27778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、個々の使用者の個人差に対応して装着感を向上させると共に、出力される音声の外部への漏れを防止し、さらに、感度の低下を防止するようにしたヘッドホンユニットと、これを用いたヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るヘッドホンユニットは、内部に放音手段が配されたヘッドホン本体と、放音手段の音声出力側外周を囲むようにヘッドホン本体に配されたイヤーパッド部と、を備えるヘッドホンユニットであって、ヘッドホン本体は、イヤーパッド部のヘッドホン本体側への押圧に応じ、放音手段をヘッドホン本体の内部から外方へ押進させるバランス手段を備えていることを主たる特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヘッドホンユニットは、ヘッドホン本体が、イヤーパッド部のヘッドホン本体側への押圧に応じて、放音手段をヘッドホン本体の内部から外方へ押進させるバランス手段を備えている。
ゆえに、使用者がヘッドホンを装着すると、イヤーパッド部が使用者の頭部(耳の外周)に当接してヘッドホン本体側へ押圧され、この押圧に伴い、バランス手段によって放音手段が、ヘッドホン本体の内部から外方へ押進される。しかも、個々の使用者の耳の周りの形状に倣ったイヤーパッド部の押圧力に応じて、バランス手段を適宜動作させることが出来る。これにより、放音手段が使用者の耳により近く位置することとなって、放音手段から耳までの空間が小さくなると共に、聴音時にイヤーパッド部が使用者の耳の周りを部分的に圧迫することがなく、ヘッドホンの装着中に耳の周りに加えられる側圧が個人によって過不足なく均一化される。また、側圧が小さくなって部分的な応力の不均一が無く、各自好ましい装着感となる。しかも、側圧が小さくなっても保持力が低下せず、音漏れもすること無く、良好な音質感を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るヘッドホンユニットの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明に係るヘッドホンユニットの一例を示す断面図であり、図1は第一状態を示す断面図、図2は第二状態を示す断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態のヘッドホンユニット1は、内部に放音手段3が配されたヘッドホン本体2と、放音手段3の音声出力側外周を囲むようにヘッドホン本体2に配されたイヤーパッド部4と、イヤーパッド部4のヘッドホン本体2側への押圧に応じ、放音手段3をヘッドホン本体2の内部から外方へ押進させるバランス手段を備えていることを特徴とする。
【0014】
ヘッドホン本体2は、振動板や、この振動板を駆動するドライバユニット、振動板の外周縁部を支持するフレーム、といった放音手段3に用いられる各部材を収納するいわゆるキャビネットである。
【0015】
放音手段3は、スピーカ(以下、スピーカを符号「3」で示す)である。スピーカ3は、電気信号を振動板の振動により音波に変換し、音声として外部へ放射する。このスピーカ3のフレームの外周部は、弾性を有する柔軟なダンパー8によってヘッドホン本体2に取り付けられている。
【0016】
イヤーパッド部4は、外部からの押圧によって変形可能なクッション性を有する部材よりなり、例えばウレタンフォーム等のクッション材を、塩化ビニールシートや合成皮革等の外装膜で包んだ構造や、内部が中空で、その外周をウレタンフォーム等のクッション材、及び塩化ビニールシートや合成皮革等の外装膜で包んだ中空構造とすることが出来る。
【0017】
バランス手段は、第一伸縮管11と、第二伸縮管12と、連絡域13と、流動部材14と、から構成されている。
【0018】
第一伸縮管11は、スピーカ3が配される部位の背面(ヘッドホン本体2の内部)側に設けられた伸縮自在の中空部材よりなり、図示の実施例では略円筒状のベローズで構成されている。この第一伸縮管11の内部には、流動部材14が密封充填されている。また、第一伸縮管11は、収縮状態を維持し、必要に応じて伸張する蛇腹状をしたベローズとする。
【0019】
第二伸縮管12は、イヤーパッド部4が配される部位の背面(ヘッドホン本体2の内部)側に設けられた伸縮自在の中空部材よりなり、ヘッドホン本体2の外周縁に沿った環状のベローズで構成されている。この第二伸縮管12の内部にも、流動部材14が密封充填されている。
この第二伸縮管12は、比較的強度のあるものが望ましい。これにより、第二伸縮管12を、スピーカ3の背面に形成するヘッドホンの後部気室(キャビティ)6の構成部材とすることが出来る。また、第二伸縮管12は、伸張状態を維持し、必要に応じて収縮する蛇腹状をしたベローズとする。
【0020】
また、バランス手段には、第一伸縮管11が収縮するように付勢する収縮状態維持手段、又は第二伸縮管12が伸張するように付勢する伸張状態維持手段をさらに備えていることが望ましい。この収縮状態維持手段又は伸張状態維持手段としては、たとえばコイルスプリングを挙げることができる。図1及び図2には、スピーカ3の背面(ヘッドホン本体2の内部)側に、第一伸縮管11に対する収縮状態維持手段としての圧縮コイルスプリング7が設けられた状態が示されている。また、図示しないが、再生用スピーカ3やイヤーパッド部4の背面(ヘッドホン本体2の内部)側に、第二伸縮管12に対する伸張状態維持手段としての伸長コイルスプリングを設けても良い。
【0021】
これにより、スピーカ3がヘッドホン本体2の内部に引っ込み、その音声出力側外周をイヤーパッド部4が囲むように保護した状態を常時維持することができ、放音手段3が外部からの衝撃等によって破損してしまう虞を極力避けることが出来る。
【0022】
また、第一伸縮管11と第二伸縮管12は、伸縮方向に対しての伸長又は収縮だけでなく、伸縮方向に対して傾斜しての伸長又は収縮が可能であると望ましい。これにより、ヘッドホンを装着した使用者の耳の周りの形状に倣ってイヤーパッド部4が容易に傾き、イヤーパッド部4がより頭部にフィットし易いものとなる。
【0023】
連絡域13は、第一伸縮管11と第二伸縮管12とを相互に接続する連絡路であり、その内部には流動部材14が密封充填されている。したがって、第二伸縮管12が設けられた前面のイヤーパッド部4に対して加わる押圧力と、第一伸縮管11が設けられた前面の再生用スピーカ3に対して加わる押進力とのバランスが、この連絡域13を介して保たれる。
【0024】
流動部材14は、連絡域13と、第一伸縮管11、第二伸縮管12、及び連絡域13の内部に密閉充填され、ヘッドホンの装着によるイヤーパッド部4の押圧によって第二伸縮管12から連絡域13を介して第一伸縮管11へ移動すると共に、ヘッドホンの装着解除によるイヤーパッド部4の押圧の開放によって第一伸縮管11から連絡域13を介して第二伸縮管12へ移動することができる。この流動部材14としては、たとえば気体や液体、ゲル体、又は球状のビーズ等、流動的に移動可能な材料を挙げることができる。
【0025】
以上のように構成したヘッドホンユニット1は、2個を一対としてヘッドバンド5の両端にそれぞれ取り付けられることによりヘッドホンが構成される。なお、ヘッドホンユニット1のヘッドホン本体2に配されたスピーカ3には、音源装置から音声信号を送信する電気コードがそれぞれ接続されている。
【0026】
ヘッドホンユニット1を、利用者Uの耳を左右から挟み込むように装着すると、イヤーパッド部4は使用者Uの耳の周りに当接することでヘッドホン本体2側へ押圧される。イヤーパッド部4に加わった押圧力は、第二伸縮管12を収縮させるように作用し、第二伸縮管12が収縮することで、その内部に充填された流動部材14を押し出す。また、第二伸縮管12は、個々の使用者の耳の周りの形状に倣って容易に傾き適宜形状に変形する。押し出された内部の流動部材14は、連絡域13を介して第一伸縮管11の内部へ流れ、第一伸縮管11を伸長させる。そして、第一伸縮管11の伸長に伴って、スピーカ3はヘッドホン本体2の内部から押し出されるように外方へ押進する。
【0027】
これにより、ヘッドホン装着後の再生用スピーカ3から耳までの空間α2は、ヘッドホン装着前の放音手段から耳までの空間α1に比べて狭い(小さい)ものとなる。スピーカ3から放射される音波により耳の受ける音圧は、原理的にスピーカからの距離に概ね反比例するので、上記のようにスピーカ3が進出することにより、感度を高めることができる。
また、スピーカ3が外方へ押進することで耳に当接し、イヤーパッド部4だけでなく、耳穴付近まで側圧が加わることになる場合もあるが、この場合は、圧力を負担する面積が増え、単位面積当たりの圧力が低下するので、イヤーパッド部4が強く当たって痛くなる等の不具合を防止することが出来る。
なお、再生用スピーカ3から耳までの空間には個人差があるが、上記実施例にかかるヘッドホンによれば、上記個人差を小さくすることができる。
【0028】
また、流動部材14は、電圧の印加により粘性を増加させて適宜形状を維持すると共に、粘性を可逆的に変化させることができることが出来る流体にすると望ましい。このような流体としては、たとえば電界強度に応じて見かけ上の粘性が変化する電気粘性(ER:Electro Rheological)流体を挙げることができる。電圧を印加することで材料の粘性特性が変化する性質はER(エレクトロ・レオロジー)効果と呼ばれ、このような特性を持つ電気粘性流体として、たとえば絶縁性の液体に誘電性固体微粒子を分散させた懸濁液や液晶がある。
【0029】
流動部材14が、上述のような電気粘性流体である場合、バランス手段は、電圧を発生して電気粘性流体14に対して印加する電圧発生手段をさらに備えるものとする。この電圧発生手段は、電圧を発生する電源と共に、電極21,21と導電配線22,22から構成された電圧印加手段を備え、維持する適宜形状を確定する指示信号に応じて電圧を印加する。このような電圧発生手段は、ヘッドホン本体2に具備されていても良いし、ヘッドホン本体2以外の場所に設け、電気的に接続されるようにしても良い。
【0030】
上述した電圧の発生は、再生用スピーカ駆動信号を電源とし、再生用スピーカ3から放音される出力信号を検知する電子部品、使用者の体温を感知する温度センサといったものに起因して印加を行なうものとすることができる。したがって、音声信号の検知による出力信号を指示信号としたり、所定温度の測定による感知信号を指示信号としたりすることで、電圧を発生させて電気粘性流体に対して印加させることができる。
このように、維持する適宜形状を確定する指示信号に応じて電圧発生手段が電圧を発生すると、電圧は、導電配線22、22を通じて電極21、21へ送られ、電気粘性流体14に印加する。電気粘性流体14は、電圧の印加を受けることで粘性が高くなり、流動性がなくなって変形した適宜形状を維持する。一方、電気粘性流体14への電圧の印加が解除されると、粘度が低減し再び流れを取り戻し、押圧によって適宜形状に変形可能となる。
【0031】
電圧の発生は、ヘッドホン本体2に搭載可能な電池を電源としてもよい。この場合、電圧発生手段を動作させる回路のスイッチを操作してオンすると、電池より給電された電圧をコンバータ等で適切な電圧に変換し、さらに、印加手段である導電配線22、22及び電極21、21を介して流動部材としての電気粘性流体14に印加する。
このように、電池を電源とすることで、電圧発生手段は電池からの電圧に基づいて動作し、使用者が前記スイッチを操作することで、好ましい装着感を覚えた自由なタイミングで、イヤーパッド部4の押圧状態を維持する電圧の印加を行なうことが出来る。
【0032】
以上のように構成したヘッドホンユニット1は、これを図3に示すように利用者Uの耳を左右から挟み込むように装着すると、イヤーパッド部4が使用者Uの耳の周りに当接して押圧され、第二伸縮管12の内部の流動部材(電気粘性流体)14が連絡域13を介して第一伸縮管11の内部へ流れ、スピーカ3をヘッドホン本体2の内部から外方へ押進させる。また、第二伸縮管12は、個々の使用者の耳の周りの形状に倣って適宜形状に変形し、応力を均一化する。
【0033】
その後、スイッチの操作や、所定体温の検知、音声信号の検知等といった、前記適宜形状を確定する指示信号に応じて電圧発生手段が動作し電圧が発生すると、発せられた電圧は、導電配線22,22及び電極21,21を介して流動部材(電気粘性流体)14に印加する。流動部材(電気粘性流体)14は、電圧の印加により粘性が高くなって流れなくなり、変形した適宜形状を維持する。
これにより、ヘッドホン装着後の放音手段から耳までの空間α2は、ヘッドホン装着前の放音手段から耳までの空間α1に比べて狭く(小さく)なり、感度の低下を防止することが出来る。
【0034】
また、使用者Uの耳の周りに当接するイヤーパッド部4の応力が均一化し、不快な圧迫感が無く、各自好ましい装着感を維持しながら聴音することが出来る。しかも、流動部材(電気粘性流体)14に電圧を印加することで容易に変形しないものとすると、利用者Uの耳を左右から挟み込む側圧が低いものであってもヘッドホンの保持力は低下せず、音漏れもすること無く、良好な音質感を得ることが出来る。
また、ヘッドホンユニット1を使用者Uの耳から一時的に開放しても、流動部材(電気粘性流体)14に電圧が印加されている限り、変形した適宜形状は無闇に変形することなく維持される。
【0035】
なお、本実施形態では、図面においてイヤーパッド部が耳の周囲の側頭部に密着する耳覆い型のヘッドホンについて説明したが、本発明はこれに限定されない。したがって、たとえばイヤーパッド部が耳に対して平面的に当たるヘッドホンとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るヘッドホンユニットの実施例を示す第一状態の断面図である。
【図2】本発明に係るヘッドホンユニットの実施例を示す第二状態の断面図である。
【図3】本発明に係るヘッドホンを装着した状態を示す概略図である。
【図4】従来のヘッドホンユニットを示す断面図である。
【図5】従来のヘッドホンを装着した第一の状態を示す概略図である。
【図6】従来のヘッドホンを装着した第二の状態を示す概略図である。
【図7】従来のヘッドホンユニットを示す断面図である。
【図8】図7に示すヘッドホンユニットの等価回路である。
【符号の説明】
【0037】
α1,α2 放音手段から耳までの空間
1 ヘッドホンユニット
2 ヘッドホン本体
3 放音手段(再生用スピーカ)
4 イヤーパッド部
5 ヘッドバンド
6 後部気室
7 収縮状態維持手段(圧縮コイルスプリング)
8 ダンパー
11 第一伸縮管(円筒状ベローズ)
12 第二伸縮管(環状ベローズ)
13 連絡域
14 流動部材(ER流体)
21 電極
22 導電配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放音手段が配されたヘッドホン本体と、前記放音手段の音声出力側外周を囲むように前記ヘッドホン本体に配されたイヤーパッド部と、を備えるヘッドホンユニットであって、
前記ヘッドホン本体は、前記イヤーパッド部のヘッドホン本体側への押圧に応じ、前記放音手段をヘッドホン本体の内部から外方へ押進させるバランス手段を備えていることを特徴とするヘッドホンユニット。
【請求項2】
前記バランス手段は、
前記放音手段が配される部位に設けられた第一伸縮管と、
前記イヤーパッド部が配される部位に設けられた第二伸縮管と、
前記第一伸縮管と前記第二伸縮管とを連通する連絡域と、
前記第一伸縮管、前記第二伸縮管、及び前記連絡域の内部に密閉充填された流動部材と、
から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドホンユニット。
【請求項3】
前記第一伸縮管及び前記第二伸縮管は、伸縮方向に対して傾斜可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドホンユニット。
【請求項4】
前記第一伸縮管が収縮するように付勢する収縮状態維持手段、又は前記第二伸縮管が伸張するように付勢する伸張状態維持手段をさらに備えることを特徴とする前記請求項1乃至3のいずれか一項に記載のヘッドホンユニット。
【請求項5】
前記流動部材は、電圧の印加により粘性を増加させて適宜形状を維持すると共に、粘性を可逆的に変化させることができるものであり、
前記バランス手段は、電圧を発生して前記流動部材に対して印加する電圧発生手段をさらに備えることを特徴とする前記請求項1乃至4のいずれか一項に記載のヘッドホンユニット。
【請求項6】
前記電圧発生手段は、放音手段駆動信号を電源とすることを特徴とする前記請求項1乃至5の何れか一項に記載のヘッドホンユニット。
【請求項7】
前記電圧発生手段は、前記ヘッドホン本体に搭載可能な電池を電源とすることを特徴とする前記請求項1乃至5の何れか一項に記載のヘッドホンユニット。
【請求項8】
前記請求項1乃至7の何れか一項に記載のヘッドホンユニットを備えることを特徴とするヘッドホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−283281(P2008−283281A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123534(P2007−123534)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】