説明

ヘッドボックス、抄紙装置及び製紙装置

【課題】ヘッドボックス内でパルプ懸濁液を効率よく攪拌することができ、得られる紙の地合を向上できるヘッドボックス及び該ヘッドボックスを備えた抄紙装置及び製紙装置の提供を目的とする。
【解決手段】ヘッドボックス11は、流入部50と、前記流入部50から流入され、貯留部36に貯留するパルプ懸濁液を攪拌する攪拌手段55とを備え、貯留部36内のパルプ懸濁液を走行する抄紙ワイヤー71上へ供給する供給方向Fに略直交する幅方向Wに沿って、貯留部36の一部を形成する側板を設置し、前記側板の上方より、前記パルプ懸濁液を溢流させ抄紙ワイヤー71へ供給するヘッドボックス11において、前記攪拌手段55は、前記幅方向Wに沿って設置された平板状部材53と、前記平板状部材53を上下または前後に往復移動させる移動手段54とを備えてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドボックス、抄紙装置及び製紙装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙原料としてのパルプ懸濁液を抄紙ワイヤーに供給するためのヘッドボックスについて、下記特許文献1にはヘッドボックス本体内に貯留するパルプ懸濁液中の繊維を幅方向に拡散させるための拡散バーを備えた技術が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2,3にはスラリーを原料として建築用ボード等を製造する装置についてスラリーを成形部に供給するスラリー供給部に攪拌体を設け、攪拌体によりスラリーを攪拌可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−49183号公報
【特許文献2】特開平7−256623号公報
【特許文献3】特許4168120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のヘッドボックスにおいては、拡散バーに山と谷が軸方向で繰り返される棒材を用いているが、繊維の幅方向への拡散は、拡散バーの構造上十分に効率よくなされているとはいえず、更なる改善が必要である。
【0006】
また上記特許文献2,3に記載のボードの製造装置におけるスラリー供給部に設けた攪拌体を、抄紙装置のヘッドボックスに設けた場合には、パルプ懸濁液に気泡を発生させるので、得られる紙の地合を損なう。
【0007】
本発明は上記した課題を解決するものであり、ヘッドボックス内でパルプ懸濁液を効率よく攪拌することができ、得られる紙の地合を向上できるヘッドボックス及び該ヘッドボックスを備えた抄紙装置及び製紙装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のヘッドボックスは、製紙原料であるパルプ懸濁液を貯留部に流入させる流入部と、前記流入部から流入され、貯留部に貯留するパルプ懸濁液を攪拌する攪拌手段とを備え、貯留部内のパルプ懸濁液を走行する抄紙ワイヤー上へ供給する供給方向に略直交する幅方向に沿って、貯留部の一部を形成する側板を設置し、前記側板の上方より、前記パルプ懸濁液を溢流させ抄紙ワイヤーへ供給するヘッドボックスにおいて、前記攪拌手段は、前記幅方向に沿って設置された平板状部材と、前記平板状部材を上下または前後に往復移動させる移動手段とを備えてなるものである。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1に記載のヘッドボックスにおいて、平板状部材は平板面が略水平姿勢となるよう横設され、移動手段は、前記平板面が略水平姿勢を維持したまま平板状部材を上下に往復移動するものである。
【0010】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のヘッドボックスにおいて、平板状部材は、貯留部の幅方向両端部近傍の部分が、幅方向中央部より細く形成されてなるものである。
【0011】
更に、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のヘッドボックスにおいて、貯留部は、幅方向に沿って中空高さ位置に配設された仕切壁により前後に区画されてなるものである。
【0012】
更に、請求項5に記載の発明は、少なくとも請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のヘッドボックスと、抄紙ワイヤーを設けてなる抄紙ワイヤー装置とを備えた抄紙装置である。
【0013】
更に、請求項6に記載の発明は、少なくとも請求項5に記載の抄紙装置を備えた製紙装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載のヘッドボックスによれば、攪拌手段は、幅方向に沿って設置された平板状部材と、前記平板状部材を上下または前後に往復移動させる移動手段とを備えてなるので、貯留部内のパルプ懸濁液を非常に効率よく攪拌することができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、平板状部材は平板面が略水平姿勢となるよう横設され、移動手段は、前記平板面が略水平姿勢を維持したまま平板状部材を上下に往復移動するので、抄紙ワイヤーにパルプ懸濁液が供給される際、液面に波を発生させ、周期的に液量を増大させることが容易となる。この波の発生により、供給経路の途中で塊状となった古紙パルプを分散させることができ、得られる再生紙の品質向上が可能である。
【0016】
そして、請求項3に記載の発明によれば、平板状部材は、貯留部の幅方向両端部近傍の部分が、幅方向中央部より細く形成されてなるので、パルプ懸濁液が十分行き渡り難く、流量の少なくなりがちな貯留部の幅方向両端部近傍部分を、パルプ懸濁液に多く流通させることができ、抄紙ワイヤー上に供給されるパルプ懸濁液中の古紙パルプの濃度を幅方向で均一にすることができる。
【0017】
更に、請求項4に記載の発明によれば、貯留部は、幅方向に沿って中空高さ位置に配設された仕切壁により前後に区画されてなるので、パルプ懸濁液に混入し、流入部から貯留部へと流入した気泡を、抄紙ワイヤーへの供給方向上流側の区画室内で上昇させ消滅させることができ、抄紙ワイヤー上に供給されるパルプ懸濁液から気泡を除去して得られる再生紙の品質を向上することができる。
【0018】
更に、請求項5に記載の発明によれば、少なくとも請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のヘッドボックスと、抄紙ワイヤーを設けてなる抄紙ワイヤー装置とを備えた抄紙装置であるので、ヘッドボックスから抄紙ワイヤーへと供給されるパルプ懸濁液を、古紙パルプ濃度の偏りが少なく均一なものとすることができ、抄紙により得られる紙の品質を向上可能である。
【0019】
更に、請求項6に記載の発明によれば、少なくとも請求項5に記載の抄紙装置を備えた製紙装置であるので、地合の改善された良好な品質の紙を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る製紙装置の構成概略図である。
【図2】前記製紙装置のヘッドボックス及びワイヤー部の斜視図である。
【図3】前記ヘッドボックスの背面図である。
【図4】図3のA−A線矢視断面図である。
【図5】図3のB−B線矢視断面図である。
【図6】図3のC−C線矢視断面図である。
【図7】図3のD−D線矢視断面図である。
【図8】前記製紙装置のプレス部及び乾燥部、仕上部の概略図である。
【図9】ヘッドボックス及びワイヤー部の使用態様図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明にかかる古紙再生処理装置の構成概略図である。図1において、古紙再生処理装置100は、古紙パルプ製造部1、脱墨パルプ部2、抄紙部3、仕上部4及び各部を制御する制御部8をケーシング(図示省略)内に備えてなる。
【0022】
古紙パルプ製造部1は、古紙6を離解してパルプ懸濁液を製造するものであり、脱墨パルプ部2は、古紙パルプ製造部1において製造されたパルプ懸濁液を脱墨するものであり、抄紙部3は、脱墨パルプ部2において得られた脱墨後のパルプ懸濁液を抄紙するものであり、仕上部4は、抄紙部3において抄紙された仕上げ前の再生紙7を裁断等することにより仕上げを行って再生紙7を得るものである。制御部8は古紙再生処理装置100全体の動作を制御する。古紙パルプ製造部1及び脱墨パルプ部2は、それぞれ公知の古紙パルプ製造装置及び脱墨装置を利用可能である。
【0023】
抄紙部3は、図2に示すヘッドボックス11及びワイヤー部12と、図8に示すプレス部13及び乾燥部14とを備えた抄紙装置Sにより構成される。ヘッドボックス11は、脱墨後のパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー71上に均一に供給するためのものである。
【0024】
図3は、ヘッドボックス11の背面図、図4は図3のA−A線矢視断面図、図5は図3のB−B線矢視断面図、図6は図3のC−C線矢視断面図、図7は図3のD−D線矢視断面図である。図3に示すように、ヘッドボックス11は、パルプ懸濁液を流入させ貯留するヘッドボックス本体21を備えている。ヘッドボックス本体21は、上部枠体23、下部枠体24、左枠体25及び右枠体26を備えたフレーム27の内部に収容され、左枠体25と右枠体26との間の中段に架設された支持台28上に固定されている。
【0025】
図3〜6に示すように、ヘッドボックス本体21は、底板31及び該底板31の外周縁に立設された前側板32、後側板33、左側板34及び右側板35により一体に形成され、ヘッドボックス本体21の上部は開放している。ヘッドボックス本体21の内部にはパルプ懸濁液を貯留する貯留部36が形成される。
【0026】
図2、4に示すように、左側板34及び右側板35には、それぞれ前側の上部がワイヤー部12を構成する抄紙ワイヤー71の上面に沿って所定長さ延在してなる幅ガイド38,39が設けられている。該幅ガイド38,39は、抄紙ワイヤー71上に供給されたパルプ懸濁液が左右外方へ流出するのを防止し、抄紙により得られる湿紙9の幅方向W長さを規定する。幅ガイド38,39の前端部は湿紙9に接触しない高さ位置で連結部材40により連結されている。
【0027】
また、左右の両幅ガイド38,39の間には、抄紙ワイヤー71の上面に沿って案内板42が設置されており、該案内板42の左右両端縁が幅ガイド38,39の下部に塩化ビニル系接着剤等により固着されている。また、案内板42の後端縁は前側板32の上端縁に同様に固着されている。
【0028】
前側板32は、前記のように貯留部36の一部を形成する側板であり、図2に示すように、走行する抄紙ワイヤー71上へ貯留部36に貯留するパルプ懸濁液を供給する際の供給方向Fに、略直交する幅方向Wに沿って設置されている。図6に示すように、前側板32は底板31からの高さが、後側板33より所定量だけ低く形成され、貯留部36に貯留するパルプ懸濁液を前側板32の上端縁の上方より前方へと溢流させるようになっている。この前側板32から溢流したパルプ懸濁液は、幅ガイド38,39により幅方向Wを規制されつつ案内板42上を漏れることなく流通し抄紙ワイヤー71上へと供給されるようになっている。
【0029】
図6,7に示すように、貯留部36は、仕切壁44によって後側の第一室46と前側の第二室47とに前後方向に区画されている。仕切壁44は貯留部36の中空高さ位置に設置されており、仕切壁44の左右端縁は左側板34及び右側板35にそれぞれ支持され、第一室46と第二室47とは下部が連通している。
【0030】
底板31には、図6に示す第一室46を構成する後側位置であって、且つ図3に示す幅方向W中央部に、パルプ懸濁液を貯留部36へと流入させる流入部50が開口して形成されている。該流入部50には合成樹脂製の配管51が接続され、前工程である脱墨パルプ部2から送られるパルプ懸濁液を貯留部36へ送るようになっている。
【0031】
第一室46及び第二室47には、それぞれ流入部50から流入され、貯留部36に貯留するパルプ懸濁液を攪拌する攪拌手段55を備えている。攪拌手段55は、幅方向Wに沿って設置された平板状部材53と、平板状部材53を上下に往復移動させる移動手段54とを備えている。
【0032】
図6に示すように、平板状部材53は、平板面が略水平姿勢となるよう横設され、図5に示すように、幅方向Wの略全範囲に亘って設けられている。そして、この平板状部材53は、平面視貯留部36の幅方向W両端部近傍の部分が、他の部分より若干細く形成されてなり、更に、第一室46に設置された平板状部材53aは平面視幅方向W両端部近傍に加え、流入部50の上方位置となる幅方向W略中央部が若干細く形成されている。
【0033】
図5に示す貯留部36の第一室46及び第二室47の各々の底面の面積に対する各平板状部材53の平面の面積の割合は、いずれも40%〜70%程度、好ましくは50%〜65%程度とすることが、パルプ懸濁液を効率よく攪拌でき、また、パルプ懸濁液を円滑に流通できる点で好ましい。
【0034】
移動手段54は、平板状部材53は略水平姿勢を維持したままで移動する構成とされる。移動手段54により平板状部材53を往復移動させることで、第一室46及び第二室47に貯留するパルプ懸濁液の液面を上下動させ、これにより、抄紙ワイヤー71上に供給されるパルプ懸濁液の液面に波を生じさせる。移動手段54は、アーム58、リンク部材59、回転体60、クランク軸61、駆動ギア62、従動ギア63及び駆動部(図示省略)を備えている。
【0035】
アーム58は左右一対設けられ、図3に示すように、該アーム58の下端部に平板状部材53の左右両端部が連結されている。図6に示すように、アーム58の上部はリンク部材59の下端部にピン接合されており、リンク部材59の上端部は回転体60の偏心位置にピン接合されている。回転体60は、図4に示すクランク軸61の右端部近傍に接合されており、クランク軸61の回転に伴って、回転体60が回転することで、リンク部材59の作用によりアーム58を介して平板状部材53を上下に往復移動させるようになっている。
【0036】
クランク軸61は、図7に示す従動ギア63の回転により駆動される。従動ギア63は、一対の該従動ギア63の間に設置された駆動ギア62にそれぞれ歯合しており、駆動ギア62は駆動軸64の一端部に接合されている。図3に示すように、駆動軸64は、上枠体23の右枠体26の上部に螺合された右側面に、回動自在に軸支されるとともに、駆動軸64の他端部は右枠体26より外方へ延在し、図示しないモータなどの駆動部に接続される。これより、駆動部が駆動すると、駆動軸64が回転し、駆動ギア62を回転させることで一対の従動ギア63をそれぞれ相互に逆方向に回転させ、クランク軸61を回転する。
【0037】
図6に示すように、第一室46の上方に設置された回転体60aと、第二室47の上方に設置された回転体60bとはリンク部材59をピン接合する偏心位置r1,r2の位相が180°ずらせてある。よって、第一室46と第二室47とのそれぞれの平板状部材53a,53bは相互に180°ずれた位相で上下に移動するよう調整され、例えば第一室46の平板状部材53が最下位にあるとき、第二室47の平板状部材53は最上位にあるようになっている。また、第一室46より第二室47の方がアーム58の長さが若干短く形成され、第二室47に流入したパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー71へと容易に導けるようになっている。そして、移動手段54により平板状部材53が上下に移動する長さは、ヘッドボックス本体21の大きさにもよるが、例えば、3mm〜10mm程度とすることができる。
【0038】
図2に示すように、ワイヤー部12は、複数のローラ70に掛け渡され、展張された無端状の抄紙ワイヤー71を備えた抄紙ワイヤー装置Hにより構成される。抄紙ワイヤー71の内方には、走行する抄紙ワイヤー71の下面に摺接する縦板74が幅方向Wに沿って設置され、抄紙ワイヤー71の走行方向に沿って複数並設されており、抄紙ワイヤー71の網目から流下する白水を下方へと導くようになっている。また、縦板74の下方には、該縦板74より、または抄紙ワイヤー71の網目から直接流下する白水を受ける受水部72を設けている。受水部72は図示しない白水タンクに接続され、白水タンクは、内部に収容する白水を古紙パルプ製造部1及び脱墨パルプ部2に送るための図示しない配管及びポンプを備え、受水部72において回収した白水を再利用可能に構成している。
【0039】
抄紙ワイヤー71の走行速度は比較的低速であってもよく、例えば5mm/s〜100mm/s、好ましくは15mm/s〜50mm/s程度である。
【0040】
図7に示すように、 プレス部13は、複数の回転ローラ77の間にそれぞれ掛け渡したフェルトからなる無端状の吸水ベルト78を上下一対有し、上側の吸水ベルト78aと下側の吸水ベルト78bとが一部当接している。この上側の吸水ベルト78aと下側の吸水ベルト78bとが一部当接した部分において、双方の吸水ベルト78を挟圧して圧搾する一対の圧搾ローラ79を複数備えている。
【0041】
乾燥部14は、フード(図示省略)内に複数の回転ローラ82及び乾燥用ローラ83を配置し、この複数の回転ローラ82及び乾燥用ローラ83の間に掛け渡した乾燥用ベルト84を上下一対備えている。乾燥用ベルト84の材質は特に限定されず、例えば、布、耐熱樹脂または金属等とし、上下の乾燥用ベルト84は一部が当接した状態で走行し、上下の乾燥用ベルト84の当接箇所に複数の乾燥用ローラ83が配置されている。乾燥用ローラ83は、内部にヒータ85を備えるとともに、外周面に乾燥用ベルト84を巻回しており、また、乾燥用ローラ83の表面の温度を測定する温度センサ(図示省略)を有している。
【0042】
(仕上部)
図1に示すように、仕上部4は、紙の平坦度を上げるための複数のプレスローラ87と、紙を所定のシートサイズにカットする裁断刃(図示省略)とを備えている。
【0043】
(作用)
本実施形態にかかる製紙装置100の作用につき以下に説明する。まず、古紙パルプ製造部1において所定量の古紙6を所定量の水とともに所定時間攪拌することで、パルプ懸濁液を製造する。次に、得られたパルプ懸濁液を脱墨パルプ部2へ送り、脱墨処理を行って、脱墨後のパルプ懸濁液を得る。脱墨後のパルプ懸濁液は、脱墨パルプ部2においてまたは脱墨パルプ部2から抄紙部3への流通経路の途中位置で加水され、抄紙に適する所定のパルプ濃度に調整され、抄紙部3のヘッドボックス11へ送られる。
【0044】
図3に示すように、ヘッドボックス11では配管51より送られたパルプ懸濁液が流入部50より貯留部36に流入する。図6に示すように、流入部50から流入したパルプ懸濁液中に気泡が混入していた場合には、気泡は流入部50より第一室46内を真っ直ぐに上昇し、貯留するパルプ懸濁液の液面で浮遊するかまたは消滅する。このように、貯留部36が仕切壁44により前後に区画されているので、流入部50から流入した気泡を第一室46内に留めて消滅させることができ、該気泡が第二室47へ流れ込んで抄紙ワイヤー71上に供給されるパルプ懸濁液中に混入することを防止することができ、得られる再生紙7の品質を向上することができる。
【0045】
流入部50からのパルプ懸濁液の流入開始時より、平板状部材53を上下動させるため駆動部を駆動する。この駆動部の駆動により、駆動軸64を介して駆動ギア62が回転し、前後一対の従動ギア63をそれぞれ回転させ、これによってクランク軸61がそれぞれ回転し、図6に示す回転体60を回転させる。すると、リンク部材59の作用によりアーム58を介して平板状部材53を上下に往復移動させることができる。
【0046】
このように平板状部材53を上下に往復移動させることで、貯留部36に貯留するパルプ懸濁液を攪拌することができ、貯留部36の隅や抄紙ワイヤー71への流入経路の途中位置で滞留し、凝集力により塊状となった古紙パルプを砕いて分散させることができ、抄紙ワイヤー71上に供給されるパルプ懸濁液中の古紙パルプの濃度を均一とし、得られる再生紙7の地合を向上させることが可能である。
【0047】
特に、本実施形態では、攪拌手段55として、底板31に略対向して配設された平板状部材53を用いているので、貯留部36内のパルプ懸濁液を非常に効率よく攪拌することができ、パルプ懸濁液の液中で攪拌羽根を回転させる場合のように気泡が発生するのを抑制することが可能である。
【0048】
また、一般にパルプ懸濁液を抄紙ワイヤー71上に供給する際、左右の幅ガイド38,39近傍を流通するパルプ懸濁液は幅ガイド38,39との摩擦によって流速が低下するので、幅方向W略中央部を流通するパルプ懸濁液に比較して幅方向W両端部近傍の方が液量が少なくなる傾向があり、得られる再生紙7の厚さが幅方向Wで不均一となりやすい。そこで、本実施形態では、平板状部材53を平面視幅方向W両端部近傍部分を細くすることで、貯留部36内において古紙パルプを幅方向W両端部近傍に多く流通させることができ、抄紙ワイヤー71上に供給されるパルプ懸濁液中の古紙パルプの濃度を幅方向Wで均一にすることができる。
【0049】
そして、平板状部材53を複数回に亘って上下に往復移動すると、貯留部36より抄紙ワイヤー71上へと送られるパルプ懸濁液に所定高さの波が形成される。本実施形態では、第一室46の平板状部材53と第二室47の平板状部材53とは180°位相がずれているために、第一室46に貯留するパルプ懸濁液の液面と、第二室47に貯留するパルプ懸濁液の液面とは高くなるタイミングが交互に入れ替わり、第一室46から第二室47を経て案内板42から抄紙ワイヤー71に至るパルプ懸濁液に、波がより生じやすい。
【0050】
波の振動数は、100Hz〜200Hzが好ましく、また130Hz〜180Hzがより好ましい。尚、この波の振動数は平板状部材53の上下の往復移動の振動数に等しくなる。波の山の進む速度は、貯留部36の大きさ、案内板42上を流通するパルプ懸濁液の深さ等によって異なるが、例えば小型のヘッドボックス11においては200mm/s〜1000mm/s、より好ましくは450mm/s〜600mm/s程度等となる。抄紙ワイヤー71の走行速度を、例えば5mm/s〜100mm/s、好ましくは15mm/s〜50mm/s程度とした場合には、抄紙ワイヤー71の走行速度は平板状部材53の上下の往復移動によって生じた波の山の速度より遅くなる。
【0051】
更に、幅方向W長さが30mm前後の貯留部36に、流入部50からのパルプ懸濁液の流入速度を、3L/分〜15L/分程度としてパルプ懸濁液を流入させると、平板状部材53を3〜10mm程度上下に往復移動しても後側板33や左右側板34,35より外方へパルプ懸濁液を溢れさせることなく、貯留部36内で非常に効率よくパルプ懸濁液を攪拌可能である。
【0052】
図9は、攪拌手段55の攪拌により生じる波の状態を、概略的に示す断面図である。同図に示すように、平板状部材53の上下の往復移動によって生じた波が案内板42上を流通するパルプ懸濁液の液面を伝播し、案内板42の前端縁より抄紙ワイヤー71上へ流入すると、パルプ懸濁液中の液体分が抄紙ワイヤー71の網目を通って流下し、このとき液面を伝播してきた波も消滅する。このように、抄紙ワイヤー71にパルプ懸濁液が供給される際、波を発生させて周期的に液量を増大させることで、供給経路の途中で塊状となった古紙パルプを分散させ、得られる再生紙7の品質を向上させることができる。
【0053】
抄紙ワイヤー71の走行速度を、波の山の伝播する速度より遅くした場合には、抄紙ワイヤー71の上面に残存している古紙パルプからなる固形分に、後方からの波の山の部分が所定の周期で複数回に亘り覆い被さって、古紙パルプの偏りを整え、表面を平滑化し、地合を更によくする。
【0054】
抄紙ワイヤー71上に供給されたパルプ懸濁液は、液体分が網目を通り抜け、縦板74により下方の受水部72へと導かれ、受水部72に受水された後、白水タンクに収容される。白水タンク内の白水は古紙パルプ製造部1や脱墨パルプ部2等へ送られ、再利用される。抄紙ワイヤー71上に残存した古紙パルプは水分を比較的多く含んだ繊維の層である湿紙9となる。
【0055】
抄紙ワイヤー71上の湿紙9が往路軌道の終端部に至ると、プレス部13の上側の吸水ベルト78aに転移される。その後下側の吸水ベルト78bとの間に挟まれ、湿紙9に含まれる水分を吸水ベルト78側に吸収させることで脱水し、更に、圧搾ローラ79で圧搾して脱水する。
【0056】
プレス部13で脱水された湿紙9は、乾燥部14に送られ、走行する上下一対の乾燥用ベルト84の間に挟持される。そして、ヒータ85により加熱され所定温度に維持された複数の乾燥用ローラ83に湿紙9を乾燥用ベルト84を介して当接させつつ搬送することで湿紙9の乾燥を行い仕上げ前の再生紙7を得る。
【0057】
乾燥部14を出た仕上げ前の再生紙7は複数のプレスローラ87の間に通される。これにより、仕上げ前の再生紙7の平坦度を向上させ、更に、裁断刃で所定のシートサイズに裁断して再生紙7が完成する。
【0058】
裁断刃により裁断された再生紙7の端材は、図1に示すように古紙パルプ製造部1に戻され、再度再生紙7の製造に利用される。
【0059】
尚、上記実施形態では、平板状部材53は平板面が略水平姿勢となるよう横設されたが、平板面が鉛直方向に沿うよう縦設してもよく、前端縁と後端縁との高さが異なるよう傾斜して設置しても構わない。例えば、図7において破線で示すように、平板状部材53Bの前端縁が水平方向より上位置に傾斜して設置してもよい。また逆に、前端縁が後端縁より下位置になってもよい。また、移動手段54は、平板状部材53の平板面が略水平姿勢を維持したまま該平板状部材53を上下に往復移動する構成としたが、鉛直方向に沿うよう縦設した平板状部材を左右に往復移動させることとしてもよく、平板状部材の平板面が傾斜配置された場合、かかる傾斜面を維持したまま上下または前後に往復移動してもよい。
【0060】
また、平板状部材53は幅方向Wの略全範囲に亘って設置されたが、一部であってもよく、また、平面視貯留部36の幅方向W両端部近傍の部分が、幅方向W中央部より若干細く形成したが、幅方向の全範囲で同程度の大きさであってもよく、他の形状であってもよい。
【0061】
また、貯留部36は、幅方向Wに沿って中空高さ位置に配設された仕切壁44により前後に区画されたが、必ずしも仕切壁44を設ける必要はなく、貯留部が一の貯留槽により形成されることとしてもよい。仕切壁44は中空高さ位置に設けることで、第一室と第二室の下部を連通したが、底板に立設し上部を連通してもよい。
【符号の説明】
【0062】
S 抄紙装置
F 供給方向
H 抄紙ワイヤー装置
W 幅方向
11 ヘッドボックス
36 貯留部
44 仕切壁
50 流入部
53 平板状部材
54 移動手段
55 攪拌手段
71 抄紙ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙原料であるパルプ懸濁液を貯留部に流入させる流入部と、
前記流入部から流入され、貯留部に貯留するパルプ懸濁液を攪拌する攪拌手段とを備え、
貯留部内のパルプ懸濁液を走行する抄紙ワイヤー上へ供給する供給方向に略直交する幅方向に沿って、貯留部の一部を形成する側板を設置し、
前記側板の上方より、前記パルプ懸濁液を溢流させ抄紙ワイヤーへ供給するヘッドボックスにおいて、
前記攪拌手段は、前記幅方向に沿って設置された平板状部材と、
前記平板状部材を上下または前後に往復移動させる移動手段とを備えてなるヘッドボックス。
【請求項2】
平板状部材は平板面が略水平姿勢となるよう横設され、
移動手段は、前記平板面が略水平姿勢を維持したまま平板状部材を上下に往復移動する請求項1に記載のヘッドボックス。
【請求項3】
平板状部材は、貯留部の幅方向両端部近傍の部分が、他の部分より細く形成されてなる請求項1または請求項2に記載のヘッドボックス。
【請求項4】
貯留部は、幅方向に沿って中空高さ位置に配設された仕切壁により前後に区画されてなる請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のヘッドボックス。
【請求項5】
少なくとも請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のヘッドボックスと、抄紙ワイヤーを設けてなる抄紙ワイヤー装置とを備えた抄紙装置。
【請求項6】
少なくとも請求項5に記載の抄紙装置を備えた製紙装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−46845(P2012−46845A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190630(P2010−190630)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(390002129)デュプロ精工株式会社 (351)
【Fターム(参考)】