説明

ヘッドマウントディスプレイ

【課題】半透過反射部材の重量の増加を低減しつつ、画像光の漏光を防止可能なHMDを提供すること。
【解決手段】画像光形成部と、接眼光学部と、画像光形成部と接眼光学部とを内蔵する筐体とを備えるHMDである。板状の半透過反射部材が、筐体に接続される。半透過反射部材は、HMDがユーザに装着された状態で、筐体から離間するに従いユーザに近づくようにユーザの眼前に配置される。半透過反射部材は、接眼光学系によって集光された画像光の一部を反射した反射光と外界からの外界光の一部とを透過した透過光とをユーザの眼に対して導く。半透過反射部材の一方の面には、ユーザの視野角を制限するルーバ状光学素子が備えられる。ルーバ状光学素子は、互いに離間した状態で配置された複数の板状の遮光部分を有する。遮光部分は、半透過反射部材の一方の面の垂線よりも反射光の光軸の方向に沿って、半透過反射部材から伸長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用者の眼の前方に画像として視認されるように画像を表示するヘッドマウントディスプレイ(以下、HMDという)が知られている。HMDは、一般に、画像光形成部、接眼光学部、及び偏向部材を備えている。画像光形成部は、画像情報に基づいた画像光を形成する。接眼光学部は、画像光形成部が形成した画像光を集光する。偏向部材は、接眼光学部から出射された画像光を反射して利用者の眼に入射する。この偏向部材の一例として、ハーフミラーなどの半透過反射部材がある。半透過反射部材を用いたHMDは、接眼光学部から出射された画像光を使用者の眼に入射して認識させる画像と、半透過反射部材を通した前方の実像とを使用者に同時に視認させることができる。このようなHMDは、シースルー型のHMDと呼ばれる。
【0003】
半透過反射部材は、画像光の一部を反射して使用者の眼に入射させる。換言すれば、半透過反射部材によって反射されない画像光の他部は、半透過反射部材を透過する。この透過した画像光は、HMDの外部に向かって射出される。外部へ射出された画像光が、仮にHMDを装着しているユーザ以外の他人の眼に入射した場合、その他人も画像を視認することができる(以下、漏光という)。その他人にとっては、視認する意図の無い画像が見えてしまうため、不快である。また、ユーザにとっては、自分だけが視認するつもりの画像が他人にも見えてしまうため、秘匿性などの面で問題となる可能性がある。そこで、特許文献1に開示のHMDでは、半透過反射部材の先端に、画像光を外界に対し遮光する遮光板が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―134134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のHMDでは、半透過反射部材の先端に遮光板が追加される。HMDのシースルー性を保つためには、遮光板は、半透過反射部材の表面に接触した状態で設けることはできない。そこで、特許文献1では、遮光板は、半透過反射部材から離間した状態で、保持部材を用いて保持される。この場合、保持部材が別途必要となるため、半透過反射部材に追加する部材の重量が増加する。そのため、HMD全体の重量が増加する。HMD全体の重量増加は、HMDを装着するユーザの不快感や疲労を増加させるため、望ましくない。また、半透過反射部材の先端に重量物(遮光板及び保持部材)が設けられるため、半透過反射部材に歪みを生じる可能性がある。半透過反射部材の歪みは、視認される画像の歪みなどに繋がるため、望ましくない。従って、特許文献1に記載のHMDは、半透過反射部材の重量を増加させてしまうため、上記したような課題を生じる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、半透過反射部材の重量の増加を低減しつつ、画像光の漏光を防止可能なHMDを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を反映した一側面は、ユーザの頭部に装着される装着部に対して取り付けられるヘッドマウントディスプレイであって、画像光を形成する画像光形成部と、前記画像光形成部からの前記画像光を集光する接眼光学部と、前記画像光形成部と前記接眼光学部とを内蔵し、前記装着部に対して取り付けられる取り付け部分を有する筐体と、前記筐体に接続され、前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着部に取り付けられた状態において前記筐体から離間するに従い前記ユーザに近づくようにユーザの眼前に配置され、前記接眼光学系によって集光された前記画像光の一部を反射した反射光と外界からの外界光の一部を透過した透過光とをユーザの眼に対して導く板状の半透過反射部材と、前記半透過反射部材の一方の面に設けられ、ユーザの視野角を制限するルーバ状光学素子とを備え、前記ルーバ状光学素子は、互いに離間した状態で配置された複数の板状の遮光部分を有し、前記遮光部分は、前記一方の面の垂線よりも前記反射光の光軸の方向に沿って、前記半透過反射部材から伸長する、ことを特徴とするヘッドマウントディスプレイである。
【0008】
ルーバ状光学素子によって、接眼光学系から出射して半透過反射部材を透過する画像光の量を低減することができる。そのため、半透過反射部材を透過する画像光が他のユーザに視認されることを防止できる。また、ルーバ状光学素子は、半透過反射部材の一方の面に設けられる。そのため、保持部材などの別部材を用いて遮光板などを追加する場合と比較して、半透過反射部材の重量の増加が低減される。ルーバ状光学素子が設けられることで、半透過反射部材を透過する外界光の量もある程度は減少する。しかし、遮光部分が半透過反射部材の一方の面の垂線よりも前記反射光の光軸に沿って伸長するため、画像光の光軸方向に対する遮光部分の射影面積の方が、ユーザの前後方向に対する遮光部分の射影面積よりも大きくなる。その結果、半透過反射部材を透過する前方からの外界光の減少量よりも、半透過反射部材を透過する画像光の減少量を大きく設定することができる。
【0009】
また、前記遮光部分は、前記ユーザの前後方向に対して平行に前記半透過反射部材から伸長してもよい。
【0010】
遮光部分が、ユーザの前後方向に対して平行に半透過反射部材から伸長する。そのため、半透過反射部材が他の方向に半透過反射部材から伸長する場合と比べて、前後方向に対する遮光部分の射影面積が最も小さくなる。その結果、遮光部分によって遮られる前方からの外界光の量を最小に抑えることができる。
【0011】
また、前記遮光部分は、前記遮光部分の長手方向が前記ユーザの左右方向に対して平行になるように、前記一方の面に設けられてもよい。
【0012】
遮光部分が設けられることで、外界の視野角も多少制限される。遮光部分の長手方向がユーザの左右方向に対して平行となることで、縦方向の外界の視野角は多少制限されるが、横方向の外界の視野角は制限されない。人間の視野は横方向に広いため、ユーザはより広い範囲の外界を視認することができる。
【0013】
また、前記ルーバ状光学素子は、前記半透過反射部材の面のうち、前記ユーザから遠い側の面に設けられてもよい。
【0014】
仮に、ルーバ状光学素子が半透過反射部材のユーザから近い側の面に設けられる場合、半透過反射部材で反射する画像光も、ルーバ状光学素子を通過する。そのため、ユーザに対して導かれる画像光の一部も、ルーバ状光学素子によって損失する。ルーバ状光学素子が半透過反射部材のユーザから遠い側の面に設けられることで、半透過反射部材で反射する画像光の損失を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半透過反射部材の重量の増加を低減しつつ、画像光の漏光を防止可能なHMDを提供が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】HMD1の斜視図。
【図2】(A)HMD1の平面図、(B)HMD1を上下方向の中心線で切断した断面図。
【図3】ルーバ状光学素子の形状を示す図。
【図4】ルーバ状光学素子の遮光部分を変更した場合の漏洩率及び透過率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一側面を反映した実施形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。例えば、以下に説明する各構成において、所定の構成を省略し、または他の構成などに置換してもよい。また、他の構成を含むようにしてもよい。
【0018】
先ず、図1を用いて、HMD1の概要について説明する。なお、図1における前後方向、左右方向及び上下方向は、ユーザがHMD1を眼鏡フレーム91によって頭部に装着した状態における、ユーザの前後方向、左右方向及び上下方向に準ずる。HMD1は、眼鏡フレーム91に着脱可能に取り付けられる。眼鏡フレーム91は使用者の頭部に装着される。HMD1は筐体2を備える。筐体2は四角筒状の樹脂部材であり、平面視L字型に形成されている。筐体2は画像光形成部10と、接眼光学部20とを内蔵する(図2参照)。筐体2の右端には、偏向部材30が上下方向から挟持されている。
【0019】
次に、装着部の一例として、眼鏡フレーム91について説明する。図1に示すように、眼鏡フレーム91は、左フレーム部92、右フレーム部93、中央フレーム部94及びHMD支持部96を備える。前後方向に延びる左フレーム部92は、使用者の左耳に掛けられる部分である。前後方向に延びる右フレーム部93は、使用者の右耳に掛けられる部分である。左右方向に延びる中央フレーム部94は、左フレーム部92の前端部と、右フレーム部93の前端部との間に渡設されている。中央フレーム部94の長手方向における中央部には、鼻当て部95が設けられる。HMD支持部96は、中央フレーム部94の上面左端側に設けられている。HMD支持部96は、下方延出部98を備える。下方延出部98は、使用者の顔の左前方において上下方向に延出されている。下方延出部98は、HMD支持部96に形成された左右方向に延びる溝96aに対して、摺動可能に係合する。下方延出部98の左右方向への摺動によって、HMD1の左右方向における位置が調整される。
【0020】
図2を用いて、HMD1の構成を詳細に説明する。なお、図2では簡略化のため、眼鏡フレーム91は省略される。図2(B)に示されるように、筐体2は、画像光形成部10と、接眼光学部20とを内蔵する。なお、図2(B)では簡略化のため、筐体2が省略されている。画像光形成部10から出射した画像光Limは、接眼光学部20によって集光される。集光された画像光Limは、偏向部材30の後側に設けられたハーフミラー31によってその一部が反射され、ユーザの眼EBに導かれる。ハーフミラー31を透過した画像光Limの一部は、ルーバ状光学素子32によって遮断されるため、外部への漏光が防止される。以下、個々の構成について詳細に説明する。
【0021】
画像光形成部10は、筐体2内部の左端に設けられる。画像光形成部10は、画像情報に基づいた画像光Limを形成する。画像光形成部10は、周知の空間光変調素子によって構成される。空間光変調素子としては、例えば、液晶表示素子と光源とで構成される液晶ディスプレイや、有機EL(Electro−Luminescence)などが含まれる。画像光形成部10は、この空間光変調素子を駆動するための駆動回路や、外部からの映像信号を受信する通信回路を含んで構成される。また、外部の映像機器に接続され、映像信号の受信や電源供給を行う伝送ケーブル40が、この通信回路に電気的に接続され、筐体2から後側に伸長する。空間光変調素子の変わりに、レーザなどの光源からの光を機械的に二次元走査することで網膜上に画像を投影する、周知の網膜走査ディスプレイが、画像光形成部10に用いられても差し支えない。
【0022】
接眼光学部20は、レンズ20aとレンズホルダー20bとで構成される。レンズホルダー20bの左端は、画像光形成部10の右端に接触する。レンズホルダー20bの右側内部には、レンズ20aが保持される。即ち、レンズ20aと画像光形成部10とは、レンズホルダー20bによって、ユーザに提示される虚像の提示距離に対応した距離だけ離間される。レンズ20aは、左右方向に並べられた複数のレンズによって構成される。本実施形態では、レンズ20aは、収差を低減するために、複数のレンズで構成される。しかし、レンズ20aは、単一のレンズで構成されても差し支えない。接眼光学部20は、画像光Limを集光して反射部材30へと導く。なお、HMD1によってユーザは虚像を視認するため、レンズ20aによって集光された画像光Limは、拡散光または平行光である。即ち、「集光」とは、全体として正のパワーを有するレンズの入射光束に対する作用のことであり、出射光束が収束光となっていることに限定されない。
【0023】
板状の偏向部材30は、筐体2の右端に接続される。偏向部材30は、筐体2との接続部分から、右後に伸長する。即ち、偏向部材30は、眼鏡フレーム91に取り付けられた状態において、筐体2から離間するに従いユーザに近づくように伸長する。偏向部材30は、半透過反射部材としてのハーフミラー31と、ルーバ状光学素子32とで構成される。
【0024】
ハーフミラー31は、例えば、ガラスや光透過性樹脂(アクリル、ポリアセタールなど)などの板状透明部材の表面に対して、透過率が50%となるようにアルミニウムなどの金属を蒸着することで形成される。なお、ハーフミラー31の透過率は50%でなくてもよい。即ち、画像光の一部が反射され、外界光の一部が透過することによって、ユーザが実質的に画像と外界とを重畳した状態で視認可能であれば、「半透過」との文言に含まれる。
【0025】
ルーバ状光学素子32は、ハーフミラー31の前側の面、換言すれば、ユーザから遠い側の面に設けられる。図2(B)に示されるように、ルーバ状光学素子32は、互いに離間した状態で配置された複数の板状の遮光部分32aを有する。遮光部分32aは、例えば、可視光を遮断する着色フィルムなどで構成される。互いに隣り合う遮光部分32aの間には、透明領域32bが設けられる。透明領域32bは、可視光を透過する透明フィルムなどで構成される。但し、透明領域32bは可視光を透過する機能を有すればよいため、単なる開口であってもよい。即ち、ルーバ状光学素子32は、交互に並んだ遮光部分32aと透明領域32bとを有する。この遮光部分32aの周期構造により、ルーバ状光学素子32は、ユーザの視野角を制限する機能を有する。なお、遮光部分32aは、ハーフミラー31によって反射された画像光の光軸の方向、即ち、前後方向に平行に伸長する。ハーフミラー31が左右方向に対して傾いているため、遮光部分32aは、ハーフミラー31の前側の面の垂線に対して前方に傾いて、ハーフミラー31から伸長する。なお、矩形板状である遮光部分32aの長手方向は、上下方向に平行である。ルーバ状光学素子32は、ハーフミラー31の前側の面に接触した状態で設けられる。そのため、保持部材などの別部材を用いて遮光板をハーフミラー31に接続する場合と比較して、ハーフミラー31の重量の増加が低減される。また、ルーバ状光学素子32はハーフミラー31よりもユーザに対して遠いので、ハーフミラー31で反射する画像光の損失を防止できる。
【0026】
HMD1が眼鏡フレーム91に装着された状態において、ハーフミラー31及びルーバ状光学素子32は、ユーザの眼前に配置される。ルーバ状光学素子32とユーザの眼EBの前側表面との間隔は、例えば2〜3cmである。この間隔は、典型的な眼の近点距離(例えば、20代で10cm程度)に比べて、十分小さい。従って、ユーザは遮光部分32aと透明領域32bとが交互に並んだパターンに対してピントを合わせられないため、このパターンはユーザにとって視認され難い。
【0027】
ルーバ状光学素子32は、以下のようにして製造が可能である。透明領域32bに用いる透明フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの透明樹脂材料で形成される。遮光部分32aに用いる着色フィルムは、例えば、可視光を遮断する黒色カーボンなどの微粒子を透明樹脂材料中に分散することで形成される。そして、着色フィルムと透明フィルムとを交互に積層し、赤外線レーザなどで接触面を溶着することで、着色フィルムと透明フィルムとの積層物が形成される。この積層物を、積層方向に対して所定角度傾斜した方向にスライスすることで、ルーバ状光学素子32が製造される。
【0028】
図2(A)に示されるように、筐体2の眼鏡フレーム91に対向する部分には取り付け部分21が設けられている。取り付け部分21は上下方向に沿ったU字溝を有する。取り付け部分21のU字溝に対して、眼鏡フレーム91のHMD支持部96に設けられた下方延出部98が摺動可能に係合する。下方延出部98に取り付けられた筐体2が上下方向に摺動することで、HMD1の上下方向における位置が調整される。
【0029】
図3を用いて、ルーバ状光学素子32によって画像光の漏光が防止される作用を説明する。図3に示されるように、本実施形態では、遮光部分32aが、ハーフミラー31によって反射された画像光の光軸の方向、即ち、前後方向に平行にハーフミラー31から伸長する。そして、偏向部材30は、HMD1が眼鏡フレーム91に取り付けられた状態において、前後方向に対して所定の角度を成す。そのため、画像光Limの光軸方向(即ち左右方向)に対する遮光部分32aの射影面積は、前後方向に対する遮光部分32aの射影面積よりも大きくなる。その結果、透過領域32bにおいて、外界光Lexが前後方向に透過可能な左右方向の幅Yの方が、画像光Limが左右方向に透過可能な前後方向の幅Xよりも大きくなる。従って、ルーバ状光学素子32における、ハーフミラー31を前後方向に透過する外界光Lexの減少量よりも、ハーフミラー31を左右方向に透過する画像光Limの減少量を大きく設定することができる。なお、遮光部分32aは、厳密に前後方向に平行にハーフミラー31から伸長しなくてもよい。少なくとも、遮光部分32aが、ハーフミラー31の垂線よりも画像光Limの反射光の光軸の方向(前後方向)に沿ってハーフミラー31から伸長していれば、ハーフミラー31を前後方向に透過する外界光Lexの減少量よりも、ハーフミラー31を左右方向に透過する画像光Limの減少量を大きく設定することができる。即ち、ハーフミラー31の垂線と前後方向とのなす角度よりも、遮光部分32aの伸長する方向と前後方向とのなす角度が小さければ、本発明の範囲に含まれる。
【0030】
図3を用いて、画像光Limの漏洩率及び外界光Lexの透過率を説明する。なお、偏向部材30は、HMD1が眼鏡フレーム91に取り付けられた状態において、前後方向に対して所定の角度としてφだけ傾いていると仮定する。
【0031】
図3に示されるように、ユーザの眼とハーフミラー31の前側の面までとの前後方向の距離をD、遮光部分32aの幅をa、透過領域32bの幅をb、ルーバ状光学素子32の厚さをt、ユーザの外界に対する左右方向の視野角を2θと、それぞれ表現する。また、透過領域32bの後側の面から前側の面までの前後方向における距離をαと表現する。
【0032】
透過領域32bにおいて、外界光Lexが前後方向に透過可能な左右方向の幅Yは、透過領域32bの幅bと、偏向部材30の前後方向に対する角度φを用いて、以下のように表現できる。
Y=(b×sinφ) ・・・(1)
一方、幅Yは、距離Dと距離αとを用いて以下のように表現できる。
Y/2 = (D+α)×tanθ ・・・(2)
ここで、距離αは、厚さtと角度φとを用いて以下のように表現できる。
α = t/sinφ ・・・(3)
従って、式(1)ないし式(3)から、幅bは以下のように表現できる。
b = (2/sinφ)×(D+(t/sinφ))×tanθ ・・・(4)
式(4)より、距離D、厚さt、幅b及び角度φが与えられれば、視野角2θが導出できる。換言すれば、視野角2θが仕様などから予め定まっている場合、視野角2θを得るために必要となる透過領域32bの幅bが式(4)から分かる。
【0033】
ここで、画像光Limが左右方向に透過領域32bを透過可能な前後方向の幅Xは、以下のように表現できる。
X = (b×cosφ)−(t/sinφ) ・・・(5)
式(5)の右辺第1項は、透過領域32bを左右方向に対して射影した幅を示す。式(5)の右辺第2項は、透過領域32bを左右方向に対して射影した幅のうち、遮光部分32aによって遮られる部分の幅を示す。
【0034】
ハーフミラー31を透過した画像光のうち、ルーバ状光学素子32を通過して外部へ漏れる光の割合を、漏洩率として定義する。即ち、漏洩率は、ルーバ状光学素子32の左右方向に対する射影幅のうち、画像光が透過可能な幅が占める割合で表現できる。従って、以下の式(6)のように、一組の遮光部分32a及び透過領域32bの左右方向に対する射影幅に対して、前記した幅Xが占める割合が、漏洩率に相当する。
漏洩率 = X/((a+b)/cosφ) ・・・(6)
【0035】
ルーバ状光学素子32に入射した外界光のうち、ハーフミラー31に対して通過できる光の割合を、透過率として定義する。透過率は、ルーバ状光学素子32の前後方向に対する射影幅のうち、外界光が透過可能な幅が占める割合で表現できる。従って、透過率は、以下のように表現できる。
透過率 = (b×sinφ)/((a+b)/sinφ) = b/(a+b)・・・(7)
【0036】
図4を用いて、幅a、厚さt及び視野角2θを変更した場合における、幅b、漏洩率及び透過率の変遷を示す。なお、偏向部材30は、HMD1が眼鏡フレーム91に取り付けられた状態において、前後方向に対して所定の角度として45°だけ傾いている状態を仮定する。また、距離Lは20mmを仮定する。
【0037】
図4を概して見た場合、幅aが増加するに従って、漏洩率及び透過率は低下する。また、厚さtが増加する場合も、漏洩率及び透過率は低下する。具体的に見ると、例えば、厚さt=1mm、視野角2θ=20°の場合、幅aが1mmから2mmに増加すると、漏洩率は3%、透過率は7%それぞれ低下する。また、厚さt=2mm、視野角2θ=15°の場合を見ると、幅aが1mmから2mmに増加すると、漏洩率は2%、透過率は7%それぞれ低下する。一方、幅a=1mm、視野角2θ=15°の場合を見ると、厚さtが1mmから2mmに増加すると、漏洩率は10%低下するものの、透過率には変化は無い。これは、遮蔽部分32aが前後方向に平行に延びているため、厚さtが増加しても、外界光Lexが前後方向に透過可能な左右方向の幅Yが変化しないためである。従って、所望の視野角の値が与えられ、必要とされる透過領域記32bの幅bが決定された場合、遮蔽部分32aの幅aを大きくするよりも、ルーバ状光学素子32の厚さtを大きくしたほうが、透過率を保ちつつ漏洩率を低減することができる。
【0038】
本発明は、今までに述べた実施形態に限定されることは無く、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形・変更が可能である。以下にその一例を述べる。
【0039】
前記した実施形態では、半透過反射部材の一例として、ハーフミラー31が示された。しかし、半透過反射部材は、他の構成でもよい。例えば、半透過反射部材は、波長選択性を有するダイクロイックミラーなどでもよい。即ち、画像光が特定の波長の光で構成される場合、その波長を選択的に反射可能な誘電体多層膜が、板状透明部材の表面に設けられてもよい。この場合、外界光の損失を低減すると共に、画像光の利用効率が向上する。また、ホログラムや回折格子などが半透過反射部材として用いられてもよい。
【0040】
前記した実施形態では、画像光Limは、筐体2から左右方向に平行に射出された。そして、ハーフミラー31は左右方向に対して傾いているため、矩形板状である遮光部分32aの長手方向は、上下方向に平行であった。しかし、例えば、HMD1がユーザの上方に取り付けられることで、画像光Limが筐体2から上下方向に平行に射出される構成でもよい。この場合、ハーフミラー31は上下方向に対して傾いているため、矩形板状である遮光部分32aの長手方向は、左右方向に平行となる。このようにすることで、上下方向の外界の視野角は多少制限されるが、左右方向の外界の視野角は制限されない。人間の視野は横方向に広いため、ユーザはより広い範囲の外界を視認することができる。
【0041】
前記した実施形態では、HMD1の構成ではないものの、装着部の一例として、眼鏡フレーム91が説明された。しかし、他の装着部が用いられてもよい。例えば、HMD1をゴーグルのようにヘッドバンドを用いて頭部に装着する装着部が用いられてもよい。あるいは、ユーザの耳に対して取り付けられる装着部でもよい。また、ユーザの利用している視力矯正用の眼鏡に対してHMD1が取り付け可能な場合、その視力矯正用の眼鏡自体が装着部となる。
【0042】
前記した実施形態では、取り付け部分21のU字溝が、眼鏡フレーム91の下方延出部98に対して係合することで、HMD1が頭部に装着された。しかし、取り付け部分21は他のいかなる構成であってもよい。例えば、クリップのように、装着部の部材を挟持する構成が、取り付け部分として用いられてもよい。
【0043】
前記した実施形態では、ハーフミラー31の前面にルーバ状光学素子32が設けられることで、偏向部材30が構成される。しかし、ハーフミラー31が省略され、ルーバ状光学素子32の後面に対して金属膜などの反射面が設けられることで、偏向部材30が構成されても差し支えない。この場合、ルーバ状光学素子32の後面が半透過反射部材として作用する。
【0044】
前記した実施形態では、ルーバ状光学素子32の遮光部分32aは、前後方向に平行にハーフミラー31から伸長する。そのため、ルーバ状光学素子32における、ハーフミラー31を前後方向に透過する外界光の減少量よりも、ハーフミラー31を左右方向に透過する画像光の減少量を大きく設定することができる。ここで、偏向部材30は、ユーザの眼の近傍(例えば、2〜3cm)に配置される。そのため、ユーザの眼に入射する外界光の減少量をより低減する目的で、遮光部分32aがハーフミラー31から放射状に伸長してもよい。具体的には、ユーザの眼球の回転中心を中心とした放射線に平行に、遮光部分32aがハーフミラー31から伸長してもよい。即ち、複数の遮光部分32aがハーフミラー31から伸長する方向は、互いに平行でなくてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの頭部に装着される装着部に対して取り付けられるヘッドマウントディスプレイであって、
画像光を形成する画像光形成部と、
前記画像光形成部からの前記画像光を集光する接眼光学部と、
前記画像光形成部と前記接眼光学部とを内蔵し、前記装着部に対して取り付けられる取り付け部分を有する筐体と、
前記筐体に接続され、前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着部に取り付けられた状態において前記筐体から離間するに従い前記ユーザに近づくようにユーザの眼前に配置され、前記接眼光学系によって集光された前記画像光の一部を反射した反射光と外界からの外界光の一部を透過した透過光とをユーザの眼に対して導く板状の半透過反射部材と、
前記半透過反射部材の一方の面に設けられ、ユーザの視野角を制限するルーバ状光学素子とを備え、
前記ルーバ状光学素子は、互いに離間した状態で配置された複数の板状の遮光部分を有し、
前記遮光部分は、前記一方の面の垂線よりも前記反射光の光軸の方向に沿って、前記半透過反射部材から伸長する、
ことを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記遮光部分は、前記反射光の光軸に対して平行に前記半透過反射部材から伸長する、
請求項1のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記遮光部分は、前記遮光部分の長手方向が前記ユーザの左右方向に対して平行になるように、前記一方の面に設けられる、
請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
前記ルーバ状光学素子は、前記半透過反射部材の面のうち、前記ユーザから遠い側の面に設けられる、
請求項1〜3の何れか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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